エレGY
CHAPTER 2-9『電気止められる』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
9『電気止められる』
朝起きるとネットが止められていた。
大丈夫、焦ることはない。
数日前の通販での振り込みによって、いくらかのお金が口座にはあるはずだった。
払い込み用紙を探そうとポストを覗くと、電気が今日にも止まるという通告書が入っていた。
ふっ……、まだまだ。なんのこれしき。
他にも滞納によってガスと電話、携帯会社からの葉書もわんさかとあったが、急を要するのはとりあえずネット回線と電気だ。
二つの未払い分を併せるとおよそ二万円。
払える。
だが、今週の食費も下ろせば残金は再び0に戻るだろう。
僕は重い溜め息をつきながら、自転車に乗って銀行のATMへと向かった。
三万円を下ろすと、残金は百二十円になった。
コンビニでネット回線代と電気代を払い、昼飯の弁当と飲み物を買った。
財布に残った全財産は八千円ちょっと。
郵便局からのバイト代が入るのはそろそろだ。
それと併せて、あと二、三の注文さえあれば、今月の家賃はなんとかいける……
しかし、新たにゲームやサウンドトラックCDなどを制作しなければ、来月分までは乗り越えられそうになかった。
『二人乗り』のような力を抜いたミニゲームなら簡単に作れるのだが、それでは食っていけない。
はぁ……面倒臭い……
僕は家に戻ると、作りたくもないゲームを作り出した。
三十分もしないうちにマウスを放り投げる。
駄目だ。ちゃんとやらないと、来月の家賃が……
再度、制作に戻る。
また三十分後にダウン。
エレGYからメールでも来ていないかと、PCメールと携帯を何度も確認する。
受信メール0件。
こちらからメールを送れば、ものの数秒で返事が戻ってくる事は分かっていたが、彼女を現実逃避に利用したくはなかったし、こちらからメールを送る事は魔法が切れるのを早めてしまう気がしていた。
続かない集中力を無理矢理数珠繫ぎにして、夜までになんとかゲームの基盤を完成させた。後はゴールに向かってただ膨大な作業を重ねるだけだ。
半月くらいで完成できれば、残りの半月でサウンドトラックCDを作って販売できるだろう。
計画を練るほど気が重い。
夕飯をコンビニに買いに行こうと部屋を出ようとした時、携帯にメールが届いた。
エレGYからだった。
一日中ゲーム制作をしてストレスでいっぱいだった僕は、すぐさま「いくよ!」と返事を送った。
いいのか、泉和良。そんなに簡単に返事をして……
魔法が消えるのはあっという間だ。そして心を許した分だけ、後で傷つく。
送信完了の画面を見つめながら、自問した。
……と言うか、しまった……
映画代を差し引いたら、今週の食費が……