
2025年冬 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2025年1月14日(火)@星海社会議室
2つの候補作の受賞を巡って編集部でも意見が割れまくり、議論が大白熱!?
受賞候補作が、2作登場!
栗田 第43回星海社FICTIONS新人賞座談会を始めます。今回も、受賞候補作が2作! みなさんの意見を聞くのが楽しみです。
持丸 今回の候補作は、どちらもすごくいいですよね。僕としては、2作受賞でもいいかなと思っております。
太田 確かに、どちらもすごく光るところのある作品ですからね、僕も座談会を楽しみにしてましたよ。
栗田 それでは始めていきましょう!
アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー
丸茂 『魔法探偵シャーロック&ホームズ』、これは魔法がある世界でのファンタジーミステリでした。
太田 既存の有名な作品で、そういう設定のミステリってなかったっけ?
丸茂 ランドル・ギャレットの『魔術師が多すぎる』のことですかね、〈ダーシー卿〉シリーズ。魔法があるパラレル世界の英仏を舞台にしたミステリで、投稿作もイギリス舞台なのでそれを彷彿とさせるのですが、ハリー・ポッター的な魔法ありの現代イギリスを舞台にしたミステリと言ったほうがイメージしやすいでしょうか。「シャーロック&ホームズ」ってタイトルの通り探偵役はふたりいて、シャーロック・スミスという女の子とジョニー・F・ホームズという男の子、魔法学校の学生になります。ふたりあわせて「シャーロック&ホームズ」!
太田 『ドグラ・マグラ』みたいな感じね。
丸茂 ここで僕は引っかかるわけですよ……なんで片方は姓で呼ばれて、片方は名前で呼ばれているのか。「スミス&ホームズ」か「シャーロック&ジョニー」が適当ではなかろうか、と。
太田 でもさ、丸茂さんだって、丸茂って呼ばれてるときと、智晴って呼ばれるときがあるわけじゃん。そういうもんじゃないの。
丸茂 まあ野暮か……細かいところをもうひとつ挙げると、日本語のギャグがあるんです。シャーロック・スミスが「私のファミリーネームも、スミスからデブスに変えるべきだな」みたいな台詞を口にして、「英語で喋ってるはずだよね!?」ってツッコんじゃいました。
太田 細かいね(笑)! まあでも細かいところが気になっちゃうのって読書あるあるですよね、わかりますよ。なんかスニーカーの中に入った小石みたいに妙に気になっちゃう。
丸茂 これを突きつめるとジャガイモ警察みたいになっていくのですが、イギリスを描く精度はこだわらないとしても、ツッコミどころは削ってほしいという話でした。さておき、冒険ファンタジーとして見どころがあって好印象でした。『呪術廻戦』みたいな悪役が出てきて、ちょっとテンション上がりましたね。
岡村 死人の身体を乗っ取るやつとか?
丸茂 そいつじゃなくて「全人類を魔術師に変えてやるぜ!」ってやつが出てきます。連続する事件の裏にそんな真犯人の狙いが発覚し、シャーロック&ホームズとの対決を迎えます。
岡村 魔法バトルするの?
丸茂 ちょっとバトりますね。窮地を前に「ジョニー、景気づけに格好良い決め台詞を頼む」「地獄で会おうぜ、ベイビー」という熱い台詞を交わすシャーロック&ホームズを見ることができます。
太田 なんでそこは『ターミネーター2』なの!?
丸茂 作者さんのセンス! キャラクターは軽い調子で生き生き描けてるんですよ。ただ日本語の会話として生き生きしてるけど、それゆえ英語圏の話としては違和感がある場面も生じてるという先の話につながりますが。
太田 それに、そういえばこの作品はミステリだったんじゃないの。
丸茂 そこは僕の紹介が悪かったです。たしかに魔法探偵が主役ですし、事件の犯人を突き止めるパートはあります。ただ本作のメインプロットは事件を辿ることで判明するラスボスとの対決ですね。だから広義のミステリと言いますか、冒険ファンタジー的な楽しさのほうが大きい。
岡村 本格ミステリというより、探偵キャラクターを描く冒険小説ってこと?
丸茂 そうです。序盤の謎解きについては、やはり魔法という「なんでもあり」な代物がある前提でいかに真相を限定するかがポイントになるのですが、その点はあまりよくできてなかった印象でした。「魔法があるならほかにも可能性があるんじゃない?」って思ってしまう。
太田 いわゆる特殊設定ミステリはそこが難しいよね。すべての超常的なルールを説明したうえで謎解きするとフェアになるんだけど、その世界の魔法をぜんぶ説明するわけにはいかなかったんでしょう。
丸茂 あるいは特殊設定と関係ないところで、犯人を限定するとかが解決策ですかね。本作については探偵キャラにせず、それこそ〈ハリー・ポッター〉シリーズみたいにふつうの魔法学校の生徒が不思議な事件に遭遇してやがてヴォルデモートと対決するぜ!って冒険ファンタジーにしたほうが読みやすかったかもと思います。ただその路線をいまやるなら、『七つの魔剣が支配する』みたいな、異能バトルものにするなどわかりやすいエンタメ要素は必要だと思いますが。
岡村 でも丸茂くんの感想を聞く限りでは、日本を舞台にしたほうがいいんじゃない?
丸茂 たしかに! ふつうに日本舞台で『呪術廻戦』とか『東京レイヴンズ』みたいな話を書いていただいてもいいのかも。言うは易しですが、ミステリにこだわらず考えてみてください。
涙を誘う難病もののシスターフッド
岩間 私から話題に挙げたいのが『ダイヤモンドより無価値なわたしは』です。一言で言うと、難病もののシスターフッドです。
太田 いいんじゃない。ありそうでないよね。
丸茂 国内小説だと僕は思いつかないですね。映画はある……タイトル忘れました(アメリカ制作の『サヨナラの代わりに』でした)。
岩間 私はこのジャンルに熱心な読者ではないんですが、これは難病ものの基本をしっかり押さえてあるし、新鮮さもあっておもしろかったです。難病ものってヒット作の多くは、病気を患ったヒロインだったりヒーローの生き様を悲劇として感動につなげていく内容だと思うんですけども、ここに多くの場合、男女のロマンスを加えて喪失とか再生を描くことで青春小説として描かれてますよね。この小説は男女のロマンスじゃなくて女性同士の友情が主軸になっているところが王道の中に新しさを感じたんです。この作品の難病が何かというと、全身がダイヤモンドになる奇病の宝石病です。
丸茂 架空の奇病、定番ですね。斜線堂有紀さんの『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』が近いかも。そっちは金塊になります。
岩間 キラキラした素敵な宝石になって死ぬんじゃないんですよ。この病気ならではの原石の状態で、しかもあんまり綺麗な死に方ではないんですね。臓器などがどんどん石化して、食事も排泄もできなくなって、人間だった頃の原形をとどめずに衰弱しながら亡くなる様子が描かれていて。ちょっと不覚にもね、涙腺が崩壊しちゃいましたね。さらに宝石病の患者さんの遺体から取れるダイヤモンドが、めちゃくちゃ高価っていう設定になっていて、遺族はそれですごい遺産をゲットすることができるんですけれども、周囲に知られると宝くじで高額当選したことが周りにバレるくらいトラブルが起こるんです。
太田 おもしろくなってきたな。
岩間 難病ものの王道小説として、一定の需要にストレートに応える内容で、私はおもしろかったなって思っています。綺麗すぎない亡くなり方であったり、その後の家族や周囲の苦労や立ち直るまでの心情の描き方も良かったと思います。宝石病というひとつの嘘で成立していた点にも好感を持てました。
本当におもしろかったんですけど、候補作にあげなかった理由としては、エンタメ小説としての詰めがどうしても甘くて、全体的にやや荒けずりだったためです。厳しい感想にはなるんですが、ツッコミどころもページ数稼ぎのための蛇足的なストーリーに見えてしまうエピソードもいくつかあって、これで商業デビューする作品ではないかなと思いましたし、手直しして良くなるとも感じませんでした。
ただ、今回初投稿のご投稿者様だったので、これからも書き続けていただきたいです。ご投稿作には現実と嘘の混ぜ方にもセンスを感じましたし、売りになる話かを考える能力もある方じゃないかなと思うので、ぜひまた応募していただきたいです。
ベタはすばらしいので、その先の個性を!
栗田 わたしからは『トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~』をお話しします。タイトルからしてわかる通り、王道の恋愛小説です。あらすじとしては、日本屈指の大企業グループの総帥のひとり娘として育った高校生の主人公が、お父さんが亡くなって、高校生と会長の二刀流でいきますと宣言して会長になり、自分の秘書をしてくれる男性に初恋をします。そこから、バレンタインに手作りのチョコレートを送って交際をスタートさせ、いい感じに付き合う。しかしSNSでふたりの関係が公にされてしまって、恋人の男性が誹謗中傷のターゲットになってしまう。でもなんとか守って最後結婚に至るっていう、本当に綺麗なハッピーエンドです。
丸茂 主従恋愛ものですかね、いいじゃないですか。
栗田 そう、いいんです。ベタのベタなんですけど、ベタってすごい大事だなって改めて思いました。ただあまりにも細部がふわふわしてて。お父さんが亡くなっちゃった後に、親族で誰が跡を継ぐかもめるみたいな描写が少しだけあるのですが、そのあと特に何もないままいきなり「その2日後、臨時株主総会で新会長を決める決選投票が行われ、私は叔父に大差をつけて無事会長就任が決まった」みたいな感じで進んでしまう。細部が甘いんです。
それに、主人公が大企業の会長になぜ就任できるのかという部分の説得力も薄いです。それだけのスキルがあるわけではないですし、リアリティが薄かった。でもちゃんと初恋をして実らせ、最後は結婚。結婚式で空を見上げて天国のパパに話しかけるっていうラストなんですよ。しっかりベタでいいですよね。
細かいところのリアリティを詰めたりとか、キャラクターをもっと深掘りしたりして書いてほしいなと思いました。
前田 なんかベタでもキャラクターがかっこよかったり可愛かったりすれば、ヒット作っていっぱいあると思うんですけど、そういうところがちょっと弱かったですか。
栗田 弱いですね。その主人公の女の子が高校生であり、かつ大企業の会長の肩書きがある以上の個性が感じられませんでした。たとえば、仕事に活かせるような、英語が話せるだったり国際情勢に詳しいとか経営のことが実はちゃんとわかってるとかもなく、スキルも乏しい。
でも王道をちゃんと書くって大切なことなので、ちゃんと王道をやりつつ、キャラを深掘りするとか、個性的なところを作るっていうのを頑張ってほしいです。
どのジャンルでどう売っていくか?
片倉 『梨子割』は、今回僕が読んだなかでいちばんおもしろかった作品です。戦前戦後を股にかけた男ふたりのドロドロ愛憎劇で、文章がすごくいい。新人賞で「文章がいい」と言うとき、だいたいはストレスなく読める、読みやすいというレベルだと思うんですが、この作者さんの文体は別次元で、この方の文章をもっと読みたいと感じさせる推進力がありました。心に闇を抱えた登場人物の、陰のある感じを描くのが非常にお上手でした。
丸茂 読んでるだけでおもしろいって大事ですからね。
片倉 候補作としてあげなかったのは、ストーリーに悩ましい部分があったからです。といっても、話がつまらないわけではないんです。あらすじを説明すると、まず戦前パートで、ある農家の使用人の子どもが主人の令嬢に性的暴行をしてしまいます。途中で抵抗されて、使用人の息子は主人の令嬢を逆恨みするんですが、ここで少々ねじれが生まれます。実は被害者は主人の娘ではなく、双子の弟だったんです。作者さんのフェティシズムを感じますよね。この出来事をきっかけに、双子の弟と彼を陵辱した使用人の息子が、お互いに憎み合う状態になります。
丸茂 混乱してきたな。農家の主人には息子と娘(双子)がいて、使用人には息子がいた。そして使用人の息子が、主人の息子をレイプした……ってことで合ってます?
片倉 その通りです。時が経って、この使用人の子供は、双子の娘のほうと結婚します。ここからは義理の兄、義理の弟と呼びますけれども、戦時中には義理の兄のついた嘘のせいで彼の妻、義弟にとっては双子の姉が死んでしまうという悲しい出来事もあり、この義兄弟のドロドロした感情はさらに深まっていきます。戦後、社会が混乱する中で弟は「好機が来た」と義兄を陵辱して仕返しをしたりと、ひたすら憎悪を高めていた義兄弟ですが、ある殺人に関して共犯関係になり、憎み合いながらも協力しなければならない状況に追い込まれ、愛憎半ばする関係になります。
太田 なんか昔の昼ドラみたいな感じだね。
片倉 そうですよね。最後は義兄が死んだ後、義弟が共犯関係にあった殺人事件を「自分1人でやりました」と自首して、兄を守っていくという終わり方です。
丸茂 グロを抜いた飴村行さんみたいな感じとも違う?
片倉 ああ、言われてみればそうかもしれません。この話、サスペンスたっぷりで面白かったんですが、どういうジャンルに属するのか、誰に向けてプッシュしたらいいのか、あまり明確にイメージできないのが課題です。
丸茂 BLってことじゃないの?
片倉 強いて言うならそうなりますよね。しかし、あまり関係性消費に特化した小説ではないんです。カップリング萌えを純粋に楽しむには、割り切れない激重感情のノイズが多すぎると言いましょうか。それはそれで作品の味ではあるんですが、BLにするなら、もっと関係性萌えを強調しないといけないと思います。ことほどさように、どういうジャンルのコンテンツとして売っていけばいいのか、ラベリングが難しい。ただ、最初に申し上げたように、この人は陰影のある物語を書くのが非常にお上手なので、最近のトレンドだと因習村のホラーなんかを書いてもらったら、ゾクゾクするものになりそうな予感があります。
持丸 タイトルの「梨子割」ってどういう意味だったんですか。性的なアレゴリー?
片倉 主人公たちは梨農家なんです。梨というのは力のある権力者が手にできる甘美なものであり、またこの小説では「男は強くあらねばならない」という強迫観念がキーモチーフになるんですが、梨を割れるというのが強さ、男らしさの証明でもあるのかな。
丸茂 読んでみなきゃわからなそうだな……ジャンルとしてはサスペンスなんですかね。
片倉 はい、人間の奥底にあるドロドロした感情を描きたい、そのための舞台装置として殺人事件が出てきたりするけれども、別にロジックを立てたミステリをやりたい方ではないと思います。
丸茂 迷うならサスペンスかホラーとして売るつもりで、愛憎感情が映えるような設定を作るしかないんじゃない。
片倉 魅力的な個性があるのは間違いないので、あとはそれが輝けるジャンルや設定をうまく見つけていただきたいですね。新作が書けたら、またぜひ送ってきてほしいです。
複雑にしすぎるべからず
前田 『トゥルースインザジャックポット』は作中作形式のミステリです。『グラップラー刃牙』の地下格闘技場ってあるじゃないですか。格闘技の達人たちの対決を群衆が見守るショーみたいな空間。あれを探偵同士でやるのが本作です。主人公がなんか裏社会の怪しいところに連れてこられたと思ったら、そこはバトルフィールド。連戦連勝の有名な探偵と推理バトルをさせられます。その推理バトルは単純に真相を当てた方が勝ちっていうゲームではなくて、複雑なルールと勝利条件があるんですよね。
持丸 ディベートみたいなものですか?
前田 細かいルールは違いますがイメージは近いです。「ロジックで轢き殺せっ」みたいな激しいガヤを入れる観客がいます。
太田 今のセリフ、おもしろかった(笑)。
丸茂 僕も読みました。『逆転裁判』とか、ミステリ読者の方なら〈ルヴォワール〉シリーズの双龍会とかを思い出す設定だと思います。
前田 そしてバトルフィールドで、昔起きた古い事件に関する手記が読み上げられます。その手記の内容は、5人の姉妹がいる旧家で殺人事件が発生する、因習村ミステリみたいな事件でした。この事件について推理バトルが始まるんですけど、ふたつ問題があります。ひとつはその作中作が複雑なこと。共犯の可能性を検討するために順列組み合わせみたいな図が出てきます。
丸茂 面食らうよね、あらゆる可能性を検討するのは大事ですけど。
前田 共犯の可能性にここまでこだわるミステリは読んだことがなくて、すごい新しいチャレンジだなと思いました。でもメタ構造があるなかで、事件と推理の状況を追うのがすごく難しくなってしまった。ふたつ目の問題点は、しかもバトルのルールが複雑すぎるってことですね。複雑な内容の謎解きを複雑なルールでやろうとするから、難解になってしまいました。僕としては候補作に挙げないって判断したんですが、投稿者の方は以前に候補作に挙がった方なんですよね。
丸茂 僕が座談会のあとお話しさせていただきました。
太田 じゃあ丸茂さんのアドバイスが良くなかったってことじゃん!
丸茂 聞いてくださいよ……以前候補に挙がった作品も、ファンタジー世界の館と現実の世界を往復するメタミステリで、僕は「もっとベタな本格を書いてください」とお願いしたんです。間違いなく。そのオーダーに応えてくれる企画案を送っていただいて、僕は「ぜひこれで書いてください!」って言いました。間違いなく。バトルフィールドなんて無かった。
太田 じゃあその企画とは違う作品を書いたってこと?
丸茂 前田さんが落としたってことで僕も読んだんですけど、「あれ、僕が書いてってお願いした企画とぜんぜん違うんだな」と思ってたら……僕が書いてって希望した内容は作中作になってました。僕は叫びました。「なんでやねん!」と。
片倉 事件の真相を当てる以外にもゴールが設定されているのは、今流行りのマーダーミステリーに通じるところがあって、面白そうですけどね。
丸茂 うーん、その場合はなんのために「真理以外のゴールを目指すのか」が設定されてないと。「そういうゲームだから」では納得できない。投稿作については、リアリティの欠片もないゲームが始まって、なんでこんな複雑なルールを把握しなきゃいけないのっていうところで読者は萎えます。無関係の他人の事件をなんで解かなければいけないのって気持ちにもなる。
前田 無論、メタにふったほうがおもしろいものをつくれる人も世の中にはいると思うんですけれどもね。
丸茂 多重解決の趣向を書くために、作中作構造のゲームにしたほうがいいなって思ってしまったんだろうな……。多重解決ものをやるのはいいんですけど、メタにはしてほしくなかった。ここで多重解決もの講座を簡単にしておきますね。
岡村 (あ、これ長くなるな……)
丸茂 多重解決ものの傑作はいくつもありますが、僕はふたつの好例があると思ってます。ひとつ目は、深水黎一郎さんの『ミステリー・アリーナ』。
太田 15通りの解決があったやつ! まさに記念碑的な作品ですね。
丸茂 まさに投稿作のような作中作ミステリで、推理闘技場という人気テレビ番組があり、クイズ番組のように出題された事件の真相を登壇者たちが次々と推理していきます。多重ではありますが、構造はシンプルですよね。そして多重に推理が繰り出されるなかで、真相に近づいていく構成になっている。
太田 『ミステリー・アリーナ』ってすごい作品で、登場人物が総じてみんな頭いいんだよ。次々に頭のいい人がでてきて、それぞれが解答を打ち出して、どれを読んでもなんかおもしろいなっていう解決が次々あるんだよね。本当によくできてる。
丸茂 ふたつ目は、井上真偽さんの『その可能性はすでに考えた』。これの優れたポイントは、探偵に推理をさせるのではなく、推理を否定させていること。ある殺人事件について「こうだったのでは?」という想定がいくつか繰り出され、「いや、その想定はここが成立しませんよね」ってツッコミを入れるのが探偵役。問題点を指摘する構造だから、シンプルだしロジカルに見える。だから多重解決は、わかりやすくする工夫を用意しなければいけないんです。
岡村 (思ったより短かった)
太田 基本的にミステリは多重解決でなくても「多重推理」ではあるんだよね。助手役がちょっと凡庸な推理を展開して、「何言ってんだよ、ワトソンくん」って探偵役が言う。もう最初のこのやり取り自体の仕組みがミステリはおもしろいんだよ。ワトソン役が珍推理っていうか、すっとんきょうな話をすると、読んでる人間は仮説を全く出してないのに、こいつよりはましって思う「頭がいい自分」を堪能できるからね。名探偵がいきなり出てきて名推理で解決しましただと「この人には敵わないなあ」で終わっちゃう。
丸茂 助手役が読者以下、あるいは読者並みの推理を考え、それを探偵役が否定して整合性のとれた真の解決を提示する。そのときたいていの読者は助手レベルで考えているから、探偵の推理にちゃんと驚かされるっていうことを、しっかりやれば十分なはずなんです。
太田 複雑なことをやらないっていうのはひとつの才能なのかもしれない。そもそも、ものを書く人はみんな才能があるからものを書いてるわけ。だから基本、どうしても要素を増やしたがるんだよね。どうせ書くんだったらって。それはある意味では正しいんだけど、ある意味では間違ってるのかもしれない。
丸茂 長くなりましたが、この投稿者の方にはもう一度「ベタなものを書こうとがんばってください」とお願いしてきます。めちゃめちゃやる気がある方で、今回の選考中に次の企画を考えたからと送ってくださるくらいで……それもメタゲームものだからストップをかけましたが。でもやる気があることは本当にうれしい。次こそ本命を送ってくださると期待してます。
“ここ”が最高に光っていた!
前田 『月の盃』はちょっと喋りたいエピソードがひとつあります。ふとした拍子にいつの間にか異世界に迷い込むファンタジー的な作品。主人公たちが、古文書にある不思議な盃を掘り出すんですよ。この盃は本当に不思議なもので、ちょっと触ると、日本酒が湧いてくるんですね。
栗田 え、めっちゃ欲しい〜!
前田 でしょ! その盃をめぐって、鬼が襲ってくるんです。いろいろありながら鬼とバトルし、盃の呪いを晴らし、勝ちます。この作品は、盃というキーとなるアイテムを出して、ある「境界」を乗り越えて、バトルして帰ってくるという、物語の基本的な文法に忠実な作りなので、めちゃくちゃ読みやすいです。
で、紹介したいのは、この小説で記憶に残ったとあるシーンなんですけども、主人公はこの盃をですね、ウォーターサーバーの上のタンクのところに設置して、押すと日本酒が、ジャージャー出てくるようにするんです。もうそれがおもしろすぎて。
太田 それだけ(笑)!?
前田 はい! だけど、素晴らしかった。この方はきっとギャグセンスがかなりある人なんです。このウォーターサーバーのちょっとしたワンシーンは、原稿のなかでキラキラと光輝いていました。でも鬼とのバトルなど、物語の本線では遠慮してしまっているのか、大真面目に書き過ぎていると思う。すでに、この方はわかりやすい「企画」として物語を考えてひとつの小説に仕立てる力がある。その才能に加えて、コメディセンスを爆発させてほしい。爆笑を取らなくてもいいんです。ちょっと不思議で「ふふっ」とできる瞬間が連発するファンタジー、あるいはSFの素敵な作品が絶対書ける人だと思います。
文体のよさは全員一致で推せる!
栗田 それでは、今回の候補作の1作目。『怪異仲介士:豆大福が紡ぐループの終止符』の紹介をお願いいたします。
岡村 タイトルの豆大福、これは主人公の名前です。
太田 ここだけでね、僕は作品の点数が20点ぐらい上がってると思う、これ。すごいセンスがあると思った。
岡村 確かにキャッチーですよね。主人公の豆大福くんは「怪異現象と関わる人々を引き寄せる」体質を持つ男子高校生です。彼のその体質ゆえに出会う怪異現象に困ってる人たちと、怪異の専門家(例えば除霊師など)たちとを仲介して、一緒に怪異解決を目指していく作品です。作品は全4話で1話ごと別の怪異の話なのですが、最終話で全ての物語が繋がり、ひとつのクライマックスを迎えて終わる、という内容です。僕がこの作品を候補に挙げたのは、「やっぱり小説って文体なのかな」って考えさせられちゃったんですよね。
太田 やっぱりね、小説は文体ですよ。
持丸 私も作品は文体だと思う次第です。
岡村 この作品、冒頭3ページが説明の地の文なんです。オープニングから事件も起きずに延々と豆大福くんの説明をしていく、というのは普通はつまらなくなるんですけど、なぜかグイグイ読めてしまうんです。次にヒロインが出てきて、掛け合いとかをしていくんですけど、これもなんかおもしろい。これって文体以外でどう説明がつくんだろう、と考えてしまいました。
丸茂 「吾輩は猫である。名前はまだない」的なおかしさがありますよね。
太田 僕は本当に才能がある人が書いたら、電話帳とか汽車の時刻表もおもしろくなると思っています。あとは漫画もそうなんですよ。福本伸行が時刻表を描いたら、すっごくおもしろいものになると思う。「三鷹発、15時3分……ざわざわ」ってあるだけで。「その時、特急あずさ現る」とかさ。時刻表を村上春樹が書いてもおもしろいと思うよ。文体、スタイルっていうものはそういうものだと思います。で、この人には文体がある。すばらしいと思います。
持丸 この文体ってとぼけてるんですよね。このとぼけた文体のおもしろさが最後まで落ちなかったのが立派だな。ヒロインのましろちゃんがちょっと硬いキャラで、とぼけた豆大福との組み合わせがなかなかいい。
岡村 「苺狩ましろ」ちゃん。西尾維新的なネーミングですね。
持丸 なろう系に限ったことではないですが、エンタメの文芸って「弱者の見る夢」と言いますか、希望を抱かせるものでしょう。それがもう一番大事なことだと思ってるんです。この作品はバッチリ決まっている。
太田 僕もね、読者は満たされていたら本なんて読まないと思うよ。
岡村 この作品は男性若年層向けのエンタメの鉄板を満たしてて、身も蓋もない言い方をすると、主人公がちゃんと頑張って問題解決をして、かつ女の子からモテます。あと出てくるキャラクター、主にヒロインにどっかヤバい一面があるんですよね。大部分は真っ当なんだけど、隠しきれない狂気やおかしな部分があって、そこがコメディとしていい味になってる。
栗田 私も読んでいておもしろかったんですけど、なんかちょっと女の子たちのセリフに違和感を覚えてしまいました。
岡村 具体的にどの箇所でしょう。
栗田 ヒロインが助けてくれた主人公の豆大福に対して「体で返させてもらいたい……というのはダメかしら?」って言うところとか。
岡村 それはわかります。僕も最初に読んだときに「パンティ」って単語は令和ではさすがにないと思った。
太田 そう、パンティはないっ!(断言)
栗田 えーっと、そうですね。岡村さんの言う通り、主人公がモテるのは大事っていうのもすごいわかります。ただ、その好意を寄せられてるようなセリフの中に違和感を覚えているから、自分はこの作品のターゲット層ではないんだなと感じました。
太田 なるほど。n=1かもしれないけど、こういう意見も大事だね。
丸茂 キャラクターがモテる都合の良さは男性向けにも女性向けにもあって、近年ヒットしてる作品でもたくさんありますよ。ただまったくポルノでないのに、ヒロインの魅力を男性の性欲を働かせることで描写しようとする表現は、年々読むのがつらいものになってますけど。モテるのが悪いって話ではない。
岩間 わたしは、豆大福さんが何の能力もないからこそ、読者として感情移入ができたのがすごくよかったです。最後までスルスルおもしろく拝読できて、個人的には受賞ありでは? と最後まで読んで感じていました。
今の話の流れでいうと、女性向け作品もTLとかBLとかで過激な表現はあったりするんですよね。ただそれってターゲット層の人しか読んでなかったりするから、あまり気づかれていない部分があったりするんじゃないでしょうか。その点、星海社FICTIONSだと大衆向けで出版されるので、例えば前後の文章でツッコミを入れるとか? ある程度の配慮があってもいいのかもしれないなとは思いましたね。
岡村 確かに表現が古いとか、違和感があるとか、それは直す余地があると思います。
片倉 僕はこの作品、あまりハマれなかったです。タイトルやあらすじを見たときは、数ある怪異ものの中でも「主人公は怪異を仲介するだけで特殊能力がない」という設定に新鮮さを感じ、期待して読み始めました。が、本当にそれだけの話で終わってしまったのが残念でした。タイトル通りの話を書いてくださっているのにケチをつけるのは申し訳ないのですが、異能がないなりに主人公がもっと活躍したり、悪戦苦闘したりする話を読みたかった。でも、この作品で豆大福は異能者と事件をつなげるマネージャーのような役割に過ぎず、タイトルを見たときの期待を上回る面白さは感じられなかったんです。
丸茂 一つひとつの話が小粒で、読み終わった後になにか感動とか教訓みたいなものが待ってないんですよね。それがこの作品の弱点だと思います。
岡村 それはそう思う。例えばクライマックスまで読んだときの「そうだったのか!」という驚きとか、別に驚きじゃなくてもいいんですけど「ここがこの小説の一番の見せ所だ!」という部分が見事だと「これは絶対受賞させるべきですよ!」と推すんですけど、この作品はその部分が悪くはないけど、見事でもない。
前田 もう議論が出尽くしてるかなっていう感じもするんですが、あえていえば後日談で毎回落としていくフォーマットがわかりやすい反面、禁欲的すぎる印象がありました。が、候補に挙がってることには全く異存もないですし、面白いと思います。
丸茂 自分が担当してこの作品をどうにかブラッシュアップするビジョンは浮かばなかったです。でも大きな傷がある作品ではないから、単純にこの人のポテンシャル込みでデビューしていただくことに反対はないです。
持丸 今まで座談会でいろんな作品を読みましたけど、かなり質の高いライト文芸になってると思いました。
太田 僕はね、冒頭はすごい良かったと思うよ。もう普通にこれを受賞させればいいと思って読んでいったんだけど、後半はきついよね。この人は確かに文体はあるんだけど、文体だけで勝負してるんです。
やっぱりストーリーも大事! 後半は明らかに息切れしてる。キャラクターメイキングも、最後に出てくる除霊師のおっさんとか、本当に書き割りみたいになっちゃってて、もう作品世界を構築するのに疲れてしまっているんですよ。だからあるべきリアリティが後半は全く無くなってしまった。本当はもっとおもしろくできるはずなんですよ。この最初の部分を書いたフレッシュな気持ちを後半もキープできればね。なんでそうなってるかっていうと、これは連作短編のようでいて連作短編じゃないからです。100メートルをすごく速く走れる人が1.5キロぐらい走ろうとしたら、100メートル走って、1回休んでまた100メートル走ればいいんだけど、いきなり1.5キロ走ってしまっている。つまり、連作短編に見える形なのに、たんなる長編を書いちゃってるんですよ。だからこれはそもそもの設計がちょっと間違ってると思う。
丸茂 別に連作であることはマイナスではないけれど、各短編の充実度がないといけないよねって話ですよね。
太田 そう。そして、各話の短編をしっかり終わらせないと、最後へたっちゃうのよ。誰が読んでもこれは他の話よりも1話目のほうが出来がいいわけですよ。大したことが起こってないにも関わらず。西尾維新さんの『化物語』ではヒロインを毎話毎話変更することで、次から次に短編のカタルシスを作っていく。だから理論上は魅力的な女の子のキャラクターが尽きない限り、新しい驚きのある短編を成立させることができる。それが『化物語』の発明だったわけ。それに比べると、この応募作品は毎回毎回話を区切ってるだけで、それぞれがとびきりのラストになってない。そこが問題だと思う。だから各短編の充実度が低い。
丸茂 例えば全4話だとして、1、2、3話で解消できなかった部分を4話で解消するっていう構成は連作短編ではよくあるし、悪くないことだと思う。ただ、うまくできてないです。
太田 もしそういう構成でやるんだったら、最後にすごく大きな驚きが必要なんだけど、それはできてないね。
あともうひとつ問題としてあるのはやり取りの軽妙さがやっぱり弱い。ツッコミが雑。そこは猛省してほしい。一言で終わっちゃうんだもん。もうちょっと言い合いのラリーが欲しかったところですね。しかし、おもしろくないかって言われたらおもしろいんですよ。だから僕もやっぱり丸茂さんと同じく、岡村さん次第なのかなって。この新人賞でデビューした南海遊さんとかは、すごい岡村さんが推したわけじゃん。
岡村 南海さんは、あれはもう絶対受賞っていうクオリティでしたよ。
太田 でも、すっごく長い原稿だったしね。もちろん瑕疵もあったと思うよ。だから、そこは熱意のあった岡村さんが編集担当してくれてすごく良かったんだよ。その後は『永劫館超連続殺人事件』も、岡村さんとのタッグで南海さんが初めてミステリに挑戦してくれて、ちゃんとミステリのランキングでも評価されるような作品になって。
岡村 うーん、だとすると、今回この作品を受賞させるべきではないんでしょうね。
太田 まじで!?
丸茂 僕もこの作品のポテンシャルはここまでだと思います。これが劇的におもしろい作品に生まれ変わるとは思えない。
岡村 最後に大きな盛り上がりをつくれるかどうかって、はっきりいうと改稿するしないの話じゃないんですよね。今まで自分が担当してきた新人賞受賞作品も、全体の読後感としてはおもしろいけど、細部は覚えてない。だけど「ここだけは覚えてるし、絶対に忘れない」ところがやっぱりあるんです。そこが欲しい。
太田 すっごい頭の悪い話をするけど、1冊の本を読んだ時に多くの人がくっきり覚えていられるのって、「最初と最後」だけなんだよな。この作品、最初はいいんだよ。みんなが褒めて覚えている。だけど、最後はみんなが一致してダメって言ってる。それはやっぱ、良くないんだな。
岡村 だけど最初に言った通り、この人には「文体センス」というかなり強い武器があります。なので、こちらがお伝えしたことを踏まえて新しい作品を書いてくれれば、傑作を生み出してくれるのでは、という期待があります。
太田 おっしゃる通りです。次の応募作も、ぜひうちに書いて送ってください!
才能が感じられるからこそ……!
丸茂 僕が候補に挙げたのは『夏の幽霊と四の密室 Elephant was in this room』。青春ミステリです。高校生の主人公が、彼の住む市内で発生していた「撲殺ジャック」と呼ばれる殺人鬼の犯行現場に遭遇。警察からの事情聴取を経て帰宅すると、妹から眼球にマイナスドライバーを突きつけられる、という場面から始まります。妹の身体には、リリスと名乗る撲殺ジャック事件の被害者らしき人間の幽霊なのか別人格なのかが宿っているようで、主人公が遭遇したものを含めて同日に4件も発生していた「撲殺ジャック」の犯行と思しき密室殺人を解く、というストーリーです。
太田 俺、最初の10ページ読んだとき「もうこれ受賞に決まってるじゃん!!」って思ってた。
丸茂 同感でしたね。10ページくらい読んだ段階で、これは候補作に挙げようと決めてました。「なにがなんでもこの人はうちでは必ずデビューしてほしい!」と思うくらいです。ダウナーな主人公の鬱屈した語り口、ほかのキャラとの会話とかの軽妙さが素晴らしい。
片倉 ゼロ年代のアトモスフィアを濃厚に感じました。
丸茂 でもこの投稿者の方は20代なんです。この世代の方がこういうテンションを書けるんだって感激しました。実は前にも候補に上がった方でしたが、前作から作品のテンションがかなり変わっていたから、同じ人だとは気づかずに候補に挙げました。
片倉 前は何を送ってくれた方ですか?
栗田 『死神のプレイタイム』です。日常の謎から最後には館ものになるミステリでした。
太田 だからね、すごく良くなってるんですよ。
丸茂 最終的なオチを読むと、やりたかったことはわかりました。しかし、そこへ持っていくにあたって密室殺人×4は多すぎです! いろんな学園を回るから、事件によってはいっぱいキャラクターが出てくるんですよ。覚えてられないし、密室を真面目に解くモードになれませんでした。
片倉 事件が多すぎるのは同感です。ミステリ大好きな丸茂さんでもそう感じるんですね。
丸茂 思うよっ! 本格ミステリはもちろん「複雑さ」というか「手数の多さ」も評価点ですけど、物語を追えなくなったら本末転倒です。僕もさっきの岡村さんと同じように、文章の良さだけでこの作品を受賞候補にあげてます。密室トリックで「ああ、なるほど」ってなったものはひとつもないです。
太田 もうね、1個言っていい? 密室トリックでね、糸を使うのはもう禁止にしようよ。
栗田 太田さん……でもですね、たぶんこの方、以前の座談会で太田さんにロープを使うのはダメって言われたから糸にしてるんですよ。
太田 同じでしょ! 糸はやめよう。やめた方がいい。糸はね、よっぽどすごいトリックを作んないと、「糸か、はいはい」になっちゃうのよ。
丸茂 別に糸もロープも僕は使っていいと思います。ただ太田さんの指摘の本質は、読者が「何を解かなければいけないのか?」を把握できないと、真相が提示されても驚けないってことですよね。とくに物理トリックはうまく状況説明して仮説も挙げないと、読者が「真相はこれです」って一方的に説明されるだけになっちゃう。
太田 いやいや、普通わかんないよ、これは。前回投稿してくださったときにね、一度打ち合わせをして、次回作は乙一さんの『GOTH』を書いてくれって言ったの。あれはまさに1話1話できっちりオチがある話なんですよ。最後に共通項が出てきて、おおきなオチもある話になっていく。この人の弱点はさっきの豆大福くんの人と同じなんですよ。複雑なことを次々やっていこうとしてて、1話で終わったはずのものが2話、2話で終わったはずのものが3話……って次々に受けていく構造になってるから、これ結局は長編になっちゃっているんですよ。ただ、この人は文章がうまい。本当にうまい。だからラストはいいんですよ。小説になっている。さっき小説は最初と最後がよければいいって言ったけど、その意味ではまさに良い小説になってはいる。
丸茂 シーンの瞬間風速はあるんですよね。ただ主人公とリリスが頭をくっつけると記憶が共有されるとか、都合よく勢いで話を進めてるところは気になる。
持丸 冒頭の繊細さと美しさといったら、ほれぼれしてしまいました。クラシックにたとえると交響曲の第一楽章のはじまり。それで期待が高まって、次に何が来るかなとワクワクしながら進んだら同じ形の密室が次々と出てきて……。展覧会で同じ絵を何度も見せられた気持ちです。でも最後のところの主人公と井桜先生とのやりとりで、謎ポジションの井桜先生の関わりがわかって、すごい気持ちよかったです。
丸茂 太田さんに言われてやろうとした趣向ってのは、そこだと思うんですけれど、僕はそれよりベタな謎解きをしっかりやってほしいなって気持ちの方が上回っちゃいましたね。
持丸 長野原さんと主人公の出会いのやり取りなんてすごいよかったよ。
丸茂 このふたりを書きたいってことはわかるんですけども。
太田 あのね。前回よりは確実に良くなってる。しかし、ちょっとやりすぎてるんです。密室殺人ものとして小説を書くのであれば、はっきり言って事件はひとつかふたつでいい。4つはいらない。
丸茂 スピーディーに密室殺人×4を処理できる人もいるとは思います。ただこの人はフェアな謎解きにこだわるような、本格ミステリの保守的な感覚がある人ではないから、密室殺人×4がただあるだけになってる。
持丸 自己救済のストーリーを書きたかったんでしょうね。
太田 ストーリーテラーですよ。キャラクターも書けるし。
岡村 それはそう。わずかなセリフと行動だけですぐにキャラが立つから、そこは本当にすごい。
持丸 ほら、いい小説って、冒頭から登場人物が息をして立ち上がって動き始めるじゃないですか。なかなかそれができる人っていません。できる人がプロなんだと思います。それをこの人はできてるんですよ。
太田 いや本当に。これ書いてる人と持丸さんは、40歳ぐらい違うはずなんだけど。それでもこれだけ持丸さんの心をみずみずしく打つわけですよ。僕が『GOTH』を引き合いに出したのもそうなんですよ。『GOTH』はなんかとんでもないトリックがある話じゃないから。基本は主人公と女の子の話で、あのふたりの話をずっと読みたいって気持ちにさせるじゃない。それがいいんですよ。この人も文章がうまいんだから、トリックですんごい凝らなくても、見せ方次第で傑作になるはずなんです。ていう話をこの人にもう一度しないといけない。
丸茂 バランスとして、太田さんが乙一さんを目指せっていうのは正しいと思います。ちゃんと屈折がありつつストレートな感動も演出できる方だから。いまは技巧的な仕掛けをしようっていう気持ちが先走っちゃってる感じがするので。「あなたはベタにストーリーを書いてほんとはおもしろくなるんじゃない?」って思います。ミステリにはしてほしいんですけどね。ただ本格ミステリとして、この人の作品を売り出すことはないんじゃないかな。
岡村 でもこの人は、星海社に合ってると思います。なんか作品のところどころにエグみがあるところとか。
丸茂 絶対にうちでデビューしてほしい。本当に。
片倉 そのためにも、この作者さんはぜひ「削る」とか「刈り込む」という技術をマスターしてほしいですね。
太田 そうね。割り切りが必要だね。そういう、何もかもの要素を入れて小説を書いて成功できた人って、プロの作家でもいるのかな。清涼院流水ぐらいじゃない? 『ジョーカー』とか、もう異様にネタが入ってるじゃん。でもやっぱりセールス的には『コズミック』の一発ネタのほうがいいわけ。若くて才能ある人はね、いろいろやりたがるのよ。できるから。でもね、たとえばうちの作品でいまドラマ化してる斜線堂有紀さんの『コールミー・バイ・ノーネーム』とかも謎はひとつ。文章がよくって、素敵な謎がひとつあれば基本はそれで十分なんだよ。
丸茂 やはり才能は感じられたけど、この作品で受賞はなしですね。ですが、次も絶対、うちに応募してください!
実際に書店でどんなふうに売られるのか、想像することの大切さ
丸茂 あと言っておきたいことが。僕が候補作に挙げた『夏の幽霊と四の密室』は、長いんですよね。20万字、星海社FICTIONSだと450ページくらいの文字数がある。ほかにも1冊に収めるなら400ページ、500ページ超えるな……という応募作がたくさんありました。
栗田 本当に……10万字をぜひひとつの目安にしていただきたいです。
太田 そこはね、声を大にして言いたい。一応ね、文字数制限なしにしているけどね、ちゃんと考えてから書いてほしい。書店さんに行ってみてくださいよ。50万字を超える文字数の本が、今どのくらい書店さんに並んでますか? いや、もちろん無制限にしてるんですから、50万字ですごいの書いてくださったら、よろこんで読みますよ。だけど、それがどのぐらいすごいものを書かないといけないのかってのは、ちゃんと冷静になって商業出版されている本をよく見て考えてほしいと思う。書店さんに行って置いてないものを作っても、基本的には厳しいですよ。もちろん、置いてないもので勝つものもあります、京極夏彦さんの『姑獲鳥の夏』とかね。でもそのレベルの話なんです。どのくらいの厚さの本で、書店でどこの棚に置かれるか。それを考えてから書いてほしい。その上で50万字書いてきましたっていうなら別ですが、単純に書いてたら50万字になっちゃったから賞に出そうというのは、違うと思います。
岡村 僕らも投稿作をフラットに読んでますが、おもしろい作品はどんな装幀にしてどんなオビのコピーをつけられるかを想像しながら読んでしまうので、投稿者のみなさんもそれぞれのビジョンを持って書いていただけたらありがたいです。ぜひご一考をお願いします。
岩間 2025年こそ、受賞作が出るといいですね!
栗田 最後に、本新人賞では紙ではなくデータをメールに添付しての原稿投稿をお願いしています。ご投稿の際には、応募規定を今一度ご確認いただければと思います。添付データに不備のないようご確認の上ご応募をお願いいたします。
1行コメント
『ファミリア』
文章はしっかりしていて、ストーリーも矛盾なく描かれています。ただ、読んでいて最後までこの世界にあまり入り込めなかった、というのが正直な感想です。(岡村)
『人狼は静かに暮らしたい』
「人狼」というゲームを題材の分かりやすさが好印象なのですが、もっともっとキャラを立ててみてください。登場人物の魅力が立つ会話劇に磨き上げて、主人公にはより一層の試練を与えて感情の振れ幅を!(前田)
『騎士の前日譚』
前半で頻繁に入る回想が、読み味を削いでしまっている印象です。底辺からの栄達や三角関係は王道で良いと思います。何を書いて何を書かなければ読み手を退屈させないか、というのをより意識してもらえると、ありがたいです。(岡村)
『静寂に佇む真実と嘘』
女性たちの人生を、渾身の力で描いておられます。世の中の悪に踏みにじられた善性の先に「本物の怒り」が発露する構成なのですが、あくまでエンタメ文芸の観点からすると『ジョーカー』『ダークナイト』の序盤だけで一作になってしまった物足りなさを感じます。「その先」、つまり「怒り」が奔流する「善悪の彼岸」がもっと読みたい。(前田)
『壊れた妻と白い猫』
病妻ものは過去名作の宝庫ですが、狂妻というのは珍しいですね。愛のかたちを描きたかったのだと思いますが、登場人物とドラマを構成する情報が未整理な印象。①狂った相手をどこまで愛せるか? ②夫(語り手)の自我の変容をどう描くか……この2つをもっと意識するといいと思います。(持丸)
『ゴブちゃん退治にも飽きたから、恋と冒険をしよ!』
長すぎます。せっかく力作に挑戦していただくなら、この内容が果たして原稿用紙5300枚を費やさないと書けないものなのか、それだけの長きにわたって読者を魅了できるものなのか、執筆前にプロットの段階でよく吟味された方がよかったかと思います。(片倉)
『Causal flood Prelude』
ハイファンタジーとしての世界観や設定が大変魅力的なのですが、伏線が多すぎて分かりにくいのが正直な感想です。大きな謎(MSSの停止)と小さな謎(浄水虫・フラムetc.)のメリハリをつけて、小さな謎の方はテンポ良く解決していくと、読者にとっていま何を物語っているのか分かりやすくなると思います。(前田)
『銃姫は行く』
現代を舞台にした学生主人公の物語としては、文体や設定がやや古い印象を受けました。『成瀬は天下を取りにいく』など最近の作品の雰囲気を参考にされてはいかがでしょう。(片倉)
『ASURA』
恐るべき呪いのミイラによるモンスターパニック作品として面白く、心躍りました。文章の読みやすさも魅力です。ただ、全体の展開や設定については、読者の想像力の範囲内のものだったと思います。(岩間)
『桜色ノ未来』
ハートウォーミングな「いい話」ではありますが、既存の作品と比べて突き抜けた強みを見出すことは難しかったです。(片倉)
『天外歌葬』
舞台設定が突飛すぎて、なにが発生しているのかよくわからなかったです。超常的な設定を導入するのは避けたほうがよいのでは。連作短編的な趣向ではなく、『密閉教室』『クビキリサイクル』『煙か土か食い物』あたりを見本にオーソドックスな長編のミステリを書いていただきたいです。(丸茂)
『孤独の掟』
文章が説明っぽく、読んでいてやや単調に感じてしまいました。物語のどこに盛り上がりをつくるのかを明確にして、読者にどんな読後感をもたらしたいのか検討してみていただきたいです。(栗田)
『未来識の名探偵』
フックをつくろうという試みだとは思うのですが、迂遠な言い回しや構成だと感じました。25万字以上書かれていますが、10万字をひとつの目安にして執筆いただきたいです。(栗田)
『混沌の魔導少女はミャニャンガを頭に乗せて』
特段の読みにくさやストレスはなく、リーダビリティは及第点です。ただし、数ある異世界ものの中で目立つためには際立った個性が必要で、残念ながらその点が今一歩でした。(片倉)
『春』
滅びゆく地球と「春」と呼ばれる不思議な食べ物にまつわるSFファンタジー。80年代の少女マンガSFを思わせる硬めの抒情がよかったです。ただマンガや絵本と違って作者が「春」に込めたニュアンスを小説で伝えるのは難しそう。「春」の設定がふんわりしてるんだと思います。なぜ「春」なのかという説得力の部分ですね。(持丸)
『魔法使いのサバイバル』
戦闘など緊迫するシーンでも、文章が淡々とした印象があります。それぞれのシーンをどう表現するのか、読者の脳内にどうイメージさせるのか、考えてみていただきたいです。(栗田)
『スビタスと王』
進学校の教師、男子高校生、それぞれ悩みを抱えた登場人物たちの日常が生々しく描かれている点に魅力がある作品でした。一方で、物語の筋が弱くエピソードの集積で終わってしまったのが勿体なく感じます。しっかりとした構成を持ったプロットを意識していただくと、より面白さが伝わりやすくなるはず。(岩間)
『少女の夢は望まぬ未来』
冒頭から謎や事件が発生して物語が進んでいくのが良いです。ただ登場人物の内面や行動原理が読んでいてもよくわからず、人物に興味を持てないまま話が進行してしまっている印象でした。(岡村)
『小説家になりたい人へ』
出版エージェントの主人公がベストセラーを生み出すべく奮闘するお仕事小説で、業界関係者として楽しく拝読しました。新人賞あるあるなどの業界ネタから出版社の行動原理まで、出版界への理解は非常に正確で、作者さんの調査力を感じました。ただ残念ながら、小説としての山場の作り方は今一歩及ばなかった印象です。主人公以外にも魅力的なサブキャラクターを立てるようにすると、小説としての読みごたえが一層出てくると思います。(片倉)
『デスオタク』
「怨霊デスオタクに推されたアイドルはひと月後に死ぬ」。地下アイドル界隈と推しカルチャーを背景にした現代の怪談です。恐怖を増幅させるプロットの工夫および登場人物の成長や変化に共感してもらう要素の不足が課題ですね。アイドル側からオタクを見たアイドル論になっているのは興味深かったです。(持丸)
『ウンポコ・ポルファボールの再興』
料理や食べ物の描写が魅力的で、ぐいぐい読み進めることができました。一方で、ストーリーについては今以上に整理し、考え抜く余地があるように感じました。(岩間)
『CROSS A&D 〜聖×魔 転生学園物語〜』
「このお話は、アニメ調の作りとなっている為、会話箇所が多くなっております」と書いてくださっていましたが、おっしゃる通り小説というよりは脚本に近いと感じました。また、キャラクターに楽しく会話をさせているのが伝わってくるのですが、20万字を超えていてかなり長いです。もしも本にするなら、どんな厚さの本になるのか。これを脚本に劇をするなら何時間になるのか。読者の視点で取捨選択をしてみてください。(栗田)
『神の巫覡』
広告代理店勤務の主人公が謎の舞踏&暗殺者集団に深入りしていく展開は意外なのですが、意外である以上のものがありませんでした。まず主人公について読者に興味を持たせないと、主人公が己の素性を辿る展開にも興味を持って読んでもらうことは難しいと思います。(丸茂)
『拳闘士の棺 COFFIN FOR THE PUGILISTS』
組織内・組織間の力関係の描写が好みでした。ただ全体的に文量過多なこと、また読み手が推理ができない真相でしたので、クライマックスでも読んでいてカタルシスが湧いてこなかったです。(岡村)
『ここから始める世界征服!』
ゲームの世界に入ってからはかなりコメディタッチで、ノリの明るさやキャラに元気があるのは好みでした。ただ思わず笑ってしまうとかそこまでの内容ではないので、どういうテイストで楽しんだらよいのかは、わからなかったです。(岡村)
『江ノ島エイリアン』
関東地方を襲った怪異に「汚染」された者たちをめぐるサスペンス劇で、大スケールの話に挑戦した野心は買いたいです。ただし、描写が稚拙で興ざめしてしまう部分も多々あったので、ぜひ文章力も磨いていただきたく思います。(片倉)
『Pyrophile girls ~問題を抱えた少女たち~』
とても読みやすい文体で、「ゆーかりさま」を巡るある種意外な結末にも納得感がありました。推しきれなかったのは、それでも物語の幅として小さくまとまっているように思えたところ。主人公にはもっと厳しい試練を与えられてほしい。『俺ガイル』を超える作劇を希望です!(前田)
『月からの文(ふみ)~Last Love Letter~』
陸地の大部分が海に没した終末世界を旅するミステリアスな少年と少女。最後の最後で二人の関係と旅の目的が明らかになるわけですが、そこに至るまでが口当たりのいいスケッチにとどまっている印象です。旅のはじまりからテンションを上げて、真相が明らかになっていくサスペンスがほしいところ。青春の甘さはいい感じでした。(持丸)
『アップルペイン』
「切り紙」の異能を使う冥宮師と助手の美少年力士コンビが、魔道具「願望器ディスコ」を操る犯人と対決する中華風ファンタジー(犯人は後に仲間に)。独特な漢字の使い方と言い回しの文体は世界観の一助になってるんでしょうが、かなり読みにくい。しかしこの見た目を度外視するとお話は「母子の絆、運命への抗い、友情」といたって王道。「人物の立ち上がりの良さ」は作者の才能だと思うので、それを活かした平易な文体の作品にも挑戦してはいかがでしょう。(持丸)
『空と死に近い場所』
恨みを持つ相手の痛みを増殖させて復讐する特殊能力「ペイン・リプレイス」が連続殺人事件を引き起こす。ネットの誹謗中傷という社会問題を扱ったホラーミステリです。語り手(小説家)が読む作品内小説で「自分の死が予告されている」この設定って惹かれますよね。これ本来はかなり怖い設定なのに活かされていない印象です。作中人物の多さに加えて視点変更も頻繁で分かりづらかったです。(持丸)
『インペリアル・ガード』
キャラクターが魅力的で、ご投稿者様が楽しんで書いているのが伝わってくる作品でした。ただ、筋立ては既視感のあるもので、新鮮さに欠ける印象でした。(岩間)
『オブリビオン薬の争奪』
地上と地下の世界があり、それぞれの信仰があり……という設定ですが、地上の世界観はわたしたちの知る現代のものかと思って読み始めたら違うなど、読んでいて理解が難しかったです。人が消失していくという冒頭には驚きがありましたが、情報開示をどうするか、読者の脳内にどうしたら自分の物語世界を想像させることができるか、1冊分の10万字でそれをどうしたら実現できるか、検討してみていただきたいです。(栗田)
『リーサルビースト』
完結作でのご応募をお願いします……涙! というのはさておき、気合の入った原稿をありがとうございます。「やりたいこと」が渋滞気味なので、中編としてエピソードを絞ってわかりやすくすると、魅力的な世界観にもっと入り込みやすくなりそうです。(前田)
『中年おっさん桃太郎』
ぱっとしない中年ヤマダは不慮の事故で死にかけ桃太郎の世界に転生。桃太郎として鬼退治を完遂すれば元の世界に戻れる。桃太郎は誰でも知っている話とはいえ、ジブリや歴史人物のパロディへの脱線が散漫な印象を与えます。桃太郎のセリフのみで話が進みがちでお供たちのキャラが立ってないのも気になりました。ゲームのように次々と場面が転換されていくスピード感はよかったです。(持丸)
『黒歴史研究部へようこそ』
研究部の先輩2人はキャラが立っていて良かったです。作品全体としては書きすぎな印象で、読んでいて「このシーンや描写は必要なのか?」と思ってしまう箇所が多々ありました。何を書かないのか、というのも意識してもらえると嬉しいです。(岡村)
『ジェフ』
文章に必要以上に力が入っており、装飾過多で読むのが大変でした。小説1冊分=約10万字を読ませるためには、もっと力を抜くところは軽めに書いた方が読みやすいです。(片倉)
『鳥人たちに喝采を』
未来の世界で行われる「スカイレース」で勝とうと、軽量化のため両脚を切断する選手が出てくる。主人公も両脚の切断を決意するところで物語が終わりますが、中途半端に感じました。どういう読後感をもたらしたいのか、そこから書くエピソードを逆算してみることもひとつの手段だと思います。(栗田)
『偽天使偽獄録』
北へ行きたいと思う主人公の動機をもっと丁寧に描かないと、行き当たりばったりな展開に感じてしまうのでは。作中記の文量がかなり多く、それがどう機能するのか予感もないままに読むことになるのはしんどかったです。内容を覚えていられないと思いますし、ちゃんと読んでもその先に十分な快感が用意されていない印象でした。(丸茂)
『その樹の下でキミは眠る』
ちょっと書き味が素朴ないい話すぎるのでは、と思いました。ロマンスっぽいストーリーライン主軸でいいのですが、ホラー小説として売り出せるくらい「呪い」は恐ろしいものとして描いていただきたかったです。(丸茂)
『君が沈む海』
「恋愛」「死」「タイムリープ」というベタですがかなり強い設定を用いているので、物語に推進力があるのが良いです。ただ全体的に粗く、先行作品と比べて打ち出せる新しい強さはあまり感じませんでした。(岡村)