2012年春 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2012年5月24日@星海社会議室
残念ながら受賞者なし! だが、期待作あり!壁を“突破”するのを我々は待っている!
星海社FICTIONS新人賞受賞作、『2WEEKS イカレタ愛』発売!
太田 座談会の前に発表だぜ!! 星海社FICTIONS新人賞から2人目のデビューとなります野中美里の『2WEEKS イカレタ愛』が刊行されました!
一同 おおー!(盛大な拍手)
平林 まずは無事に刊行できてよかったです。野中さんとは何度も打ち合わせをして応募作の段階からかなり改稿をお願いしましたからね……。
太田 そうだね。でも野中さんもこちらの要求に粘り強く応えてくれて、内容はグッと良くなったよ。イラストを担当してくれたえいひさんも気合いの入った絵を描いてくれて、新人賞受賞作の名に恥じない作品になったね。『最前線』で開始されている連載もPV数が好調なんでしょ?
平林 ええ。前回の新人賞座談会同様、複数のまとめサイトにとりあげられましたからね。見事に炎上してます(笑)。
一同 (爆笑)
太田 わはは。前回の座談会の反響はすごかったからね……。おかげでうちの編集部は「辛口」のイメージが一気に定着したよね。いいんじゃないかなー。
岡村 僕、この間とある作家さんにお預かりした原稿の感想を伝えたんですけど、返って来たメールが「よかったです。新人賞の座談会のように酷評されると思ってビクビクしてました」という感じで……。
山中 作家さんからも警戒されてる!?
太田 別に僕らの作品の評価の方向性は第1回から全然変わってなくて、たまたま前回の応募作が歴史的なまでの不作だったからああゆうテイストになっただけなんだけどね。だから今回も全く臆せずビシバシ評価していくよ!
〝リア充エディター・今井〟登場!
平林 あ、選考に入る前に新しく星海社に合流した今井君を紹介しないといけませんね。では今井君、自己紹介を。
今井 はい。では…えっと…5月から星海社に合流しました、今井雄紀と申します……。
平林 ダメだよ! こういう時にパッと面白いこと言わなくちゃ。あれでしょ? リア充なんでしょ?
山中 また平林さんの「かわいがり」が始まった……。
太田 あれ、本当に勘弁してほしいよね……。何が彼をそうさせているんだろうね? 僕が思うに(と、いきなり脱線して演説を始める太田)。
柿内 (太田の演説を遮って)ところで今井君、Facebookの友達何人いるんだっけ?
今井 750人ぐらいです。
岡村 なんというリア充……死ねばいいのに。
柿内 それさあ、みんな本当に実際に知ってる人なの?
今井 もちろん知ってる人です。
竹村 もちろん!(笑) 答えによどみがない! それではこれからの抱負を一言。
今井 そうですね。みなさんに友達の作り方を教えられればと思います。
太田 爆発しろ!
NO! 改稿!!
太田 いかん、始める前からなんか猛烈に疲れてしまった……。気をとりなおして選考に入るぜ! それではトップバッター、『星空からの贈り物―千石高校超能力地域親交推進部活動日誌―』、これは?
平林 僕です。「えんため大賞」二次選考落ちしたものを改稿したそうなんですけど、そんなのしなくていいです。
太田 他社で落ちたやつを改稿して新人賞を取った人は確かにいるにはいるんだけど、それにしても……って感じだよね。
平林 ●●●●賞なんか、受賞作より、落ちたやつの方がよかったりしますからね。他社で落ちた作品なら、『バトル・ロワイアル』みたいな危険な作品を読みたいです。
太田 でもやっぱりプロになるんだったら、まずはたくさん書かなきゃ駄目だと思うんだ。他社で落ちたものを改稿して送ってくるなんて、たいていの場合は楽をしているだけとしか思えない。あの上遠野浩平さんですらデビューするまでにはたくさんのボツがあったんだよ?
平林 二次落ちレベルのやつだと、改稿してもあまり意味がないと思うんですよね。一次落ちの方がまだマシかもしれない。二次落ちって、「形にはなっているけどおもしろくない」っていうのが多いですから。
山中 形にはなっているものをボツと認めたくないのかも知れませんね。
太田 たしかに一次落ちは話にならないレベルが9割9分だけど、1分は賞とのマッチングの違いがあるかもね。しかしまあ、自分ひとりで改稿して作品を良くできる人の数は決して多くないと思う。たとえば試みに一度、編集のアドバイスが入る前と後の原稿を公開してみてもおもしろいかもしれないね。その間に発生したディスカッションの内容も合わせて公開して。
平林 いいですね。でもOKしてくれる作家さん、いますかね(笑)。
SF、ファンタジーの難易度
太田 えー、次は『空飛ぶ宅急便』。
平林 これは、人類が宇宙に進出している世界の話なんですけど、それだけ未来になって環境が変わって、重ねた歴史があるのに、人類の言ってること、やってることが、驚くほど今と変わらないんですよね。「あなたの想像力ってその程度なの?」って思ってしまう。
岡村 「その世界観設定でやる意味あるの?」という応募作はかなり多いですね。その話だったら現代モノのほうがわかりやすい、と思っちゃう。
太田 しっかり未来を描いた上で、たとえば『銀河英雄伝説』みたいにアクセントとして「紅茶」を出したりすると効果的なんだけどねー。
山中 舞台設定を現代じゃないものにすると、すっごく大変だってことを、みんな案外認識してないですよね。
平林 イチから全部考えなくちゃいけないし、ないものをあるものとして見せないといけないわけだから、説得力が必要になるからね。でも『Princess fragments』、これは、ちょっといいなと思いました。文体が独特で、児童文学テイストがありつつもしっかりしたファンタジーです。ある国のお姫様が塔に登って焼身自殺してしまって、そのお姫様の血とか髪とか、骸骨が持ち去られてしまうんですよ。その盗賊を追う騎士の話で、非常に世界観がユニークです。
太田 ほほう。
平林 ただ改善点を言わせてもらうと、固有名詞の付け方をしっかり勉強してほしいです。例えば『ゲド戦記』とかにしても、きちんとしたルール、母体とする言語があります。ファンタジーとはいえ、日本語・英語・ドイツ語が交ざっていていいのか。交ぜる理由があるならいいんですけど、そういったお作法は、きちんと勉強してほしいなと思います。
太田 ファンタジーを書くときって、きちんと考えないといけないよね。ファンタジーはある種のSFなんだよ。たとえばあの『指輪物語』にしても、その世界の環境がいったいどういう成り立ちで出来上がっていったのかっていうことについて、すごくきちんと考えて用意した上で書いている。単に「剣と魔法」が出てきただけじゃだめなんですよ。
岡村 ファンタジーをご都合に使っている人も多いですよね。
平林 そうなんだよ! でも、この人はきちんと書きたい世界観があるのを感じるんだよね。また新しい作品で応募して欲しいですね。
「見せ場」まで読ませることができるか?
太田 『アリカの殺意』、これは柿内さん。
柿内 皆勤賞の方ですね。前回、竹村君がこの人の『異世界リベンジ』という作品を読んで、「謎解きをするときに参加者の1人が殺されて進んでいくんですが、トリックを解く段階で、密室殺人のはずがボタンを押したら縄が出てきて実は外に出れたというあたりがイマイチかな…と。」という感想を述べたんですけど、そこを指摘して「間違いです!」と今回の応募作に書いて送って下さってます。
竹村 すみません。
柿内 でも、誤解させるぐらいのレベルだったってことだよね。今回のも、冒頭50ページぐらい読んでも、何も「絵」が浮かばなくて、全然おもしろくなかった。描写力と構成力に問題があって、途中で読む気がなくなっちゃう。「今度こそ密室殺人です!」って書いてあるんだけど、事件解決のところまでとても読めない。5回投稿してきてるけど、なんだか毎回出すことが目的になっているんじゃないかなと思ってしまう。
太田 よっぽどブレイクスルーがないと、今後も厳しいだろうね。よく「●ページから面白くなるんです」とか言う人いるけど、あたりまえの話だけど、面白くなるところまでを読ませる工夫を怠ってはいけない。
柿内 そうですね。僕、こないだダニー・ボイルの『127時間』という映画観たんですけど、あれなんかストーリーを説明したら2行で終わりますよ。「岩場に腕を挟まれて身動きが取れなくなってしまった主人公が、127時間後、自分の腕を切り落として生還する」、それだけ。ストーリーはきわめてシンプルだし、登場人物もほぼ主人公ひとり。それだけの話でも、展開と見せ方(演出)だけで90分もたせて、しかも面白くまとめることができる。この人はその逆で、ネタはいろいろあるし、登場人物もたくさんいるんだけど、なんだか密室殺人が書きたいだけで、登場人物たちの顔が見えてこないし、声が聞こえない。没入させてくれないなら、読者は読むのをやめるのは当然で、「読者は〝読まない〟もしくは〝途中で読むのをやめる〟という最強のカードを持ちながら読んでいる」ということがわかっていないと思います。
冒頭の「つかみ」とペース配分
太田 次は『トゥルー・ロマン』。
岡村 これはさっきの作品とは逆で、最初の50ページがおもしろい。16歳の男の子が書いているんですけど、書き出しが「人生は挑戦の連続だ。少なくとも俺はそう思っているし、その言葉を胸に刻んできたつもりだ」って始まって、そのあと主人公がオナホールを買いに行くんですよ。
一同 (笑)
岡村 そのあと家に帰ってきて使おうとするんですけど、なぜか部屋に大きな覗き穴が空いていて、「こんな状況で使えるか!」という状況になります。で、その穴を覗いた向こう側に美少女がいて、その子と覗き穴を通しての文通がはじまって…という話です。ただ、いかんせん16歳の子が、大学生が主人公の創作モノの話を書いてるので、ディテールが甘すぎる。だから後半は相当だれてしまってるのが残念ですね。
太田 冒頭はやっぱり大事だよね。冒頭50ページがいいと最後まで読んじゃうし。前にも言ったけど、映画にたとえて考えてみるといいんだよ。小説全体のボリュームを2時間の映画とみたときに、自分は今何分目を書いているのか考えることがすごい大事。1時間経たないと見せ場が来ない映画なんか見る気しないでしょ?
山中 冒頭数ページは、映画がはじまる前に流れてる予告CMを意識してつくるべきだと思うんですよ。あれがおもしろそうだと思ったら、次もまた映画館に行きますし。
岡村 予告編詐欺もありますけどね(笑)。
柿内 そうだね。だから最初だけがよい小手先な作品も駄目だね。
太田 ペース配分を考えましょうってことだね。話の盛り上げ方について技術的に書いてある『ハリウッド脚本術』という名著があるけど、これは読んでおいて損はない本。そういうシナリオ作成の本とかをいくつか読むといいのかもしれないね。
文芸orライトノベル!?
太田 『喰われる日』。これも岡村さん。
岡村 この作品、アメリカから送られて来てるんですけど……。
太田 U・S・A! U・S・A!
岡村 (太田を無視して)この人はもっとライトノベルを読んだ方がいいと思います。
太田 (無視されたことに気がつかず)どういうこと?
岡村 使われている単語からは著者の高い教養を感じるんですけど、固有名詞が「エミリー」とか「ウイリアム」とか「カルロス」とか、ちょっと今風じゃないんですよ。この人は文芸寄りの人だと思うんですけど、特段文体に惹かれるものがなかったんですよね。伸びしろを感じないというか……。一度キャラクター小説を読むなり書いてみるのもためになるんじゃないかな、と思いました。
太田 面白かったらなんでもいいんだけどね。あえて言えば、僕は、文芸よりも文芸的で、ライトノベルよりもライトノベル的な小説を読みたいんだよね。それは別に両者の中間をとれって短絡的な話じゃなくて、どっちにも勝つ作品。芥川賞を獲っている作品より文学的で、電撃文庫で一番売れている本よりライトノベル的である、みたいな。そこを両立させたものを書ける人が今の日本のどこかにいるはずなんだよ。だから僕は星海社で新人賞をやっている。もちろん星海社はまだ出来たばかりの出版社で、負担は大きいけれど、新人を出さない出版社に僕は積極的な価値を見いだすことができないからね。
山中 その太田さんのおっしゃる「芥川賞を獲っている作品より文学的で、電撃文庫で一番売れている本よりライトノベル的」なものを実際に書いている作家さんは今いるんでしょうか。
太田 いい質問だね! 僕が考えるに、まさに「村上春樹」がそういう作家で、だから僕にとっての理想の新人は新しい時代の春樹さんだね。春樹さんの代表作の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』ってさ、太ってるけど可愛い女の娘とか出てくるじゃない。不細工だけど萌える、みたいな。
山中 あの娘は読んでいてだんだん可愛くなってきますもんね。
太田 でしょ? でも、「ワンダーランド」の方に行ったら、自分がどこに行ったらほんとうの自分に会えるのかみたいな、哲学の話になるじゃないですか。純文学的な想像力とライトノベル的な想像力が見事にクロスしているよね。しかもそんな作品が何年前に書かれたかっていったら約30年前だよ。日本の文学シーンって、なんだかんだいってそこから何にも進歩してないんじゃない? でも、日本社会が大きな転機を迎えている今こそ、その軛を変えられる新しい人がきっと出てくるはずです。僕はその人の登場を待っている。
奇抜なタイトルとルール設定
太田 次は……『なんだかんだアンダスタン』(笑)。
一同 タイトルすごいな!
竹村 韻の踏み方が腹立ちますよね(笑)。2時間後に思い出してイラッとする感じ。良くも悪くも印象付けには成功してますが……。で、僕が読んだ中ではいちばん読んでみようかなと思わせる雰囲気はしてたんですが、設定がどこかで見たような感じがしますね。ありがちかな、って。ストーリーは、ニートがある日「貧乏ごっこ」に参加することになるんですが。「貧乏ごっこ」は、1年間、月収6万円以内で生活しなければいけない、というものでその条件をクリアすれば願い事を叶える、というルール。ただそれを破ると殺されてしまうんです。
平林 殺されるんだ……。
竹村 そう、どっかで聞いた事ある感じなんですよね。結局、主人公はルールを破って最後に死んでしまうんですけど、最後に「誰が何の目的で人を殺すのか。僕には解決などできません。それを期待する方が悪いのです」と言って、きれいにまとめようとしているんですけど……うーん…。
太田 それはうまくないわ……。次、『暴力とアニメソング』。
山中 これはすごいですよ。主人公が〝アニメソングを聴くと勇気が百倍になる〟って設定で、夜中に歩いているといきなり警官から声をかけられる。「この辺は最近殺人事件が起きているから、夜中に歩いてちゃ危ないよ」とか言われるんですけど、「俺はアニメソングを聴いている時は不死身だから大丈夫だ!」とか答えて(笑)。そしたらいきなり警官が襲いかかってくるという謎展開。そこで読むのをやめました。
柿内 え? おもしろそうじゃん。
岡村 いや、たぶん山中先生がおもしろくまとめたからそう聞こえるんですよ。
山中 そうなんですよ! 実際、読むのが無茶苦茶つらい文章です。
太田 よく座談会を読んだ人の感想で「このあらすじなら読んでみたい」とかあるけど、それ、あくまで僕らが盛っておもしろくしたあらすじだからね(笑)! さてお次は『婚活バトルロイヤル』、これもまた……。
平林 これもすごいです。主人公が、友人の紹介で婚活パーティに行くんですが、「プロポーズしてフラれた者、また3日以内に結婚できなかった者には死んでもらう」という……。
太田 ヤバイね。
平林 それも、政府がやってるらしいですよ。大変だなぁと思いました。
岡村 〝少子化対策として政府が結婚を斡旋する〟っていう設定は最近の漫画ではちょっとしたトレンドですよね。『ハッピープロジェクト』や『それは突然、運命の相手が』とか。あえてそれを小説でやるのであれば、愛憎の心理描写や知謀の駆け引きを読ませてもらえればおもしろいなー、とは思いますが、そういう作品ではないんですよね?
平林 全くないね。
16歳、一皮むけるには?
太田 『We are challenged』、これは16歳の子の作品だね。
柿内 この子の作品、僕が読むの3回目なんですよ。概要のところに「職業 高校二年生」って書いてあって、ああ高2になったのか、と。
太田 成長してる!(笑)
柿内 たぶん、身長も伸びたんでしょうね。なんか青春を見守ってるみたいで感慨深いなぁ……(笑)。ただ、文章もちゃんと小説になってきてるんですけど、物語がどんどんつまらなくなってますね。最初の作品が一番よかったかな……。
平林 最初のは初期衝動があったんでしょうね。
柿内 そうなんだよ。最初はガレージロックの匂いがしてよかったんだけど、ガレージから出て、そのへんのホールとかで演るようになった途端つまんなくなっちゃったバンドみたい。BLANKEY JET CITYの初期作品とか聴いたほうがいいんじゃないかな。ちょっと、このペースで送って来られると、伸びないんじゃないかと思う。……たぶん、この新人賞に応募することが、今のこの子の人生を占めてると思うんだよね。
山中 もっと大事なことがありそうですね。今しかできないことをやってもいいんじゃないかなぁ……。
平林 リア充エディターを見習って、合コンとか行ってもらったほうがいいですよね。まだ10年とか余裕があるわけだから。
柿内 本人がそれでいいならいいんだけどね。でも、書くことが目的になりつつあるからそこは良くない。小説を書きつつも、一回立ち止まって、「俺、何書きたかったんだっけ?」「何がしたかったんだっけ?」っていうのを、もう一回考えたほうがいい。ベタに『キネマ旬報』の「映画オールタイムベスト100」を100位から1位まで順番に毎日ふたつずつ観ていくとか。2ヶ月あれば、できるしね。それと、合コンにも行けるなら行ったほうがいいし、童貞卒業できるんならしたほうがいい!
山中 童貞かどうかわからないじゃないですか!(笑)
柿内 いや、この子は童貞だよ(断言)。俺もそうだったからわかる。
太田 何をしたらいいんだろうね……。うーん、寺山修司みたいにのぞきをやってみるとか?
柿内 のぞきは18歳になってから!
岡村 いや、普通に犯罪ですから(笑)。駄目だよ、勢いでやったら。黒歴史になるからね。
柿内 大人になってお金を払えば、歌舞伎町や池袋で合法的にのぞけるけどね! それはさておき、つぎ送ってきたらまた僕が読みます。でも今回よりつまんないの送ってきたら、ゴミ箱に捨てる。あと、今後〝殺人〟は禁止で。いい加減に飽きた。もっと10代のリアルが読みたいよ。
山中 〝死神〟〝財閥〟に続く新たな禁止令が(笑)!
柿内 散々言いましたが、それでも他の作品よりは全然読めるんですよね。そのへんを30代の人とかは認識したほうがいいかもしれない。16歳に負けてるってことを。
過去の名作を、今読むからこそわかる新しさ
太田 次は僕が読んだ作品を2作。まずは『カゾクディヴァイス』。21歳の人が書いてるんだけど、なかなかよかった。ただ、出だしはいいんだけど、長いんだよね……。ライトノベルの冗長体みたいなものの悪影響を、モロに受けてる。筒井康隆さんだったら3行でもっとおもしろく書けてしまうところに、10ページぐらい使っている印象。この感じわかる?
山中 超わかります。
太田 だよね。流行りの作品を読むのはすごい大事なんだけど、筒井康隆さんや星新一さんみたいな巨匠のかつての作品を、今読むからこそわかる新しさってきっとあると思うから、そういう作品をもっと読んで欲しいですね。70年代SFとか。展開早くておもしろいよー。それに、最近流行の一人称饒舌体って、もう天才が何人もいる世界だから、そこに割って入っていくのはすごく大変なんですよ。ただこの人は才能があるから、是非また投稿してほしい。王道をちゃんと書ける人だと思う。次は『ウロボロスの脳内麻薬』。これは、小学生が都市伝説の謎を解いていく話で、ファンタジー要素もあって悪くない。この人、きっと他の賞にも出してるんじゃないかと思って調べたら、いくつかの賞で一次は通ってるんだよね。で、なんでこれを読みたいと思ってしまったかと言うと、タイトルに「ウロボロス」が入ってるからなんですよ。
岡村 竹本健治さんですね。
太田 そう。この人は昔の竹本健治さんになりたいんだと思う。でもやっぱり、今の時代の竹本健治さんを目指して欲しいなと思いました。キャッチーさが足りない。そこが多分、一次止まりな理由かなと。別にこの人に才能がないわけじゃない。竹本健治さんは大天才だから、簡単に抜けるもんじゃないので。
何故そのテーマを書くのか?
太田 『地を這う虹』。これは平林さん。
平林 これ、原発の話なんですよ。
山中 放射能が蔓延してしまった世界、みたいなやつですよね。僕もこの作品読みましたけど、なんか風刺が直接的すぎるんですよね。
平林 そうなんだよ。例えば作中で主人公たちがアゲハチョウの幼虫を育てるんですけど、体内で生物濃縮が起こって、高濃度のセシウムに幼虫が汚染されてしまうとか、そういう話が出てきたり、泥から高濃度のセシウムが検出されたり……。
山中 ストレート過ぎて、そんなの今読みたくないって思っちゃう。あと被曝者を差別するキャラクターとか出てくるんですけど、それがあざとすぎてとても気分が悪くなるんですよね。
平林 そう。わりと書き慣れているし、読めるんですけど……。これを小説で書く必要があるのかと。
山中 そういうのやるんだったら、佐藤友哉さんの『星の海にむけての夜想曲』みたいな、もっと小説でしかできないことを突き詰めてほしいですよね。
平林 あとね、今までこの人の3作品読んだんだけど、何を書きたいのか見えてこないんですよ。その時々で適当なテーマを選んでるんじゃないかと思ってしまう。
太田 なんかそれ、寂しいね。何か「核」があるから作家を目指すんじゃないのかね。
ワープロの功罪
太田 さて、ここからは各担当が上げた作品を見ていこうか。まずは岡村さんの『噓と詭弁と猫耳フード』。
岡村 いわゆる学園異能モノです。一見普通に見えるんだけど、もの凄く偏った感情を内に宿しており、常人より優れた身体能力を発揮できる〝感情異端者〟と呼ばれる高校生たちを中心に物語が展開していきます。ミステリーとバトル要素もあります。この作品の良いところは、冒頭がキャッチーであること。……大雪が降り、真っ白く染まった校庭の真ん中で、赤い傘を持ったヒロインがある事に困っていて、主人公がそれを助けに行くんですけど、いきなり乱入してきた車に2人まとめてひき逃げに遭う。この冒頭が、ちゃんと続きに興味を持たせるようにできていた。風景描写も浮かびやすいでしょう? 僕が今回担当した中では、一番しっかりしたキャラクター小説でした。ただね、長いんですよ……。
山中 長いよね。異能モノとわかるまでもすっごい長い。あと、ひき逃げに遭うシーンのキャラクターの心理がすごく冷静に描写されてるから「こんな風に思う余裕あるかな?」と思ってしまって、ちょっと冷めてしまった。
岡村 描写が丁寧すぎて冗長に感じるところは、全体的にありますね。
平林 あと軽いよね。それは良し悪しじゃなくて、好みの問題かもしれないけど。軽さと薄さって違うじゃないですか? この作品は軽い上に薄い気がしてしまった。そのうえ、長い。軽くていいから濃く、短くしてもらったら、もっと読めると思う。
山中 これを半分に圧縮して欲しいですね。
太田 ワープロが小説執筆に導入されるようになったときに、それによって小説が変わるんじゃないかって議論があって、それは一旦「関係ない」って結論で終わってるんだよね。でも、僕はやっぱり「関係ある」と思う。たとえば今は昔より長い作品を書きやすくなってしまった。
平林 体力使わないですもんね。手書きと比べて。
太田 そう! 長く書けちゃうんだよ。
平林 この人とか、一度手書きで書いてみたらいいんじゃないかな。
一同 (笑)
平林 だって、手書きだったらこの文量は書けないよ(笑)。手を楽させるためにどうするか工夫すると思う。同じ情報を、いかに短い文章で伝えられるか考えるようになると思う。
太田 佐藤(友哉)さんはときどき万年筆で書いてるよ。佐藤さんの作品って「なげえな」って感じるのないでしょ?
岡村 無いですね。
太田 彼はそういうところを本能的にわかっているんじゃないかな。さすがだよね。う〜ん、やっぱりこの作品は、半分ぐらいにすべきだね。何かを持っている感じの人だから期待したいけど。
有望作、現る!
太田 ラスト3つは全部、山中先生が上げたやつだね。一つ目『BOX〜正六面体の中の、七つの大罪〜』。
山中 「BOX」というTRPGが盛り上がっている世界の話です。TRPG×リアルイベント×ネット投票という仕組みの中で、ポイントを稼ぎ、お金を稼いでいる登場人物たち、その中で起こるミステリーを描いた作品です。ちょっとオカルトも入っていますね。
平林 これ、今回読んだ作品の中では2番目におもしろかったですね。サスペンス展開の中の、キャラクターの駆け引き、心理描写がうまかった。7人の登場人物がいて、それぞれTRPGのキャラもいるから、7人×2で14人覚えないといけないのはつらかったけどね。そのへんはもっとうまく処理できそう。あと残念だったのはミステリー要素で引っ張っておいて、オチがオカルトだったこと。途中でジャンルが変わってもいいとは思うんだよね。小野不由美さんの『屍鬼』とかそうじゃないですか。最初ホラーかと思ったら、どんどん切ない話になっていく。期待とは違うんだけど、抜群に面白い。でもこの作品は、悪い意味で、読者の期待を裏切ってしまっているんだよね。もっと正攻法に書けばよかったと思う。書ける力もある人だし。
太田 この人、他社でも「もうちょっとでデビュー」ってとこまでいってるんだよね。二次とか最終とかさ。
平林 いつデビューしてもおかしくないだけのものはもってますよ。うちに3回出してくれてて、アイデア豊富でジャンルも幅広いですし。
太田 惜しいんだよ、もう一歩なんだよね。この人は絶対にデビューできる人なんだよ!!
平林 出だしもいいですよね。不可能犯罪みたいな話で。これにミステリー的なオチがついてたら最高ですよ。
太田 それがないんだよね。
平林 だから、どっちかにした方がいいと思うんですよ。ミステリーを書ききるか、オカルトとか叙情的な方に行くか……。どっちも書きたいのはすごいわかるんですけど。僕は後者の方がいいんじゃないかと思ってます。
山中 今、平林さんの話を聞いてて思ったんですけど、この作品「コトリバコ」っていうネットで有名な話を引用していて、そのあたり考えが足りないんじゃないかと思うんですよね。
平林 そう? それは全然問題ないんじゃない? 他の作家さんの作品でもそういうこと全然あるじゃん。
山中 そのへんが話を薄くしている原因じゃないかなって思いません?
平林 いや、僕はそこには全く関係性を認めない。
太田 議論が侃々諤々してきたね! こうでなくっちゃ! 岡村君はこれ読んだ?
岡村 読みました。感想は緑萌さんともかぶるんですけど、オチがオカルトでなんかすっきりしなかったです。でも、他の部分はレベルが高くて僕も作品全体の中では2・3番目ぐらいに面白かったですね。
山中 なるほど。太田さんはどうでしたか?
太田 長い! 448ページも使う話じゃない。
山中 ゲームの説明の部分とか、冗長なところもありましたね。
平林 あのへんは本にする時に工夫のしがいがあるところだよ。ほんとにルールブック作ってしまうとかね。
太田 この人が色んな賞でいいところまでいって落ちてしまうのは、キャラ立ちのはっきりした登場人物を書くのが苦手だからかもしれないね。とくに今のたいていの賞って、キャラが弱いと難しいんだよ。ただ、この人はキャラを書いて目立つ人じゃない。というか、もっと骨格で勝負する作品が書ける人だから、そっちで勝負して欲しい。だからぜひうちに積極的に送ってきてほしい。これだけ落ちていても書き続けている根性はすごいと思うし、デビューしたら粘り強くやってくれそう。
平林 この人は、『六番目の小夜子』みたいな作品を書ける可能性があると思う。引き続き期待しています。
太田 また、気合いの入ったやつを一本送ってきてもらいましょう! ここががんばりどきです。よろしく!
2年古い
太田 続いて『恋ノ玉響』。
山中 高校生の主人公が、ある日路地裏で猫を食っていた鬼子の少女〝柊姫〟に襲われそうになる。そこをもう一人の鬼子である〝山神種〟に救われたが、柊姫に付けられたフェロモンが他の鬼子を刺激して、主人公の妹が鬼子に襲われ、殺されてしまう。実は柊姫も主人公を襲おうとしたのではなく、一目惚れをしてしまっただけだということがわかり、主人公はその愛情を利用して妹の敵討ちをしようとする……という話です。どうでした?
太田 これも長い! 山田風太郎さんだったら80ページぐらいで書くと思うよ。あと、名詞のセンスがないね。
平林 僕もしんどかった……。文法もむちゃくちゃだし、ちょっと教養がなさすぎる。資質的に作家にはあまり向いてないんじゃないですか?
山中 冒頭とキャラクターがすごく尖っていていいな、と思ったんですけど……。
平林 ヒロインの女の子が猫の血をすすってるんだよね?
山中 そうです。あと、ヒロインが段々細切れにされていったりするあたりは、かなり好みだったんですよね。
岡村 僕は、話自体はおもしろいと思ったんですけど、いかんせん暴力性が強すぎて合いませんでした。ヒロインが身体欠損していく部分は生理的にきつかった。そこは好みの問題だと思いますが。
平林 確かに、「今までのやつはここまでだったから、俺はここまでやってやったぞ」みたいなところは若干ある気がするね。僕は西尾維新さんを想像しながら読んだんだけど、『戯言シリーズ』とかと比べるとだいぶきついよね。
太田 ちょっと古いよね。2年古い。「フェロモン」とか使っちゃダメでしょ。それを別の言葉で表現しなきゃ。
岡村 「チューインガム」って単語、久々に読みました。
山中 確かに(笑)。
太田 よく気づいたね(笑)。
平林 最近はキシリトールガムとかが普通だもんね。
太田 あとね「鬼子」っていうのも、奈須(きのこ)さんリスペクトなのはわかるんだけど、これもないよね。
山中 そこでちょっと萎えちゃったというのはあります。
平林 『月姫』が好きなのはわかるんですけど、それなら『月姫』を参考にするんじゃなくて、『月姫』が参考にした作品を読めよ、って感じですね。それができないんだったら、書いちゃいけない。
太田 アイデアはいいんだけど、「奈須たけのこ」みたいになっちゃってるんだよね。薄っぺらい。以上!
最後に最高の期待作、結果は如何に?
太田 そしてラストは『水葬モーテ』。山中先生イチオシのやつだね。さあ、存分に推してくれたまえ!!
山中 なんかハードル上がってますね(笑)。この作品は「モーテ」と呼ばれる病気が蔓延している世界の話です。モーテというのは、20歳になったらどうしても自分を殺したくなってしまう病気です。物語は孤児院からスタートし、その孤児院は、子どもがモーテを発症してしまった家族に、子どもを斡旋する機能を持っています。前半はこの孤児院に入れられた少年を軸に、後半はモーテを発症してしまった少女とその少女に思いを抱く青年を軸にして話が展開されていきます。冒頭のシーンは『トーマの心臓』のような美しさを感じさせます。
太田 なるほどね。
平林 この作品、山中先生が担当しないなら僕が担当したいと思いました! ジャンルで言うと、純愛モノだと思うんですけど、洋画的なダメ主人公が、すっごく色々苦労したうえで、最終的にすっごくいい子を見つけるって話じゃないですか? 自分が何を書いていて、読者にどんな気持ちになって欲しいか、というのを自覚して書いている人だなと思いました。脇道をあまり作らず、一本の線を通しています。日本の河川改修と一緒で、より深く、まっすぐに! という感じ。よくある話だし、「これぐらいだったら誰でも書けるんじゃないの?」と思われがちかもしれないけど、きちんとテクニックの裏付けがあって、アイデアと熱意も詰まってる。そこが非常に好ましく思いました。文章の色彩感が豊かなのもよかった。ただ、キャラが若干弱いですけどね……。名詞もあまりうまくない。
太田 岡村さんはどう?
岡村 僕も、今回の作品の中では一番おもしろかったですね。完成度も高い。ただこれ、正直うちでは売りにくいな、と思いました。この作品が星海社FICTIONSの装丁で書店に並んでるところが想像できない。
平林 わかる。というかそこだけが唯一、ひっかかった。
太田 そうだね。作品全体の雰囲気から考えると、今のままだと「ファンタジーノベル大賞」なんだよね、これは。才能も教養もある人だと思うんだけど。だからなのかな? ちょっと大人しいんだよね。僕はもっと暴れん坊が好き。内容について話していくけど、まず舞台であるヨーロッパ。特にフランスのことについて書くのがあまりうまくないよね。イタリアはいいのに、なんでなんだろう?
平林 イタリアに留学経験があるんじゃないですか? フランスは行ったことないとか。
太田 そうなのかな……。あとモーテがすごく蔓延しているんだけど、「大変だ!」という感じが全然伝わってこない。人形劇を見てるみたいで、リアリティが足りないんだよね。危険な感じがね、ないんだよね。
山中 主人公の主観の中でのモーテは丁寧にわかりやすく書かれていたんじゃないですか? その主観に振り回されていくのが、物語の骨格ですし。
太田 それは確かにそうだね。あとね、誰が何を言っているか時々わかりにくくなるんだよ。特に序盤。
平林 あー。確かに最初だけちょっとわかりにくいですね。でもこの人、そのうちどっかで賞とると思うんですよね。物語に破綻がないし、主題も明確だし、減点の少ない書き方をしている。僕は仮にこの作品が刊行されていて、買って読んだとしても、満足度高かったと思う。
太田 長いけどね。441ページの作品じゃない。投稿者のみんなに言えることだけど2割減らして欲しいね。商品になった時のこと考えようって話。それは編集者が考えるべきことなんだけど、僕らは減らしてくれとしか言いようがない。たとえばさ、これ文庫にしたら、800円とかになっちゃう文量だよ。ちょっと推せない。さいきん僕は「短くしろ!」しか言ってない気がするけれど、断固として言い続けるよ!! で、山中さんはこの人デビューさせたいの、させたくないの、どっちなの!?
山中 (即答できない)
太田 (間髪入れず)ダメ! 今回のこの人のデビューはなし。山中さんの熱意が足りない。
山中 う、すいません。
太田 僕に謝ることじゃないけどね。小説なんて人それぞれ好みが違うわけじゃない? だからこそ、自分が好きだと思った作品は全力で推してほしいんだよ。僕はみんながみんな「そこそこ面白い」って言ってる作品は落とすけど、誰かがゴリ押しするならば、そこは通す編集者なんだからさ。この座談会は僕らが文学談義をする場所じゃなくて、いかに僕らが才能を発掘して、それをお金に変えていくか、ということを話す場所でしょ? 作家さんと僕らがご飯を食べられて、読者も嬉しいっていう、いいサイクルをつくらないといけない。それが編集者の務め。
山中 はい。そうですね……。
太田 だから今の山中さんの「まあまあいいと思うんですけど、どうですか太田さん、あとよろしく」みたいな、そういう姿勢は、投稿者に失礼だよ。編集者って、ある時期における、作家の全人生を背負うんだよ? だから編集者がそんな傍観者的な高みに立っちゃ絶対ダメ。僕らはこの座談会で色々言いたい放題言うわけだけど、斬る以上は、斬られる覚悟を持ってやらないといけない。「撃っていいのは、 撃たれる覚悟のあるやつだけだ!」。だから、高いところから言ってるだけじゃダメなんだよ。およそあらゆる新人賞の現場で、満場一致で受賞なんてことはほとんどないんだから、山中さんが本当にこの作品を、この人を推したいのであれば、「ここをこう改稿したら絶対よくなるし売れる!」というぐらいのプレゼンをしなきゃ。ここで僕にプレゼンできなくて、全国の読者にプレゼンできるわけがない。
山中 すいません。太田さんじゃなくてこの投稿者の方に謝りたいです。でも、僕はすごくこの人の話が好きなんで、一回会わせてください。
太田 了解!
受賞者なし、だが……
太田 今回、受賞作は出なかったけど、何人か今後期待できる人はいたからいいんじゃないかな。新しい人もたくさん応募してきてくれてるし、前回とは全然違うね。
平林 前回はほんとにひどかったですからね……。
太田 次はどうなるかな……。僕は、やっぱりミステリーが読みたい!
岡村 ミステリー書くのは難しいですけどね。
太田 (聞いてない)ガチミステリーを読みたいねえー。今、そういうのは他社では出にくいと思うから、うちから出したい。だからチャンスはすごくあるよ。
平林 僕は、資料をちゃんと読みこんだ上につくられた歴史モノが読みたいですね。
山中 一貫してるなあ(笑)。ぶれてない。
平林 でもやっぱり「資料をちゃんと読む」というのはすごく大事で、目の肥えた読者って、自分の知らないことを教えてもらいたくて本を読みますからね。作者が自分より賢いってのはすごい大事なことですから。
太田 才能ある作家さんって、何歳になっても勉強してるからね。
岡村 僕は一点突破モノが読みたいですね。「この分野の知識や経験だったら誰にも負けない!」という要素を土台にした上で、キャラクターとストーリーがしっかりしている作品。手前みそですけど、僕が担当させていただく至道流星さんの作品には〝政治経済〟という確固たる土台がある。過去の新人賞投稿作だったら第2回の『エクスカリバー』がよかったですね。ロケット青春モノの作品ですけど、〝メカニック〟という土台があった。いまだにストーリーもキャラクターもちゃんと覚えてます。
平林 そうだよね。「縞パン」でもいいんだよね。
岡村 なぜここで縞パン!?
平林 縞パンのことすっごく好きな人が、縞パンの原料とか製造工程とか説明してくれたら、おもしろそうじゃん?
太田 縞パン(笑)。でも確かにそうだよ。柿内さんはどんなの読みたい?
柿内 誘拐モノが読みたい! 『天国と地獄』みたいな。
太田 いいね。あと、女性ももっと応募してきて欲しいねー。
平林 賞金も上がってきましたしねー。
太田 こんな感じで、引き続きご応募お待ちしております!
一同 お疲れさまでした!
2012年春 星海社FICTIONS新人賞 一行コメント
『AC』
造語に頼りすぎて薄っぺらい印象を覚えます。(山中)
『ノーマルの私』
キャラクター・文体ともに失敗している。(平林)
『私のおばあちゃん』
えーっと……これ、小説じゃないですよね?(平林)
『饒舌サイクロプス』
かっこいい言葉遣いを目指す前に、日本語の文法を勉強しよう!(平林)
『気高き血のゆくえ』
若さがない。星海社向きではないですね。(柿内)
『パピ子の微熱』
逮捕、自殺、事故などちょっと詰め込みすぎ。刺激的な内容に安易に頼るのではなくて「大したことが起きなくても読ませる」力が欲しい。(竹村)
『ナマコプリン』
設定・文体など、全体的に幼すぎる。(山中)
『八大龍王伝説』
あまりにありきたりすぎでしょう。王道中の王道に踏み込むには力量不足を感じる。(山中)
『戌の刻』
20年くらい前にあったなー、って感じ。(平林)
『Mr.パンプキンヘッド』
ギャグ小説の難しさを痛烈に感じます。(山中)
『八月の少年』
つまらなかったです。(柿内)
『優しい手でそのぬくもりを』
よくできているとは思うが、星海社から出版する作品ではない。(竹村)
『ナイトメア島の悲劇』
どういう意図で入れたかわからない無駄な表現が多すぎる。あっちこっちに物語が散っている。(岡村)
『+0g.(プラスゼログラム フルストップ)』
出だしの雰囲気は悪くないと思いました。キャラクターを把握するのに労力がかかるのが難点。(平林)
『夢導決機ダークネス』
台詞、固有名詞といっそ清々しいまでに〝中2的〟。それ以外は全てが40点、という感じ。(岡村)
『虚神がえし イン・アンバー・フィールド』
文章も悪くなく、作品としての完成度はありましたが、設定がイマイチでした。(柿内)
『創作のカミ様』
冒頭の雰囲気から考えられないような本編。また、設定に寄りすぎて全体がおろそかになっている。(山中)
『泪橋野獣会』
設定に甘いところはあるがストーリーは悪くなかった。あとは表現力を磨いて欲しいのと、タイトルに工夫を。(竹村)
『キャッシュ!』
設定は現代の過剰な法整備を皮肉っていて面白いが、最後まで読めなかった。(竹村)
『さながらナチュラルキラー細胞戦士たちの話』
読めるけれども新味がないのが辛い。(平林)
『怠惰かつ貪欲に惑星を屠るおよそ20万ガロンの門格海綿』
文章の基礎的な力はあるようにお見受けしますが、いかんせん未来世界の設定が今ひとつで世界観に入り込めませんでした。(平林)
『狐と人形と殺人犯は?』
既視感から脱却できない設定。構成上も非常に読みづらさを感じる。(山中)
『純粋培養の哲学者』
文章が変。どうでもいいところにページを割き過ぎて、長くなっている。(平林)
『G.T.H』
序盤からどこに視点を定めて読めばいいのかわからない。文章も冗長。3〜4割は削って下さい。(山中)
『ライトオレンジ』
出だしのエピソードが普通過ぎます。これなら無い方がいいです。(平林)
『ヤングナイト・ミーツ・ダイナソア』
あまりに古典的すぎるでしょう。(山中)
『傍観者のマリオネット』
全体的に雑。読んでいても「何で?」と思う部分が多すぎて置いてけぼりになる。(岡村)
『フリークス・ガール』
形容詞がいちいち陳腐で辛い。(平林)
『荒魂のヴァリアント』
本当に書きたいところを無理矢理引き延ばしている感じ。物語がだれている。(岡村)
『歌の力〜混沌に咲く絆(はな)〜』
突飛であればいいというモノではないでしょう。(山中)
『ぼくたちの安全なエリア』
事故や殺人に頼りすぎ。共感できなかった。(竹村)
『楽園のマナレーティ〜永遠の人〜』
作風がどう考えてもうちじゃない。カテゴリーエラーです。(岡村)
『十七歳のノワール』
とにかく冗長で展開が遅い。辛抱強くない読者もいることを想定してください。(岡村)
『絶叫織姫』
長い! 勘弁してくれ!!(平林)
『二人の出会いが世界を変える。悪魔―デモンズ―』
描写が陳腐すぎる。(山中)
『誰かの為に醒めた夢から』
キャラも立ってるし、台詞の掛け合いも面白い。ただ長い。あまりに長い。半分以下にカットできれば良い作品になりそう。(岡村)
『椅子の脚に座る少年』
自己満足のための小説。(柿内)
『P.O.V-Point of view-』
うーん、もうちょっと整理してもらわないと、作者本人以外の人は読めないと思います。(平林)
『世界が終わるその日まで』
時間軸上でのシーンの組み立てがわかりにくすぎます。(山中)
『ヴァレンナー それでも戦う決意は折れない』
日本語がかなり変。あと、お願いだからもう「第三次世界大戦」は勘弁して下さい。(平林)
『其の引鉄が、引けなくて』
この文体はちょっと失敗ではないでしょうか。(平林)
『親殺し』
なぜうちにヤクザモノを送ってきたのでしょうか。この内容ならせめて『殺し屋1』のような派手さが欲しかった。(山中)
『魔法少女もどき』
うーん、凡庸ですね。(平林)
『p://fake_』
ストーリーに無理がある。あとタイトルが「?」(竹村)
『天才WW外科医WW雨児W鳰WWWWW』
主人公の全部の台詞に草(www)を生やしてどうしようと思ったのでしょうか。(山中)
『彼女のお母さんが七一八歳だった件について』
読んでいて、実にいたたまれない気持ちになりました。(平林)
『掃き溜めに呼び声』
プロットに沿ってキャラクターの表面部分だけが動いてる感じ。内面が全然みえてこないです。(岡村)
『リローデッド・ライフ』
最初の主人公の登校シーン、冒頭が書けませんと告白しているようなものでは。(山中)
『比翼連理〜少女と魔術師と紅い瞳の女〜』
冒頭、記憶喪失の少女の挙動が薄っぺらすぎる。(山中)
『アリエル・ピンクのダーク★ダーク★ダークライト』
読み手を意識して作品を書いて欲しい。こんな突飛で支離滅裂な内容に我慢強く付き合ってくれる読者がいると思えません。(岡村)
『ランニング・メロル』
勉強したことを勉強したように書くのは宜しくないと思います。(平林)
『ソラノウタ』
奇想天外な設定を、読者を置き去りにして書いている。読んでいて全然頭に入ってこない。(岡村)
『X―GUN』
サスペンス部分はなかなか楽しく読ませていただきました。ただ、根っこの設定部分があまりにもゆるい! きちんと設定を練って飛躍して下さい。 期待しています!(平林)
『そらへ…』
導入部のドラマが期待していたより薄い。設定と世界観はマッチしてると思うので、脚本全体の盛り上げをもう少し考えた方がいいですね。(山中)
『秘めたる世界で夢見る要』
構成を複雑にし過ぎたせいで、可読性が落ちている。あと、「前章」って言葉、辞書で調べてみて下さい。(平林)
『あにめると』
こういう作品はまったく興ざめです。他社へどうぞ。(柿内)
『クランク・クライム』
作品に強度がない。スカスカ。送ってくるなら本腰入れて書いて下さい。(岡村)
『ロジック・オブ・ギャザリング』
ゲーム設定が甘すぎる。もしくは説明が足りてない。文章を読んでいて浮かんでくる疑問点が多すぎる。(岡村)
『古城のスピノザ』
物語の始まりに工夫がない。読者にイメージを想起させづらいファンタジーものならばなおさら必要。(岡村)
『ドッペルゲンガー』
「鏡の向こうの並行世界」なんてありきたりなモノを持ち出す以上、もう二捻りぐらいは必須でしょう。(山中)
『レダム―月下の人工天国―』
独自の世界過ぎて無理でした。(竹村)
『キャッチャーインザワールド』
文体に個性を感じたが、それ以外は読後に何も残らない。(岡村)
『神様はどこにいる?』
惜しい。キャラクターが薄味。もっと個性を前面に押し出して欲しい。次回作に期待。(岡村)
『超未来学校法人・決戦学園VER2』
世界設計がただ突飛なだけで、導入に完全に失敗している。(山中)
『替え魂師』
なんか……ものすごく………………古い!(平林)
『アリアドネの配列』
物語が破綻せず、最後まで書ききれているが、作風が全体的に古い。キャラクターももっと内面まで掘り下げないと魅力を感じない。(岡村)
『思いを遂げて覚める夢』
生霊、悪霊は共感できない。文章力は普通。(竹村)
『One Note―Distance』
あなたはこの文章を他人に読ませようというのか…… 。(平林)
『鉄血少女、迫撃砲、鉄兜』
どことなく打海文三さんの『裸者と裸者』っぽい作風ですが、カタルシスが足りない。ディテールの強度はあるので、もっと物語に起伏が欲しい。(岡村)
『ヒトクイコミュニケーション』
長い。冒頭からつまらない。あなたが面白いと思うものの「面白さ」を分析してみてください。(平林)
『成人式は荒らさない』
つまらなかった。(柿内)