エレGY
CHAPTER 1-12『二人乗り』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
12『二人乗り』
四日後、僕らは再び会った。
その次は三日後に。更にその次は二日後に。
ついには毎日のように同じマクドナルドの同じ席で朝の十時に待ち合わせるようになった。
当然、午前中のアンディー・メンテの仕事はできなくなり、午後の碁会所も休む日が多くなっていった。
マクドナルドでは、エレGYはいつも僕より先に来た。
制服の上に赤いマフラーのいでたちで、僕の曲の入った携帯プレーヤーを聴きながら窓際の席に座って、何も注文せずに待っていた。
僕が一番安いハンバーガーとコーラを頼むと、彼女も真似をして僕と同じメニューを頼んだ。
昼まで話し込んで、その後は自転車で二人乗りをして、大井町中を無意味に散策した。
自転車の後部に乗ってる間のエレGYは、びっくりするほど甲高い大声で笑った。
車道と歩道を遮る細い分離帯を見るたびに、「その上に乗れ!!」と彼女は僕をけしかけた。
一人乗りの時でも、そんな危険を冒したのは中学の時以来だ。
まして二人乗りの状態でそんな綱渡りのような事をしたら、車輪が落ちた時にはただではすまない。
落ちた。
それも何度も。
どちらかがケガをすると、彼女はバンソウコウを取り出し……僕から奪ったやつだ……嬉しそうに傷口に貼った。
毎日、僕の脳には彼女の悲鳴と笑い声が蓄積され、体には擦り傷やあざが残った。
お風呂に入ってあざを見る度に、彼女の声が蘇る。僕だけの記憶媒体。
かつて大量のハンバーガーが入っていた自転車の前カゴは、転倒する度に変形して、ぐにゃぐにゃになった。
すぐにタイヤの空気が無くなるようになり、マクドナルド近くのイトーヨーカドーの地下にある共用の空気入れで、空気を補充してから探検に出発するのがデートコースに加わった。
エレGY自身の情報も少しずつ増えていった。
彼女は一人っ子で、母親と二人暮らし。父親はいるらしいが別居中。小動物が大好きで、インコとハムスターと猫を飼っている。
高校三年生だが、学校へはほとんど行っていない様子だった。
友達も居るようには見えない。
一度、学校へ行く事を勧めた事があったが、彼女の意思が変わらない事を悟って、以来その事には触れないようにした。
普段、家ではずっと作詞をしているらしい。
曲はあるの? と聞いたら、一応あると言う。
鼻歌だけの伴奏をラジカセで録音して、月に一回、路上で披露しているのだと言う。
僕はそれを聴かせて欲しいと嘆願したがあっさりと断られた。
僕の願いの一切を、何の拒絶も無しに受け入れる彼女が、たった二つだけ、その登校拒否の事と歌の事を拒んだ。