エレGY
CHAPTER 2-8『感想メール』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
8『感想メール』
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件名『感想メール』
差出『エレGY』
日付『2007/11/18』
こんにちは、はじめましてまゆみさん。
わたしは、ふりーうぇあげーむがだいすきなエレGYという者です
まゆみさんの超新作『二人乗り』をプレーし、たいへんかんめいをうけたので、思わずめーるをだしてしまいました。
ゲームのせつめい書には、感想めーるは送らないで下さい、と書いてあったけど、送っちゃってごめんなさい。
それくらい、わたくしはかんどうしたのです
この『二人乗り』というげーむは、近年のあんぢー・めんて作品の中でもまれに見る超傑作だと、わたしはおもいます。
まず驚いたのは、このげーむには、エレGYという名前の女の子が出てきます!
なんという偶然でしょう!
わたしのなまえもエレGYです
そのエレGYが自転車の後ろに飛び乗って、「分離帯に乗れええええ」とか「守りを捨てろおおおお」とか「飛べ、おまえなら飛べる!」と、さけぶところが、だいすきです
いっしょになって、声をだしてわたしもさけびました。
そうるを感じました。
絵も、とってもへたくそで、かわいいです。
かおの線が、はみでてるところが、もっともすきです。
じつは最近、いずみかずよしという宇宙人に会いました。
かっこつけーの変な人です。
その人ともときどき自転車で二人乗りをします。
この『二人乗り』のゲームをプレーしていると、いずみかずよしっていう人と実際に出会えて良かったなーと思いました。
この宇宙人に連れ去られるのが今のわたしのゆめです。
それではこれからもがんばってください。
変なゲームが明日までに、あんでぃー・めんてから5おくほん出ていることを願って寝ます。
オカルトマニアより
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メールを読んで、自分で作った『二人乗り』のゲームをプレーして、またメールを読んだ。
エレGYがこのゲームをプレーして、どんな風に感じたのかを正確にシミュレートしたかった。
ゲーム内のエレGYが叫ぶシーンでは、メールにあったように僕も声を出して一緒に叫んでみた。
このゲームはエレGYを面白がらせるためだけに作ったゲームだ。
どうやらそれは成功した。
だのに僕は全く落ち着かなかった。
メール後半部分で触れられていた、宇宙人いずみかずよしに関する記述が気になって仕方がない。
「この宇宙人に連れ去られるのが今のわたしのゆめです」とまで書かれてある。
もしかしたら僕は不用意にも、このゲームで彼女にアプローチ的な事をしてしまったんじゃないのか。……つまり、彼女のためだけにゲームを作るという行動は、作品を介して彼女に告白してるのも同然ではないのか……
僕は頭を抱えた。
駄目だ……作品を介するのは良くない。
エレGYの僕に対する幻想を、より肥大させる事は、魔法の延長には繫がるかもしれないが、同時に現実との差を大きくもするのだ。
彼女の気持ちは、ますますジスカルドの方に接近するようになる。
それは……魔法が解けた時の、本当の僕に対する失望を、より強くしてしまう……
『二人乗り』を作った事で、事態を悪化させてしまったのではないか、と僕は神経質に考えた。
エレGYと出会ってから一ヵ月が経過していた。
僕の中のエレGYに対する気持ちは拡大する一方だった。
そしてそれと比例するように、エレGYが幻想から覚めてしまう事の恐怖が重く伸し掛かる。
もっと冷静になるべきだ……もっと慎重に……