
2026年秋 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2026年9月@星海社会議室
注目の候補作2作品は正反対?候補作に期待が膨らむ編集部だが……!?
2026年ラストチャンスを摑み取るのは……?
榎本 第48回星海社FICTIONS新人賞座談会を始めます。
太田 今年はすでに4人の受賞が決定! そして、雨籠もりさんの『黒宮蜜理の甘やかな事件簿、あるいは振り回される私の回顧録』と雪村岳さんの『桜密室』がすでに発売されました!
前田 雨籠もりさんの『黒宮蜜理の甘やかな事件簿、あるいは振り回される私の回顧録』は、謎に包まれた女装男子転校生・黒宮蜜理をはじめとするキャラクターの魅力が溢れる青春ミステリです!
丸茂 雪村岳さんの『桜密室』は、苦しみを抱えた中学生たちを描く哀切な青春ミステリです。よろしくお願いします!
太田 残るふたりのデビュー準備も進んでいるかな? でも、今年の受賞作はまだ終わらないぞ! 今回の座談会でも新人を出したいと思います。
ウケない時代なんて、ないっ!!
片倉 『水滸退魔伝~浪子燕青と浄眼の少女道士~』は、北宋を舞台に仙術使いである主人公の冒険が描かれる伝奇ファンタジーです。
榎本 宋ってどんな時代なんですか?
丸茂 星海社的には、『崑崙奴』の舞台である唐より後の時代ですね。
片倉 宋代は『水滸伝』の舞台となった時代です。この小説では、水滸伝の登場人物と作中でクロスオーバーしながら、主人公の男の子が仙術使いとして成長していきます。ただ、宋を舞台にするのは欠点もありまして、出てくるのが多くの日本人にとって馴染みのない人物ばかりなんです。だから話を追うのも大変だし、すごさもわかりにくい。
榎本 宋の時代ってあまり親しみがないですね。三国志なら人気の時代ですし、いろんな人物の知識がありますけど。
片倉 そしてこの作品、仙術の考証がしっかりしているのはいいことなんですが、その実直な書きぶりの裏返しとして話のスケールが小さくまとまってしまっています。どこかの男の子がちょっと成長しました、そこらの悪い役人を懲らしめました、だけだとワクワク感が弱いんですよね。あまり知られていない時代が舞台で、かつ超能力という派手なギミックも援用するなら、もっと手に汗握る大スケールの話にしてほしかったです。たとえば国の存亡がかかるとか。この方はちゃんと調べてあるし、文章も読みやすい。ポテンシャルがあるだけにもうひと頑張りを望みたくなります。
前田 最近は、名作『幻想水滸伝』シリーズの人気が再燃していますが、水滸伝といっても、あちらはかなり自由度の高いファンタジー設定。本作のように、より史実に即して作品作りをするとなると、何か工夫が必要そうです。
片倉 ならば個人的には、作中の時代の皇帝である徽宗帝をしっかり登場させてほしかったです。
太田 文人皇帝ね。
片倉 そうです! 中国の歴代皇帝で政治センスは最低、芸術センスは最高と名高く、国が傾いていくなかでも最高の庭園を造ることに心血を注いで最後は国を滅ぼした、いわば中国の足利義政。毀誉褒貶ありますが自分は大好きです……という個人的思い入れはさておいても、宋を舞台にするならこんなにキャラが強い人物を使わない手はないでしょう。
太田 『キングダム』が始まる前は、あの時代を漫画で描いて大成功するなんて誰も想像していなかったよね。戦国時代末期の秦なんて、ずーっと圧勝が続くだけだから面白くなりようがないんじゃないか、と。歴史好きであればあるほど、あの時代を物語にする難しさがわかっちゃう。たぶん仮に僕が担当していたとしても「これはウケないだろう」と最初はリアクションしたと思うし、誰も「秦」の可能性を見抜けていなかったと思う。
片倉 でも今は国民的な作品になりました。
太田 そうなのよ。『キングダム』の成功で「戦国時代末期にこういう料理の仕方があったんだ」とわかった。今では、秦の前後の時代、たとえば楚漢戦争を描いた作品なども出てきた。歴史が得意な人が「そこは微妙」と思いがちな時代を扱ったからこそ、『キングダム』はまったく新しい読み手を見つけられた。だから、宋の時代というだけでウケそうにないと思っちゃダメなのかも。
片倉 だからこそ、この時代を知らない人でも虜になるような大きい話にしてほしいんです。このテーマ、描き方を選べばもっと面白くなると思います!
人がたくさん死ぬのはいい?
丸茂 『ラッタ! ラッタ! スプラッタ!』という作品ですが、まず冒頭がすごいんですよ。見てください。
一同 何これ!?
丸茂 1行ごとの文字数を調整して、文章が階段状に続いているんです。
前田 しかも、この階段、よく見ると「ナイフ」の形になってますね?
丸茂 そうです! プロローグの文章が、まるごとナイフ型の段落で構成されているんです。プロローグといっても、これが3ページくらい続くので驚かされました。
持丸 どのような作品なのですか?
丸茂 学園ミステリでいいのかな。失踪した友人の足取りを追う主人公が、ある女学園のクラスの19人が殺される事件に遭遇します。いやー、やっぱり人がたくさん死ぬミステリっていいですよね。
榎本 ど、どういうことですか。
丸茂 人がたくさん死ぬと、読み手は「なんでこんなことするの?」って思うじゃないですか!
岩間 読み手の興味を引く上での良さということですよね。作品としてはいかがでしたか?
丸茂 独特の美意識で青春を書きたいという気持ちが伝わってきました。だけど、ミステリとしてもう一歩がんばってほしい。なぜ惨殺状況をつくりだしたのかの動機をめぐる応酬や考察、●●●●●でのようなものはわかります。でもエンタメの商業作としては、「なるほど!」と膝を打つポイントが犯人当ての部分にもう一歩必要だと思います。
榎本 スプラッタとしての面白さはありましたか?
丸茂 スプラッタとしてのおもしろさってなんなんだ? 血飛沫シーンが派手にあるとかですか? 派手な状況はしっかりあるし、とてもいいんですよ。ただ犯人当てがあっさりなので、いっぱい人が死んでいる、という印象のほうが強く残ってしまうんですよね。一気に犯人を特定するのではなく、もう少し段階的に犯人を絞る、かつそこで読者には気づけなかった部分があるのがよいかなと。
太田 綾辻行人さんの『殺人鬼』を参考にしていただくと良いのかしら。
丸茂 ですね! 『殺人鬼』はスプラッタホラーですが、びっくりするミステリ的なポイントが明確に準備されています。派手なシチュエーションを作れる方なので、手堅い謎解きも仕込んだ次回作をお待ちしています。
前回作からの大転換はいかに!?
八木 前回の座談会で前田さんが担当された方の新作で、今回は僕に回ってきました。
前田 商社を題材にした小説を送っていただいた方ですね。前回作は、商社での勤務経験のある八木さんにもぜひといって読んでいただいたのです。今回も商社ものでしたか?
八木 タイトルに驚きますよ。『エリンギ魔法少女よどりん』です。
一同 エリンギ!?
八木 前回の企業小説とはまったく真逆というか、タイトルからしてもう全然違う作品なんです。王国を敵の手から救うために、変身して戦う魔法少女ものなんです。
片倉 エリンギ要素は作中にあるんですか?
八木 エリンギにまつわる武器や魔法で戦うんです。変身にもエリンギが必要でエリンギを補給して戦いに行きます。他にも「わかめ」や「焼き芋」も出てきます。とにかく展開の飛躍がすごいので、驚かされ続けました。
前田 コロコロコミック的な世界観なのですかね。いたって真面目な部分もありそうですが、対象読者層が見えにくいですね。
榎本 すごい方向転換になるわけですが、前作と比べてどうでしたか?
八木 僕はやっぱり企業小説のほうがいいと思います。前回のような重厚な企業の話が盛り込まれた作品をぜひ読んでみたいです。
持丸 元・商社マンの八木さんを唸らせる作品が来るといいですね。
現実のつらさもエンタメに!
丸茂 『異世界は楽しかったかい? それじゃあ戻ろうか、現実に』。主人公の勇者は、魔王を討伐したが、その後待っているのは現実世界での普通の冴えない高校生としての生活だった……という話です。タイトル通りのシビアなコンセプトの作品です。
榎本 うっ……聞くだけでもつらそうですね。現実に帰った主人公は、どんな人物なんですか?
丸茂 そもそも自殺未遂で異世界転移した、いじめられっ子なんですよ。異世界から戻ってきたら元通り。現実においては、異世界の経験なんて妄想と変わりません。「いかに異世界ものに耽溺しても、その読者は現実ではチート能力もなく、シビアな現実を生き抜いていかなければならない」という壮大な比喩になっている……というと意地悪過ぎるかもしれませんが。
片倉 読む楽しみが乏しいのはエンタメとしては厳しいです。
丸茂 その楽しくなれないところをどう活かすかまで見たかったですね。「それでも現実を生きなきゃいけない」というオーソドックスな着地になることはわかります。ただ、もうちょっとエンターテインメントできたんじゃないかな。異世界からスキルは持って帰れなくても、なにか持って帰れている成長があったなら……でも異世界パートがないとそういう書き方はできないか。田中ロミオさんの『AURA』みたいな方向に持って行けたら、かなり救いがあった気がします。
前田 左京潤さんの『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』は、まったく同じテーマに向き合った作品ですが、現実に帰ってきた主人公は、なんだかんだハーレム的な日常を過ごしますからね。電器店での「お仕事もの」としても、すごく工夫されています。
榎本 異世界から現実に戻った時、何がどこまでリセットされるのか、という論点自体は面白いと思います。全てがリセットされてしまうということは、それはそれで受け入れ難いですから。近年だと、アニメ『Sonny Boy』の結末に賛否両論が巻き起こったのを思い出します。賛否両論ということは、それだけみんなが感情移入できたということ。
丸茂 転生した勇者も現実に帰ってきたら「ただの人だよね」という構造自体はいいと思うんです。ただ異世界ものは飽和状態で、メタにメタを重ねている状況だから、単にメタをするだけではみんな満足できなくなっている。そのうえで娯楽的な部分、気持ちよく読める部分もなにか考えていただきたいです。
そのキャラに寄り添えるか?
岩間 『鳥籠の中の幸福』を紹介させてください。40歳の貴族騎士と、彼に監禁されていた青年が織りなすファンタジー×クライムフィクションの愛憎劇です。
丸茂 この作品は、もしかしてBLですか?
岩間 BLです!
榎本 監禁されていたのに貴族騎士のことが好きなんですか?
岩間 貴族騎士には想いを寄せる男性がいたのですが、その男性は女性と結婚してしまいます。その二人のあいだに生まれた赤ん坊を貴族騎士が誘拐し、「外は戦争中だ」と嘘をつき育て上げた。青年に育ったその子を、いわば都合のいいペット兼恋人として支配する。やがて、罪が明るみに出て、青年が自由になったところから、物語が動き出します。
榎本 BLで監禁ものって、王道な感じがしますね。
丸茂 (それは偏見では……)
片倉 この作品、よかったところはどこでしたか?
岩間 読者の目を惹きつけて離さない描写力が素晴らしかったです。育ての親であり恋人でもある貴族騎士への複雑な感情を抱えたまま、青年が真実を知って自立しようとする姿には、心を揺さぶられました。嘘をついていた貴族騎士を嫌いになれない、その心情の描き方がすごく上手だったんです。何よりお話の紡ぎ方がうまくて、展開はある程度予想できるのに、途中でやめられない文章力があるんです。
太田 よさそうじゃないの。なんで推薦しなかったの?
岩間 貴族騎士があまりに自己中心的で、読者を魅了するには難しいと思いました。それに既視感も少しありました。設定のインパクトに比べて、ストーリー上の予想外の展開が少ないです。ざっくりとしたテーマは、凪良ゆうさんの『流浪の月』に近いですが、そこまでは届いていない印象でした。加害者への不快感も残るので、好き嫌いが分かれる作品かもしれません。テーマの整合性とキャラクターの掘り下げが噛み合えば、もっと面白い作品を書ける実力のあるご投稿者さまだと感じました。
片倉 この作者さんに次に書いてもらうなら、どんな作品が読みたいですか?
岩間 ハッピーエンドを書いてほしいです。そして「この人にはこの人の事情があったんだな」と納得できるキャラクター作りを心がけていただけると嬉しいです。また機会があれば、ぜひ次の作品でご応募いただければと思います!
作品のジャンルを明確に!
榎本 ここからは候補作です。
持丸 私からは『ディアノノ』を候補作に推薦します。今回読んだなかで一番すごかった。感動や共感とは違う「共鳴」。共鳴しながら、最後まで読んだ感じです。
榎本 共鳴、ですか。
持丸 はい、読んでいてずっとドキドキしていたんですよ。主な登場人物は小学6年生の女の子三人組。一人目が主人公、二人目は観察者役、そして三人目の女の子には死者が憑依しています。女の子三人組はゲーセンのゲーム筐体に組み込まれたAIを使ってアニメを作って配信しています。
前田 『アイカツ!』シリーズや『プリティー』シリーズのようなゲーム筐体に、アニメを作って配信する機能までもが組み込まれているという世界設定ですね。
持丸 そして主人公の女の子は二人に才能の差を見せつけられて、嫉妬したり落ち込んだりする。
片倉 創作ものの王道展開ですね。
持丸 ところが、主人公は自分にはストーリーもセリフも作れないからと、徹底的にパクるやり方に方針転換するんです。パクりまくったアニメをきっかけに三人が三者三様に変わっていく、中学生になっていく、大人になっていく。小説と作中アニメが入れ子になっていて「誰かの真似から始めないと自分の物語は語れない」「フィクションは嘘でも誰かを救える」というこの小説の中心テーマが、構造化され、反復してるんですよ。凝った小説だなあと感心しました。また、小学生たちの会話やアニメ作りの楽しさ、可愛らしさと不穏さが共存しているのがすごく癖になる。かなり重たい話なのに、最後は晴れ間がのぞくんです。
榎本 タイトルの『ディアノノ』の意味も、そこにありますね。
持丸 はい、「Dear My Friend」の「Dear」に「no, no」。二重否定で肯定にひっくり返しているんだと思います。
前田 ジャンルをあえていうなら持丸さんは何だと思われましたか?
持丸 ジュブナイル? 確かに、ちょっとジャンルを決めにくいんですが、藤本タツキさんの『ルックバック』、あるいはアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』にも近い作品だと思います。
岩間 私は、重い独特の面白さが詰まった作品だと思いました。AIの進化を踏まえれば、ゲーム筐体のAIでアニメが作れる、というのには近未来リアリティがあって面白かったです。
丸茂 僕の場合はその設定でつまずいちゃいました。『映像研には手を出すな!』みたいに本格的にアニメを作る話かと思ったら、作るのは本人じゃなく、ゲーム筐体のAIなんです。この子たちが何かを創り出している手応えが薄いなかで、「創作をがんばる話」が展開してしまう違和感がありました。
太田 どうかな、AIのアニメーション作成は日進月歩だし、すでに小学生がアニメを作れる時代だと思う。そのリアルを書けばいいはずなんですよ。現代の雪が降る北国のローカルな日常と、よくわからないハイテクマシンがまったく釣り合ってないっていうリアル。ところで、このゲーム筐体には元ネタがあるのかな?
前田 プレイ画面を配信する機能までは、現実の筐体にもあります。でも本格的なオリジナルアニメを創れる筐体は流石にまだないはず。「RPGツクール」や「Roblox」のようにゲームを制作するプラットフォームは思い浮かびますが。
丸茂 ただ、この子たちは架空のアニメの「続編」を作ろうとしています。我々はその架空のアニメを知らないから、やっぱりそこが伝わりにくいです。作中作を扱う難しさを処理しきれてないと思う。
太田 読んでいて、ふわっとした感じはあるね。
岡村 この作品のいいところは、文体とキャラ描写が緻密なところ。図書室の司書さんは非常にいいキャラクターで気に入りました。ただ、僕は小学6年生にしては、考え方や言葉遣いが大人びすぎているのが気になりました。
太田 僕は、これを書籍化して、どう売り出していけばいいかというと、難しいと思うんだよね。もちろん商品になりきっていない部分が面白いんだけど。
片倉 どういうジャンルか説明しづらい作品は売り方が難しいですよね。『ルックバック』を彷彿とさせるテイストでしたが、あの作品はあくまで藤本タツキさんだから成立している面があります。あれを新人がデビュー作としてやるのはハードルが高いです。
太田 そうだね、藤本タツキさんも『ファイアパンチ』や『チェンソーマン』をやっているからこそ、読者が『ルックバック』についてこられるという面があるじゃない。
丸茂 あとは、やはりタイトルが気になる。一目では意味が伝わらないカタカナタイトルはやめたほうがいいと僕は思っています。
太田 これもある種、読者を置いていってしまっているってことなんですよ。
丸茂 まずは読者がイメージを作りやすい作品づくり、その上でのオリジナリティだと思います。
太田 この方はブランクを置いてまた書いてくれた方だから、応援したいよね。次の作品を期待して楽しみに待ってます!
土木のおもしろさを!
岩間 『王立都市整備局補佐官ロザモンド』を候補作に推薦します。正直に言うと、タイトルを見た時点では少し疑いながら読み始めたんです。でも最初から最後まで、夢中で楽しめました。物語は「水害から国民を守る」という、シンプルな話です。主人公である64歳の女王ロザモンドは、200年前の世界で14歳の少女に転生して、未来に起こる大災害を彼女だけが知っている、というところから物語が動き出します。
榎本 未来に起こる災害を主人公だけがわかっている、というのはコンセプトとしてわかりやすいですね。
岩間 しかも魔法なしで、知恵と行動力だけで防災に挑むのが新鮮なんです。女王時代に培った知識と経験を活かして、橋の再建や上下水道などのインフラ事業を進めていく。地道に努力して行動する姿には好感が持てました。職場の男性が実は王子様だった、という設定も、私は「待ってました!」と言いたくなる王道として楽しめました。
太田 名君が過去に戻って頑張る話で、これは手堅い運びだし、非常に面白いんですよ。でも、大きな話じゃない。日向夏さんの『薬屋のひとりごと』や香月美夜さんの『本好きの下剋上』と比べると、起きていることのレベルがすごく小さい。よく書けているけれど、「洪水の被害を食い止める話です」というあらすじだけで、どれだけの人が買ってくれるか。
丸茂 売り出し方次第かなと。最近は水害が日本や海外でも多発して、読者の解像度はめちゃくちゃ上がっているんですよ。アニメ『天気の子』『すずめの戸締まり』みたいなヒット作もあります。
太田 『すずめの戸締まり』は災厄そのものをなくそうとしてるんだから、次元が違うのよ!
榎本 今回作に話を戻すと、普通の悪役令嬢ものと構造は同じ物語です。
太田 悪役令嬢ものは、断頭台に送られるとわかっているから運命を変えなきゃいけない、というドラマがある。水害だと、そこが弱いんだよね。
丸茂 市民の命を救わなきゃ、という動機自体は大きくて悪くないと思うんですけど、何か物足りない。スケールダウンしているように感じられてしまう。
岡村 支倉凍砂さんの『狼と香辛料』だったら、読者の知らない市場や商人の仕組みについての話がありますよね。この作品には、土木についての驚きが足りないんです。例えば僕は「粉塵爆発」を『パイナップルARMY』で初めて知りましたけど、それだけでもう面白いですもんね。
榎本 最近、YouTubeのショート動画で、世界の土木建築を紹介するものが増えているんです。中国の橋がなぜ複数のアーチ状になったのか、みたいなことを30秒ぐらいで解説するんですけど、ついつい見てしまう。
太田 今回作は、土木の話を面白く読ませるための味がまだ薄いんだよね。異世界ものはどんなストーリーでも乗せられる「薄味」の器だから、そのぶん中身は「濃い味」じゃないといけない。「この時代の技術だと本当はここまでしかできないけど、知恵を絞ってなんとかする」とかでもいいよね。あるいは『薬屋のひとりごと』の場合は、コテコテのネタでさえも、扱いの上手さで見せている。中華でやるのも新しかったし、キャラ造形もすごいじゃない?
榎本 土木の話なら、ショート動画のビジュアルのわかりやすさに勝つような物語の工夫が必要ですよね。
太田 土木の話なら、僕はやっぱり木本正次さんの『黒部の太陽』だなあ。あの作品で、ダムについて語るとき、みんな熱くなるわけじゃん。本作にはその熱さがまだ足りないと思うんだけど、それでもちゃんと読める作品だから、実力はある人なんだと思う。
岡村 綺麗なフォーマットにはしっかり収まっています。だからこそ、何かひとつ鋭いものを入れてほしい。そのあたりはカルロ・ゼンさんが上手いんですよね。「これは現実のあの事件だな」と歴史好きはわかって面白いし、わからない人もわからない人なりに面白い。
太田 この方は、どこの新人賞でも一次選考は絶対に通ると思う。だけど最後に受賞するかとなると、文芸界に何か新しいものを運んでくれる人なのかどうか、というところが問われることになる。それは、岡村さんが一生忘れられない「粉塵爆発」みたいな何かかもしれない。基礎はとてもよくできている作品なので、尖ったものを入れた新作をまた送ってください!
受賞の後のことも考えています
榎本 これで今年のFICTIONS新人賞受賞は全4作品となりました。
太田 沢山応募がきたのに、最後に受賞作品を出せなくて悔しい!
岩間 最近の傾向ですが、文字数が数十万字を超える作品もあり、なかなか候補作に挙げにくいです。受賞したとしても、文字数が多くて星海社FICTIONSで1冊に収まりきらない作品を出すのは難しいですよね。
丸茂 新人賞では、面白いこと以外にも店頭に並べられるかどうかでも見ているので、文量も重要なんですよね。
太田 書店に並んでいる本を見て、他の作家がどんなふうにデビューしているのかを考えてほしいです!
片倉 デビュー作として遜色なしと衆目の一致するような作品をお待ちしています。
太田 そうなのよ。今は新人がデビューするときに、いきなり8冊や10冊を出すなんてことはもうおそらくないんだから。逆に、1冊の本にならない短い原稿でもダメ。星海社FICTIONSがどんなレーベルかを分析して来年の新人賞は、今年を超える力作をお願いします!!
一同 それでは、次回もご投稿をお待ちしてます!
(一行コメント)
『あなーきー! あまあま♡とろとろ♡今日も生きててえらい♡弱者男性沼らせ系現役JKvtuber杏奈きいの”アジト”はインターネットの”ビルの谷間のラーメン屋”で"ゲバ棒"はアンダードックで"マジメ"な信者の御宅君♡』
文体に小気味よい勢いがあります。ただ一つ一つのシーンが長く、かつ意味合いが同じようなシーンもあり、読むのを離脱したくなる個所が多々ありました。(岡村)
『キミが望んだセカイ』
AIを題材にした先行作品より新しい物があったかというと、あまりないという印象でした。(榎本)
『アスラ囁記』
きちんとこの時代のことを調べてエンターテインメントにした労作かと思います。内容も整っていました。ただ、とても魅力的なキャラクターやカタルシスを感じるような展開があったかというと、そうでもなかった、というのが正直なところです。(岡村)
『真・探偵伝』
殺人が発生してそれを解決する素直な建て付けなので、とくに「事件を未然に解決する」探偵という設定は必要だったのだろうか、と引っかかりました。ほかにも謎の自警団とか推理劇の配信とか突飛な要素や装飾なしで、オーソドックスな設定と謎解きでまず唸らせてほしいです。(丸茂)
『VR:ワールド・ペインテッド・アート』
作品の内容や雰囲気はなんとなくはわかるのですが、読んでも具体的なイメージを持つことができませんでした。(岡村)
『国家携帯』
国家と監視という現代的なテーマのSFとして拝読しました。ストーリーは興味深いのですが、短文中心の地の文のスタイルと第八十三章にまで至る独特の構成は、ハードボイルドの追求の結果とも思われますが、幾分か世界観に入りにくいように思います。(前田)
『ギベオンハート』
登場人物がほんわかしている印象を受けるなど、作品をどの方向に向けているのか、バランスが良くないと感じました。(八木)
『スクラップ・ワールド・マーチ』
荒唐無稽な世界が独特のリズム感で描かれていく、その気楽でユーモラスな感じは好物な読者もいると思いますが、エンタメとして受けるかというと厳しいと感じました。(丸茂)
『螺旋の彼方 白銀に燃ゆる君』
400字詰め1919枚(約76万7000字)という圧巻の大作を書き上げた執筆力はお見事です。ただ、物語の内容に対して少し長すぎる印象を受けました。長編自体がNGなわけではありません。過去に長編の受賞作もありました。しかし、この作品はもう少し原稿整理が必要だったように思います。(岩間)
『善意保険株式会社』
「善意」を商品化する発想が印象的。善意の危うさを描く社会風刺として魅力がある一方で、保険制度の説明が物語の推進力を弱める面もあります。制度の仕組みを整理し、主人公の葛藤や選択を物語の結末により強く結びつけることで、着想の面白さが生きる作品になるのではないでしょうか。(持丸)
『『you ß』』
展開はしっかり王道的に描かれています。ただこの作品の世界観があまり厚みを感じられず、ご都合的に思えてしまうところや、読んでいて疑問が浮かんで来てしまう個所が多々ありました。(岡村)
『衝突の冬』
文章のリズムに馴染めず。説明的で冗長な印象を受けました。もっとスピード感が欲しかったです。(八木)
『わたくしごと殺人事件』
メイントリックはかなり類例があるもので、長編の核心として耐えられるものではなかったと思います。(丸茂)
『望んでないわよ、こんな世界』
伝えたいエピソードやアイデアが非常にたくさん詰まっているのは感じられますが、現状は少し詰め込みすぎで長くなっている印象です。本当に伝えたい軸を絞り、要素を整理・削ぎ落とすことで、より物語の魅力が際立つかと思います。(岩間)
『KANEKO スペース・アントレプレナー』
センスオブワンダーと不条理に溢れたスペースオペラとして拝読いたしました。設定の緻密さと、地球との往還という王道のプロットに魅力を感じますが、アイデアはまだ玉石混交という印象も。売り出したいSF的アイデアをさらに絞っていくと、商業エンタメ作品として売り出していきやすい纏まりが出るのではと思います。(前田)
『フラネラル』
海、唾棄すべき現実、罪悪感、そして青春と死という普遍的なテーマ、現実と想像を精妙に行き交い、そして事件性が明らかになっていく構成に唸りました。他方、セリフの口語体と地の文の硬質さのギャップは読み手を選ぶと思います。そしてここまでの重すぎる実存的な苦しみ(まさに弦楽のためのアダージョ的な)に読者をいざなった先に、さらなるカタルシスを得たい!と感じました。(前田)
『もう戻れなくなった人たちへ ~七人の巫女と大罪人の封印~』
新しさはあまり感じることがなく、また文章がすらすら読めるかというとそうではありませんでした。(榎本)
『ソード&マシーナリー』
書きたいことは伝わってくるのですが、壮大な設定が先行していて内容に強度が伴っていない印象でした。(岡村)
『桜の木の幹(みき)くり貫(つらぬ)いた。ローカル・ウィッチと世界の終わり。』
設定がわかりやすく、すらすらと気持ちよく読み進められました。 次回作では「この作品だからこそ読める魅力」のような、ご自身ならではの独自性を少しプラスしていただけると嬉しいです。(岩間)
『ある夏の浮遊』
トーマス・マンの『魔の山』を想起させる、生と死をめぐる随想を描いた思想小説でした。キャラクターの名付けや設定などにセンスを感じますし、個人的には楽しく読みましたが、完全なエンタメに徹しきれておらず純文学的な要素も濃い点が評価を難しくさせています。『SAVE THE CATの法則』のような娯楽作品のプロットづくりの王道をもっとしっかり意識していただけると、エンタメとしてさらに質の高い作品を書いていただけるのではないかと思います。(片倉)
『双髑の少女』
「祈りと呪い」というテーマが鮮烈。重厚な宗教世界と姉妹の絆を描いたダークファンタジーです。緻密な設定と世界観には魅力がありますが、序盤の情報提示が物語への没入を妨げ、クライマックスでも主人公の葛藤が十分に伝わりきっていません。世界観の魅力を人物の選択と結びつけることで、物語の感動をさらに深められる作品です。(持丸)
『君がいたから』
AIと人間の感情という題材ですので、今までAIを題材にした作品にはない新しいなにかを書いていただけるとさらによくなると思います。(榎本)
『悪食フェス』
タイトル通りの突飛な設定で、ワンテーマで書き切っている勢いには感嘆したのですが、食に関するセンシティブを攻めすぎていて推しにくかったです。(前田)
『メルヒェン・ヴェルト ~世界に童話を~』
着眼は面白いと思いましたが、あっと言わせるようなものが無かった印象です。読者を意識して、コンパクトにまとめるとよくなると思いました。(榎本)
『ボイス・レザレクション』
声を武器に配信者として一発逆転を狙うというわかりやすさはいいなと思ったのですが、芸能界の舞台裏の描写に、読者が知らないリアリティがもっと欲しいと思いました。(前田)
『とある街の怪奇現象調査所と万屋の怪異譚』
幼馴染バディが、怪異の裏にある人情や心の傷を解き明かす、読み心地の爽やかなミステリです。キャラクターの魅力とテンポの良さがあります。一話完結の連作としてまとまっている反面、作品全体を貫く運命の波や、既存ジャンルを突き抜ける独自の強みが欲しいです。(持丸)
『第3次スーパーロボトイ大戦』
おもちゃのロボット・ロボトイが出てくる戦争ものですが、一般的な架空戦史SFと比べて効果的な差別化ができているようには思えませんでした。せっかくユニークな設定があるなら、もっとストーリーに活かしましょう。(片倉)
『愛(ラヴ)することと見つけたり』
展開が大きすぎた印象です。AIが進化した未来はどうなっているか、が設定のベースになっているものと想像しましたが、最終的な着地に新味を感じませんでした。(八木)
『小さな旅路の果て』
未来の荒廃した米国という舞台は魅力的に思いましたが、それらを活かしきれていない印象でした。(榎本)
『幽霊屋敷相続指南』
冒頭の引きの強さが秀逸で、期待を持って一気に読み進めた作品でした。 一方で、中盤以降の展開がややご都合主義的になり、本来描きたかったであろう面白さを出し切れていない点が課題です。 読者を惹きつける魅力的な描写力をお持ちですので、ぜひまた次回作でのご応募をお待ちしております。(岩間)
『北陽リパブリック事変』
派手で大胆な設定ですが、それと比べると内容は地味に感じました。読み手に与える期待と、書き手の書きたいものがうまく一致していない印象でした。(岡村)
『龍造寺恋鐘(りゅうぞうじこいかね)の時間停止ミステリ』
鴨志田一さんや八目迷さんみたいな時間SF設定と、日常の謎ミステリを組み合わせるのは新味でしたが、うまくいっているかというと悩ましい。謎解き自体は、時間停止とか関係無くできてしまうのではと。すでに数多の作品があるなか、新味のあるコンセプトをつくるのは難しいですが、特殊設定抜きでミステリを考えたほうがよかったのではという印象でした。あるいは時間SF的な特殊状況に置かれた人物たちが関係性を深める話に振った方が、よいかもしれません。(丸茂)
『君が世界に響くまで』
アニメーション学科での日常にもっとディティールがあれば、既存の難病ものとは違う味を出せたかもしれません。(丸茂)
『陰陽崩壊』
設定にユニークさを感じましたが、ストーリー展開は既視感あるものだったのでもっと大きな工夫が欲しいと感じました。(八木)
『いつか化け物になる君へ』
とても楽しくテンポよく書かれている印象が伝わってきました。ただ人物のセリフを介したやり取り主体の文体で、若干まだ筆が勢いで滑っているようにも。ちょっとまだ入り込みづらいので、設定やキャラ魅力の提示でもっとよくなりそうです!(前田)
『幸党スクランブル』
「自らに不利益をもたらす異能」に苦しむ者たちが集う「不幸党」という設定が秀逸。社会からはみ出した者たちの絆というテーマにも惹かれます。一方で、陣営や異能の設定が多く、物語の焦点がぼやけている点は惜しいところです。魅力的な設定を登場人物の関係性やドラマに結びつけることで、作品の独自性をさらに際立たせてほしいと思います。(持丸)
『異物』
音楽をテーマとした、しっとりした雰囲気のある作品でした。ただ、読者が登場人物たちに共感できるための引きが弱かったのは要改善点です。(片倉)
『もしAIが人類に輝く未来をもたらすなら』
今回はAI進化の未来がストーリーのベースになっている作品が多く感じました。それだけにその中でも際立って意外性のあるものを期待していたのですが、不十分に感じました。(八木)
『ポンコツ助手見習いは書き換えられた異世界の歴史を修復する』
異世界の歴史改ざん事件とその修復に奮闘するというアイデアは魅力的でした。しかし、規定枚数(400字詰原稿用紙換算で300枚以上)に対し、本作は152枚と枚数不足のため規定違反となった点が残念です。ご応募の際は、公式サイトの募集要項をよくご確認いただけますようお願いいたします。(岩間)
『ラプラス・デバイス』
異能バトルになんでもあり感があって、どのようなメカニズムで異能力を発生させられるのか、SF的に設定をもっと詰めていただきたいところです。取り扱うテーマが散漫で、過去を持つ者と過去を持たない者という対比はあまりうまく扱えていなかった印象。(セーブデータだとしても)両親に会いたいという主人公の動機のほうに読者を乗せるべく、フォーカスしてほしかったです。(丸茂)
『いつか花の褥に君と』
薬膳知識を生かした事件解決や皇帝との緊張感ある関係描写が光る意欲作です。ただ、宮中事件の多さから主軸である主人公と桃花の絆や心情の掘り下げが不足気味。エピソードを絞り、二人のドラマを深めることが今後の課題でしょう。(持丸)
『灰色に陽だまりのサイレン』
暖かさを感じる作品でした。ただ、主人公が弱さを打ち明ける、乗り越えるにはインパクトが小さいように感じました。(榎本)
『史上空前の悪魔祓い』
私がこの作品のジャンルに詳しくない、というのもあるかもしれませんが、かなりしっかり読まないと内容が頭の中に入ってこなかったです。(岡村)
『宙間処分作業員の冤罪』
ニッチな作業をSFにして最初は面白く拝見しました。そのニッチさに合った緊張感のある話から、スケールが大きくなりすぎて後半は大味に思えました。(榎本)
『転移者ナツコは異世界で楽して暮らしたい!』
非常に安定感のあるレベルの高い作品で面白かったのですが、小春編から物語がさらに動きそうだと思うところで、比較的すぐにエンディングに向かったのが非常に意外に思いました。(前田)
『命喰らいのマグ』
寿命を燃料に動く巨大兵器マグの設定と熱量が素晴らしい力作です。「スープ」のモチーフが象徴する二人の絆や生きる愛おしさが丁寧に描かれ、ラストシーンには深い感動がありました。王道ゆえに世界観や展開に既視感がある点が惜しまれます。(持丸)
『君のための至上の讃美歌〜An Anthem for a Wordless Lament〜』
競泳がテーマのスポーツものでした。こういった小説が広がりを持つためには、競泳に興味がない人も楽しめるくらいキャラを飛び抜けて魅力的に描くか、競泳関係者以外でも心奪われるくらい競泳を面白く描く必要があるかと思いますが、残念ながらそこまで至ってはいなかったという読後感です。(片倉)
『叛徒(はんと)たちの卒業式』
こんな悪辣な校長が存在するだろうか、というところで現実味が乏しく乗り切れませんでした。七不思議をつくって復讐するという方法も婉曲すぎるのではと。(丸茂)
『時はふたりに流れ、果て』
2つのタイムリープの理解が上手くできず私には楽しめなかった。(八木)
『作家志望と貢がせ嬢と気まぐれな死神』
SNS、貢がせ嬢、作中作が現実の殺人を呼ぶ入れ子構造という着想は意欲的です。語り手を替える構成や一人称の語りにも魅力があるのですが、作者の問題意識が先行し、展開も偶然に頼りがちです。題名の「気まぐれな死神」が本文で十分に回収されていません。作品の設定を感情を動かすドラマにつなげてほしいと思います。(持丸)
『見捨てられたミステリィ、忘れ去られたアクセラレータ』
AIネタを小説にするなら、現実のAI革命を超えるくらいの驚きや発見がある作品を目指してほしいです。よくあるSFミステリにちょっとAIを出そう、くらいの使い方だと既視感の強い作品になってしまいます。(片倉)
『なにもない部屋からの脱出』
途中からの展開には驚かされましたが、その面白さが最後まで続かなかった印象です。(榎本)
『ポテトチップスとタバコとバスタブのニオイ』
読んでいて想像の範囲に収まったので、もっとあっと言わせる仕掛けがほしいと思いました。(榎本)
『電脳少女ピリカ』
メルヘンなタッチのSF。叙事詩的な構成にするよりも、主人公=ピリカ視点の成長譚に徹するほうが、文章のトーンには合っていたと思います。(丸茂)
『創作戦線 -Re:Write-』
とても面白いアイデアの作品で、メタ感も心地よかったのですが、主人公の動機にあともう一歩感情移入しにくかったのが正直なところです。また下ネタ表現が、あえてのギャグ表現とはいえどうしても気になりました。(前田)
『ノーランド・シティの運命』
素敵な世界観とキャラクターを構築しておられるだけではない、ものすごい技巧の意欲作で、叙述トリック……というべきか、古い例で恐縮ですがアラン・ロブ=グリエの『嫉妬』に近い仕掛けを応用した作品とお見受けしました。心から驚かされた一方で、短編向きともいえるこの仕掛けの全てを知ってから振り返ると冗長に思える部分も多いというところに非常な難しさを感じました。特に導入〜序盤のテンポをあげ、全体的にも物語を盛り上げ、濃度を上げる工夫がなされた改作をぜひ読みたいです。(前田)
『黄昏のオルタ』
冗長と思える描写はありますが、全体的には矛盾無く整っており、面白いシーン(ツムギとヴィクターの会話など)もありました。ただ、こちらの予想を良い意味で裏切ることやクライマックスでの強いカタルシスなどがなく、読後感としては物足りませんでした。(岡村)
『その罪を幸福と呼ぶなら』
近未来の設定やアイデアの良さが際立っていた分、長さに比して内容が冗長になってしまった点がもったいなく感じました。次は分量コントロールを意識した執筆を期待しています。(岩間)
『偏愛霊』
スピード感があり読み進めることができました。荒唐無稽すぎて面白かったです。ただ、ごくごく早い段階で結末が予想できそうな設定だったのが残念でした。(八木)
『UMBRA』
娘の死の真相に迫るストーリー展開や高いエンタメ性、巧みな筆力には目を見張るものがありました。ただ、10代〜20代向けを掲げる当レーベルのカラーに対して作品のトーンが大人っぽく感じられる点は否めません。(岩間)
『Living Dead in The Fast Lane』
バトル物で迫力がありましたが、魔法少女ものじゃなくてもいいのではないかと思ってしまいましたので、この題材で惹きつけられるなにかを描いてほしいと思いました。(榎本)
『装甲忍者飛鳥』
AIネタを小説にするなら、現実のAI革命を超えるくらいの驚きや発見がある作品を目指してほしいです。よくあるバトルものにちょっとAIを出そう、くらいの使い方だと既視感の強い作品になってしまいます。(片倉)
『満月に、純白のパラソルを』
端正なファンタジーで水準以上ではあります。ただ、それに加えてひとつ強い引きがほしいところではありました。(片倉)
『勇者ゾンビは爪を塗る』
会話が長く続くせいで、場面のイメージが膨らまず作品の世界に入り込めませんでした。(八木)
『廉井(やすい)徳夫君を探しています』
新聞広告や記事、取材記録、独白を織り交ぜたモキュメンタリー手法で過去の真相に迫る構成が巧みで強く引き込まれました。300枚の長編を書き切った構想力と筆力は素晴らしいです。ただ、終盤は記者の説明が中心となり、驚きや余韻が薄れてしまったのが残念でした。複雑なプロットを組み上げて最後まで読ませる力は本物だと感じます。(持丸)
『先の未来の神殺し』
現場取材に基づいた紀行描写が素晴らしいです。一方で、全体のボリュームがやや多く、少し冗長な印象を与えてしまっている点がもったいなく感じられました。(岩間)
『愛月撤灯』
主人公の名前の漢字がユレていて、それが気になってしまいました。一番大事なところだと思います。(八木)
『法王庁 〜水色の焼け跡〜』
文章は読みやすく感じましたが、設定を複雑にしているだけのようで魅力を減らしているように思います。(榎本)
『鏡映しのエンドルフィン』
登場人物の名前も独特な上に、文章もわかりづらく読み進めるのを難しく感じた。(八木)
『MIXTO・選ばれしもの』
様々な面白いアイデアが散りばめられているのですが、飛躍も多く、世界になかなか入り込むのが大変でもありました。(前田)
『青春が暗黒なのは明白な』
第二部が第一部の意味を書き換えるような構成、文体なども含め、ゼロ年代の影響色濃く良かったのですが、より早いテンポで物語が前進する必要があるように感じました。(前田)
『この世界の全てが、これからの君の助けになりますように。』
綺麗な話でしたが、あっと驚くような展開がほしかったです。(榎本)
『そして、それは彼女に受け継がれ……。』
読みやすい文章と武器の特性を生かした戦闘描写が光ります。序盤の「騎士落第の理由」の着想にも魅力があります。一方、世界設定や展開には既視感があり、約200万字(20冊分!)という分量も商業出版を目指すうえでは大きな課題です。物語の核となる魅力を見極め、構成を大胆に整理することで、作品の強みを打ち出してほしいと思います。(持丸)
『もうひとりの私の活人(かつじん)』
いじめ、自己否定などの重いテーマに挑んだ意欲作。もうひとりの自分に救われながら、やがて自分を失うかもしれないという葛藤に独自性があります。一方、作者の思想を代弁するかのような説明的な長広舌が物語への没入を妨げている感は否めません。作品の核となる葛藤を、登場人物の行動や関係性のドラマに落としこむ工夫が必要だと思います。(持丸)
『今日から俺がヒーローに!?〜副業で戦隊活動始めました。〜』
「ヒーローや悪の組織を仕事・副業として扱う」設定は、既に多くの先行作品が存在するジャンルです。それだけに読者の期待値も高く、先行作品と比較される中で、本作は独自の新しさや強みを提示しきれなかったように感じました。本作で培った執筆力や構成力を生かし、思い切ってまったく別のネタや題材に挑戦してみることをお勧めします。(岩間)