エレGY
CHAPTER 1-1『君のパンツ姿の写真、求む』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
CHAPTER 1
1『君のパンツ姿の写真、求む』
『この日記を見た女の子は
今すぐに、自分のいやらしいパンツ姿の写真を携帯で撮って、
メールで僕に送って下さい!
直ちに! 早く!』
自分のブログにそう書いた。これが僕の今日の日記だ。
僕の眼は充血し鼻息は荒く、脳みそは爆発していた。その爆風でこの世の何もかもを吹き飛ばしてやりたかった。
僕のブログは、アダルトサイトではない。
訪問者の全く居ないようなアクセス数0のプライベートページでもない。
ネット上で配布される無料ゲーム・通称「フリーウェアゲーム」を制作するサイト『アンディー・メンテ』内にある、ゲーム制作日誌ブログだ。
普段は、至って真面目な文章が綴られている良識のあるページ。
フリーウェアゲームを待ち望む少年少女達に、ゲーム制作の過程を公開し、完成の日まで楽しみに待ってもらうための、健全なブログであるはずなのだ。
しかし、僕はモニタを睨みつけ、更にやけくそ気味に書き殴った。
『どうしてもパンツが見たい!
まだ見ぬ君が、パンツを恥ずかしそうに見せている姿が……、どうしても見たい!
いつもは、じすさんに想いをぶつけたくても、恥ずかしくて躊躇してしまっているそこの君!
僕は、君のパンツ姿の写真を待っています!
そして君の悩殺的なパンツ姿の写真をとうとう手に入れた暁には……
ああ、もう、宇宙の全質量を足したエネルギーが、僕の右手の中に一瞬にして集結し……、激しく情熱的な愛の慰めが……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……あががががが゛あか゛あか゛あがかあああああ』
どうかしている……
誰がどう見ても精神錯乱を引き起こした人間の日記だ。
しかし僕は狂っていたわけではない。猛烈に怒っていたのだ。
こんな事を書いたのは、全てこのくだらない毎日のせいだ、と心の中で叫んでいた。
狭いワンルームの中の……退屈で平凡で、何の劇的変化も起きない日々。ただ老いてゆくだけの時間。何かしなければいけないのに……、という焦燥感に押し潰されそうになりながらも、一ミリのやる気さえおきない堕落した灰色生活。
そんな日常へのストレスがMAXに達した今日、僕は自分のブログに発狂したような日記を書くことで、ついに怒りを爆発させた。
こんなことをブログに書いても、誰の相手にもされない事は分かっている。
このブログの一日の平均アクセス数は約七百人。
せいぜい冷やかしか苦情のメールが送られてくるくらいであろう。
しかしそれでも、僕は書かずにはいられなかった。
この人生降下状態を何とか打ち破るために、あらゆる気力を失った僕が今唯一できる小さな革命……、それがこの『パンツ姿写真募集』だ。
ゲーム制作日誌で、まさか女の子のパンツ姿写真が募集されるとは思うまい。
それも自分の性的欲求を満たしたいという目的のためだけにだ。
見たか、世の中!
もうおまえ達の言いなりにはならない!
馬鹿にしたい奴は馬鹿にするがいい。
昨日や一昨日と同じ事を繰り返すだけの、つまらない惰性の日々なんてまっぴら御免なんだ。
文章を書き終え、ブログにアップロードされたのを確認して、僕は笑った。
半分は自嘲だ。
だが残り半分は、この日常と世の中に対する「ざまあみろ」という侮蔑だった。
悶々とした気分が一転し、何とも清々しい気分で満たされた。
もしかしたら、この日記で僕の人生が変わるかもしれない、と期待までした。
多分、何も起こらない。
それでもいいんだ。
昨日までとは違うアクション。
容易に予想されてしまうような俗手ではなく、気付かない悪手と言われても奇手を打ちたかった。
そうすれば少しでも生きている意味がある気がする。
明日になったら、次は『セフレ募集』だ。
ゲーム制作なんか構いやしない。
どうせ頑張って作っても、これっぽっちも儲からないじゃないか。
だったら明日も世の中を馬鹿にして、清々しい気分で笑ってやるんだ。