![](/works/extras/sfa021/00/00.res/ci.png)
2017年秋 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2017年9月5日(火)@星海社会議室
期待作に色めき立つも、依然受賞者現れず。編集部は喧々囂々!?
新たな旅立ちとなるか!? 第21回座談会開幕!
太田 さて、前回の座談会で彼の不在にお気づきの方もいたかもしれませんが、このたび今井さんが星海社から卒業しました。寂しくなるね。
平林 今井は死んだんだ。いくら呼んでも帰っては来ないんだ……。
林 いやいや死んでないですし、前向きな卒業ですよ。業界の皆さん! なにかイベントの企画がありましたら、今井さんが立ち上げた株式会社ツドイまでご連絡を!
岡村 座談会でわざわざ宣伝してあげるなんて、めちゃめちゃいい会社ですね、うち。
平林 まあ僕は絶対連絡しないけどね!
丸茂 (あ、あんまりいい会社じゃないかも……)
太田 さて、我々のほうも新たな旅立ちとすべく座談会張り切っていきましょう!
荒れる平林――波乱の予兆
石川 まずは平林さん、『死体置き場で朝食を』です。
平林 この作品、いきなり第三次世界大戦から始まるんだよね……。
石川 いつかの座談会でも言ってましたよね、「第三次世界大戦はやめてほしい!」って。
太田 僕は好きだぞ。
平林 冒頭から「第三次世界大戦――それは半島を訪れていた皇太子暗殺に端を発する」云々って書かれててさぁ……この時点できつい!
石川 どこかで聞いたことのある世界大戦ですね。
平林 さらにその後もやばい!
話はとある会員制のバーにて始まる。
「Hey,What’s up?(最近、調子はどうだい)」いつものように奴はいうだろう。
一同 (笑)
平林 内容としてはトリックの図とかが入るタイプのバカミスなんだけど、まず文章のテンションがしんどかった!
石川 次も平林さん、『双頭大蛇~神結之剣~』。
林 あっ、この作品には表紙イラストがついてますね。これは……!
石川 キャラがいわゆる『キャプテン翼』頭身で描かれてますね。
平林 これは「日本神話にはまだ誰も知らない物語があった」っていう導入から始まるんだけど、『古事記』も『日本書紀』もぜんぜん出てこないんだよ。『ニンジャスレイヤー』のほうが史実や文献を参照してるよってくらいのオリジナル日本神話だった……。
岡村 『ニンジャスレイヤー』はちゃんと調べて理解した上でふざけてるからおもしろいんですけどね。
櫻井 パラッとめくってみたら、「ショットバー龍」って出てきました。みなさんバー好きですね……。
平林 かっこいい舞台のイメージが貧しいよ! 目次もいちいち色を変えて印刷してるんだけど、そこにこだわるのはいいから作品内容をなんとかしてくれ! 以上!
太田 平林さん、いつにも増してキレッキレだねぇ。
平林 どの投稿作も、「これ前から座談会で言ってるだろ!」って難点が多すぎるんですよ。初投稿のひとも、せっかく座談会が公開されているんだから、受賞を狙うならちゃんと自分以外の作品への指摘も読んで傾向と対策を練ってほしいよね。同じことを言われ続けている投稿者はいわずもがなです!
太田 まあ、僕も丸茂さんにいちいちデュフデュフ笑うなって半年以上言い続けてるけど直んないしね……。(-_-)
丸茂 ああ、こっちに飛び火が……気を付けます。
星海社FICTIONSはエンタメ小説レーベルです
櫻井 次の『お客様は神様ですか?』は、前回林さんが推していた方の作品です。
林 前回の作品は風俗店の雇われ店長が業界でのし上がるお話でしたね。やっぱり今回も飲食店ものですか?
櫻井 その通りで、今度はうどん屋の話です。ですが事件を起こして、スケールを大きくエンタメにしてくださいという林さんからの意見はなにも反映されていません! 個人でうどん屋をいかに経営するかが、ひたすら書かれた作品でした。
丸茂 じ、地味だ……。
櫻井 両替が大変だから、個人経営のお店で一万円札を使ってはいけないということはよーくわかりました。
岡村 印象に残ったの、そこなんだね……きついな。
林 前回の作品は風俗経営の裏側という、ちょっと危ない感じがする題材がおもしろかったんですけれど、うどん屋だとスケールダウンですよね。
岡村 うどん屋経営の裏側でおもしろそうな要素ってどんなものなんだろう?
林 「全国のはなまるうどんを潰す!」って意気込んでるとか(笑)。
一同 (笑)
櫻井 職人気質の男性が主人公で、たしかに料理の描写はおいしそうなんですが、うどんやメニューへのこだわりや経営の行く末が淡々と書かれていくだけで、そこに興味がある読者はあまりにも少ないと思うんです。
岡村 そうですね。うどん屋の経営を目指している人にとってはいい本かもしれないけど、そこに読者を限定するのは厳しいよ。
平林 ちなみにうどんは関西風なの? 関東風なの?
櫻井 ええっと、関西風ですね(そこ、重要なんだ……)。私もうどん屋の設定にやや苦しさを感じました。ふつうのうどん屋ではなく「うどん居酒屋」でして、うどん以外のメニューも手を抜かずにつくっているという設定になってるんですよ。
平林 ほどほどに手を抜かなければダメだよね、それ。
岡村 ちなみにヒロインは誰なの?
櫻井 奥さんです。
平林 ええっ……それは厳しい。
櫻井 むしろ平林さんが厳しいですね。実は夫婦関係がもうひとつストーリーの軸にあって、主人公と奥さんの関係はかなり冷えていてセックスレスなんです。主人公からセックスしたいってアプローチすると、じゃあ30万円払えって返されてしまうんですよ。そのせいもあって主人公は鬱病になっちゃうんです!
丸茂 なんでそんなに殺伐としてるんだ。
櫻井 やがてお店は立ち退きの危機に遭って、奥さんが倒れて入院してしまうという事件も重なります。夫婦関係は少し回復するんですが、お店は結局立ち退かざるを得ず、新しくお店を出したいなぁと思うところで物語が終わるんです。
丸茂 立ち退いちゃうんだ!? 逆転劇とかないんですね!
林 エンターテイメントになってない気配をひしひしと感じますね……。『異世界居酒屋 「のぶ」』みたいに、ほっこりする短編の連作みたいなかたちにできないですかね。
岡村 いや、「のぶ」は現代日本より文明が未発達な異世界に存在しているから、我々が見知ったメニューが登場しても「なんておいしいんだ!」っていう演出ができて、カタルシスを感じるんだよ。
平林 異世界との文化ギャップや、人間関係に変化を与えて小さな居酒屋が国を動かしていくっていう複数のレイヤーで楽しめる話になってるんだよね。
石川 同じ方からもう一作送られてきてますね。『生地物語』。
平林 あれ、これは僕が担当だったんだけど、この人の肩書き、無職になってる。
櫻井 私の方では自営業でした……これはつまり?
平林 立ち退きに遭ったんだよ、きっと! それはそうとこっちの作品も身につまされる感じがする作品だったな……90年代感が濃厚で、ぜんぜん今風じゃない。就職したお店の経営不振が続いて最後までうまくいかないっていうストーリーで、文章は下手なわけじゃないけれど、話のつくりが全体的にオフビートだったのね。
丸茂 私小説テイストなんですね、一貫して。
林 劇的な起承転結がないのは読んでいて苦しいですね。星海社FICTIONS新人賞はやっぱりエンタメ小説の新人賞なので、物語に起伏をつくることは絶対に意識してください!
ぜんぶは書くな!
林 次の『ブロークン・チープ・スプラッター』も一行切りしていい作品ですが、あえてここで「書きすぎ問題」を提示したいと思います。主人公は自主制作映画を文化祭で上映するんですけど、その映画がとんでもないレベルの駄作だったんですね。観客の生徒が発狂したり、ゲロ吐いたりするレベルのつまらなさ!!!
平林 そこはおもしろいね(笑)。
林 この事件の責任を感じて、監督の主人公は不登校になってしまいます。映研の部員たちが主人公を慰めるために、VHSでしか出回っていない伝説のホラー映画を持って来てくれるんですよ。学校で上映会しようぜって。超いいやつですよね〜!! しかし伝説のVHSを再生すると、画面からゾンビの大群が現実世界にやってくるーーー!! というお話です。
平林 うん、よくわからないな……。
林 まぁ、いい意味でB級映画的なノリの話なんですよ。この作品のダメなところはそこじゃなくて、「駄作界の傑作」を文で懇切丁寧に説明しているところです。キャラクターに「すごい!」って言わせてたりして、読者に想像させればいいところを、この方は全部書いちゃってる。
岡村 実態を説明せずに間接的にすごさを表現するっていうのはひとつのテクニックだよね。
平林 フリーザ様は自分で戦闘力を言ってたけどね。
林 いやいや、フリーザ様やべぇって読者が感じるのは、めちゃくちゃ強いベジータがびびって泣くシーンがあるからでしょ! 考えた設定を書きたい気持ちはわかるんです。だけどそこをぐっとこらえて、書かないことでかっこよく見せる方法を勉強してほしいです。
キャラを借りても下駄は履けない
石川 次の『ワイルドハント』は、いつもB級映画風の作品を送ってくる方の投稿ですね。
丸茂 今回は僕が担当でした。特徴的な作品ではあったので触れておきますと、この作品はコナン・ドイル『恐怖の谷』の前後を描いたパスティーシュです。
平林 『恐怖の谷』ってどんな話だっけ?
丸茂 ○○トリックのやつですね。メインキャラクターは『恐怖の谷』の重要人物であるバーディ・エドワーズと、シャーロック・ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズ。そして奇妙なことに、會川昇さんの『UN-GO』で知名度があがった結城新十郎という坂口安吾が描いた探偵もこの面子に加わっています。
平林 まあいいんじゃない? スーパー探偵大戦でも。
丸茂 いやいや、そんな流水大説みたいな内容ではないんです。描かれるのは、ヘンリー・ジキル博士失踪事件の容疑者であるエドワード・ハイドの行方を追う冒険劇で、ミステリ要素はほぼ皆無です。道中には『ドリトル先生シリーズ』に登場するトーマス・スタビンズや、トム・ソーヤほかマーク・トウェイン作品のキャラクターなど、とにかく名作のキャラクターが続々登場し、やがてジキル博士とハイドが同一人物であることが判明します!
平林 そりゃそうだろうよ!
丸茂 まあそこに驚きはないですよね(笑)。ハイドの血を摂取すると人間の別人格を目覚めさせる効果があるとわかって、●●●●●●のハイド的な存在がモリアーティだったというのが一応の大オチになっています。ラストはエドワーズが長くつ下のピッピとノーチラス号に乗って北極海を目指すシーンで終わるという……。
林 映画の『リーグ・オブ・レジェンド』みたいだ。あれつまんないけど。
丸茂 フィクション作品からキャラを借用するのは、最近のFGOを感じさせるところでした。フィクションのキャラじゃないアン・ボニーとメアリー・リードの名前が出てくるのはきっとFGOの影響なんだろうな……。あるいは青崎有吾さんの『アンデッドガール・マーダーファルス』が近いかもしれませんね。しかし、キャラ多すぎです!
石川 盛り込み癖はこのひとの問題点かもしれません。思惑が入り乱れすぎてたり、フィクションとして難しいことにいくつも同時に挑戦しようとしたり。
林 そうそう。勢力がいくつも登場して、ややこしくなってるんですよね。もっとシンプルにしたらいいのに。
平林 「サイバトロンVSデストロン」にしろってことだよね。
丸茂 たぶん僕が気づいてないキャラの借用もたくさんあるんです。既存のキャラを借用するのはいいとしても、その作品自体としておもしろいものを書いてくださいっていうことに尽きます。主軸はあるとはいえ、新キャラの登場が延々と続いて物語を楽しむ余地がないので、ただ知識を見せびらかされているように感じてしまいました。
岡村 知っていないと楽しめない作品は、それだけでハードルが上がりますよ。僕が担当してる石川博品さんの作品はパロディがたくさんちりばめられてるけれど、それがわからなくても読んでいておもしろいし、パロディの元ネタを知っている人はもっと楽しめる仕様になってます。
丸茂 わかっていればニヤッとできるぐらいがちょうどいいですよね。
岡村 「ついてこれるやつだけついてこい!」って作品も嫌いではないんですけど、そこはもう作家さんの個性とか才能の領域の話になってしまうんですよね。
丸茂 でもこの作品は、キャラも世界観も元の作品をほとんど踏襲していないので、たとえ元ネタがわかったとしても楽しめないと思うんですよね。そのうえ、せめて『恐怖の谷』を先に読んでいないと最低限楽しめる要素も楽しめないだろうなっていう二重につらい作品でした。たぶん前回の座談会でキャラの印象が薄いっていう指摘を受けてのコンセプトだったと思うんですが、キャラをただ借用するだけではどうにもなりません! 以前石川さんが指摘していたように「あなたのオリジナリティ」を考えてみてください。
アラサーでも言わない!
林 次の『才女・榎本公子の悲劇と喜劇』は、超高校級の天才女子高生が女芸人になるっていう話でした……が、この作品では「台詞がやばい問題」を提示したいと思います。
平林 「おにーちゃんのえっち!」って出てくるの?
石川 前回読んだのに出てきましたが、本当につらかった。
林 あれに負けず劣らずですよ。現役女子高生の主人公がこんな台詞を言うんです。
「ふふ……モテればモテるほど女子を敵にしちゃう、いいオンナのジレンマね。でもあなたたちは……こんな私と仲良くしてくれる。ありがとね。三人娘さん」
一同 やばいやばいやばい!
林 この女子高生、間違いなくアラサーですよ!
岡村 いや、アラサーでも言わないんじゃない……。
平林 投稿したひと何歳なの……31歳! 僕より歳下だよ!?
林 女子高生が主人公なのに、5ページ目でこの台詞は冷めます! 自分が等身大で書けるキャラを書いてください!
平林 そのひとに女性を書けるのかっていう根本的な問題はあるけどね。書けないのなら、割り切って「キャラ」を書くっていう意識でいてほしい。
ドS平林、覚醒
石川 ここからは各担当が推薦した作品ですね。今回は3作品ありました。まずは岡村さんがあげた『校舎の片隅で見た夢』からお願いします。
岡村 この作品は強烈でしたね。ギフテッドの少年が主人公なんですけれど、この少年は自分のなかに絶対の正義を持っているんです。
太田 そうそうそう! サイコパスなんだよ、この子は!
岡村 しかも行動力が半端ないから読んでいる側からすると「アイタタタタ!」って感じる行動を次々と起こしていくんですよね。いきなりヒロインである一学年上の幼なじみの教室に乗り込んで上級生と討論を始めちゃう。「幼なじみの立場も考えてあげて!」ってなるんですけれど、それが最後までぶれない。
平林 でもそれはさ、我々一般人からの印象であって、彼は「自分こそが正しい」って世界を見てるんだよね。
櫻井 こういう思考のひとは現実にもいると思うんですけれど、この主人公は諦めを知らないことがすごいですよね。周囲と摩擦があってふつうならそれに迎合するのに、彼は絶対に折れない。
岡村 そう! めちゃめちゃ根性があるんだよ! とくに、この作品でいちばんよかったのは、敵役である生徒会長の山崎に幼なじみをとられたとき、「こいつは潰さなきゃだめだ」ってすぐに決意してるんだよね。この潔さ!
石川 心の中とはいえ、ヒロインに対しても人殺しって罵っていて「お前は何様なんだ!」って思いましたけどね(笑)。
平林 大なり小なり世間との認識の違いが個々人にあると思うんだけど、この主人公はなまじ能力が高い分、ふつうなら論理矛盾をわかりつつも流されちゃう場面で流されないんだよね。とても啓発的な作品だと思う! いやー、共感するなぁ。
丸茂 え……平林さん、いま共感するって言いました?
岡村 周囲とあわないせいで痛い目を見ることもあるんですが、彼のエゴイズムに満ちた正義によって救われた子もいるんですよね。そして最後は疎遠になっていた幼なじみとの関係を修復……というか、彼女を屈服させて終わります。
太田 「やっぱり俺のほうが正しかったろ、はい論破!」って感じだったよね。
平林 あのシーン本当によかったよね! この作品、僕は推すよ!
一同 えーーーーー!!!!!
平林 うん、おもしろかったね(満面の笑み)。
石川 そ、それは言葉通りに受け取っていいんですか?
平林 もちろん!
太田 うそー! 僕は緑萌さんとは逆で、途中で読むのが耐えきれなくなったよ。
岡村 意外ですね。太田さんこそ同じ思考の持ち主だと思ってました。
太田 なんてこと言うんですか。僕の心の透明度はバイカル湖クラスですよ!
平林 最後さ、いままでタメ口で会話していた年上の幼なじみが主人公に対して敬語になってるんだよ。あれ……ゾクゾクしたよね。最高だった!
一同 ひいいいいい!!!!!
太田 こわいよ緑萌さん!
平林 同意は得られないだろうなと思ってるけど、あのラストシーンだけで、僕のなかではこれ受賞!
太田 緑萌さんとは本当につきあいが長いけど、そんなにやばい人だったの!?
平林 いや、実際にはああいった振る舞いはできないからこそ、ダークヒーローに憧れることってあるじゃないですか。
丸茂 変形的な俺TUEEE系作品だと思うので、読者はいるにはいると思うんですけど……あまりに「俺が正しい」って自意識が強すぎて、彼の一人称から距離を置かないと読めなくないですか!?
櫻井 でも、隠れた読者はいそうですよね。実際にこういう人、大学院によくいました!
平林 それに、この年齢でよく学生生活を描けてるよ。若ぶって最近の小説を描こうっていう力みがない。このひとはもと教師なのかな? 定時制高校の描写が異様にリアリティがあったんだよね。
岡村 青春もちゃんと描けているんですよね。幼なじみと疎遠になってる間の、定時制高校の子たちとの交流はわりと安心して読めました。
石川 同級生たちのキャラは好感がもてましたよね。
平林 だからこの人は主人公が異常だってことをわかっていて書いていると思うよ。もっと広く読まれるためには主人公の挫折と成長、しっぺ返しを受けての反省とかを書くことが必要だと思うけど、でもそれがないからこの作品はいいんだよね!
太田 平林さんのSっ気を刺激したってことはわかったけど、でもやっぱり僕は主人公の言ってることわからなかったな……。
平林 僕も多くのひとに伝わる作品だとは思ってないですよ(笑)。過去の受賞作を推したときのようにこだわろうとは思ってないけど、僕にとってはいい作品でした。おもしろかったです。送ってくださってありがとうございました!
石礫が林を襲う
林 次は私が推薦した『汝、己がすべきことをせよ。そして幸福を恐るゝな。』ですね。
平林 おい林ィ、これさぁ……。
太田 この原稿さ、終わってねーじゃん! 「二巻へ続く」で終わってんじゃねえか!
林 キレる気持ちは分かります……今、みなさん私に尖った石を投げつけたい気持ちだってことは! でもどうか、手に持っている石を一旦置いて私の話を聞いてください!
石川 『ノーウェアマン』受賞のときに候補に挙がっていた方ですよね。悪人がいっぱい登場する作品を送ってきていた。
林 はいそうです。座談会の後に私の方から連絡をとって、これまで何度か原稿を頂いていました。今回ようやく手頃なページに収まる作品を頂いたので、推薦させていただきました。簡単に作品のあらすじを説明すると、マフィアの構成員である薬中の若者4人が、元締めのボスの部屋にある金を盗んで、組織から抜けようと画策するコンゲームものです。
石川 以前の座談会で指摘したことをこの原稿でも繰り返してますよね。作中内小説のトリックがあって、今回は作中内映画っていう入れ子のギミックをまた使っている。
平林 バレバレで無理があるトリックだったから、「入れ子構造が余計」って僕が言ったじゃん!
石川 今回のトリックも不要ですよね。かなり不自然なところがありますし、あまり意味があるように感じませんでした。
平林 物語もテンポが悪い。黒ミサとか、回想とか、強盗前の告白とか、いらない描写が多すぎて「さっさと強盗やれよ!」っていう気持ちにしかなんないよ。
丸茂 描写が細かすぎますよね。麻薬でラリっちゃってる描写とか楽しく読めるところもあるんですけど、「かっこよく描写してやるぞ!」っていう意識が透けてる感じがする部分が多かったです。あと野暮なツッコミですが、僕は「ユダ」ってキャラ名が出てきた時点でかなり冷めちゃいました。
石川 ああいう描写が好きなんでしょうけど、わき道に逸れすぎです。
平林 伊坂幸太郎作品を書写してみてはいかがでしょうか? もっとシンプルに書かないと!
石川 キャラは魅力があるんですよ。話の流れ的に風向きが悪い方向に行きそうで、キャラには愛着があるから悪い目に遭ってほしくないと思わせつつ、けれど先を読みたいと感じさせる筆力もある。でも結局つらい方面に突きぬけずに終わってしまって、中途半端な印象でしたね。
林 ……本当にみなさんの言うとおりです。「行って帰る」みたいな、シンプルな構造にしましょうと提案しても、いつもキャラの過去を掘り下げすぎてしまう。「全部林さんの意見を反映させました」っていつも言ってくださるんですけど、問題が解決されない。私はどう説得すべきなんでしょうか?
平林 言ってこれかよ!
林 でも冒頭は素晴らしいと思いませんか? 状況説明と物語の目的を手際よく伝えているし、「誰が裏切りものなのか?」というサスペンスもある。私、20ページくらい読んで「これは傑作になるぞ!」と確信して、全部読み切る前に推薦しちゃったんですよね。だけど読み進めるうちに、前半での高得点がどんどん減点されていって……。「これは座談会で袋叩きにあうな」と死を覚悟しました。
太田 なんでこういうふうになっちゃうのかな。下町のキリスト的な感じから見るに、きっとこのひとは使徒とか救世主とかを真正面から描きたいんだよ。不良のような穢なるものに聖性が宿るって感じの作風なんだよね。花村萬月さんみたいな。それは好きな人はいるけど、読者は限られる。
岡村 シンプルに高校とかを舞台にすればいいんじゃないかな。
太田 学生生活は多くのひとが経験してる共通基盤だからね。
石川 魔改造したら『池袋ウエストゲートパーク』にできないかなと思いました。
林 わかる! 私も最新版の『池袋ウエストゲートパーク』を書きましょうって言ったんだよ。
平林 うーん、このレベルだったら書けるけど、このレベル以上の所へ行けないっていう壁にぶち当たり続けている感じがするよね。本人は林さんの意見を取り入れてるつもりなんだけれど、もうこのひとが譲れないと思っているところよりも譲らないといけないんだと思いますよ。それがこのひとにとっての書く力になるはず。だからもう林さんは次から担当しないほうがいいんじゃない? 丸茂くんとか、こういう作品が好みじゃないひとに回すべきだよ。
岡村、ツボをつかれるも……
石川 最後はこちらも岡村さんがあげた『銀神のベビースタイ』です。
岡村 これは「The 中二」って感じの作品でしたね。ピンポイントで僕の好きな要素がいっぱい入ってるんです。主人公は不治の病に罹っている妹を救う薬を開発できるような天才なんですが、加えて全知全能の女神が宿っているという設定になっています。
石川 ヘルメス! このネーミングセンスは……。
岡村 まあそれは否定できないが僕は好きですよ! ヘルメスっていう女神による全知全能の力を持っているがために、彼はドイツの企業から狙われます。その後なぜか日本の一都市がバイオハザード状態になり、ディストピア的な荒廃したその場所で中二バトルが繰り広げられるんです。
丸茂 バトルが始まる前後でかなりギャップがありますよね。とくに序盤の妹に関しての描写は現実に存在する病名が出されていて比較的現実寄りの描写だったので、薬開発から雲行きは怪しかったですけどその後の中二展開はかなり異物感がありました。
岡村 その気持ちはね、すごくよくわかる。このひとはリアリティを入れる要素が独特なんだよね。中二展開がある一方で、いまの日本や欧州の立ち位置をリアルに描こうとしている。主人公の能力やバトルシーンは明らかに異質なんだけど、そこと現代の世界情勢の描写が変な融合をしているところが個人的にはツボでした。加えて、主人公の思考や行動原理が最初に明示されているからか、彼の行動がすごく自然に描かれていて、なんでこういう行動を取るのかわからないっていうストレスが少ないんです。あと敵役のエリファスっていうキャラがめちゃめちゃ好きでしたね。
石川 実は……なんかこれ読んだことあるなぁと思っていたら、前回このひとが応募してきたとき僕が担当だったんですよ。僕が星海社に合流したばかりのときなので、二年前くらいだと思うんですけれど、キャラとおおよそのあらすじは一緒だったので、そのときの作品をアップデートした作品みたいなんです。
平林 それはあまりよくないねえ。
岡村 えっ! でもドイツの情報とかめちゃめちゃアップデートされてるよ! なぜか現代のヨーロッパの行政が仔細に書かれていて、現代ドイツのトルコ人移民の考え方とか「この人こんなものが書けるんだ!」って驚かなかった?
丸茂 僕はもっと個人的な作品が好きなタイプなので、あまりそのへんが楽しめなかったですね。
櫻井 私は黄金律に「アルカイック・スマイル」とルビがふってあるところが、とても気になって……。
一同 (笑)
平林 読ませルビ覚えたて感が(笑)。
岡村 僕は好きです。
櫻井 「ヘルメスは女神じゃない!」とか細かいところですが気になりましたね。私も虚実のバランスがとれていない印象だったので、中二っぽさを薄めていただきたいと思ったのですが。
岡村 櫻井さんはラノベとかあんまり読んでないでしょ。そういうひとにはきついかもしれないな……。
平林 うちは一般小説的なものもライトノベル的なものもどっちも来るからね。
岡村 ほかのライトノベル新人賞に投稿されてたら、もっとフィクション寄りの内容にしてほしいって言われると思うんです。その意味で、うちに送ってきたのは正しい選択だったと思うんですけどね。
太田 行き場のない作品の受け皿になっているのは嬉しいことだけどね。けれどまだ22歳のひとだから、バリバリ書いて新しい作品をまた送って来てほしいです!
1作ずつ前進を!
太田 ということで、今回も受賞作なしだったけど、心なしかはやく座談会が終わっちゃったね。
丸茂 投稿数が前回よりも減って41作品でしたからね。
岡村 とはいえ候補作は3作あがったわけだし、前回よりも白熱したんじゃないですか?
平林 つまり、つまらない作品についての盛り上げが足りなかったということですね。今回こそは……と、丸茂くんの話芸に期待してたんだけどな〜。
丸茂 力不足ですみません(T-T)
櫻井 (息を潜めている)
太田 しっかし、何度も投稿しているひとは1作ずつ前進が見たいですね。編集部に合流して半年以上経っても一向に上達の兆しがない丸茂さんの話芸よりも、僕はもちろん投稿者のみなさんの執筆の上達に期待しています。引き続きのチャレンジをお待ちしています!
一行コメント
『はなかご ~花坂爽太と放課後華女』
華道部という題材は興味を惹かれたのですが、描かれる事態が把握しづらい文章なのでその魅力を伝えられていない印象です。実際に「花の甲子園」というものがあるようなので、華道に青春をかける高校生たち――的な描き方ができなかっただろうかと悔やまれます。(丸茂)
『天使の猟犬は福音をもたらす』
「ミカエリス様」で面食らいました。あまり突飛な設定を使用せずに、日常の機微を細やかに描く方向で頑張ってみてはいかがでしょうか。(丸茂)
『まだボクはやってない』
バカな設定世界のなかでキャラクターが真面目に行動しているのがシュールギャグになっている作品。声を出して笑ってしまうくらいおもしろい箇所もありましたが、ネタに走りすぎていて商業作品としては成立が難しい小説だと思いました。(岡村)
『アイドル・シンドローム』
地下アイドルものとして、今期待されている展開がなく、情報が古い印象を受けました。もっとニッチな地下アイドル事情を描くとおもしろくなるはず。(林)
『仲鉢鏡子はパラサイトを捕まえる―妹が乗っ取られたせいで彼女の仲間になったのではありません』
読んでも登場人物にあまり興味が持てなかったです。登場人物の呼び名が何度も変わるのも、話がわかりづらくなるだけで特に良いことはないと思いました。(岡村)
『行く宛てのないおもちゃたち』
よっぽどのレベルにない限りストーリーが明快でない掌編小説集を評価はできないです!(丸茂)
『アスクレピオスの杖』
「ウェアラブル生命」や「アスクレピオスの杖」といったSFっぽいギミックが活きてるわけではなく、ポーカー勝負での頭脳戦に期待してたら結局肉弾戦になってしまったり、設定が練りきれていないのでは。トウコさんは魅力的でしたが、そのぶんほかのキャラ描写が薄くなっていた部分も残念です。(丸茂)
『龍哭の森』
わくわくする冒頭や、キャラクターの描き方はとても良かったです。それだけに、読み進めていくと舞台となる自然環境の描写や、特に狩猟のシーンが既存作品に似ていて、がっかり感が大きかったです。せっかく龍という生き物を登場させているので、もう少しファンタジーの要素と、オリジナリティを入れられたら良かったのではないでしょうか。(櫻井)
『WILDDays WESTERN』
作品のキャッチコピー「超絶B級マカロニウェスタン」は、ちゃんと内容に表れていて、軽妙なノリは好きでした。ただキャッチコピー以上の光る要素が特になかったのが残念です。(岡村)
『紙の海にて文字を追う』
「本」をテーマにするには勉強が足りていないと感じるところが多かったです。(平林)
『エカつかい』
異能力バトルものは鉄板のジャンルながら、競合作が多い領域です。見せ場であろう戦闘描写は決して下手ではないのですが淡々とし過ぎていますし、“負の感情に目覚める”云々という設定の安易さは拭えず、他作品と戦えるような突出した“なにか”が足りないと思います。(丸茂)
『千年の鎖』
まずは分量を五分の一にするところからです。全部を書いてしまおうとせず、読者に宛てて出すべき情報はなにか、それをいつ出すべきか、精査してください。(石川)
『FINE SKY』
作中で描く範囲よりも大きく、深く、世界を設定しておく必要があると思います。(平林)
『瞑想王子とハーレム教団』
大学生やサークルの描写が古さを感じさせる。展開にも意外性がなかった。(平林)
『空の大罪人』
いろいろと説明不足で、読んでいて「何故?」と思ってしまう箇所が多すぎました。(岡村)
『Sprit of the Darkness あの日、僕は妹の命と引き換えに世界を滅ぼした』
大がかりで難しい設定に挑んだものの、その可能性を引き出しきれずに終わってしまった印象でした。心意気は買いたいのですが、枚数も半分が適量だと思うので次は書きたいことを絞ってください。(丸茂)
『ドライ・アイ』
“密室殺人”というだけでときめいてしまう性分なのですが、山場にするのであればアイドルが全員連続殺人されるくらい派手な事件と解決劇を用意してほしいところです。事件以外のストーリーに起伏がほとんどないので、なおさらそう感じました。(丸茂)
『ようこそ我が電脳叛逆(サイバーパンク)へ』
SF描写がちょっと古いように感じました。最近の技術や用語を入れようとしている努力は伝わってきたのですが、それと世界観が噛み合っていないと思います。(櫻井)
『フォビドゥン・ブラッド-蒼の福音-』
殺伐とした物語における日常描写は、(最終的に取り戻せるとしても)どこかで失われてしまうからこそ輝くものです。殺伐さと日常のバランスが悪く、振り切り方が足りないために、底の浅い話になってしまっていると感じました。固有名詞や細部の描写も要向上です。(石川)
『Let there be light』
宗教色を押し出すのであれば、その方面の見識に裏打ちされた描写がほしいところです。単に“宗教”のイメージを濫用した目新しさのない異能力バトルものだとしか感じられませんでした。(丸茂)
『熱量女子!!』
前半の短編はたのしく読めました。SSとしてはかなりレベルが高いですが、長編になるとリーダビリティが低くなるのが残念でした。短編が有機的に繋がるような構成にしてみては?(林)
『ワグネルの指紋』
音楽や歴史知識の豊富さは伝わってくるのですが、登場人物、特に主人公の内面が読んでもよくわからなかったです。物語ではなく、テキスト量の多いセリフ付きプロットを読んでいる感覚でした。(岡村)
『死神メリーと、その従者』
5W1Hが足りない印象。(林)
『都市伝説は悪魔を語る』
タイトルも含め、冒頭から「どんな話なのか?」をきちんと伝えられるようにもっと工夫する必要があります。テーマやラストもぼんやりしていて、印象に残りませんでした。(櫻井)
『牢獄の捕食者』
発想が独特で、文体も人を選ぶとは思いますが実力を感じさせました。ただとにかく長いです。次は三分の一の分量でお願いしたいところです。(平林)
『悪霊彼女ト呪われ沃狐(イルコ)』
設定は良く作り込まれているのですが、複雑なお話や謎を追いかけながら読み進めるに足るだけの魅力はないと思いました。読者が引き込まれるようなキャラクターなどが欲しかったです。(櫻井)
『下北沢ケセラセラ』
この分量を費やすようなお話と思えませんでした。(平林)
『せかめつ!』
設定の説明のために、キャラクターが使われてしまっているように感じました。そのキャラクターも紋切り型なので、もっとキャラの個性や思想がわかるように工夫をしてみてください。(櫻井)
『ウサギ憑きの街に』
世界観が素晴らしい。ただ、その世界観を描ききる筆力が追いついていないため、読むのがしんどいです。誰が主人公なのか、はやめに提示してくれないと読者は混乱してしまいます。(林)
『緋色の試験』
いろいろと作中の設定や背景が説明不足で、いきなり2巻目を読んでいるような印象でした。章ごとに一人称がかわり、基本一対一の対話形式なところはとても読みやすかったです。(岡村)
『Got-Decode-Diva 幻想進化論』
1000枚超えの原稿に絶句したものの、文体に妙な魅力があり僕の担当作のなかではいちばんおもしろかったです。ただ読みにくい、万人受けしない文体だと思うので、もっと平易な文体と併用しないと脱落するひとがきっと多いのでは。そしてやっぱり1000枚超えはだめですよ。この規模の物語であれば、四分の一程度の分量が適切だったと思います。(丸茂)