2017年春 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2017年5月16日@星海社会議室

突出した作品現れず。しかし新規投稿者は半数以上、今後に期待が高まる!!

記念すべき第20回新人賞! 前回に続き、また新人編集者が加入!

平林 今回はなんと、第20回目の新人賞座談会です!

一同 おおおおーーーー!!!!(拍手)

太田 盛大なキャンプファイアーだった第1回目のあの頃、懐かしいなあ。そして当時から僕が一貫して思っていることは、雑誌が機能しなくなってきたら出版社の新人賞はこうやってネットでオープンにやるしかないじゃんってこと。実際、今では各社やり始めているからね。だけど、本来クローズドな編集部の中で行われている言動が100パーセントそのままの生すぎる形で外に出るっていうのは、やっぱりまずいことでもあるんだよね。それは認めます。その「越えちゃいけないライン」はこれからの各編集部が試行錯誤しながら実地で学んでいくべきことだと思っています。そして、そういうチャレンジをやらないで、僕たちは昔のままやっていきますよっていうところは、いずれ死に絶えちゃうと思います。

平林 じゃあ座談会を始める前に、今回から参加する櫻井さんに、おもしろい自己紹介をしてもらいましょうか。

櫻井 (いきなり無茶振りな!?)えーと、はじめまして! 新人の櫻井理沙です。おそらく、編集部の中では一番小説を読んでいない人間になります

太田 まじかよー(怒)!!

櫻井 ぎゃ、逆に言えば、読者視点で読めるかと

平林 いやいやいや、おかしいでしょそれ!

櫻井 うううすみません。この春に大学院を卒業したばかりなんですけど、年齢は30歳です! 専門は西洋史だったので歴史ものに興味はありますが、SFとかも好きです。みなさんご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願いします!

太田 全然おもしろくない。

平林 ほんとおもしろくない! もういいや(呆)。

太田 投稿作は、あきれずに楽しめるものだといいですねえ

時代ものはリアリティを意識すべし

平林 まずは丸茂くん担当の、『神様のいない国』。

丸茂 これは時代ものというか、歴史改変ものというか第二次世界大戦中に零戦で特攻を仕掛けた男が、タイムスリップして元寇の時代の対馬に行ってしまう話です。

平林 神風ってことか。

丸茂 その通りです。そこで勝利を収めたのち、彼はまた1940年代に戻ってくるんですけれども、歴史改変が起こって世界大戦がなくなってたっていうオチがつきますがあまり納得がいくオチではなかったですね。ちょっと驚いたのが、男はアヘン戦争にインスパイアされ、元の国力を下げるためにアヘン貿易を始めるんですよ。

平林 それ技術的に可能? どこでケシを栽培するの? 対馬でできるかな?

丸茂 博多の丘陵地で栽培してましたね中国からケシの種を盗んできて栽培し始めるという。そんな調子であまりに展開が荒唐無稽すぎるので、リアリティの有無を判断する感覚は麻痺させないと読めない作品でした。それに時代小説のつもりで書かれているとは思うのですが、会話が微妙に現代っぽくて「マジ」とか使われた瞬間に冷めちゃいましたね

岡村 細かい描写ほど気を遣って書かないと、物語に違和感が生まれちゃうよね。そういう投稿作品はよくあります。

石川 使い方はともかく、「まじ」という言葉自体は江戸時代からあったらしいですよ(ドヤ顔)。

丸茂 そうなんですか!? 勉強になりました。

岡村 まあ割り切って書くならまだしも、そうじゃなくてその言い回しならば直したほうが良いと思います。

丸茂 ぼくは歴史にうるさい人間ではありませんが、この作品は歴史をどう改変するかが要点だと思うので、ある程度のリアリティは必要だと感じましたそして長かったです。

現状380ページ。せめて半分のページ数で、スピード感をあげて語りきってほしかったです。

ユニークな百合、求む!

平林 次は石川くん、『彼女はわたしの恋奴隷』。

石川 これはダメでしたね

岡村 でもこれ百合モノでしょ!?

石川 百合ってだけで評価が上がるわけじゃないですからね! この作品の問題点は、そもそも「描写の説得力」というのを全然考えていないということです。舞台は小中高大一貫の女子校で、主人公は中学生。小さい頃から女の子しかいない環境で育ったから、学園の女子生徒はみんな女の子らしさを失ってしまっているということで、主人公は生徒たちに女の子らしさを取り戻させなければならないと思っている。でも、まずその女の子らしさを失っている生徒の描写が一切ないんです。そのあたりの舞台設定をきちんと作れていないのかもしれない。だから最初から前提が腑に落ちなくて、上滑りしているものを読んでいく感覚になってしまうんですね。

岡村 たしか最近のツイ4新人賞でも同じような指摘があったね。

石川 この人はこれまで4回送ってきてくれてるんですけど、そのうち3回が百合小説で、前回だけが百合じゃなかったんですよ。でも、僕が読んだ中ではそれが一番おもしろかった。ホストの男が女性客をとる添い寝屋の話で、舞台設定も会話もよかったんです。けれど百合をテーマにした途端、どこかで見たような道具立てしか使えなくなってしまっている気がするんですよね。

太田 この人は百合以外だと何が向いてるんだろう?

石川 前回の1本から推測するしかないんですけど、「日常の謎」は書けるんじゃないかな。百合をやりたいんだとしたら、百合であることに甘えず、設定を落とし込んでから書いてほしいですね。筆力はあるので、活かしきれていないのがもったいないです。

出来事よりキャラクターの内面を

岡村 『憂鬱な気狂いたちと黄昏のドリフターズ』は、端的に言うとゾンビものです。主人公は30代半ばの男性で、捕獲したゾンビを研究機関に売り渡して生計を立てています。

ゾンビ映画ではおっさん主人公は鉄板ですよね。テンション上がるなぁ!

岡村 主人公がある日突然死んだはずの娘そっくりの女の子に遭遇して物語が進んでいき、ゾンビやひいてはこの世界そのものの謎に迫っていきます。でも、種明かしのところがトンデモすぎて共感できなかった。簡単に言うと、この地球は火星人の実験場で、ゾンビが進化したのが現在の火星人。実験の目的はゾンビから火星人への進化の過程を観測すること、というお話です。

太田 『レベルE』みたいな話?

岡村 いや、そうだったらもっとおもしろいんですけど。

太田 あれは最高傑作だからね。

岡村 正直設定とか展開には、目新しいものはなく、先が気になって読み進めたいとは思えませんでした。でも読むこと自体はストレスを感じることなくできました。なぜかというと主人公の内面がある程度しっかり書かれているので、こいつはこういうキャラクターなんだなっていうことがわかった上で物語が進んでいくと、とりあえず最後までは読めるんです。

たしかに。キャラの内面が伝わらないと、物語もどうでもよくなっちゃうことありますよね。

岡村 キャラクターについての説明を、説明臭くなく提示できていることが大事ですね。投稿作は、まずこのレベルを目指してほしいです。小説の中で「何が起こっているのか」をわかるように書くのはもちろん必要ですが、それと同じくらい主人公が「どう思っているのか」が大事だと思います。世の中には数え切れないくらい作品が溢れていて設定とかはもういろいろなものが出尽くしているので、それ以外の人間を描く部分でもっと勝負したほうが良いかと思います。

とにかく冒頭が大事!

平林 次は林さん担当の『フォールスイード』だね。

たぶん、太田さんはこの設定すごく気に入ると思います!

太田 ほう!?

舞台は、花粉が有害になりすぎた社会で、人類はドームを作ってその中に移住しているという設定です!

太田 めちゃくちゃいいじゃないですか! 僕も移住したい!!

スティーブン・キングかよ!って思いましたけどね。

太田 『アンダー・ザ・ドーム』ね。

さらに、主人公がドーム外に探索に行くって話なんです。

太田 えっそれってもしかして

そう、『進撃の巨人』ですよね! 進撃×アンダー・ザ・ドームですよ!? テンション爆上がりで読みはじめたわけですよだけど冒頭が『進撃の巨人』でいうところの、調査兵団が壁の外の森で探検してるところから始まってしまうんです。こっちとしては、まずドーム内の世界がどうなってるのか知りたいのに、なかなかドームが出てこない。何が言いたいかというと、情報開示の手順ですごく損している。

岡村 その点については、小説はすごく難しいよね。漫画だったら1ページで済んじゃうことも、小説はその1シーンを描写するのにも、下手したら何ページも必要になったりする。序盤で読者を躓かせないための「読ませる技術」が必要ですね。最後まで書いたら、もう一回最初を書き直すとか、それくらいの周到さは必要でしょう。

太田 小説を1作書こうと思ったら、どうしても2〜3ヶ月はかかるわけじゃん。だから、やっぱり最初の設定はちゃんとしなきゃダメだよね。みんな、プロットをいくつくらい用意してから書いてるのかな? もちろん書きたいものを書くのが一番なんだけど、プロットを5〜6個用意して、その中から今書くべきものを選んでいくっていうのもいいかもしれないよね。ちょっとプロっぽい書き方になっちゃうけど。

少なくとも、書き出しは何パターンか書いてみたほうがいいですよね。

太田 そうそう。どのみち何ヶ月もかけなくちゃいけないんだから、早めに軌道修正したり、あるいは、設計図の段階でしっかりと考え抜くことが大事です。

この作品は「進撃っぽいからダメ」と言ってるわけではなくて、単に書き出しに失敗している。いろんな小説の出だしだけたくさん読んでみるとか、まだまだ工夫できると思います。

平林 映画を観るのもいいよね。古典的な小説は、限られた時間で説明する技術が成熟してなかったりするからさ。

岡村 確かに。

平林 逆に民放のバラエティ番組とかはそれがよくできていて、視聴者がチャンネルを変えたりテレビを消したりするタイミングを極力なくすように作られてる。それから、なんとなくパッとテレビをつけた人でも何をしてるのかがわかる。たとえば、今は芸人が何かヤバイものを食わされているんだな、とか。

15分に1度見所を作るという構成方法は参考になりますよね。最後まで見てくれたらおもしろさがわかりますっていうのじゃダメなんです。

太田 そういえば、『君の名は。』の新海監督が書いた感情導線を見たんだけど、ここでどういう気持ちになってという設計図を完璧に作ってる。もちろん読者の気持ちがその通りに動くとは限らないけど、やっぱりそれくらい周到にやるべきなんだよ。

平林 乙一さんもそんなふうに書いてるって仰ってましたね。

太田 そう、乙一さんはハリウッドの脚本の作り方を参考にしていて、全体を4分割してそれぞれにちゃんと山を作っていくっていうやり方をしているそうです。

そこは意識してもらいたいですね。才能じゃなくて技術的にできることですし。

平林 ハリウッド脚本術の本っていろいろ出てるけど、だいたい「主人公は何のために戦っているんですか?」とか「戦いに勝つと何が得られるんですか?」っていう質問が並んでるところがあるから、自分の小説が冒頭50ページでそれに答えられるかどうかをチェックしてみてもいいかもね。

太田 映画って最初の30分を見てつまらなかったら、「この映画つまんねーな」って思うじゃないですか。だから小説の原稿も、300枚あるとしたら最初の50〜60ページで「おもしろいな」って思わせてほしい。100ページ読んだところで「おもしろさはこれからなんです!」って言われてもね

岡村 小説は映画よりよっぽどシビアな媒体ですからね。映画館に行ったら最初の30分がつまんなくても「途中でシアターから抜け出すのもまわりのお客さんに迷惑だし、まあしょうがない。見るか」ってなるけど、小説はいつでも読むのやめられるから。

平林 それに映画は、先に1800円払って見るって決めちゃってるからね。

太田 『ディア・ハンター』は映画だからOKなんだよ! これ、最初の30分は田舎のほんとにどーでもいい話で、もうまじつまんないどうしようって思うんだけど、その後いきなりベトナム戦争の地獄が始まるの! そうするとさっきの30分の平和な話も必要なものだったんだってわかるわけ。でもこれができるのは映画だからで、小説では難しい。最後まで読んでくれっていう気持ちはわかるし、もちろんできるだけ最後まで読むようにしてますけど、じゃあこっちからも投稿者の方には「最後まで読ませてくれ」ってお願いしたいですね。

キャラクターと役割は違う

櫻井 次は私が担当した『ロストボーイズ/三芳野高校文化祭実行委員会警備班』です。いわゆる学園ものなんですけど、おそらくモデルになってるのは、××高校っていう男子シンクロ部で有名な進学校です。

男子シンクロ部って実在するんだ。

櫻井 小説の中では男子校から共学になったばっかりという設定で、伝統ある文化祭をやるために実行委員がいろいろと校内の規律を正していくっていうお話です。前半はまあふつうなんですけど、後半で結構テイストが変わります。というのもおそらく、この著者自身の実体験がかなり反映されてるんです。それを語るのが主人公のおじさんなんですけど、彼もこの高校の出身で、大学受験で失敗して就活もあまりうまくいかずに介護の仕事に就いてっていうキャラクターなんですね。こんなに楽しい高校生活を送ってても、どこかで躓いたらダメになるんだっていうことを語ったりして、そこだけ感情がこもってるのでグッときました!

丸茂 グッとくるんですね、そこ(笑)。

櫻井 はい。だけど、全体としてはちぐはぐなので、そこだけでちゃんとお話にするとか、バランスを考えてほしいと思います。

岡村 まあわかる。物語の本筋に全く関係ないところがおもしろいっていうことはよくあるんだよね。

石川 この人、以前はコテコテのB級映画みたいな小説をずっと送ってくれてた人ですよね?

岡村 そうなの?

ウエスタン系のバイオハザードみたいなのを書いてた人だ!! どうして今回は、こぢんまりした話になっちゃったんだろう。

櫻井 私も以前の皆さんの評価を読んだんですが、今回のはちょっと違うなって思いました。

今はどういう方向で書いていくのか模索している時期なのかもしれないですね。以前のB級映画テンション、個人的には好きだったんだけどなあ。

太田 この人には何を書いてもらえばいいのかな? テンションを上げてもらったほうがいいってこと?

石川 いや、テンションを上げる路線は、もうやり尽くしてダメだったって感じなんですよね。これで7回目なので。

平林 これだけコツコツ小説が書けるんだから、なにか飛び抜けたステータスがあればなんとかなる気がするんだけどね。

石川 たぶん、櫻井さんがおもしろいって言ったような要素は捨てなくちゃいけないと思うんですよ。メタフィクションが好きみたいなんですけど、メタフィクションってたしかに小賢しい読者にとってはちょっとおもしろい、けどまあそれだけじゃないですか。頻出していたパロディとか引用とかも同じことだと思います。もちろん影響を受けたものがあっていいんですけど、じゃああなたのオリジナリティはなんなんですか、っていうところなんですよね。

今思い返すと、物語の設定は覚えてるけどキャラは覚えてないんですよ。キャラの魅力が足りないのが大きな問題なのでは。

石川 そうかもしれないですね。

太田 キャラを作る力ってなんなんだろうね。脇役なのにずっと覚えてるキャラとかいるもんね。

岡村 いますねー!!

太田 どうやったらそういうキャラクターを生み出せるんだろう?

平林 自分のリアルの知り合いを徹底的にモデルにする。それが唯一にして究極の答えみたいなところがありますよね。

一同 (深く頷く)

太田 キャラクターを書けない人って、「役割」しか書けないんだよね。

岡村 ああ、確かに!

太田 キャラクターと役割は違うんだよ。

岡村 めちゃめちゃわかります。なんで小説の中で演劇やってるんだよ! って思うことがよくあるので。全然生きてる感じがしないというか。

太田 人間じゃないんですよね。

主人公を励ますためだけに存在している幼なじみとか、その典型ですよね。

オーソドックスなものや、自分がおもしろいと思った作品から学べ!

平林 『Shall we デカダンス?』は丸茂くんの担当だね。タイトルはおもしろそうじゃん。

丸茂 これは部活ものでした。主人公は転校生で、どの部活に入ろうか悩んだすえに、ある部室に迷い込む。そこは「廃部活動選定部」という、廃部にする部活動を選定していく部活で、そこにひとりいた女の子と一緒にいろんな部活を巡っていく話です。生徒会長との確執とか、一応ストーリーの軸となる部分はあるんですけど、基本的に展開されるのは男の子と女の子の会話劇で、しかしそれがおもしろくない。それなのに部活を巡るごとにキャラはどんどん増えていって、頭の中が飽和状態でした。それが300ページ以上あったので

太田 それはしんどい

丸茂 ストーリー性が薄いので、物語をつくるのは苦手な方なのかなと感じました。そこで会話劇を押していくという選択は妥当だと思うのですが、独特のノリは演出できているものの、楽しく読めるような会話の応酬にはなっていません。もっと流暢に書くならラノベの軽い文体を意識した方がいいのかなと思いました。会話をコミカルに立たせるには、平坂ひらさかよみさんや、伏見ふしみつかささんを参考にしてみるといいのではないでしょうか。

岡村 うーん、そういう作家さんたちは会話だけでもおもしろいと思わせる技術があるじゃない? 才能のある人にはできると思うけど、その高等技術をこの新人賞の投稿者に求めるのはちょっと酷だと思うんだよね。

石川 特殊能力みたいなものですよね。

岡村 だからもっとオーソドックスなものを読んだほうがいいんじゃないかと。小説家になるためにはまずこれを学べばいい、みたいなものがあればいいんだけど

太田 やっぱりさ、小説家になろうと思ったってことは、おもしろい小説を読んだからだと思うんだよね。そこに戻ってみるのがいいんじゃないかな。それで何がよかったのか、自分でもう一回考えてみてください。

独特の世界が暴走している

平林 次は僕が担当した『働く人々』なんだけど、これはヤバい。前回の乳首相撲の人なんだけど、今回は短編連作でとにかくヤバい。1話目は「自転車」っていうタイトルで、まあちょっと読んでみる

 木下さんがこの店で一つしかない自転車屋の門を叩いたのは高校を卒業してすぐだったという。

「小さい頃から自転車に憧れていて、大きくなったら自転車になりたいと、ずっと思っていました」

 店に入って左の奥、ママチャリや少しオシャレなシティサイクルなどの自転車に並んで、木下さんも売られている。

 入社当日、木下さんはヤル気をアピールするために、全身グレーの光沢がかったタイツを着て店に現れたそうだ。

「少しでも自転車に見える服で、と思って、一六歳の誕生日に父に買ってもらったものです」

 以来、それを着ての朝のランニングが日課になったという。自転車になるなら、人を乗せて長距離を走れなければならない。それができないなら自転車ではない。そう自分に言い聞かせ、毎朝10キロのランニングを欠かしたことはないという。

こんな感じで、木下さんが自転車になるためにがんばるっていう

一同 (唖然)。

でも売れっ子芸人か星野源が出したら売れそう

平林 そう、確かにこれがものすごく売れてる芸人のコントの台本だったらけっこういい線いくんじゃないかと思うんだよね。実際この人は放送作家をやってるみたいなんだけど、でも小説としていいのかっていわれるとどうなんだろう

他の短編もこんな感じなんですか?

平林 うん。例えば、鷹匠っていうか、鷹の代わりに腕に未亡人を乗せて狩りをする話とかあるよ。

岡村 どういうこと!?

丸茂 ちょっと気になります(笑)。

平林 あとは、あえて医師免許を取らずに診療にはげむアマチュア医師とか。ちょっと読みたい人がいたら読んでみて。正直、僕はこの人をどうしたらいいのかわからない。発想はおもしろいんだけど、今は原液を飲まされている感じで、そのままではちょっとあと、短編連作じゃなく長編にしてほしい。

方向性はふりきっているくらいがちょうどいい

この『パズルボーイ』は一言で言うと、風俗店の雇われ店長が業界でのし上がる話です!

一同 へー!

私は風俗知識ゼロですが、読んでてなるほど!って納得させられる。例えば、部屋が4つしかなくて売上が100万だとすると、これだけ客を回転させて、嬢のシフトを管理すれば儲かるとか、経営戦略がとにかくリアル。

平林 風俗って、市場原理がもっとも働く業界って言われてるしね。

下品と受けとられかねないテーマだけど、すごく上品に書けている点に、文才を感じました。

石川 この人自身も飲食店経営者なんですね。

そう。そのノウハウが遺憾なく発揮されてる。

平林 ほんとは飲食店じゃないんじゃない? 風俗経営者って、飲食店“も”やってる人が多いらしいんだよ。そうすると、飲食店として領収証を出せるとかね。

櫻井 なるほど(なんでこんなに詳しいんだろう)。

主人公は職場ではドライで冷徹な人格なんですけど、プライベートで草野球をやっている時は純朴ですごくいい人なんです。野球という日常があるから、主人公は正気でいられるんですね。でも彼の仕事が次第に日常を圧迫してきてとなるのを期待していたのですが、ラストがすごく小さくまとまってしまいとても残念でした。

太田 『新宿スワン』みたいな感じ?

いや、『新宿スワン』で起こるようなことは全然起こらない。

太田 『新宿スワン』はいろいろ起こるからいいんじゃん!

どちらかというと粛々と経営してる感じです。もっと人が死んだり大事件をおこしたりしてエンタメにしてほしい。経営ものとして読んでも、今のままではちょっと中途半端なので。

この方は経営描写だけでなく、キャラもよく描けているので本当におしい。ちなみに、客がプレイ中に嬢を盗撮したとしたら、どうなると思います?

太田 そんなの死罪でしょ?

それが違うんですよ。主人公は盗撮した客に優しくするんです。「違反行為があったら、50万円払わなくちゃいけないんだけど、あなた初犯でしょ? ここは僕が30万円もつから、20万円だけ払ってもらえませんか?」って提案するんです。でも、もともとの違反金は20万円だったんですよ

太田 うーん、おもしろそうじゃん!

主人公の過去のトラウマに向き合うとか、話が主人公の心の問題に向かってしまうので、すごくスケールが小さい話になっちゃう。

岡村 もっと『カイジ』みたいに振り切ればいいんじゃないの?

平林 成り上がりかけるんだけど、身ぐるみ剥がされて地下で柿の種をみたいにしたほうがいいよね。

心からそう思います。ハートウォーミングとかいらない! でもまた送ってきてほしいです。風俗業界を題材にもう一回チャレンジしてみてください!

イラストの代わりに徹底的なリサーチを! 

平林 櫻井さんの担当、『異人探偵』はどうだった?

櫻井 うーんこれはあんまり

平林 イラスト付いてるじゃん! イラスト見ようよ!

一同、イラストをまわし見る。

櫻井 「もし小説が良かったらこのイラストも一緒に使ってください」とのことなんですけど、作品にとっては逆効果でしたね

平林 僕の担当作のなかにもイラスト付きのものがあったからまとめて言うけど、イラストをつけたり、メディアミックスを考えて云々、っていうのはマイナスにしかならないよね。その前にちゃんと原稿を書いてくれって思う。

岡村 その通りです。

丸茂 あのイラストはともかくとして、ぼくはこの作品けっこういいと思ったんです。

岡村 ほう!?

丸茂 いちおうミステリ好きを自負しているので、「探偵」とタイトルにあるのを見て、担当ではないけれど読んでみたんです。櫻井さんが今回あげた別の作品より、こちらのほうがぼくは好きでした。

櫻井 そうですかわたしは全然だったんですけど

平林 二人の意見が割れたねえ(ニヤニヤ)。

櫻井 えーと、これは幕末を舞台にした探偵モノなんですけど、いろんな料理を食べるために渡り歩いているっていう設定なんです。でも幕末の描写とかが、フィクションとして改変してるとしても私には堪えられないレベルでした

平林 幕末に探偵がいる時点でおかしいよね。

櫻井 そうなんですよ。しかも、異人探偵ってことで、金髪で青い眼の女の子が出てくるんですけど、もうちょっと時代考証とかしたほうがいいのでは、と思っちゃったんですね。

石川 丸茂さん的にはどうなんですか?

丸茂 時代考証の浅さについて、異議はないです。ただ、その欠点だけで、この作品を全否定してしまうのは、厳しすぎるように思いますよ。この作品は時代小説ではなく、ミステリですから。各章で事件が起こって、探偵の女の子が解決していくテンポがいいんです。事件状況の説明が簡潔で、解決の手際もまどろっこしくない。抜刀術の達人の男の子が探偵に同伴しているんですけど、彼が活躍するところは活劇としてもみられる。物語に深みがないのが残念でしたが、読み物としてはポテンシャルのある作品だと思います。

石川 じゃあ、幕末にしなければよかったのでは。

櫻井 それはすごく思いました。

石川 「フィクション幕末」とか「フィクション明治」にどこまで厳密さを求めるのかはつねにつきまとう問題ですよね。

岡村 でもそれは、やるんだったら腹くくって調べた上で書いてほしい。

平林 どうしても幕末にしたいんだとしても、そもそも幕末に探偵がいることとどうやって辻褄を合わせるのか、まずその設定をひねる必要があるよね。コナン・ドイルの作中では、ホームズは1887年が初登場だから、つまり明治の人なわけだ。それよりも遡って、幕末の日本に外国人の探偵がいるっていうのは、何らかのロジックで説明をしないと成り立たない。

岡村 この作中で「探偵」って名乗ってるの?

丸茂 そうです。

岡村 それに代わる職業はないのかな?

平林 ないね。

櫻井 しかもこれは、幕末って本人たちは思ってるけど、内容的には明治に入ってるんですよ。洋館みたいな屋敷とか出てくるし、西洋料理が振る舞われるんです。

平林 幕末にも外国人はいたし、探せばなくはないだろうけど

丸茂 外国人が出てくるくらい許してあげていいと思うんですけどね。とはいえ、そこはひとつポイントで、なぜ外国人の女の子が探偵として旅をしているのかという部分に重要な設定をつけられれば、むしろリアリティの無い部分が武器として使えたと思います。

太田 長屋の真ん中でバーベキューとかできないかな?(笑)

櫻井 間違いなく火事になりますね

でも『銀魂』について「歴史考証が〜」って批判する人はいないじゃないですか。物語の軸がちゃんとしてれば、トンデモ設定は問題ないと思いますけどね。

平林 でもさ、探偵もグルメも、やりたいならちゃんと調べてくださいってことだよね。

丸茂 うーんぼくの時代考証に関するハードルが低かったのかもしれません。でもキャラはかわいく書けてるんですよ。ラノベというより児童小説っぽい屈託のない書き方には好感を持ちました。

平林 丸茂くんの言う通りだとすると、この人は努力を惜しんだがゆえに、それなりのものになりそうだった作品の完成度を上げられなかったってことだね。

岡村 それなら話は簡単で、ちゃんと取材をして書いてくれってことだよね。光が見えたよ!

丸茂 また、次回作を送っていただきたいです!

細部にもこだわって取材しよう

石川 僕は基本的に小説を書くのに年齢は関係ないと言いたいんですけど、この『サテライトガール』を読んだら、関係あるのかなと思わざるをえませんでした

平林 年齢、関係あるよー!

石川 この著者は52歳なんですけど、まず2行目で「ピーカンの青空」というフレーズが出てくる。

岡村 ピーカンの青空

石川 かと思うと、主人公の男子高校生が屋上に行って「さーて、昼寝、昼寝」って言い出したりとか。ヒロインのしましまパンツが見えたときに、「おにーちゃんのえっち!」とか。

太田 「おにーちゃんのえっち!」ありがとうございます。ところでイメクラってまだあるのかな?

平林 あるんじゃないですかねえ?

岡村 まじめな話、あんまりリサーチしないで書いてるんでしょうね。ある作家さんは、女子高生の会話を書くために若者に人気の喫茶店とかでちゃんと女子高生の会話を聞いて参考にしているって言ってました。でも、この人は間違いなくそういうことはしてない。

石川 そもそも「取材する」ってことに考えが及ぶか及ばないかってこともあると思うんですよね。でもやっぱり、細部が雑だと内容以前の部分で判断されてしまいかねないので、もったいないと思います。これは内容面もちょっとお粗末でしたが

岡村 作家さんには、なんでここまで細かいことを気にするんだろうっていう人が結構いますが、それは作品にとってプラスに働いている気がします。気にする人は気になることを放置せず、ちゃんと調べるので。

メタはむずかしい

丸茂 『青色御刻噺』は、前回岡村さんが上げた『ミステリーは大変だ』の人です。

岡村 ああ覚えてる! 確かキャラは良かった。

丸茂 前回もメタ要素がありましたが、今回もメタフィクションでした。しかし、この人は正直なところメタ要素がうまく使えていません。加えて、含蓄のあるメッセージをモノローグで書こうとしている部分は、独りよがりに感じました。よほどトリッキーな作品でない限り、「メタ」が生きるのは「ベタ」が書けてこそだと思います。この人には、まずベタにおもしろい物語を書くことを目指してほしいです。

平林 でもメタフィクションはわりともう食傷気味なんだけど。それにいまや、メタフィクションをやるなら相当すごいものが書けないと厳しいと思うよ。隆盛期から随分時間が経ってるし、好きな読者の要求水準も上がってるから。素直にやるんじゃなくて、「こういうやり方もあったのか!」って読者が思うようなものじゃないとね。

もうひとひねりほしい

平林 次も丸茂くんの担当だね。『思い出質量パーセント濃度』。

丸茂 僕が読んだなかでは、これがいちばんおもしろかったです。ジャンルとしてはミステリですかね。スクールカウンセラーの語り手のもとに、その学校で起きた自殺事件の真相を知ってますかと、コミュ障っぽい女の子が相談に来るんです。話はそこから、語り手が学生だった時代に遡ります。彼には探偵を目指す友人がいて、その友人はなかなかの推理力の持ち主なんですが、格好良く事件を解決するんじゃなくて、真相が明らかになることによる影響にかなり思い悩むんです。その人間らしい探偵像の在り方に、惹かれるところがありました。そして場面はまた現代に戻り、やがて語り手が実は○○だったことが判明します。ベタなトリックではあるんですけど、ひとつ驚きはそこで演出できている。そしてようやく語り手が回想した過去の事件と現在の自殺事件の真相に迫るわけですがそちらが尻すぼみでしたね。

平林 ふーん。しかし丸茂くんはおもしろそうに喋ることが驚くほどできないね。もうちょっと事前に工夫してさ、練習とかしたほうがいいよ。しゃべり方が下手だと、作家さんを口説くのも大変だよ!

丸茂 はい

平林 全然おもしろくない作品でもおもしろそうに喋る! 自分のテンションとか感情は関係ないんだよ!

丸茂 はい

夢は便利だが、物語の軸がなくなる!?

平林 じゃあ、ここからは各人が推薦した作品にいきましょうか。今回は2作品あるけど、まず櫻井さんが上げた『夢見るガール』からにしようか。

櫻井 私は今回が初参加だったので、とりあえず自分が読んだ中で一番よかったものを上げようと思ったんです。だけど、ぶっちゃけ面白さでは文化祭のやつと競ってるくらいなので、そんなにすごくいいってわけではないです。中学の頃からいじめられてきた女子高生のトモコっていう子が主人公です。結構キツいいじめを受けてるんですけど、あんまりへこたれない、精神的に結構強い子なんですよ。そして彼女の夢の中にはユメコっていうイマジナリーフレンドがいて、その子とあれこれしていく話なんです。だんだん夢と現実の区別がつかなくなっていくんですけど、そこでいじめっ子たちに仕返しをしていくっていう話なのかなって期待して読み進めたんですけど、結局大どんでん返しとかもなくって、イマジナリーフレンドと人格が入れ替わって終わってしまったので残念でした。私はもっとキャラを魅力的にしてくれればよかったのかな、と思ったんですが

平林 まあ読めなくはないけど、おもしろいかって聞かれると全然だね!

主人公がいじめっ子とどうなりたいのか、最後までよく分かりませんでした。和解したいって言った後、次の夢では殺してたり。支離滅裂な夢が終わっては続くので、全然話が前に進まないな〜、このお話は何をしたら終わってくれるの〜?と読んでてもやもやしました。

岡村 そうなんだよね。夢ごとに話はあるんだけど、それで全体の話が徐々に進んでいくってわけではない。

平林 迫っていく核心がないんだよね。

石川 最後は人格が入れ替わるんですけど、ただ入れ替わったというだけで、そこまで見てきた光景ががらっとひっくり返るとか、伏線がつながってああ!って膝を打つ感じとかはない。

櫻井 なんかほんとすみません

石川 ストーリーもなんですけど、僕が一番キツかったのは文体ですね。女子高生の一人称で、作者は男性ですけど、だからダメってわけではないんです。例えば『ビアンカ・オーバーステップ』も作者の筒城とうじょう灯士郎とうしろうさんは男性ですけど、女の子を主人公にして、セリフも地の文も魅力的に書けてる。でもこれはなんというか、「女子高生のそういう一人称を書こうとしてる」感が透けて見えてると思うんです。

太田 「そういうの書こうとしてる」感ね、わかる。でもいじめられてるところはリアルで、本人もそういうことがあったんじゃないかな、と思ったね。

敵のいじめっ子いるじゃないですか。「いじめたいからいじめてる」くらいのスカした感じが「今っぽい」っていわれたら、まあそうなのかと納得できますが、全然魅力的じゃないですよね。だから仕返ししても「ついに殺してやったぜ! ヤッター!」みたいなカタルシスがなかった。

石川 結局1ヶ月寝てた間の夢ってことですよね? その間、実際は何もやってない。

太田 夢の中の話だからね。

石川 あ、それとRADWIMPSの「おしゃかしゃま」らしき歌詞が地の文にミックスされて出てきたときは、思わず赤面してしまいましたね

太田 RADWIMPSを聞かないからわからない

岡村 編集部の中でRADWIMPS聞いてたのって、石川くんくらいか。

太田 丸茂さんも同世代でしょ!? どうしちゃったんだよ!?

丸茂 ぼく、まったく音楽聞かないです

太田 おいおい(呆)。

まあでも、歌詞の引用は難しいですよ。この編集部内でも半分以上が理解できてないわけじゃないですか。それはだめでしょ。

太田 まあ難しいよね。センスが問われる。

あと個人的に強く言いたいのは、小説のなかに映画を見るシーンがあるんですけど、引用が間違ってますね。

櫻井 ええ!? そうなんですか!?

『フロム・ダスク・ティル・ドーン』では、タランティーノは死なないから!

平林 そうなの?

櫻井 一応ちょっと調べたんですけど、それは気づかなかったです

映画好き=タランティーノ好きっていう描写は手垢だし、なんか、こう「うっせーな!」って感じですわ(怒)!

太田 林さんがキレた! 今、櫻井さんが入ってから一番ムカついたところでしょ?(笑)

櫻井 映画も勉強します(汗)。

平林 でもさ、「映画好きだと自認している女子高生」だからさ、それくらいでいいんじゃない?

それはまあ、たしかに。

丸茂 ネガティブな意見ばかりですが、文体はリズム感があって一定のクオリティはあると思いましたよ。

石川 でも、こういう軽さを出した文章の正解を、僕らはもう充分知ってるじゃないですか。それも10年くらい前から。それ以上では決してない。

丸茂 それはもう、その通りです。『阿修羅ガール』には、ぜんぜん及んでいません。「女子高生のリアルな一人称」にこだわる必要はないと思うので、次は違う題材に取り組んでほしいです。

太田 櫻井さん的にはどうすればいいと思うの?

櫻井 尻すぼみなので、もっと盛り上がりを意識しつつ、最後を見据えて展開を考えてほしいです。あと、キャラクターの魅力がないという点では、せめてイマジナリーフレンドはもっとぶっ飛んでたほうが良かったと思います。

平林 あとさ、先輩の使い方が都合がよすぎるよね。きっとキャラクターに役割が割り振られていなくて、どういう構図で物語が進んでいくのかも決まってないんだよ。夢ってすごく都合がよくて、脈略がなくてもいいっていうルールを一旦適応してしまうと、ほんとは決めないといけないことを決めずに書き進められちゃうっていう問題がある。

岡村 この物語は、読んでてもどこがハイライトか全然わからない。過去の新人賞で残ってた作品には、ちゃんとハイライトがあった。あのラグビーのやつとかさ、監督が血文字を書くところがすごくよかった! その行為がなくても物語を進めることはできるんだけど、いまだに「ああ、あそこのシーンはかっこよかったな」って思うからね。

太田 いつか完成させて送ってくれるのかなあ(遠い目)。

テンポの良さは群を抜いているが

平林 じゃあ、林さんが上げた『HERO.JP』にいきましょうか。今回のトリです。

これは『バイオレンスジャック』みたいなクレイジーがたくさん登場するお話です!

一同 おお!!

いきなり主人公が拷問されてるところから始まるんですよ。ここでまずびっくりした。人を人とも思わない地獄みたいなところから主人公が脱走して、女に復讐する。シンプルだけど、要所要所に見どころも用意しようとしている。こういうプロットをさらっと書けちゃうのは、この著者の長所だと思います。受賞まではまだ距離がありますが、可能性のある人だと思った次第です。

岡村 僕が気になったのは、書きたいことと設定が合ってないんじゃないかってことなんだけど。

平林 確かに、大阪の政財界を牛耳っているとかいうんだけど具体性が見えないし、どういう商売をしてるのかもわからない。地下の研究所のオーバーテクノロジーぶりとかも気になるけど、それを使ってやってるのはビデオを作るってことでさ、それはふつうに現代の技術なんだよね。

岡村 なんかいっそ、ニンジャスレイヤー風で言うと「ネオオオサカ」とかにしたほうがいいんじゃないかと思った。今のままだと、話はまじめなのに、設定でちょっと笑っちゃうんだよ。どんな魔都なんだよ!って。

平林 確かにそこは、もっとテクニックで誤魔化すことができるよね。あえて書かないとか、ネオオオサカにするとかね。この人のリアリティラインの引き方が、今ひとつちぐはぐなんだよね。

岡村 黒幕が「大阪府警は俺の物だ」とか言うシーンあったじゃん。どういうこと!?って思ったよ。どんだけトンデモ地域なんだよ!って。

石川 大阪にはそういうやつがいっぱいいる、みたいな(笑)。

太田 ちょっと大阪には近づきたくなくなったよね(笑)。

岡村 明確に大阪がヤバイところになっちゃってる、という設定ならいいんですよ。この作品ではそういう世界なんだなって思うから。でもそうじゃなくて、ふつうの現代大阪の日常の描写もあるからちょっとねえ

太田 あとずーっとオナニーしてたね。

そうそう、主人公は人を殺すことでしか絶頂を迎えられないっていう、スーツヒーローに改造されちゃうんですよね(笑)。こんな変な設定すごくないですか?

平林 いろんな整合性を取ったところでもこの人がおもしろいものを書けるのかっていうと、未知数だよね。でも一気に読めた。

太田 勢いはあったね! 僕もそれは買いたいと思う。

ただこの作品も尻すぼみ。ラスボスとの決闘がクライマックスになるべきなんですけど、ちょっとタイミングがずれてましたね。

平林 誰がラスボスなのか問題もあったね。あと、あの飛田とびたの描写はまずいんじゃないかな

ホームレスの描写もまずい

太田 うん、あのまま本として出しちゃうとね、星海社は一瞬で潰れます!

平林 やっぱりネオオオサカにしないと。

太田 ネオオオサカでもキツいよ

丸茂 大阪じゃなくてもいいんじゃないですか?

平林 いや、これは大阪である必然性はあるよ。それはこの著者が大阪出身っていうこともあって、やっぱり大阪をよく書けてるし。

櫻井 よく書けてるんだ

一同 (苦笑)。

平林 大阪のしょぼくれた感じがよく出てる。

太田 ちょっとすえた臭いがする感じね。

あと、距離感が近すぎるおせっかいなおじちゃんとか。

平林 モブいいよね。

太田 そういうのがいいってことは、世界観がちゃんと描けてるってことだからね!

石川 じゃあヒーロー設定が要らなかったのでは

平林 ああ、僕もそう思う! 大阪の裏社会と、やたら科学技術の水準の高い世界の設定がうまくかみあってないんだよね。

岡村 もういっそ大阪を修羅の国っていう設定にしちゃったほうが、気持ちよく読めるんじゃないかと思うね。

この作品がもってる疾走感とテンポの良さを活かせる設定を考えましょう、ということですかね。何度も言いますが、この作品は冒頭のテンポが本当にいい。それさえできていれば、こうして話題に上げられるんですよね。冒頭がつまらないと、どんなに後半が面白くても共有しづらい。もうそこで読まないっていう判断もあるので。

岡村 そうですね。

いかに冒頭が大事かってことを、この作品を通して改めて訴えたいですね。

岡村 ストーリーもわかりやすかったんだよね。とりあえず復讐が目的だから、こいつなにやってんの?とは思わなかった。ゴールというか、何を目指してるのかが最初にわかったほうが安心して読める。

さっきの風俗のやつは、それがなかったんですよね。

平林 いろいろ瑕疵はあるにしても、ウリはわかりやすかった。

太田 ただし実際に売れるかっていうと、また別問題だよ。本にはなるだろうけど。

平林 とりあえず、この人には次も送ってきてくださいって感じだね。

はい! またぜひ!

全体的に低迷するも、初投稿者が多数!

太田 さて、今回は応募作がもっと減るかと思ったけど、そんなに減らなかったね。

平林 それに初投稿も多かったですね。

櫻井 44作中25作が初めての方です。

太田 それは本当にありがたい話だね。

新しい時代が来るのでは!?

太田 今日の座談会では、特に冒頭の大切さとか魅力的なキャラクターについて話題になりましたが、これはプロでも新人でも気をつけるべき基本的なことです! 今回は受賞作は出なかったけど、引き続きのチャレンジ待ってます!

平林 賞金もたまってるし、正直狙い目です。

太田 我々編集部も気合い入れていきましょう!

一同 はい!!!!

一行コメント

『Comrade Monster』

自分が作った世界を、読む人に楽しんでもらうためにどうしたらいいのかを考えてみてください。そうすると文章の書き方は自然に変わってくるはずです。(平林)

『探偵事務所フランベルジュの少々異常な面々 VS 天使喰い』

事件パートより日常パートのほうが面白かったので、もっとキャラクターの掛け合いを活かせる設定の物語にしたほうが良いと思います。(岡村)

『DIAMOND GIRLS -私立金剛学院女子硬式野球部-』

作品の「見どころ」を意識して書いていないと感じました。野球の試合の描写は臨場感が欠けていますし、試合が始まるまでに200ページかかるのは展開が遅すぎます。もしキャラクターのギャグをこの作品の「見どころ」にしたいのであれば、もっと他に適したストーリーと設定があると思います。(岡村)

『ARTEMIS』

キャラクター各々に見せ場をつくり、破綻なく物語を書ききってはいるのですが、メインカップルの存在が霞んでしまっているのが残念でした。重ねて人間ドラマも舞台設定も、やや陳腐です。次はキャラを絞り、テーマを絞り、適切な舞台を熟考して選んでいただければと思います。(丸茂)

『英姿颯爽ジャスティス・クロス』

世界観の説明がはじめにないので、疑問を抱えたまま読み進めなければなりませんでした。キャラや決め台詞などには力を入れて書かれているようですが、他の部分がご都合主義的になってしまっているのでもったいないです。(櫻井)

『ぼくは君に泣いて欲しかった。』

いじめがテーマということですが、いじめのシーンがきちんと描かれていないので、上滑りになっています。描きたいものについて、もっとよくリサーチしてください。(櫻井)

『TOOTH!!』

読んでいて「なるほど」と思わせる具体的な描写がなく、プロットに軽く肉付けしたような読後感でした。(岡村)

『ショッケンひにほゆ』

作品の内容に対してページ数が多い印象を受けました。アウトプットは大切ですが、読者視点で書くことはもっと大切です。(林)

『きまもの』

舞台設定や展開はなかなか重々しいのですが、キャラ描写が軽すぎて始終違和感を覚えました。空々しい印象を与えないために、文章力の向上が必須かと思います。(丸茂)

『自殺志願者全員集合』

道具立て自体は面白そうだったのですが、料理の仕方やオチが小さくまとまってしまった感がありました。(平林)

『干からびた眼球』

この作品で何を表現しようとしているのか、僕には理解できませんでした。申し訳ありません。(石川)

『In My Ficition』

現実の世界と小説の中の世界、このギャップをうまくテキストで表現できれば、異世界への没入度がもっと高くなると思います。(林)

『妖怪の左目をめぐって』

情報を読み取るのに苦難をともないました。描写にもう少し工夫が必要かと思います。地の文に妙な雰囲気はあるのですが。(平林)

『彼女はプリンセス』

一文一文が「〜〜〜た。〜〜〜た。」とリズムがなく作文のように説明的で、会話もこなれていないため、読み進めていてつらいものがありました。(石川)

『Sの娘たち ACT.A』

いろいろな要素を盛り込み過ぎています。焦点をしぼって、できるだけコンパクトにまとめるように心がけてみてください。(櫻井)

『魅惑の三日月』

探偵の設定や行動、情報の出し方が乱暴なので、もっと深みを出すような工夫が必要です。台詞で説明するのではなく、地の文の表現も大切にしてください。(櫻井)

『アホ角カップル』

描かれるのがあまりにもテンプレートなRPG風異世界すぎて、キャラに愛着を持てませんでした。このジャンルでギャグメインの作品を書くならば、設定だけで注意をひくような奇抜なアイディアが必要だと思います。(丸茂)

『円盤のような世界の上で』

「そういうもの」として受け入れるべき部分かもしれませんが、なぜこのような舞台設定にしたのか疑問でした。インパクトがある設定や物語的な必然性なしで、安易に異世界を書くのは好ましくないです。(丸茂)

『竜皇伝』

勉強と文章力が足りていません。和風ファンタジーは非常な実力を必要とする世界です。(平林)

『エラーコード』

メタ視点からのオチをつけるためとはいえ、読者を感情移入させるようなキャラクターがいないのは、読んでいてかなり負担に感じました。集合的無意識のギミックも、ただ便利な概念として扱われていて、成功していないように思います。身近な素材で、ベタにおもしろい物語を書くことを、まず目指していただきたいです。(丸茂)

『卒業は、秋色の風の中で』

全日制高校vs定時制高校の政治対決というアイディアは惹かれましたが、定時制高校の最終目的がやや肩すかしでした。難しいところだと思うのですが、政治ゲームの描写は会則のどこが重要なのか、よりわかりやすく提示しないと読者の理解に時間がかかり、驚きを与えにくいと思います。(丸茂)

『異世界クジラは宵闇に謡う』

設定や文章には雰囲気があって良いのですが、前置きが長いので、冒頭で物語を大きく動かすなど読者を引き込むように工夫してみて下さい。(櫻井)

『超新撰組 慚愧録』

メディアミックスを念頭に置く必要はありませんし設定画もいりません。(平林)

『心霊写真消える赤子

ミステリーとしての舞台装置はおもしろいと感じました。が、それがメタメタになってしまうラストはいただけないと思います。最低限の現実的な論理の強度は必要だったのではないでしょうか。(太田)

『黒翼旗』

どういう世界設定なのか序盤で説明しましょう。読んでいくなかで分かる楽しさはありますが、エンタメ的な楽しさには至っていないです。(林)

『双々の萼』

個人的にはものすごく応援したいのですが、さすがに題材がマイナーすぎるのと、小説的な面白さがまだまだ足りないのが残念。とはいえ、今後も書き続けていただきたいです。(平林)

『丁半博打をもう一度』

不完全燃焼に生きてしまった現実世界への悔いを、死後の世界で昇華しようとする物語として読みましたが、その悔恨の切実さを現実部分の描写で演出しなければ、読者に与えるものがないと思います。(丸茂)

『闇堕ちクロニクル』

主人公に「覚醒した」以上の動機がないうえに、「なぜ闇落ちしたのか?」を探るという動機が後回しになっていてじれったく感じました。読みやすい素直な文体は今後も生かしてほしいです。(林)

『ファセッテドファザード』

読んでいて「ここは必要無いな」と思えてしまう箇所がかなり多く、物語に入り込めませんでした。(岡村)

『虚無に接吻を』

知識や蘊蓄うんちくを詰め込み過ぎていて読みづらいです。そういうものはしつこくならない程度に抑えて、本筋をしっかり読ませてください。(櫻井)