第1回星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2011年1月24日@星海社会議室

早くも第1回星海社FICTIONS新人賞が決定! FICTIONの未来を担う快作現る! 『ブレイク君コア』小泉陽一朗

愛すべき第1回の投稿者・63人のバカ野郎たち──

第1回星海社FICTIONS新人賞、応募総数は64本! 僕はこれはなかなかにすごい数字だと思っていて、得体の知れない、何が飛び出すかまだ誰にもわからない新人賞によく応募してきてくれたなって思っています。応募者総数は、ひとりだけ2本投稿してきてくれた人がいるから全員で63人。この人たちは僕的には「愛すべきバカ野郎」です。感謝!

「愛すべきバカ野郎」(笑)。またいきなり誤解を呼びそうな発言ですね。

「普通」の投稿者の人はこういう感じの、未来しかないようなところには応募してこないと思うんですよ。でも、僕は「普通」の人は嫌いなので、馬鹿力を発揮してくれた「普通」じゃない人がこれだけの数いたんだと思うと、ただそれだけで嬉しいですね。本当にありがたいなって思っています。

メフィスト賞のDNAとは?

星海社FICTIONS新人賞は「全ての応募原稿を編集者が直接に読む」という特徴的なシステムを採用しているのですが、下敷きになっているのは僕の出身母体でもある講談社のメフィスト賞です。メフィスト賞は90年代後半からゼロ年代前半にかけては、紛れもなく日本文芸界最高の賞だったと思うんですよ。森博嗣もりひろしさんや西尾維新にしおいしんさんという超人気作家や、舞城王太郎まいじょうおうたろうさんや佐藤友哉さとうゆうやさんという三島賞作家も輩出し、高田崇史たかだたけふみさん・高里椎奈たかさとしいなさん・辻村深月つじむらみづきさんと、未だにめざましい活躍を続けている受賞者の名前を挙げ始めるときりがない。“あのころ”のメフィスト賞はまさに完璧な新人賞だったと思います。

同じくメフィスト賞受賞者の新堂冬樹しんどうふゆきさんなんか、作家活動に止まらず、プロデュースした虫が戦うDVDも大ヒットで。

世界最強虫王決定戦!

新堂さんはなんと芸能事務所まで経営なさっているから本当に多才な方だよね(笑)。さて、さきほどお話ししたように、僕はそのメフィスト賞を運営していた講談社の文芸図書第三出版部(通称・文三)にまさに“あのころ”在籍していたんです。当時は、新本格ミステリの生みの親でもある伝説的編集者・宇山日出臣うやまひでおみさんが部長を務めていました。メフィスト賞は『メフィスト』という雑誌を主体に宇山さんが立ち上げた賞なんだけど、宇山さんが既存の新人賞の選考システムに対してもっとも疑問を持っていた点が「下読み」を通過した投稿作品を「選考委員」が最終選考する──という、まさに新人賞システムの根幹の部分だったんですね。

今でも一般的な新人賞は、大抵そういうシステムですよね。

そうです。でも、そんな新人賞の「下読み」って、評論家の人やライターさん、あとは新人賞を受賞して間もない書き手の人たちが担当することがほとんどなんですよ。その人たちに投稿作をポンと投げちゃう。編集者は直接原稿を読まない。それで彼らを通して2回くらい下選考(下読み選考)をやって、十数本に作品数が絞られた段階になって初めて、良さそうなものがあったら編集者もようやく読んでみる、みたいな。で、最終的には選考委員の作家さんに任せる。でも、宇山さんはそこに疑問を持ったわけです。

というと?

既存の新人賞の、小説を「書く」プロであるはずの作家さんに選考を任せっきりで、小説を「読む」プロであるはずの編集者が選考に関わらないという姿勢が我慢できなかったんじゃないかな。そういった宇山さんの思いを最終的に後押ししたのが、京極夏彦きょうごくなつひこさんの登場だったんです。

デビュー作の『姑獲鳥うぶめの夏』ですね。

そう、京極さんのデビュー作になった『姑獲鳥の夏』は、ある日編集部までかかってきた一本の電話から始まった持ち込みの原稿だったんですよ。ご存じのように、『姑獲鳥の夏』は、既存の新人賞のシステムでは受け付けられない膨大な枚数、そして賛否両論が渦巻く鋭く尖った方向性を持った、とんでもない作品だった。通常の下読み選考による新人賞ならば、そこで落とされていたかもしれない。

その可能性はあるでしょうね。

京極さんの破格のデビューの成功によって、「野に遺賢いけんあり」というムードが盛り上がって、メフィスト賞にゴーサインが出たんです。メフィスト賞のシステムにおいては、応募原稿は全て編集者が読む。僕はそれが一番面白いところだと思っています。当時の文三が「最強の編集部」たり得たのも、編集者が多数の生原稿と日常的に接して、ゼロから格闘していたからというのが大きいと思う。

確かに、今回の選考を通じて編集者としてずいぶんと鍛えられた気がします。

年末年始、ずっとKindleで原稿を読んでましたもんねえ

この世に数多の編集部があれど、生原稿とゼロから格闘している編集部・編集者は本当に少ないと思う。投稿者からの生原稿を読むということは、これはふだんの「原稿を読む」のとは違って、目垢の付いていない新しいものを最初に読むってことなんですよ。「初物うぶもの」を読むことによって、編集者は鍛えられていくんです。苦しいよ、他人の評価が一切ないものを自分が最初に評価するのって。それに、当然のことだけど、自分が推した作品については、責任を持って担当していかなきゃいけないし。初値をつける人が一番度胸が要るんです。そして、“あのころ”の文三はその格闘を真剣にやっていたからこそ「最強の編集部」たり得ていたんだと思う。

星海社FICTIONS新人賞は、そのメフィスト賞のDNAを受け継いだ賞にしていく、ということですね。

そういうことです!

「世界最高の賞金額」の思想

今回の星海社FICTIONS新人賞では、下敷きとしているメフィスト賞のシステムを借りながら、新しい仕組みも入っています。

世界最高の賞金額を目指す、ですね?

現時点ではゼロだけどね(笑)。

この選考座談会で初めて知る人もいるかもしれないからくわしく説明しましょう。星海社FICTIONS新人賞では、レーベルの全売り上げ額の1%を賞金額に充てます。そして、その年内に受賞した人の人数で賞金総額を割って、賞金を授与します。

星海社FICTIONSの売り上げ次第では、とんでもない賞金額になりますね。10億円売り上げて受賞者がひとりだったら1000万円。うまい棒が実に100万本も買える! 100万本って、言うのは簡単だけど食べるのは結構しんどいよ。

なんでうまい棒換算なんですか!

うちの編集はみんなうまい棒好きすぎだよ!

えー、うまい棒はともかくとして、星海社FICTIONS新人賞の基本にあるのは、読者と一緒にこの新人賞を育てていきたい、という思いだね。それを物心両面で表す方法として、売り上げの1%を賞金額とするという前代未聞のアイデアを形にしたわけです。だからこその、「目指せ、世界最高の賞金額。」という過激な謳い文句。もちろん、文字通りのそういった気持ちもあるけれど、たとえ結果としてひとり当たりの賞金額が5万円とか10万円であったとしても、貰った新人は心から嬉しいと思うんですよ。既存の賞って、「編集部から賞金をあげる」って感じがどうしてもするけれど、それが僕にはどうにもピンと来ないんだ。メフィスト賞は賞金がゼロで、賞自体に対する宣伝を一度もやったことがなかった。宇山さんは「賞金や宣伝が応募作の質を担保するものじゃない」ってよく仰っていて、実際に宇山さんの言葉どおり、メフィスト賞には破格の才能が次々に集まった。だから僕はよく新人賞の募集要項に載っている「賞金額100万円!」みたいな謳い文句がよくわからないんだよ。

賞金額で釣ってるみたいな感じがする?

いや、そうじゃなくって、賞の主体の問題として、「編集部からあげる」っていう感じなのが。編集者が自分たちの給料から拠出してるならともかくあ、それ、面白いから今度やってみる?

一同 (苦笑)

(憤って)えーっ、何なの、この乾いた笑いは! 俺ならやるよ!! やろうよ!!!

1000円くらいなら(笑)。

2年で僕を越えようという男がなんと情けない! うーん、まあね、たとえ1000円でも、自分たちが直接出してる賞金なら編集者はドヤ顔でいいと思うんだよ。でも、大本のお金って読者のお金なわけじゃないですか。読者が本を買ってくれて、儲かったお金で作家さんと出版界の人たちがそろってご飯を食べて、余ったお金で次の新しい才能に投資する。新人賞の賞金が元は読者のお金なんだっていうことは、ちゃんと声を大にして言うべきだと僕は思う。レーベルを立ち上げるということは、レーベルの作家を打ち出すということだし、レーベルの読者を創っていくということ。そしてレーベルの読者を創ることができれば、レーベルの作家をより打ち出しやすくなる。今回は、そんなサイクルを可視化するという意味でもこういったシステムを採ろうと思うんだ。だから星海社FICTIONSの読者の人もある種ファンドを買っているような意識で、全員が一丸となって新しい才能を育てるんだと思ってもらえたら嬉しいね。僕らが次々に良い才能を掬い上げることができたら、それらの才能たちの作品に触れることのできる読者がいちばん得をするわけだからね。

Twitterで「定価を上げて賞金を捻出するんじゃないか」なんて言ってる人がいますけど。

世の中には下品な考えの人もいるものだねえ。自分の惨めな人生観を他人に当てはめるのはいいかげんにせーよっていいたい。星海社FICTIONS新人賞は、金銭的には僕たちが最初に一番損をしてそして最後には一番得をする新人賞に必ずなる。いい才能を見つけることができさえすれば、1%の負荷など何の問題もない。僕はあくまでも理想を追い求めたいし、こんな賞だからこそ、「我こそは!」と思って応募してくれる人たちの中に未来の才能の原石がいるに違いない、そう思っています!

緊張感ある真剣勝負を!

さて、ここからいよいよ選考に入っていくんですが、編集部のみんなにひとつ提案があって

なんでしょう?

メフィスト賞の座談会では編集者はイニシャルで登場していたんですよ。実は、僕はこれがちょっと残念でね。以前、京極さんのお師匠さんでもある明石散人さんから「今後の選考座談会はイニシャルを止めて実名でいけ!」、と直々にアドバイスされたこともあって、後に僕が講談社BOXで新人賞を始めるときにも「編集者の実名を出したいなー」って話をしたんだけど、記名制をためらう人が編集部に何人かいたせいでニックネームで登場することにしたんだよね。今回はどうしますか?

記名でいいんじゃないですか?

記名にしましょう。

記名じゃないなら星海社やめますよ。

編集者記名制にするのは、メリットもデメリットもありますよ?

2ちゃんねるの暇な人たちに色々書かれたり(笑)。

「やたら生意気な『Y』ってやつ、こいつは全く読み方が分かってない!」ってTwitterで粘着されるとかね

それ、Y君はいずれ絶対に言われるだろうなぁ目に浮かぶよ(笑)!

投稿者との応酬がとぅぎゃられたりとかね!

でもまあ、僕たち普段から名前出して星海社の仕事をやってますからね。

Twitterとかブログとかね。

本の奥付にも実名が入っているしね。しかし、いいねえー、これは完璧に新しいよ。まさに未来の出版社たる星海社ならではのチャレンジで、他社ではまず100%、できないことだね。じゃあ、一歩踏み出しますか? ここからは記名制でいきましょう!!

太田 さあ、名前もすっきりしたことだし、張り切っていきましょう。ちなみに僕はJです。

柿内 Kです。カッキーと呼ばれています。名前は芳文なので、KYです(笑)。

平林 Hです。苗字はほとんど認識されてない気がしますけど

山中 Yです。太田を2Yearsで越えるYです。

太田 えー、晴れてここからは実名でいくわけですけど、僕は基本的に、「本当に」そう思っているのならば、編集者は選考の俎上に載っている投稿者や投稿作品に対してどんなにきついことを言ってもかまわないと思っています。僕たちはプロの編集者として投稿者の人たちに才能があるかないか、見極める力が己にあるんだと信じて新人賞を運営して、それでご飯を食べているんだからね。

山中 まだまだヒヨッコの僕も、そこに責任は負わないといけないですね。まぁそれでなくても普段から偉そうで太田さんから叱られてるんですけど(笑)。

太田 偉そうな人は本当に偉くなってしまえば何の問題もなくなるんだから、一日も早く偉くなってね(笑)。それにね、投稿者の人たちは僕たちの言葉に対してまっとうに反論ができるんです。

平林 別の賞に応募するとか。

太田 そうそう。たとえばカッキーが酷評した人でも、その後よその賞に出して賞を獲って人気作家になれば、カッキーをフェアに見返すことが出来るんですよ。

柿内 なんで僕がそんな例に(泣)。

太田 「僕が読んだ時点では彼はまだまだだった」って言い訳ももちろんできるけど、バツの悪いものだと思いますよ、僕は経験ないけどね(笑)。

山中 あ、今太田さんの目が邪悪だった!

太田 まあ、僕たちをそんなふうにフェアに見返すこともできるわけだし、もっとフェアに見返すのをお好みならば、もう一度僕たちのところに投稿してきて、今度こそ僕たちを唸らせるという方法もある。実際、メフィスト賞においては舞城さんや西尾さんはそうでしたからね。斯様に、投稿者は僕たちに対しては反論が可能なので、愛がありさえすれば僕たち編集者は投稿者に対していくらきついことを言っても構わない。ただ、僕らは僕らで選評を広く世間に読まれているという意識をちゃんと持たないといけないけどね。僕のファウスト賞の選評なんて、ずっとネットに残ってるからね(と、暗い目に)。

山中 ああ、この間ネットで評判になってて読みました。あれは太田さん、カッ飛ばしすぎでしょう。

太田 あのページ、半年に1回くらいのペースでどこかで編集部や編集者が問題を起こすたびに2ちゃんねるに貼られるんだよなぁ。こないだは「この編集者には文才がある!」なんて騒がれてたりしてちょっぴり嬉しかったりしたけれど(苦笑)。まあ、この座談会は『最前線』を通じて完全公開されるので、僕たちもまた投稿者同様に才能を試されるわけです。緊張感を持って、真剣勝負していこうぜ!

伝奇小説は資料が命!

太田 記念すべきトップバッターは『非時いちじくの香り』。これを読んだのは?

平林 僕です。キャッチフレーズは「不老不死の霊薬を巡る本格伝奇バトル」。

太田 タイトルからもそんな匂いがするよね。話はどんな感じですか?

平林 霊薬の鍵を握る女の子を護って、主人公がいろんな敵とバトルしていくというお話です。徐福じょふく伝説なんかが下敷きになってる。

太田 23歳でそのモチーフを採用するのは珍しいね。 

平林 わりと中国的なモチーフを多用しています。小説として一応は成り立っているんですが、資料の読み込みが絶対的に足りない感じ。全体的に引用元が浅すぎる。

太田 今回、編集者個人の得意分野を考慮して僕が原稿を割り振ったから、平林さんっぽい原稿は平林さんに振ったんだけど、こういうマイナス点もあるよね。僕にも経験があるけれど、編集者が得意なジャンルだからこそ、点が辛くなる。

平林 わかります! でもやっぱり、この作品の場合だと、引用されている文献なんかを第一線の伝奇小説と比べてみると、僕でなくてもしんどいかなー、と。

太田 若い人がデビューするときには必ず言うことなんだけれど、専門的なジャンル小説に必要な資料は、大学レベルではなくて、大学院生レベルの資料に当たって読んでみて欲しい。昔とは違って今は多くの人が大学に進学するし、本をよく読む人の知的レベルも高い。そんな人たちが知らないものを書かないと、専門的なジャンル小説を成立させることは厳しいんじゃないかな。逆に、ある一線を超えてしまえば誰もが読んで感心してくれるんだけどね。

平林 そうなんです。この小説も、誰もが読んでいないような資料をひとつでもいいから勉強してから書いておけば、それなりに箔がついて見えたと思うんですね。それがなくて、『山海経せんがいきょう』レベルで止まってしまったのが敗因かな、と。

太田 『山海経』止まりか、それだけだと歴史小説の装飾としてはちょっぴりきついかもね。この人が大学生ならば、これからはぜひ院生が行くような書架にまで足を運んで、資料を漁って欲しいね。

詩人、現わる!

太田 次の作品は『小林秀雄』。

山中 えっ、著者名じゃないんですかこれ!

平林 小林秀雄の未発表原稿が送られてくるわけないだろ! アホか!

柿内 僕が担当しました。年齢性別未記入。おそらく、相当高齢の方だと思います。その証拠に、文章が現代仮名遣いじゃないんですよね。

太田 いやー、ヤバいなぁ! 僕、昔、すべてが五七調で書かれた投稿作を読んだことがあるけどね。あれに比べれば全然マシなんじゃない?

柿内 文章は非常にシテキです。

太田 シテキってポエミーってこと?

柿内 そうです。スイスの風景とかが詩的な文体で美しく描写されているんですが

太田 あれ、小林秀雄ってスイスに留学なんてしてたっけ? 仏文の人でしょ?

柿内 いや、この文章そのものが、小林じゃなくって作者自身の日記みたいなものなんですよ。

太田 ああー、詩的ポエミーであり私的プライベートってことね(笑)。

山中 手記なんですか?

柿内 手記というか、私小説というか。ただ本当に文章はいいんです。ちょっと読みます。「砂漠砂漠だつた。静かな、静かな。正に砂漠の様だつた。いや、砂漠だつた、熱沙、灼熱の。そして、静かな」こんな感じです。

平林 ちょっと偏屈でいいじゃないですか。嫌いじゃないです。

柿内 個人的な趣味としては僕もそんな感じかな。文体は全体的にこんな感じで、非常に味のある文章なんですけど、ちょっと、というかぜんぜん、星海社のスタイルには合っていない。

太田 別の賞のほうがいいだろうね。じゃあどこの賞が向いてるんだって聞かれたら困るけどさ(笑)。

柿内 星海社からいちばん遠いところにある原稿ですけど、インパクトはありました。

太田 残念! うーん、どうしてうちの賞を選んだんだろうね。ミスマッチはなるべく減らしていきたいね。

3600枚の歴史巨編!

太田 次はいよいよ今回の“ヤバさナンバーワン”原稿が来ましたね! 担当は平林さん!

平林 はい、怒濤の3600枚! 『新最上記しんさいじょうき』です。

太田 あ、「サイジョウキ」って読むんだ。

山中 「モガミキ」じゃないんですか?

平林 原稿にルビはないんですが、『最上記さいじょうき』という資料がありまして、それを前提にして書いているはずなので、恐らくこの読みで正解なのではないか、と。

柿内 (机に積まれた原稿を見ながら)それにしても分厚い!

平林 実に、18cmあります。

柿内 すごい! 僕、きのう結婚を発表した女優の国分佐智子こくぶさちこさんに失恋したばかりなんですけど、新しい恋を見つけるために今日さっそく買ってきた『ゼクシィ』(出版界一厚い雑誌として有名)と比較してみましょうか?

太田 Twitterに「あとは出会うだけだったのに。出会う前の別れがこんなにもつらいことだとは」という衝撃の名言を残したカッキーの失恋話(笑)。しかしこの原稿の量はすごいよ。僕も初めて見るなあ

平林 400字詰め原稿用紙換算で、3600枚。段ボール1箱分ですね。

柿内 プリンターで一気に印刷できないよな。キンコーズとかに行ったのかな?

太田 書くのに3年はかかったんじゃないかな?

柿内 作者はどういう人なの?

平林 31歳の女性で、会社員です。

太田 うーん、20代後半からの数年を費やしてこの作品を書いたんだ。漢だなー。あ、ペンネームも漢っぽくてすばらしい。萌えるね~。

平林 内容に入ります。これは、戦国大名・最上義光もがみよしあきの生涯を描いた歴史小説です。3600枚に及ぶ、義光の一代記ですね。世間的には「伊達だて政宗まさむねのおじさん」というイメージがかろうじてあるくらいのマイナーな義光が主人公に据えられている上に、1行目が「氏家守棟うじいえもりむねが襖を開けると」っていう始まり(笑)。

太田 氏家守棟!(爆笑)。マイナーすぎる!

平林 僕は歴史物には目がないので、3600枚堪能させていただきました。結論から言うと、歴史小説としては甘いところも多いんです。でもタイトルの元になった『最上記』や『奥羽永慶軍記おううえいけいぐんき』など、改易されて資料の少ない最上氏に関する乏しい資料をちゃんと参照している。

太田 それは偉いね。

平林 義光と彼の3人の奥さんとのエピソードが細やかな筆致で描かれていたりして、そこはなかなか良かったです。でも、本筋と離れて関ヶ原の話を長々とやっちゃったりしているところはいただけない。

太田 それはダメなんじゃないの? だって最上家は、関ヶ原のときは、ねえ?

(と、しばし熱い歴史談義が続く

平林 そうなんです。なんだけど、なぜか途中で石田三成いしだみつなりが主人公の「関ヶ原編」が何百枚か挟まっている(笑)。

太田 なんでやねん!(笑)。 いや、「何百枚」って言ったところで、全体の3600枚の中ではしょせん些事にすぎないのか?(笑)。

平林 その「関ヶ原編」も司馬遼太郎しばりょうたろうの『関ヶ原』に比べると明らかに見劣りするし、ここは不要でした。

太田 厳しいねえー。

平林 それから、せっかく良い資料を読んでいるのに、キャラクター像がネットに影響されすぎています。義光の常軌を逸した鮭好きとか、伊達政宗をDQNとして描いてみたり。ネット上の歴史クラスタの間で作られたキャラクター像から、もう一ひねりして欲しかった。ここに書き手としての独創性がない。資料の活用のしかたは少し意識的に変えた方がいいと思います。

太田 あと、3600枚はやっぱり商品にならないよ。単行本10冊分に及ぶ新人の原稿なんて、正直扱いようがない。

平林 新人は山岡荘八や池波正太郎とは違いますからね。

太田 今、「最上義光」を主人公にして編集者が10冊分の原稿を頼みにいける作家なんてほとんどいないぜ。あえて言うなら、北方謙三きたかたけんぞうさんくらいじゃないかな? それにさ、全国の最上ファンを敵に回してしまいそうな発言だけど、北方さんにお願いするのなら、もっと大きな題材で書いて欲しいじゃん。

山中 確かに(笑)。

太田 この人、書くものは悪くないわけじゃない? だから、もうちょっとねぇ

平林 今回は冗長な部分も多かったので、次は別のネタで、300枚とか350枚くらいの枚数のものを読んでみたいですね。

太田 これは太田の個人的な欲望だけど、歴史小説をこれから書くのならば、宮下英樹みやしたひできさんの傑作歴史漫画『センゴク』みたいに、読者があっと驚くような新説や新しい歴史キャラクター像を描いて欲しい。歴史小説にはふたつパターンがあって、ひとつは「誰もが知っている人を、誰もが見たことがない描き方で書く」書き方。もうひとつは「誰もが知らなかった人を、誰もが知るほどに有名にする」書き方。司馬遼太郎はその両方ができた人で、前者の代表的な作品は斉藤道三さいとうどうさんが持っていた「極悪人」イメージを覆した『国盗り物語』。後者の代表が、誰もが知らなかった坂本竜馬さかもとりょうまを一躍大スターにした『竜馬がゆく』。今の平林さんの話を聞いていると、この人は今のところそのどちらもできていないような気がするなあ。

平林 どちらかといえば後者、なのかなぁ。

太田 そうねぇ。ちょっと、300枚くらいで、さっきの僕の話のどちらかを意識して小説を書いてほしいなぁ。投稿者の人にはデビューしたらたった今自分が書いている原稿が「商品」になるんだと自覚して書いてほしい。

平林 基本的に僕はこの人の書くものが嫌いではないです。今回、3600枚最後まできっちり読ませていただきましたし、次回もし送っていただけるならば、責任を持ってじっくり読ませていただきます!

一同 おお~(拍手)。

平林 次をお待ちしております! でも、300枚くらいで!(笑)。

専門家、襲来!

太田 次は山中さん、『吹く風を心の友と』。

山中 これはすごいですよ! 読むと気象予報官になれる小説です!

一同 (爆笑)。

太田 山中さん、どういうことなの?(笑)。

山中 作者が気象予報官の方なんです。民間の会社に勤務する気象予報士が主人公で、ミステリ的な要素も入っている小説なんですが、気象予報士がどういう仕事かということについて、あまりにもくわしく書きすぎている(笑)。でも残念ながら、小説としてはダメでしたね。

太田 「気象予報官小説」ってある意味ですごく新しいんだけど、小説としてダメならダメだねえ。

平林 そう言えば、僕のところにも専門家が書いた原稿が1本ありました。

太田 なになに?

平林 作者は年金のプロです。タイトルは『年金美人』。

一同 (さらに爆笑!)。

平林 女性を主人公にした2時間ドラマってあるじゃないですか? ああいうもののフォーマットの中に、著者が今までに培ってきた年金に対する知識をぶち込んである。完全に悪魔合体です。

山中 『年金美人』ってホントにひどいタイトルだなぁ。読んだら年金に詳しくなりますか?

平林 いや、頭が痛くなります(笑)。いくらなんでも、ちょっと専門的過ぎる。

柿内 (原稿を見ながら)ちょっとこれはないね(苦笑)。

太田 (同じく原稿を見ながら)確かにこれはすごい。頭がヤラれそうになる!

平林 原稿を読んでいて、「この方はきっと半生を懸けて真剣に年金関係のお仕事を務め上げられたんだろうな」ってひしひしと感じたんです。でも、定年になって小説を書くときぐらい、そこから離れてもいいんじゃないかなって思うんですよ。

太田 人生にこだわっちゃったのかなぁ。

平林 専門家の方は知識の詳しさは申し分がないのに、その知識にこだわるあまり、小説として面白いものにしなきゃいけないという命題がおろそかになってる人が多い印象です。

太田 人生の大先輩に向かって、偉そうだねぇ。でもまあ両立は大事だよね。

応募原稿を電子書籍Readerで読むということ

太田 ちょっとこの辺で話しておきたいんだけど、実は僕、今回の選考ではほとんどぜんぶ紙で応募作品を読んだんですよ。Kindleで読んだ皆さんはどうだったんですか?

山中 Kindleバイアスは確実にあります。楽なんですね。

平林 僕は星海社唯一のSONY Reader使いですけど、やっぱりありますね。

柿内 Kindleで読んでから紙でもう一度読んだものがいくつかあるんですけど、Kindleで読んだときのほうが面白く感じたんですよね。ハードルが低くなるのかもしれない。

平林 文字組みのリーダビリティの問題じゃないかと思うんですよね。正直、プリントアウト原稿って読みにくい組みで印刷されたものが多いじゃないですか。それに比べると、今回山中君が作ってくれた電書端末用のPDFって組みがちゃんとしてる。

山中 (ドヤッ

太田 インクのかすれがあったり、可読性の低いフォントを使ったりしている応募者も多いからね。だから、さっきのカッキーみたいに、「Kindleで読んだほうが読める」って現象が起きる。ただ、そこにこそプリントアウトで送ってもらった理由があるんだよ。まず、我々プロの編集者は原稿に書き込みをしながら読み進めるわけじゃない? ただ文字を追っかけて読めばいいってわけじゃなくて、編集としての読み方ってものがあるわけじゃん。

柿内 もちろん、そこは紙のほうが断然上です。

太田 データの利便性はもちろんあるけどね。

平林 僕、プリントアウトのみだったら3600枚の『新最上記』を全部読み切れたかどうか疑問ですね。

太田 たしかに。ただ、ここは強調して言っておきたいんだけど、印字がちゃんとしている原稿は、中身もちゃんとしてるんですよ。

山中 性格が出る?

太田 いや、才能が出るんだよ! センスのいい人はセンスのある印字をしてくる。舞城さんの応募原稿なんて、ホント良かったよ。あの『煙か土か食い物』のフォントディレクションのイメージなんて、「応募原稿の再現」だったくらいだから。

平林 そんなに良かったんですか。

太田 舞城さんはビジュアルセンスもあるからね。応募原稿のMS明朝体の尖った感じが『煙か土か食い物』という小説にすごくマッチしてたっけ。と、まあ斯様に「編集者が投稿者の力を見る」ことと「編集者が己の力を発揮する」ことの両面において、プリントアウトは必須なんだよ。下読みを編集者以外が行うたいていの賞なら関係ないことかもしれないけどね。しかし、Kindle補正の話は、今までの編集者が直面したことのない問題だから、突っ込んで話しておきたいな。考えてみれば、電子書籍Readerでこれだけの応募原稿を読んだ編集部って、我々が世界初だと思うんだよ。

山中 絶対にそうでしょうね。

平林 もしかしたら、僕はSONY Readerで最も原稿を読んだ編集者かも知れない。今回、1万枚近く読んでますよ。

太田 Kindleならもっと読んでる人が海外にいるかもしれないけど、SONY Readerでならば世界一じゃない?

山中 「Readerで世界一原稿を読んだ男」(笑)。スゲー。

平林 SONYさんの取材、そろそろ来るんじゃないかなぁ(笑)。

太田 僕が昔、InDesign(アドビ社のDTPソフト)を使い始めたころに「太田さんは日本のInDesign使いの中で10本の指に入ります」って言われたことがあるんだけど、当時は日本でInDesignを使っている人間がそのくらいしかいなかったらしい(笑)。

山中 うちの編集部って奇跡的に全員電子書籍リーダーを持ってるじゃないですか。だから、格差的な意味で、編集部内でバイアスがかかることがないという意味ではフェアでしたよね。

柿内 まあ、星海社は出版業界の最前線だからね(ドヤ顔で)。

太田 そういうふうに色々と考えた上で、今後はどうしたらいいと思う? 紙とデータ、どっちで応募してもらうのがいいだろう。

山中 両方つけて欲しいです! データは欲しいです。今回特殊な形式の人も多かったので、テキスト形式で。

平林 先ほどからの話で言うと、センスを見るためにも書き込むためにも、プリントアウトは必須ですよね。

太田 そうなるとやっぱり両方かぁ。データの利便性は当然採りたいし、投稿者が紙という存在をどういうふうに捉えているのかも知りたい。書き込みの利便性の面でも紙は必要だしね。

平林 Readerはタッチパネルを採用しているんでメモ機能がありますけど、さまざまな面でまだまだ発展途上ですからね。今後には期待しているんですけど、現時点で紙がいらなくなるほどではないですから。

太田 うーん、それじゃ、今は過渡期的な状況ってことで、両方送ってもらうことにしようか。将来的にはわからないけど、当分の間はプリントアウトとテキスト形式のデータの両方を送ってもらう、ということで。投稿者には少し負担をかけてしまうことになるけど、それでも数ある新人賞の中から星海社FICTIONS新人賞を選んでくれる投稿者に期待しようと思います。

カッキーが涙した、美しい童話

太田 さて、ここからは最初に読んだ人が他の人に回した有望作の講評に移ります。こういった複数人での読みをなるべくじっくり、そしてたくさんやりたいので、投稿作が増えすぎないようにしないとね。まずは『見えない光と綺麗な世界』。これは全員が読んでいるんだけど、まず最初に読んだ山中さんからご紹介を。

山中 童話風の話ですね。盲目の女の子・ヒカリが主人公で、偶然出会った魔法使いに「綺麗なものだけが見える瞳」を与えてもらって視力を回復するのですが、成長するに従ってだんだんと周囲のものが見えなくなってしまう。唯一の肉親だった母親も病気で亡くなってしまって、最初は綺麗だと思えた世界の全てに少しずつ失望してしまうんですね。そんなヒカリの母親が世界一美しいといっていた「透き通る雪の花」を美しいものの拠り所としてヒカリが探しに行こうとするのですが、というお話です。

太田 みんなどう思った?

柿内 執事の名前が「太田」で、その時点でもう(爆笑)。

山中 いい話なのにいきなりそこですか。

太田 そこかよ! っていうかそれって、僕を意識してるのかねえ?

柿内 明らかにそうでしょう。そうとしか考えられない!

太田 どうなんだろう。次の応募作で、「柿内」ってキャラが出てきたらどうするよ?

柿内 (両手を広げて)ウェルカム!

山中 じゃあ、キャラ設定は「失恋したばかりの男」として(笑)。

柿内 きついなあ。10年越しの本気の恋だったのに(遠い目)。

太田 山中さんは、内容についてはどうだったの?

山中 かなり面白かったと思うんですよ。主人公の女の子がとても醜い魔法使いに、「綺麗なものだけが見える瞳」をもらうっていうアイデアも、実は魔法使いが「醜い存在である自分のことだけは見て欲しくない」と思っているっていうことの裏返しとして描かれているし、心温まる童話になっている。「だいじょうぶだよ。この世界は、綺麗なものであふれているから」っていう印象的な台詞が上手く最初と最後で使われているのも良かった。

太田 なるほどね。平林さんはどうですか?

平林 ちょっと辛くなっちゃうんですけど、こういうものを読むと、最初に思い浮かべるのってどう考えても紅玉こうぎょくいづきさんじゃないですか。そうすると比較せざるを得ないわけです。

山中 僕も最初読んだときぱっと紅玉さんが浮かんだんですよね。

平林 で、諸々の条件を無視して乱暴に比較するとやっぱり明らかに劣っている。例えば、摑みの部分。紅玉さんがデビューされた時は「人喰い」っていう、すごくそそるキーワードがあった。じゃあ、このお話の場合どうなの? って考えると、難しいですよね。

太田 なるほどねー。

平林 話としては良くまとまってると思うんです。でも、こういう童話風のお話を、本来の読者層と異なる人たちに向けて、どうやって商品として売るかということを考えた時に、どうしても地味なんですよ。ここは些細なように見えて、実は絶対的な欠点なんじゃないかという気がします。

太田 また辛口だねぇ。カッキーはどうだったの?

柿内 いや、良かったですよ。実はこういうのに弱いんで、何気にちょっと泣いたんです。

太田 えええーっ!(驚)。意外すぎるよー。

平林 また、そういうところでポイントを稼ごうとして(笑)。

柿内 僕、ホントに泣くんです!

太田 うーん、美しいなあ。カッキーの心をグラリと揺らしたんですね、柿にたとえるなら、いくつ落ちるくらい揺れたの?

柿内 ジャスト“2玉”くらいですかね。

一同 少ないじゃん!(爆笑)。

柿内 ちなみに『スター・ウォーズ エピソード1』のR2-D2とC-3POが初めて出会うシーンでは100玉くらい落ちました。『ニュー・シネマ パラダイス』のラストは1000玉くらい。僕は王道の展開に弱いんですよね。

太田 なるほどねー。ところで、これ、ちょっと長すぎない?

山中 原稿枚数は300枚きっかりですね。

太田 いや、絶対値じゃなくて、相対的に長いと思うんだよ。正直、この内容だったらせいぜい100枚くらいで書いて欲しい。話にはこれといった起伏がないじゃない? 世界が危機に瀕しているわけでもないしさ。300枚読んでも、その枚数に見合うカタルシスがないんだよ。

山中 そう言われると、確かにカタルシスの点ではちょっと弱いか

平林 あと、世界設定が非常にいいかげんなんですよ。

柿内 僕もそこは気になった。「雑誌のライター」とか「ホームページの管理人」なんて人たちが出てきて、「あれ? これは今現在の話なの?」ってなる。

太田 なのに「執事」とか出てきてね。

柿内 しかも「太田」って名前の(笑)。冒頭からいつの時代なのかぼかした書き方をしていたのに、「雑誌のライター」と「ホームページの管理人」が出てきて一気に現実に引き戻された。ここは不要でしたね。

太田 これ、100枚ぐらいだったらいいと思うんだよ。新人に『ファウスト』で100枚書いてくれって言って、これが返ってきたら「いい!」っていうレベルの原稿なんだよね。でも、300枚のこれがこの人のデビュー作ってことになると、この人の今後にとっても良くないと思うんだよ。才能のある人であればなおのこと、これでは弱い。でも、読んでいて思わず二重丸をつけた箇所もあったし、この人は才能はあると思う。次も是非送って欲しいと思うんだけど、どう?

山中 そうですね、是非ってことで! 僕は待ってますよ!

柿内 「柿内」、もしくは「カッキー」って名前のキャラクターもよろしくね(笑)!

あらすじのほうが面白い

太田 次はカッキーが回した『COCOON』。

山中 これ、長くてつらかった。

平林 正直、僕もそう感じましたね。かなり苦痛でした。

柿内 架空の共和国が舞台で、その国を支配していた独裁者が実の娘(姫様)によって殺されてしまうんですが、そのことによって国内が余計に乱れてしまう。独裁時代のほうが幸せだったという価値観が広がるなかで、父親を殺した姫様が「自分のしたことは誤りだったのではないか」という葛藤を抱えつつ、混乱の世にはびこる悪を倒す旅に出て、そこに、姫様にあこがれる「自称正義の味方」の少女が登場。さて、ふたりのオンナの人生はどこでどう交わるのか? って話です。

太田 さすがカッキーは名編集者だな。すばらしい内容紹介でびっくりした。でもこの作品って、カッキーのあらすじで聞くと面白そうなんだけど、やっぱり読むと長いんだよな。

柿内 それは否定しません。まさにさっきのKindle補正の当てはまる原稿で、Kindleで読んだから最後まで読めたんじゃないかという気もするんですよね。ただ、途中からはぐっと面白くなる。ところどころに寒いギャグがあって、白けるシーンもあるけど、親殺しの姫様と自称正義の味方このふたりの掛け合いが生きてくる中盤からは、ぐいぐい読めました。

太田 『COCOON』ってタイトルと中身が一致しなくないですか?

柿内 そこは取って付けたような感じですね。

平林 さっきの話じゃないんですが、この人はプリントアウトの仕方も良くないと思うんです。文頭の一角サゲが殆どないんですよ。はじめはひとつずつ書き込んでたんですが、あまりに多すぎるんで数ページで意識が飛びそうになりました。書き手としてこの神経は信じられない! 信じられないよ!(怒りに震えながら)

山中 えーっ、そんなに気になりました? 僕はKindleで読んだからかなぁ。

平林 それもKindle補正だよ! エクスクラメーションマークのあとの一角アキとか、基本的な文章作法を守る気がまるでない人なんですよ、この人は。読んでて苛々しました。

太田 まあ、カッキーの要約のほうが面白いという時点で厳しいよね(苦笑)。あと、年齢の割にはセンスがちょっと古いかも。

平林 ドリフや『北斗の拳』ネタがでてきますけど、この年齢ではリアルタイムで観てるわけないですからね。

柿内 そこは僕もおかしいと思いました。

太田 無理にライトノベルっぽくする必要はないよ。女の子を書くのも下手だから、ライトノベルのフィールドでの勝負は向いてない。現代的なセンスを身につけつつ、文章をもっと短く刈り込んでいくって感じかな。

冒頭50枚で摑みを!

太田 次は平林さん、『黄色い罪の向こうの国』。

平林 これは児童文学ですね。一応みんなに回したんですが、正直イチオシではないんです。割り当ての中では一番良かったという理由で上げました。

太田 児童文学っぽいよね。

平林 微妙に虐待されている母子家庭の女の子が主人公です。女の子は毎週日曜日はお母さんが帰ってくるまで押し入れに閉じ込められてすごしているんですが、比較対象がなくて自分のことが不幸だと思っていない。その子がある日、押し入れの中で他人には見えない鼻の長い少年と出会う。その少年はまっ黄色で何もない国から来た鼻長人で、その出会いを皮切りに、母親や友人、鼻長人の世界・オーショクを巻き込んだ大きな物語になっていく、というお話です。構造的にはシンプルな往還型のファンタジーですね。

太田 「行きて帰りし物語」ね。

平林 ただ、あまりにもまっとうな児童文学なので、星海社とは合わないとも思ったんですよ。

太田 どこなら合うと思う?

平林 うーん、『童話物語』のような大部のものが出版されて受け入れられた例もあるので、総合出版社なら可能性はゼロではないかな、とは思います。

山中 僕はこの物語には感情移入できなかったなぁ。

太田 根本的な突っ込みになるけれど、これ、なんで「鼻長人」なの?

平林 その辺が甘いんですよ。ファンタジーの必然性みたいな部分に関してはもうちょっと突っ込んで考えてもいいと思いました。佐藤さとるさんの作品だって、やっぱり日本ならではの必然性があるファンタジーであるからこそ名作たりえているわけで。

太田 名詞のセンスとかもそうだよね。「鼻長人」とか「オーショク」とか。ファンタジーならではのときめきがない。

平林 話は読ませるんですけどね。友人のボーイッシュな女の子とか、なかなかよく書けている。僕は児童文学が好きなので、新しい書き手には期待したい。

太田 じゃあ、次に書いてもらうとしたら、どんなものがいいかな?

平林 短いほうがいいですね。まず800枚は長すぎる。ちょっと書き込みすぎで、この内容なら400枚くらいにして欲しい。

太田 何度も話題になるけど、やっぱり長いものは商品として見ると苦しいよね。

山中 長い分展開が遅くて、冒頭がキャッチーじゃなくなってるんですよね。これは他の作品にも言えることですけど、冒頭で引き込まれるものがないと読み疲れちゃう。

平林 冒頭50枚くらいでしっかりした摑みがないと苦しいよね。

太田 新人さんによく言うのが、「自分を映画監督だと思ってくれ」ってこと。新人の映画監督の作品で、上映時間が4時間を超えるものなんてありえないじゃない? 3時間のデビュー作で成功した映画監督だってほとんど皆無だよ。個人的には、僕は、映画は100〜120分くらいが適切な上映時間だと思ってる。そういう意味では、総量としては、300から350枚くらいで。そして何よりも、映画で言うところの最初の10分にあたる部分がつまらなかったらダメだよね。

柿内 やっぱり冒頭で引き込んでもらわないと。ヤン・デ・ボンの『スピード』は初監督作品だったけど、いきなり摑みからヤラれました。僕も太田さんも大好きなクリストファー・ノーランの『ダークナイト』も、冒頭10分、いや5分でその世界に引きずり込まれる。小説でもそういうことをやって欲しいですね。

太田 ペース配分でいうと、350枚の小説は120分の映画に相当すると考えられる。よって、冒頭の30枚が最初の10分に相当すると考えると、新人監督の映画ならば10分つまらないシーンが続いたら映画館から出るか寝るかの二択だよ。

山中 人の時間を使っていることを考えないといけない。

太田 そう。巨匠ならそれも許されるんだけど、新人はそうじゃないからね。応募作品はあなたの「作品」であると同時に、「商品」になるんだということも考えて欲しい。もっと最初の30枚でエンジンを限界までふかして欲しい。せっかくのデビュー作なんだしね。

平林 あとは、これだとあまりにもまっとうな児童文学すぎて、他のパッケージングが出来ない。次ももし星海社に送ってくれるなら、パッケージングのことも考えて、「大人も対象読者になる児童文学」に挑戦して欲しいです。

太田 真の意味で優れた児童文学は読者の年齢を選ばないしね。

平林イチオシの青春小説

太田 次は『Spiral Fiction Notes』。

山中 僕が最初に読みました。タイトルがいいですね。

平林 この人、ペンネームも年齢も電話番号も、何も書いてないんですよ!

太田 ちゃんとしてよー、連絡できないじゃん!

山中 ホント、ちゃんとして欲しい。封筒に書いてあった住所と本名だけしか分からない。

平林 僕のプロファイリングによると、この人は僕と同い年ですね。

太田 なんで?

平林 主人公とその彼女が昭和57年生まれなんですが、書かれている世相も僕が体験してきたことに非常に近い。ちょっと人生を追体験しているような気分で読みました。

山中 「333ノテッペンカラトビウツレ」とか?

平林 『わたしは真悟』はもっと古いよ! どんだけ年寄り扱いするんだよ!

太田 それはユヤタン経由なんじゃない?

柿内 スマパン(米国のバンド、The Smashing Pumpkins)が出てくるところとか?

平林 まさにそうです。さすが柿内さん、分かってらっしゃる。

山中 ちょっとその辺、音楽の趣味が悪い意味で露見しすぎかな、と思ったんですが。

平林 いや、「自分の好きなものだから出す」という書き方じゃないよこれは。小説としての必然性があって面白ければ、いくら自分の趣味が出ててもいいと僕は思う。

太田 これはこの人なりの純文学なんだと思うよ。ダメな小説かダメじゃない小説かで言ったら、ダメじゃない小説。いい小説なんです。でも、今日は自分でも嫌になりながら、あえて何度も言うんだけど、商品にするのは辛い! ともかくさあ、1章はなんでこうなったの!?

山中 1章はほんとに意味不明な幻想小説みたいになってるんですよね。大友克洋さんの『AKIRA』みたいな異能バトルをやってるところにマツケンが出てきてマツケンサンバを踊ったり

柿内 危うくそこで読むのを投げちゃうところだったよ。「マツケンとその眷属けんぞく」ってなんだよ(笑)!

平林 ほんと、最初に最後まで読んだ山中君は偉いよ。でも、2章からは少年と姉妹を巡る、ちゃんとした小説になってるんですよね。田舎の若者が、すり減りながらも足搔き続けて東京を目指す。不幸な事故や事件に遭遇しつつも足搔き続ける姿が独特の文体で丁寧に描かれているし、最後は美しいシーンでしまっていて、いいと思いました。

太田 僕はあの『枯木灘かれきなだ』を思い浮かべながら読んだんだけど、この人自身はそういう先行作品が描いてきたものを、直接にではなくて、その後の世代の人がしてきた仕事を通じて間接的に受け取った世代の人なんじゃないかという気がした。

平林 僕は舞城さんに通じるものを感じたんですけど、『枯木灘』的なエッセンスを、舞城さん世代の作家を通じて受け取っているということなのかも知れないですね。

太田 主人公たちの地元が岡山で、そのあたりの風景が細かく描き込まれているんだけど、僕の地元もまさにこのあたりなんですよ。だから、作中でヌートリアが印象的なモチーフとして出てくるじゃない? これもすごく実感をもって伝わってきたりして。

山中 ヌートリアは印象的でしたね。思わず読みながらググってしまった。また可愛いんですよこれが。

柿内 僕は町田出身だから、ヌートリアはわからなかったです。

太田 キャラクターの岡山弁も完璧だし、たぶんこの人もネイティブ岡山人なんだと思うんだけど。でも、そういうふうに作品そのものが因数分解できちゃうのが僕にとっての弱点。舞城さん、佐藤さんのような一流の才能と仕事をして、こういう傾向の作品をたくさん作ってきたからこそ、点が辛くなる。

平林 僕が歴史ものに対して点が辛くなるようなものですか。

太田 そうなんだよ。好きなものに対しては厳しくなっちゃう。だから、ここは逆にみんなの意見を聞きたい。

平林 僕は今回、これがイチオシです。

山中 文体はこれが一番好みでした。

太田 なるほどねぇー。

柿内 この人は一度、川に落ちたら、もっと良くなるんじゃないでしょうか。

太田 えっ、どういうこと?

柿内 ちょっと自意識が前に出すぎています。読んでいて、著者の顔がちらついてしまいました。文体も、少し鼻につく。ただ、三人称で描かれる「世界」はいい。一人称でも同じような世界を描けるなら、つぎを読んでみたいです。 

太田 カッキーは詩人だなあ。

山中 僕は後半一人称にして、叙述トリックを使って書き直したらいいんじゃないかと思ったんですが。ふたりの姉妹がうまく入れ替われるんじゃないかって

平林 いや、それじゃあダメなんだよ。そもそも、この作品はまっとうな青春小説なんじゃないの?

(一同で侃々諤々の議論が続く)

平林 地方出身者にとって「東京」って、憧れの対象であると同時に憎しみの対象でもあるし、目指すことによって自分をどうしようもなくすり減らして不幸になってしまうことだってある。それでも、東京の重力から逃れられない魂の問題を扱った小説なんです。だから、この書き方で良かったんだと僕は思います。

太田 そうなんだよ、でもこの「上京」っていうテーマも僕が編集者として長年取り組んできたテーマのひとつなんだよ。だから点が辛くなってしまうのは避けられない。『ファウスト』でも「上京」をテーマに特集を組んだくらいだしね、ってわけで、僕はこの編集部の中で一番この作品について点が辛いと思うよ。散々やってきたからね。

平林 うーん

太田 応援はしてあげたいんだよ。正直、この人は純文学の新人賞だと受賞まではできないと思うし、ライトノベルには全くといっていいほど向いていない。

山中 出せる賞がうちしかない。

太田 でも、商品にするビジョンが今のところ浮かばないんだよ。

平林 小説としてどう売るか、というところは僕もアイデアがないですね。それから、「岡山」と「上京」という大きなテーマをこの人の中で今回使ってしまっている。多分この人にとってはかなりいいテーマだと思うんです。それをぜんぶ封印した上で、書けるものがあるのかどうかも気になります。

太田 でも、応援してあげるとしたら、我が星海社FICTIONS編集部以外にはないだろうなぁ。

平林 応援したいです。

太田 わかった。それじゃ、平林さんの心意気に応えよう。担当するとかじゃなくって応援枠ということで、平林さん、一度会ってみたら?

平林 はい、すぐに連絡します!

山中 でも、連絡先が

平林 いや、住所は判明しているので、電報を打ちます!

太田 いまどき電報かよ!(笑)。いやあ、殊能将之しゅのうまさゆきさんのデビューを彷彿とさせるなあ。頼むから投稿者は、連絡先をちゃんと書いてくれよ!

受賞作、誕生か!

太田 じゃあラスト、いきますか。『ブレイク君コア』。

山中 人格が入れ替わるというのはありがちな話なんですが、面白く読めました。肉体をまたいで人格が入れ替わることによって、性別もめまぐるしく入れ替わって、見てる方の恋愛観も次第にぐちゃぐちゃになっていく引き込まれましたね。

太田 冒頭部分はめちゃくちゃいいんだよ。雨の中自転車をガシガシ踏みつける女の子が出てきて、しかも、自分でその自転車に乗って去っていっちゃうという(笑)。

平林 女の子の登場の仕方は抜群でしたね。

太田 前半の構成はほとんど完璧なんだよね。ただ、後半はちょっと複雑で人物関係がやや分かりづらくなっちゃう。その原因のひとつとしては、キャラクターの描き分け方の甘さがあるんだと思う。後半に行くにしたがって、プロットをそのまま小説にしたような印象が強くなっていく。

柿内 そうですね、僕はそこで感情移入できない部分がありました。設定は面白かったんですけど。設定はフィクションでも、登場人物はノンフィクションにして欲しい。

太田 でも、これはそんなゲーム感覚的な部分が魅力のひとつになってる小説でもあるんだよね。スピード感もいい。

柿内 そこは本当に難しいところですね。個人的には、感情移入できなかったせいで、最後の盛り上がりの部分はついていくのが精一杯でした。

太田 なんで冒頭50枚の感じで最後までいけなかったんだろうね? きっとこれが生まれて初めて書いた長い小説なんじゃないかと思うけれど。

平林 もうひとりのライバルの女の子とか、もうちょっと可愛く書いてあげてもいいだろうに、って。そういう部分でリーダビリティが減衰した面はあると思います。

山中 全体的に、登場人物の容姿に関する描写が少なすぎるんですよね。

太田 この女の子ふたりの描き分けに関してだけはばっちりできてるから、余計に惜しいんだよね。ふたり目に出てくる女の子なんて、すっごい萌える属性じゃん? 「もっとおいしくできるのに!」っていう惜しさがすごくあるよ。このあたりを補強するには何を読めばいいの? やっぱり『俺妹おれいも』?

平林 うーん、秋葉原で話題になっているライトノベルを読んでもらうのが一番ですよね。技術的にすごく参考になると思います。

太田 僕が思うにこの人は、読書量が圧倒的に足りてないんだと思うんだよ。だからこそこういうものが書ける。センスだけで書いているからこその魅力があるんだけど、やっぱりもっと小説を読まなきゃダメだと思う。

山中 あと僕が気になったのは、人格入れ替わりの原因が******だけで、ちょっとこれは合体事故が起こりすぎじゃないかって思ったんですよね。

平林 僕も思った。さすがにもうちょっと人数がいるだろうという気もする(笑)。

太田 ******に関する作中の言及も足りないんだよね。『ノルウェイの森』だって、そういうシーンがあるじゃん。××についてはやっぱりもうちょっと掘り下げて欲しいよ。

平林 自分の好きなものについて書きたいって気持ちはないんでしょうか?

太田 この人はさっきの人と真逆だよ。どいつもこいつも極端すぎる(笑)!

柿内 でも、「こいつを殺したのは***の違い」っていうところはすごく良かった(笑)。

平林 そこは僕もいいと思いました。京極さんのあの作品を思い浮かべましたね。

太田 痺れるよね。若さゆえの魅力だね。ただ、他にも甘いところがやっぱりいくつかあって、探偵の設定とか****の殺意の理由とか、書きようによってはもっとおもしろくなる部分がいくつもある。

山中 僕は特に探偵の設定が気になりましたね。こんなご都合主義的な作りのキャラでいいの? ってちょっと冷める気持ちもありました。

柿内 最初に自分が作った設定をなぞることにこだわっちゃったんでしょうか。

太田 この人の場合は今までの人とは逆で、最低でもあと50枚くらい増やす必要があると思う。350枚くらいにして欲しいなぁ。

平林 増やして欲しいというのは、今日はじめての評価ですね。

太田 うーん、実は僕は、今まで散々ダメ出ししてきたけれどこの作品がイチ押しなんだよ。みんなの『Spiral Fiction Notes』への高評価に驚いたくらい。だから、一度会ってみようと思う。弱点についても明らかになったし、会ってみてそれから決めるっていうことでどうだろう?

平林 異存はないんですが、賞はいくつあるんですか?

太田 別にいくつでもいいよ。何なら「緑萌もえぎ賞」でもつくる?

山中 微妙な有り難みのなさがいいですね(笑)。

平林 (横目で睨みながら)君は実に無礼な男だな。しかしまあ、一番次を読みたいという意味では『Spiral Fiction Notes』が緑萌賞です。

太田 じゃあ、そうしようぜ(笑)。あとね、これはみんなの意見を聞きたいんだけど、新人賞の授賞方針っていくつか考え方があるんだよ。ひとりで選考するファウスト賞みたいなやつなら、納得するまで受賞者を出さないっていうのでも構わない。逆に、応募作からは必ず1作品は受賞させるっていう方針の賞もある。どっちがいいんだろうね?

山中 毎回出す必要はないんじゃないですかね?

柿内 でも、今回は初回っていう意味合いもありますよね。

平林 1回目は受賞者ありのほうが盛り上がるんじゃないでしょうか。

太田 盛り上がるけど、いいものじゃないと「何だこれか」ってがっかりする場合もある。改稿でどれくらいのレベルまで持っていけるか。僕はこの原稿はかなりすばらしいステップボードになるような予感があるんだ。それでもやっぱり迷いに迷うんだけど、みんなどう思う?

柿内 迷うんだったら、出さないほうがいいのでは?

平林 授賞したら、彼はとても大きなものを背負うことになると思うんですよ。賭けだとは思うんですけど、僕はこの際賭けてみるのも面白いと思います。

山中 一番最初に読んだとき、すごく面白いと思ったんですよ。今回担当した応募原稿を全作読んでも印象は変わらなかったです。

太田 うーん、よし、とにかく会ってみて決めよう! 今から電話する! 会ってみてイケメンだったらあげよう!!

一同 え!?

受賞作、決定!

太田 めでたく受賞作が決定しました。小泉陽一朗こいずみよういちろう『ブレイク君コア』! 現在絶賛改稿作業中で、改稿が終わり次第『最前線』に掲載予定&星海社FICTIONSより刊行予定です!

山中 受賞の決め手は?

太田 小泉さんがイケメンだったのと、あとは返事が良かったからかな。

一同 本気っすか?

太田 冗談はさておいて、直接会ってみて、あ、この人には雰囲気があるな、才能があるなって感じたのが決め手だね。大物感があるのもいい。一日も早くこの才能を読者のもとに届けたいぜ!

平林 小泉さんは、第1回受賞者の栄誉と重責を同時に背負うことになります。

太田 彼なら頑張ってくれると信じています!

柿内 新しい恋が始まる予感がします! 小泉陽一朗という名の才能と。

山中 彼と一緒に太田さんを越えたいです! やろう、小泉君!

平林 (山中を冷ややかに一瞥して)今回の選考で「次回に期待」という評価だった方のリベンジをお待ちしています。一番いい原稿を頼む!

太田 次回締め切りは4月18日、当日消印有効! プリントアウトとデータの両方を送ってください。詳しい応募要項はこちらでチェック! ということで次回もヨロシクだ!

第1回星海社FICTIONS新人賞 1行コメント

『夜明けの扉を撃て』

キャリアのある方なので言いにくいのですが、とにかく全体的に、「古い」。(平林)

『革命計画』

冒頭いきなり「ぱんつはいてない」設定で、ある意味度肝を抜かれました。“キャッチーさ”について考え直して欲しい作品。(山中)

『佐藤さんは、いつも正しい What a Wrongful World!

キャラクターも立っているし、世界設定も良く考えられている。ただ、とにかく物語のテンポが悪い。著者の個性は感じられるので、物語の展開を練り直して是非リトライを。(山中)

『彗空に捧ぐ』

ちょっと小説とは言えない。(平林)

『あの日に帰りたい』

説教くさく散漫で、全体的に小説らしさがない。(平林)

『クリミナル・ホットゾーン』

このテーマで書くには資料の読み込みが足りない。遺体を回収するための民営傭兵部隊って設定は割と好きですが。(山中)

『人形伝説 びすくどーる れじぇんど』

50歳の方の作品としては若さを感じました。ただ、展開がご都合主義的であまりにベタ。(山中)

『ひとふでっ!』

結局何がしたいお話だったのでしょうか。自分が書きたいものが何なのか、それを読者にどうプレゼンするのか、しっかり考えてみてください。(平林)

『イヌイシ』

うーん、ロリっ娘の医者というところだけですね。読者のことを考えてあげてください。(平林)

『陽炎への決別』

ミステリ的なオチはいいと思いました。ただ、全体的に軽い。設定の説得力、主人公の行動の動機も希薄。キャラも書き切れていないと、全体的に筆力不足を感じます。(山中)

『happy end of 人生!!』

長過ぎです。設定が面白そうなのに冗長過ぎて面白そうになるところまでたどり着けません。(山中)

『中尊寺物語』

残念ながらこの義経像は新しくない。しかし、文章は年の功を感じさせるし達者。別の賞が良いのではないでしょうか。(平林)

『ザンヴァイル』

応募規定をよく読んで下さい。そしてあまりにも内容が古すぎます(山中)

『罪の罰』

話が飛びすぎて自分が何処にいるのか分からなくなる。読者に対してあまりに不親切すぎます。(山中)

『罪人』

1枚ごとに段落が切れているのは著者のデザイナーらしい計らいだと思うのですが、これは小説ではないでしょう。(山中)

『ロボット・フォルトゥナ』

古風ながらしっかりしたつくりでした。しかし、いかんせん古風。最近の小説をちゃんと読んでますか? いまどき「ロボット」はちょっと(平林)

『僕のプリンセス』

第一印象が素直なハルヒ。二面性のあるヒロインの設定が序盤に出たっきりで遥か彼方に忘れ去られているのは惜しい。(山中)

『勝ち気』

応募規定をちゃんと読んで下さい。手書きの原稿は受け付けておりません。(山中)

『タイトル未記入』

まず、タイトルは書いて下さい。展開もいいし、世界観も丁寧に構築されているのですが、ワイルドカード的キャラクター・鏑宮があまりによくある設定で魅力に欠けます。小説を書く力を感じる著者なので次の応募も待ってます。(山中)

『Eizen Herts』

小技が利いているところもあるが、全体的にはダメ。もっと世界をちゃんと書いてあげましょう。(平林)

『帝国同盟ラプソディ』

すごいペンネーム。内容はめちゃくちゃぬるい。この話でこの舞台を用意する必然性が分からない。(平林)

『中原さんちの座敷わらしさん』

設定は全作品中一番面白そうでした。もうすこし序盤に美味しいところを持ってきて欲しい。枚数も筆力に比べれば多すぎるのでもっとそぎ落として欲しいです。(山中)

『看取り屋』

超能力、精神疾患、HIV等、特殊な設定の登場人物はひとりでいい。(柿内)

『モノクロオム・アイソレイション』

きちんとしているのに、同時に全部どこかから借りてきたような感じがするのは何故なんでしょう。(平林)

『One Microphone & Two Voices』

展開が平坦。読むものを唸らせる驚きが欲しい。(柿内)

『ユウカリ』

全体的に甘い。資料の読み込み、時代設定、物語の核の不在。せっかく資料的に恵まれた大学にいたんだから、それを生かした物語を書いて欲しい。(平林)

『地球の仔』

「第三次世界大戦」「コロニーと地球に引き裂かれた人類」「超能力者」この年齢でこんなもの書いてて大丈夫ですか?(平林)

『逢魔 オウマ

文体が自己満足的過ぎる。書いていて気持ちいいと思うんですが、これは進化の袋小路です。(平林)

『雅なる獣たち』

古風な企業小説みたいな感じ。うちじゃないですね(平林)

『クラウンズ・ツィート』

陳腐なファンタジーだな、と思って読み始めたらSF展開で悪くない。固有名詞や設定が古臭いのが気になる。この語り口も読む人を選ぶ。(平林)

『ミッシング・シード』

この設定はない。もしこの設定で書くなら、本気の取材をして本気で書いてください。(平林)

『俺と人魚と家出娘』

そこはかとなくご都合主義。そして伝奇モノを書くにしては資料を読み込んでいないと強く感じます。(山中)

『破滅の輪郭』

世界観は良い。が、面白くはない。もっと読ませる工夫を。(柿内)

『千年の剣、四次元の盾』

台詞回しが平易すぎる。キャラクターをもっと魅力的に作り上げて。(山中)

『横断歩道は白と黒』

序盤で奇をてらいすぎているし、それを書ききる力が足りてない印象。(山中)

『非核世界の少女爆弾』

惜しい。文章はいいし、「少女自体が爆弾」「殺国予告」というアイデアも面白い。少女のキャラをもっと活かして、展開に自分だけの独自性を持たせて下さい。(柿内)

『誓いの聖剣』

この時代設定であるにもかかわらず、全く資料を参照した形跡がない。歴史上の人物と絡ませるとか、地の文で研究に基づいた描写をするとか、少しくらい工夫して欲しい。(平林)

『ファースト・コンタクト』

あまりにもベタすぎる序盤。ベタならベタでもっと演出を考えて。(山中)

『プシコスタジーの天秤』

既視感を感じすぎる展開。臨死体験研究サークルというモチーフは良い。(山中)

『星の魔女』

キャッチコピー「だけ」いい。内容は前時代的でぬるいSFの域を出ていない。(平林)

『異種族騒動記』

描かれる世界に入っていけない。(柿内)

『ミスターX』

労作だが、星海社のカラーには合わない。(柿内)

『瞠廻目眩 ビューティフル・ドリーム』

参考文献のリストに納得してしまう既視感。参考にすることはオリジナリティを依存する事ではないと思います。(山中)

『人造神・第三の王』

今、伝奇ものを書くことは、実はかなり難易度が高い取り組みです。資料の読み込みをはじめ、これでは戦えない。(平林)

『ヤミヅキ』

設定はよく、最後まで読ませる力はあった。ただ、全体に構成力不足で主題が明確に書かれていないのが残念。若いので今後に期待しています。(山中)

『ひめとり』

序盤のあまりにご都合主義的な展開に一気に冷めました。(山中)

『フロム・アナザー・プラネット』

ありきたりなSF。(柿内)

『WAR-HEAD』

ヤクザの話を書ききるにはあまりに熱さが足りない! なによりもっと丁寧な取材を。(山中)

『RUNNER×RUNNERS!』

足の速さが身上のキャラクターを描きたいなら、もっとその特徴を尖らせる書き出しを考えて。(山中)

『キャッチャーズ・バイブル』

第1章のタイトル「わが巨人軍は永久に不滅です」にはいい意味で爆笑しました。このテーマで小説を創り上げるにはドラマ性が決定的に欠けていると思います。(山中)

『片腕ねじれのマリア』

スピード感はあるけど訴えかけるような主題もおもしろさもない。(山中)

『カオルワールド』

ペンネームが「ちくわ大好き」というのが妙なインパクトがあっていい(笑)! キャラもカオルという“女の子より女の子らしい男の娘”が良く立っていました。ただ、完結はさせて下さい。次回以降も待っています。(山中)

『Toxicute』

猫耳少女が好きなら好きでいいです(断言)。しかし、残念ながら猫耳少女を登場させる必然性がなかった。支倉凍砂さんの爪の垢を煎じて飲んでください。(平林)