2014年春 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2014年5月20日@星海社会議室
受賞者なくとも才能を感じさせる作品多数襲来!! 大興奮の座談会を公開!
太田 いやぁ、森永製菓さんの新製品、「Jack」は本当に美味しいねぇ。ポリポリポリポリ。
今井 今回の座談会は、今編集部で一大ブームとなっているアーモンド菓子「Jack」をつまみながらお送りしています。森永さんと星海社の間で起きた、心あたたまる出会いについてはこちらをご覧ください。
林 今回の座談会は編集者の全発言の後に「ポリポリ……」って擬音をイメージして読んでくださいね。
山中 何言ってるんだか(ポリポリ)。ってことで、今回集まったのは全部で68作品でした。数は多すぎず少なすぎずですね。
太田 一点一点、しっかり読み込んでいきたいから、投稿数はこのあたりで安定してくれると本当に嬉しいんだけどねえ……。と前置きはこのくらいにしておきましょう。平林さん、最新の新人賞の進捗報告をお願いいたします!
平林 2013年秋の新人賞受賞作、『Exeption ―機巧アリスに口付けを―』は無事に改稿作業も終わりました。改題して、『アリス・エクス・マキナ』というタイトルで、今秋より刊行を開始します。
今井 刊行を開始、ということは……?
平林 そう、第2巻の初稿もすでにいただいています。
一同 おおー!
平林 大槍葦人さんのキャラクターデザイン作業もはじまっていますが、これがもう素晴らしくて……。早くお見せしたいので、引き続き頑張ります。
太田 それは期待大ですね! じゃあ今回も新たなる才能との出会いを信じて、バリバリはじめるぜーーーー!!!
編集部への挑戦状
林 ハイ、ハイ、ハイ、ハーーイ!! トップバッターは私にいかせてください!!
太田 (池上彰&アントニオ猪木っぽく)いいですねぇ! 元気があれば何でもできる!! 林さん、腹パンさせてください!!!
平林 (眼鏡をくいっとしながら)さぞや僕たちを唸らせる超大作なんでしょうねえ。
林 前回の座談会で話題になった現役エリート高校生が、またしてもミステリー作品を投稿してきてくれたんですよ!! しかもあれほど鬼門だと我々が指摘しまくった「ミステリー×超能力」ものに再挑戦しているんです。これは我々編集部への挑戦状だと考えてもいいんじゃないでしょうか?
山中 なるほど。それは我々としても逃げるわけにはいかないですね。
林 あらすじを説明しますと、『魔眼の寵児』というタイトルからわかるように、主人公は特殊な瞳を持っていて、人の死期がわかる。でも、漠然と5日内に死ぬってことまでしかわからないんです。
太田 これ、視覚的なビジュアルがすごくいいよね。5日以内に死ぬ人には、首にしるしが見えるんだよね。
林 そうそう、老婆の白い手が首に巻き付いて見えるんです。インパクトがあるし、この設定はうまくミスリードができるじゃないですか。5日以内に死ぬ、ってことはわかっても、それはあくまでも「5日以内」なので、明日死ぬか、明後日死ぬか、明明後日死ぬか、それとも一時間後に死ぬかは主人公にもわからない。限定された超能力の存在をうまくミステリーの流れに組み込んでいて、非常にうまいなぁと感心しました。
太田 このあたりはねえ、センスなんだよね。彼にはあるよ!
林 それで、ミステリーの部分はというと王道の「館もの」です。主人公が夏休みに彼女の実家に遊びにいくと、そこにいた彼女の親戚全員の首に死のしるしを見てしまう。初めは事故が起こると主人公は予想してたんだけど、次々人が殺されていって……というストーリーです。
山中 なかなか考えられているよね。王道のモチーフを使いながら、新しいものを作ろうとしているのはわかる。
林 彼女と一緒に犯人を捜すんだけど、途中で「自分が犯人でした」って遺書が出てくる。それで事件は解決かと思いきや……これ結末言っちゃっていいのかな。
平林 言ってもいいよ、別に。
林 平林さんは彼に冷たいなあ〜。それではお話しいたしましょう。遺書が出てきた翌日に主人公は殺害されてしまう。ヒッチコックの『サイコ』みたいに。まさかここで語り手が交代するとは思わなかった。
山中 その展開はおもしろいんだけど、この後、遺された彼女が探偵役をすることになるじゃない? この女の子があんまり可愛くないんだよね。
林 そうなんですよ〜〜〜。全体的にキャラが薄い!
岡村 あとこれ、前回よりむしろ粗くなってない?
山中 そうそう、ちょっと粗っぽくなっちゃった。
林 オチもちょっと変な方向に向いちゃってますよね。
平林 文章は前よりマシになったけど、まだだいぶ訓練する必要があるかな。女の子とつきあうシーンとか、読んでてかなり苦しかった。
山中 あと、前作にあった情緒みたいな、味わいの部分も結構削がれちゃったような気がする。
太田 この人は、文学的なところがしっかりある人だったのにねえ。
林 そういえば前回、彼に対する教育方針で太田さんと平林さんの意見がバックリ分かれたの憶えていますか?
太田 あーーー!!! あったあった!! 分かれたねえ、そう言えば。
今井 「ちゃんとしたミステリーを読もう」って意見は同じだけど、緑萌さんが古典ミステリーとか、あとは古典文学を読めって言っていて、太田さんは新本格ミステリーものを読めって推薦していましたよね。
太田 あと確か僕、もうちょっとエンタテインメントに寄せたほうがいいって話した。
岡村 今回はどっちに寄ってたの?
林 太田さんの「エンタメ寄り」って方向に振ったんじゃないかなぁ。
山中 ……エンタメ系というよりは、今回ライトノベルを読みこんできたんじゃないかとちょっと思ってて。
太田 うん、いわゆるラノベっぽすぎるよね。僕も、前作のほうが良かったと思う。でも今はさ、彼はバリバリ書くべき時期なんじゃない? センスはあるし、若いし。あと、前回から3ヶ月でこれを書いたってことはこの人、筆は相当に速いんだよ。これはすごくいいことだと思う。緑萌さんも言ってたけど、初期衝動の煌めきはこれからどんどんなくなっていくわけだから、実戦を積んでうまくならないといけないからね。
岡村 たしかに。
太田 この人は、これから東大とか京大を目指すと思うのね。在籍している超有名高校の半分以上が入るわけなんだから。学校でもそろそろ受験の空気が漂い始めるころだと思うし、両立は大変だと思うけど、しばらくいろいろ書いてみてほしい。デビュー後の将来のためにリアルの高校生活で貯められるものは貯めながらね。とにかく、彼にはセンスがあるから。
林 今回真っ先にこの作品をお見せしたいと思ったのは、彼が前回私たちが話した内容を踏まえて作品に反映していたからです。彼のこの柔軟さは評価しないといけないと思ったし、一人の編集者として純粋に嬉しかった。アドバイスしても、投稿作品に上手に反映されることは稀なので。
太田 そこが彼の頭の良さの現れなんだろうね。
林 そう思うと、次の作品もぜひ拝見したいです。
太田 そうだね、この人はこれからが実に楽しみ。我々は待っています。他に応募しないで、ウチに来てくれよな!!!!
タイトルで振ったでしょうシリーズ
太田 いやぁ、未来に期待が持てる気持ちのいい滑り出しですね! この調子が続くといいな。じゃあどんどん行きますよーーーーー!! 今井さん、『リア充スレイヤー』!!!
今井 ……これ、タイトルで僕に振ったでしょ?
太田 もちろん!
岡村 これは今井くん以外ないよ。
平林 何? これはアレみたいなやつなの? 登場人物が「リア充殺すべし!」とか言ってスリケン投げるの?
今井 こんなタイトルですけど、はじまりの一行はいいと思う。セリフでね、「貴様、リア充か!」
一同 (笑)
岡村 ちょっとおもしろい……。
今井 僕も期待して読み始めたんですけど……。これ「HIMOTE」っていう戦士がリア充を襲うバトルものなんですね。しかし僕はこの小説を読んでいて思ったんですけど、リア充の反対側に非モテがあるわけじゃないんですよ。つまり、リア充の非モテもいれば、非リアのモテもいるわけです! これから図を書きます。
太田 リア充の非モテ、つまりいわゆる残念なイケメンってやつだよね。わかるわー。
平林 さやわかさんの『一〇年代文化論』を読んで勉強していただきたいですね。
今井 (しれっと)たとえば僕は、そのリア充で非モテですし。なんかそのへんの前提条件が感覚的に肌に合わないなあと思っていたら……これ書いてるの、50歳の方だったんです。
林 アイエエエエ!! それはすごい!
今井 主人公のセリフも「クレイジーだぜ!」とかね。題材は現代的なんですが、全体的に古い印象を受けました。ただ、冒頭は本当にどれよりおもしろかったので、今回の一行目大賞!
岡村 つかみは重要だよね。
山中 主人公はリア充なの?
今井 いや、主人公はただ妹と一緒にいただけです。
一同 (笑)
山中 厳しい世界だねえ。
平林 ヤバイじゃん。毎週バーベキューやってる今井くんとか一発アウトで爆発四散だよ。
今井 やってません! 爆発しません!!
太田 うーん、これはちょっと厳しいな……というわけでじゃあ次、岡村さん『ペガサス競翔』!
岡村 これも何となくタイトルが馬っぽいから僕にふってますよね? ペガサスを調教して競馬をさせる、みたいな話で、題材としては激アツでした。
山中 岡村さんのためにあるような作品だね……。
岡村 でも残念ながら、設定のアイディア以外に光るところは何もなかった……。期待して読み始めただけに、後半は地獄のようでした。俺のワクワクを返せ!!(ダンダンと机を叩く)失礼、つい声を荒らげてしまいました。いま日本ダービーに向けて、馬について真剣に考えている時期なので……。
太田 あ、今度いい感じの予想ができたらこっそり教えてね。
岡村 あとこれ!! 『僕と真里と怒りのオトウ』。これは筆名が「まそまそ」だから僕に振ったでしょう!
太田 たぶんそうだと思う。岡村さん愛しのイラストレーター、「まごまご」さんに何となく似てたから!
一同 (笑)
岡村 これもつまらなかった……。太田さん、いい加減にしてください。
太田 (反省のそぶりすら見せず)そういえばさ、マッチョとかゾンビとか、林さんのツボを毎回押さえてくる人は今回どうだったの?
林 う〜〜ん。実は今回彼はちょっとよくなかった。
太田 なになに? 筋肉が出てこなかったの?
林 いやいや! 題材が好みじゃないとかじゃなくて、単純に構成に難ありって感じです。
山中 で、テーマは何だったの?
林 『青春のパラダイムシフト』というタイトルで、タイムリープものなんですけど。ゾンビやマッチョをおもしろおかしく語ることができるという、彼の最大の持ち味でもある根アカなテイストがごっそりなくなっているんです。どうしたんだろう、就活にでも突入したのかな?
山中 何か人生の転機があったのかもね。失恋かな……。
林 えーと、簡単にあらすじを説明しますと。売れないマンガ家、故障で引退した元野球選手、そしてフリーターの主人公。もう人生ドン詰まりの同級生3人が酒場で飲んだ次の日、みんな学生にタイムリープしていた。「よし! 人生やり直すぞ!」って、マンガ家はもう一度マンガ家目指して、野球選手は自分の限界がわかっているから教師を目指して頑張るんだけど、唯一主人公だけが前回と同じ道を繰り返してしまうんですよ。
山中 ほうほう。
林 ただひとつだけ違う点は、主人公には友達以上恋人未満ぐらいの彼女ができた。その彼女との学生生活が淡々と描かれていて、気付けばタイムリープした現代までだらだら生きてしまう。いつの間にか彼女とも別れてしまっていて、「何でこんなことになってしまったんだ……」みたいな。
山中 同じ人生を繰り返しただけ。この設定リアルでおもしろいじゃん。で、続きは?
林 いや、これ序盤の話とかじゃなくてこれでお話は終わりです。
山中 ええっ?
林 一応主人公には救済が用意されてるんだけど、やっぱり今回もオチがしょぼいし、タイムリープの醍醐味がまったく生かされていない。
山中 何でそこに行っちゃうんだ? 2回目を失敗するから葛藤が生まれてドラマが作れるんだと思うんだけど……。たとえにしてはレベルが高いんだけど、森見登美彦さんの『四畳半神話大系』みたいな展開も考えられるわけだし。
平林 あれはメチャクチャ高度だよ。以前森見さんに伺ったんだけど、執筆に際してはすごく大きなシートを作ったって話だからね。もちぐまがどっからどこに渡ったのかとか、すべて計算されているんだよ。
林 この小説は「同じようで若干違う」っていうおもしろさを追求すべきでしたね。
平林 そうそう。『四畳半神話大系』は繰り返すようでいて、全部は繰り返してない。その違いは何に起因するものなのかとか、ちょっとずつ変わっていった先に何があるのかっていう、大きなオチがあるからね。
山中 タイムリープの一番いいところがごっそり抜けてるわけだから、ビックリしちゃうよね。
林 そもそも彼はタイムリープものが好きってわけではなさそうなんです。アドバイスするとしたら、前回と同じになっちゃいますけど映画の三幕構成をあらかじめ設定して、決めた枚数以外は書かないとか、課題を決めて取り組んだほうがいいのではないでしょうか。個人的には、次は根アカな作風に戻ってるといいな!
嗚呼難しき、サイバーパンク
太田 『リベラルコミュニケーション』。これ山中さんが推してたやつだ。
山中 サイバーパンク寄りの異能ものです。ジジイと幼女の2人組の探偵がヤクザから家出した女の子を捜してくれって依頼を受けるわけですよ。ところがその女の子はただの家出少女じゃなくて、本の中にある活字を活用して兵隊を作ったり、自分の背中に翼を生やしたりできる異能を持っている。ヤクザ者やハッカーや主人公たちの思惑が次々と交錯しながら、最終的にその子との異能バトルになっていく、というお話です。
太田 あらすじだけだとそんなに興味ひかれる感じではないよね。
山中 ただ、シーン一個ずつの描写やアクションがうまくて、けっこう引き込まれるんです。ジジイと幼女という組み合わせや、若返る能力とか、キャラクター的な面白さも良く書けてると思うんだけど。平林さんどうでした?
平林 これね、キャラがブレてる。特にヒロインの女の子、最初のシーンと途中でブレてて、それがすごく気になる。実験としての設定もちぐはぐかなあと。電脳世界にボブがダイブするところとかも既視感が強い。あと、「エアカー」とかを今どきぽんと出しちゃうあたりセンスないなって感じますね。
山中 ああ、空を飛ぶ車に乗ってヒットマンがロケット砲持ちながら追いかけてくるシーンね(笑)。
岡村 それがこの人の、未来の想像力……。
太田 うーん、そのあたりがちょっと残念なんですよね。スピード感のある展開はすごくいいと思うんですけど。
平林 文章は読める人なんだけど、こういう描写から彼の現時点での限界みたいなものが見えてくる。まず、安直なエアカーは止めろと断固言いたい。空中に高速道路が走ってるとかさ……。そもそも、空を飛んだらもう「カー」じゃない気がするんだよな……。
山中 ああ、なるほどね。でも、これだけ欠点があるにもかかわらずちゃんと読ませるんですよ。トータルの面白さという意味ではまだまだなんだけど、シーンの描写自体は新人らしい勢いがあって悪くない。アクションもちゃんとしてたと思う。今後のアドバイスをするなら、まず筋立てをもっと面白くすることと、欠点もこみでキャラクターに魅力を持たせることかな……。万能すぎるキャラクターに対して説明が足りなさすぎるし、まったく能力にリスクがないので、そのバランスがとれてなさすぎると思う。不死である理由もイージーに書きすぎ。
平林 あと、破綻がないようにってことかなあ……。初歩的な破綻が随所にあるので、そこはちゃんとしてほしいなあ。
太田 やっぱりサイバーパンクはハードル高いよなぁ。過去に名作が山ほどあるだけにね。しかしだからこそ挑戦しがいがあるんだろうね。これは次回に期待って感じですね。
山中 はい。また応募してくれたら今度もしっかり読もうと思います。
平林 あっ、そういえば僕のところにもサイバーパンク系あるよ! 『ドリーム・イン・ドリーミン』ってやつ。ほら!!
一同 ダ、ダフト・パンク……!!
平林 こっれヤバイよねぇ。これ見てそっ閉じしたよ。実はこれ魔法ものなんだけどね。内容は語るまでもないです。以上!
アンドロイドものもハードル高め
太田 次、『君を忘れじ』。
林 ロボットが日常生活に普及した世界で、主人公はロボット嫌いの検死官。だけど検死するのは人じゃなくてロボットで、ロボットが何で破壊されたのかを調べる仕事をしてる。そんな彼のもとに、本来製造が禁止されてるヒューマノイド「マリア」が送られてくるんです。主人公はロボット嫌いだから、このヒューマノイドも鬱陶しく思ってたけど次第に心を許していって……ていうわりとよくある話です。
山中 うん。よくあるね。
林 まず、序盤でよくないと思ったのが、この社会の一般的なヒューマノイドは感情がないって設定なのに、マリアは超感情豊かなんです。なのに一番初めに登場するヒューマノイドがマリアだから、彼女が如何にイレギュラーで優れたヒューマノイドであるか、ということが読者にわからないんですよ。対比がないから。
今井 なるほどね。
林 彼女の魅力が死んじゃってるので、キャラクターを出す順番をもう少し考えてほしいと思いました。でもこの作品、細かいディティールは凝ってる。主人公のロボットに対する認識がおもしろくて、彼はマリアを完全にモノとして捉えてるから、マリアがどんなに感情を爆発させても「模倣がうまいな、ロボットのくせに」みたいに捉えてしまう。この2人の温度差はおもしろかったです。ただ、同じアンドロイドをテーマにした新人賞受賞作『アリス・エクス・マキナ』と比べると、工夫も新しさも3段くらい劣るかなぁって感じです。
平林 あれはちゃんと練られてるからね。
岡村 受賞作品と同じテーマだと、より厳しく評価せざるをえないよね。これ、肝心のヒューマノイドのキャラクターは魅力的なの?
林 純粋、一生懸命、マスター大好き!! よくある感じですね。
山中 マルチで停まってる感じですねえ……。
岡村 なるほど。
平林 あるいは『ちょびっツ』ぐらいの感じだよね。
太田 マルチもちぃも偉大すぎるくらい偉大な女の子なんだよ!! そもそもねぇ……(と、マルチとちぃの魅力について暑苦しく語り始めるが以下略)
林 減点法だと減点はされないけど、加点法だとスコア低めという感じでございました。残念!
一緒に仕事したい人を探しています!
太田 次は歴史ものですね。タイトルは『長谷堂』。あれ? おや? この人、どこかで見たような……?
平林 この人は第一回のときに、最上義光の一代記をダンボール箱で送りつけてきた人です。
山中 ああああっ。緑萌さんがガッツで全部読んだやつだ! あったねえ〜!
平林 前回、原稿が3600枚もあったから短くしてって言ったんだけど、3年経って866枚になって返ってきました。
山中 めっちゃ短くなってる!! けどまだ長ぇ……。
平林 今回は長谷堂の戦いね。
今井 それで、おもしろいんですか?
平林 正直、中身のレベルは3年前と変わってない。もとからある材料を使って新たに組み直したって感じなんだけど。戦後の研究史を概観しても、この3年間で戦国史の研究はかなり進んだと思うんですよ。たくさんの著書、論文、新史料が出て、研究が大幅に更新されているにもかかわらずそれは反映されてないくさい。
太田 厳しいなあ。
平林 いや、興味あるんだったら読まないと。関ヶ原に関してもものすごく研究が進んでるし、一般向けの書籍シリーズとしても吉川弘文館さんの「敗者の日本史」シリーズとか、すごくいいものが出てるしね。あと、僕が一番良くないと思ったこと。この原稿、反故紙の裏に印刷されてるんですよ! しかも雇用契約書なんかが交じっているし……こういうの止めたほうがいいよ。
一同 うわあ〜。
山中 この雇用契約書、生々しいね。というかこれ外に出しちゃだめなものじゃないの!?
平林 これはアカン。
今井 僕らは「才能を探してる」わけですけど、同時に「仕事相手を探してる」わけでもあるじゃないですか。
太田 今のいいね。本当にそうだよ!!
今井 投稿は仕事の最初の一里塚。一緒に気持ちよく仕事できる人かどうかも見てますよっていうのを、どうかわかってほしいですよね。
岡村 プロフィールに明らかに必要のない情報を書く人とかね。
林 こういうのね。
平林 「巡り逢い」の「逢い」が「愛」になってるとか確かにセンスない感じがするけど。これを見て我々にどうしろと?
山中 あと他には、データなしで送ってくる人。最近超多い!! データなしの人は応募要項を読んでないわけですから、基本的にまともなコミュニケーションをとれない、僕たちととる気がないと思われても仕方ないですよ。
太田 その決めつけ、酷い! でもちょっとわかる!!
山中 データが破損してたり、応募要項に記載されているフォーマットに準拠してない人も多いです。おかげで今回担当分の1/3ぐらいデータなしで読むことになったので、マチアソビの出張もあいまってえらいことに……(ブツブツ)。
林 募集要項を満たしてない人は、それだけで私たちがマイナスのイメージで読み始めることを理解してほしいですね。
太田 それって、良い悪いじゃなくて単純に損得で損なんだよね。でもね、そこがだめでも、いい作品を送ってきたらもちろんOKなわけ。だけど仕事相手としてもスムーズにできる人のほうがもちろんいいわけじゃないですか。何より、僕らは応募原稿をしっかり読むわけだから、投稿者の方たちもせめて応募要項くらいはしっかり読んでほしい。それって贅沢ってわけじゃあ決してないでしょうって思いたいね……。
今井 ですねえ。
太田 こういうこと言うとさ、「中身を見てない」なんて言われるんだけど。でも、ちゃんとしてる作家さんほどちゃんとしてることが多いんだよ!
山中 ルールはちゃんと守ろうね。紙だけのやつ、本当に大変なんですよ……。
一点突破力を!
太田 これ常連さんの作品だね、『Eveの友人』。
山中 今回で4回目です。
林 ある企業が人工知能ロボット、アンドロイドの開発に成功します。そのアンドロイドを実用化させる前に、試験的に現場投入させるんですけど、そのテスト場が高校なんですよ。
平林 へえ。
林 そのアンドロイドがいる学園に主人公も入学するっていうお話です。なぜアンドロイドが女型なのか、高校生なのかとか、こういう設定って書き手の趣味以上の理由がないこと多いじゃないですか。でもこの作品ではその理由が納得できるように説明されているし、生徒たちの噂を通して説明されるのがおもしろかった。たとえば「工業用アンドロイドなら、男型を初めに作るはずだ」「女なのは、将来セクサロイドとして販売するからじゃない?」とか。憶測が飛び交うことで、アンドロイドのキャラクターも謎が深まっていい。
今井 きちんと設定に理由付けがあるだけで好感持てますよね。
林 そのうち噂を信じていたずらしようとする生徒が現れたり。そして主人公は、実験として監視されてるのってアンドロイドじゃなくて実は生徒の方なんじゃない? って気づきはじめるんですけど……こっちの方はあんまり広がらなくて、開発を仕切ってた社長が死んで、アンドロイドが回収されちゃうから学園のみんなで助けよう!! って流れになります。ハッキングがうまい生徒、運転ができる生徒、それぞれの特技をいかした救出劇はなかなか見応えがあって全体的にウェルメイドなんですけど、輝くような新しさがない。
山中 ちょっと地味だね。
林 私が皆さんに「これ、すごい作品なんですよ!!」って言えるような一点突破力があれば推薦したかったんですけど。RPGで言うと、今のままでは攻撃力低くてダンジョンを抜けられない感じ。真面目で良い作品なんだけどなぁ。後半の救出劇でね、生徒たちが手作りの旗を出して応援したりするんですよ。「お前のことを絶対助ける」ってメッセージを書いた旗を。ベタだけどベタでいい!
今井 林さんのヤンキー琴線にすごいヒットしてる(笑)。
山中 この人、今回でペンネーム変えてるんだね。この方、以前のペンネームは「エスパーマン」で。
一同 (笑)
太田 いたわ!
山中 3回同じペンネームで送っていた人が、今回はペンネームを変えて挑戦してきたわけですが、なにか思うところがあったんでしょうね。ペンネームらしいペンネームになったところに心境の変化が汲めます。
岡村 うーん、明らかに大きな成長が見られる! でも、検索でひっかかりやすそうなペンネームじゃないから、もうちょっと考えたほうがいいかもね。
今井 そう、みんな検索のこと絶対考えたほうがいいですよ。
太田 いったんデビューしたら滅多なことでは変えられないからね。
危険な配合
太田 これは詩的なタイトルだなあ。今井さんが挙げたやつですね。『輪廻の糸に絡まった猫』。
平林 どんな話だっけ?
今井 ある男女の二卵性の双子がいて。2人は離れていてもお互いがどこにいるかがわかるという感覚を共有する特殊能力を持っていたんです。でも後に両親が離婚して、男の子の方はお父さんに引き取られ、女の子の方はお母さんに引き取られ、別々に暮らし始めます。そしてお姉ちゃんは誰もが憧れる美少女に、弟は冴えない感じに成長して、同じ高校で再会する。お姉ちゃんは弟のことを溺愛してずっとベッタリで、そのぶん弟くんは周りの男子生徒から疎まれてしまう。さらに弟は可哀想なことに、研究者である父に『時計じかけのオレンジ』みたいな人体実験までされてるんですよ。「前世の記憶を取り戻す実験なんや!」って。お父さん、なぜか関西弁なんですけどね。まあ、虐待ってレベルじゃねーぞってぐらいの虐待をされてるわけです。一方、2人のお母さんは不妊治療の研究者なんですよ。で、久しぶりに会った息子に何を頼むかっていうと、「精子ちょうだい!」って頼むんです。
林 ハァ?
今井 活きのいい精子が研究に必要だからって。で、弟は精子を提供した後に死んでしまう。それで彼のことが大好きだったお姉ちゃんは、その精子を使って子供を作るんです。そしてその子供がある程度の年齢になったところで第二幕が始まるんですけど、この子供がなんのエクスキューズもなく、普通の子として育っちゃってるんですね。これね、ダビスタで言うと、「危険な配合」ですよ。止められるやつ。
平林 「5×5のインブリードになります」みたいな。
一同 (笑)
平林 でもさ、ものすっごい能力ある場合あるよね。
今井 それはあるんですけど、夭逝したりする場合が多いんですよ。
岡村 いや、これ「5×5のインブリード」どころじゃないですから(笑)。血、重なりすぎ。まあダビスタ(ゲーム)ならともかく、現実では生まれてくる仔馬が身体的障害を負う危険度があまりに高すぎるので、当たり前ですがこんな配合はしません。
今井 さすが競馬の岡村さん! そうなんですよね。そこは、何か説明すべきで。
岡村 同族の婚姻が法律で三親等以内禁止って決まっているのは遺伝の問題があるからだよね。
太田 トータルで考えたときに、リスクが大きくなっちゃうんだよね。ハプスブルク家とか、けっこうヤバかったらしいからね。
岡村 健康な跡継ぎが全然生まれなくなったらしいですね。
太田 僕、この作品、設定はおもしろいと思った。ただね、文体の感覚がちょっと古い。書いてる人の年齢はとても若いのに。
今井 話の整理とか、設定の無理のなさとかは、非常に力を感じました。
太田 いや、ほんとそうだよ。他の新人賞では一次落選で落選したらしいけど、もうちょっと他社の下読みの人はしっかり読んであげればいいのになって思った。僕だったらこれは二次に上げるよ。受賞まではしないと思うけど、一次で軒並み落選っていうのは変だなって思った。これ、プロットだけ取ってもう一回書き直したら、相当おもしろくなると思うけどねえ。ただ、展開が遅い。文体とあいまって、このモタモタしてる感じが古く感じさせるのかも。あと、女の子に魅力がない。
今井 ああ、そうですね。ただの変な子みたいな。
太田 実姉なんだけど時々クラッときちゃう、みたいなエロさがちゃんと書けてたら、もっと説得力が出たんじゃないかな?
今井 中学の同級生の巨乳の子は可愛かったですよね。
平林 それはただ単に君が好きだからじゃないの?(笑)
一同 (笑)
太田 残念ながら総じて女キャラは良くなかったと思うよ。
今井 でもまた読みたいなっていう感じの人ですね。
太田 そうだね。この人は小説を書く力を持っていることは確かだと思う。これからは若い人に人気のある作品を意識的に読んでみるといいのかもしれないね。それか、変に若作りしないで、貴志祐介さんの作品みたいな骨法がちゃんとしているフィクションを読む。貴志さんの結末に向けてまとまっていきつつも二転三転していく物語構成は本当に勉強になると思うので。うーん、この人はどっちかって言うとそっちかもなあ。下手に流行っているライトノベルを読むより、オーセンティックなほうに振って、30代よりに勝負を賭けるような作品をいっぱい書いてほしい気がする。あと、伊坂さんとかね。ちょっとスーパーファンタジーなとこが入ってくる感じは参考になると思う。
山中 現代文芸のメジャーなところですねえ。
今井 直木賞受賞作なんかを読まれるとよさそうですよね。
太田 そう、その辺りを勉強してみてはいかがでしょうか。ぜひ次もよろしくです。
誕生! 裏ルール
太田 次、『さよなら、ほずみ先生』。岡村さんです。
岡村 これ、どういう作品だと思う? このタイトルで。
林 学園ラブコメですか?
山中 幽体離脱物とか、そういう感じ? 異能系な感じがする。
岡村 異能ってのは正しくて、このほずみ先生のクラスはいわゆる超能力者が集められたクラス。
今井 『アクエリオンEVOL』みたいですね。
岡村 超能力を保持している学生がいる世界なんだけど、彼ら彼女らは国から危険視されていて、一つの学校に集められている。この超能力者がマイノリティーで爪弾き者にされているのはドラマの『SPEC』に近い。で、このほずみ先生はいわゆる『禁書』の上条さんなんだよね。相手(生徒)の能力発動をキャンセルできる。超能力でトラブルを起こしてきた学生たちのクラスに、ほずみ先生が担任になることでクラスが平穏になっていくという、という設定はおもしろかったんですけど、じゃあこの設定を使って何をやりたいの? というのが、読んで全く摑めてこなかった。
太田 ほう。
岡村 中盤から終盤にかけて、生徒たちに普通の学生生活を送らせようってことで、他校の普通(無能力)の生徒とバスケットボールの交流試合を企画するんだけど、全然おもしろくない。そこは別に大事なところじゃないだろ、と思ってしまう。これはこの人に限ったことじゃないんですけど、「オレはここのシーンだけだったら超自信がある」とか、自分が一番描きたいシーン、その物語のハイライトを決めてから書いてほしいと思いました。そこがはっきりしてない小説を読んでも、読み手の記憶には何も残らない。
太田 「ここが書きたい!」っていうモチベーションは大事。
岡村 ここだけだったら、絶対におもしろいってシーンがあるのは必須条件。今回僕が担当した作品は、「読みやすさ」とか「文体のきれいさ」では水準をクリアしてたものが多かったけど、それらの作品も、内容に関しては何が書きたいのかわからない中途半端なものがほとんどでした。
太田 「ここ、気合い入れて書きました!」みたいなところを提示してほしいよね。それじゃ、こっちもその部分は絶対読んでやるから、みたいな。
山中 ワルプルギス賞?
太田 あれはそういう意味ではすごくいい試みだと思うね。うちでも採用しようか。
岡村 著者が一番力を注いだ部分を読んでつまらなかったら、それはもう、切っていいわけじゃないですか。
山中 逆に言うと新人に期待するのはそこなんです、って割り切るのは正しい気がする。
太田 やっぱり僕らの人生も有限だからさ、初めの数ページで相当にだめだと思ったら、そこで切っちゃうことだってあるにはあるんだけどさ、「ここは読んでくれ」ってページに付箋が貼ってあったら、そこは読んであげたいじゃん。
今井 それは僕らも助かります。
山中 そこがおもしろかったら評価が変わるかもしんないし。
岡村 逆にそう言ってあげると、ちゃんと意識して書くと思うんですよ。辻褄があってなくて、明らかにこれは途中で考えを変えたり、付け加えたなって感じる作品も多い。
太田 デビュー作って、書きたいもの書ける贅沢があるんだから、やっぱりそこをちゃんと書いてほしいし、評価したいってことですね。じゃあさ、付箋2枚ぐらいまでなら原稿に貼っていいってことにしない?
林 11回目にして新ルールが!!
太田 新ルールって言うか、裏ルールね。必須じゃないし、ちゃんと座談会を読んでる人には何か還元してあげたいじゃん。とりあえずそれで次回に何人ぐらい付箋つけてくるか見てみようよ。
林 逆に「小手先の勝負はしない!!」って人も評価できますよね。
山中 それは逆にいい感じですよ。
太田 次回、どうなるか楽しみだよね。付箋、楽しみだなあ。
Show,don't tell.
太田 次、『僕の意味のない殺人』。
山中 これ、ストーリー全然憶えてないんですけど、感想メモにひとことだけ「危険な人間を言葉で説明しようとするのは止めよう」って書いてある。以前ある作家さんに教えてもらったんですけど「Show,don't tell.」っていう脚本の技術があるんですよ。言葉の通り、語らないで描写しないといけないっていうことなんですけど、この作品は狂気を表現するときにその狂気を主人公のモノローグで全部説明しちゃってるんですね。たとえば、貴志祐介さんの『悪の教典』の主人公・ハスミンが、家の近所で飼われてて、よく吠えついてくる犬のモモにハンバーグを与えるシーンがあるんです。「ちゃーんと食べろよ」みたいな感じで、餌付けして吠えないようにしてる、みたいなほのぼのとしたシーンなんですが、ここが巧みで、これをさも普通のことのようにさらっと書いてるんですよね。でも、後になって「あ、あれって……」って読者がおのずと察する……という。マッドなキャラや天才キャラを登場させるなら、「語る」よりは、「見せる」方向で出して、読者に気づいてもらわないといけないですよね。
今井 合コンの自称"変態"とかが寒いってのと一緒ですよね。
山中 そうそう(笑)。
今井 天才は便利ですけどね。使うならそれなりの覚悟を決めろと。
山中 ぜんぶ書いて説明しちゃだめ。その点では別の応募作の『吟遊詩人への祈り』って作品にも共通してですね……これは群像ものなんですけど、なにもかも書いて説明しようとするから、ページ数が尋常じゃないことになってる。これ、1200枚もあるんですよ。
太田 成田良悟さんが傑出してるのは、書いているのは群像劇なんだけど枚数は増えないところなんだよな。
山中 そう。『デュラララ!!』を、300枚とかで書いちゃう人が、やっぱ、あそこまでいけるんですよ。この作品は過去の物語と現在とがどんどんザッピングして、展開もとにかく複雑なんです。冒頭で美味しい謎を提示して、そのゴールを設定するところまではできてるんですけど、道行きを言葉で説明しようとしすぎ。これも「Show,don't tell.」ですよ。ぜんぶ書いて説明しちゃうから、どんどん枚数が多くなっちゃう。
太田 やっぱさ、成田さんがすごく上手いのってさ、書かないからこそ、想像させちゃうんだよね。カッコよさをね。
山中 そうそう。
太田 臨也とかさ、最初は詳しくは語られないんだけど、とにかくただただ格好いいわけじゃん。
山中 成田さんの小説だと、最初の段階では伏線だけあって、説明的な情報をかなり抑えてますよね。にもかかわらずあの人数を捌けるのは、やっぱ文体に力があるってのももちろんだけど、描写で魅せるキャラクター力だったりするんでしょうね。そう思うと、改めて群像劇の難しさに気づかされますね。
太田 まぁ、成田さんといきなり比べちゃうのは酷だと思うけど。
山中 でもこの人は群像劇に向いてないと思う。ミステリ的なオチが叙述トリックによる誤認なんですけど、そりゃこんだけ時系列を複雑にして、キャラクターもその人数分仕立て切れてないんだとしたら、誤認も起きるわ! っていう(笑)。ただ大枠の設計が破綻していたわけでもないので、頭がいい人なんだとは思う。
今井 まだ20歳ですしね。
山中 あ、年齢見てなかった。若いですね。ただ、設計がよくても全体的に地味だね。今のままだとプラスアルファが2点ぐらいは最低足りないかな。
もっと引き出しをみせてほしい
太田 次のタイトルもなかなかいい。『竜の棲む楽譜屋さん』。これねえ。ちょっと僕も言いたいことがある。
平林 簡単にあらすじを言うと、女の子の異能力を使って、主人公が時空を超えて"楽譜"を探しにいく話。著者の広範なクラシック音楽の知識がベースになっていて、全編が方言で書かれているんです。
山中 すごかったね。地の文まで方言で書かれてる。
平林 この文体は、僕はわりとありかなと。
太田 あ、そうなんだ。僕はこれがだめだったんだよねえ。方言はせめて会話文だけにしてほしかったな。やっぱりくどい。
山中 僕も厳しかった。
岡村 うーん、僕も普通にしてほしかったかな。でも最後まで徹底して書いたのは偉いですよ。
平林 そこは好みが分かれるところだとして、僕が一番問題があると思ったのは、クライマックスの持っていきどころを間違ってること。テンシュテットが死ぬところがどう考えても一番いいとこなんですよ。なのにこの後におばちゃんたちの再会シーンが入ってて、絵的にあんまり楽しくない。あとは、ヒロインが誰なのかが不明確。ここらへんが弱点かなあと思ったんですけど、ただやっぱり、このネタで一本それなりのものを書けるっていうのは、実力があると思いました。
山中 僕、方言にはのれなかったけど、結構おもしろく読んじゃったんですよね。
太田 あ、そうなんだ。僕は合わなかったな。
山中 作中に出てくる音楽や人物のエピソードについて入念に調べているのもいいと思います。
太田 そうね。でも何でクラシックだけになっちゃうんだろうね? この子の能力を使ったら美術品とか遺物とかにも応用できそうじゃん。里見桂さんの『ゼロ』みたいなつくりにもできたのにね。
山中 なぜか音楽の世界にしか入れないんですよね。
平林 特殊能力に対しての説明は足りないよね。
林 説明なくいきなりしれっと能力を使うので、ページを読み飛ばしたのかと思いました。
平林 くわしく説明する必要はないんじゃないか、とは思うんだけどね。一番気になるのは、出だしでまず作品の世界に行くわけじゃん。バイオレンスな感じになりそうだな、と思ったんだけど、それがいい話になってくる。しかも作品の中に行く場合と、実際の過去の時間軸に行く場合が並列して書かれていて、ここがうまく嚙み合っていないのが問題かなあと。
山中 あと、話の一個ずつがちっちゃ過ぎますよね。
平林 しかもそれが集まって、最後のババア再会でしょ?
山中 そこじゃねえだろ! みたいな。
太田 最初の事件のラストから次の新たな事件が始まるとか、最初の事件の真相があとで伏線として利いてきて……っていう話でもないじゃないですか。短い話が3つ集まって長編になりました、みたいなものは、作品としてはどうしても弱いんだよね。
山中 弱いですよねえ。ただ、設定は結構おもしろいんですよこれ。
平林 この部分が他の人には書けないっていう点で、魅力的なんだろうなあ。
山中 かなりオリジナリティがあると思う。緑萌さんは気になるようだけど、僕はヒロインもダブルヒロインでいいんじゃないの? っていう気はしますけどね。
平林 まあね。2人とも魅力的だったね。
山中 そうそう。キャラが立ってるし。
平林 あと、小技も利いてて、小澤征爾をうまく使ったところとか、著者は本当にクラシックが好きなんだと思うよ。
太田 これ、半年前なら日本ファンタジーノベル大賞に応募すべきものなんだよね。あの賞が休止してしまったのは日本の文芸界にとっての大損失ですよ。この作品、もうすこしブラッシュアップしたら、大森望さんあたりがたいへん楽しく読んだような気がする。
山中 僕はもう一作、この人の作品見たいなあっていう気がする。
太田 そういう意味で言うと、近代から現代ヨーロッパを舞台にして、ちょっとペダンチックな感じがするもの、ってあたりがこの人の守備範囲なんだろうから、そこでおもしろいのを書いてくれればいいんじゃない?
山中 ファンタジー的な設定を活かしつつ、ヨーロッパ的な風景を書くことには、今回成功してますからね。
平林 ヨーロッパのクラシック世界と日本のド田舎が直結してるのが、僕はおもしろかったんだと思う。だからそういった変なねじれは次回作でも活かしてほしいな。
太田 そうだね。僕は方言の地の文が肌に合わなかったけれど、そこは平林さんに同感だな。
山中 僕は違うもの書いたほうがいいと思うけど、同じ題材で再トライするなら、もうちょっと大冒険的な感じにしてほしいかな。
太田 うん。ちょっと事件が小さいんだよね。
平林 この人が他に何が書けるのか、ちょっと気になります。なのでもうちょっと他の引き出しを見せてほしい。まあでもこれは僕が今回担当した中では一番おもしろかったですよ。
太田 じゃあ次来たら、みんなでちょっと注目してあげましょう。
すべてを受け入れよ
太田 『非現実的状況下のごく平凡な日常』。いわゆる理屈ラノベっぽいタイトルだな。
今井 ちょっと既視感のあるタイトルですね。
林 これ、人格入れ替わりもので、45歳の中年が13歳の女子中学生と入れ替わっちゃうお話です。
平林 うっわー! キツイ! キツイわー。
林 でもね、いま皆さんが想像したやつとはちょっと違うと思います。まず13歳の少女の身体にオッサンの魂が入ります。そしてオッサンの身体には、相変わらずオッサンの人格が入ってるんですよ。要は、同じ世界に2つの魂が存在して、13歳の魂がどこかに飛んでいっちゃってるんです。だから少女の魂を捜すために奮闘する話かと思ったんですけど……このオッサン何もしないんですよ!
太田 Oh……。
林 オッサンは自分の状況をとくに悩まないし、自分が乗りうつった少女が実は自分の娘だったことがわかっても、「なんとかしないと!!」って思わない。トラブルを乗り越えるんじゃなくて、ただひたすら順応していく。この手の作品が私の担当に多くてですね、今のトレンドのひとつなのかなぁと。
今井 スパロボによくありますよね。
岡村 あるある。でもスパロボは面白い。今ようやく『時獄篇』でウイングガンダムゼロが参戦するところまで進んで、これからローリングバスターライフルで無双を……。
太田 お前ら何でもスパロボにたとえればいいと思ってるだろ!
林 このひたすら主人公にだけ優しい世界を、どういうテンションで読めばいいのか正直わからない。
太田 解説しよう。これはね、いわゆる「ドリーム小説」なんだよ。
林 ああそっか。それなら納得できます。
岡村 アニメとかマンガなら「当たり前でしょ」っていう常識や前提条件を、読み手に押し付けてくる投稿作品はけっこう最近多いよね。
林 でも実の娘だったらふつう助けなきゃ!! ってなりませんか? オッサンは普通に女子中学生活エンジョイし始めて、百合展開になったり……読み手を考慮しない「オレのオレによるオレのための物語」的展開に圧倒された次第です……。
自分の良さがわかってない!
太田 これすごかったよね。『エドムラバイオレンス』。
岡村 スクールカーストの上位にも下位にも属していない、いわゆる傍観者ポジションの主人公のクラスに、圧倒的な強さをもった不登校のヤンキーがやってきて、クラスの力関係を一変させて、騒動を巻き起こす……って感じの『炎の転校生』ものです。作品の雰囲気自体はそんなに熱くなく、むしろ主人公目線からなので、意外と落ち着いた感じです。おもしろいんですけど、一部と二部の落差がすごい……。ジャンルを飛び越えてる。
太田 冒頭、不登校ヤンキーがいきなりクラスのリーダーをぶっ飛ばすじゃん。いいスクールカースト物になるかなと思ったんだけどねー。
岡村 ヤンキーの破天荒っぷりも振り切っていておもしろいんですけど、後半の異能ものになってから全然おもしろくなかった……。
太田 前半の『ROOKIES』みたいな感じを続けてたら良い線いってたんじゃない? って僕は思ったんだけど。
山中 あのむちゃくちゃ頭のいいヤンキー、俺けっこういいキャラだなと思いながら読んでたんですよね。
林 幼なじみでいじめられっ子の羊山くん以外の人間はどうでもいいっていう偏った感性とか、ただのヤンキーキャラにはない魅力がありますよ。この2人のバディものとか、見てみたいですね。
太田 そうだよね。後半の異能バトル展開、本当にしょうもなかった。
山中 こんなに前半は盛り上がるのに。後半は急に吸血鬼や怪物が出てきて、よくわからない展開になるんだよね。怪物の造型も雑だし。
林 突然、ヤンキーが魔法の剣取り出したときには「ファッ!?」ってなりました。
山中 DQNは陰陽師だった……って(笑)。
平林 何がしたいんだろうね、この人は?
岡村 どっちも書けるよってのを見せたかったのかもしれないですね。でもこれは完全に逆効果。前半と後半で良い悪いがここまではっきり出るのも珍しいくらい。
山中 前半の作風はさ、『週刊少年マガジン』に『A-BOUT!』がなければ、新連載でポッと始まってもいけそうな感じがする。
太田 うんうん、これは『マガジン』系だよな。『ジャンプ』じゃなくて『マガジン』。ちょっと頭悪い系。
山中 ヤンキーマンガのうまい隙間に、ポコッと入りそう。
太田 ものすごく頭が悪いんだけど、頭は切れるヤンキー。どう言えばいいのかなあ? 前半だけ読めば、この人はひょっとすると、ちょっと低い偏差値の『桐島、部活やめるってよ』が書ける人かなって思ったんだけどね。
山中 僕は純粋にこの人の書くヤンキー小説だったら、けっこうおもしろく読める気がする。
太田 (適当に)ヤンキーミステリーとか、どうかな?
山中 ヤンキーミステリー……意外感ある……!
今井 名探偵がヤンキーで、推理して怪しいやつはトイレに呼び出す。
山中 困ったら腕力で解決、みたいな(笑)。
岡村 証拠は固まんないけど、とりあえず犯人コイツだろって目星をつけて自白を強要。知力じゃなくて武力で解決する話。……学園の検察みたいだな。
太田 いいですねえ! 逆にそれはちょっと見てみたいね。
平林 それさあ、遠隔操作事件で自白した人たちと一緒じゃん!
岡村 まあ確かに。今ちょっとデリケートなラインかもしれないですね。
太田 この著者さ、自分の良さが分かってないんだよ!! 桜木花道みたいなヤツで、物を書くときのルールがよくわかってないんだと思う。
岡村 そうですね。そうじゃなかったら、あの一部と二部の落差はないですよ。
太田 でもコイツは、できないかもしれないけど、ちゃんと勉強さえできたら、『テラフォーマーズ』みたいなやつ書き出すよきっと。
林 なるほどなー。たしかに彼、バトルがうまいって言うよりもハッタリがうまい感じですよね。
太田 ああいう系の、バカ感がおもしろい、みたいなラインね。何読めばいいんだろうね? 『テラフォーマーズ』はもう読んでると思うけどさ。
山中 『ヤンマガ』のヤンキーマンガとか読んでほしいですね。『新宿スワン』とかさ。
太田 それなら、伝説の名作、『カメレオン』を読んでほしい!
山中 あと『ギャングース』とか?
太田 『ギャングース』もいいね。『ヤンジャン』とか『ヤンマガ』作品とかをしっかり読んで、前半のノリでもう1回勝負してほしい。さっきはポッと言ったけど、本当にあったらおもしろそうじゃん、ヤンキーミステリー!!
偉大な先行作品の壁
太田 これ林さんが直前で挙げたやつだね、『魔女は墜落しない』。
林 一言でこの作品を表現すると、「魔女の宅急便IN第二次世界大戦」。ナチスドイツの航空部隊員として働く魔女のお話です。この作品を初めて読んだとき、どうしても『ストライクウィッチーズ』が頭に浮かんでしまったんですよね。そしてケモ耳パンチラという強烈なビジュアルを越えるような仕掛けもなかったから、最初はスルーしてたんですよ。でもなぜか気になって後になってもう一度読んだら、文章も構成もしっかりしていて「受賞もあるかな?」って思うくらいおもしろくて。だから、この作品、どうすれば『ストライクウィッチーズ』に勝てるか一緒に考えてほしくて、無理を承知で推薦しました。
岡村 僕、これ好きでしたね。林さんは『ストライクウィッチーズ』の関連を心配しているけど、この作品は今風にカスタムされたミリタリーものじゃなくて、あくまでもクラシカルな箒にのった魔女ものだからそこまで気にしなくても、いいんじゃないかと思った。ただ僕が残念だったのは、「なるほど!」って思わせるような第二次大戦下ドイツの目新しい描写はなかったってところかな。それどころか、「ドイツに海はない」と読み取られかねない詰めのあまい描写がある。まぁここらへんは校閲であとから潰せるからいいんだけど。この作品を改善するんだったら、魔女たちを際立たせるような設定や特徴が欲しかったかな。
林 今のところ、魔女は職がなくて移民になっている設定だけですね。
山中 でもこの人、文章がすごく達者だよね。
平林 だね。魔女を被迫害者として、民族っぽくとらえる視点自体はおもしろいとおもったけどね。
山中 正統派なお話として成立してると思います。変なたとえかもしれないけど、「世界名作劇場」感がある。
平林 ただ、第二次大戦ではこの設定は成立しないんじゃないかと思う。第一次大戦くらいの技術力だったら、魔女が空にいてもおかしくないかなって思うけど。
太田 第二次大戦時の戦闘機だとマックス700キロとか出る機体があるからね。
岡村 第一次大戦くらいの航空力相手だったら魔女の有用性はある気がしますよね。空戦ももっとおもしろくなる気がする。
太田 ですね。それに、彼がもし『ストパン』が大好きで大好きでこれを書きました!! って「だけ」の人だったらこの先はないだろうし、そうでないのならば、まだまだ他の魅力的な引き出しを僕たちに見せてくれるはずです。著者はまだ20代の方だし、ここはひとつ次回に期待ですね!! 今度ともよろしくお願い申し上げます。
新たなる若き才能
太田 しかし、うーん、今回も受賞者がいないのかなあ……あ、これ山中さんが推してたやつだ。『凄惨、無慈悲な日曜日』。
平林 (年齢を確認して)あ、これ19歳が書いたのか!
山中 そうなんです。すごい読ませるでしょ? 僕、今回はこれが一押し作品です。主人公はいわゆる「オレ強え」を地でいくようなやつで、己の天才性をアピールするために、殺人事件をアート化して完全犯罪を企むんです。冒頭でいきなり自分の恋人を殺害するんだけど、猟奇的な死体をあえて作って警察を挑発する。だけど翌日警察の事情聴取を聞いてると、どうも自分がやった犯行と微妙に現場の状況が食い違う。何者かに殺害現場を書き換えられてるんですね。で、困惑しているところに女が家を訪ねてくる。彼女は自称・主人公のストーカーで、犯罪の成り行きを全部見ていて、主人公の完全犯罪の隙をみつけたから隠蔽しといたよって言うんです。これをきっかけにストーカー女も主人公の完全犯罪に協力していくというお話。途中で「シホちゃんの日曜日」っていう過去の未解決事件が物語に絡んできて、しっかりとミステリーとしての一面もでてくるという感じです。ここまでの冒頭を読んだとき、めちゃめちゃおもしろいと思ったんですよ。日常的な描写から一転彼女が死んでいることが明らかになる書き出しに加えて、計画した完全犯罪が実は全然未熟で、ストーカーの女の子に助けられるという導入の部分が完璧だなぁと。
林 ふむふむ。
山中 でも最後まで読むと、荒さが目立つ。キャラの造形も練りきれてない。途中で登場する探偵の女の子がすごいバカだったり、キャラクターの内面から出てくる心理描写が甘いから、完全犯罪をやる意味が段々薄れていってるようにも感じる。物語の要請のために犯罪が行われていくみたいで、オチも冒頭の衝撃と比べると弱すぎる。叙述トリックが使われてるんだけど、これもなぁ……。
平林 オチはもう最初でわかっちゃうんだよね。
山中 あ、わかりました?
平林 だって、二択じゃん。登場する女の子が2人しかいないんだもん。
山中 組み立てて誤認を出すのはうまく成功してたと思いますけどね。
平林 そんなことよりも一番僕が気になったのが、警察がバカすぎること。
山中 ですね。警察と探偵がとにかくバカ!! 主人公が挑戦する相手なんだから優秀な人間を1人は置かないと、そいつを欺けるかどうか? というコンゲーム的な部分が盛り上がらない。
林 『デスノート』でいうLがいないから、対立構造が機能してないんですよね。
平林 そうそう。探偵と警察がつるんで、主人公との知恵比べ的なところを機能させるべきだったよね。
山中 最終的に主人公は何も反省してないし、とくに葛藤もなく終わってるのも失敗してると思うんですよ。
平林 もしくはストーカーの女の子をヒロインにして、すごく切ない話に持ってくとか。ただ、そっちに振ろうと思えば振れるんだけど、それも弱いんだよね。
山中 あと、実家にあれだけ長期間、人間を監禁したとして、あそこまで隠し通せるのか? とか犯罪に対するディティールにも荒が目立ちますよね。
太田 死体の臭いを無視してるよね。同じ部屋の中にいたらわからないはずないでしょ。そこんところ、良くない意味でのゲーム感覚っていう感じがどうしてもしちゃうよね。
林 この主人公、威勢が良いから頭脳派キャラっぽいけど、やってるトリックはけっこう稚拙ですよね。探偵もバカですけど、主人公も負けず劣らずのバカなのでは……?
山中 周りがバカすぎて、それにひっぱられてる感じはすごくあるよね。
太田 これはさ、抜けてる夜神月と、すごく出来のいい弥海砂が一緒になって完全犯罪する話だよね。
山中 そうなんです。抜けてる主人公を最初に書いて、それをちゃんとストーカー女はカバーしてて、良いコンビとして機能してたんですよね。ところが結局、ストーカー女は主人公の犯罪の手伝いしかやらなくなって、キャラクターの魅力が弱くなってる。せっかく最初に魅力的な展開でポンと持ってこられたのに。
太田 これはやっぱり、探偵の女の子のキャラクターがちゃんと立ってないのと、彼女の頭が良くないせいだね。そのせいで必然的に最初に出てくる2人がすごく見えないのが一番の問題だと思う。やっぱ『デスノ』はさ、Lがいたときが最高潮だったじゃないですか。
山中 やっぱ、ライバルがちゃんとしてないと、主人公がすごく見えてこないっていうことなんでしょうね。
太田 岡村さんは何かない?
岡村 ピカレスク型主人公失敗の典型例ですね。この作品の主人公は『コードギアス』のルルーシュみたいに、目的のためには手段は選ばず非情だけど自分が大事だと思っている人だけは何があっても守る、ていうタイプじゃないし、かといって『デスノ』の夜神月のような凄み、冷酷さ、圧倒的スペックなども全然描き切れていない。というか、夜神月タイプは作者さんが相当頭がよくないとそもそも書けないと思いますけど。
太田 ただまあ、おもしろかったと思うよ。これだけみんなが熱く語れるってことはね。この人に我々がアドバイスするとすれば何かな?
山中 そうなんですよねえ……。この人、既にミステリーはかなり読んでる気がする。
太田 『密室殺人ゲーム』とか機械的な感じがするやつなんて好きそうだよね。新本格の中でも、特にゲーム性が高いものが合うんじゃない?
山中 あとは貴志祐介さんみたいにシステマティックに書きながら、キャラクターも魅力的に書いてほしいってことかな。
太田 逸材かもね。あともうちょっとのところまできてるよ。山中さん、1回会ってみたら?
山中 19歳でこれだけ書けることに感心しました。個人的には『ブレイク君コア』でデビューした第一回星海社FICTIONS新人賞受賞者の小泉陽一朗さん以来のヒットだったので、ちょっと1回会ってみます。
太田 小泉さんはずば抜けてたよね。やっぱり一段上だよね、あの人は。
山中 そういえば、小泉さんの近況報告とかしないでいいんですか?
太田 う〜〜〜〜〜〜ん……話せる範囲でお話しすると、小泉さんは今、武者修行の旅に出てるわけ。
山中 ある場所でね。フフフ。
太田 誰もがうらやむ武者修行の旅に出ているので、きっとこの座談会が公開されたあとくらいに、いろいろと世間に情報が出てくるんじゃないかなあ。そのときわかると思うのですが、彼は今、ちょっとすごい虎の穴に入っているので、そこから帰ってきた暁にはものすごくおもしろいものたくさん書いてくれると思いますよ!! 乞うご期待!!
座談会を終えて
太田 今回はまたしても低調かなと思ったら、意外と上に挙げるのは多かったって感じですね。
平林 議論の対象になるものが幾つかあったし、読んでいてもけっこう楽しかったですよ。
岡村 いやいや、僕のところに来たのは本当に低調でしたよ。人によって、いいのと悪いのと来てると思うんですけど。
今井 一行レベルの作品は増えたけど、見所のある作品が複数出るようになった。
林 さっき山中さんが推したやつも19歳の作品だし、前回に引き続き初投稿の若手が大健闘でしたね。
太田 若い人が来てるのはいいことだよね。
山中 16歳とかもいるんですよねえ。
太田 そうそう、先日、とある作家さんに「星海社はこれからも格好よくしてくださいね」って言われて。格好よくないと、若い子が入ってきませんから、って。残念ながら今回も新人賞は出なかったわけだけど、波はきてると思いますよ。さあ、みんなで気合いを入れるぞ!! COOL!! COOL!! COOL!!(許斐先生リスペクトで)
一同 シーン。
一行コメント
『リンカーネイション』
地の文があまりに説明じみていて、テンポが悪かったです。情景描写は大切ですが、セリフに工夫をするなどして、全体のボリュームを抑えたほうがいいと思います。(今井)
『駄目ボーイと優等生ガール』
日常を描くにしても、あまりに話が小粒。物語も冗長なので、見せ場を中盤に入れてください。(林)
『ストーリーキラー/リライト』
入り口はよかったのですが、道行きがイマイチで、どこに読者を導こうとしているのかがわかりづらい。あと、同じ語尾が続いていたりと、文章的に稚拙ですよね。まず脚本の勉強をしつつ、並行して上手い文章をたくさん読むべきでしょう。(山中)
『クラフトBOX漂流記』
キャラクターのセリフで全てが解説されるので、説明書を読んでいる様でした。(林)
『僕と君とク・リトル・リトル』
色々と「ベタ」過ぎて、感情が動きませんでした。(今井)
『僕と真里と怒りのオトウ』
読んでもさっぱり理解できません。面白い・つまらない以前の問題です。(岡村)
『星を身籠るエトワール』
物語として成立していませんでした。いくらキャラクターを作り込んでも、肝心の物語が練られていなければ意味がありません。(林)
『土屋惣蔵、片手千人斬り』
文体が固く、大変読みにくく感じました。時代物であるからこそ、わかりやすさ・手軽さを意識して頂きたいと思います。(今井)
『珊瑚島連盟』
文章がこなれておらず読みにくい。世界観もご都合主義で入り込めなかった。(平林)
『追いつけない』
物語にエンジンがかかるのが遅いです。タイトルにも、工夫を。(今井)
『黒衣の真理』
登場人物の台詞や仕草などが顕著でしたが、作品が全体的に「古い」と感じてしまいます。SFについて高い知識があることは読んで伝わってきました。(岡村)
『王子は妖魔を召喚した』
読んでいて疑問点・矛盾点が次々出てきます。ファンタジーを描くには実力が足りてないと感じました。(岡村)
『ロジカル・アンサンブル』
読んで「論理学」には興味を持ちました。それ以外は特に語るべきところは無いです。(岡村)
『世界の終わりとロックンロールラジオ』
15年前くらいに書かれたものを読んでいるような気分でした。音楽について勉強が足りないのでしょう、認識が古い上にステレオタイプ過ぎて苦痛でした。(平林)
『魂のつかいみち』
展開に流れがない。飛び飛びの石の上を読者に無理やり飛ばせているよるなもので、物語としての必然性に欠けます。(山中)
『パート探偵七子の傷心(ハートブレイクナナコ)』
最後まで読み進めることができませんでした……。キャラクターのイラスト等は、入れて頂かなくてけっこうです。(今井)
『ガラクタの虹星』
必要以上に情景描写と心理描写を詰め込みすぎて、テンポが犠牲になり、枚数も多くなりすぎています。(山中)
『はにわ叙景詩』
試みは面白いですが、一編一編が長いうえに、企図した効果を発揮していないように感じました。もう少し「削る技術」が必要なのでは、と思いました。(平林)
『花鬼-デーモン・テスタメント-』
題材・キャラクター共にやや古い印象を受けたので、現代的なアップロードが必要かと思います。ただ、本作にかける気合いは伝わりました。(林)
『Night which become a HERO』
予想通りの展開で驚きも無い。カタルシスも無い。退屈でした。(岡村)
『ドラゴン・ダイバー』
キャラクター全員、あまりに言動が幼稚すぎます。(山中)
『サマーデイズ・ララバイ』
悪い意味でよくある感じでした。なお、人口四千人は村だと思います。(平林)
『ゴッドノウズ・パラノイア』
描写もシーンもムダが多く、読み進めるのに体力を使いました。本当に書く必要があるかどうか、都度考えて書いて頂きたいと思います。(今井)
『おそるべき えるふ かぶしきがいしゃ』
いろいろな要素を乱雑に詰め込みすぎです。展開も遅く、間延びしています。(岡村)
『剛法探偵 芹沢花衣』
こういった傾向の作品は非常に多いので、相当完成度の高いものである必要があると思います。自分にしか書けないものがないのか、一度考えてみてはどうでしょうか?(平林)
『へんてこ』
情緒的で雰囲気はありますが、物語としては平坦にすぎる。(山中)
『機械天使』
異世界にとんでから、いきなり200年後から物語が始まるというアイディアには驚きました。ただ、その間どうやって主人公がサバイブできたのかが説明されない等、全体的に荒さが目立ちました。(林)
『白銀色の復讐撃』
荒削りでしたが、キャラ名をはじめとしたネーミングのキレもよく、また別作品で応募して頂きたいと思いました。ただ、データが同封されていないのはいただけません。どんな優れた作品も、応募要項を守っていなければ読みさえしない可能性があります。(今井)
『ひだまりに咲け』
壮大な世界観に筆が追いついていないという印象を受けました。ミカエルやサタンを登場させるなら、「これは見たことない!」と思わせる新しい設定が見たかったです。(林)
『ハイムリッカー』
何故こうしたのかよくわからないBADENDと、キャラの言動と思考がところどころブレているところが特に気になりました。(岡村)
『まだ勇者じゃない』
全体的に丁寧に描かれているのは良いと思うのですが、ストーリーが淡々と進んでそのまま終わってしまっています。サビ部分が抜けた曲を聴いたような印象でした。(岡村)
『さよなら・ファッション』
なぜこのお話を書き進めようと思われたのか……。まずは面白いプロットを作ってから書い頂きたいです。(今井)
『女神を胸に抱くとき-Like a Rolling Stone-』
あまりにもつまらない上に長い。(平林)
『長距離ランナーの反撃〜ぼくらが走る理由〜』
主人公だけが甘やかされる優しい世界に最後まで共感できませんでした。(林)
『イーヴ』
物語の設計的にイーヴが超絶可愛いキャラクターでなければ成立しないのですが、肝心の彼女に魅力が足りなかった。世界設定にも既視感あり。(林)
『プラスレイ』
机の上の落書きを通じて出逢った幽霊の女の子との恋愛話。ただし、それ以上でもそれ以下でもない内容で、盛り上げるための演出や展開のアイディアがまだまだ未熟。(山中)
『恋愛ゲーム』
ゲームのヒロインが実体化するというアイディアを使うなら、せめてもう一捻り必要だと思います。パンチがたりない。(林)
『ホテル・クロスロード』
既視感が強いお話のうえ、キャラクターも凡庸でした。(今井)
『ラストキス』
多くの新人賞作品に共通することですが、冒頭の地の文で状況を全て馬鹿正直に説明しようとしすぎている。展開と会話を使って、説明せずに奥行きを感じられるように。(山中)
『言わず火』
冒頭が平易で、展開としても新鮮味を見出せない。(山中)
『Money Fighter』
星海社FICTIONSとミスマッチです。何故この作品をうちに投稿されたのかがよくわかりません。(岡村)
『妄想マキャベリズム』
物語を成立させるためのリアリティがまるで考えられていない。(山中)
『Good Luck Hill City-God knows,tasty liquor.』
この構成ならばまだまだ世界観設計が甘い。ストーリーがベタすぎるぐらいベタなので、世界観だけでワクワクできるぐらい練り込む必要を感じます。(山中)
『カルト狂想曲』
暗くて重い。読んでいて楽しいところがなかったです。(岡村)
『邪魔者天使は突然に』
ご都合的すぎる冒頭の展開に対して、物語的な説得力が希薄でしょう。(山中)
『無罪探偵〜ハーメルンの角笛〜』
長編小説としては設計が小さすぎます。小さいながらに高密度の起伏があるかといえばそうでもなく、長編としてはまだまだ足りない印象です。(山中)
『フクロウの森と、忘却の少女』
小さくまとまっています。ストーリーは特に矛盾はしていませんが、印象に残るシーンもなかったです。(岡村)
『太陽を飲み込んだサメ』
冗長。見せ所の数を増やさないと退屈で最後まで読むのがきついです。設定である「タイムトラベル」については既存の作品とは違った視点があり、よく考えられていると思いました。(岡村)
『夢の向こうのソロカルプ』
全体的に既視感が強く、完成度も不足している。前近代における書物の形態や成書・流通について、最低限の下調べがなされていない。(平林)