2015年夏 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2015年8月24日@星海社会議室

期待作が集結するも受賞者なし! 渾身の傑作を待つ!

太田 座談会も15回目! もうそんなになるんですね(しみじみ)。ところで、最近面白いことあった?

今井 最近あった面白いことと言えばもちろん、長渕のライブでしょう! あれ、本当に行きたかった

平林 僕、当日たまたま横浜にいたんだけど、天理ビルの前で長渕ファンがずらっと並んでてびっくりしたよ。どうもバスがそこから出てたみたい。

今井 土曜の夜から日曜の朝までずっとですからね! 最後に帰る人はバスに乗るまで12時間という話!

石川 そんなことになってたんですね。

太田 普通なら暴動が起こってもおかしくないよ。さすがは長渕だよね! やっぱり“祭り”は参加しないとダメだよね。まわりで色々言う人はいるけどさ、あの条件であれだけの人を集められるのはすごいことですよ!

大里 長渕レベルじゃないと行ってみようと思わないですよね。

太田 なんかやりたいね。俺たちも、伝説になるようなこと。僕は、昔から「文芸フェス」ってのをやりたいと思ってるんですよ。東京ドームを借りてやりたい。僕が思うに、ドームでイベントができてはじめて「ジャンル」になるんですよ。だから長渕はジャンル。矢沢もジャンル。『週刊少年ジャンプ』もジャンルなんですよ!

たしかに。

太田 だから、ドームでイベントができていない以上、文芸はまだジャンルじゃない。それじゃ悲しいので、いずれ僕らは文芸で伝説を作るためにも、ドームでイベントを打つべくバリバリやっていきましょう! それでは、座談会スタートです!

タイトルはダメだけど

大里 トップバッターは林さん! 『秘密の勇者の最強剣』。

タイトルからは想像できないと思いますけど、かなり面白かったです! 勇者が魔界を統一した後のお話で、「強くてニューゲーム」状態なんです。人間界と魔界の間で平和条約を結んで、魔界の王様の娘まで嫁にもらっちゃって、勇者はやることがない。だからこの作品の冒頭は、勇者が風俗でハッスルしているところから始まります(笑)。

太田 『イクシオンサーガDT』とか、ドラマの『勇者ヨシヒコ』シリーズを彷彿とさせますね。ぼくは両方とも好きだけど、この作品ははたして?

勇者が嬢と合体している最中にチ◯コがドリルに変わる呪いをかけられてしまい、「抜けねえ!」と、いきなりピンチに陥ります。

岡村 (しみじみと)面白いな

テンポも良くて、お話もなかなか読ませる。アニメ『銀魂』の1話だったら間違いなく神回になると思います。この手のショートが3作続くんですけど、個性的な「点」にはなっているけど、まだ「線」になってない。

岡村 連作短編にはなってないってことね。ただの短編3つになってると。

「線」にしようと努力はしてるけど、もうひと工夫必要という感じですね。あと、ちょっと頑張って欲しいのはネーミング。わざとやってると思うけど、全体的にすべってるんですよね。たとえば、「色欲の魔女ヌーブラ」とか

平林 林さん、それは鳥山明とりやまあきら先生ディスかね?

岡村 『ドラゴンボール』にも「ダーブラ」とかいたでしょ? 近いセンスだと思うけど、それについてはどう思うの?(真顔で)

うぅ鳥山明先生リスペクトって言われたらそうなのかもしれないけど。老剣士が集う戦闘集団の名前が「JJ無双」とか、読んでるこっちが恥ずかしくなる!

岡村 まぁ、声ではなくて文章にするとさむいジョークってあるからね。

勇者のパーティである魔法使い、怪力キャラ、魔王の娘(嫁)の過去が明かされたり、誘拐された仲間を救うという内容なので、物語が内に内に展開されて、最終的に話が小さくまとまりすぎているのも惜しいですね。でも、キャラや発想に光るものがあるので、誰か読んで欲しいなぁ。

太田 まあ、大冒険はもう終わってるもんな。

そうなんですよ。でも、狭い身内ネタってのがこの話の面白さでもあるんですよ。

岡村 たしかにそうだね。

そこを修正すると、凡百の話になるかな、と。

岡村 聞いてる限りでは惜しいよね。

読めば気にいる人いるとは思うんですけどねえ。

太田 誰か読んでみない? って! こういうときサクッと手を挙げないから、石川さんと大里さんは小物感がどんどん醸成されていくんだよ。座談会の場はパフォーマンスの場でもあるんだから!! ないわー今のはないわ、2人ともダメだね。これだけ林さんが「押すなよ押すなよ」を3回くらいやったのに! 「じゃあちょっと読ませてください」くらいあんたらが言わないでどうするんですか! 先輩がせっかく体張ってるのに。

石川大里すみません!!!

私、座談会に初参加した時の苦い記憶が蘇ってきました

大里 というわけで読んでみたんですけど、物語を推進する原動力がほぼ100%下ネタで笑いました(笑)。コメディとしては面白かったです! 死人が蘇る魔法が便利に使われすぎてて倒した敵がガンガン復活してくるのは良くないですね。林さんもおっしゃるように魔王とか神とかでてくるわりに、話のスケールが村くらいに小さいというのはもったいないと思いました。最後を変えるだけでも随分違うのではないでしょうか。

石川 僕も読みました。スケールの小ささはそこまで気にならなかったです。むしろ、壮大な設定がバンバン出てくるのにちゃっちい、というギャップは魅力なのではと思いました。ギャグはそこそこ笑えたんですが、まだギャグ度数80くらいなので、もっと全振りしたものも読んでみたいです。

まとめると、『銀魂』のなかの神回じゃなくて、『銀魂』という作品そのものを作って欲しい。そんな感じです。また是非送ってください!

キャラクターの魅力を活かして、話はシンプルに!

大里 次、『呪われた黄金の飢餓』。

すごいバカな『血界戦線』って感じのお話でした。ヴァンパイアハンターものなんですが、何と舞台がウエスタン!! 賞金首がヴァンパイアなんです。ベタだけど映画ネタも多くて個人的には面白かった。この人の書くコテコテの世界観やテンションは好きなんだけど、お話の構造に大きな欠点がある。

太田 聞きましょう!

まず、Aというドラキュラを殺すという大目的があります。ハンターのBとCは同時にドラキュラAの命を狙っていたので、お互いに共闘してドラキュラAを倒そうとします。

太田 バトルロイヤル的な状況なわけね。

しかし賞金を独り占めしたいBは、裏切って殺そうとします。裏切りに怒ったCはドラキュラAと共闘してCを倒そうとする行動目的がコロコロ入れ替わりすぎて「あれ? こいつら何のために戦ってるんだっけ?」と混乱してしまう。何が最終的なゴールなのか曖昧になってる。

今井 基本的には最初に提示した目標に収束してゆくべきですね。

例えば「お宝を取り合う話」とか、ゴールをシンプルにすることで3人の複雑な人間関係をもっとうまく捌けたと思うんです。『グッド・バッド・ウィアード』という韓国製のウエスタン映画があるので、それを観てほしいですね。

岡村 ピンポイントだなー。

話はグチャグチャだけど、キャラはどれも魅力的だし、読んでて情景が浮かびました。ハチャメチャなB級映画風の荒野が! この人にしか書けない世界観はあると思うので、それを活かすシンプルな話をつくってくださいって感じですね。一行コメントで済ませるにはもったいない感じでした。

太田 誰かもう1人いってみてほしい気がするな。

石川 じゃあ、読んでみます!(食い気味に) というわけで読んでみたんですが、洋画を字幕で観ているような小説で、会話や要所要所の映画ネタ・文学ネタがいちいちクサかっこよかった! 物語自体も僕はそこまで錯綜している印象は受けなかったですし、何よりドライブ感があって一気に読めました。ただ、話の締め方はいまひとつだった。あまりにもコテコテなので、広く読まれたいのであればもう少し抑えた方がいいだろうとも思いました。次回作、ぜひ読みたいです。

情報開示のタイミングが肝!

大里 じゃあ続いて、『春の獣は四季を喰らう』。これは、最後まで読むとちょっと面白かったんですけど、うーんって感じ。

太田 どんな話なの?

大里 まず、昔からある集落とお祭りがあって、そこの一族が代々刀鍛冶をやってると。兄弟がたくさんいて、兄貴が刀鍛冶を継ぐ。他の人たちはそれぞれ違うことをやる。そういう一族がいるんですけど、父親が悪役なんですよね。物語は父親が昔長男に斬られるっていうところから始まるんですけど、要はたくさん登場人物がいて、すべての前提となる設定が最後まで読まないとわからない。登場人物全員が知っていて、読者だけは知らないということがありすぎて、ちょっと。

岡村 あー、なるほど。

大里 逆だったら面白いと思うんですよ。

岡村 どんどん後出しで出てくるのね。

大里 そうなんですよ。

『シグルイ』みたいな、斬り合う話なの?

大里 いや、刀鍛冶なので斬り合わないんですけど、神器を作る刀鍛冶なので、すごく技術を磨かなきゃいけない。山の神とか出てくるんですよ!

平林 それは、駅伝の人?

一同 (笑)

大里 設定がわかってから読むと、クライマックスで盛り上がるところもあるんですけど、そもそもの人間関係や舞台設定を特に説明もされないまま、謎の固有名詞連発で話が進んでくので、新しいものが出てくるたびに「これ何?」という感じ。情報の出し方がうまくいってないんじゃないかな、と。

岡村 それは困る。だって、本にしようと思ったときにさ、あらすじと帯のコピーをどう書くの、みたいな話になっちゃうよ。

大里 しかも、キャラクターのなかでも行方不明の兄貴は結局最後まで出てこない。それで、実は裏で暗躍してたよってことを最後に人づてに聞くだけなんですよ。

平林 それは、伏線回収しきれてないってことだよね。

大里 あとは、伏線として仕込めてない、みたいな。

平林 壮大な物語を考えてるんだけどうまくまとまらなかったのかな。広げた風呂敷より小さいレベルでまとまってるの、よくあるなあ。

太田 最近思うんだけど、小説の手際のよさってやっぱり情報開示のタイミングにつきるんだよね。そこがいいとさ、どんな話でも面白くなるんだよ。そういう意味で言うと、民話は本当に参考になるんだよね。昔々あるところに、から始まって、どういう感じで物語のベールを脱いでいくか、みたいなところの手つきが上手いからこそ長い歴史に耐えて残っているわけで。しょうもない話でもね。だからどんなに壮大なスケールのお話でも、というか、だからこそそこが上手くいかないとやっぱりマズいんだよね。

今井 『エヴァ』とかまさに今の説明されても仕方ない話ですからね。知らない固有名詞が

太田 出てきても、情報開示の手つきさえよければ、また知らないものが出てきた! 面白い! みたいな感じになるはずなんだよね。何「アダム」って、とか「ゼーレ」って何、とか。

大里 あとはシンジくん自身もわかってないじゃないですか。だから、何言ってんだってシンジくんとして観ることができるんですけど、これはもう主人公から何から「ああ、あれね」みたいな感じで。

一同 (笑)

岡村 それは地の文でも説明されないの?

大里 前提の人間関係とここはこういう土地だから、みたいなのはまったく。

今井 その土地に新しい人が来るわけでもない?

大里 外からライターみたいな人が取材に来ますね。でもその人も知ってて来た、みたいな感じなので、その人に何か説明する形で情報が開示されていく、っていうのもあまりうまくいってない。

岡村 いきなり3巻から読んでるような感じなのかな。

大里 そうですね。情報開示の順番はこの作品の一番の課題です。もしそれを『エヴァ』みたいにやるんだったら、興味をひけるように手際よくやるか、シンジくんポジションを用意しないと。

読者と同じ目線のキャラがひとりは必要ってことですね。

一発のアイデアは良いけれど

大里 次、石川さん。『魔法少女、辞めます』。

石川 これは、魔法少女を続けてきたアラサーの女性が、「普通の女の子に戻りたい」と言って引退しようとするんだけど、紆余曲折あってなかなか引退できない、という話です。

太田 なんか最近そんなの読んだことある気がするなあ。

石川 多いですよね。魔法少女は企業に所属して戦う存在で、その辺りはいわば魔法少女版『TIGER & BUNNY』ですね。

ああ、ホントだね

岡村 『僕のヒーローアカデミア』とかの世界もそんな感じだよね。ヒーローが「職業」になってる。

石川 明確な欠点はあまりないんですよ。語り口や描写、設定、すべての要素がまんべんなく整ってるんですけど、ただ到達点は40点くらいなんですよね。

岡村 なるほどね。

石川 だから、どこかを直してこれ以上のものに引き上げる、ということがなかなか難しいなと。

岡村 今回は、アイディアが楽しめるのがけっこう多いね。今のやつとか、さっきの林さんの

え、チ◯コのやつですか?

岡村 いや、そこは重要じゃない(冷たく)。

大里 次、平林さん。『傾奇ナル中二病』。

平林 これ、ちょっとだけ話していいですか。正直、全体としてはそんなに面白くない。よくある伝奇ものって感じなんだけど、ちょっと面白かったのが、「中二病」という観点から傾奇者とか安土桃山時代の再解釈をしてるところがあって、そこだけが面白い。

岡村 ん? 僕この作品読んだことある気がする。

石川 「なろう」で書いてますね。

岡村 あ、『傾中〈かぶちゅう〉』か! 思い出した。面白かったんでこの人に連絡とったんですけど、その時はこの作品を他の新人賞に出したあとでそれでお流れになったんですよね。作中に出てくる「ザビエル・ショック」が印象深い。

どんな話なんですか?

平林 ザビエルがレフトハンド奏法をして三好長慶が驚いたっていう話。

岡村 いや、それは一部分を抜き出しすぎです(笑)。すごいぶっ飛んだ世界観を持った関ヶ原後の戦国時代終期の話です。僕はキャラの良い意味での「荒さ」が好きなんですよね。ただ今回はみなさんがそれぞれあげた作品がかなり面白かったので、それらと比べると見劣りするのは否めません。

太田 なんかさ、なろう小説って手管がないのが多い感じがするよね。シチュエーションはどれもすごく面白いんだけどさ。

岡村 設定が秀逸なのが多いですよね。よくこんなの考えるな、っていうの。

太田 そうそうそう。『異世界居酒屋』もそうだよね。一回真面目に考えてみたい気もするね。なぜなろう小説はシチュエーションが先行するのか? あ、それが悪いとは言ってないよ。

岡村 ランキングで上に行かなきゃいけないからですよ。まずハッと思わせるような設定がないと、そもそもみんな読まないですし。

太田 なるほど。でも「一番何を言いたいか」、つまりテーマがあまり重要視されてない嫌いはあるよね。面白いところだけがガッと来るんだよ。言ってみたらテーマとかさ、どうやったって陳腐なものじゃない。「愛」「勇気」「平和」とかさ。そういうもんじゃん。それで愛について書かれてるから読んでみようとはならないもんねえ。

岡村 テーマは無限じゃないですからね。

太田 ひとりの小説家が持てるテーマはひとつかふたつだよ。3つも持ったら大作家ですよ、きっと。だからどうしてもなろうの傾向はシチュエーション先行になるんです。そしてそれは別に悪いことじゃないよね。

岡村 全然。しかも、上にきてるやつは好き嫌いはありますけど、やっぱり面白いですよ。設定だけじゃなく、テーマがしっかりしてる作品もあるので。

大里 じゃあ次行きます。石川さん。『ヒュレーの海』。

石川 これはちょっとだけ話したいんです。ざっくり言うと、戦争によって一旦今あるような地球の文明が終わった後の世界を舞台にしたSFです。ワンアイデアが結構面白くて、たとえばこの世界における人間は生命体でありながら、同時に「記憶媒体」ってことになってるんですね。しかも、集合的無意識として全部が繫がっているところにある人格と、表面上現れてくる人格のふたつをみんな持ってる。あと、主人公は男女の双子的な子なんですけど、途中でトラブルに巻き込まれて融合しちゃって、両性具有の身体をもった、思春期の少年ないし少女の冒険譚的なものになる。そういう感じでSF的なアイデアは途中途中で面白いんですよ。ただ、文章がよくなくて、何が一番よくないかというと、あらゆるものに横文字のルビを振ってるんですよね。

太田 たとえば?

石川 たとえば、「緋色スカーレット」とか、「技術データ」とか。

今井 技術データ(笑)。

岡村 技術はデータじゃねえだろ! 何か意図があるのかな?

石川 これって一旦いまある文明が終わった後の世界じゃないですか。この世界で誰が語ってるの? ってなっちゃうんですよね。もしその世界に密着してるんだったら、こういう言葉が出てくるのはおかしいはずなんですよ。だって断絶した後のはずだから。

大里 文明が絶えてたらそれはないですよね。

石川 あと、この世界にはかつて「ニホン」という国があって、そこで作られていたアニメが素晴らしいっていう話が出てくるんですよ。でも、隔絶された未来から今の20世紀ないし21世紀を見たときに、日本のアニメは果たして明らかに優れていると捉えられるだろうか、という疑問がある。「アニメ」っていう括りなら、ディズニーが上に来るんじゃないかと思うんですよ。「リミテッド・アニメーション」として素晴らしい、とかならわかるんですけど。

たしかに。

太田 ちょっと神経質で細かい指摘な気はするけれど、言っていることはわかる。そこらへんのディテールがしっかりしているだけで、世界観がぐっとしっかりするからね。

石川 壮大なSF設定をパーツパーツで考えることはできるのに、語り方やもっとその時代について一から十まで考えるということを怠っていて、だからワンアイデアでいいなと思うところも、読んでいくと不徹底だったりするんですよね。

大里 次、石川さん。『夕焼け背負ったハゲヒーロー』。

平林 これいいタイトルだね。

石川 これひょっとしたら僕の中で一番よかったかもしれない。えーとですね、主人公は中年の禿げたサラリーマン。

太田 いいじゃないですか!

石川 まず、奥さんに先立たれてると。会社でもうだつが上がらなくて、上司には文句ばっかり言われるし、部下の若い男の子は何言ってるかわからない。そんなところに、異世界から人喰い鬼を召喚する魔法にかけられて、人喰い鬼として異世界の独り身の少女のもとに召喚される。その子は人喰い鬼を召喚したと思ってるから、すげー強いやつが来たと思ってる。そのあと、日常の話が続きつつ、その女の子は呪われた血を引く子で、周りからいじめに遭っていた。それでおっさんはその子を救って異世界に残るっていう話ですね。

今井 なんで人喰い鬼が欲しかったの?

石川 いじめてくるやつらを全員喰ってほしかった。でも実は、人喰い鬼を呼ぶにはその子はあまりにも力がなくて、誰でもいいから私のところに来てと願ったら、このおっさんは元いた世界で、もう嫌だってなって、それがたまたまシンクロして呼ばれたってことが最後にわかるんですけど。

今井 ハリウッド映画みたいやな。

幼女は石川くん的に何点だったの?

石川 幼女はわりと悪くなかったですね(毅然と)。

平林 悪くなかった!

岡村 石川くんの悪くないって幼女って相当ハイレベルだよ!

石川 まあそれは置いておいても、異世界に出てくるキャラは魅力的なんですよ。本物の人喰い鬼が出てくるんですけど、極度のビビりで、人は喰いたくないからって言って魚を釣って食べてるんですよ。しかも、口が裂けてて背も高いんですけど、主人公のおっさんが風呂という素晴らしいものがある、お湯を沸かして入ると気持ちいいんだって言って入れてやったら、めっちゃいいっす! みたいな。かわいらしい。

大里 面白そうじゃないですか。

石川 でも、文章は上手くないんですよ、正直言って。でも、この人たぶん初投稿だと思うんですけど、なんか妙な魅力があって、少なくとも今上にあげるっていう段階ではないんですけど、ちょっと何回か頑張ってほしいなと。

次あったら読みたい?

石川 読みたいですね。ただ、今回この設定がけっこう上手かったというかよかったので、次これ以上のものを考えられるか期待ですね。

紙の原稿には姿勢が出る!

大里 次も石川さん。『王国』。

平林 これ、読みは「キングダム」じゃないの?

石川 (スルーして)これは『新世界より』なんです。日本が九州・本州・四国・北海道に分断されていて、その内側の人はその世界しかないと思ってる。タブーとされるエリアの周りにはしめ縄が張ってあって。

太田 まさに『新世界より』だね。なんか変えればいいのにな

今井 たしかに(笑)。

太田 しかもさ、九州全域とかそんなところにしめ縄張るのにどんだけ力使わなきゃいけないんだよ。ありえないだろそれ! って、『進撃の巨人』がそうか

石川 それでしめ縄の外に出ると森があって、その先に海が上に向かって断崖絶壁になっていて、それに吸い込まれると、分断されたそれぞれのエリアから集められた少年少女がそこで殺し合いをする、っていう。別に面白くはない。これ、紙の原稿で読んだんですけど、紙が綴じられてる順番がバラバラで、ノンブルも2ページに一回しかない。それで内容を見ながら揃えていったんですけど、紙の原稿には作家としての姿勢が出るっていう話がよくわかりましたね。

百合好き・石川、猛プッシュ!

大里 ここからはあがってきた作品です! 林さんの『リューシカお願い、わたしを殺して』からいきましょう!

平林 じゃあ、林さん内容を簡単にまとめてもらっていい?

ゾンビウィルスが突如発生して、好きになった女の子がゾンビになってしまった。愛しいゾンビと逃避行をする、というだけの話ですね。これだけ単純な話を、すごく色っぽく書き上げてる。女性の主人公が同性の、しかも年のはなれた女子高生を愛してしまうという葛藤と、女子高生がゾンビ化する過程がリンクする展開はとても美しいと感じました。これはこの人の優れた才能だと思ったのですが、皆さんいかがでした?

石川 (食い気味に)僕はこれ、すごく好きです。

太田 ロリ的にアリなの? これはロリなかったような気がするけど。

石川 これは百合的にアリでした!(興奮)

太田 きみは百合も好きなんだね(冷静)。

石川 僕、こういうの好きなんですよ!!(熱くこみあげる何か)

正直これまで石川くんが推薦した百合作品には苦手なものもあったんだけど、評価が一致して良かったです。

石川 僕が思ったのは、色んなところで引用とか出てきて、一見するとあざとくていやらしくてくどいんですけど、それがすっと嵌まっているような気がしました。この世界にしかないフィクションと実際にある物語の混ぜ方とか。あとはこれを書かれているのは男性なんですね。しかも、38歳男性!

太田 あ、そうなの!?

平林 これさあ、不自然なまでに女性ばかりでてくるのよ。正直、個人的には「ちょっとこれ女ばっかり出すぎじゃない?」とかそういう違和感が途中まではあったんだけど、読み進めるうちに気にならなくなってきた。この違和感については、林さんが気にならないんだったら、良いんじゃないの? という感じかな。あとは、ちょっとミステリータッチの書き方も上手で架空のアメリカの精神科医を設定したりして、これなんかちょっとルーシー・モノストーンっぽいなとか。

太田 僕もそう思った!

大槻ケンヂの『ステーシー』も引用されていますね。大槻ケンヂをアナグラムした登場人物が出てきたりゾンビネタに関しても気が利いてるなぁと。

平林 これ、ちょこちょこ直したほうが良いところはあるけど、良いんじゃないのかな。問題は、これ続かないんだよね。同じ世界観で別の話を書くしかない。

太田 そうは言っても、物語的にはスロースターターだから、それはしんどいんじゃないかな。

それはそう思います。結構、前半はタルい。読んでいて面白いんですけど、主人公の姉の話とか、物語とは関係ない話はけっこうありますね。

太田 そういう取捨選択は結構しんどいと思った。

でも、姉のキャラクターの実在感がすごいと思ったんですよ。ちゃんと主人公のキャラを引き立てる機能を果たしてる。「主人公はこの姉がいるばっかりに、色んな嫌な目にあってきたんだろうな」って可哀想になりましたもん。

平林 今回、みんながあげた作品のなかではこれを最初に読んだのね。だから、他の作品で人を殺す系のシーンが出てきてもあまりリアリティを感じられなかった。

石川 書いてくださったのは看護師のかたですしね。ちゃんと専門性も出つつ、何の知識もなくてもわかるし、看護師の視点から何がどこまでわかっていて、どこまでわかっていないのか、どう緊迫しているのかということもバランスよく読めて良かったんですよ。林さんは今回2作品推薦していますが、僕はこっちの方を推したいです!

平林 これは、今回推薦された5作品をそれぞれがどうランク付けするかっていう話があると思う。

岡村 結構わかれるんじゃないでしょうか。僕はこれあんまりだったんだよなあ。

大里 僕もです。特にこれは、好みがわかれる作品だろうなあと思いました。

太田 岡村さんはなろう的な、シチュエーション優先タイプだもんね。

岡村 そうですね。シチュエーションは考えれば人それぞれ何か出てくるもので、それをどう料理するか、というほうが気になりますね。

太田 売ろうと思うとシチュエーションがあるほうが売りやすいは売りやすいんだよね。それを考えると、この作品はさ、「ゾンビ」ものなのか「百合」ものなのか、どっちを売りにしたらいいのかわからないんだよなあ。

平林 ゾンビが好きなひとが楽しめる作品ではないんじゃないかな。

太田 一方、百合好きのひとが気持ちよくなるような話でもないんですよ。僕はこれ、読者がいない気がしたんですよ。

石川 いや、百合好きは悲恋大好きなので大丈夫です!(より力強く)

岡村 そうなんだ

石川 しかも、最後は食べてしまうというのはすごくよくわかる話なんです。現行の法律上、結ばれないのであれば食べてしまってひとつになるしかないというのは、たしかにあるなという。

平林 そこら辺も上手く処理していてゾンビが必然性のある設定になっている。

太田 でもそれ、最後まで読めばでしょ?

石川 それはそうなんですけどね

一同 (笑)

岡村 ただ、熱い気持ちは伝わってきますよ!

期待してなかった援軍がなぜか来たって感じです! 石川くんありがとう!

平林 これ、主人公というか書き手がお姉さんっていう視点でしょ。そういう語りの技術っていうのはある人だよ。だから、今回あがった5作品のなかでこの人が一番技術的には高い水準にあると思う。

この方には、次回もがんばっていただきたいですね。また病院をテーマにしたほうがいい気がしますね。病院の描写はすごくリアルだったので。

平林 石川くん、この人に受賞させたかったらここでがんばったほうが良いよ!

石川 そうですね

この人がゾンビが好きなのは間違いない! けど、別のアイデアで良質なゾンビ×百合を他に書けるのかは未知数ですね

石川 百合を書こうとして百合を書いてるのかも微妙なところですよね。この作品は『君の膵臓をたべたい』みたいに淡い表紙でそういう雰囲気を全面に出していったら売れると思うんですよ

岡村 淡い感じね。こうやりたいっていうイメージが湧いてくるというのは重要ですよ。

そういう意味では、ゾンビを推すべきか百合を推すべきか帯に何て書けばいいのかまったく思い浮かばない! 太田さん言う通り、読者がいないのかも。

太田 そうなんだよ。「帯にパッとこれが浮かびます」みたいなやつは売りやすいんだよ。

岡村 僕はこのなかで唯一、百合小説を出している人間なんだけど、さっきから全然言葉がでてこないんだよね。

平林 岡村くんは百合好きなの?

岡村 いえ、特に。嫌いでもないですが。

平林 僕は全然わからないんだよ。百合の良さが。だから僕はこの作品の百合の部分はわりとどうでもいい。ただ、どうせだったらレベル高いもののほうがいいじゃんという感じ。この作品は自分の好みをさっぴいて点数をつけていっても高いかなと思った。

石川 僕はこれを一定の層に売る自信があります! 1万部くらいは売れるんじゃないかなあ。

太田 いや、難しいと思うよ。

平林 いやいや、1万部は大変だぜ! 

大里よ、編集者としての芸をみせろ!

大里 次、『蓮に捧げる禍断の剣』。

石川 ロリババアですね!

大里 真っ先にそこに食いつくか(笑)。

平林 じゃあどういう話かを簡単に。

大里 これは、全知全能のシステムに唯一接続できる神(ロリババア)がいてその人の指令を受けた主人公がえっと惑星の未来を

太田 大里さん、さすがに言うけど、準備してなさすぎだよ!

大里 はい

太田 この座談会は決勝戦で、みんなに読んでもらう以上、編集者は何か芸をみせないとだめなわけ。今の大里さんにはそれが全くない。人間は、才能がないんだったら、走りこむしかないんですよ。それすらやっていないのは馬鹿って言われても仕方のない手抜きの仕事です。面白くしゃべるのは才能が必要かもしれない。でも手際よくしゃべるのは頑張って準備すれば誰でもできる。今の大里さんは両方できてない。それは才能がないし、それをカバーする努力も大里さんはしてないってことだよ。それは、僕らに対しても良くないし、なにより投稿してくれた人に対しても失礼!

平林 せっかくあげるんだったらね。

太田 ここで僕ら編集者が最低限やらなきゃいけないことって、「読んでみたら大里さんの話よりも面白くないな」ってことなんですよ。

今井 結構、僕らは言われますもんね。「座談会を読んでたら面白そうなのに、なんでこれが落とされたんだろう」みたいな。

平林 「これ読んでみたい!」とかね。

「読んだら後悔するぞ」って思いますけどね。

太田 それをしないと、この座談会ってただの悪口合戦になってしまう。受賞作がないときなんかは特にね。そんなときこそ、座談会を読んで面白かったなとか、ためになったなということが必要なわけですよ。いまのままだと、「大里か。こいつの発言は飛ばして良いな」って思われますよ。なんかみせましょうよ、編集者の片鱗を。

大里 うぅ返す言葉もないです。

太田 いま悔しいと思いますけど、実際にそうだからね。落とされた人だって言いたいと思うよ。石川さんも同じだけど、さっきの百合の作品のときはよかった。準備をしてきたわけではないと思うんだけど、溢れるなにかがあった。エモーションがね。しかし大里さんは反省してください。

大里 はい!

平林 では行きましょう。正直、この作品はいまいちだったんだけど。

一同 いまいちでした。

平林 これは、なんであげたの?

大里 相対評価になっちゃうんですが、僕が下読みした作品のなかでは情報開示の順番が適切で読みやすかったんですね。地球じゃない惑星が舞台なのに急に焼き鳥屋が出てきたりとか、設定が甘いところは多々あったんですけど、最後まで読んだときに、思い入れのあるヒロインを正義のために殺すっていう、一応カタルシスみたいなものがあったんですよね。
はじめて座談会に臨むにあたって、基準を探る意味でもなにか一作は上にあげたいと思っていて、相対評価で一番読みやすかったこの作品をあげたという感じです。

平林 この作品と比べるんだったら、僕が落としたやつのほうが面白いよ(冷たく)。

超予知機関みたいなものが他の惑星でも認知されているものなのか? 物語の前提がよくわからないので読みながら不安になりました。

太田 ここまでやっておきながら、デザインチャイルドとかさあ

平林 そう、古いんですよ! SFとしてのガジェットが15年くらい前のものだよね。

石川 固有名詞もちょっとそういう大きい枠組みとして語れる名前じゃない。

平林 そう、固有名詞も下手だよね。

石川 日本的な名前であることはいいと思うんですけど、『シドニアの騎士』とかは日本名ですけどすごく異物感があってただごとではないなというのが名前だけでもわかるじゃないですか。これはあんまり上手くない。

平林 やっぱりさ、何事も調べて書かないとダメだよね。

大里 たしかに、僕の準備不足は100%認めるところです。熱く推したいところがあってあげた作品でもありませんでした。もうひとつの『サニー・サイド・スロー』はちょっと特殊なので、これもあげたんですが、こういうやりかたは良くなかったですね。

岡村 はじめて参加したから、仕方ないんじゃないでしょうか。

太田 優しいね! 最初の人に当たっちゃったというのが良し悪しあるよね。この人、他の新人賞で受賞あと一歩まで行ってるのが信じられないくらいあまりにもお粗末でさ。久々に書いたのかな。

あと、超心狭いことを言いますけど、主人公は超イケメンで、既にヒロインとは両想い確定みたいな感じじゃないですか。こんな勝利が約束されたキャラ、応援する気になります?

岡村 いやいや、みんな物語を読んで気持ちよくなりたいという欲求はあるからそこは否定しなくても良いんじゃないかな。

太田 ハーレクインとかそういう話じゃん。

それはたしかにそうです。すみません!!

石川 でも、ペンネームもヤバいなあ。AST。ストーリーテラーの信者。

大里 はい、すみませんでしたあ!(猛省)

狂気を感じる若き才能!

岡村 次は『フラッグフェスタ』ですね。これは、話を大きく分けると1部と2部にわかれております。

平林 書いたのは19歳の大学生で四季賞の佳作で『good! アフタヌーン』に読み切りを掲載。

太田 読みました。

岡村 僕も読みました! 4ページの読み切り。

太田 あれはすごかったね。よく賞を出したなと。さすがは『good! アフタヌーン』。

岡村 『good! アフタヌーン』に載ってた作品のなかで、一番狂気が溢れてましたね。「なにこれ!」という感じで、載せる人も頭おかしいと思えるくらい。それはさておき、作品の内容をざっと話すと主人公は高3の優等生で、人殺し。めちゃくちゃ人を殺すのに慣れているんですけど彼の面白いところは特に殺人衝動はなく、人を殺すのは食事をするのと一緒くらいの感覚で、殺人の動機を探すために人を殺す。これは人を殺す理由としては新しいところかなと思ってます。彼のまわりには彼と似たような人殺しの高校生が3人くらいいます。彼と仲が良かったり敵対したりという関係性は色々あるんですけど、読み進めていくとまわりの高校生の存在は全部彼の○○だったということがわかり、第1部が終わります。第2部は、視点がクラスメートの女の子に移ります。この女の子は夏休みに天文部の合宿に最後の思い出づくりとしていくんですけど、この合宿に人殺しの男の子が加わります。男の子が人殺しであることは読者にはわかっている状態で話が進みます。最後には第2部の女の子と人殺しの男の子が殺しあって女の子が勝つ、というお話です。

平林 続けられないじゃん!

岡村 僕は、これは続けられなくて良いかなと思ったんです。これをあげた理由っていうのはキャラと文体、テンポです。圧倒的に良いです。他の作品と比べても、作家としての将来性はすごくある人だと思います。

太田 ある! 僕も、こういうの好きなんだよ。超好きなんですよ。

平林 これ、岡村くんと太田さんは好きだろうなあと思ったんですよ。でも、これは僕にきたらあげないかもしれない。

大里 えっ、めちゃくちゃ面白かったじゃないですか!

太田 山中さんも好きだったなー、こういうの。

岡村 だから『ブレイク君コア』とか出してるんでしょ(笑)。それはわかるんですよ。だから、僕は太田さんの意見を聴きたいんですけど、第2部どう思います?

太田 はっきり言う、第2部はよくない!

岡村 ですよね

太田 でもセンスを感じたのは、最後に殺人鬼の男の子が返り討ちにあって死ぬっていうところ。これはなんかよかった。ざまあ、って感じがするじゃん。

岡村 そこはちょっと『DEATH NOTE』的な匂いを感じましたけどね。最後にちゃんと悪は負けるんだ、っていう。でも、最後なんであの殺人鬼の男の子が負けるのかわからなかったんですけど。女の子は別に強くないでしょ?

太田 それは、手傷を負ってたのと読み合いに負けたんだな。

岡村 そこはもっと説得力が欲しかったですね。

大里 納得できないですよね。えっ、こいつ強かったの? みたいな。

太田 あと、このひとが面白いなあと思ったところは、戦闘シーンが上手い。

岡村 たしかに。読んでいてちゃんと情景が浮かぶんですよ。これは、マンガを描いてるからかもね。ちゃんと文章が画になってる。

太田 うん、絶対に次もうちに投稿してほしい!

岡村 もっと構成に関しては最初に突き詰めてから書いてほしいですけどね。

過去2部構成になっていて、よかった作品ないですもんね。

岡村 唯一あるとしたら、これは結末がほぼ決まっている第2部なんですよ。1部で男の子がこれだけヤバい殺人鬼ということがわかっているので、2部は惨劇が待ち受けているのがわかっているんだけどドキドキする。桜庭一樹さくらばかずきさんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』も結末は最初に提示されてるよね。

石川 新聞記事が出ますもんね。

岡村 だけど、実は結末は覆るんじゃないかとわずかな希望を持って読むことができるんだよね。この作品はそれがない。結末はやっぱり2部の女の子のすごさをもっとわからせる必要があるんだよなぁ。できれば1部にそういう描写が欲しかった。そうすればうまく二項対立になる。

太田 あと、1部にも問題はあって、実は○○○○でしたっていうのはもう20年前のフィクションなんですよ。でも僕みたいにこういうのが好きな人が残っているから受け入れられるけど、やっぱりこれは安易。いま2010年代に出す本としてはね。ずっとある話じゃないですか。ただ、最近もう時代が変わっているからこういうものがないんですよね。

一周回ったってことですか?

太田 そう、だからわりと新鮮に読めて、「最近は投稿作でもこういうの少なくなったなあ」と思いながら読んでいて。うん、やっぱり一周回ったんだよ。もうゼロ年代もずいぶん遠くなったしね。でも後段、女の子が『DEATH NOTE』の「L」になってないというのは問題だね。すごいやつがすごいやつを追い詰めていくっていう感じはたしかになかった。

岡村 そうなんですよ。だから、普通に読んでいったら絶対に男の子の主人公が勝つと思う。女の子がすごいやつだったら、どっちが勝っても納得できるんですけど。

太田 知能戦じゃなくて戦いで勝っちゃうもんね。それはちょっとなって思うよね。

ピンチはあるけど、サスペンスはないんですよね。

太田 そうそう、この子はキャラクターの上手さとある種の文章力で持たせてしまっているところがあって、ミステリー的な驚きは多重人格でしたっていうところでしょ? だから、ミステリー的な作法はないんですよ。

岡村 でもこの人はミステリーを書きたいと思って書いているんですかね?

太田 俺は求めるから。あらゆるものにミステリーを求めていくよ!

この人には何を読めってアドバイスすべきでしょう?

太田 『DEATH NOTE』はミステリーになってるじゃん。ミステリー的な仕掛けがないと、長く活躍する作家になろうと思ったらしんどい気がするね。毎回、天性の才能だけで書いていかなきゃいけないわけだから。ただ、才能はすごくあると思う。

岡村 ありますね。

太田 絶対に次もうちに来てほしい。

岡村 僕もあげなきゃいけない作品だとは思いましたけど、2部はひどすぎる。でも才能はあるって感じなんだよなあ。

石川 冒頭の「こちら側のどこからでも切れます。」が一番良かった。

太田 そうそう、冒頭はすごく才能を感じたね。

石川 でも、それが僕のなかで感じたセンスのピークでした。

平林 じゃあ、このひとは引き続き頑張ってくださいっていう感じですかね。

岡村 期待大です。

絶妙な設定ながら、キャラ立ちに難あり

平林 次は『エマーソンなんか知らない』。じゃあ簡単にあらすじをお願い。

高校内の下位カーストから抜け出したい。お金さえ払えば、組織的に友人を手配してくれる「友達屋」を秘密裏に運営する生徒会のお話です。お金を払う生徒、組織を運営する生徒、それぞれの視点で展開されます。とにかく冒頭3ページで端的、かつスマートにこの作品のコンセプトが凝縮されていて、これは推そうと決めました。

平林 林さんは百合ゾンビよりこっちの作品のほうが推しなんだよね。

はい、というのもまずこの作品は「友達屋」ってのがすごくキャッチーで、帯に何て書くかがパッと浮かんだんです。

平林 これさ、短いページ数のなかで結構複雑なことをやっているんだよね。主人公と他のキャラクターとの話があって、先生と今仲さんっていう女の子の話があって、とか。

でもそれが破綻せずに最後まで繫がっているところがすごいです!

岡村 これ、主人公は誰なの?

平林 主人公は、「友達屋」にお金払ってる蓮沼くんでしょう。

岡村 蓮沼くんかあ。

平林 一応、「友達屋」を使って蓮沼くんが高校生活と恋愛を成功させる話になっているけどね。主人公のキャラクターはもうちょっと立たせても良いかなと思うけど。

はい、それはその通りですね。

平林 冒頭に蓮沼くんが出てきて、すぐに視点が「友達屋」を運営してる柴崎に交代しちゃうから印象が薄くなっちゃうんだよね。その後もころころ視点が変わるから、そこら辺はもうちょっと人物をしっかり書いても良いんじゃないかなと。

岡村 あとは、1ヶ月1万円っていう友達屋の金額は高すぎない?

太田 いや、これは絶妙だと思う。

今の高校生なら払えなくはない金額だと思います。

平林 でも、仲介役がいくら手数料を取っているかは書かれていないんだよ。柴崎くんが25人と契約して月収25万円だって言っているんだけど、仲介役にお金は入らないの? って。これはおかしい。

太田 あとさあ、結構絶妙な金額設定だからみんなバイトを頑張ったり親の金をちょろまかしたりする描写があると面白い気がしたんだよね。

たしかに「友達屋」を運営する描写に甘さはありますけど、柴崎は学校の建前を否定したいっていう彼なりの哲学を持ってるじゃないですか。だから「友達屋」を運営するリアリティは十分にあると思うんです。夜神月のような狂気的な執念はないけど、ちゃんと偏屈な秀才にはなってる。

平林 リアリティがある分、キャラ立ちが弱いんだよね。

太田 そうそう、さすがですね。

この原稿FICTIONSの組みに流し込んでみたんですけど、まだ200ページしかなかった。「ぼくの考えた友達屋で学校のシステムをぶっ壊してやるんだ!」みたいな話をあと50ページくらいかけて加えたらちょうど良くなるかと。

平林 でも、キャラを立たせたらこの作品の良さがなくなっちゃうかもしれない。高校生でこんなのありえないだろ! とならない程度にキャラを立たせることがどのくらいできるのか。

私はこの人ならできると思います。あとはこの人の文体、すごく魅力的ですよね。なさけない所の表現は特にぐっときます。

石川 プロローグはめっちゃよかったんです。そのあと1章の「蛇口を盗む、仕方がないから」までがめっちゃよくて、あとはまあいいくらいでした。内容というよりは文体の話で、プロローグに持てる力の70%くらいを使っている印象です。残りは文体とかそっちのほうにはあまり気が回らなかったんじゃないかなと思って。

平林 これ、悪くないんだけどね。星海社FICTIONSから出てるイメージじゃないんだよなあ。林さんはどのくらい推したいの?

かなり強く推したいですね! まだ23歳で、初応募ですし見逃すにはもったいないと思います。

太田 うーーーん、もうちょっと煮詰めかたが足りない気がする。キャラは立ってない。ちょっとマイナーな漫画雑誌の原作だったら面白い、くらいだと思う。偏差値50くらいのイメージ。

平林 でも、これはもうちょっとレベルをあげてもいい気がする。

太田 そう、文章でやるんだったら偏差値50ではやっぱりダメなんだよ。もうちょっと上じゃないと。

平林 騙し合いのところなんかはもうちょっと難しくてもいいと思う。

石川 この作品の偏差値をあげると文芸賞になる気がしたんですけど。

平林 あれだよ、「すばる文学賞」みたいな。なんだろう、微妙なところなんだよ。

岡村 キャラクター文芸にはなるんじゃない?

平林 僕はわかりやすいスクールカーストものにしていないのは好感が持てたけどね。

太田 どうなんだろう。なんか、隔靴搔痒の感のある作品だなと思いましたね。僕がすごく推してないのはそういうことなんですよね。林さんどうですか?

少なくともメールか電話はしたいです。

太田 じゃあいいですよ。そうしましょう!

はい、連絡を取ってみます!

まさかの受賞最有力は野球小説!

平林 では最後『サニー・サイド・スロー』。

太田 来ましたね。

平林 ではこれがどういう話か、手早く。

大里 はい。主人公が元甲子園の優勝投手で

太田 大里さん、やっぱりもっと考えようよ。第一声からもっと、何かやりましょうよ! 僕たちは作品を売らなくちゃいけないんだよ! 大里さんが担当したら、この原稿を売らないといけないんだよ!

大里 はい! 野球賭博の

太田 ちょっとマシになりましたね。でも、「今井さんは野球賭博やったことあります?」とかそれぐらいから始めようよ。せめて!

平林 それで今井くんが「あります」とかね(笑)

一同 (笑)

太田 大里さんクラスだったらさ、「僕、この作品に影響されちゃってこの前、野球賭博したんですけど」とかさ。あ、ただの犯罪か。

大里 では3度め、仕切り直しで! えっとですね、僕にとっては大学野球も甲子園も野球賭博も、全部ファンタジーなんですよ。よく知らないんです。

太田 スポーツ嫌いなの? そんなに黒く焼けてるのに?(満面の笑み)

大里 やめてください!(切実)

今井 日焼けの件、大里くんは本当に悩んでますからね!(笑)

大里 僕はスポーツが嫌いではないんですけど、得意じゃないので自分がやるものではないなという。正直、この作品は知らない世界なんです。でも、これを読んで、みたことないものでも想像してリアルに頭に浮かんだんです。その世界を知らない人間に、これはリアルだと思わせるというのは、単純に文章の力がそれだけあるんじゃないかなと。僕にとっては本物に思えたんですが、野球を知っている皆さんにとってはどうですか? というのを問いたくてあげた作品です!

今井 で、あらすじは?(笑)

大里 そうか(笑)。失礼しました! あらすじは、甲子園優勝経験のあるピッチャーが大学に進学します。その大学は強豪校ではなくて、自分の憧れているピッチャーがいるというだけで選びます。チームの強さは大学野球の2部リーグの昇格争いをしているくらいです。そして、ヒロインが

平林 うーん、ちょっとまとめ方が下手だな。

太田 でしょ。大里さん、太田が憎いって思うかもしれないけど、これだけ言うのは僕の親心ですよ。

平林 簡単に言うと大学野球で1年生のピッチャーが野球賭博を持ちかけられる話だよね。

大里 はい。

平林 そして、その賭博をしないといけない状況に追い込まれると。で、意図的にフォアボールを出さないといけない試合が昇格がかかった最終戦であると。

太田 誰がなんのためにやっているのかとかね。野球賭博ってものがあるというのはみんな知ってる。でも、野球賭博をいざやろうとするとこんな問題が色々出てくるんだというのは野球をよく知ってないとわからないことなんだよね。プロで野球賭博をやるのって難しいじゃん。しかも小説にしても面白くするのは難しいと思うんだよ。逆に言うと、このシチュエーションはすごくいいんですよ。色んな人生がかかっているから。野球賭博をしようというヤクザの人からすると『カイジ』じゃないけど、利根川さん的な快楽があると思う。「人の一生を左右できる愉悦フフフ」みたいな。

平林 でも、これは日本語が不自由。間違ったことわざとか慣用句が非常に多い。

今井 そうそう、「醜聞を晒す」とかね。

平林 これさ、どこの人?

大里 大学名は書いてないですが北海道に住む20歳の学生です。

太田 ええー! ハタチ!?

岡村 でもこの人からは結構送られてきてるでしょ?

大里 はい、2014夏、2014秋、2015春と3回です。

平林 2014秋は僕が読んでるね。

大里 原稿にはこれまでのコメントも書いてあったんですよ。

平林 今回までで読んだのは岡村、平林、今井、大里だね。

今井 このやりかたは賢いなあ。

平林 僕が読んだときは悪くないけどあげるほどじゃないって感じだった。年齢のわりに渋いんだよね、書くものが。

今井 でも、みんなそれなりに評価してますね。

太田 えっ、じゃあ最初は19歳のときに送ってきてくれたんだね。1年に2作は書いてるんだ。有望じゃん!

今井 今まではダメだったんですけどね。

太田 で、今回のは面白いか面白くないかで言うと明らかに面白いんですよ。

うーん正直全然わかんないです。私は野球にあまり興味がないので

岡村 めっちゃ面白いよ。

太田 今日まで、これはなんでうちに投稿したんだろうと思っていたわけ。カテゴリーエラーできたのかな、と。でも1作目の投稿だから2作目、3作目を読みたいってあたりで落とそうかと思ったんですよ。もし強く推す人がいなかったら。しかも、30歳は過ぎてると思ったわけ。

大里 文章を読んだら、たしかに思いますよね。

太田 女の子とかヤクザの書きかたとか古くない?

それはすごく感じましたね。女の子の会話が古い! 「~です?」とか言い回しに違和感がありました。

大里 女の子はともかく、ヤクザのイメージってあんまり更新されてないんじゃないですかね。

今井 『アウトレイジ ビヨンド』とかみると

岡村 微妙だなあ。

今井 リムジンで来るとかね。

平林 あと、年齢差を書いてないでしょ。ヒロインはもっと書き込んだほうがいいよ。

今井 なんで大学野球で野球賭博が成立しているかっていう説明はされてました? 普通、やらないんですよ。2部リーグなんか特に面白くないから。

岡村 それは説明されてたような。

プロは八百長できないからってことになっていましたよね。

大里 あとは野球好きのヤクザがやっているという。

平林 そう、甲子園とか全試合みてるレベルのやつらが賭けるんだという話になっていますよね。

岡村 プロで賭博をしても計算ができちゃうから面白くないという描写もあったよね。

私はこの野球賭博自体にそんなに需要あるか? って疑問を感じました。フォアボールで貰える額が結構大きいじゃないですか。こんなに金が集まるのかなって。

今井 でも、僕は野球経験者として「フォアボールひとつで50万円」というのは素晴らしい設定だなと思いました。

平林 相撲の八百長は星ひとつ50万円って昔読んだな。

太田 それからするとちょっと高いよね。

平林 でも、それは賭けじゃなくて、8勝7敗で終えたいから星をひとつ買わせてくれという話です。

今井 それにしても、フォアボールってすごいんですよ。絶妙な雑味になるというか。

太田 あとは「たった一滴の不純物が、野球を台無しにする」という一言が良かった。この小説はこれに尽きる。

平林 この人は野球やってたのかな。やってた感じあるよね?

太田 ある。最初読んだときは、野球とかやめてくれと思ったわけ。普通は、いま何をやっているのかがわからないような書きかたにしかならないんですよ。これは三島由紀夫も言っていて、スポーツを小説で描写するのはすごく難しいんです。三島由紀夫自身がボクサーを描写したときには「毬のように相手の懐に駆け込んだ」とかそんな感じなの。やっぱり凡庸でしょ? 難しいんですよ、スポーツ描写って。でも、これは誰がみてもいま何がどうなっているのかがわかる。僕も野球を通してリアルで観たのなんてもうかれこれ20年くらい前なわけ。それでも浮かぶんですよ。いまこういう状況なんだなというのが。文章は、すごく上手いとは言わないけど、少なくとも野球に関しては文章力はあるんじゃないかなと思うんです。ヤクザとか女の子はだめなんだけど。あとは男同士のホモソーシャルっぽい感じしなかった?

平林 そこはやっぱり年齢なんですよ。経験のないものが下手なんですよね。そこは技術でカバーするか経験しないといけない。

太田 逆にいうとそのホモホモしい感じはすごくよく書けてる!

石川 そういう、ホモソーシャル空間にいるんじゃないですかね。

太田 後輩に電話かけるところとか、すごくよかった。女の子に電話かけるところは全然ドキドキしないのに、なんで男に電話かけるところでこんなにドキドキするんだろうとか思わなかった?

岡村 でも描写はあるでしょ。要は後輩に対してコンプレックスを感じているわけですよ。

太田 あれはまさに高嶺の花の女の子に電話をかける男の心情だよね。しかも、あっちのほうも憎からず思っていて2コールででて、とかすごくよくなかった?

岡村 これはね、主人公の設定が本当に絶妙なんですよ。まず甲子園優勝投手。しかもメインじゃない。

太田 どっちかっていうと恥を晒した側ね。

岡村 8回4失点でだめなんだけど、打線が爆発して勝利投手になる。最後は元々のエースが締めるという。ポジションが絶妙なんですよ。

太田 そうなんだよなあ。

岡村 大学にいくとサイドスローの精密機械に変貌しているとかいうのもいい。

平林 でも、それぞれの大学の選手の描写と実力については設定が甘いと思う。次から次へといい選手が出てくるんだけど、もうちょっと凡庸な選手が凡退するところとか本当に大したことない選手が大したことない成績をあげるところとかを書いたほうがいい。いいプレーをするところばっかり書かれているからね。主人公と能登と如月と島田。

今井 逆に、彼らが際立たないですよね。

平林 そうなんだよ。

太田 でも、読んでるあいだはこんな2部リーグで賭けとか成立するのかというのが頭から吹っ飛んじゃうくらい面白かった。

平林 この野球の子は色んなものが書けるよ! 前に読んだときは全然違ったもん。

岡村 そもそも、何回も送ってきて良くなるのって珍しいと思うんですよ。

太田 これは、地味だけど何をやる話なのかがすごく明快なんですよ。「野球賭博の話だから」っていう。

岡村 超シンプルだよね。何のために勝つかっていう。

今井 あとフォアボールがいいのは、自分でなんとかできるんですよ。力があれば。

岡村 でもこのフォアボールの出しかたがさあ、わざと最初に出してそこから抑えていくという!

太田 あれはミステリー的には意外な正解だったんですよ。「なるほど、その手があるか」という。しかも、かっこいいじゃん!

岡村 そう、かっこいいんです。

平林 プロット的には破綻は基本的にないですよね。

太田 そうなんだよ。女の子があまり魅力的じゃないっていうのと、ヤクザがちょっと類型的だけど。

岡村 でもそれは直せますって! これ完成度としてはかなり高いですよね!

太田 そうだね。あの東野圭吾ひがしのけいごさんだってデビュー作は野球ものなんだよ。

岡村 それは初めて知った。僕はベイスターズの描写がすごく好き。

太田 細かいところも面白かったよね。

(原稿をめくりながら)

平林 あ、主人公が長野出身だから巨人ファンなのか。テレビでやってないんだよ、他の試合が。長野は高校野球、安定して強いよね。

チームメイトに誰か敵がいるとかドキドキがもっとあったら良いなあ。

太田 それはあったよ。誰かが裏切っているっていう。

岡村 だからこれ、一応野球ミステリーになってるんだよ。監督を恐喝するあたりで主人公の性格が変わるんですよね。でもこれ、ゲームセットの終わりかたが良いんですよね。能登のところにフライがあがって、取るか取らないかってところで取って終わるという。

平林 やっぱり、青春スポーツものだよな。これ。

太田 「一滴の不純物で野球が台無しになる」っていうのがまさにラストシーンに表れてたね。不純物だった人間がバシッと最後に取っちゃうわけですよ。○○○○を犠牲にして。(笑)

大里 そう、能登は実はいいやつだったんだって一瞬思うんですけど、最後にろくでもないやつだっていうのがわかるっていう。裏切りの動機が実にしょうもなくてよかった。

太田 やっぱり上手かったよね。

平林 これは、野球好きな批評家なんかに事前にゲラを読んでもらうタイプの作品なんですよ。そういう意味では我々がほしいものとは違う。

太田 全く違う(笑)。星海社と野球っていまのところなんにも繫がりないじゃん。

平林 個人的には野球好きなんですけど。

今井 平林さんの阪神ツイートが原因ですかね?

平林 いや僕は最初、主人公が巨人ファンって書いてあってテンション下がったもん。

太田 それは星海社をわかってないって感じがするよね(笑)。

平林 弊社、巨人ファンはひとりもいないので!(大声)

岡村 いやいや、もしかしたら彼はすごく考えて、東京ドームと同じ文京区の会社だから絶対巨人好きに違いないと思ったのかもしれない。

一同 たしかに!

最終決戦は12月!

太田 で、どうする? 『サニー・サイド・スロー』に賞あげる?

えっ!

太田 でもさあ、うちじゃないかもっていうのはあるんだよな。

大里 それは絶対に言われるだろうとは思ってました。

平林 そういう意味で、今回は星海社っぽい「うちで出さないと他では出せないだろう」みたいなものはないんだよ。

岡村 これ小説としてはいいんだけどなあ。

太田 うん、面白い! 僕は好き!

平林 正直、もう2年近くでてないんだから今回で新人賞を2作出しても良いんじゃないかな。

太田 えっ、もうひとつは?

石川 『リューシカお願い、わたしを殺して』ですよ!(食い気味に)

太田 まじで?

平林 僕は良いかな、と。100万円ずつでちょうどいいんじゃないかな。

太田 ふたつかあ。でも『リューシカ』もこれももう一味ほしい。『サニー・サイド・スロー』のほうが現実的だとは思うけど。

今井 でも、まさかの! って感じですよね。

平林 野球で1作というのは賞のために僕は良くないと思う。出すんだったら2作のほうがいいと思います。レーベルカラー的には。

太田 「野球ミステリー」だから大丈夫じゃない?

今井 野球を題材にしたミステリーではあるんですけど、野球部分が面白いですからね(笑)。

太田 そうなんだよ。今回、あげてもらった作品を読んで思ったのは、主人公がどんな動機を持っているのかってことがわからないものが多かった。『サニー・サイド・スロー』はずっと主人公が次にどうするんだとか、この窮地をどう乗り越えるのかみたいなことを辿っていくロープがあるんですよ。情報開示の手つきがうまいんです。

今井 ちゃんとクライマックスを作ってますよね。脚本のお手本みたいな話。

太田 『フラッグフェスタ』は途中でそれが全くなくなっちゃうし、『エマーソンなんか知らない』にはないんだよ。はっきり言うと。少なくとも後半に入るまでない。

そうですね。

太田 じゃあさ、こうしましょう! 大里・今井で『サニー・サイド・スロー』の人を担当してよ。で、林・石川で『リューシカ』の人を担当するのはどうかしら? 『フラッグフェスタ』の人は僕が連絡を取る。で、これは提案なんだけど、次か、その次の締め切りまでになんとか良いものをこの3人に書いてほしい。今回で2作同時受賞っていうアイデアもたしかにありなんだけど、完成度的にそこまでではないと思ったんだよね。あとは、お祭り感もないじゃん。

平林 そうそう。もし、ひとり又吉さんにあたるような人がいれば僕は強力に2作同時受賞を推したんですけど、そこまで強硬に主張するほどじゃない。

太田 そうなんだよ。とにかく、話としてはそんな感じで、次か、その次に最終決戦をしようよ。過去に皆さん声かけたかたとかいるでしょ? そこには出そうよ。12月までに1本。戦略を練ってください、皆さん! 林さんもいるでしょ?

いますね。

今井 そういえば、今回は電車の人から来てないですね。

最近、音楽の人も来てないんですよね。

平林 僕はあの音楽の人、楽しみにしてる。最近、僕のところに回ってこないんだけど。

太田 みんな愛があるね。過去、いいとこまで行った人にも声かけて書いてもらおうよ。ずっと出てなくて満を持して出すんなら、いっぱい出したほうが良いじゃん!

一同 はい!

一行コメント

『柘榴色に燃える』

視点の切り替えはいいと思いますが、少し刻みすぎです。紋切り型の比喩や副詞が多いために、全体的にこなれていない印象を受けます。 (石川)

『心に余裕を。ジャッカルは砂漠を行く』

自然物を人工物が淘汰した、というディストピア観はピュアすぎる。固有名詞の選び方や読点の付く位置など、文章も生硬です。 (石川)

『霊界エンジン色色』

展開・設定と比べて、登場人物がかなり淡白で熱を感じられなかったのが残念です。台詞も全体的に古い。地の文はテンポが良く、ストレスなく読めました。 (岡村)

『キラユメアゲイン』

読ませる文体ですが、話が小さくまとまりすぎています。短編小説なら通用するアイデアですが、長編小説にはカロリーが足りない印象。もっと練ったアイデアを! (林)

『Maybe Humans』

読点を多用しすぎです。特に台詞部分が、まるでキャラクターがガチガチに緊張して台本を読んでいるように感じました。まずはキャラをちゃんと活かすことを考えましょう。 (岡村)

『終末のマスカレイド』

あらすじを読んで期待感が膨らみましたが、キャラクターの台詞をはじめ描写が古めかしく、感情移入できませんでした。コンパクトにまとまっているのは、よかったです。 (今井)

『マスターキーには抗えない~パイロキネシスの残滓~』

長いです。また、異能、探偵、日常ライバルが数多いるジャンルで勝負するには、決め手がなさすぎます。 (今井)

『xuan3ze2(シウアンゼ)』

長いです。作中のゲームはしっかり考えられていると思いますが、ゲームプレイの描写も、キャラクターの台詞も冗長すぎます。 (岡村)

『狂拳の詩』

文章がこなれておらず読みづらい。設定、ストーリー、キャラクターいずれも面白くなかった。 (平林)

『プリレトロヴァージン/a midsummer knigh's dream』

一人称小説としては致命的に語り手と語り口が魅力に欠けます。 (石川)

『生霊の棲むゴーストランド』

文章は読みやすく、書き続ければ独自の文体が持てそうに感じました。内容的には習作感が強い。また、この手の叙述はすぐに分かるので、効果的な使い方を考えたほうがいいかと思います。またお待ちしています。 (平林)

『あなたは本物?偽物?』

魔物の人格が人間と入れ替わるというワンアイデアだけで書ききった印象を受けました。入れ替わりものの醍醐味が、物語の後半に展開されるようプロットを練り直しましょう。 (林)

『Doll Killer』

SF的な仕掛けに新しさが感じられませんでした。キャラクター全員が都合よく動くので、消去法で展開が読めてしまいます。予想を裏切るような仕掛けがなにかあれば読み味も違うものになったはずです。 (大里)

『鏡のゲーム』

特に理屈のない設定が多く、無理があると感じました。頻繁な語り手の移動が読みにくさを生んでいると思います。 (大里)

『消えない悪』

誤字脱字があまりにも多く、小説として読み進むのが苦痛でした。紙の原稿も送ってください。 (石川)

叙事詩エピック・No.ナンバー・4132ヨンイチサンニ

2015年にこれを読むのはちょっとしんどいです。 (平林)

『パシリ探偵の推理と迷走』

オチが荒唐無稽すぎて、一気においていかれた気持ちになりました。茨城弁の勢いあるセリフ回しは好きでした。 (大里)

『名探偵タマゴちゃんとチューリングくん』

文体はテンポ良く読みやすいですし、ボカロ、アニメ等のサブカル描写も良いアクセントになっています。ただ展開の起伏が平坦すぎて「続きが気になる」という気持ちにならなかったです。 (岡村)

『賽ノ式神』

文章は達者、キャラクターや物語も整っていて読ませますが、いまひとつフックに欠けます。「ウェルメイド」以上のものを目指してほしいです。 (石川)

『イルミンスール』

綺麗で読みやすい文章でしたが、物語の起伏がとぼしく、夢中になって読むことはできませんでした。 (今井)

『魔法少女学校の悲劇』

王道の設定ですが、バトルシーンは楽しく読めました。畳み掛けるような絶望展開もよかったです。ただ、ヒロインが本来の戦闘本能を受け入れるというオチはシンプルすぎて、少しがっかりしました。 (林)

『逃走』

チャレンジ精神のあるプロットで期待して読みましたが、それを活かしきれていませんでした。ペンネーム、いいお名前だなと思います。 (今井)

『空の在り処』

2000年代の携帯小説を思い出しました。物語がなかなか進展しないので、次のページを読みたい! という気にさせるような展開を用意しましょう。 (林)

『暮れないの朱』

キャラクターがみんな可愛らしく、微笑ましい気持ちになれるのですが、それだけという印象です。 (石川)

『迂闊なるダークエルフ』

説明が冗長です。テンポよく読ませる工夫が欲しいです。 (大里)

『フィルカルダの灯火』

細かな設定と沢山の固有名詞が作品を非常に読みづらくしていると感じました。 (大里)

『虚ろの海のネレウス』

作品にあまり新鮮味がないのが残念でした。設定はよくあるものでもそれ自体は問題ないのですが、内容に「おっ」と思わせるような違いが欲しかったです。 (岡村)

『Location of the Spirit』

意欲は買いますが、テーマの大きさを物語が受け止めきれていないように思います。誤字が多いので気をつけてください。 (平林)

『ハートフィリア』

「人種の代わりにファンタジー的な種族がある地球」というのは一見ユニークなのですが、現実の世界をそのように置き換えてみる仕方が不徹底で、意義もよくわかりませんでした。章ごとに引用があるのはいい手ではないと思います。 (石川)

『ただいま、くそったれ』

先が気になる展開になっておらず、特に後半、息切れした印象です。冒頭はじめ、いくつかの会話が、おもしろかったです。一行目から引き込まれました。 (今井)

『イデアルアイデン』

キャラクターの会話、言葉遣いに光るものを感じました。ただし設定、とくに冒頭があまりに単調なので、魅力ある物語設定を考えましょう。 (林)

『46573の対価』

警察が無能に書かれすぎていて緊迫感がありません。キャラクターの感情の動きが唐突で、誰にも共感できませんでした。 (大里)

『輝く星に、彼は叫んだ』

冒頭の詩が非常に稚拙で、読む気を失せさせるに足ります。本編でいえば、句点はきちんとつけてほしいです。 (石川)

『男性恐怖症のウチとイケメン嫌いの元康』

「元康のイケメン嫌いを直す」というゴールに最後まで共感できませんでした。あと、巻末のSSは完全に蛇足です。 (林)

『慶長奥羽妖異譚』

破綻なくまとまっているし、素材もよく知っているので嫌いではないのですが、独自の魅力がないのが残念でした。 (平林)

『ジェノテクト』

よくある設定で、読ませるための武器が足りない印象です。結末も、消化不良に感じました。 (大里)