2019年夏 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2019年9月11日(火)@星海社会議室

佳作あるも受賞至らず、しかし次回への期待高まる!!

はじめに

太田 FICTIONS新人賞座談会も今回で27回です。張り切っていきましょう。

一同 はい!

櫻井 今回は夏休み期間だから、投稿数がちょっと多かったんですよね。

片倉 前回より増えて43作です。

石川 あと、半分くらいは新しく投稿してきてくれた人って感じですかね。

太田 新しく投稿してくれる人がいまだにたくさんいるっていうのは本当にうれしいですね。それでは、座談会始めます!

求む、人生経験を活かした作品

太田 座談会最初の作品は『妹を救え』です!

岡村 すごいタイトルですね。直球!

石川 作者は62歳の方です! 経歴も積まれていて、別名義で1993年に朝日ソノラマからデビューしています。最近ふたたび新人賞への投稿を始められて、ミステリ系の某賞では現在二次審査中だそうです。作品は、今回僕が読んだ中ではいちばんよくできているものの一つで、まず文章レベルでは引っかかることがありませんでした。

片倉 どういう内容なんですか?

石川 舞台は北海道、主人公は警察官です。主人公にはかつて結婚間近までいった女性がいたんですが、彼女のメンヘラさに恐れをなして離別。ところが数年後、その女性が「失踪した妹を捜してほしい」と主人公のもとに駆け込んできて、主人公はいっとき恋仲だった相手の懇願ということで協力することになります。この女性=姉はなぜ警察に捜査を依頼せず、主人公に私的に依頼したのかというと、妹は麻薬盗難事件に関与している可能性があるからだと。この、妹の行方と麻薬盗難事件を追うAパートと並行して、「悪魔」やら「ルシファー」やら「サキュバス」やらが出てきて、薬をキメながら性的な儀式に及ぶエログロバイオレンスなBパートが進行していきます。このBパートが少々問題なんですが

丸茂 ルシファーやサキュバスはマジものではなくて幻覚ということですか?

石川 具体的に存在するわけではないです。薬物で意識が飛んでいるところに、外部から働きかけられて思い込んでしまっている感じですね。で、最後に明らかになるのは(以下略)だったという事実です。この作品は梗概(こうがい)で叙述ミステリと宣言されていたので、何かしらのどんでん返しがあると期待して読んでしまったのですが、予想を上回ってすべてがひっくり返る、というところまでは届かなかったかなと。それと、筆力はとてもあるんですが、キャラクターが利己的で芯がなく、全員とも好きになれなかったんですよね。

岡村 キャラクターを好きになれるか、ということは重要です。たとえ利己的でもそのキャラクターなりの矜持(きょうじ)や、目的を達成するための努力の描写があれば応援したくなりますが、それらが提示されていないと読むのはきついと思います。

石川 大仕掛けを狙う意欲は買いたいので、ぜひまた送ってきてほしいです。

太田 この方みたいに年を重ねているからこそ書ける何かもあると思います。『ナニワ金融道』もそうで、小さなデザイン事務所を10年近く経営したからこそ青木雄二先生はあの作品を描けた。「10代でデビューしよう」とか「30歳までには」とかタイムリミットを決める人もいるけど、人生100年時代なんだし、年を取ってから人生経験を活かして作品を書くのは全然アリなんです。10代でデビューして作家以外の人生を知らない人には書けない作品があります。例えば、『フルコンタクト・ゲーム』の中島望さんも塾講師としての経験を活かして今も頑張っていらっしゃいます。僕は、いつか彼に大成功してほしいとずっと願っています。

この話、既に10回くらいしてると思いますが、『フルコンタクト・ゲーム』の太田さんのリード文は今見ても狂ってますね! 「熱く切ない極真武芸帖!一撃必読!ジェットコースター格闘ロマンの傑作!!」。シビれるなあ。

太田 『フルコンタクト・ゲーム』は後年になってあの『ドロヘドロ』を生んだと言っては過言かもしれない、いや、過言ではないかもしれない作品ですので、ぜひご一読を。

石川 しかし、作者さんにはぜひ人生経験を活かした作品を書いていただきたいですが、固有名詞は気をつけたほうがいいですね。ルシファーとかサキュバスとか、そういうのはさすがに

太田 固有名詞はすぐに古びちゃうんだよね。サキュバスは一周回ってネタ化しちゃってて、もうシリアスな展開で出しちゃいけないものになっているんだよね。

丸茂 今では萌えキャラ化して、サキュバスはかわいいってイメージですね。

石川 エログロバイオレンスなシリアスな展開なのに、「サキュバスが」「ルシファー様のお告げが」とか言い出してしまうのでそこは読むのがつらかった。

太田 ネタじゃないのにネタ色が強くなっちゃうんだよね。これはこの人の責任ではないけれど、「今これを出しちゃいけない」みたいなトレンドを押さえておく必要はある。年をとっているからこそユースカルチャーに触れておかないと、せっかくいいものを書いてもすべってしまうんです。でも、今はネットがあるからユースカルチャーを追いやすい時代にはなっています。

岡村 若い時は自然に新しいものを摂取できますけど、年をとるとそれを摂取するには努力しないといけなくなります。それを考えると、御年87歳の辻真先先生に『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー』を書いていただけるのは本当にすごい。

セカイ系ではないセカイケイ

太田 櫻井さん担当の『#セカイケイ』はどうだった?

櫻井 私の読んだ中では次点くらいでした。セカイ系か、と思って読み始めた割にはよかったです。あらすじを話すと、舞台は「穴あき」という奇病が流行っている世界。

丸茂 『バイオーグ・トリニティ』か!?

櫻井 よくあるやつです。胸というか心というか、に穴が空いてしまう奇病が流行って、その患者がある団地に集められ、そこで起きる失踪事件を解いていくという話です。そこにはある薬物が関わっていて、奇病と薬物は穴あき患者を新人類にするためのものだったという話です。属性としては、主人公の女の子達が団地を冒険する中での百合もありました。

丸茂 主人公も病気の患者なんですか?

櫻井 患者なんですが、途中で視点が変わります。最初の主人公は病に冒されて途中で意識を失い、新人類の教祖になってしまうんです。途中から相方の子に視点が変わり、更に事件を追っていって最後には二人して愛を伝え合って終わるんですけど。

丸茂 『異セカイ系』みたいなメタフィクションかと思いましたが、違うんですね。

櫻井 そうならないで、普通に団地の中をめぐる冒険なんです。斬新なことではなく、割とよくある設定を長々と書いていて冗長でした。今の話って数ページで済ませてほしいじゃないですか。なのに新人類とか病気の話が50ページくらい続いていて、詳しく書きすぎです。
特に前半は、新人類云々の話の前段となる団地内のいざこざがメインになっているんですよね。

片倉 小さな話におさまってしまっているんですね。

櫻井 昔からある団地だから、昔からの住人と移住させられてきた人の間にいざこざがあって、とか。詳しく書かなくていいところに力を入れすぎている印象でした。

片倉 バランスがよくないですね。

櫻井 それと、題材がSFチックなのに団地の話してるんです。

石川 SFと団地ってとても相性がいいので、あながち間違いとも言えないかも? 漫画ですが、今井哲也さんの『ぼくらのよあけ』は団地SFの最高峰です!

丸茂 『ハイ・ライズ』みたいな話だったら読みたいですね。

櫻井 そうなんですね。でも、こんなに長く説明することじゃないんですよ。

聞いていると、設定と題材のカロリーが噛み合っていない印象ですね。

櫻井 うーん、とりあえず全部及第点ではあるけど、新しさがないんですよね。どっかでどんでん返しが欲しかったんですが、それもないから、終始「なるほどなあ」で終わってしまう、ちょっと物足りない感じでした。でもつまらないわけではまったくないので、また送ってきてほしいです。

石川 それにしても、話を聞いた限りではなんでセカイ系を意識したタイトルなのかがよくわからないですね。

櫻井 そうなんです。そこを自覚的に書いているはずなのに、みんなが好きなセカイ系じゃないんです。わざとやっているのか

石川 まあ、いわゆる「セカイ系」の物語ではないということなので、セカイ系の話に突っ込むのはやめておきましょう。いったん始まってしまったら座談会どころではなくなると思うので(丸茂のほうを見ながら)。

レーベルカラーに合った作品を

丸茂 『俺は銀河の風来坊』はタイトル通りの作品でした。この人は角川スニーカー文庫でデビューされてて、MFブックスからも今年10月刊行予定。「最前線の座談会が面白かったので応募させていただきました」と。ありがたい話です。

片倉 前回の『転生、桑田』の影響でしょうか。

丸茂 ただ申し訳ないんですが、星海社向きではないと感じる内容でした。ジャンルは宇宙冒険活劇。主人公がうさみみ少女と一緒に宇宙を大冒険していく話です。クモ型生命体を倒したり虎型の化け物を倒したりレースで優勝したり波乱万丈あるんですが、一番の読みどころはうさみみ少女との『To LOVEる』的なラッキースケベ展開で、意図的にそう描いているのがとてもわかる。

太田 どこなら向いてるのでしょうか?

丸茂 うーん、いわゆる〈新文芸〉のレーベルならありやもと思いますが、ウェブ小説で流行している異世界ものとは方向性がややずれてます。この方は小説家になろうとカクヨムに投稿されていて、サイト読者とは合わないけどもしかしたらということでこの作品を送ってきたんじゃないかと思います。ただ、星海社にもこういう作品はまだない。個人的にはラブコメはバリバリやりたいし執筆してもらってる作家さんもいますが、エロコメは気乗りせず、そんな僕の嗜好を突破してくれるほどではなかった。

太田 うーん、残念です。カラーを塗り替えてしまうほどのパワーがあればノー問題なんですけどね。次は丸茂さん担当の『剣山聶隠娘』これなんて読むの?

丸茂 タイトルが全く読めなくて調べたんですよ。「けんざんじょういんじょう」って読むらしいです。歴史物で、元ネタがあるんです。中国唐代の伝奇に「聶隠娘」っていう、聶隠娘という娘さんが尼さんに連れ去られて神仙の修行を受け、武侠として成長し、功をなすという話があるんです。それをベースにしているんですが、文章がいかんせん古い。少女の一人称小説なんですが、「〇〇していたの」「〇〇かしら」の連続で。

片倉 つらいですね。

丸茂 本当にこれがずーっと続くんですよ。その古臭さは直した方がいいですね。作者の方は中国古典を研究されている大学院生の方で、専門を活かしていただいているし、ネタとしては面白くなりそうなんですが、ファンタジーとしては月並みな印象でした。

下ネタはトレンドを押さえた上で

丸茂 『ていげん!』は今回僕が読んだ中で一番いかれてました。いわゆる「変な部活」系ラブコメです。文系、理系、体育会系の女の子が生徒のお悩みに対してそれぞれ答える『人生』というラノベに似てるかもしれません。生徒の意見を取り入れるために生徒会提言部という部活に極端な属性の生徒たちが集められる話です。この作品では文系、理系、体育会系ではなく貧乏、金持ち、変態の三人が集められます。キャラ名がすごくて、貧乏代表は貧困喘(ひんこん・あえぎ)。

岡村 すごい。潔くていいと思います。

太田 僕もいいと思う!

丸茂 ゴキブリを師と仰いでゴキブリを食べて生活しているキャラです。集められた三人は女の子で、そこに一人の平凡な男の子が加わって生徒のお悩みに答えていくというストーリーです。下品なギャグで延々と突っ走って、特に大きな出来事が起きるわけでもなく、300ページを一気に書ききっていて、平たく言えばアクが強い、直截に言えばサムいです。楽しんで書かれていることが伝わってくるのですが、流行りのラブコメを読んで今のラブコメ読者の勘所を押さえてほしかったですね。極端すぎます。道満晴明さんの『オッドマン11』という作品があるんですが、その系統かなという感じもちょっとしました。まさに淫乱とか不潔とか、直球のアブノーマルな属性の11人のオッドマンと呼ばれる女の子たちがいて、割と普通なようで実は普通ではない女の子が彼らと仲良くなる話です。『オッドマン11』の方がよっぽどギャグが下品で過激なんですが、道満晴明さんはそれをなんかグッとくる形にまとめあげてしまうんですよね。そんな下品だけどいい話にまとめるのもありかと思いましたが、ハイセンスすぎるか

下調べは念入りに!

私が読んだ『Female monk』はお坊さんが出てくる話で、私がお坊さんの4コママンガ『ぶっカフェ!』担当だから来たんでしょうね。読めなくはないですが、物語の面白さよりも、仏教の良さを伝えたい! という思いが優先されているのがマイナスになってると感じました。

太田 ほう!

フリーターをしているヒロインが、ある日ひと目惚れ! しかし憧れの彼は実家の寺を継がないといけない出家前の僧侶系大学生だった! はじめはびっくりしたけど一緒に宿坊に泊まったりして、次第にヒロインは住職に興味を持ちはじめてというお話です。きちんと取材していて、僧侶になるまでの過程はこの作品で理解することができます。ただ、葛藤や困難が起こらない。なぜならヒロインは全てを受け入れるから。ひたすらストーリーがフラットなんですよね。出家を決意するというゴールが先にあるから、過程がおまけになっているんじゃないかなあ。

片倉 それでいいんですか

あと、初めての宗教体験として実在する宿坊に泊まるんだけど、そこ、神道系なんですよ。仏教ちゃうんかい!!  こういうツッコミでいうと、『Are you crazy?』にもね、言いたいことがありますよ!!

太田 いいねえ、エンジンかかってきたね!

これは、ひょんなことから日本人の高校生の必修科目にキリスト教が追加されることになった世界の話です。アメリカ大統領に「ユー、日本も偉大なキリスト教を学びなさいよ」と言われて、無能な首相が了承しちゃったんですね。「OK、OKこういう大嘘とノリは嫌いじゃないよ」と思ってワクワクして読み始めたら、いきなりシスターが出て来るんです。これはかなりダメです。

太田 アメリカはプロテスタントでカトリックは少数派ですからね。

はっきり言って、この時点で読むのをやめてもいいと思います。だってメインテーマすら真剣に扱ってないってことですから。物語としてはこの後、キリスト教必修反対派の僧侶が集結したり、校内で宗教問答大会が始まったりと面白い展開になるんですけど、この著者は書けば書くほどボロが出てくる。「神主が後ろに大勢の山伏を連れてやってきた」とか、神主が印を結んで般若心経を唱え始めたりなんとなくのイメージで書いちゃだめ!!!!

太田 やっぱり調べ物は大事ってこと。

よくある話ですが、大きい嘘はいいけど、他の細かい部分はそれに忠実に合わせないといけないんです。『ガルパン』がまさにそうで、戦車道の設定は嘘だけど、戦車のディテールは忠実じゃないですか。この作品は嘘に嘘を重ねるんじゃなく、嘘に適当を重ねてるのでまったく厚みが生まれない。書くテーマはちゃんと調べよう、とこの二作品には思いました。

サッカー小説は難しい

石川 『世界の東の端っこのフットボール・チルドレン』はタイトルの通りサッカー小説です。舞台は中学のサッカー部。ところで、これはサッカー好きな岡村さんにしかわかっていただけないかもしれませんが、主人公の設定に僕はロマンを感じざるをえませんでした。中学二年のセンターバックで、すでに身長は180cmオーバー、左利きで正確なロングフィードが武器という、まさに夢のような逸材なんですよ。

岡村 すごい日本の至宝になりうる。

石川 なおかつ足元もうまくて、ドリブルで持ち上がることもできる。とはいえ、最近は現実でも優れた若いディフェンダーが次々に輩出されてきているし、『アオアシ』の存在もあって、「ディフェンダーが面白い!」という認識は徐々に高まっているとも思うので、その流れを汲んでいるとも言えますね。裏を返せば、まったく新しい主人公像というわけではない。

櫻井 サッカーの試合はうまく描けてるんですか? そこが描けるだけでもすごいと思います。

石川 そう、サッカー小説第一の鬼門がそこなんですよね。サッカーの試合を魅力的に描くのはなかなかの難題なんです。その点この作品は、サッカー描写は悪くなかったと思います。よく勉強している、というか単純にサッカーが好きだから書けたものだと感じました。けれど、物語のスケール感が小さいんですね。主人公のチームは公立中学の部活で、同じ地域にあるジュニアユースチームとの二回の試合が、本作のサッカー面。ただその試合というのが練習試合以上公式戦未満という位置づけなので、今ひとつ盛り上がりに欠けます。そして、サッカーの話と並行して描かれる人間ドラマでは、かつて一緒にプレーしていたけれど、とある事情で彼らの街から離れざるをえなかった女の子に戻ってきてほしい、というのが主軸になります。ただ、この二本柱がかみ合って相乗効果を生んでいるとは思えなかった。ラストは試合に負け、負けたことでふっと主人公の憑き物が落ちるという結末なんですが、もともと主人公は達観した大人びた人物として描かれているので、感情の起伏もあまりない。オフビートと言えば聞こえがいいかもしれませんが、あと二歩三歩盛り上がりに欠けて物足りなかったな、というのが正直な感想です。とはいえサッカー小説はまだまだ少ないので、ぜひまた書いて送ってきてほしい

丸茂 サッカー小説ってあまり心当たりがないんですが、いいサッカー小説って何かありますか?

石川 例えば、津村記久子さんの『ディス・イズ・ザ・デイ』は近年のサッカー小説の白眉だと思います。

それはサッカーの試合が面白いの、それとも試合までのプロセスが面白いの?

石川 ”サッカー文化”そのものが魅力的な物語に昇華されているところですね。JリーグはJリーグでも、J2がモデルという少々マニアックな入り口なのですが、サポーターが読んだら共感することばかりだし、サッカーをあまり知らない人に対しても「サッカーってこんなに面白いんです」「一緒にスタジアム行きませんか」という話もできると思います。

マンガの『アオアシ』は、試合に至るまでの経緯が面白いんですよね。選手としての営業活動が関わってくる、みたいな。純粋にサッカープレイをメインに面白がらせる作品って『キャプテン翼』くらいですかね。あれを純然たるサッカーと呼んでいいのかという問題はありますけど。

石川 『キャプテン翼』は、この作品がなければあのスターも生まれなかったかもしれないというくらい、現実のサッカーに影響を与えているのがすごいんですよね。

岡村 サッカーを通じて何を描きたいかは作家さんによって違いますからね。『キャプテン翼』はかっこいいキャラクター達がすごい能力を持っていて、それこそ死力を尽くして対決するのが心を打たれるんです。子供の頃は何の疑問も持たず、ドキドキしながら読んでました。でも小説で今、サッカーを描く人の意図はまた違うと思うんですよ。

石川 他の作品では、綾崎隼さんの『レッドスワン』シリーズは、綾崎さんならではのキャラクターが高校サッカーという舞台で生き生きと動いている好例ですね。サッカーの競技そのものの魅力に関しては、やっぱり実際の試合を観る以上に人の心を揺さぶるのってなかなか難しいと思うんです。だから、サッカーをテーマにするにしても、なぜサッカーなのか、なにがその作品の武器なのかは考えないといけない。サッカーアニメも、サッカーシーンを描かないといけないのに、様々な制約もあってそこがむしろ瑕疵になってしまっていたりしますからね。

岡村 現実のサッカーに勝てないからね。

石川 小説でサッカーを描きたいなら、これも座談会でよく言っていることですが、やっぱり掛け合わせが大事かなと。「サッカー×何か」、例えば経営とか。

太田 小説ならではの良さを活かすってことが必要だよね。ただ、サッカーってスポーツは起こる出来事がことごとく一瞬だから、基本的に小説にあまり向いていないと思う。野球はいいんだよ、ターン制だから。今はこっちの、今度はあっちのターンというのが分かっているから、わりと小説と噛み合いやすい。スポーツだから基本は一瞬の判断なんだけど、今はこの人が打席に立っている、というのが5ページ続いてもいい。でも、サッカーは一人の人間の思考が5ページ分も続かないでしょ。

俯瞰して見ないとわからないですよね。

岡村 一対一じゃないですからね。

太田 ターン制じゃないと難しいのよ。どっちが攻撃側なのか守備側なのかはっきりしないと。

岡村 それはあります。だから将棋とか、完全に攻めと守りが分かれているものは小説にしやすい。

ターン制のものが小説に向いているんですね。

太田 そうそう、僕はそう思います。だからバスケとかも小説にはあんまり向いてないね。

丸茂 『走れ!T校バスケット部』が希有な例ですかね、バスケは小説で描くのが難しいんですよ。

太田 例外はもちろんあると思いますが、攻守入り混じるところが面白いスポーツは小説にはあまり向いていないと思います。マンガはできる。コマごとにポンポン視点が変わっていく面白さを打ち出せるからね。

カーリング小説は狙い目?

片倉 『ヤップ!』はカーリングの小説で、今回読んだ中で一番面白かったです。

ターン制だから小説に向いてる!

片倉 高校生の男の子が主人公の部活ものです。主人公は子供の頃からフィギュアスケートをやっていたんですが、故障してスケートを断念したところでカーリングと出会い、大会に向けて練習していきます。いよいよカーリングの試合だというときに、子供の頃から主人公と一緒にスケートを続けていた幼馴染が現れて、主人公がスケートを諦めるのは納得できないと言って主人公に挑戦状を叩きつけるんです。「自分が次のスケート大会で優勝したら、お前もカーリングを辞めてもう一度スケートに戻れ」と。結局、幼馴染はスケートで準優勝し、同時に主人公はカーリングで勝ち、主人公がカーリングを続けることになって仲直りする、と。

岡村 何かのスポーツをやっている人が挫折して別のスポーツに行くっていうのはある意味鉄板でいいと思うし、カーリングもすごく注目されているスポーツとは言えないけど、それこそターン制だし、カーリング自体は面白く描けそうです。

片倉 氷を磨くのは摩擦熱で氷を溶かし、水の上を走らせることでストーンの滑りをよくするんだ、みたいに意外と知らないことが多くて勉強になりました。素人にもわかるよう丁寧に描写されていて、カーリングのシーンがよかったです。しかし、主人公と幼馴染の対決が間接的なまま進んでしまったのが残念でした。

岡村 聞いている限り最初の設定は悪くなくて、途中までは面白そうだと思ったんだけど、キャラクター間の人間ドラマの部分がよくわからないな

片倉 幼馴染が勝ったら自分はカーリングを辞めないといけないけど、幼馴染は応援したい。

岡村 ちなみに主人公は男で、幼馴染も男なの?

片倉 幼馴染も男です。

岡村 作者さんは女性だよね?

片倉 はい。あ、言われて初めて気づきましたが、これBL入ってるかもしれないですね。

しかし、片倉くんの語るときのテンションが低過ぎて、本当に面白かったのか不安になってくる

太田 あらすじを面白そうに語るのがこの座談会における編集者の仕事なんだから、頑張ってください!

「ファンタジーは売れない」は半分間違っている

太田 ここからは後半戦、各担当が推薦したワンレベル上の粒ぞろいの作品です。

櫻井 私が上げたのは『イザヨイの月』という和風ファンタジーです。あらすじをいうと、人形に命を宿す力を持った人状師というのがいる世界で、その弟子である主人公視点で、彼自身の出生の秘密を追う冒険に、王宮や過去の歴史を絡めるという構成がうまくコンパクトにまとまっている点を評価しました。特にクライマックスは地下にいる巨人に出会う、という感じでいいシーンを織り交ぜながら盛り上げていくのがいいと思いました。ただ100点満点ではなくて、ところどころ描写がわかりづらく、何をしているのか把握しにくい箇所があるのは改善点ですね。また人状師などの、この作品オリジナルの設定に対する説明がもうちょっとあったほうがいいかとは思いましたが、この二点を除けば完成度が高い作品かと思いました。

石川 よくできた作品だとは思ったのですが、推しやすいか推しにくいかというと、推しにくい。櫻井さんのいう通りコンパクトにまとまってはいましたが、それでも密度が若干足りない気がして。長篇にするならもっとストーリーを膨らませる必要があるし、むしろもっとソリッドに削ぎ落としたら素晴らしい短篇・中篇になる予感がしました。もし仮に出版するとしたら、これを中篇にまとめて、もう一本中篇を付け加える方向もありなのかなと。

岡村 世界観が魅力的なのと、あっと驚く結末が僕は好きでしたね。そこまでキャラが立っていないので、登場人物に好感を持ったり、共感したりというよりは、一歩引いて見る感じで読みました。実力があるのは確かですが、ライトノベルをよく読む僕の趣味からすると、味付けが薄いように感じてしまいました。

櫻井 キャラが売りの作品ではありませんからね。ただ確かに登場人物の存在感が薄いので、例えば主人公の相棒をもっとキャラ立ちさせたりした方が面白くなると思います。

太田 オリジナル世界のファンタジーって、はっきり言うとただそれだけでは市場がないんだよね。光りまくるワンアイディアがどうしても必要。

岡村 歴史改変とか、何かをベースにした上でアレンジするものの方がまだ想像しやすいんでしょうね。

太田 『進撃の巨人』はテンプレではないファンタジー世界だけど、めちゃくちゃ受けてる。成功している作品とそうではない作品、何が違うのか考える必要がある。その上で素直にテンプレを使うとか、『ベルセルク』みたいに強烈なキャラクターを登場させるとか。

オリジナルのファンタジーをやるなら、ファンタジーという以上の強烈なインパクト、『進撃の巨人』の巨人に食べられる恐怖とか、そういうキャッチーさが必要なんですかね。

太田 そうですね。ファンタジーは流行らない、で思考停止するんじゃなくて、現実にファンタジーで流行ってるものがあるんだから、その理由は考えるべきだと思う。

石川 ファンタジーライトノベル自体はむしろ盛り上がっている気もします。

丸茂 ゲーム的な世界観をテンプレとして踏襲する「異世界もの」として、ですね。

石川 それも含めて、ファンタジーが読まれる土壌自体はいま整備されていっていると言ってもいいんじゃないでしょうか。まったく新しいファンタジーが次々に登場しているか、はまた別の話だと思いますが。ファンタジーという大きな括りでは、いまは冬の時代ではないと思います。

丸茂 オリジナル世界だからダメということではなく、この作品の面白さがそこまで達していないだけなんです。単純にカタルシスが小さいのと、落ちが想定内で意外性がないのがこの作品の弱さだと思います。端正な魔法使いの弟子ものという感じで、決して悪くはありませんが。

太田 僕が思うに、オリジナルのファンタジーで成功するのに絶対に必要なのは、主人公の強力な動機だね。

岡村 そうだと思います。あとは自分が魅力的だと感じるキャラクターがまずあって、その人物を一番活躍させられる舞台がファンタジーだったらやればいい。舞台から先に考えるのではなくて、キャラクターから先に考えるべきかと。

太田 逆にいうとオリジナルのファンタジー的な部分だけが目立っちゃうのはやっぱりダメなんだよ。いっそファンタジー要素が隠れるくらい、ファンタジー以上に売りになる要素がないと成功しないと思う。

岡村 オリジナルのファンタジー世界を作るのは作者は楽しいですが、読者にとっては世界観を理解するだけ手間ですから、オリジナル世界観だけを作品の売りにするのはかなり難しいです。

太田 作り手と読み手のギャップはあるんだよね。奈須きのこさんも強固な世界観がある作家さんだけど、奈須さんの作品の世界観の部分だけを読んでも普通の人はそんなに面白くは感じないと思う。

丸茂 『空の境界』だったら魔眼を持つ女の子が強力な敵を倒していくという異能バトルのラインがありますからね。

太田 両儀式がいたら、極端な話、奈須さんならどんな世界を描いても面白く描けると思う。

櫻井 キャラの問題ってことですか?

太田 いや、そうなんだけどもっと絞って言うと主人公の強力な動機。キャラが立っていなくても、魔眼のような特殊能力を持っていなくてもいい。物語のドライブ力として、主人公がその世界で何のために冒険をしているんでしょうという点をはっきりさせないと、世界観の面白さの方が勝っちゃうんだよ。そしてその世界観の面白さだけでエンタメとして成功するのは本当に難しい。

丸茂 この作品は、主人公の自分探しに読者が興味を持ちにくくて、冷めた目線で見ることになってしまっていますね

まとめると、主人公の強烈な欲求はエンタメの必要条件ということですね。たしかに、読むのが辛い作品って、「今この場面、何してるんだっけ?」と思うことが多いんです。

岡村 主人公が何のために行動しているのかがわかれば、読者は主人公に肩入れできるわけですよね。でも、この小説だと動機がわかるのがだいぶ遅い。

櫻井 冒頭、いわゆる巻き込まれで始まりますからね。

太田 やっぱり、世界観の部分はテンプレでやって、キャラクターやストーリーに全精力を注いだものが人気を博しがちなのには理由があるんだね。それはそれで否定しないけど、作った世界観を活かすために、主人公が何をしたいのかをはっきりさせないと異世界の味付けに負けちゃいがちだってこと。異世界の味付けだけをメインに楽しもうという読者はごくごく少数です。

櫻井 この方は世界観を作り込んでいるけど、説明しすぎになっておらず、筆力はあるので頑張ってもらいたいですね。

太田 前半の情報開示の仕方は改善の余地があるけど、才能があるかないかでいうとあると思います。

丸茂 エンタメとしてのストーリー構築がこれからの課題でしょうか。またの投稿お待ちしてます。

暗号ミステリ、受賞なるか!?

太田 ラストです! 『ヘルメチカ・ウィズダム』!

この作品は数学ミステリなんですよね。

太田 いや、これは数学じゃなくてもっと端的に言うとパズルなんだよ。

岡村 作者さんもキャッチコピーに「暗号ミステリ」と書いてますね。

太田 数学版のレイトン教授なんだ。ただ僕は数学のところは全部読み飛ばした! すみません! みんなは数学どこで挫折しました?

岡村 正直、上げた僕も数学のところは読み飛ばしました。

櫻井 私は楽しく読みましたよ!

太田 マジで? やっぱ東大卒は偉大だな!

岡村 大学生の主人公が、莫大な富を生み出せる金融ソフトウェアを持ったヤクザと出会い、協力してソフトウェアにかかっている暗号ロックを解いていくというストーリーです。どうしてこの作品を上げたかというと、先ほどの話とリンクするんですが、主人公の「大切な人を救うために大金が必要」という動機が序盤に提示され、その動機を満たすための手段である「大金を得るために金融ソフトウェアの暗号ロックを解いていく」というのがそのままストーリーラインになっている。だから「暗号ロックを全て解く」ということがこの物語のゴールということが読者にもわかり、迷わずグイグイ読んでいけるんですよね。暗号のミステリ的なところよりも、物語の推進力の高さがこの小説のいいところだと思います。あと、いわゆる新人賞投稿作品にありがちな、役割を果たすためだけに出てくる登場人物を極力減らすようにしてるのもいいと思いました。ただの悪役だと思っていたら、たった半ページ分だけですけど、実はその人にも家族がいてそのためにという記述があり、悪党だけどこいつもやっぱり人間なんだな、と思わせるようなギャップのある描写をしています。自分の目的のために主人公にひどいことをするんですが、自分の家族のために行動しているとわかると、キャラの印象が全然変わってくるんです。テンプレといえばテンプレですけど、物語の構成と登場人物の描写という点で、小説の基本をしっかりと押さえているのがgoodです。

太田 ミステリとしてはクイズものに入りますね。謎とストーリーが絡み合わず、それぞれ独立しているものです。

丸茂 「このストーリーだからこそ、この暗号が登場する」という必然性がないので、僕はかなりこの作品の評価は辛いです。ダイイングメッセージとして暗号を提示するのが鉄板だと思うのですが、そうではない。近年の暗号ミステリでは『涙香迷宮』が傑作で、この作品は黒岩涙香が残したいろは歌の暗号という超巨大な謎を扱っているから盛り上がるんですが、この作品の暗号はとても小規模です。

太田 現在、ミステリよりも謎解きの需要が大きいから、ミステリ小説として小説版レイトン教授は成立すると思います。それはともかく、この作品は主人公のインテリ大学生と相棒のヤクザが本当によく書けてるんですよ。バディもののドラマになってもいけると思う。頭はいいんだけどヤクザ的な発想で問題を解決しようとするがさつな人間と、基本内向的で数学で世の中の問題を解決しようとする人間との友情やトラブルはちょっとBLっぽくも読めて。

お、BLという単語が! 実は櫻井さん、この作品のBL要素を嗅ぎつけて、完璧なBLにするための改稿案を用意してきたんですよ。

太田 なんと!

櫻井 まず、この作品の面白かったところは暗号です。読み飛ばしていると気づかないんですが、作中の暗号は、数学以外の部分が結構雑なんです。暗号で手がかりとなる場所が示されるんですが、そこでキーワードを見つけるのが偶然すぎる! パスワードが見つかるかわからないのに、とりあえず行くしかない、ってなってて。

でも、『ダ・ヴィンチ・コード』っていう名作があるじゃん。それに、京都は狭いから意外と1日で数軒寺社回るのは可能ですよ。

櫻井 行ったはいいけど、看板とか全部くまなく見ないとパスワードがわからないんです。あと、警察とかヤクザの設定もテンプレすぎる。でも、これはBL的にはとてもいいんです! テンプレなイマジナリーヤクザはBL的には鉄板キャラです!

一同 なるほど!!

櫻井 ミステリやヤクザものとしてみたら粗が目立ちますが、BLならテンプレはかえって好都合なんです。亡くなった暗号の作者も、これだけふわっとした暗号を仕掛ける意図はなんだと思うじゃないですか。誰に暗号を解いてほしかったんだ、と考えますよね。でも、これらの問題はBLに改稿すれば全て解決するんです。

丸茂 (絶句)どうやって?

櫻井 まず、亡くなった暗号作者と相棒のヤクザがつきあっていたことにします。

太田 すごい、革命的だ!! そうなると暗号がラブレター的な遺言になるんだね、ある意味。

櫻井 二人は荒稼ぎして落ち着いたら南の島にでも逃げようって決めてたんです。でも暗号作者が失踪してしまい、彼を探すためにヤクザは暗号を解くことになるわけです。

強烈な動機だ!!

櫻井 彼を探すためのプログラムなんだから、彼の好きな数学が得意なやつを引っ張ってくる。そこから物語が始まるんです。

太田 金の亡者だと思ってたやつが実は愛で動いていた。お前の遺言を解くのが俺の使命、みたいな。ところがそのパートナーが新しい相手と、ってやつ? ひとつの改稿案として、これはいいと思います! 初めて櫻井さんに編集として負けました!

櫻井 主人公はヤクザに頼まれて暗号を解いていますが、彼の動機はなんですか? 金を稼いで死んだ恋人の妹の命を救う、ですよ。そんな取ってつけたような動機、どうでもいい! そんなの要らないんです。数学ができることで目を付けられて脅されて、とりあえずこの暗号解いてみろ、解けたら報酬をやると言われる、いわばお金の関係からスタートなんです。でも、この暗号を解いていくうちに、作者はすごい人なんだと感じ、彼とヤクザができてたらしいともわかってくるんです。このヤクザ、横暴でいいとこないなと思ってたけど、パワーはあるので自分を守ってくれる。行動を共にするうちにだんだん好きになっちゃうんです。

一同 なるほど。

櫻井 主人公にとってつらいのは、ヤクザはずっと失踪した暗号作者一筋なことです。

太田 こういうシーンを入れよう。ヤクザが主人公を敵のドスから守るんだよ。血が出るんだけど、そこで「大丈夫ですか?」「俺のことは心配するな」と。主人公はキュンとくるんだけど、ヤクザの心は暗号作者の方を向いている。「そんなことより一刻も早く暗号を解くんだ」切ないなー。

櫻井 主人公は最初は自分を認めてもらうために暗号を解いていくんだけど、だんだん作者が死んじゃってることがわかってくるんです。死んじゃった人には勝てないんですよ。暗号を解き切ったら自分のことを認めてほしいとほんのり思ってるんだけど、最後ヤクザも死んじゃうわけじゃないですか。二人は天国で結ばれて、独り遺された主人公は三人の愛の結晶であるヘルメチカ・ウィズダムで世界を滅ぼす、と

確かに、死んだ恋人の妹を省略して、三人に関係を集約したのはすごくいい。

岡村 いやいや、BL目線だから妹が余計に思えるだけで、そうじゃない読者には必要でしょう。

櫻井 お金で妹の病気が治るかはわからないし、そんな曖昧なものに命をかけるのはおかしいですよ。でもお金じゃなくて愛で動くなら、すべて丸くおさまるんです!

私はブロマンス派なので、BLまではしなくていいかな。

太田 ブロマンス以上BL未満でどう? 死んだやつとヤクザはBLでいいけど、主人公とヤクザはブロマンスでいいと思う。

この小説、うちのレーベルとしては若干キャラが弱いじゃないですか。キャラ立ちの問題も櫻井さん案で改稿すればOKですね。

太田 ただ、それだと主人公が巻き込まれすぎている印象はある。その中で主人公を際立たせる何かは必要じゃないかな。元の、恋人の妹を助けるっていう動機で主人公は「いい人」として設定できてるけど、妹を出さないなら代わりに何かが必要だよね。

丸茂 いやしかし、大改造ですね。この作品をミステリとして読むと結構厳しいと思ったんですが、ブロマンスとして読むとキャラが立っているんですか?

ミステリ部分の弱さは作品の比重をBLに寄せることでハードルを低くさせて、ミステリ風味のあるバディものとして売れば、キャラも立ってくるのではないでしょうか。

櫻井 男同士の人間関係をメインで見せる作品だと考えれば、京都を巡ったり暗号を解くといった要素がむしろ良い味付けになるだろうと考えた次第です! しかし、突然ですが今サッと夢から覚めたんですが、この作者さんはミステリを書きたいのであって、ブロマンスを書きたいかどうかは未知数だということに気づいてしまいました。あくまでも編集部の中で、この作品を売り込むための一つのアイデアとして議論していますので、もし作者さんがこれをご覧になっても、どうかお気を悪くされないでください。作者さんがこの座談会を読んで、次にBLやブロマンス作品を送ってきていただけたら、改めて出版を検討させてください!

太田 ですね。暴走しといて何ですが、今のは、さすがにちょっと暴走だったと思います。編集者の言う通りに直して面白くなるわけではないですしね。ただ、ひとつの編集者的思考実験として、「そういうのもあるのか」的に捉えていただければ幸いです。というわけで、今回は受賞作なしです! 残念!

おわりに

片倉 うーん、残念ながら今回は受賞作なしでしたね

そういえば、受賞作『孔雀の箱』はどうなっているんですか?

岡村 絶賛改稿中、というかほぼ終わってます。

丸茂 もう出るんですか?

岡村 来年初頭にはたぶん出ます。投稿時から格段によくなってます!! 楽しみにお待ちください!!

太田 こちら、僕もじっくり改稿に付き合いましたが抜群によくなっていると思いますね。刊行が楽しみです。

一同 それでは、次回もご投稿お待ちしてます!

一行コメント

『ケ・ハレ!』

いろいろな要素が盛り込まれている物語で、雑多でまとまっていない印象です。書きたいことと伝えたいことをもっと絞って、早く展開させていく必要があるかと思います。(岡村)

『殺された者たちの夢を返せ!』

リアリティの逸脱や偏執的な描写、視点の切り替わる構成など、成功すれば「幻想文学的」と言えるのかもしれませんが、そこまでは達していない出来だと思わざるをえませんでした。(石川)

『囁かなる世界に』

他人の夢の話を聞いているようなお話で、クライマックスが抜け落ちている印象でした。(林)

『ぽんこつ博士のへっぽこ世界は、今日も気まぐれによいちょ!』

クセが強すぎて、読んでも内容が全く頭に入ってきませんでした。(岡村)

『七人戦争』

異能バトルものとして、なにも新味がありませんでした。(石川)

『碧い瞳のミネルヴァ』

前作、前々作について座談会でコメントした課題がまだ解決していないようです。今回もやはり「知っていること」「調べたこと」を書きすぎていて、ストーリーやキャラクターの邪魔になっていると感じました。すでにある原稿を送ってくださっているのだろうと推測しますが、コメントを受けて自作を見直し、軌道修正するということもぜひ試してみてください。(櫻井)

『ジンセイゲームオンライン改』

小手先の設定に酔ってしまって、読み手のほうを向いていないと感じました。(石川)

『シー・ソー ファミリー』

常識がなくぶっとんだ登場人物が次々と出てきますが、それが魅力になっておらず、好感よりも嫌悪感がまさってしまうのが良くなかったです。主人公は基本的にそれを受け流すだけ、というのも共感しにくく、最後まで読んでもカタルシスや納得感がありませんでした。(櫻井)

『みことの園』

閉鎖病棟内外の人間の描写は、磨けば凄みが出そうです。出来事をただ連ねているだけで「どういう物語なのか」がわかりづらいのが、エンタメとしての弱点かと思います。(石川)

『消えた秘密』

AIを扱ったミステリとして、オチも推理も地味すぎます。野崎まどさんくらい想像もつかない真相を見せてほしい!(丸茂)

『冷涼の教卓 ~捕食霊の少女~』

重厚さを意識した文体に比べて物語の内容が軽すぎ、ミスマッチが生じています。シリアス展開のはずなのに、意図せずコメディになってしまっていました。(片倉)

『宝石の銘を持つ親子』

実直な作品という印象で読みやすく、前回作よりよくなっています。ただ、存在しない社会問題で読者の共感を得るのは難しいので、社会派路線でいくならネタを派手にするなど、読者の興味を惹く魅力的なテーマを考えるのが次の課題です。(片倉)

『Do you choose god or demon? 最悪で最高の選択

歴史改変ものをやるなら、「なぜ」「どのように」歴史を改変するのかを、「歴史的にありえるか」「ストーリー上の必然性があるか」という観点からしっかり検討した上でやるべきです。(片倉)

『イナゴ身重く横たわる』

世界観や歴史観の描写から、投稿者の方が持つ豊富な知識が伝わってきました。一方あえてそうしていると思うのですが、メインを務める登場人物の多さとそのライトさが、硬質な世界観や歴史観とうまくマッチしていない印象です。上質な肉料理に甘い生クリームをトッピングしているようで、不思議な感じでした。(岡村)

『チカ×チサ』

紙のゲラだけでなく原稿のデータも送付してください。規定違反です。事故でヒロインの人格が入れ替わるまでにページをとりすぎていて、物語の起伏がなく単調です。(林)

『社史編纂室長 玉木啓一郎の憂鬱』

主人公のビジネスとプライベートの両方をふんだんに描きすぎていて、どっちつかずという印象です。(岡村)

『死すべきものたち』

ストーリーは面白かったのですが、キャラ設定の水準がそこまで達していないので、今後改善していただければと思います。登場人物が葛藤なく悪事をはたらいているので、キャラへの感情移入がしにくかったです。(片倉)

『アイダシャフト』

軽妙洒脱な会話劇を主体にした学園コメディが書ける方だと思うのですが、独自の味付けをしようとしすぎてストライクゾーンを外してしまったのかなと思いました。学園もの、青春ものの良作を分析しながら読んで、ちょうどいい外し方や要素のかけ合わせ方を試行錯誤しながらまた書いてみてください。(石川)

『アイノス/皆殺しの天使』

他人の著作物(イラスト)を勝手に印刷し、原稿に付けて送ってくるというのは、いったいどういう了見なのでしょうか。二度とやらないでください。(石川)

『エディンの月』

しっかりと世界観が練られているのはわかりました。世界観をわかりやすく、面白く読者にプレゼンする情報開示の方法について考えていただければと思います。(片倉)

『可惜夜』

書きたいテーマがあり、それに忠実に書いているという印象に留まります。その意味で「よく書けている」のですが、広く読者を面白がらせる狙いがどこにあるのかわかりませんでした。(丸茂)

『魔法使いの居るところ』

こういう設定は好きなのですが、後発でやるからには同ジャンルの先行作品と比べて「おっ」と思わせる何か違う切り口が必要だと思います。(岡村)

『自由を手にした人間たちは Magical Idea Behind the Shape of Human』

コンパクトにまとまっているのはいいのですが、物語のスケールもこぢんまりとしていて物足りなかったです。AIやアンドロイドについて真正面から描くには、先行作品への目配せも独自の掘り下げも不十分だと思います。(石川)

『大賢者の孫娘』

いま社会問題となっているテーマに注目するのはいいと思いますが、物語の密度と長さの釣り合いが取れておらず冗長に感じました。(片倉)

『君の血の味は少しうるさい』

タイトル素晴らしいです! 推しに対する熱量やキャラクターの会話が楽しく、軽快に読ませてくれるのですが、最後までお話がやや小さくまとまりすぎている印象でした。(林)

『屋根族』

大きく拡げすぎた屋根族の設定を上手く使い切れていない印象です。お話のスケールが大きいことは良いことですが、うまく設定を考えないと全体がチープに見えてしまうので気を付けましょう。(林)

『蒼穹の井戸』

プロットが洗練されておらず、扱う事件も小さすぎたという印象です。女子高生が突然傷害事件に遭い、それを自分の過去と結びつけて独自に調べていく、という冒頭の展開には無理やり感がありました。そのあとも、まだキャラクターに愛着がない状態で過去の話になっていくので、「他人事感」で終始してしまいました。(櫻井)

『Black Blood Blade』

登場人物たちの内面や行動原理がよく分からず、読み進めるのに苦労しました。(岡村)

『今年、二度目の夏。』

登場人物が典型的な「ひと昔前のオタク」の言動をするので、シリアスなシーンもギャグになってしまっています。今のトレンドをリサーチしてみてください。(片倉)

『それが嘘でも、嘘だと言って』

本来しっかりと書くべきところ(主人公はどんな方法で校内で暗躍していたのか、など)の描写がすっぽり抜けています。面白さの源となるべき部分がないので、冗長なあらすじを読んでいる印象でした。(櫻井)

『軍人プロゲーマー煌』

eスポーツが注目されはじめているいま、「軍属のプロゲーマー」という設定はとても面白いと思いました。しかし、ギャグをやりたかったのかギャグの皮を被ったシリアスがやりたかったのかはわかりませんが、会話も「!」を多用する地の文も冒頭もあまりにスベっていて読み進めるのがつらく、「軍人プロゲーマー」についてもほとんど掘り下げられないままで残念でした。(石川)

『双頭のダークホース ~時空犯罪取締局 特別捜査官 波解明の事件簿~』

全体的にテンプレと厨二感が満載で、ちょっと読むのがつらかったです。それらはあってもいいのですが、最近流行っている作品を読んで、匙加減や「ハズし方」をもっと研究されたほうがいいと思います。(櫻井)