2023年春 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2023年5月9日(火)@星海社会議室

怪作、多数! 賞金は超キャリーオーバー! 編集部が考える良作の条件とは!?

新人2名、自己紹介

丸茂 前回の前田さんに引き続き、今回も新メンバーが参加します。自己紹介をどうぞ!

戸澤 戸澤です、ブエノスアイレス生まれの元巫女です! 大学を卒業してから1年半、神社や花屋で働いたのち、星海社に合流させていただきました。趣味は語学で、長らく英語一筋でしたが、最近は韓国語とスペイン語を勉強中です。

岩間 インターナショナルさでは、星海社随一のキャリアですね。

丸茂 「原稿をたずねて三千里」歩けそうですね。

片倉 丸茂さん、コメントが適当すぎませんか?

丸茂 ごめん、もう思いついたことが口から出てきちゃうのよ老いを感じる。もういまどきの若い人は世界名作劇場を見てないよね。僕もギリギリVHSで見たわけで。続けて、もうおひとりどうぞ!

栗田 これまでコピーライターやライターとして働いてきました、栗田真希と申します。小説ではありませんが、書き手の端くれとして「書くしんどさ」を味わってきました。応募者のみなさまが必死で書いてくださった小説、心して読ませていただきます、よろしくお願いいたします(パソコン画面を眺めながら)。

丸茂 台本なんて用意してきた人、初めてじゃないですか?

太田 ライター経験者だからかな!? ちょっとぎこちなくても、準備しないより、してるほうがいいじゃない。

岡村 その通りです。

栗田 これまでの座談会の記事を読んでみなさんの自己紹介をリスト化して、台本を用意してみました。

太田 「先行事例を調べる」は社会人の、そして編集者の大事な心構えです。その調子でよろしくお願いします!

作品の長さが「おもしろさ」につながっているか?

岩間 『砂流原真昼の愛の概念』、この作品のキャッチコピーは、「セカイ系からNTRへ 令和の想像力は加速する」なんですよ。

太田 セカイ系が加速すると寝取られになるの!?

丸茂 マゾヒストの文学ってことじゃないですか?(適当)

岩間 タイトルの「砂流原真昼」は、登場人物の名前です。この小説は、テロ組織に誘拐された兵器企業幹部の娘を、死霊術師(ネクロマンサー)の少年が救うところから始まる、愛と、冒険と、戦いの物語です!

片倉 悪くなさそうですね。

岩間 死んだり、生き返ったり、神々の加護を受けて覚醒したり。手に汗握る手に汗握る

一同 ???

岩間 手に汗握る、「原稿用紙換算1万4000枚、560万字」の壮大な物語ですっ!!!

片倉 そ、壮大すぎる

丸茂 (NTRはどこ行ったんだ?)

岩間 つまり星海社FICTIONSの文字組みで1冊あたり原稿用紙300枚だとすると、約46巻分のボリュームです(遠い目)。

太田 これが傑作だったら、我が社はしばらく小説を出すのに困らないな

丸茂 『大菩薩峠』といい勝負かな? で、おもしろかったですか?

岩間 いえ、残念ながら、候補作として挙げるには至りませんでした。構成自体は悪くないんですけれども、過剰になっている説明をもっと簡潔に書いてもらいたいです。言葉の使い方やバランス感には好印象を持つものの、冗長さゆえに、折角のよさが薄まっています。推敲を重ねて適切な文章量にしたら、この方は商業作家を目指せるはずなのに、とてももったいないなと思います。

太田 そこははっきり言って、受け手である読者のことを考えているかどうかなんだと思う。なかにはサッカー漫画の『ブルーロック』の登場人物みたいな、ファン=読者のことなんかてんで考えていなくてもギラギラ光ってる才能もあるんだけど、それは本当にレアケース。

岩間 商業的に成立するかということも、新人賞に応募する際には大事にしていただきたいです。たとえば西尾維新さんの『物語シリーズ』で現在、既刊29巻。あれほどの名作でも、29巻に至るまでには、さまざまな商業的組み立てがあったはず。一気に45巻分の原稿を送っていただいても商業的には出版することが難しいんです。FICTIONS新人賞は、日本の小説の新人賞では数少ない「原稿の枚数条件がない」賞。だから大作を投稿いただくことが多いと思うんですけれども

丸茂 例外はあります。例外があると一縷の可能性を信じているから上限設定がないわけですが、星海社FICTIONSもふつうは200から300ページくらいで本を出したいです。紙代が高騰してますし。

太田 「じゃあ結局、文字数制限するのか」というと、そうじゃない。そんな野暮なことは言わないです。上限がないんだったら、それを逆手にとったおもしろさがあったらいいんです! でも単に長いのは、芸がないってことになってしまう。

丸茂 我々だって京極夏彦さんの『姑獲鳥うぶめの夏』みたいな傑作が届いたら、長大作であろうと諸手を挙げて大歓迎しますよ。

太田 うん、800枚、大歓迎だ! 応募者のみなさんにひとつやってほしいのが、書店に行くこと。自分の書いたものがどこの棚にどんな風に置かれるのか、想像してみてください。商業で活躍するためにはそれが必要だと思います。

奇をてらうだけでは

片倉 片倉の担当作からは『アイダシャフト』をご紹介しましょう。何を隠そうこの作品、冒頭を読んで感動してしまいました。といっても切なくなって泣いたりしたわけではないのですが、説明するより実際に見てください!

洲屋は日和の桜道 囃子呼び子の掲げたる 

プラカードにはクラブ名 引き寄せられるは新入生 

その顔どれも綻びて 満更でもなく手を引かれ

一人入部の決まるたび わっと声あげ嬉し顔

色めきたつは放課後の 桜舞い散る木の下で

片倉 完膚なきまでに七五調です。みなさんおわかりでしょうか、「最初から最後まで全て七五調になっている」という伝説のメフィスト賞応募作品の再来かと思って感動したのですよ! ご存じでない方は2015年春の星海社FICTIONS新人賞座談会をご覧ください。

太田 ああ、ほんとだ! 俺が昔読んだ応募作品を思い出すよ! あれはすごかったな。もう原稿も手元にないから確認できないけれど、原稿全部が七五調だった。 

戸澤 全部ですか? すごすぎますね!

太田 大抵の「奇をてらったこと」には、えてして前例があるんだよ。

片倉 そして奇をてらうことがおもしろさに直結するわけではなく、肝心なのは話の中身ですが、内容に関してもこの作品はかなり評価できました。言うなればお笑いをテーマにした『中二病でも恋がしたい!』のような雰囲気で、なぞなぞクラブ部長のクレイジーなヒロインを中心に、忍術使いなどの個性的なキャラクターがなぞなぞクラブ存続をめぐって頑張ったり恋愛したりする学園ラブコメです。冒頭の七五調はヒロイン「ナゾナ・ゾロアスター」が参上の歌を歌っているシーンで、主人公も七五調使いとしてノリよく返歌しようとするのですが、こんな感じで癖のあるキャラをしっかり魅力的に描けていて好感を持ちました。ただひとつだけ大きな難点があってとにかく長いのです。

岩間 あら?

片倉 岩間さん担当の560万字の大長編を前にすると霞んでしまいます...が、この作品も60万字以上ありました。星海社FICTIONSの文字組みに換算すると1300ページを超えてしまうので、よほどのことがないと出版が難しいレベルです。そして、内容的にここまで長く引っ張る必然性はないと思います。この方にはセンスは感じますので、どうか読みやすい分量、具体的には10万字ぐらいの尺でぜひ新しい作品を考えていただきたいです。

三角関係は感情の宝庫!

前田 私からは『ブンレツノススメ 〜親友に告白された俺が男女に分裂して三角関係になった話〜』を取り上げます。BL(ボーイズ・ラブ)なんですけれども、男の子に告白された主人公の男の子が雷に打たれて、目を醒ましたときには男の子と女の子に分裂してしまっていたという話。正確には、もともと双子として生まれた世界線に移っちゃうような感じなんですが、主人公の意識は双子の兄と妹のどっちにも同じように宿っていて「なんで自分が二人いるんだ?」という状態に陥ります。

岡村 なるほど。

前田 そして、分裂した双子の男女と、告白してきた男の子の三角関係になるんですね。三角関係ものとして、新鮮に感じました。

栗田 前田さんは三角関係がお好きとか。

前田 三角関係は感情の宝庫ですからね! 詳細は前回の座談会記事もご覧いただくとして本作、ベタでありながら新鮮というのがすばらしいです。『らんま1/2』とか『君の名は。』みたいな驚きがあります。

戸澤 それだけ画期的なんですね!

前田 男性のままだった主人公と女性になった主人公とでは、築くことのできる対人関係やコミュニケーションが違うことが丁寧に描かれて、ジェンダーやセクシュアリティについて大事なことを考えている作品です。ネタバレになってしまうんですが、最後は分裂した2人ともが告白してきた男子からの告白を受け止めたところで、再度雷に打たれ、ひとつの人格に統合されて、ハッピーエンド。

栗田 ハッピーエンド

太田 それでハッピーエンドなんだ!

前田 トンデモ展開に聞こえるかもですが、プロットやリアリティラインの設定がうまいので納得させられるんですね。推し切れなかった理由としては、記述が少し散らかっているところ。ひとつのシーンでいろんな事をやろうとしてしまって、焦点がぼやけ気味と感じました。会話劇で魅せたいのか、事件で驚かせたいのか、経緯を解説したいのか。個々のシーンをコンパクトに整理し、文体と演出を磨くことがもっとできれば、とんでもない名作になる可能性のあるアイデアかもしれず、ぜひ頑張っていただきたいです!

岡村 僕からもひとつ紹介させていただいていいですか。『縛られたハナミズキ』は17歳の高校生の方が書いてくれました。完成させて、ちゃんと小説としても成り立っていてすばらしいと思います。

丸茂 10代からの投稿はそれだけでうれしいですね! 戦慄の17歳でしたか?

岡村 まだ受賞に届く実力ではないです。でもちゃんと冒頭で事件が起きているので、期待感を持って読み始められました。そして、三角関係ものです。前田さん、読みましたか?

前田 はい、事前に岡村さんに教えていただいて、興味深く拝読しました! シンミリしたり、ズキンとしたりする作品。「誰かがハッピーエンドになれば誰かがバッドエンドになる」が、三角関係もののベーシックな構造だとするなら、その構造を強烈な仕方で、詩的なストーリーへと展開してくださっています。ただ導入とエンディングがくっきりしているのに対して、中盤には迷いがあるように見え、やはり私も推し切れませんでした。

太田 若い書き手の方には、頑張っていただきたい!

美学に固執せず、一度読者のために書いてみよう。

持丸 『二足歩行型ガトーショコラ』、この応募者さんはもう11回目の投稿で、常連さんですね。ちょっとミステリでおもしろい趣向があったので、ご紹介しようかなと思って。

丸茂 前回は僕が読んだ方ですね。今回はどんな趣向だったんですか。

持丸 見立てを5段重ねぐらいしてらっしゃる。そのなかのひとつがですね、連続殺人の死体に麻雀牌の入れ墨がしてあって、それを並べると国士無双になる(笑)。

片倉 麻雀見立て殺人!?

栗田 すみません、ミステリの「見立て」ってどんなものですか?

丸茂 横溝正史の『悪魔の手毬唄』はわかります? 『犬神家の一族』とか『獄門島』でもいいですけど。

栗田 タイトルだけは

丸茂 マジですか『悪魔の手毬唄』では、ある村に伝承される手毬唄とか俳句になぞらえた=見立てた連続殺人が発生します。殺すだけでなく「なぜ犯人はそんなことをするのか?」という謎が提示され、村の因習にかられた犯人の仕業か呪いか祟りかと思いきや、合理的な犯人の狙いがその裏にあったというのが常道でしょうか。

持丸 今回の作品は、見立てが5段重ねぐらいになってて、麻雀の牌のほかにタロットカードへの見立てとかいろいろあるんですが、見立てって先ほど丸茂さんが説明してくださった通り、基本的には推理を混乱させながら筋を運んで、ミスリードされることもあわせて楽しむのが常道なんです。ところがこの作品の場合、アイデアいっぱいの見立ての合間を語り手の重苦しい自我で埋め尽くしている感じで、読むのが苦しかったです。語り手の一人称なんですが、それも見立てと合っていない。そして登場する女の子たちがね、つくりもの感がすごくて

丸茂 この方は「小説家になろう」に作品を書き溜めてるようなので、前回の僕の意見とか汲んでくれてないと思うんですよね。この調子で書き溜めた原稿を送ってくれてもいい反応はできないと思うな。これまでの原稿を読むと自分のために書いてる方だと思うので、読者のために書いてみてほしい。

太田 いま、丸茂さんいいこと言ったよ。この書き手には自分の美学があって、それを書こうとしてるんだよね。

丸茂 ですね。おもしろければ、それでもいいんですけど。

太田 美学を書いてうまくいく作家もいる。でもこの方の場合、それでいままでうまくいっていない。じゃあ1回ぐらい、アプローチを変えてやってみるのはアリだと思う。文章が超絶うまくて、美学も一級って作家も稀にいます。でもそれはやっぱり稀なんです。

学園ものには、〇〇が必要!?

前田 『篝の庭のアリス Alice Wanders in the Garden-Past』、これは百合ミステリです。『マリア様がみてる』の系譜の女学園ものの百合ミステリになります。しかも、高校1年生が中学1年生のお姉さんになるっていう「スリーズ制度」があります。つまり「エス(Sisterの頭文字)」があると。

丸茂 いいですね、僕もそういう設定の作品を某作家さんに書き進めてもらってますよ。

片倉 「エス」は大正・昭和初期の女学校で実際に流行していた文化ですよね。ということは物語の舞台は戦前ですか。

前田 いえ、戦後なんですが、制度自体は大昔からあるんです。最終的には、初代スリーズ制度のトップ・アリス様をめぐる、ちょっとしたミステリも出てきます。とはいえまず事件が主人公の近くで起きるので簡単に説明すると、生徒会のお茶会でコーヒーに刃物が入ってるんですね。

丸茂 ふむ、オーソドックスですね。

前田 その刃物を入れたのは誰か。コーヒーを淹れた主人公の友人が真っ先に疑われるのですが、本当は彼女に罪を着せようと、角砂糖に刃物を仕込んだ人がいるのです。それは現スリーズ制度トップのアリス様を貶めようとする陰謀で、そこに学園の歴史をめぐるミステリも絡んできます。

持丸 僕も読みました。いわゆるいま流行りの百合小説って読んだことはないんですけど、こういうのを百合小説っていうのかな? 僕は過去の少女小説のパロディー、新手のモダニズム小説を意図したのかなという感想を持ちました。

丸茂 おもしろい感想ですね。持丸さんの世代だと『マリア様がみてる』を読んでも近しい印象を持つのかもしれない。

前田 たしかに、あえて紋切り型を徹底しているところがありますね。そこのよしあしは表裏一体で、この雰囲気が好きな人にはたまらない反面、既視感を覚える場面が多いようにも読めてしまう。

丸茂 ミステリ要素が新味には、なっていないんですか?

前田 うーん、後半じわじわおもしろくなってきますが、冒頭から中盤にかけては世界観づくりに紙幅を割いていて、やや筆が重く、展開がスローすぎるように思います。

持丸 スタイリッシュな美文なんですよね、ちょっと硬めでいい雰囲気の。「ですわよ」って語尾の言葉遣いとか。

前田 ええ、百合の世界観とミステリを融合させるにあたって、事件のハードさ・驚き・怖さをどれくらいに設定すれば、百合小説としての雰囲気を壊さずにやれるのか、書き手の方も相当試行錯誤されたのではないでしょうか。ただ第一の事件が未遂で終わることや、友人の隠された秘密についてのインパクトや驚きの物足りなさが最後まで拭えず、今回は推薦できませんでした。百合ミステリという鉱脈へのアプローチは慧眼ですし、はっきり言ってこの作品のレベルは高いので、厳しめのコメントをさせていただいていると思います。

丸茂 百合ミステリに挑戦することが慧眼かはわからないけどまだまだ市場的には厳しい。僕はミステリとしておもしろければ、作家さんを応援しますけど。

片倉 どうすれば完成度の高い先行作品である『マリア様がみてる』を超えられるかを考えると、ウェルメイドなだけではダメで、何らかの新規性を打ち出すしかないわけですね。

丸茂 新規性ってのは難しいよね。僕が読んだ『社歴研はオカルトを検証したい』も学園もので、ミステリ風味。「社会歴史研究部」という実質オカルト研究会が、学校で起きた怪奇現象の正体を探る話です。地の部分は達者だしセリフも悪くないし、キャラもこなれているというと褒めすぎかもしれないけどちゃんと読めるクオリティ。でも突出したよさがない。小野不由美さんの『ゴーストハント』や櫛木理宇さんの『ホーンテッド・キャンパス』とかが好きなので、オカルトミステリでしかも学園ものはかなり応援したい路線なんですけど、どうにも推せる部分がなかった。どうすれば類書と異なるフックをつくれるのかは難しい課題ですね。地味さをカバーしようとキャッチーなものを目指して、突飛になってしまったりするし。

太田 学園ものはさ、もう本当に言い尽くされてることだけど、日本においては「共通体験」なんだよね。ほとんどの人が学校には行ったことがあるでしょう。最近はいろいろ制度や環境も変わってるから、自分の世代の常識で学園ものをつくると間違えちゃうんだけど。みんなが親しみを持てるぶん、逆に言うと小さな違和感でもみんな気になっちゃう。あと「学園自体がフックだから、数ある学園もののなかで突出するためのフックをつくりにくい」って逆説もあるんだと思う。

丸茂 そうは言っても、学校を舞台にすればいいってだけじゃなく、プラスアルファのフックを頑張ってつくる必要があります。舞台じゃなくて、キャラクターを立てることでカバーする道もありますけど。基本的にキャラと舞台、両方工夫を試みてほしいですね。

太田 その点、『マリア様がみてる』がよかったのは、全寮制の女の子の話で、「スール」という制度があること。これはちょっとした異世界なんだよ。特殊設定だったんだ。

栗田 確かに、学生のとき、半ばファンタジーだと思って読んでました!

丸茂 伝統的な「エス」というモチーフを、スール制度としてアップデートしたわけですよね。

太田 そうそう。学園ものだけど、ひとつファンタジーがある。リアルさもありながら、新しい要素が入ってるんですよ。きっと、次にヒットする学園ものは若い書き手のなかから出てくるんじゃないでしょうか。「いま」だからわかることってあると思うから。でも逆もあるかもね。さかのぼって大正時代の男子校とかも、おもしろいかもしれない。フィクションみたいな実話をベースにしたりとか。やり尽くされたジャンルだから難しいけど、学園ものの可能性はまだまだあるはずです。共感できるリアルさと、フックになる新しさを兼ね備えた、学園ものを待っています!

情報開示に工夫を!

持丸 『流星の魔法使い』をプチ推薦作とさせてください。「純然たるハイファンタジー」とご本人はキャッチコピーを書いてくださっています。僕もハードSFやハイファンタジーが好きな人間なので、SF的な予想の斜め上をいく展開があるのかなと期待して読んだんですけど、まったくなくて。しかし、読んでるうちに「だんだんよくなる法華の太鼓」みたいな感じになりまして。

片倉 つまりこの作品は、読んでいるうちにだんだんおもしろくなってきたと?

持丸 そう。歴史ミステリとか考古学ミステリっぽく読めるのが自分にはすごく合ってました。今回、長い応募作が多かったですが、これもまた長くて星海社FICTIONSに換算して4冊分ほどあるんです。けれど、ちゃんと話題にして、編集部のみなさんとお話ししたいなと思いました。

片倉 僕は正直、長くて座談会のある今日までに最後まで読みきれなかったです。

持丸 長いですよね。ざっくりあらすじを話しますと、ヨーロッパ中世に似た架空の世界で、少年が一人前の魔法使いになっていく物語です。その過程で、魔法エネルギーを溜め込みすぎた施設の暴走を食い止め、世界の危機を救います。魔法の設定が、自然科学とか物理法則の延長線上に描いた方法論に好感が持てました。魔法の説得力はなかなかあると思います。登場人物もいっぱい出てくるのですが、迷子にならずに読めました。ということで、プチ推薦させていただきました。

栗田 私も片倉さんと同じく途中までは読んだんですけど、読み進めるのに苦労して

持丸 そう、全4巻ほどの文量のうち、1巻目ぐらいまで、すごくもたつくんです。僕は2巻目ぐらいから快調に飛ばせました。GW中の愛読書。

片倉 最初の200ページが読みにくいのは大きな課題ですね。短めの長編まるまる一本分です。

持丸 途中からは、いい。この作者は長く大学教員をされていた方で、作中で魔法の古文献を調べる少年少女たちが現実の大学院生っぽい感じもあってリアルでしたよ〜。

丸茂 投稿者は60代の方なんですよね。僕はこの方には高田大介さんの著書を読むことをおすすめするかな。メフィスト賞を獲った『図書館の魔女』をぜひ。学識がある方が知見を活かして書いたファンタジーとしてのヒット作です。ただ『図書館の魔女』は長いので、別途1巻に収まるボリュームにまとめるという課題もクリアしてほしいですが。

太田 この応募作品は僕も読んだんですけど、「何の話なのか」を掴むまでにすごく時間がかかりました。世界観の説明や、登場人物がお互い自己紹介をするところで全体の2割ぐらい使っちゃってるんですよ。これは情報開示として、うまくないと思います。

岡村 それは僕も思いましたね。

太田 まだ詳しくは言えないんだけど、我らが軍師・唐木厚から先日とある原稿が送られてきました(※「軍師」については前回座談会を参照)。その原稿は、情報開示がもう本当に、天才的にうまいんですよ! 情報開示がうまければ、長い作品でも短く読ませることはできるんです。僕はよく、オープンワールドのロールプレイングゲームをやるんですけど、あれって、よくできている作品は、たとえば道を歩いてるだけで、次から次にイベントが起こるでしょ。あれなんですよ! 起こるべき時に的確に何かが起こると、それだけで人間はおもしろく思えるんです。

持丸 その点、この作品は時系列に進んで、情報開示に工夫がないですね。

太田 テンポよく次の事件が起こったり、新しいキャラクターが登場したり、そういうギミックがうまいと体感読書時間が違う。さっき話題に上がった、800ページの長編である『姑獲鳥の夏』もそうなんですよ。あれも冒頭から脳科学とか妖怪とか、難しい話だけれど、おもしろいから読んじゃう。

丸茂 そうですよね、最初に「20箇月も身籠もっている妊婦がいる」という謎が最初に出てきて、読者の興味を引っぱってくれますし。

太田 つまり「この謎を解きますよ」っていう物語のセッティングがちゃんとあった上で、魅力あるキャラクターとして荒くれ者の警察官や、天才を自称する探偵が出てくる。さらにその登場のタイミングが完璧なんだよね。次々と訳がわからない方向に物語が進むんだけど、おもしろいし、ついつい読んじゃう。長い作品を書く人は、そこを意識すべきだって思います。

編集部員は、こんなものが読みたいです!

栗田 残念ですが、今回は受賞作はなし、ということになりました。

太田 ちょっと語らせてください。僕ね、このあいだお会いした出版界の大先輩に「太田さんは王道やりなさい」って言われたんだよ。王道って差別化が難しいと思われているけど、王道のなかにもごく少数が寡占しているジャンルがあるはずだから、そこを探して狙うべきだって。王道はやっぱり強いんだよ。その先輩に、こんなことも言われたの。「太田さんは『スタイル』じゃなくって、『人間』をやるべきだ」って。これね、僕は謎解きに重きを置く新本格ミステリの潮流にどっぷり浸かってきたので、グッときました。言われてみれば、新本格って、つまり「スタイル」。僕自身はスタイルが好きなんですよ。書きよう、書きぶりがいい人が好きなんだけど、スタイルには大爆発はない。やっぱり、人間を書き切った作品にはなかなか敵わないんですよ。でね、その先輩が「なぜ新本格からは、シャーロック・ホームズが生まれてこなかったのか考えるべきだ」って言うの! もちろん新本格にもすばらしい探偵、登場人物がいっぱいいるんだけど、ホームズみたいに後世まで世界的に語り継がれて愛される「人間」をもっと打ち出せたらいいよね。

丸茂 確かに、ホームズとワトソンというキャラクターは偉大な発明です。我々は、ホームズを生み出さないとダメなんですね。

太田 そういうことなんだよ! だから僕は新人賞でも「王道で、人間を描いたもの」が読みたいと思います。じゃあ編集部のみんな、それぞれ読みたいものを言おうよ。はい、岩間さんから!

岩間 (ひねり出すような声で)「原稿用紙300枚」

片倉 同じくボリュームに関して、「10万字」で! 今回60万字超の作品を読んでみて、単行本1冊10万字というフォーマットはよく練られているのだと実感しました。大半のエンタメ小説は、読者が飽きずに楽しんで読めるようにテンポよく展開すれば10万字程度に収まるはずなんです。もちろん大長編でしか表現できないストーリーもあるはずですが、長くなる必然性があるのかは一度しっかり吟味いただきたいと思います。

太田 読者がみんな編集者ではないから、週末かけて読み切れない文量だとしんどいよね。岩間さんみたいに仕事と子育てを両立している人だと、平日には本を読む体力もなくなっちゃう。応募する人には文量を考えてみてほしいです。

前田 私からは、ひとつは「三角関係もの」。構造的に工夫できるからおもしろい。文学史的な蓄積があるのに、『カノジョも彼女』のような思いも寄らない仕掛けが各方面からどんどん出てくる。あとは、世界情勢の動乱甚だしいですから、スパイものにも期待しています。

栗田 私は「人間讃歌」の物語が読みたいです。自分のなかの暗い部分を肯定するためだけに書くことに、囚われすぎないでほしいですね。

太田 ああ、俺はコンプレックスがある側の人間だから、自分を肯定するために創作する人の気持ちがわかるなあ。世界から受け入れられないゼロ年代的な挫折感がいまだにちょっとはあるわけよ。高校の卒業アルバムを「いらない」と断って、持ってないとかさ。

片倉 卒業アルバムがいらないのなんて自明の理じゃありませんか(笑)。

太田 片倉さん、いいね! 俺は自分が自分であることに心地悪さがずっとあるわけ。それは棺桶に入るまで変わらないと思う。だから、闘わないといけないんだよ。まあいいや、それは措いといて。はい、じゃあ戸澤さんどうぞ。

戸澤 私は栗田さんと正反対になっちゃいますけど

太田 いいんですよ。だから編集部があって、いろんな人間がいるわけだから。

戸澤 はい。私は「性格ブサイクな人が出てくるもの」を読みたいですね。応募作のなかに、女子高生の恋愛ものがあったんですが、恋愛関係のもつれがあまりに綺麗すぎて、「そんなに爽やかに済ませちゃダメじゃん!」って感じました。

岡村 僕は、「キャラ立ち」と「冒頭の事件性」が欲しいです。

丸茂 つまりミステリですね!

岡村 いや、ミステリに限らず(笑)。念のためですが「事件性」というのはキャッチーな出来事、という意味です。たとえば「殺人が起きる」のは当然事件ですし、「主人公が誰かに告白する・される」「ひと目惚れする」というのも事件です。僕らは最初の読者になるので、冒頭の10ページで物語に引きつけてもらいたいなと。

太田 わかります。本って、映画館で観る映画とは違うからね。映画はもうお金も2000円払ってるし、このあと2時間上映するんだなとわかってるじゃないですか。だから冒頭浜辺に波が打ち寄せてるだけのシーンが3分続いても席を立たないけど、小説で最初の10ページが波の描写だけに終始していたら、読まないですよね。そこを書き手には考えてほしいです。じゃあ持丸さん!

持丸 僕が60歳をすぎて思うのはですね。まず「感動させる、共感してもらう」を創作の目的として突き詰めた作品に取り組んでほしい。一冊の本を読むってことは「新しい目で見る」という経験を読者にもたらすことだと思うんです。エンタメでも純文学でもノンフィクションでもね。その核に感動と共感を据えるのは間違ってないですよ。その上でですね、テンプレなスタイルにただ乗っかるのではなく、あなたにしか書けない「いまここ」を捉えた小説を読みたいですね。

岡村 感動にはいろいろ種類がありますよね。僕は驚きたいです。

丸茂 読んでいい気分になりたいっていうのは、無視できない本を読む動機だと思います。それは本を読む人の大多数がそっち側だと思う。持丸さんみたいに長く編集者として働いてきて、たくさん読まれてる方が、結局そこに辿り着かれてるわけだから。

太田 じゃあ、丸茂さんどうぞ。

丸茂 僕が求めているのは常に「おもしろいミステリ(本格ミステリならなおよし)」です。とくに学園ミステリ/青春ミステリは、王道だと思われてるジャンルですが、じつは寡占状況なのでぜひ狙ってほしい。学園ミステリ/青春ミステリの傑作なんていくらでもあるじゃないかと思われる方がいるかもしれませんが、「いま年1冊以上のペースで刊行されている学園ミステリ/青春ミステリってありますか?」と聞かれたら、あまり思い浮かばないのではないでしょうか。そんなシリーズがないことに読者としては寂しさを、編集者としては不甲斐なさを感じますが、だからこそ書きたいという方を応援したいと思っています。

賞金が空前絶後のキャリーオーバー!

栗田 最後にいいですか。賞金の話をしておきたいです!

太田 そうだ! いま、いくらよ!?

栗田 ただいま、3,960,800円です!! 年間の受賞者全員でその年の賞金を分けるシステムでして、今年の受賞者はまだおりません。次の新人賞に応募してくださったら、総取りの可能性も

丸茂 賞金額的には最高峰の新人賞になってしまったのではないでしょうか?

太田 まっ、そうだね。お金目当てで応募してほしくはないけれど、すぐれた人に賞金が渡せて、それでその人が1年ぐらい新しい小説を書くことに集中して暮らせたら、いちばんいいじゃないですか。

栗田 そうですね。星海社FICTIONSドリームがあります。

戸澤 最後に、本新人賞では紙ではなくデータでの原稿投稿をお願いしています。ご投稿の際には、応募規定をいま一度ご確認いただければと思います。

一同 それでは、次回もご投稿をお待ちしてます!

1行コメント

『僕たちのオペレッタ』

登場人物たちの行動はわかります。ただ彼ら彼女らの内面がわからない、もしくは読み手の興味を引くような内面描写がされていないので、淡々と物語が進行して終わってしまった、という印象でした。(岡村)

『ミスハラ探偵の人格を疑う推理』

コールドスリープのようなSF設定抜きでオーソドックスな学園ミステリとして仕立てるか、コールドスリープという技術に焦点を絞ったSFミステリとして仕上げるのが穏当だったと思いました。主人公とヒロイン双方の魅力を感じられなかったので、ラブロマンス要素に乗り切れなかった点も痛かったです。(丸茂)

『ブレイクポイント』

青春を爽やかに描いていただき、題材も良く、王道で、とても読後感が良かったです。ストーリーの盛り上がりをひとつ大きくつくってくださり、焦点もあっていますが、ただ、いまのプロットだけだと絞りすぎてシンプル。小さなエピソードや感情の山をさらに組み込んでいただきたい。(前田)

『目覚めると そこはスペースコロニーだった』

スリリングで期待感の持てる冒頭でした。ただ、全体の構成としては盛り上がりに欠ける部分がありました。スペースコロニーという特殊な状況下で物語が進むため、そうした風景をリアルにイメージさせるよう、描写力をより磨いていただきたいです。(栗田)

『Karera:consultant』

アイデアのおもしろさもさることながら、文学的な重みのある作品として真摯に受け止めました。実存主義論争でいえば(サルトルではなく)カミュに親しい精神でしょうか。商業作品としてプッシュ可能なネタ・言葉遣いの範囲からしばしばはみだしており、構成も練り切れていないと見て、強くは推せませんでしたが、より整理してくだされば、言葉の刃として相当な切れ味のものに研ぎ上がると思います。(前田)

『シロツメクサとクローバー』

視点人物が移り変わり、それぞれの視点で語るという構成が読んでいて楽しかったです。初々しさがあっていいのですが、部活、クラスという小さな輪のなかで絡み合う関係性や歪な感情にもう少し比重を置いていただけると、もっと良くなるのではないかと思います。(戸澤)

『四季巡の麗らかな日々』

話のテンポが良くて読みやすく、最後の終わり方も素敵でした。事件の真相が深瀬と四季の間で往復する感じもおもしろかったです。ただ、割と最後の方まで春夏秋冬4つの人格+四季巡という基本人格ということだと思って読んでいたので、最後の最後でアレ? となるのは少し残念でした。(戸澤)

『君の笑顔に花束を』

冒頭のピエロのシーンはスリリングで掴みとして良かったです。他方、話が進むにつれて失速していく感じがあったのが惜しく、最初の緊張感を維持して話を進められたらもっと良くなると思いました。また、文章が不必要に装飾過多なのが読んでいて気になりました。(片倉)

●『天真のリベリオン』

小説としては成り立っています。ただ、全体的に描写過多で、この作品のどういうところを読み手に楽しんでほしいのかは、わかりませんでした。(岡村)

『エイリアン・サマー』

量子云々は措いておいて、暗号要素以外は「非現実的に感じられた事象が実は現実のロジックで説明できた」という気持ちよさがある部分もありました。強引さも込みで高評価する読者はいるでしょう(僕も比較的そちら側)。しかしミステリを観念的な謎解きとしても構築されたい意欲は買いたいのですが、まだハイコンテクストな共感がないと通用しない作品になってしまっていると思います。『密閉教室 ノーカット版』くらい事件を「シンプルな難問」の域に留めて(「複雑な難問」にはせず)手堅く本格ミステリとしても読めるものにした上で、観念的・青春小説的な情緒も演出するという地点が理想的なのではと。いつかあなたの才能を心置きなく推したいと願っています。(丸茂)

『スモーク』

終始、青春ものとしてそつのない筆致でした。が、他の類似作と差別化できるような、読後まで印象に残る要素があったかと考えると厳しい評価にならざるを得ません。(片倉)

『AI ray~小さな蛇は夢を見る~』

熱いバトルシーンが読んでいて楽しかったです。前半は特に、セリフの勢いで話が進んでしまっているところがあるので、本文を読んでいくなかで設定や世界観が伝わるよう少し説明が加わっても良いのではないかな? と思います。(戸澤)

『フローズン』

世界観の構築が非常にしっかりしていて、ストーリーもハラハラさせる展開になっていました。ただ、主人公の魅力が伝わりにくく、「応援したい!」と素直に思えない点が惜しいと感じました。(栗田)

『皇帝陛下がとんだ国』

魅力的なキャラクターに好感を持ちました。一方で全体的に説明的で硬い印象です。読み手の存在を意識したドラマを描けると、より、おもしろさが伝わりやすくなると思います。(岩間)

『世界で一番優しい配信』

さまざまな生きづらさを抱える人に寄り添う姿勢はとてもすばらしいと思います。一方で、「優しさ」を表現するためには、たとえば「厳しさ」と対比させるなど、工夫がもっと必要なのではないでしょうか。加えて説明部分をもっと物語に溶け込ませ、読みやすくしていただきたいです。(栗田)

『セクハラ探偵の事件簿-悲壮のマリア-』

いろいろと、無理がある内容でした。(岡村)

『この終末世界に愛の手を』

異世界転生作品として楽しく拝読しました。ただ、全体に新味がなく、予想の範囲内だった点がもったいなかったです。キャラクターか? ドラマか? 投稿者様の作品だからこそ楽しめる強い魅力があるポイントをつくっていただけるとうれしいです。(岩間)

『duel-memes 〈御伽闘噺/つるぎたち〉』

全開全力の熱量でやりきってくださったので、アドレナリンを出しながら拝読いたしました。しかし、セリフで思いっきりやりたいことをやるには、地の文とのギャップが必要、と私は見ています。冷静なナレーションに徹するか、冷静な説明役・実況役のキャラに働いてもらうか。地がどしんと据えられてこそ、キャラたちが躍動し、それを読者のみなさんも追いやすくなります。(前田)

『夢読みくんとスクールカースト』

情報開示の仕方に再考の余地があると思います。話の流れの上で不要な説明が多い文体のせいで冗長な小説になってしまっています。同じアイデアでも、演出次第でもっとおもしろくできるはずです。文章が好きな作家さんの作品を精読し、書き写してみるのがよろしいかと。(片倉)

『ある夏、殺戮の夜』

このシチュエーションなら、もっとサスペンスフルなものにしていただきたかった。人物描写が平板すぎることがとくに気になって、シリアスなはずの真犯人追及シーンまで乱痴気騒ぎになっている印象。あえて人物描写を削ぎ落としたクローズド・サークルの好例に夕木春央さんの『方舟』があったので、読んでみてください。(丸茂)

『神の目とダブルディーラー』

登場人物全員が怪しく信用できないスリルがあり読んでいて楽しかったです。中盤で少し冗長に感じる部分がありますので、全体の文章量をもうちょっと少なく、コンパクトにしても良いのではないかと思います。(戸澤)

『春を待ちわびて』

人類の大半が月へ移住した世界。気象兵器が使われた影響で永久氷河期となった地球にわずかな人間が生存している。恐山に暮らす少年の歌声には地球の大地と共鳴し氷を溶かす力が秘められていた。恐山、岩木山、富士山、神戸、阿蘇と、列島を南下しながら「歌の力」によって地表を取り戻していく。東北を思わせる雪国の習俗を終末世界に溶け込ませたアイデアはちょっといいなと思ったのですが、ストーリーやドラマに展開できていない印象です。またSFとしてのハード面がふんわりしてます。歌が武器となる設定はまだしも、最後に歌で宇宙人を説得したり、オーパーツで宇宙へ旅立ったりとグヌヌ、これってどうなんでしょう?(持丸)

『ラブドール ~僕を見つめるアバローキテーシュバラ~』

主人公の思春期からの葛藤が強く描かれている作品ですが、小説としての強度が足りないといわざるを得ません。また文体が固まっておらず、語尾のリズムに調整が必要だと感じました。書き終わった作品を音読してみることをおすすめします。(栗田)

『僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい』

タイトルはもっとかっこつけていいのにと思いながら読み始めましたが、過酷な現実を生きる子ども、血縁を越えた絆というテーマは好み。伸び伸び&活き活きとキャラクターが描かれているテンションも好感触でしたが、展開は行き当たりばったり感もあり、人情的な感動を狙うなら2/3くらいのボリュームに留めるのがベターだった印象。どういう作品を好きな人に読んでもらいたいのか、作品の売りになるポイントも考えられると、テーマやドラマの焦点も定まってくると思います。(丸茂)

『アンセスター・パラサイト 神楽恋物語』

世界観を細かくつくり込まれたんだなということが伝わってきました。しかし、全体を通して情報過多の感じが否めないので、読み進めるなかで「あれ、これは何だっけ?」となることが多かったです。物語の展開上重要性の低い情報は省いて、もう少しシンプルにしてストーリーを読ませる意識をしていただくと良いのかと思います。(戸澤)