2020年春 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2020年5月12日(火)@星海社会議室

次回応募検討者必読! 創作のヒント満載

新人加入! しかし議論は消沈!?

太田 FICTIONS新人賞座談会も今回で29回目です。

岡村 今回から新人が参加します。まずは自己紹介をしてもらいましょうか。

岩間 はじめまして。今年1月に合流した新人の岩間です。主婦で、子どもを保育園に預けながら働いています。エンターテインメントが大好きでこれまで出版・音楽・ゲーム業界を横断してきました。この分野の経験は浅いですが、人の心を動かすという部分は同じだと思うので、今回は私なりの視点で評価できればと思います。

丸茂 (主婦初めてお子さんがいる方あ、広報の築地さんもパパだった)

岡村 頑張ってください。さて、今回の投稿数はどれくらいでした?

岩間 22作品です。前回より減りましたが、今回も新しく投稿してくださった方が多数いらっしゃいました。

太田 新しく投稿してくれる方がたくさんいるのは嬉しいことですが、みなさん、今回はあまり表情が晴れやかではありませんね?

石川 実は今回、残念ながらあがった作品がひとつもなかったんですよね。もういっそ、前代未聞の「全て1行」にしてしまうとか

岩間 それは寂しい! 今回の応募作を元に次回の応募者さんが活かせるようなお話をするというのはどうでしょうか?

丸茂 い、今までも我々はそのつもりで座談会をやってきたと思っていたのですが

石川 新人からの手厳しい洗礼を受けていますね

岡村 まあまあ。気を取り直して、はじめましょう!

一同 よろしくお願いします!

2020年のイタい青春小説

石川 まずは僕からですね、『僕らの世界』。19歳の厭世的な主人公が公園で自殺をしようとする場面から始まります。しかしすんでのところで謎の少女が現れて主人公は自殺を思いとどまり、二人は親密になっていきます。ただしその交流は幸福感だけがあるものではなくて、ヒリヒリとした「終わり」の予感をまとったものでもある。そして、やはりというか、最終的にヒロインの死という運命からは逃れられなかったものの、二人で過ごした時間があったことは確かだから、それを胸に主人公はこれからも生き続けるという、いわゆる「青春の痛み」系の物語です。この方が何を書きたかったのかもわかる。何が好きなのか、何に影響を受けてきたのかも完璧にわかる。ただかつて圧倒的な盛り上がりを見せたジャンルの系譜にあるこの手の物語を2020年にやろうとするのなら、ひねりもほとばしる情念も足りなかった、というのが正直な感想です。

丸茂 ほとばしるものなくして、「僕が好きなセカイ系」はなかったと思っていますよ!(前のめりに)

石川 どうも全体的に、悪い意味で斜に構えてしまってるんですよね。俺はセカイ系も知ってるし上遠野かどの浩平も知ってる、だから作中で自己言及的に名前を出しちゃうし、ドラッグとかセックスとかも書いちゃう、みたいな。こういう作品の主人公は斜に構えがちだと思うので、それ自体がダメだと言ってるわけじゃないですよ。ただ、その斜に構えたイタさが読者に一筋縄ではいかない共感や反発を生んだり、拭い去れない悲しみを強く刻み込んできたりするわけじゃないですか。それが足りないというか、ただ鼻につくだけになってしまっているというか。

丸茂 鼻につく感じに見えてしまうと、もったいないですよね。 

石川 そうなんですよ。だから、ヒロインの死やそれを受けての結末にもノリきれなかった。文体もちょっとはぐらかしすぎかなと思いました。「今」の文体ではない。

丸茂 ところで、ヒロインはなんで死ぬんですか?

石川 難病が原因です。

丸茂 超定番! だがそれ故にその点は問題ないと思います。ヒロインが死んでしまう感傷を描く作品は人気がありますし、言ってしまえば王道のエンタメジャンルのひとつです。

石川 それ自体がNGでは全くないんです。ただ、そこに至るまでのこの作品を構成する要素が、素直に感傷を受け止めさせてくれない。

丸茂 冗談めかしてしまっていると?

石川 そうそう! そうなんです! 需要も書き手の趣味も否定する気は全くありません。でもやるからには、何かひとつでもあなたにしか書けないこだわりとか新しさをまっすぐ見せてくれよ! と思うんです。

丸茂 ただ、設定的な妙味や「泣ける」小説というものへの屈託にこだわってほしいと思うのは、僕や石川さんくらいではないですかね。今の流行りはシニカルさとかを差っ引いて、切なげな出来事を淡々と真摯に語っていくテンションのように見えます。だからこそ、僕個人としては設定に凝ったり、トリックを仕掛けたり、死を感傷的に扱うことへの抵抗や自覚を託した作品を送り出したいと思ってます。ただヒロインが難病で死んでしまう話が素朴に喜ばれて、売り上げを伸ばしている事実は否定できません。なので、僕の好みは置いておいて、そういう方向性はありですよとは言っておきたいなと。

石川 この方も、ストレートに泣ける難病ヒロインものから少し外したところをやりたいんだろうなとは感じました。

丸茂 心意気には共感しますけどね。

太田 かつて熱い時代があって、それが過ぎ去ってしまったのだという喪失感をからめて青春を描くのは最近読んだものだと漫画になるんだけど、横田卓馬さんが作画 、伊瀬勝良さんが原作の『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』、よかったよね。「マジック:ザ・ギャザリング(M:TG)」の。

石川 僕もめちゃ好きです。

岡村 僕はその作品は好きすぎて、読んでいて恥ずかしくなってくるんだよね。

太田 おっ、岡村さんもそういうところあるんだ。ちょっと意外だった。

岡村 主人公がPIKOのTシャツ着ているところとか読むと、もはや共感性羞恥っぽくなります。だけど好きだから読むけどね!

石川 僕は世代としては若干下なんです。それもあって普通に楽しめてしまう。岡村さんはドンピシャですよね。

岡村 そうなんだよ。世代的に直撃すぎて、一歩引いて俯瞰的な立場で読めないんだよね。

丸茂 「あの時代の青春」みたいな感じでしょうか?

岡村 そうそう。自分はピンポイントな読者でそれは良くも悪くも「濃く」感じてしまうんだけど、みんながおもしろいというのもすごくよくわかります。

太田 うまいよね。作中の音楽とかのセレクトまで含めてね。だからやっぱり、そういうふうに描くんだったら、あの頃は大好きな時代だけど、それはもうすでに終わってしまったんだという諦念がないと愛しているけど、その愛はもう終わったんだっていう何かがないと、なかなかあの時代を振り返ってという良い作品にはなりづらいんじゃないかな。あの作品は、伊瀬さんと横田さんの味が両方出ていると思うんだけど、「僕、マジック:ザ・ギャザリング(M:TG)を今も現役でバリバリ毎週やっています!」 とかな感じだと、ああいう感じにならないはずなんだよ。滅んでいくものとしての何ものかだからこその魅力、みたいな。良かったら、参考にしてください。

慎重さが求められる問題、どう描く?

岩間 『死にたがりの生きたがり』に関しては、タイトルを拝見した際には実のところあまり魅力を感じなかったのですが、読後の評価は一番でした。

丸茂 タイトルは大事ですけど、その印象を覆すくらいの内容だったと。

岩間 評価が一番の理由は、王道少年漫画を彷彿ほうふつとさせる設定の親しみやすさと、登場人物たちの淡い恋、友情、成長、展開です。最初から最後までずっとおもしろく、心がときめきました。たとえるなら、江戸時代版『ジョジョの奇妙な冒険』、『鬼滅の刃』という感じ!

丸茂 ということは、吸血鬼もの?

岩間 うーん。吸血鬼ではないのですが、人外の者と接触することにより、普通の人が人外の存在になり特殊能力を得る設定です。

丸茂 なるほど、悪く言えばよくある、良く言えば王道。

岩間 物語は、王道部分がありながらも、少し驚きがあって本当に楽しめました。舞台は、江戸時代の日本。身分が低く親兄弟もいない、物乞いをして生活する少年が、「赤目のばけもの」との対峙をきっかけに、自身も赤目が特徴の身体能力が飛躍的にアップした人外の存在に変異してしまうというものです。

丸茂 俺TUEEE系の気配がしますね、いいじゃないですか。

岩間 そうなんです。人外の存在に変異すると目が赤くなり、身体能力がアップするのですが、進化し続けると元が人間とはわからないくらいの赤目独特の容姿になります。主人公らの住む地域で、赤目としての更なる強さ、進化を求めて罪のない人を殺す殺人鬼や、その殺人鬼を追う人々から理不尽な理由で殺されそうになる赤目になった天涯孤独の少年と、その少年を助けた縁で行動を共にするようになった少女が淡い恋愛関係になりながら自分たちより圧倒的に進化した赤目を倒すまでのお話です。

太田 岩間さんのあらすじを聞く限りでは、すごくおもしろそうですね。

岩間 シリーズ化にも向いている内容だと思いました。荒削りな点も多く、すぐに商業出版ができる内容ではないと思いますが、たとえばこの作品を他に持って行かれて、他で売れたら悔しいと思いました。応募者さんのセンスや可能性を感じます。

丸茂 えっ! そこまで言うならあげましょうよ!

岩間 気になったのは身分制度の書き方です。というのも、主人公、ヒロインともに低い身分であることを前提に話が構成されているんです。冒頭で、江戸時代の身分制度を丁寧に説明し、衣食住の描写からしっかりとこの身分に準じたものになっています。ただ、身分制度の問題というのは、本当に慎重に扱わないといけない題材です。物語の前半の部分、低い身分だったからこそ、違和感なく構成されたエピソードを思うと、応募者さんにとっては物語を構成するうえで大切な設定であることは理解できます。物語の中で、その身分の方を否定する表現はありません。ただ、この物語が商業作品としてヒットした時に、この低い身分のネガティブな要素が悪い意味で広まってしまわないか、と心配になりました。

太田 確かに日本社会固有の差別問題というのは、慎重に扱わないといけません。ただし、もちろんのことですが、題材として扱っているからその時点でダメということではありません。現代において差別を助長するものでなかったら題材として採用するのは問題はないと考えています。でも、それは注意深く原稿を読まないとわからない。

丸茂 岩間さん的には、差別を助長していると思われたんですか?

岩間 いいえ、差別を助長しているようには書いていないと思います。

石川 差別的な描写が頻繁に出てくるから気になるということ?

岩間 はい。学校教育でもこの問題が慎重に扱われている中、今作での表現は私個人としてはちょっと違うなと思ったんです。これは新人賞で、ごく限られた選考者がクローズドの空間で守秘義務を守り拝読するものですのでそういうことはありませんが、これが投稿サイトだったら、物語の設定について問いただしたり非難する人も出てくる可能性があると思います。どんなに優れた作品でも、取り扱う題材の扱い、表現については慎重になるべきだと考えているので、私はこの作品をあげませんでした。

石川 なるほど。ただ、慎重に取り扱うべき題材だからあげるのを躊躇ちゅうちょする、というのはちょっと違うかなと思いました。ここは投稿サイトではないからこそ、むしろ複数の視点から積極的に議論の対象にするべきなのでは? たとえば、差別を扱うだけの「正当性」があるか。差別を物語のために「便利使い」していないか。作中では誰がどんな立場や視点から差別について語っているのか、などなど。

岩間 最後の点については、主人公視点です。主人公が低い身分で、低い身分として生活している主人公自身のことについて懇切丁寧に説明しています。

石川 実際に読んでいないのでなんともですが、「主人公のことを懇切丁寧に説明」というのは構成的な意味でよくなかったように思います。結局、その説明で直接的な言葉を使ってしまったから岩間さんも引っかかったわけで。物語を読むにつれて、直接的に描かれずとも主人公たちの置かれている立場を理解できていく、という書き方のほうがスマートな気がします。

丸茂 低い身分の人物というのは物語の主人公としてよくあるパターンかと。それだけで否定されるようなものではないのでは。

太田 丸茂さんは読んでみてどうだったの?

丸茂 僕は目くじらを立てるようなものではないと思いました。主人公が自身の身分について唐突に自分で解説しているので、ナレーションとして不自然だという指摘はあっていいと思いますが、これで作品としてNG判定するのは行きすぎではないでしょうか。江戸時代に身分制があったことは事実ですから。ただ岩間さんが気にした原因もわかる気がします。この作品の弱点は、主人公の語りが素直すぎることです。王道の設定やストーリーラインを踏んでいるけれど、ちょっとキャラも展開も落ち着きすぎで、とくに主人公が翻弄されてる傾向が強いため一挙手一投足に目を見張りたくなるような感じがない。要するにあっさりした調子なので、身分制への言及があけすけで「慎重」でないと岩間さんには見えてしまったのではと。ただ「差別を助長している」わけではないことは岩間さんも認めてますから、なぜ「慎重」になってないと感じたのか説明するべきだったと思います。

岩間 丸茂さんのご指摘通り、言葉足らずでした。すみません。私がなぜ、「慎重」になっていないと指摘したかというと、「差別を目的に作られた言葉」をあえて選んで使っているからです。「そんなこと?」「学校で習ったよ」と思う方もいるかもしれませんが、作中で使われた、主人公らの身分を表す言葉は、人権を根こそぎ奪い取る悪意に満ちたものです。差別をなくしていくため、差別の現実から目を背けていくことはできません。歴史を正しく学び、誤った認識を払拭していくことは大切なことです。差別解消のための学習に限ってこれらの言葉の使用が認められているのはそのためで、そのような事実があったと知っていることは良いことだと思います。ただ、事実だからといって、その言葉を使うかどうかは慎重に検討しなければならなかったのではないでしょうか。

丸茂 う〜ん、ならそういう人たちを表現する架空の言葉を使うべきということでしょうか? 「使ってほしくない」ひとは絶対にいると思いますが、だから使うなと強いるのは「言葉狩り」だと思います。「差別を助長している」わけではないからOKと見做した編集もいたとはお伝えさせてください。

岩間 架空の言葉というよりは、石川さんがおっしゃったような、直接的に描かれずとも主人公たちの置かれている立場を理解できていく、という描き方が理想ではないかと思います。とはいえ、みなさんおっしゃる通り、題材そのものがNGというわけではないと思います。「これは!」というネタが思いついた際にはぜひ挑戦していただきたい。応募者さんに関しても、書くという行為そのものには粘り腰を持っていて、なおかつセンスもある方だと思いますので、ぜひ次回以降も応募していただきたいです。

作品の「サイズ感」を見極めよ!

片倉 『君色イントロ』は部活ものでした。ふとしたことで陸上部をやめてしまった女の子が軽音部に入って、ボーカルとして活動していくお話です。

石川 おっ、ガールズバンドものですか?

片倉 いえ、変わり者の準主人公的な男の子がいて、彼がその女の子を軽音部に引き入れるところから話が始まっていきます。メジャーなテーマに挑戦されているのは評価したいのですが、この作品は『けいおん!』を始めとする先行作品に勝つところがなかったかなという感想でした。作中では挫折や葛藤があまり描かれず、主人公たちは易々とハードルを乗り越えていくんですが、といって「俺TUEEE」的なテイストかというとそうでもなく、ゴールが学園祭と小さくまとまっていました。どういうノリで楽しめばいいのかわからなかった、というのが正直な感想です。

石川 『けいおん!』をバンドものの先行作品として比べることには少々疑問がありますが。話を聞くと、「現実的」な部分と「非現実的」な部分のバランスが悪かったのかな、という気がします。アニメや漫画が強いのは、「それは無理かも」という多少の非現実なら画の力で飛躍させてしまえるからですよね。その点、小説にはもう少し整合性というか統一感が求められる。

片倉 そうなんですよね。非現実路線でいくなら、そっちに振り切って欲しかった。

石川 現実路線であっても、学園祭をゴールにすること自体が悪いわけではないんですけどね。物語上のフックはほしいですね。

丸茂 目的の規模にあったストーリーだとよかったですね。日常コメディのノリなら最終的に文化祭というのは全く問題ない思います。

片倉 描きたいテーマや設定の絞り込みが足りず、この作品ならではの持ち味がぼやけてしまった結果、今一つオリジナリティに欠ける印象でした。ただ、軽快な文体はこの小説に合っていたので、そこは評価したいと思いました。

石川 越谷オサムさんの作品なんかは参考になると思うのでぜひ読んでみてください。

ラブコメの流行りは何処

丸茂 次の『ぱらでびは、笑う』はラブコメです! 僕はずっと「ラブコメやりたい!」と言ってるので、大歓迎!! さて、主人公は魔導書を入手してしまった陰キャの男子高校生で、悪魔を召喚したところ好きなクラスメイトの女子が召喚されてしまい、彼女の正体が悪魔だったことが発覚します。二人の絆ができるにつれ、主人公を気にしていたクラスのギャルが突っかかってきて三角関係っぽい展開に。『これはゾンビですか?』みたいなリアリティラインですね。最近のラブコメでそういうリアリティで描いてるものって少なく感じていて、今受けるのか受けないのか、みなさんの実感をお聞きしたいなと思っています。いかがでしょうか?

石川 正直、おもしろければ良い! の一言に尽きると思います。

丸茂 それに尽きるっちゃ尽きますね(笑)。今のラブコメの主戦場って、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』とか『弱キャラ友崎くん』みたいな、ファンタジー要素のないガガガ文庫さんメインのラインなのかなと。僕のラブコメの原点は『とらドラ!』なんで、そっち路線のラブコメは積極的にやりたいなと思ってまして。もちろん『これゾン』も大好きですが。

石川 ラブコメに限らずですが、何が主流かを決定づけるのって複合的な要因ですよね。メルクマール的な作品に追随した結果、特定の傾向の作品に読者の目が向きやすくなったり、読者の隠れた欲望とか時代の要請みたいなものにうまく乗れた結果だったり。だから、非現実的な要素が入っているから良いか悪いか、みたいな話はそれだけでは判断しづらい。

丸茂 教室に宇宙人や未来人が登場する話も勝負できるはずだと。

石川 おもしろければ良い! そこに尽きる。そう信じたい。

丸茂 身も蓋もないところに落ち着いてしまいましたが、たしかに(笑)。『六畳間の侵略者!?』とかまだまだ続いている人気作や新作もありますけど、もしかしてそういうラブコメ今は古い? と少し不安になってたんですよ。僕としては懐かしさを感じる設定のこの作品を、けっこうお若い方が書いてたのでホッとしたんです。

石川 ただ、書き手が若いからといって安心するのはミスリード感ある気もします。この方の年齢的に、2010年代初頭を中学生として過ごしていたわけじゃないですか。そのころって一種の過渡期というか、『俺ガイル』のような現実ラインも『デート・ア・ライブ』のような非現実ラインも同時に出てきたような時期なので、いちばん心のやわらかい年頃に影響を受けた作品がなんだったのかは案外小さくない問題な気がします。

丸茂 その重力圏で書いていると。

石川 ですね。

丸茂 まあ、それを踏まえても、まだ芽があるラブコメのタイプだと僕は思います。この作品は設定はベタで悪くないのですが、後半の厨二バトル展開がいささか安っぽかったし、欲を言うと「切ない」シーンとかほしかった。コメディタッチの日常をずーっと書いていくスタイルの方があっていたかなと思います。

「純文学の文体」はダメなのか?

岩間 『愛の稜線』は一言で言うと令和版、“ナオミ視点で書かれた『痴人の愛』のリブート作品”です。私個人としては、星海社FICTIONSというより、五大文芸誌に掲載される作品っぽいなと感じたんですよね。

石川 どうして『痴人の愛』のリブートだとわかったんですか? 

岩間 ストーリー構成、登場人物名が、『痴人の愛』と同じなんです。読み進めていくうちに「もしかして?」と気づき、中盤以降から確信しました。

石川 事前情報がなくてもわかるくらいだったんですね。ちょっと気になってきたな。どういう感じで“令和版”になってるんですか?

岩間 主人公は、関西の女子大の音楽学部に通う中流家庭で育った女の子です。子どもが少しでも自分の思う通りにいかないと、すぐに怒鳴ってしまう若干毒親気質な母親が苦手で家に居場所がないと感じているのですが、かといって人付き合いもあまり得意な方ではなく、キャンパスでも友達は1人だけ。唯一の友人から紹介された大阪・梅田にあるガールズバーのアルバイト先でついた、ただ1人の40代男性客からの都合の良い甘い誘いに乗り、ガールズバーよりも割りが良い男性の写真撮影モデル、男性宅の家事代行のバイトを経てなし崩し的に彼女になります。

太田 ちょっと古くさい感じがしますね。

岩間 『痴人の愛』を現代版にされているので、そうかもしれません。この40代男性、最初はお小遣いをバンバンくれ、ハイブランドのカバンや美味しい食事を気前よくおごってくれる都合の良いパパ的な存在だったのですが、関係が深くなるうちに自身の性癖への理解を求めてくるようになります。主人公の女の子をいわゆるハプニングバーに連れ込み、他者との行為を写真に撮る彼の性癖や身勝手さに対して、主人公はだんだん嫌気がさしてきます。

太田 え⁉︎ 嫌気がさすの遅いよ!

丸茂 『痴人の愛』とは逆で、この作品はナオミ視点でナオミの内面を書いてるんですね。

石川 岩間さん的に、そこまで評価できなかったのはなぜですか?

岩間 この作品の持ち味でもある文体が冒頭でも話した通り、「純文学」だと感じたからです。ライトノベルとの中間くらいなら推したかったのですが、そうではないと思いました。この作品を星海社で発表する意味がつかめなかったです。

丸茂 うちはエンタメ小説レーベルですからね。でも僕は文体はふつう、というかこれで純文どうこう判断できるものではないという印象です。

石川 文体でジャンルを判断するのは危ういと思います。たとえば、村田沙耶香さんは間違いなく現代の純文学シーンを代表する作家ですが、文体含め、いわゆる純文学の範疇はんちゅうには収まらないものを書かれていますよね。もともと純文学的な文体であるとか一般文学・大衆文学的な文体であるとかはスパッと割り切れるものではなかったはずだけど、昨今ではさらにその区別は不可能になってきている気がしています。であればむしろ、エンタメレーベルだからこそ、「純文学的な文体」を使って異物感を出して持ち味にする、という戦略もあり得るだろうと思うんですよね。じゃあ、それをするために何が必要なのかと言ったら、物語で「エンタメ感」を担保できるかだと思うんです。その部分はどうですか? 重要なのは文体より、エンタメだったかどうかです。

岩間 物語的な部分でいうと、エンタメとしてはもう少し考え抜くことができる内容だったと思います。主人公が一人称で淡々と語っていく形式でしたので。展開を絞って主人公の自意識の中で完結させていた点などは、エンタメ作品に寄せようと意識されていたと思いますが、構成力を活かしながら、もっとエンタメ的な見せ場を作る余地もあったのでは? と思いました。

石川 エンタメって基本的に、「問題や謎の発生とその解決」ですよね。そしてそこに、新海誠監督の「感情グラフ」ではないですが、読者を揺さぶるアップダウンがあるかどうか。それがつくれているのなら、文体だけでカテゴリーエラーとして弾くのは違うと思う、ということは言っておきたいです。特に、この新人賞への投稿を考えていただいている方に向けては尚のことですね。まあただ、話を聞く限りでは、この作品よりも原作の『痴人の愛』の方が「エンタメ度」は高いのではという感じはしました

丸茂 谷崎って実はめちゃくちゃエンタメ作家ですからね。その意味では、投稿者さんの着眼点は良かったのではないでしょうか。

石川 この投稿者さんに関しては、文体が持ち味だと思うのならば臆さずに活かしていただきたいです。ただ、この方に限った話ではありませんが、商業作品として出版することを狙っているのなら、前提としてエンターテインメントとして人を楽しませる作品であるかどうか、魅力的かどうかはつねに意識していただけると嬉しいですね。

編集者、殺される

岡村 『投稿遊戯』は今回僕が読んだ中では一番おもしろかった作品です。キャッチコピーは「俺の小説を落とした下読みは死ね!」

一同 ざわざわざわ

太田 ちょっと! 不覚にも笑ってしまったじゃないか

岡村 どういう話かというと、主人公は会社勤めの20代女性。この人は知り合いの編集者から依頼され「日本エドガー賞」という小説新人賞の下読みをしていて、同時に、趣味で書評ブログも書いてます。で、その賞の一次選考結果がwebで発表されたら、なぜかこの女性は自分の書評ブログのコメント欄を介して嫌がらせを受けることになるんですね。当然ながら、この女性は外部には自分がその賞の下読みしているなんてこと一言も言っていないし、そのことは依頼した編集部員以外は誰も知らないはずです。しかも、嫌がらせをした相手が自ら名乗ってきたんですが。それが、自分が一次選考で落とした『投稿遊戯』という作品の作家名と同じなんですね。つまり、自分が一次選考で落とした作家がどういうわけかその情報を手に入れ、嫌がらせをしてきているという作品です。そしてこの作品はもう1つ別軸で話が進んでいきます。同じ出版社で日本エドガー賞とは違うもう1つ小説新人賞をやっているんですけど、その名前が「ルシフェル賞」。

一同 ざわざわざわ

丸茂 なるほど、悪魔の名前ということですね。

太田 そ、ソウデスネ(棒)。

岡村 そのルシフェル賞の選考をしていた編集者・毒島が、何者かに殺されます。殺害容疑者として浮かび上がってきたのが、行方をくらましている『投稿遊戯』の作者。その作者はルシフェル賞にも作品を投稿していて、毒島に酷評されています。毒島はその作者に怨恨で殺されたと考えられ、主人公は次は自分が殺されるのではないかと恐怖するというのが序盤です。
文章はとてもリズムよく読みやすく、続きが気になるような情報開示の仕方はお見事です。一方で、これを読んで誰が一番おもしろいと思えるかというと、実際にこの作品を選考する立場の人間、つまり僕で、完全にメタ小説になっているんですよね。読んでいて「あれ? この作品を落としたら、もしかしたら僕は殺されるんじゃないか?」と少し思ってしまいました。

丸茂 それはおもしろいアイデアじゃないですか! いえ、他意はありませんよ(上司に視線を遣りながら)。

岡村 明らかに他意しか感じませんが、それはひとまず置いておきましょう。正直な話、僕としては読んでいておもしろいと思うんですけど、それは僕の立場がこの作品のおもしろさに下駄を履かせているんです。ピークの読者は誰かというとやっぱり僕で、この作品を商業出版した場合、僕以上の楽しみを他の読者が味わえるかというと、それは否なんですよね。

太田 ターゲットが狭いですからね。まさに、今、下読みをやっている編集者じゃないと存分にはおもしろくないわけだ。

岡村 その通りです。あとこの物語の真相というのが、僕からしてみるとご都合主義すぎる結末だったので、これは商業作品としては難しいと思いました。この作家さんはプロフィールを拝見するかぎりいくつか他の賞でも最終候補まで残っている方です。最初にも言いましたが、今回僕が読んだ中では一番おもしろかった作品ですし、文章力も高く、こなれています。ただ仮にこの作品が世の中に出て、読んだ人が他の人に話せずにはいられない、とか心が動かされるかというと、そうではないなと思いました。どうしても楽屋落ち的なものがつきまとってしまい、それ以上は広がらない印象が拭えないんです。

太田 わかる。これはこの方が十二分に実力のある方だと思うのであえて強い言葉で言うのですが、ある種の「こじらせ」だと思う。これは、この方に限ったお話ではないのですが、いわゆる、こういう新人賞的なところを通るのが小説を書く目的になっている状態ではないでしょうか。

丸茂 投稿用小説を書いていると。

太田 そう、まさにそれなんですよ。投稿のための小説。

丸茂 本当はその先に投げないといけないですからね。

太田 そうなんだよね。やっぱり小説を世に問うからには、時代のひとつやふたつはぶちこわしたり、変えたりしないといけないんだけど、きっとこの方はそういう志をちょっと忘れてしまっていて、目先にいる下読みをしている人間をおもしろがらせようと小手先の方に走ってしまっているんだよね。

岡村 だから、良い意味での初期衝動を感じないんですよね。

太田 うーん、自己批判すると、メフィスト賞に端を発するこういう形式の賞じたいが1つの要因になっていて、そういう人を育てちゃっているのかもしれないな、と感じます。時々あるじゃない? 編集者に対するメッセージが入っている投稿。でもね、そうじゃないんですよ。僕ら編集者がうだうだ言っていることをねじ伏せてやるくらいの気持ちで書いてほしいなと、僕はいつも思っているんですよね。僕たちは別に投稿作を殴りたくて座談会をやっているわけじゃない。投稿作に殴られたくてやっているんだよ。でも、殴り方もあってね、「こうしたら気持ち良いでしょ?」みたいな意図が透けて見えるのはちょっと気持ち悪いと思っちゃう。

岡村 そこは難しいんですよね。こちらからは結局、本当に自分が創作したいものを腰入れて書いてくれよ! 以外のことが言えないんですよ。でも、もし本人もそうやろうと思ってこうなってしまっているのなら、編集の力でどうにかなる問題じゃないという気がします。だから、力があるのに、もったいないと感じてしまう作品でした。

太田 編集者もそうなんだけど、どこに向けて編むのかというのは大事なことだよね。

丸茂 やはりアイデア自体は悪くないように聞こえましたよ。書き方によっては逆『ミザリー』みたいな、怪物作家志望者に脅かされる編集の恐怖を書くホラーに舵を切れたかもしれない。編集者だけではないどんな読者もゾクゾクさせてくれるようなギミックを、次は期待したいですね。

突き詰められていない設定から魅力は生まれない

片倉 『絆の国に告ぐ』は今回、自分の担当で一番おもしろい作品でした。一言で言うと近未来を舞台にした刑事ドラマです。

太田 『PSYCHO-PASS』みたいな感じ?

片倉 雰囲気は近いですね。ただ『PSYCHO-PASS』は未来のテクノロジーがストーリー全体の世界観を作っていますが、この作品だとそういう近未来的ガジェットが強固な世界観を形作るところまで行かず、あくまで雰囲気づくりに留まっている印象でした。よくも悪くも「刑事ドラマ」というジャンルのオーソドックスな文法に則った作品で、舞台をそのまま現代から未来に移したような感じです。刑事同士の掛け合いだとかのテンプレートの使い方がお上手で、読者を深く引き込む筆力には目を見張るものがありました。

丸茂 どんな事件が起きるんですか?

片倉 羽田空港が占拠されます。

丸茂 おお、大規模!

片倉 いきなり「羽田空港を占拠した」という通告が来るんです。羽田空港上空にステルス爆撃機を配備したと。そして、テロリストの正体は日本社会に恨みを持ったクルド人組織であることが判明します。

丸茂 日本だと埼玉県に集住している人が多いあの?

片倉 はい、中東のあのクルド人です。国を持たないクルド人が難民申請してきても、日本はなかなか受け入れませんから、そこで確執が生まれたとリアルな設定です。そのクルド人が空港占拠の解除条件として出したのが、入管で拘束されているクルド人難民を解放せよというものです。

石川 むちゃくちゃアクチュアルですね

片倉 それも、ただ解放すればいいんじゃないんです。難民を解放するかしないかを全世界の70億人が1票ずつネット投票して、その結果で日本社会の命運が決まるという。こういう近未来のディテールと刑事ドラマの定型が、高い水準でマッチしていました。

太田 おもしろそうだね! なぜあげなかったの?

片倉 本当に惜しいんですが、中盤以降の設定が物語の勢いを削いでいたからです。警察がクルド人組織を調べていくときに、IRいわゆるカジノ法案だとか、外国人技能実習生とかが出てくるんですよ。その辺の絡ませ方が5ちゃんねるやTwitterの世論を素朴に反映した「ネットで調べました」という感じの、浅い設定になってしまっているんです。クルド人とIRは関係ないじゃないですか? クルド人の話はしっかり調べて描かれていたのに、不必要に浅いメッセージ性が出てきたせいで、犯人の切実さやリアリティまで薄く感じられてしまったんです。

石川 ここで挙がった社会問題って、実際にいま現実として起こっているものばかりじゃないですか。それをなぜ近未来の話に直接出してしまったのかが気になりました。

片倉 舞台を2029年の東京に設定しただけあって作品内の技術はそれなりに進んでいますが、確かに社会問題は2020年のままです。

石川 フィクション、それも近未来が舞台なんだから、ベースに現実の社会問題が据えられていたとしても、そこから社会像や問題をもっと発展させて物語に落とし込む想像力が欲しかったですね。

丸茂 たとえば、“VRゴーグルをつけている少数民族”とか?

石川 そうそう! 柴田勝家さんの「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」はすばらしい短篇でしたね。あとは藤井太洋さんの『ワン・モア・ヌーク』や『東京の子』なんかもすごく参考になると思います。前者は2020年、後者は2023年の東京が舞台になっていて、オリンピックとか現実と地続きの問題を扱いつつ、緊張感あるフィクションに昇華されているんですよ。

おわりに

太田 今回は受賞作なしです。また、賞金が積み上がります。

丸茂 次回はいよいよ節目の第30回ですね。

太田 そうですね。今は新型コロナウイルスの影響で、みんな不要不急の外出を控えているから家の中にいることが増えたでしょう? こんな時だからこそ、ぜひ小説を書いて送ってほしいです。SNSで文章を書いている暇があるのなら小説を書こうぜ! といいたいですね。

丸茂 呟いている暇があれば、執筆をしろということでしょうか。特定の方々が思い浮かびますね

石川 それ以上いけない。

太田 Twitterの1ヵ月分の文字数があれば中編小説くらいの文字量になるという方もいるんじゃないでしょうか? 1ツイートだいたい100字だと考えると、1000ツイートすると10万文字なんだよ。すごくない?

丸茂 1冊ぶんの文字数ですからね。

太田 例えば1ヵ月Twitterで何も書かずに、Twitterで書くはずだった文字数を小説として書き続けているうちに、おもしろい物語が1つ完成するかもしれない。いや、してほしい。だから、ものを書こうとする人間はたゆまず何か書いてほしいね。Twitterと小説は違います、みたいな言い訳は見苦しいし、こういう時だからこそ作家志望の方々は、バトンなどで馴れ合わずに物語を紡いで欲しい。小説はスマホが1つあれば書けるんだから。

丸茂 書き方もいろんな方法が増えましたよね。山田しいたさんの『乙女文藝ハッカソン』で描かれてますが、音声入力をもとに成形するのとか試してみるとおもしろいです。

太田 今の時代、わざわざこういう手間のかかる形式の新人賞をやらなくても、投稿サイトに投稿されている良作を書いている新人をぽんと引っ張ってくることだってできる。でも、投稿サイトはサイトの潮流を踏まえた傾向と対策の中で書かないと受けないようになっているから、そうじゃない作品をすくい上げるという点でも意味があると思って続けています。応募したいと思ってくださる作家志望者さんがいる限り、僕たちはその声に応えたいと思っているので、僕たちと一緒に頑張りたいと思ってくださる方、ぜひ投稿してください。

一同 それでは、次回もご投稿をお待ちしてます!

1行コメント

『フラワー×ソード→ヒーロー!』

描きたいシーンが好きなように描き連ねられた作品という印象で、全体を通してのテーマ性が見えてきませんでした。また、ファンタジー作品なのに世界観の練度や情報開示が足りていないように感じました。(片倉)

『魔法少女CHAOS』

「ついてこれる奴だけついてこい!」という感じの作品で、僕はついていけませんでした。(岡村)

『彷徨い流星姫譚』

世界観はしっかり描けています。ただ登場人物にはあまり興味を惹かれなかったので、世界より人に興味を持たせる必要があります。(岡村)

『邪なる骸』

高い水準のご投稿だったかと思います。だからこそ、人物造形で、小説としてのおもしろみを欠いていたのがもったいないと感じました。むらなく解剖を描くのではなく、ポイントを絞れば、さらに奥行きのある人間関係を盛り込めたのではないでしょうか。(岩間)

『自由暗殺人 ノロクロ』

登場人物のキャラクターには読み手を引きつける個性があり好感をもって読めました。ただ、ストーリー全体の構成が荒く物語の勢いを削いでいたと思います。着地点を意識して要素を整理し、ストーリーの土台づくりをすれば、より完成度の高い作品になったはず。(岩間)

『札憑きサイキック!~科学的キョンシーは明日の彼方を夢見るか~』

登場人物の思考、というか内面の個性がいまいち読んでも伝わってこないので、人物に興味が持てないまま物語だけが進んでいく印象でした。(岡村)

『About a girl』

使い古された「スクールカースト」や「異能力」のイメージに頼りすぎていると思います。瑞々しい青春の痛みがほしいです。あとタイトル、英語にすればかっこよくなるわけではないです! 僕もちょっとそう思ってる節ありますけど!(丸茂)

『課外授業のアームドフォース』

「高校生が命をかける」ことの重さと理由が不釣り合いで、序盤からのることができませんでした。シリアス感とコメディ成分のちぐはぐさも少々気になりました。(石川)

『歌姫は謳い、ゴリラは吠え散らかす』

「妹がゴリラになる」とイマージナブルな四国模様、もうわけがわからない要素をぶち込みながら勢いで感動まで持っていきたいんでしょうけれど、御しきれてなかった印象です。もっと「よくある」リアリティラインに照準を絞っていただけたら。(丸茂)

『けんけん記』

冒険ファンタジー作品の定跡をきちんと踏まえた作品でした。ただ、この作品ならではの個性が見えてこないので平均点止まりなのも事実です。基礎はしっかりしている方だと思いますので、その上で何かオリジナリティを発揮していただきたいです。(片倉)

『東の戦士』

文章はクセがなくスラスラと読みやすくてよかったです。一方、主人公の言動にところどころ違和感を覚えるのと、物語の本筋の部分が枝葉の部分よりもおもしろくないのは問題だと思いました。あと過去の投稿作については、こちらからこれ以上言及することはありません。(岡村)

『一条家の箱庭』

「精神科ミステリ」という掛け合わせ自体は悪くないと思います。ただ、物語が平板すぎるというか、誰の視点でどんな騒動に心を揺さぶられればいいのかわかりませんでした。リアリティラインの設定ももっと練っておく必要があると感じました。(石川)

『平仮名の【ほわいと企業】』

朴訥と、そして細々とわざとらしいほど説明を尽くしていく文章にはちょっとユーモアも混じっててクスッとする部分がありました。変なリアリティが醸成されていて、これがツボにはまる読者もいると思うのですが、文章を読むおもしろさと同じくらい話の筋のおもしろさを用意していただきたいです。とぼけた感じが妙に文章とフィットしてるのですが、やはり突拍子がない(丸茂)

『人の隙間に巣くうモノ』

リーダビリティが高く、読み手を物語に引き込む力がある方だと思います。ただ、今作に関しては、既視感のあるテンプレートを多用しているため、全体的にオリジナリティに欠けるのが惜しかったです。少しの新鮮さと物語をもう一段階深める展開があればこの小説の可能性が更に広がったのではないでしょうか。(岩間)

『5-tune』

一にも二にも情報開示の手つきが足りていない、という印象です。(石川)