エレGY
CHAPTER 1-13『私、じすさんのファンなんよ』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
13『私、じすさんのファンなんよ』
エレGYと会っていくうち、彼女はじょじょに、僕の作品に関して中傷的な語彙で感想を述べるようになった。
「『怪盗プリンス』やったかい? アップロードしてすぐの頃、低スペックだと動作しないって声が多くて、対応に苦労したんだよ」
「ああ、あのきもいやつでしょ、全然興味ない」
「え……、ガーン……」
「ムービーは見た? クリスマス用のやつ」
「うん見たよ、猫が血まみれで面白かった! じすさんの描く猫可愛いよね」
「あれさ、最後にはみんな生き返って笑顔になるのがいいだろ?」
「あ、そうなんだ、長かったから途中で見るの止めた」
「あ……」
「『SISTER』って凄いんだぜっ、チャットで対戦できるんだよ!」
「へーすごいね、何が面白いの?」
「面白いさっ。今度サイトで大会やってみようと思ってるんだ」
「ふーん、ジスカルドもつまんなくなったなー……」
「エ、エレGY死ね!! うわあああああああああああ゛あ゛ああ ゛あ゛あ゛」
会って初めの頃こそ、僕に気をつかって言葉を選んではいたようだが、以前より親しくなったせいか、または魔法の効果が薄れてきたのか、今ではずばずばと本心を言う。
元々上辺を取り繕うのが嫌いな性格のようではあった。
これが他の人から言われた言葉なら、他人の批評に弱い僕はいっぺんに凹んで気力を失ってしまうだろう。
だが、彼女に言われると不思議と清々しく感じられた。
ある時、どうしてそんな言い方をするのかと聞いてみた。
すると彼女は、
「私、じすさんのファンなんよ」と答えた。
彼女曰く、自分はジスカルドのファンであると言う。
彼女曰く、ジスカルドには面白い所と面白くない所があると言う。
彼女曰く、ジスカルドからそのどちらかが欠けてもダメだと言う。
彼女曰く、ジスカルドは私の言う通りにすべきだと言う。
彼女曰く、そうしてくれたら、私もジスカルドの言う事には全て従うと言う。
「じゃあ全て言う通りにするから、ここで今すぐパンツ脱い…」
最後まで言い終わらぬうちに、彼女のビンタによる攻撃を受けた。
「今のはビンタ・フィフスね、第五形態のやつ」
それは僕のゲームに出てくる技の名だ……
エレGYと会いだしてから、僕はまだ一本もゲームを完成させてはいなかったが、僕の創作に関する感覚は、彼女の特異な物差しによって、日に日に新しい形状へと変化し続けた。
ゲームを作っていても、彼女が喜びそうな要素を多く加えるようになった。
サイトの更新も、彼女の目を意識して行った。
エレGYに掛かっているだろう魔法の事は依然気になっていたが、もはや彼女への気持ちを抑えることなどできなくなっていた。
いつか彼女が幻想から覚めた時の事を考え、心のどこかでブレーキはかけつつはあったが、好きという気持ちが止まらない。
彼女に関して、自分で自分を制御しきれなくなっている事が、僕を不安にさせていた。