エレGY
CHAPTER 1-2『自称フリーウェアゲーム作家』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
2『自称フリーウェアゲーム作家』
僕の名は泉和良。ネット上ではジスカルドというHNを名乗っている。二十六歳の自称フリーウェアゲーム作家だ。
フリーウェアゲーム作家? 何だそれは?
そう思う人がほとんどだと思う……マジョリティ。
僕ですら、自分以外にこの職業で食っている人を見たことがない。
フリーウェアゲームとは、ネット上などで入手できる無料のゲームの事。
僕はそれを一人で作り、ネット上で公開する。
かつて僕は、グラフィッカーやサウンドコンポーザーとしてゲーム会社で働いていた。
しかし、自分の能力が集団の中においては拡散し、平均化されてしまう事に耐え切れず、僅か数年でゲーム業界から身を引いた。
こう言うと格好よく聞こえるかもしれないが、本当の所は、会社という社会的組織の中で働くのが単に嫌だっただけである。集団行動の不適合者。社会からの脱落……マイノリティ。
二社で働いたが、どちらも短期間で辞めていた。
その後、僕は大学生の頃からやっていたフリーウェアゲームの制作を本格的に行うことにした。
フリーウェアゲーム作家の誕生だ。
それからもう三年になる。
失業保険はとうに切れ、収入は不安定。
国民健康保険や年金を納める余裕もなく、生活は苦しくなる一方だった。
フリーウェアゲームとは、無料のゲーム。
0円のゲームを幾ら作っても、儲からないのは当然である。
では、どうやって収入を発生させているのかと言えば、二次商品をネット上で販売する事で所得を得る。
例えば、フリーのRPGを制作し公開したとする。
すると、少ないながらも必ずそのゲームのファンが生まれる。
僕はそのゲームのサウンドトラックCDやファンブック等を作って、彼らファン達に有料で販売するのだ。
何故、ゲーム本体に値段をつけないのかと言えば、僕のような個人がゲームを制作し有料で販売しても、一般企業のコンシューマーゲームに太刀打ちするのはほぼ不可能であるからだ。信頼ある大手メーカーのゲームが幾つも存在するのに、得体の知れない個人のゲームにお金を払う者はいない。
そこで、ゲームそのものを無料にする。
そうする事で、まずはユーザーを獲得するのだ。
個人制作といえど、企業のゲームにはない良さや面白さもある。
遊んでさえもらえれば、興味を持ってもらう事も可能だ。
そして、気に入ってくれた人にはグッズを買ってもらう。
……しかし、所詮アマチュア的活動の域を出ないのが現状。
僕が運営するゲーム制作サイト『アンディー・メンテ』の毎月の収入は、良くて十五万円。新作のゲームが出ない月は無収入に近くなる。
安定や保障といった意味の言葉とは無縁。
家賃滞納はもちろん、電気やガスなどのライフラインが断絶するのは日常茶飯事だった。
これが、フリーウェアゲーム作家の実態である。
それでもなんとかやってこれたのは、長年連れ添い応援し続けてくれた恋人がいたからだが、ついにはその彼女とも、数ヵ月前とうとう破局を迎えてしまった。原因は色々あるにせよ、将来の見えない男に付き合う女性は少ない。
当然の結果ではあるが、長く付き合った恋人を失ったショックはしっかりと僕を衰弱させた。
僕は生まれて初めて精神科のクリニックへ通院し、抗不安剤を処方してもらわねばならなくなった。
以上のように、このフリーウェアゲーム作家という職業は、たいへん無理がある。
だがもはや辞めるつもりはこれっぽっちも無い。
誰がなんと言おうと、僕はフリーウェアゲーム作家だ。
ちくしょう!
定職になんか絶対に就いてやるもんか!!
……僕は人生の路頭に迷いつつあった。