2022年冬 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2022年1月12日(火)@星海社会議室

賞金額は過去最高に達するも、座談会は冬の時代に。野心溢れる傑作よ来たれ!

新たな才能を迎え、第34回座談会開幕!

守屋 FICTIONS新人賞座談会も今回で34回目です!

片倉 星海社に新たなメンバーが入りましたので、まずは自己紹介をしてもらいましょうか?

布施

守屋 布施さん?

布施 ああ、すみません。Photoshopを使って1万円札を増やす仕事に集中してました。

守屋 (コラ画像の作成をお願いしているだけですからね!)

布施 はじめまして。昨年の12月から星海社に合流した布施です。東京藝術大学を卒業した後、現代アートの領域でアーティスト活動をしながら、美術雑誌の記事執筆や展覧会企画をしてきました。

守屋 布施さんは『ブルーピリオド』の山口つばささんの後輩なんですよね?

布施 そうですね。同じ油画専攻だったので、山口さんの卒業制作も生で拝見しました。

見野 おお〜!

丸茂 うらやましい! 東京芸大出身の方が合流するのは初めてですね。

守屋 さっそく今回は布施さんにバリバリ喋ってもらいましょう!

太田 よろしく!

ミステリにする勿れ?

持丸 『99 DAYS TO DIE』は、文章がとても上手で、これまでの座談会担当作のなかでは一番読み応えがありました。往年の「講談社X文庫ホワイトハート」の空気を感じました。

守屋 文章力が高く、世界観を大事にするミステリ、ですか?

持丸 そうですね。ジャンルは「SFファンタジー+ゴシックミステリ」。特別な力を持った聖女とその従者の絵師が、死の運命から逃れるため旅に出て「壊れた世界を回復する」物語です。ふたりは旅の寄り道で、ゴシックミステリめいた事件にも遭遇します。

片倉 ファンタジーとミステリは相性がよくないとも言われますが、この作品ではそうではなかったんですね。

持丸 というか、個々の事件の謎解きよりも、ファンタジーらしい「世界の回復」という王道の展開でフィナーレに収斂していく過程の答え合わせのカタルシスが気持ちよかったです。

守屋 世界観はどうでしたか?

持丸 この世界には、下から上に砂が逆流する砂時計があって、それが大陸を支えています。この砂が尽きると大陸が崩壊してしまう。だから、世界を維持するために、一定の周期で聖女が生贄となって砂時計をひっくり返すこうやって話すと絵が浮かびづらいのですが、文章が上手なので、読むとビジュアルが頭にすっと入ってきます。

丸茂 ゾンビものじゃないんですね! タイトルから『7 Days to Die』みたいな作品かと思った。

守屋 7DTDほどじゃないですけど、こちらも「生贄」という不穏なワードが出てきましたね。

持丸 生贄となる聖女は塔に幽閉されています。この塔の正体は大地に刺さったロケット。聖女の能力は自らの命と引き換えに離れた地面をくっつけるものであり、歴代の聖女はロケットを大陸に突き刺すことで砂時計をひっくり返してきました。その運命の日が訪れる前に聖女の肖像画を描きに来た絵師の青年とふたりで、砂時計が尽きる直前に塔から抜け出して旅に出る話です。

磯邊 なんだかロマンチックです。

持丸 ふたりは道中でふたつの事件に巻き込まれます。ひとつは東西に分裂し対立する街で起こった殺人事件で、もうひとつは魔犬によって全滅したバスカ村の秘密です。バスカは、ホームズの『バスカヴィル家の犬』からきていますね。これらの事件を、聖女の能力を用いて解決します。

布施 この物語は聖女を描くために絵師が絵具を選ぶシーンからはじまります。絵描きの目線でフィクションの世界が言語化されていくところに新鮮なおもしろさがありました。それもあって、僕もこの作品の景色はイメージしやすかったです。

岡村 事件について、特にミステリ好きではない僕からすると読んでいてちょっと引っ掛かりました。ここでは絵師と聖女が当然のように殺人事件を解決していますが、探偵役の人間に推理能力があると示されないまま謎解きが進んでいくのはアリなんですか?

丸茂 彼らの職能ゆえの知識や考えかたが反映された推理のほうが納得しやすいですよね。たとえば絵師が絵画に関する謎を解決するとか、鑑定士が骨董にまつわる謎を解決するとか。

岡村 江戸川コナンは中身が「高校生探偵・工藤新一」ですし、金田一一は名探偵の孫でIQ180。すべてではないと思うのですが、ミステリの主人公は探偵や警察官といった職能や、事件を解決できるそもそもの頭の良さ、もしくはなんらかの特殊能力を持っていると読者に示されている印象があります。この作品には特にそういった設定がなかったので「なんでこの人たちはこんなに推理能力が高いんだろう?」と疑問に思いました。

持丸 ブラウン神父やフロスト警部など、なんでこんな人が事件解決できちゃったの? という例はありますので、あまり気になりませんでした。

守屋 ミステリ以外の部分でいうと、実際に絵画の世界にいた布施さんから見て、この作品の絵の描写はどうでしたか?

布施 絵具の粒子とか、絵具に何を混ぜると透明になるとか、マイナーな知識までしっかりカバーされていました。よく調べられたんだと思います。もちろん、知識が物語の魅力に直結するわけではありませんが、物語の説得力への寄与は感じます。もっと特別な知識を生かした設定で展開できたら、ユニークな作品になったんじゃないでしょうか。

丸茂 それだと、よりニッチになっちゃうんじゃないですか? 持丸さんには申し訳ないですが、エンタメとしておもしろい点が乏しそうに聞こえました。「世界の回復」というテーマだけで読んでくれる読者がいるのかなと。

岡村 とはいえ、知識が正しいに越したことはないです。この作品では「エレキシュガル」という単語が頻出するんですけど、正しくは「エレシュキガル」ですよね。作品冒頭からこういうことがあると、どうしても作品の正確性に疑いを持ちながら読んでしまいます。

持丸 この作品の持ち味はやっぱりファンタジー部分なんだと思います。ミステリは味付け程度でね。この先、児童文学よりのファンタジーを極めていくか、それともキャラとか語りに力を入れてエンタメ性を高めていくかですね。

片倉 そうなんですか? 作者によるあらすじを見ると「新本格ミステリ」とあったので、ミステリが主軸なのかと思ってお話を聞いていました。

岡村 キャッチコピーはしっかり興味をそそるものになっていたので、そこは今後もこの調子だとうれしいです。よいキャッチコピーは内容を知らない本の本文を読む気にさせてくれる、大事なものですので。

ベタこそ上手に!

持丸 続いても私が担当のミステリです。ミステリの評価には「まいったなあ」と「たまげたなあ」があると思うんですが、『アルカロイド』は「たまげたなあ」の作品でした。舞台は絶海の孤島。そこに初対面の男女10人が集められます。彼らは『十角館の殺人』のようにあだ名で呼び合って過ごしますが、物語の全体の3分の2ぐらいにかけて次々に殺されていきます。そこが小説としてなかなかに下手。(まいったも、たまげたも同じ意味ですね!w)

丸茂 「なかなかに上手い」とくるかと思ったのに逆だった(笑)。

持丸 きついなあって思いながらも、そこまでがんばって読みました。それから生き残ったふたりが都会に戻ってくると、なぜか孤島で死んだはずの人たちと出会ってしまう。実は、彼らは誰も死んでいなかったんです。孤島で起こった連続殺人は、過去に起こったある殺人事件の真犯人をあぶり出すために仕組まれた狂言でした。前半から後半への大胆なギアチェンジは高評価です。

守屋 構成など、とあるインディーズ映画に近いのかなと思いました。

持丸 そうかもしれないです。ほかには、すごくベタなことをわざと下手に書いているのかもしれないと錯誤させる叙述ミステリ? と考えたりもしましたが、そうではありませんでした。復讐を仕組んだ兄妹との出会いを描いた痛切な青春ミステリになる可能性もあったので残念です。そのほかにも、全編に漂うイヤミス感と、語り手が真犯人の兄に寄せるボーイズラブ的感情(?)にも注目しながら読みました。こちらは単にノイズを拾っただけかもしれませんが。

丸茂 ただ、聞くかぎりシチュエーションもストーリーもやや地味ですかね。絶海の孤島や館といったクローズド・サークルを扱うミステリは、王道なだけに傑作がすでにわんさかあります。この作品の設定は、それでもなお本格ファンが読みたくなるものだとは思いませんでした。さらにフックになるオリジナルな要素を模索していただきたいです。

神の推理を極めるために?

丸茂 『ゴースト・アイ』はミステリ版『ヒカルの碁』です! 古本整理をしていた主人公が古本に紛れた手帳を手に取った瞬間、彼にしか見えない女の子の幽霊が出現します。少女の正体は、数年前、凶悪な殺人事件の捜査中に殺された名探偵。主人公はその霊に取り憑かれ、彼女の推理を聞いて名探偵として振る舞うという設定です。

片倉 なんだかそれからの展開が読める気がします(笑)。

丸茂 やがて主人公が「僕も推理してみたいんだ」と言い出して、自力で凶悪犯に対峙するようになり、最後には幽霊の少女が「私は彼を名探偵にするために、この世に再び生を受けたんだ」とキラキラ消えていくというラストまで想像したんですけど、まあそこまでは進みませんでした。

片倉 本当に『ヒカルの碁』をやるのかと思っていましたが、そうではないんですね。

丸茂 違う違う(笑)。少女に取り憑かれた主人公は、彼女の推理を代わりに披露することで、名探偵として名を馳せていきます。そこからスタートして、少女を殺した犯人の正体にもつながる事件の解明に挑みます。話はがんばってはいますが、証拠の提示が致命的によくなかった。

守屋 と言いますと?

丸茂 証拠は被害者のもとに届いた脅迫状です。最初、それはただの脅迫状として被害者に受け止められていましたが、実は被害者が書いた小説の引用でした。「自分が書いた小説の内容を覚えていないのはおかしい」ことから、真相が突きとめられます。

守屋 聞いているかぎり、ちゃんとしていそうですが。

丸茂 でも読者には、その小説の中身を読むすべがないんですよ。

守屋 なるほど

丸茂 作中人物にはわかるかもしれないですが、読者はそうではないので、これは証拠としては弱いです。それ以外の筋はよかったというと褒めすぎかな事件を解決したときに幽霊の少女の悔いがすこし晴れる、感傷もありつつ後味よいストーリーに仕上げようとする意気込みは感じました。ただ、まず文章もキャラ描写もそこそこ以上のものではありません。キャラも文章もフェアネスも、総合的な向上を目指していただいて、またミステリを書いてください! 

新人編集者のフェティシズムが明らかに!?

守屋 布施さん担当の『この世に無いモノでも探し出すモノ探し専門探偵真島輝石の調査報告書1『東名高速247キロポスト』』も幽霊ものでしょうか?

布施 こちらは都市伝説ものでした。今回読んだなかでは一番おもしろかったです。大きな構成として、次の3種類の文章が織り交ぜられながら進行するミステリです。

① 都市伝説として流通する「架空のホラー小説の上巻」

② 探偵助手が記す「報告書」

③ ②に入る探偵の「注釈」

布施 これら3種類にさまざまな人の思惑が交ざりながら物語が展開し、謎が明らかになる構成でした。リズムがよく、読みやすかったです。探偵助手は喋ることができない女の子なので、文章を打つのが速い設定なんですけど、それもかわいい。

丸茂 かわいいよね、報告書のなかで探偵にツッコミを入れてて。

布施 そうなんです! 報告書と注釈でのやりとりで探偵と探偵助手がいちゃつくんですが、これがおもしろい。書き込みを通じて、探偵から見た探偵助手の無防備な振る舞いとか、思わせぶりな仕草が描写されるのですが、それが新しい形でのクーデレというか。無関心さの隙間で、かわいげがこぼれちゃう感じでドキドキしました。

片倉 作中の書類のなかで登場人物の応酬があるんですか?

布施 はい、SNSのリプライ欄をずっと読んでいる感じです。ただ、せっかく文章が3種類に分かれているのに、その切り替わりがわかりにくいのがもったいない。投稿データではフォントを変えてくださっているんですが、文章の書きかたそのもので直感的にキャラクターの描き分けを理解させるところまで持っていってほしかったです。

丸茂 あとシンプルに読みにくいですよね。

守屋 謎についてはどうでしたか?

布施 探偵助手は、過去に東名高速道路で起きたひき逃げ事件の被害者で、幼少期に家族を失っています。その犯人を探し出すために、実際の事件を題材としたホラー小説(文章構造①)をバラ撒いていた。これが明らかになる展開がおもしろかったです。一方で、せっかくの文章構造やキャラクターの外連味を、理科の実験じみた地味な作中トリックがスポイルしているのがもったいない。

岡村 ミステリとしての評価は僕にはあまりわからないんですが、今回読んだなかではこれが一番エンタメでした。探偵助手がとくにいいキャラをしています。

丸茂 探偵よりもキャラが立ってますよね(笑)。

岡村 そうそう。あと、この作品には編集者が絡んだネタがありますよね。

布施 ですね。そもそもこの物語は、編集者が探偵にホラー小説の下巻を探すよう依頼するところからはじまります。上巻しかないから下巻とともに出版したいと。このホラー小説は探偵助手が書いたものなのでそもそも上巻しか存在しないんですが、最後にこの投稿作自体が下巻だと明らかになります。

岡村 だから、もしこれを実際に出版するんだったら、帯やコピーを作中のものと合わせるとおもしろそうだと思いました。

布施 わかります! ただ、そうした構造のおもしろさを追求するのであれば、作中作の著者である「アキラ」をペンネームにするくらいはしたいですね。

丸茂 水を差してしまいますが、「実はこの本こそが作中作でした」オチはミステリやホラーでは珍しくないアイディアなので、それだけで作品を支えるほどではないと思います。そして、それ以外の要素が弱い。たとえばホラー小説はさほど読まれずに書いているのではと感じました。作中の怪現象がぜんぜん怖くないんですよね。

布施 たしかに

丸茂 ならばミステリとしてよく考えられているのかというと、これも違う。アイディアのよさは生かしつつ、総合的な成長が必要だと思いました。メタ的な仕掛けは何回もできるものではないので、その点からも飛び道具に頼らない地力を磨いてほしいです。

守屋 とはいえ、布施さんはこの作品をジャンル小説として評価したわけではないですよね?

布施 そうですね、一番の魅力はキャラクターのよさを見せる文章技巧でした。すごく可能性のある、挑戦していく気概のある方だと思ったので、また魅力的なキャラクターを読ませてください!

なんて読むでしょう?

磯邊 『病照隔離特区桃京』は私が担当しました。タイトルにも入っている「病照」、なんて読むと思いますか?

布施 「ビョウショウ」でしょうか

磯邊 正解は「ヤンデレ」です。

片倉 ちょっとおもしろい(笑)。

磯邊 舞台はヤンデレだけが隔離された特区《桃京トウキョウ》にある学校。そこで起こるヤンデレたちの事件を描いた作品です。

丸茂 めちゃくちゃ強烈ですね、気になる!

磯邊 主人公は、ヤンデレと診断され《桃京》に収監された15歳の少年。彼はこの特区でも周りと馴染めずにいましたが、ある少女と出会って救われます。彼女は学園の生徒会長であり、遍くヤンデレの救済を掲げるカリスマでした。会長の近くにいるために主人公は心機一転、生徒会に入ります。しかしその矢先、彼女はヤンデレたちの救済という使命を主人公に託し失踪してしまう。彼はなんとか会長の代理を務めようとしますが、誰にも信頼されず空回りするばかり。会長が戻ってくることを妄信し、周囲で起こる事件を解決しようと奮闘する、という話です。

守屋 世界観のリアリティレベルで連想したのは『めだかボックス』、『ダンガンロンパ』など。ストーリーの印象が近いのは杉井光さんの諸作品でしょうか。愚直にがんばるようでいて、やっぱり彼もヤンデレなので考えかたがぶっ飛んでいるのがよいです。たとえば、「自身の恋愛について公開したがる男とどうしても秘密に交際したい」という悩みに対して提案する解決策は「正式な交際相手をあてがってから、自分が不倫相手におさまることで男の口をつぐませる」。あと小道具や言葉のセンスがいいですよね。

磯邊 いただいたあらすじも「世界から迫害されしキャラクター、ヤンデレ」からはじまっていて、こういうちょっとした言葉がおもしろいです。

守屋 ほかにも、能力が高すぎて公的な接触が禁じられている3人の生徒《非客ひかく三原則》や《病照裁判》にくすりとしました。

丸茂 《病照裁判》!?

磯邊 この特区には普通の裁判以外に、《病照裁判》があります。ここで勝訴すると《愛殺アイサツ》、すなわち「愛のために相手を殺してよし!」という権利が認められ、原告側にはあらゆる凶器と、《愛殺》執行までどんなルール・法規にも縛られない特権が与えられます。一方で被告人の返り討ちも合法になります。ヤンデレどうしのドロドロの殺し合いが、ここでは娯楽になっています。

片倉 異常だ

守屋 《愛殺》がどのくらいなんでもありか、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』や『キルラキル』を連想したといえば伝わるでしょうか。ほかにも、誰にも惚れていないヤンデレを支配できる声をもつ男や、ヤンデレとしての力が暴走してキングプロテアのような体格と膂力を得た女など、倒すべき敵も魅力的です。

磯邊 ヤンデレにまつわる言い回しもあらすじもおもしろいと思って読み進めたのですが、推薦作にあげなかったのは、ちょっと右肩下がりな印象だったからです。セリフがはさまるところはよいのですが、地の文だけで長く続く部分があり、もたれているように感じました。また、バグかと思うのですが、改行がまったくないまま10ページ以上続いたところは読みにくく、そのせいでおもしろさが減ってしまうのがもったいなかったです。

守屋 とはいえ、戦闘など三人称的に描くシーンは臨場感があり非常によかったです。今後は内面描写にも力を入れてほしい。あと、最後の章で視点人物を切り替えるのはうまくないと思います。もしやるにしても、それまでで彼をもっと魅力的に描くべき。設定も物語も半端になってしまい、本編が別にある作品のスピンオフだけを読んだような読後感が残りました。ちょっと方向性が偏った例になってしまいますが、突飛なガワで王道のストーリーを貫いた『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』や『抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳わたしはどうすりゃいいですか?』などを参考にしてほしいです。

自分にあった武器を

片倉 自分が読んだなかでは『羊じゃらし』が一番おもしろかったです。主人公の女芸人が、コンビ解散という試練を乗り越えて新たなパートナーを見つけ、スターを目指すシスターフッドお笑い青春小説です。

布施 さわやかそうなお仕事小説ですね。

片倉 なんですが、後半まで読み進めるとサスペンスの様相を呈してきます。主人公の成功のすべてが、新たなパートナーが仕組んだ台本どおりだったことが明らかになるんです。このパートナーがザ・サイコパス。彼女にも元相方がいたんですが、とある事情でコンビ解散に追い込まれ、新たなコンビを組むために主人公が元々やっていたコンビに目をつけます。主人公を手に入れたいと思ったパートナーは、主人公の元相方に執拗なストーカー行為を繰り返して精神的に追い詰め、コンビを解散に追い込みます。そこで路頭に迷った主人公に救いの手を差し伸べるかのように、「私とコンビを組みませんか」と言うんですね。後半は、パートナーの陰謀に気づいた主人公がそれを阻止する話になっていきます。

布施 すごいですね。

片倉 さらに、その途中で明かされる、パートナーのコンビが解散した理由もひどいんです。彼女の前の相方は肥満キャラとして売り出されていたんですが、過食を強いられ続けたために身体が故障し、漫才のできない身体になってしまったというんです。この箇所、ギャグなのかシリアスなのか判断がむずかしいところです。

守屋 話を聞くかぎり悪くなさそうですが、よくある展開ではあります。サスペンス要素・お笑い要素・青春要素の質や兼ね合いしだいでしょうか。

片倉 その点、この作者さんはサスペンスに関しては一定の水準以上には達している方だと思いました。ただ、今回選ばれたお笑いというテーマはそもそも小説との取り合わせが悪く、そこが大きな減点要素です。小説で読むコントは間合いやリズムがなく、おもしろさが大きく損なわれてしまうんです。この作品ではお笑い描写もかなり綿密に描かれているので、なおのこともったいない。ただ、サスペンス描写の才能はある方だと感じましたので、ご自身の得意分野に合わせて、より持ち味を活かせるテーマを考えてまた応募していただけるとうれしいです。

力作には読ませる力も必要

見野 『ヒモノ女子は優雅に腐る』は腐女子ものです。作者のBL好きがとても伝わってくるところがよかったんですが、物語のテーマやゴール設定が多すぎるため、話が非常に長くなったうえにまとまらなかったのが敗因でした。

守屋 どんなストーリーだったんですか?

見野 舞台はBL好きなヒモノ女子が編集長の編集部。そこにイケメンの編集者が入ってきます。お嬢様主人公に振り回されつつも、執事や小説家たちが周囲のイケメンと次々にBL作品のお約束的な展開になっていき、BLというジャンルを受容していくところはわちゃわちゃとコメディタッチで楽しく読めました。ですが、だんだんと目的が壮大になっていって、お話が散漫になってしまった印象です。

丸茂 まあ我々の業界の話なので、リアリティはちょっとからく評価してしまうかも。ちなみにどれくらい壮大なことを目指すんです?

見野 新人の編集者がBL専門出版ということに戸惑いながらも、いろいろな経験からBL作品の編集者としての自覚を持つお仕事小説的な展開。そこから書店爆破事件に巻き込まれて推理合戦をするミステリ展開、さらにそれだけのとどまらず、「天下を取ってやるぞ、電子ブックで!」「BL図書館を渋谷駅前ビル内に作るぞ!」「海外ブックフェア出展から世界に進出するぞ!!」「少子化の原因をBLと決めつける官僚の弾圧と戦うぞ!」とトンデモ展開を何個も勢いで突破していくのがおもしろいんですが、とにかく全体の長さがすごくて。

守屋 36万字くらいありますね。

丸茂 だいたい3冊分ですね

見野 1章2章はお仕事小説、3章はミステリ、4章では世界進出し、5章はBL狩りを断行する官僚との闘争と、本当に3巻分くらいのボリュームでした。伏線回収がしっかりとされ、書き手の熱意はすごく伝わってきます。世界観はとてもよかったので、たとえば各章をもっとコンパクトにして引きを作ってつなげる、テーマの絞り込みをして切り分けるなど、最後まで読むモチベーションを作ることも想定してお話をまとめてみるとよいのかなと思います。

令和に輝くヒロイン像を

守屋 僕が担当した『ヴィシュタイン・コピーライト』も約38万5000字と長大でしたが、こちらはほぼずっとだれずにおもしろかったです! 蒸気機関が異常に発達した20世紀初頭のイギリスが舞台の、スチームパンク×音楽×冒険活劇もの。この世界でなぜ蒸気機関が発達したかというと、ヴィシュタインというレオナルド・ダ・ヴィンチのような万能の天才がいたから。オーバーテクノロジーとも呼べる彼の遺産《ヴィシュタイン・コピーライト》をめぐって、巨大ギャング「ハイリップファミリー」にたった4人の若者が挑みます。

布施 複数主人公なんですか?

守屋 そうですね。しかもちゃんと全員キャラが立っています。たったひとりの家族である妹をギャングに殺されて復讐に燃える男、アドニス。遺産を相続する資格をもつためギャングに追われる天才ピアニストの少女、アンジェラ。アンジェラと同い年の秀才ピアニスト、そしてギャングのボスの孫娘であり、遺産を手に入れることで組織を乗っ取り更生を目指すマーベル。貴族の長男でありながら蒸気機関エンジニアの顔を持ち、父親をギャングに殺されたことからアドニスに協力するハーディ。この4人がギャングの追手を撒いたり音楽で人助けをしたりしながら、遺産の隠された城まで旅をする、という筋書きです。

丸茂 ちょっととっつきにくそうな題材と書きかたな気がしますが、ちゃんとおもしろかったんですね。

守屋 スチームパンク要素は『プリンセス・プリンシパル』のような外連味のあるもので、馬力の大きなカーチェイスなどが見どころでした。キャッチーな部分だと、アドニスに恋するアンジェラとマーベルの関係性がよかったです。ふたりははじめてできた同い年の友達であり、はじめてできた尊敬しあえるピアノのライバルであり、そして、はじめてできた恋敵。テイストとしては『冴えない彼女ヒロインの育てかた』の霞ヶ丘詩羽と澤村・スペンサー・英梨々の関係に近い印象です。

丸茂 しかし推薦作にあげなかったわけで、どこがだめだったんですか?

守屋 そのヒロインたちに関する表現や会話文がところどころ古臭く感じられてしまったんです。はしゃいでいるときの語尾がすべて「っ!」であったり、男性と絡むと途端に類型的な振る舞いになってしまったり。

岩間 たしかに、会話文は「文体であり、肉体である」とおっしゃる作家さんもいるほど、特に選び抜いて表現すべき部分なので、選考のうえでは重要な欠点になりますね

守屋 基本的に文章が上手でキャラも立っている分、そこが特に引っかかりました。ただ、大枠としてかなりおもしろかったので、ここを直せたらよいものができるんじゃないかと思います。声をかけてみたいんですが、太田さん、よろしいでしょうか?

太田 いいんじゃないですか。

守屋 ありがとうございます!

おわりに

太田 ここだけの話、賞金がですね高額になっています!

岡村 なんと!

太田 なんだかんだでけっこうな額になってしまっているので投稿者の方は各自ご確認ください。賞金に目が眩んだ才能ある人の投稿を待っています!!

一同 お待ちしています!

守屋 最後に、本新人賞では紙ではなくデータでの原稿投稿をお願いしています。ご投稿の際には、応募規定を今一度ご確認いただければと思います。

1行コメント

『ガルガンチュア! ~ベルグベウ街、幽明遁走曲~』

世界観を描く力を感じました。ただ物語そのものと、話の本筋に入るまでが長すぎました。(岡村)

『サクラ・クラッカー』

独特な音楽要素のある世界設定はキャッチーというより突飛な印象のほうが勝ってしまいました。現実離れした設定がある一方で戦闘が地味で、サスペンス要素もその穴を埋めるほどのおもしろさではなく。ハードボイルドな雰囲気を大事にされたいのであれば、それがストレートに生きる(異能)バトルものを構想してみてはいかがでしょう。(丸茂)

『佐藤優理也の野望』

ミリタリー描写は真に迫っていて、読ませる力がありました。ミリタリーと政治のリアリティラインを合わせることにもうすこし力を入れていただくと、より自然で違和感のないストーリー展開を描くことができると思います。(片倉)

『告白は最大の防御』

この物語で読者に何を見せたいのか、定めてください。(守屋)

『淫プテーション』

キャラクターの描きかたに投稿者さんの個性を感じて好感を持てました。書きたい内容がハッキリしている点も、とてもよいと思います。それ以外の部分の粗が気になり、もったいないと思いました。(岩間)

『天下無敵の片思い』

伏線回収まで全体構成が練られているのを感じました。ただそのせいか、ひとつひとつのエピソードがすでに見えているゴールのためのものといった感じが抜けず、もったいなく思いました。(見野)

『ユキ往きて』

文章はこなれて読みやすく、文献をよく調べられていることがわかります。しかし、現代のエンタメに比しても負けない刺激がなければ、時代小説で戦うことはむずかしいと思います。(守屋)

『岸壁の令嬢』

登場人物の話しかたや設定からすこし時代が昔なのかなという印象を受けましたが、時代設定に触れた記述がなかったので読み進めるにあたってやや悩みました。全体構成はすっきりまとめられていてよかったと思います。ただ、殺人事件の真相や真犯人、登場人物のキャラクター性などに目新しさや意外性、突き抜けたポイントがないのは残念でした。(見野)

『好きですと、言えずに』

好きになった相手を殺したくなる二人が出会った不可能性のラブストーリー。このドラマの設定に「特別支援学校」を扱うのはいかがなものでしょう。この作品にかぎらず、特別支援学校を扱う傾向が応募作にあることが気になっています。作者の都合のために障害を取り上げているように見えると、読者の信頼を損なうと思います。(持丸)

『マイナー・マイナー・マイナー』

試合部分が丁寧に描かれていたり、キャラクターたちに変わった異名をつけられていたりするところから、マイナースポーツのおもしろさを表現されようとしていることは伝わってきました。ただ、丁寧なあまり全体を通して説明的になってしまっている印象でした。初見の読者でも、作品のおもしろさが伝わりやすい情報量や観点はなにか、再度検討いただけたらと思います。(磯邊)

『真田乙女十勇士』

このタイトルと戦国時代という舞台設定でどうしてこういう内容になるのか、ちょっとよくわかりませんでした。(岡村)

『凪の創造者』

丁寧な文章のSFで読んでいて気持ちよかったです。いたずらに複雑な設定や構造を持ち込むことなく、それぞれの人物の感情を起点として展開するので読みやすいのですが、新しさがあるのかと言われるとすこし厳しい評価にならざるを得ませんでした。また、設定がわかってくるまでの序盤部分が、どうしても盛り上がりに欠ける印象で、もったいないと感じました。(布施)

『星追いリフレイン』

「すこしふしぎ」な設定を生かした導入が文句なしに魅力的でした。が、率直にいうと中盤でだれた印象です。メインの登場人物を絞り(森山さんはもっとウェイトを下げていいと思います)、情報収集パートにも主人公・ヒロイン自身の物語を絡め、現象の解明から物語のピークがなめらかにつながるようにすると、ストーリーの密度を保ちながらこの作品の魅力が伝えられると思います。《青春ブタ野郎》シリーズや《今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。 》シリーズを参考にしてみてください。(守屋)

『鐡の旋風号』

書きたい題材がハッキリしており、読み応えのある作品でした。エピソードを取捨選択し、エンタメとしての見せ場をどう作るか検討することで、さらに完成度の高い作品になると思います。(岩間)

『能力者戦争』

どの登場人物も名前や能力名にルールがあり、凝っていて、こだわりを感じました。しかし、それが読みづらさの一因になっているように思います。物語の設定や世界観を広く設計できるのはよいですが、一冊の本としてまとめるにあたって、どこからどこまでを読ませるのかを意識できるといいのではと思います。(見野)

『我が家は奇跡の寄せ集め』

丁寧な書き味なのですが、とても小規模で起伏に欠けるドラマにとどまっているため、読みたいと読者の興味をそそることがむずかしい印象でした。キャッチーさがほしいです。(丸茂)

『銭の虫にも武士の魂 ~全裸で小判の上を転げまわった男~』

しっかりとした作品でした。ただ作品かつ商品として成立させるには、極論、読み手に中身を読む前に興味を持たせるくらいの強いフックを提示する必要がある、とすくなくとも私は考えていて、そこは弱く感じました。(岡村)

『花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ・デートによるカラフル事件~』

世界の情報が「色で視える」という設定、おもしろいと思います。キャラクターたちにしっかり個性はあるのですが、全体的に口調などがやや古く、日本出身のキャラクターもいるとはいえ違和感がありました。そのためか、表現されたいことはわかるのですが、話の流れにすこし置いてけぼりになってしまう印象でした。また、謎や事件の真相にもっと突き抜けた意外性がほしかったです。(磯邊)

『黄泉の時計』

主人公と探偵役にあまり魅力や共感を感じず、かなりウェイトが大きいふたりの恋愛模様が、展開としてはそれなりに派手さが用意されているミステリのラインから浮いている印象でした。トリックを発想できる方だと思うので、オーソドックスに「魅力的な名探偵(と助手役)」×「密室殺人(などの興味を引く不可能状況)」×「意外な真相」の三題噺に取り組んではいかがでしょう。(丸茂)

『CHOLERAの終わり』

描写が丁寧で読みやすく、それぞれのシーンがスッと頭に入ってきました。しかし全体を通じてすこし散漫な印象を覚えました。「あらすじ」の時点で作品のねらいと展開が整理できているかを繰り返し検証するなどして、作品の個性を自覚できるとよいと思います。(布施)

『おもちゃの国のピエロ』

とても高い熱量を感じる作品でしたが、自分の書いた文章を誰かが読むこと、そしてひとつの文章から読者がイメージを膨らませることに対する想像力がすこし欠けているように思いました。とても若い方だと思うので、まずは純文学からライトノベル、ホラー映画や音楽など色々なジャンルと方法の物語に触れながら、それらを分析してみてほしいです。(布施)

『聖ちゃんと私。』

同じ内容を三人称の語りで書けない場合、そのストーリーは弱いです。そして、バックストーリーが弱いキャラクターが魅力的に映ることはほとんどありません。まずは何を描きたいのか、作品のコアを考えてください。(守屋)

『世界で二番目に悲しいラブソング』

書き手のセンスと力量を感じました。恋愛描写が魅力的で、構成も巧みだと思います。それだけに、既視感のあるキャラクターや安易な設定が惜しいです。この作品ならではの意外性を細部まで考え抜くことができれば、さらにおもしろくなったはず。(岩間)

『群青』

個性的なキャラクターやテンポ良く進んでいく会話・展開は、中盤まで楽しかったです。ただそれ以降からまとめまでの話の流れは、矛盾はしていませんがあまり読んでいてしっくりくる内容ではなく、もっとカタルシスがほしかったです。(岡村)

『キルシュフェアリエ~花死神希譚~』

書き慣れた筆致だと感じますが、恋愛模様をコアに据えるにしては描写が古いです。いま受けている作品の書きかたを意識的に取り入れてみてください。(守屋)

『ドリイ - memento mori -』

ダークな世界観ならではの見せ場が多くあり、おもしろかったです。が、筆致のドライさに比して、ストーリーが冗長にも感じられました。本編を2/3ほどに圧縮、カットバックのパートは独立させ、共通の世界観で視点人物を変えながら連作短編としてひとつの大きな物語を描くと、よりおもしろかったかと思います。白井智之さんの諸作品を参考にしてみてください。(守屋)

『IMA 贖罪新生創世記』

設定は熱く、厚く、構成されていますが、どうしても文章が読みにくいのが気になりました。普通名詞を固有名詞として扱う操作は言葉遊びとしてはおもしろいですが、もう一歩踏み込んで、描写の執拗さなどに序盤から緩急を作ると、読者を引き込めるのではないかと思いました。(布施)

『「戦闘狂」という名の病気を治療する病院で』

主人公が背負っている過去と現在、それに病院のなかでどう立ち向かい、出会いや交友から何を得て外の世界に飛び出すのか、物語の大事なところが今ひとつ抽象的で伝わらない気がしました。(見野)

『巫女レスラー』

レスリング要素が奇抜に感じました。退魔アクション・異能バトルものとしてストレートにかっこいいものを目指したほうが可能性があると思います。(丸茂)

『WhoかWhyか』

前回の投稿作と比較して、今作はそもそもの謎や展開が地味なのが残念でした。真相が気になる魅力的な謎の提示と、合理的な(大方の読者が納得できる)論理による意外な解決、これらを両立できてようやくスタートラインに立てると思います。キャラ描写や文章もかなり向上していただかないと、候補作として推せないです。次回はキャラも一新した完全新作をご応募いただけるとうれしいです。(丸茂)

『ダークメルヘン女子小学生讃美曲 少女流星きよきこのよる』

この小説はヒロインの魅力を楽しむキャラ小説だと思って読みましたが、残念ながら突き抜けたキャラの魅力を感じることがむずかしかったです。また、設定の情報開示は必要十分に抑えないと読者への負荷になってしまうので、できるだけ余分な情報は削ぎ落とし、読みやすい文章を心がけていただければと思います。(片倉)

『奇才カハラの文化系万能』

過去何度かご応募いただいておりますが、いずれもテーマが似通った傾向のものです。このまま今の方向で努力を続けるだけでなく、一度テーマやジャンルを変えて新しい作風を開拓されたほうが創作の可能性が広がるのではないでしょうか。(片倉)

『愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様』

主人公の苦境を丁寧に描いたのに比べると、結末への集約の仕方がやや駆け足でわかりにくかったように思います。(見野)

『先見の林檎』

とりあえず書き切ったという印象です。大勢のシーンで、役者全員に順番にセリフをしゃべらせているようなまだるっこさがありました。ところどころ、三人称に一人称視点が混入しているように感じるところがあり、文体を整理できていない印象です。この主人公と設定には魅力がありました。(持丸)

『ナカモトが動いた』

ビットコイン関連の知識説明が過剰で、読者を置いてけぼりにしていました。丁寧な説明はよいのですが、一定のラインを越えるとノイズになってしまいます。たとえば序盤の、服部のナカモト送金理由を探るシークエンスの記述は複雑すぎます。ストーリーの入りには読者に読み進めさせるための工夫をしてください。群像劇を描く力はあると感じました。(築地)

『死ねない少年はきらきらアイドルと鯛焼きを食べる』

物語の設定がわかりやすく、おもしろく拝読しました。今回のご投稿作品はキャラクターが表面的で物足りなさを感じたので、次回は投稿者さんだからこそ作れるキャラクターを意識していただくと、さらに魅力的な作品になるのではないかと思います。(岩間)

『点と線と面』

新本格の空気を感じる外連味がありました。しかし、ミステリの真相には読者のハードルを上回ることが求められるのであって、ハードルの下をくぐるようなやりかたはおすすめしません。(守屋)

『二重の空』

現実を不可思議な現象がオーバーライドしていくさまを描く文章力は申し分ありません。テーマも現代的で訴求力があります。短編にまで切り詰めてまとめ上げれば、アイディアがビビッドになり、物語全体をブラッシュアップできると思いました。(守屋)

『怪獣仕掛人と銀色の巨人ルクスルナ研究所殺人事件

描かれている舞台・状況があまり伝わってきません。また、非常に作者に都合のいい世界になっています。なぜキャラクターたちがそう動くのか、なぜそんな施設があるのか、作品に対してツッコミを入れながら推敲をしてみてください。(守屋)

『御華嬢ノ護衛者(ごかじょうのごえいしゃ)』

物語の導入部分によってお話が変に複雑になってしまっている気がしました。独自の世界観を構築しようという気概を感じましたが、現状は読みにくさに直結してしまっているので、ふりかける割合を調整してみてはいかがでしょうか。(見野)

『虚ろなサーカス』

あらすじがおもしろそうで期待して読みはじめました。ただ、実際に読んでみると冗長な印象を受けました。描写は控えめにして簡潔な文体を目指していただければ、よりストーリーの魅力が活きた小説になりますし、何よりこの作品の雰囲気には端的な記述が合っているように思われます。(片倉)

『神と呼ばれ、魔王と呼ばれても』

しっかりとした設定があるところはよいと思います。ただ地の文での状況説明が多く、主人公に感情移入ができないまま物語が進んでいくため、物語の世界に入り込みづらくなっていました。序盤で主人公の魅力を伝えることや、わかりやすく目的を提示することが必要だと思います。(磯邊)

『たべちゃいたい』

人を選ぶと思いますが、こういったキャラクターのノリのよさと勢いで突っ走る物語は、私は好きです。ただところどころ粗さがかなり目立つので、よいところはこのままで、構成の完成度を上げたりストーリー上の驚きをもっと生み出したりしてほしいです。(岡村)

『はじめての都市計画』

自身のご経験を活かして、実際の建築家の方について描かれる視点はよいと思います。ただ、最終的な目的がわからないまま話が進んでしまうので、彼のことを知らない読者を置いてけぼりにしてしまう印象でした。早い段階でわかりやすくテーマの提示があるとよいと思います。また、冒頭の山本治兵衛さんの紹介は説明的になってしまっているので、初見の人にも小説として楽しめる描きかた、おもしろさの伝えかたが必要だと思います。(磯邊)

『いのちがエロい!』

普遍的な恋愛譚をポエティックな隠喩で語る試みですが、この形式でなければ描けない内容だとは思いませんでした。第一に、エンタメを志向するのであれば「わかりやすさ」に勝るものはありません。第二に、ガワに凝るのは内容で勝負してからにしてください。(守屋)

『僕たちには嘘がいる氷のクローンと過ごした九年

筆力は高いと思いました。しかし、エモーショナルな物語を読ませる際に、全体を通して文章のテンションが変わらないのはネックになります。この物語の方向で書くのなら文体を意識することを、いまの筆力を生かすのなら、読者をわくわくさせるような設定そのものに注力することをおすすめします。(守屋)