星海社一周年記念特別トークセッション「いくぜ! 星海社」
2011.5.20 中野ブロードウェイ K-CAFE
「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。星海社設立一周年を記念して、渡辺浩弍が主宰するニコニコ動画GTVチャンネルに星海社副社長COO太田克史、アシエディ山中武、DTPプロデューサー紺野慎一、三島賞作家佐藤友哉が集結!
出演者
司会: 渡辺浩弐(作家)
星海社: 太田克史・紺野慎一・山中 武
ゲスト: 佐藤友哉(作家)
いくぜ! 星海社
渡辺 今日は「いくぜ! 星海社」と題しまして、視聴者の皆さんのコメントを見ながら生放送しています。番組は始まったばかりですが忘れないうちに宣伝させてください(笑)。新刊が出ました! 『iKILL』、星海社FICTIONSから発売です。
一同 パチパチパチパチパチ!(拍手)
太田 渡辺さん、ありがとうございまーっす!
渡辺 この本をニコニコ市場でたくさんクリックしてもらえたら、この番組はこれからも続きますので。
太田 えっ、そうなんですか!?
一同 (笑)。
渡辺 冗談はさておいて、僕はこの本をきっかけにして、星海社に拠点をもたせていただいて、どんどん書かせていただこうと思っています。今日のメンバーを紹介します。というか皆さんご存知ですね。星海社副社長の太田克史さん、よろしくお願いします!
太田 よろしくお願いします!
渡辺 そして星海社のまさに新星! アシスタントエディターの山中さん、よろしくお願いします!
山中 よろしくお願いします!
渡辺 山中さんもね、ブログとかツイッターで結構名前は知られているんですけど顔はあまり出ていないですよね?
山中 初めてかも知れないですね。イベントとかで会った方には顔を見られているかもしれないんですが。
太田 彼はスーツなんですよ、そういう場では。
渡辺 そーなんだ!
太田 今日はわりとラフな格好で、こっちが本当の山中先生です。彼は僕を2年で超える、と言って星海社に入ってきた男で……あと1年と1ヶ月?
山中 ぐらいですかね(笑)。
太田 あと13ヶ月で僕を超えてくれるので嬉しいです!
渡辺 (笑)。ということでまずは星海社について伺っていきたいんですけど、昨年の7月に発足してから10ヶ月ぐらい?
太田 そうですね。
渡辺 講談社からスピンアウト、というか講談社を母体に全く新しいことをやっていこう、ということで太田さんが中心になってメンバーを集めたと。
太田 社長の杉原と僕のたった2人で船出をした、という感じなんです。去年の7月に。七夕でしたねー。
渡辺 やはり何か「新しいこと」という意欲があってのことですよね?
太田 そうですね。「未来の出版社をつくろう!」という張り切った気持ちで、杉原と一緒に。準備に1年くらい時間がかかったんですね。一寸先が闇で、どう転ぶかわからない感じで大変な1年間だったんですけど。
渡辺 デジタル化に臨んで、流通スタイルについても、コンテンツの制作方法についても、どう変えていくべきか出版界全体が悩んでいるわけです。まあ講談社の中で太田さんは早くからそういうことを考えてきた人なのですが、やはり「新しい会社をつくるしかない」と、最終的に決断されたんですね。
太田 講談社の庇護の下、講談社のスケールメリットが使えるところは使いながら、新しいことにチャレンジしていく、ということです。今の時点ではこれが一番ベストの選択だと信じて、杉原と2人で始めたんですよね。
渡辺 創立のときの発表会に僕も参加させていただいたんですけど。
太田 ありがとうございました! もはや懐かしい……。
渡辺 もう懐かしい感じですよね。まだ1年も経っていないんですけど……。ウェブを軸にして新しい出版をやっていくということが発想の中心にあったと思うんですけど、発足後にすぐに『最前線』を始められて。
太田 9月15日くらいだったかな? 手応えをようやく最近感じ始めた、という感じです。「無料のウェブマガジン」というざっくりしたくくりだと、いちばん大手さんは『ガンガンONLINE』さんで間違いないと思うんですけど、だいたいそこに何馬身くらい離されてるのかな?
山中 8〜10馬身くらい離されているかな? という感じですかね。
太田 6馬身くらいじゃない?(笑)。で、二位の僕らの後ろには、何もない、という感じだと思います。
渡辺 ただ、『ガンガンONLINE』さんはコミック中心ですからね。文芸では圧倒的に『最前線』が正に最前線ですね。
太田 たぶん、あと3倍くらいかな……読者の人が増えてくれたらだいたいタメになるかな。
渡辺 『ガンガンONLINE』さんと。なるほど。相当なところまで来ている、と。
太田 そうですね。かなりいいところまで来ている、というところは皆さんのおかげなんですよね。
渡辺 「毎日チェックしている」と(コメで)書かれてます。
太田 ありがとうございます。本当に「ウェブサイトを中心に未来の出版をやっていこう」という気持ちでいっぱいなので、嬉しいです。過去の、『ファウスト』の話もこれからするんですけどね……。
渡辺 あっ、『ファウスト』の話、してくれるんですか!
太田 しますよ!(笑)。まあ、なぜそんな気もちになったかというと、出版業界の今までの勝ちパターンが徐々に世の中に通用しなくなってくる、世の中と出版業界がだんだん離れ始めてきている、という自覚があって、それをなんとか変えてみたかったんですよね。
渡辺 それは5〜6年前に太田さんと対談させてもらったときにも出てきて、太田さんがすでにその頃、予感されていたことがありましたよね。古い勝ちパターンというのは、つまり「雑誌を定期的に出して、原稿がたまったら単行本にしていく」というやり方のことです。太田さんは「それでは雑誌が形骸化していく」ということを予感されていましたよね。
太田 言い出すと、本当に10年前からの話になっちゃうんですよね。「ゲラを束ねただけではない雑誌」……そう言ってしまうと語弊があるんですけど、読んでいる人もほとんどいなくて、場としても機能していない雑誌がなんとなく続いていて、それはおかしいと思って『ファウスト』を始めたんですよね。それで、一定の成功はできたと思うんですよ。
渡辺 そうですね。「文学が出版社の重しになる」と言われていた状況から、文芸誌で新しい才能が出てくるカタチをつくりましたよね。
太田 ありがとうございます。こないだ初めて会った才能のある女子高生も「小学生のころに『ファウスト』を立ち読みしてた」って(笑)。舞城(王太郎)さんとか佐藤さんとか西尾(維新)さん、読者の皆さんのおかげなんですけど、10年経ったときに効いてくるものをつくれたんだな、という嬉しい気持ちがありますね。
渡辺 あれだけ号数が数少ない雑誌で。毎月出てたわけではないですからね。
太田 全く出てないです(苦笑)。
渡辺 1年に1冊出れば良いほう、という(笑)。
太田 あっ、でも1年に3冊出た年もあるんですよ! ちゃんと。
渡辺 最初は季刊くらいだったですものね。
太田 僕はそのころから、いち『ファウスト』編集者の僕としてはオーケーなんですけど、講談社とか業界全体というところは『ファウスト』1誌でどうなるものではない、と思ってしまって……。やはり僕は才能が大好きなので、才能といつも戯れていたい、という思いがあって、それを続けていくためには『ファウスト』に安住していては駄目なんだな、と思ったんですよね。こういうことを言うとまたあらぬ誤解をされちゃうと思うんですけど……、これからはもうこういった出版業界の危機、みたいなことは言わないようにしようって、あの3.11以降、思うようになったんですよ。
渡辺 そうなんですか。なぜでしょう?
太田 原子力関係の専門家の人の話を聞いていて、自分が虚しくなってしまって。
小出(裕章)さんという方がいるじゃないですか。彼は原子力を研究しながら原子力を反対する立場をとっている、いわゆる「熊取六人衆」の中の1人なんですけど。
渡辺 注目されていますよね。
太田 あの方はずーっと、かつての僕と近い物言いだったわけですよね。つまり出版業界にいながらにして「このままじゃ出版業界、まずいんじゃないの?」「今のままのやり方だと危険がありますよ」ということを言い続けて……62歳になられたわけですよ。で、実際、原子力業界は彼の言ってきたとおりになったわけですよ。
渡辺 うんうん。
太田 ずーっとマイノリティで生きてきて……専門家集団の中のマイノリティってすごく生きていてつらいんですよ。でも実際に事故が起こったことで、「原子力、危ない」ということがようやく皆、わかった。彼はついに勝ったんです。では、彼に皆が感謝しているかと言うと、そうではないですよね。「そんなに安全ではなかったのであれば、なんでもっと一所懸命忠告してくれなかったんだ」みたいなムードで。だから、勝っても負けても、虚しい。「出版業界が危機だから〜」って提言することは、だからある種、大きなお世話なんですよね。
渡辺 予言者としては評価されてもね。それが世の中を変えていない、というところに忸怩たる思いがあるわけなんですね。
太田 わけです(苦笑)。そんな僕が最近心がけているのは、「業界の危険を指摘する暇があるんだったら、胸躍らせる新しいものを実際につくる」ということ。僕は最近、「海洋の温度差で発電をする」という研究をしている上原春男先生の本を読んだんですけど、その先生の最初の研究成果って、「5秒くらい豆電球が点いた」だったんですよね(笑)。僕はそれが凄く良い話だと思って。上原先生も最初は原子力を研究していたらしいんですけど、「危険だ、危険だ」と思いながら原子力を研究するよりも未知のエネルギーを追求して「豆電球を5秒」点けて、そこからもっと大きなことをしていこうとされている。僕もそんなふうに自分の人生を使いたい、作家さんたちと一緒に、という思いが3.11以降、すごく募ってきて。だからもう「出版界が〜」ということは極力、言わないことにしようと思って。それよりも未来のことについて誇りをもっていく生き方ができないかな、と考えているんですよ。
渡辺 リアルタイムで読者をどんどんつくっていく、インフラとしてそろそろネットが使えるのではないか、ということですね。
太田 そうですね。そうそう、今のところ『最前線』って、あと僕が5人くらい居たら、講談社の全PVを抜けるらしいんですよ。
渡辺 すごいね。
太田 10人くらいいたら集英社さんも抜けちゃうくらいなんですよ。あと、はるかぜちゃんが、「なつかぜ」「あきかぜ」「ふゆかぜ」……くらい居たら、かなり良い勝負ができるんじゃないかと(笑)。
一同 (笑)。
太田 毎月のユニークユーザー数は『ファウスト』の実売数よりよっぽど上なんですよ。もちろん有料と無料の違いはありますけどね。
渡辺 うん。
太田 『ファウスト』の、一冊あたり二千円ちかくもする法外な値段の本を納得して買ってくれる数とは一概に一緒にしてはいけないんですけど、相当な数の読者が、毎日『最前線』まで来てくれるようになってきている。
渡辺 そのボリュームというのは次の世代に繫がりますよね。物書きとしては、「お金が儲からなくてもまずたくさんの人に見てもらいたい」という気持ちが正直、あったりします。
太田 ハハハ。作家さんで僕のまわりにいる人は、たいてい皆、そうなんですよ。「DRMフリーでやりましょう!」って僕が提案したときに「いいですね!」とか「太田さんが言うのであればいいですよ!」みたいに、わりと皆がそんな感じなので、僕もついつい作家さんも皆、そういう考えなんだと錯覚してしまうんですけど。まあそうでない人はそうでないみたいですね。
渡辺 デジタルで作品を発表するときには、著作権をどうするか、という点で腹を括る必要があるんですよ、編集者も作家も。太田さんは先陣を切ってそういうことを『最前線』で考えられてる、ということです。
太田 ですね。でももうそこもあまり言うつもりはないです。なんというか…タイタニックに例えるのは不謹慎なんですが、「出版丸」から僕と杉原はゴムボートで出てしまったんですよ。どうも氷山に当たったような音が僕と杉原には聞こえたような気がしたわけなんです。今までは、「おーい! 皆も船から降りてこいよ!」ってバカなことやっていたんですね。だけどゴムボートにはおいしい食事もないし、音楽もかかっていないし……。
渡辺 でも大きな船にいる人たちも実はヤバい状況がわかっているから、非難するんじゃないですか?
太田 「逃げるんじゃねーよ!」って?(笑)。
渡辺 諸星大二郎さんのマンガでそういうのがあるんですよ。異端者に最初は皆が石を投げているんですけど、最後は「俺も連れていってくれ」という。
太田 ハハハ。今は、雨の中を一所懸命、自分自身でオールを漕ぐしかないよね、という感じですね。ただ、最近はそこに人がたくさん集まってきてくださって、すごい嬉しいです。最初は「どうなるんだろう」って思っていましたけれど、最近は今まで接点のなかったような才能からも、「太田さんのやっている『最前線』っておもしろいですね」ってよく言われるんですね。たとえばこの間初めて会ったマンガ家さん、雑誌で表紙を飾れる4番打者の人なんですけど、その人が「これからはずっとマンガ雑誌でやっていくような時代でもないので、ウェブで一緒にやりましょう」って言ってくれて。何となく時代は変わってきていますね。……っていうか山中さんなんか喋ってよ! さっきから、うんうんうなずいているだけじゃん!
山中 す、すみません。えーっと、そうですねー(笑)。『最前線』が始まって8ヶ月経って、だんだん熱気が上がってきている、というのをリアルに感じるようになりましたね。
太田 そうだね。最初ひどかったからね!
山中 ほんとに潰れるんじゃ……というわけではないんですけど(笑)。『坂本真綾の満月朗読館』のときだけものすごい盛り上がってるんだけど、あとはシューうぅぅぅと……。
太田 なっていたりしてね(笑)。でもそれは仕方がないよ。最初期のトップページなんか中央に『金の瞳と鉄の剣』の高河ゆんさんのイラストが無い状態でオープンしててさ、マストのど真ん中に大穴が空いているみたいだったもん! 今考えたらありえないよ!
『満月朗読館』制作秘話!
渡辺 今、『坂本真綾の満月朗読館』の話がでましたけど皆さん、知ってますよね。
太田 知ってます?(コメを見て)…山中さんのことしか褒めてないな(怒)。
山中 (ドヤ顔で)すいません(笑)。太田さんを差し置いて、出しゃばってしまって。
渡辺 せっかくだから『満月朗読館』の話しましょうよ(笑)! 僕がおもしろいなと思ったのは、マストに穴のあるような船、しかもゴムボートで漕ぎ出した太田さんが……。
一同 (笑)。
渡辺 そこから、その場にある小さな舵やオールみたいな、自分の手持ちのものだけで、世の中をびっくりさせることができてしまったっていうことなんですね。「地上波で枠とって、アニメ化して、ゲーム化もして」というようなことしかできないのが大きな企業の悪いところなんですよ。でも「良い作品があって、良い声優さんがいたら、朗読するだけで、何万人、何十万人集まるコンテンツになる」というのを実践して、ネットを通じておもしろさを認めてくれるファンの人たちを巻き込んでいく、ということを太田さんは『満月朗読館』から始められていて、「ああ、こういうやり方もあるんだな」と驚いたんですよね。
太田 あれは思いついたのが去年の6月の末なんですよ。だからあれは3ヶ月でやった企画なんですね。
渡辺 普通だったら企画に3〜4年かけて、製作委員会作って予算を何億だ何十億だと工面してとか考えているうちに時代は変わっていくんですよね。
太田 ですね。あれはこの7月から星海社FICTIONSで本にしていきます!
(『満月朗読館』「銀河鉄道の夜」イラストを公開)
太田 実は『満月朗読館』ではufotableの近藤(光)さんから僕は一回、ブチ切られたんですよね(笑)。
渡辺 あのアニメ会社の。
太田 僕と一緒に劇場版『空の境界』に挑んでくださった、僕の大好きな近藤社長なんですけど。映像をやるのであれば近藤さんにお願いするしかないと思ってお願いしにいったんですけど、現場が……。ufotableには寺尾(優一)さんという天才撮影監督がいるんですけど、もうその人がノリノリでやってくれて(笑)、なんとufotableでの1年分の仕事量より多い秒数を『満月朗読館』につぎこんでくださって……。それで近藤さんから怒りの呼び出しをくらいましたからね…。
一同 (笑)。
渡辺 『満月朗読館』のイラストの竹さんといい、デザインのveiaさんといい、太田さんと今までつきあってきた人は皆、継続して星海社とおもしろそうに仕事してますよね。皆、デジタル時代への対応をいち早くしていますね。
太田 もとからそういう人が僕のまわりには多かったですね。だいたい、出版社が「DRMフリーでやりましょう」って言ったら、ふつうはそこで止まっちゃうんですよ。たぶん講談社ではできなかったことだと思うんですよね。「足並みを揃えろ」というのは良くも悪くも言われてしまうので。子会社をつくってクイックに動いていけるというのは、とても良かったと思いますね。
渡辺 今の発言は非常に重要ですね。星海社をつくった意義を非常に端的に表しています。星海社だからこそできている、これからもできるという宣言ですね。
『Fate/Zero』文庫6巻&アニメ化発表!
渡辺 人気コンテンツを紹介しましょうか。虚淵玄さんの『Fate/Zero』は?
(星海社文庫『Fate/Zero』の商品紹介)
太田 武内(崇)さんのイラストも素晴らしいので、ぜひ、星海社文庫でアニメ放映の前に予習を! アニメは10月スタートです!
渡辺 しかし『Fate/Zero』の仕込みは1年前からしているわけですからね。太田さんの先見の明というか……。
太田 いや、星海社を始めるときには『Fate/Zero』がうちにくることはまだ全然決まってなかったんですよ。山中さんが夜中に「太田さん、『Fate/Zero』が来たから星海社を立ち上げられたんですね。よかったですよね」っていうから、「全然」って答えたら……怒られました。
一同 (笑)。
山中 えっ!? という感じで(笑)。このゴムボートまずかったんじゃないか? と思いました。
一同 (爆笑)。
太田 「この男、クレイジー!」っていう目で見られました。
渡辺 (笑)。
太田 虚淵さんとは8年くらいの付き合いなんですよ。ずーっと仲良くやってきて……。今は『金の瞳と鉄の剣』をやっていて、本当に楽しいですよね。また『金鉄』も秋口くらいには再スタートできれば良いな、と思っています。
山中 今、準備をしているので皆さん、楽しみにしててください!
渡辺 では、ここでアニメ『Fate/Zero』のPVを流しましょうか。
(アニメ『Fate/Zero』のPVが流れる。作品紹介)
太田 10月から放送予定です!
山中の入社経緯
渡辺 星海社にはキラーコンテンツが揃っているように見えますが、でも実は何年にも亘る事前の仕込みがあるんですね。早い時期に才能を発掘するという太田さんの仕事ぶりがわかると思います。ちょっと戻りますけど、山中さんにもう少し喋ってもらいたいのですが、山中さんは星海社が始まったときからジョイントされているんですか?
山中 そうですね。昨年の7月7日に設立の記者会見が行われて、僕が合流したのが8月1日からです。
太田 山中さんともまだ1年やってないんだ!
山中 やってないです。
渡辺 もともとどういうことをしていたんですか?
山中 大学院がですね、奈良先端科学技術大学院大学で。
太田 ここ、良い大学院なんですよ。日本の大学の中でもっとも引用論文数が多い大学院なんですよ。リツイートされてるってことですよね。ツイッターで言うと。
山中 そうですね。そこで高分子と大腸菌を使った研究をしていまして…。
渡辺 へええ。だけど奈良先端科学技術大学院大学だったらメーカー系からは引く手あまただったんじゃないですか。
山中 はい。
渡辺 なのにこんな茨の道を来た! そこをちょっと聞きたいな、と思って。
太田 茨ですめばいいけどね(苦笑)。
山中 どうなんでしょうかね(笑)。たまたま講談社のページに載っていた募集をツイッターで拝見して。で、後で気付いたんですけど業務内容が何も書いてなくて……。
太田 そういえば書いてなかった!
山中 友達に「そういえば就職決まったみたいだけど、何するの?」と聞かれたときに「あれ、何するんだろう…」という感じで(笑)。
太田 思い出した。1回目はあえてなにも書かなかったんですよ。最初に来る人は「何が何だかわからないけどおもしろそうだからやろう!」みたいな人じゃないとなって思って。
渡辺 山中さんは理系で大腸菌や高分子の研究をやりながら、文芸にもコンテンツにも興味があったんですか。
山中 僕はもともと個人で同人誌のゲームの本をつくっていたんですよ。それがおもしろくて3年くらいやっていたんですね。そんな折りに、出版の新しい動きってことで、ポーンと目に入ってきた星海社があまりにおもしろそうだったので調べてみようかな、というのがファーストコンタクトですね。
太田 ちょうど今ごろだったんじゃない? 山中さんからの電話を僕が受けたのって。最初は、彼は学生なのでハネようと思ったんですが、「本気なので俎上には上げてくれ」と上から目線で迫ってきたので、「はいはい、わかったわかった」と言って、とりあえず電話を切ったんですけど(笑)。だけど、送られてきたゲームの同人誌がおもしろくて。で、会ってみたら、「まあ、入れてみようかな」と。
渡辺 どうですか。1年働いてみて。
山中 こんなに色々やらされるとは思ってなかったです(笑)。でも日々、楽しくやらせてもらってます。
太田 ありがとうございます! 嬉しいね。
渡辺 本づくりだけでなく、映像とかイベントとかデジタルとか色々ですよね……。
太田 星海社はデジタル、ペーパー、イベントを三本柱にしようとしていまして。……なんていうんだろう、今のふつうの編集者ではないんですよね。でもこれからの編集者はこれがふつうになる、と思ってやっています。小説もマンガも批評も、デジタルもペーパーもイベントも、ぜんぶを一緒くたにして編集していけば良いと思います。
『さやわかの星海社レビュアー騎士団』の忠誠心!
渡辺 『さやわかのレビュアー騎士団』もおもしろい企画ですよね。皆を巻き込んで批評文化のレベルを高めていこう、という。
山中 ほんと、『レビュアー騎士団』はおもしろくなってきましたよね。読んでいてこちらも元気になってきます。
太田 ほんとね。夜中にあのページをみて元気付けられたり、あっ、そういう考え方があるんだって気付いたりしますね。
渡辺 2ちゃんねるやAmazonに載っているようなレビューをプロが放っておいてもかまわない、というわけではないですよね。姿勢はきちんと示しておくべきで、『レビュアー騎士団』はそこでプロとアマが一緒に文化価値を高めていく、というすごくおもしろい企画だと思います。
太田 ありがとうございます。でもあれは僕がメインで出張ると、あまりにも黒い企画になりすぎてしまうじゃないですか。だから星海社きってのイケメンと呼ばれている、平林緑萌というアシスタントエディターが担当しています。こないだ徳島で「マチ★アソビ」というイベントがあって、そこで星海社もパラソルショップをやったんですよ。正直、お客さんなんてこないと思ったんですよ。で、例によって僕は遅刻して……。
渡辺 太田さんは常にそういうことありますよね(笑)。
太田 すいません(笑)。で、15分遅刻して、10時15分にショップに着いたらもう20人くらい並んでるんですよ。「えっ!?」と僕思って。なんと『レビュアー騎士団』の連中が10人くらい並んでいて……こんな地方でやっているのに。「緑萌さん! ちわっス!!」とか挨拶していて。「おいおい、この人心掌握、なんだこれ!?」と思って。もう太田じゃないんですよ。皆「緑萌さんに会いたい!」って言って徳島までわざわざ来ていて。
山中 あと。「のぞみ姫」こと古木のぞみさんですよね。
太田 そうそう、彼女にも会いたいって言って。
渡辺 ツイッターとかブログがありますからね。読者に編集者の顔が見えている。『レビュアー騎士団』のような場所からコミュニケーションが生まれている、というのがおもしろいですね。
太田 サイン書いてましたからね。緑萌さんが(笑)。
渡辺 そんなレベルなんですか?
太田 そうなんですよ。まだ本を10冊もつくったことない駆け出しの編集者なのに。
山中 (ドヤ顔で)こないだ僕もサイン書かされましたからね。『レビュアー騎士団』のシステムで、一定の点数がたまったら本を贈呈する、というのがあるんですけど。「本は全部もっているので、山中先生のサインをください」って言われて……。
太田 マジで!? サイン童貞破られたの!?
山中 破られました。で、とりあえず「山中武」と書いて、その下に「太田の後は俺に任せろ!」と書いときました。
一同 (爆笑)。
太田 いいね!
渡辺 ニコ生とかもどんどん使うといいんじゃないかと思いますね。読者との距離が近いのが星海社の魅力だと思います。
太田 そうですね。星海社には色々な編集者が来てほしいよね。僕は編集者は、ただの「編集者」になればいいと思うんですね。何で「マンガの編集者になろう」とか「小説の編集者になろうとか」……もっと狭い「『ジャンプ』の編集者になる」とか「『マガジン』の編集者になる」とか……あ、『ジャンプ』と『マガジン』を悪く言っているわけではないですよ。代表的な雑誌なので例に挙げているんですが……僕にはそれが良くわからないんですよね。そういうのはこれからの時代では、違うな、と思っていて。僕は出版の仕事というのは才能サービス業だと思っていて、才能のある人がいたらどんどんそこに駆けつけて、ムーブメントに変えて、そこでお金を得て、そのお金をまた再投資して才能を大きくしていこう、というのが編集者・出版社の仕事だと思うので。あんまり型にはまらない人が来てくれるといいな、と思ってますね。
山中 『満月朗読館』は正にそういう企画ですよね。
太田 そうですね。またああいうおもしろいことができれば、と思っています。楽しみにしていてください。
第1回星海社FICTIONS新人賞、7月発売!
渡辺 新人賞はどんな感じですか?
太田 すごく有望な人がきて……小泉陽一朗、という才能。星海社FICTIONS新人賞第1号。……最初は僕、不安だったんですよね。こんなゴムボートみたいなところにどんな人が応募してくるんだろうと思って。だけど、投稿作はわりとレベルが良い感じに揃っていて、よし、これならやっていけるな、と思ったんですよね。
渡辺 タイトルは?
太田 『ブレイク君コア』という。
渡辺 ああ、「キミ」って読むんですね。ジャケ写は?
太田 本邦初公開! まだラフなんですけど。
渡辺 これ、イラストも良いですね。
太田 これは「きぬてん」さんという、僕の今いちばんの秘蔵っ子のイラストレーターさんです。皆さん、新しいでしょ?
山中 未来感を感じますよね。
太田 でしょ。竹さん以来ですよ。彼はpixivもしているのでぜひ、見てくれればと。
渡辺 このイラストで小泉さんがそろそろデビュー、と。
太田 7月刊の予定です。そうそう、小泉さんは初めて会ってみたら「僕、今度ベルリンに行くんです」って言うんで、「なんで」って聞いてみたら「自主映画に出たら、それがヨーロッパで賞をもらってしまって……」って、ええっ!? って感じですよ。
渡辺 それは俳優さんとして?
山中 主演男優です。
太田 顔が童顔でかわいいんですよ。新人賞というのは、若人を受賞させてしまうと、人生を狂わせてしまう可能性があるので、最初は受賞させるかどうかは迷っていたんですね。で、彼を一度会社に呼んで「賞、欲しいの?」と聞いたら「欲しいです!」と即答で返事が良かった。上昇志向が強くて、「やりたい!」という人にやらせるのがいちばんだと思って彼に決めました。あと、顔が良かったので(笑)。
渡辺 星海社さんの例に限らず、メディアが多様化していくと、小説もやれば映画もやればアニメもやればネットもやれば……、とそういう才能が出てくるんですね。物を書くだけでなく、演技もできたり。脳みその中ではもともと多メディアが混在しているわけだから。……小泉さんでしたっけ?
太田 「小泉陽一朗」です。あと彼は原稿の直しが的確なんですよね。後ろでもぞもぞしている佐藤さんとかは……。
渡辺 あっ、そういえば作家で俳優というならば大先輩の佐藤友哉先生がいるじゃないですか! じゃあここで登場してもらいましょう!
佐藤 すごい流れだな……。(と、登場)
佐藤友哉の新婚生活
(佐藤友哉さん登場)
太田 佐藤友哉先生です!
一同 パチパチパチパチパチ!(拍手)
渡辺 イケメン、作家、しかも俳優!
太田 最年少三島由紀夫賞作家だからね!
佐藤 こんばんは!
渡辺 ここまで、過去1年間の話をしてもらったので、これからは佐藤さんを中心に現在の話をしていきましょう。
太田 新婚生活はいかがですか?
一同 (笑)。
山中 まずはそこからですか!?
太田 記者会見のようだ(笑)。
佐藤 ……えっ、本当に話すんですか!?
太田 話すでしょう(断言)。
佐藤 話しませんよ! 僕は今まで一貫して放送では私生活は話してこなかったんですよ! 何言われるかわからないんですから、ほんと。
太田 奥さんはこの放送を観てるの?
佐藤 そういうのが何もわからない不確定な状態で、何も話すことはできないわけですよ。
太田 そうなんだ〜。残念。でも新婚生活はどう?
佐藤 粛々とやっている感じですかね〜。結婚によってなにかが変わるとか、その翌日に変化が起きるとか、そういうことではなくて、日常の延長なんだと気づきました。僕は前回の結婚では……。
太田 「前回の結婚」?
佐藤 嫁、全部一緒なんですけどね。
太田 叙述トリック?
佐藤 叙述トリック!
一同 (爆笑)。
太田 さすがメフィスト賞作家! 一味違う!
佐藤 前回の結婚のときは、非日常という日常が起きるのではないか、もしくは起こさなければいけないのでは、という気持ちがわりかしあったんですよ。
太田 気負ってた?
佐藤 気合いというより覚悟ですね。新生活という覚悟、を持っていたんです。もちろん今回もその覚悟がないわけではないんですけど、今回はもう少し自然体に。できることはできる、できないことはできない、できないことをできるようにすればいい、ただそれだけの感じで日々をすごしています。……まあ、うまくはいってるんじゃないかと。
太田 結局、こうやって僕らにぜんぶ話してくれるユヤタンのこと俺、好きだわ。
佐藤 もう言わないよ!
渡辺 でも今の話は若い人たちに言ってもらいたいですよね。
太田 なんか本当に……今度の結婚はうまくいくんじゃない?
一同 (笑)。
太田 でも本当に粘り勝ちだったよね、佐藤さんの。『華麗なるギャツビー』だ。
渡辺 ずーっとニコニコ生放送をしてたおかげで理生さんも振り向いてくれたんですよ。『華麗なるギャツビー』では対岸の明かりに自分の愛しい人がいると。毎夜パーティーで騒いでいても、心はその人のところにある。ニコ生でユヤタンが騒いでいても、心は理生たんのところにあったわけですよ。
佐藤 大晦日にそば打ったりしてても!
一同 (笑)。
太田 理生さんにこのそばを食べさせたい! と。
佐藤 めちゃめちゃまずかったですけどね!
渡辺 皆さんも『華麗なるギャツビー』、ぜひ読んでください。ああいう話なんですよ。
太田 スコット・フィッツジェラルドのすごくいい非モテ小説。
佐藤 ひどい説明(笑)。
太田 どんなにお金がと名誉があっても、たった1人の女性のためにすべてをなげうってしまうというね……。でも佐藤先生は成功したわけですよ、ギャツビーとして。彼女が振り向いたわけだから。
佐藤 まさにグレート・ギャツビーですね。あとはそれを維持していかないと。もう次、失敗したら皆、僕のこと馬鹿だと思うでしょう? 次こけたら総スカンですよ。
一同 (爆笑)。
太田 いや、3回目があるかもしれないじゃん。
佐藤 3回目も同じ人だったり……。
太田 ハハハ。あっぱれですね!
『デンデラ』劇場映画化!
渡辺 ところで佐藤さん、『デンデラ』劇場映画化おめでとうございます!
一同 パチパチパチパチパチ!(拍手)
佐藤 こんだけ星海社、星海社と言っている中、これから新潮社の話をしますけど……おかげさまで映画化も決まり来月6/25公開です。鑑賞料金1000円なので、ぜひどうぞ。
渡辺 主演女優陣、すごい顔ぶれですね。
佐藤 浅丘ルリ子さんが主演です。浅丘さんはこの前「徹子の部屋」に出ていまして、徹子とルリ子が話していて凄いな、と。
太田 誰がうまいことを言えと。
渡辺 でもそういう場で自分の考えた「デンデラ」という言葉が出てくるわけですよ。
佐藤 おもしろいですねー。
渡辺 みんなデンデラデンデラデンデラ言うわけですよ。
佐藤 妙なくすぐったさ、不思議な気持ちを初めて得ましたよ。往年のスター女優が集まってなにをするのかと言えば、50人のおばあちゃんと熊が戦う、というだけの話なんですけどね(笑)。
太田 熊役は決まっているんですか?
佐藤 何人かいるみたいですよ。
山中 本物の熊ではないんですね。
佐藤 本物だったら大変なことになっちゃうよ!
一同 (笑)。
渡辺 そういうときは、「本物の熊です」とか「実は熊役は僕なんですよ」とか言わなきゃ。
佐藤 メディアミックスにまだ慣れてないんです(笑)。
『最前線セレクションズ』の裏側……
渡辺 「星海社でもユヤタンは仕事をするの」って質問がコメで来てますよ。
佐藤 っていうか、『最前線セレクションズ』やってますよ。
太田 ありがとうございます! あれね〜、皆が、「大変、大変」って言って脱落していくんですよ。
佐藤 『最前線セレクションズ』って、皆さん、どうせ、さらっと読んでるでしょ。あれ、死ぬほど大変なんですよ!
太田 大変だね〜。
佐藤 こっちでリンク先貼らなきゃいけないし……。今、この話はしなくていいですね(笑)。
太田 でも、楽しいでしょ?
佐藤 そうですね。あ、山中さん、次の月も受けますよ。
山中 ありがとうございます!
渡辺 商品があまりにもマニアックすぎてAmazonに載っていないと駄目なわけですよね。
佐藤 そうなんですよ。この商品はマニアックで皆が知らなくておもしろいだろうなと思って書こうとしても、Amazonで売っていなければ書けないんです。
太田 絶版本でも古い絶版本はNGなんですよね。
佐藤 絶対に「Amazonで売っていなければならない」という縛りがある。でも僕はそこが逆に良いと思うんですよね。よく絶版本を紹介する人、いるじゃないですか。「それが傑作なのはわかったけど売ってないじゃん」と。誰がどうしたら読めるんだ、と言ったら、古本屋で探して高いお金を出して、ということになる。それよりもAmazonでクリック1つで宅配便で来てくれる、というものの中で、我々が培った良いものを紹介していくほうが、よほど健全で建設的だと思いますね。
太田 渡辺さん、ぜひ今度レギュラーで出てくれませんか?
渡辺 いいですよ。
山中 ありがとうございます!
佐藤 渡辺さん、レギュラーでやったら本の出る速度、遅れますよ。
一同 (笑)。
山中 皆が大変大変言うので、だんだんまわりの人が受けてくれなくなっているんですよ(笑)。
太田 おもしろがってやってはくれているんですけどね。
佐藤 そうですね。充実はしてますね、あの仕事は。ただ普通にコラムを書く、というわけではないですから。
太田 質問に答えると「ああ、俺ってこういうものが好きだったんだ」ってわかるんですよね。
佐藤 あの質問は(星海社の)皆で考えてるんですか?
渡辺 あの質問は絶妙ですよねー。
太田 ありがとうございます! 皆で頑張って考えてます。
渡辺 はるかぜちゃんも書いてましたよね。
太田 はるかぜちゃんはすごかったですね。はるかぜちゃんのセレクションズはぜひ読んでほしいな。1回目は結構赤字をいれましたが、2回目はほんとに直すところがなかった。ほぼ完璧。
佐藤 直すところが見つけられない、ってあんまりないことですよね。僕は30歳になりましたが、「ここはこうだよ」という指摘はどの編集者と仕事をしてもありますからね。それはそういうものだと思ってますが、10歳の時に直しが入らない原稿が書けたかというと、僕は10歳のとき、まだ文字じたいを書いてないですから。
太田 いや、書けてるだろ! 北海道はどんな教育してるんだよ(笑)。
佐藤 まあ、女の子は早いと言いますけど。
太田 あの子は特別だね。
山中 校閲の指摘もほぼなく、綺麗なゲラが戻ってきましたからね。
太田 はるかぜちゃんとは今後もいろいろやっていきたいと思ってるんですよね。良い才能があるのでじっくり付き合っていきたいです。5〜10年くらいかけて。
山中 毎年毎年変わっていくだろう、という才能が楽しみですよね。
太田 やっぱり若いから、前に会ったときよりすぐに良くなるんですよ。編集者ってもちろん綺麗な花が好きなんですけど、綺麗な花がもっと綺麗になっていくところが、もうすごくいいわけ。ガーンとくるわけ。かつての佐藤さんとかほんと見ててよかったわー。
佐藤 かつて!?
渡辺 「戦慄の19歳」だったわけですからね。佐藤さんは。
佐藤 もう30歳ですからねー。
渡辺 最初ここに来たときまだ童貞でしたからね。
一同 (笑)。
太田 えっ! そうだっけ?
渡辺 童貞力を評価してたじゃないですか。
太田 「かつて」って言ったのはさ、だって今はユヤタンは良いものばかり書いてるじゃん。
渡辺 今、まさか童貞じゃないですもんね。
一同 (笑)。
太田 もう童貞の話止めましょうよ!
渡辺 『クリスマス・テロル』までは重版童貞と呼ばれてて。
佐藤 童貞じゃなくて重版童貞。
太田 でもね、新しいことをやってる人はブレイクまでに時間がかかるんですよ。
佐藤 だって拒絶反応を読者に与えるっていう最初の作業をうまくクリアしなきゃ駄目じゃないですか。そこは編集者が、読者になるべく拒絶反応をさせないように表紙なりオビなり文章を直したりするけど、書くほうは当たり前ですけど読者ガン無視なわけですよ。拒絶反応を出させるもの書いているときは。そういう毒をいかに食べやすい毒にするか、というところがあるので、太田さんには本当に食べづらい毒を与えていたなあと。
太田 いやいや。編集者も実に難しいときがあるんですよ。本当に新しい才能に会ったときにどうパッケージするか、というのをミスするときがあって。1回目の『フリッカー式』のときは、やはり間違っているところがあったね。
渡辺 表紙を変えて新装版でも出したりしましたよね。
太田 あの原稿が来た時に大塚(英志)さんと法月(綸太郎)さんのところに持っていったということについては、当時の僕は本当にキレてるんですよ。素晴らしいサジェストを打てているんですよね。でも、100%のプロデュースを一度目からバシーンといくのは難しい。
佐藤 それはある種、奇跡みたいなものを感じてしまいますよね。
渡辺 というふうにデビューからずーっと付き合ってるわけですが、実は講談社BOXからも、星海社からも1冊も出してませんよね?
太田 出してないね!
山中 出してませんね!
渡辺 どうなのそろそろ!?
佐藤 僕は星海社の設立記者会見でスピーチはしましたよ!
一同 (笑)。
太田 そうだ!
佐藤 スピーチはしましたよ!
太田 設立式では小柳(粒男)さんも鏡(征爾)さんも酔っぱらってたよね。
佐藤 あのあとほんっと大変だったんですよ! 小柳が……!
一同 (笑)。
太田 ユヤタンは本当に後輩に愛されてるよね。
佐藤 愛されキャラかは知りませんが、皆さん、ほんとこんな男と離れずにいてくれると思います。
太田 そこが、10年付き合って意外な成長をしたと思う。最初に会った19歳のときの佐藤さんって「後輩? 何それ? 食べられるんですか?」って感じだったんですね。
佐藤 とんがってるな〜(笑)。
太田 ほんと、「さわる後輩、皆傷つける」みたいな(笑)。
佐藤 いやな先輩だな〜(笑)。
太田 でも今は、こんなに面倒見がいいんだ、という感じ。
渡辺 みんな寂しがってるんじゃないですか? 佐藤さんが結婚して。前は小柳さんとかを家に泊めてましたよね。
太田 してたしてた!
佐藤 ……あのときはほんっと!
渡辺 小柳さんがズボンと間違えてメガネを履こうとしたという……。
太田 メガネが割れて。
佐藤 そうですそうです。
渡辺 ということは2人で一緒に寝て、小柳さんはズボンを脱いでいたと……。BLな状態だったということでしょ?
一同 (笑)。
佐藤 ちがいますよ!
渡辺 実は良く考えるとそうなんですよ。小柳さんはフリ●ンで、佐藤さんの横に寝てたんですよね。
佐藤 フリ●ンって(笑)、……そういうことにして皆が喜ぶというのなら、俺は受けるよ! 全然いいよ!
七夕&アニバーサリーノベル企画、発表!
太田 えー、ちょっと真面目な話をしましょう。実は佐藤先生に新しい企画を……。
佐藤 なんだってー!? 星海社のですか?
太田 ええ。ってもうすでにお願いしてるじゃないですか!
渡辺 佐藤友哉さんは星海社で小説を書く、と。
太田 書きます。しかも「星海社1周年記念」&「佐藤友哉デビュー10周年」企画として。
佐藤 でかい話ですね〜。1周年というと七夕?
太田 そうです。今、佐藤さんに書いてもらっています。
佐藤 すごいですね〜。今、僕、他人事として聞いてますが(笑)。
渡辺 でも実は今、しっかり書いてるんですよ。
太田 1年前の設立のときも来てもらって、締めの挨拶もいただいた、佐藤友哉という作家にどうしてもお願いしたかったんですよね。
佐藤 設立記者会見のスピーチまでしておいて、仕事をしないわけがないじゃないですか。そこはきっちりと、星海社が発足した7月にやらせてもらいますよ!
太田 ありがとうございます。
一同 パチパチパチパチパチ!(拍手)
太田 じゃあ、企画も話そうか。
佐藤 そうですね。
山中 え、言っちゃっていいんですか。
渡辺 これは初めての発表ですね。
太田 美少女ゲーム業界ってエイプリルフールに必ず面白いことをやるっていう……。
佐藤 謎の通例がありますね。
太田 彼らはそれに1ヶ月くらい魂を費やしているんですよ。エイプリルフールがなければもっと彼らは……出ているゲームはあったと思う。
一同 (笑)。
太田 で、TYPE-MOONさんの『四月の魔女の部屋』、星空めておさんの作品を見て、すごい嫉妬したんですよ。今まで「太田さん、エイプリルフール企画ってやらないんですか?」っていろんな人から聞かれてきたんですけど、傍から見ていておもしろいものはたくさんあるんですけど、自分が編集者としてやりたいかと言われたら、あまりそういうのはなかったんです。ところが、やられた。『四月の魔女の部屋』、あれはよかった。すごく美しい話でねー。武内崇、すごいなって。名プロデューサーなんですよね。イラストレーターでもあるんですけど。で、これを「うちに欲しい!」と伝えて、……「うちに欲しい!」ってなんかエロいな(笑)。まあ、今、交渉している最中なんですけど。そのときに閃いたんですよ。記念日ってたくさんあるじゃないですか。海の日とか、山の日とか。
佐藤 エイプリルフールとかバレンタインデーとか。
太田 あるいは8月31日、夏休み最後の日とか。
渡辺 記念日ではないけれど、皆の記憶に残っている日もありますね。
太田 そうそう。そういう日は皆、なにかエピソードがあったはずなんですよ。そう思ったときに作家さんに50枚くらいの記念日にちなんだ短編、カレンダーノベルというか、アニバーサリーノベルを書いてもらう。それいいなって思ったんですよ。たとえば佐藤友哉先生には七夕にちなんだ話を書いてもらって、それを『最前線』上のトップページで1週間だけ公開する。
佐藤 なるほど、では僕は7月の七夕にちなんだ…。
太田 泣ける話!
佐藤 泣ける話!? を書くわけですね…。
太田 そう! 皆が泣いちゃうの! 「白」乙一も裸足で逃げ出す、みたいな。
渡辺 自分のことを書けばいいんじゃないですか。『華麗なるギャツビー』みたいな。
太田 別れた夫婦がもう1回結婚する話はどうよ? (コメを見て)これいいね!『七夕のギャツビー』!
佐藤 (コメを見て)『七夕テロル』? それはもういい!
一同 (笑)。
太田 そういう感じで。『最前線』は毎日数千人が訪れてくれるサイトなので、2日経ったら万に届くか、という感じなので、皆が見てくれて、佐藤さんの作品を読んで「泣けた!」とおもったら、下のAmazonリンクをポチっとして『デンデラ』を買って佐藤さんにも新潮社さんにもお金が入る……みたいな。
佐藤 数々の作家さんが50枚くらいの短編を記念日ごとに1週間アップしていくという企画なんですね。
太田 そう。で、1年経ったら本にしようと。
佐藤 1月から12月、記念日を1年分まとめて。
太田 枕元とかにあったらすごくすてきな、そういえば今日は何の日だったかな、という感じの。渡辺さんもぜひ書いてほしいな! どうですか!
渡辺 すぐ書きますよ。
太田 ほんとですか!
渡辺 記念日は早いもの勝ちですよね?
佐藤 体育の日とかありますよ。あとポッキーの日とか。
太田 ユヤタンの結婚記念日とかは?
佐藤 誰も知らないよ!
渡辺 僕は敬老の日で行きましょう。
(コメを見て、記念日について話し合う)
太田 あ、「8月32日」はいいアイディアだね! 覚えとこう!
山中 第1回離婚記念日……。
佐藤 山中君!
太田 君はすこしドS過ぎる!
山中 すいません(笑)。
太田 とにかく佐藤さんの、一発目、これが大事。佐藤さんの50枚が、傑作! ってなると、そこが後から書く人が越えないといけないハードルになる。
佐藤 はいはい。まあ、普通そうですから大丈夫ですよ。
太田 この自信……! でかいわ~。皆さん聞きました? 俺にまかせろ、と。
山中 背筋が伸びますね。
太田 7月7日、本当に楽しみですね。渡辺さんの敬老の日はどんな話になるんですか?
渡辺 ……いや、お年寄りをうわ、う敬う話…。
太田 絶対噓だ!
佐藤 完全に噓ついてるよ! お年寄りを「うわうわ」とか言ったもん!
渡辺 何か書けそうな気がするので。とりあえず敬老の日を仮押さえでお願いします…。
『iKILL』、そして『ゲームキッズ』シリーズ復活決定!
太田 渡辺さんと言えば、今年、星海社で大車輪の活躍をしてくれるんです。
渡辺 そうです。星海社を拠点として。とりあえずは『iKILL』シリーズを太田さん、山中さんと一緒につくっていきます。
太田 『iKILL』は「2.0」、「3.0」という感じで続刊していきます。
渡辺 『iKILL2.0』は以前にニワンゴの携帯ゲームで展開したものを小説版として完全に書き直したものがあるので、ニワンゴで読んだ人にもぜひ読んでもらいたいです。「こういう話だったんだ!」と。秘められていた謎が明かされるバージョンです。
太田 原稿で読んだんですけど……、本当に気持ち悪くなっちゃって。
渡辺 すいません(笑)。
山中 太田さんは何度も読んでますからね。
太田 本当に嫌な気持ちになりながら……。『iKILL』シリーズは精神状態に余裕があるときに読まないと。
渡辺 でも読み終わったら元気が出るようにちゃんと書いているんです。だから皆さん、気持ち悪いかもしれないですけど、実はいろいろな問題を抱えている人や、落ち込んでいる人にこそ読んでもらってスッキリしてもらいたい。前向きに生きるために読んでもらいたいです。
太田 お願いします! 他に発表することは…。あ、これ言っちゃいましょうよ! 僕もファンとしてすごくうれしいニュースだし。
渡辺 『ゲームキッズ』シリーズが新作で復活します。星海社で。
一同 パチパチパチパチパチ!(拍手)
山中 めでたい!
佐藤 本当にめでたいよ! 『ゲームキッズ』はでかいよ!
渡辺 90年代に僕は『ファミ通』が好きで、『ゲームキッズ』はそこで生まれたコンテンツなんですけど、あの頃のゲーム誌と同じような熱がある場所として今、ネットに魅力を感じていまして。だから『最前線』は適切な場所だと思っているので、そこでやらせてもらいたい、という気持ちがあります。
佐藤 「『ファミ通』読んでました!」というコメントがたくさんありますね…。僕もそうでしたからね。渡辺さんの『ゲームキッズ』は毎週読んでました。
渡辺 今度は『最前線』を毎日見てもらいたいですね。あとは過去の『ゲームキッズ』シリーズも星海社で発刊します。ただ、これは徹底的に書き直します。
佐藤 そうなんですか?
渡辺 『ゲーム・キッズ』は同時代的な科学技術のネタを取り込んで書いたシミュレーション小説だったんですけど、SFってどんどん時代性を取っ払っていくと、寓話に近くなっていくんですよね。星新一さんは、たとえば「100万円」といった具体的な表現を使わずに、「大金」などと書いてるんですよね。「電話のダイヤルを回す」と書いたところを、後から「電話をかける」と書き直したりしているわけです。そういうことをしているうちに小説がだんだん普遍的なお伽話のようなものになっていく。未来のことを書いて、かつ時代を超えることもできると、先人が実証しているわけです。星さんの姿勢にならって過去の作品も見直して、新しく読んでもらえるレベルまで書き直して星海社さんでアーカイブ化していきたいと思います。
佐藤 すごいよー。
太田 文庫のほうがいいのかな? ちょっと皆さんの意見を聞きながら、できるかぎり良いかたちで、21世紀の『ゲームキッズ』になるように刊行していきたいですね。
渡辺浩弐、『最前線』で連載小説(毎日更新)を企画中
渡辺 それから毎日連載を『最前線』でやります。なんていうのかな…。もちろん佐藤さんがやっているような重厚な文学の方向もアリなんですが、ちょっと違う、かつての新聞小説みたいな可能性もネットにはあると思っていて。
太田 ああなるほど、たしかに。
渡辺 僕は『バガボンド』が始まった頃、すごくおもしろいと思って、その原作を読んでみたら、吉川英治の『宮本武蔵』、やっぱりおもしろいんですよ。で、井上雄彦さんに聞いてみたら「あれって新聞小説だったんですよ」と教えてもらったんです。新聞で毎日掲載されることで、今の週刊マンガくらいのスピード感が出ていたんですね。そういう熱いテンションは今はネットにあるのではないか、と。
太田 そうですね。熱かったんですよね!
渡辺 ツイッターとかブログとかニコ生とかを含めて、皆さんとコミュニケーションしながら加速していくスタイルで星海社さんとやってみたい、と。
太田 すごい楽しみです。
山中 『最前線』はそういう意味ではすごくフィールドが合ってますよね。ツイッターが常に横に流れてますから。
渡辺 あれを見てピンときて。ツイッターを使った新しい小説が書けるのではないか、と。
太田 作家さんもみんな結構見てるんですよ。あそこにある読者のツイッター。雑誌でやっていても反響、なかなか来ないじゃない。
佐藤 こちらから検索しなければならない、とか読者カードを待つしかない、とかですからね。今までは。
太田 作家さんは始めは「ヒイッ」とか言ってたんですけど、今では結構、励みになっている方も多いみたいですよ。
再婚報告時の佐藤・太田・山中
渡辺 佐藤さんもツイッター始めたんだよね。
佐藤 『最前線セレクションズ』でつぶやかないといけないから……。
渡辺 でもいつまでたっても「童貞アイコン」じゃないですか。
佐藤 あれ「童貞アイコン」って言うの!? マジですか!? 今日変えます。
一同 (笑)。
佐藤 あんな童貞タマゴじゃないからね!
渡辺 皆さん、佐藤さんがツイッターしてたの知ってました? フォローしてみてください。
山中 @yuyatan_satoです。太田さんに急に呼び出されて、「佐藤さんのツイッターのアカウントをとってほしい」と言われて、僕がとりました。
太田 あのときねー。ちょうど再婚の報告を聞いたときで……。
佐藤 全部言うね!(笑)
太田 ダメだった?
渡辺 再婚の報告するためにツイッター始めたんだもんね。
山中 あれが星海社での最初の仕事でしたからね。
太田 夕方の4時から2人で護国寺のファミレスで飲みまくっていて……。
山中 行ったら、ビールジョッキが4つくらい置かれてましたからね。
渡辺 この2人、ふだんはそんなに飲まないじゃないですか?
太田 あれは、「飲まなきゃやってらんねぇ!」と思って。めでたい話ですから。
山中 行ったら飲んでるし…。「太田さん、仕事してくださいよ!」って感じでしたね。
佐藤 太田さん、その後打ち合わせだっていうのに、ベロンベロンに酔ってて…。
一同 (笑)。
佐藤 祝い酒で、「飲もう飲もう」ってなったら、つい飲みすぎちゃって。で、勢いで「ツイッター始めよう! 結婚の報告だ!」ってなって。
太田 あのときはおかしかったね。でもよかったよ。でも佐藤さんとはあのファミレスではいろいろあったね。『タンデムローターの方法論』の分け前を3人で分けたのも、あのファミレスですよ。
佐藤 ああ、懐かしい! 大金を、バサーッとやってた!
渡辺 同人で文芸誌をつくったんですよね。ほかにも西尾さんとか舞城さんがいらっしゃった?
佐藤 そうですね。確かあのあとに『ファウスト』ができて。だからプレ創刊号みたいなものですよね。持っている人いるんですかね? あれ、めちゃくちゃ部数少なかったですよ。最終的に何部になりました?
太田 確か200か250くらいですよ。あんまり覚えてないけど。
佐藤 第1回文学フリマで出したんですよ。
山中 あれ、再録できないんですか?
太田 あれは、あのまま美しく終えたほうがいいよ。黒歴史はこれくらいにしときましょう!
『ファウストVol.8』!
渡辺 何か忘れてる話題がありませんでしたっけ?
佐藤 ありますよ。太田さん!
太田 あっ!
佐藤 流そうとしたでしょ! ここは言わなきゃダメですよ!
渡辺 では、太田さん、どうぞ。
太田 今度ですね、『ファウストVol.7』 で話題になった郭敬明さんの本を出します。
佐藤 声が小さい!
渡辺 イケメンで俳優な。中国の佐藤友哉と呼ばれている。
一同 (笑)。
太田 その本が出ます。
佐藤 星海社で?
太田 いや、講談社で。星海社の仕事をしつつ、1個ずつ講談社に残った宿題をやっているんですよ。勤勉でしょ?
佐藤 勤勉ですけど、次の『ファウスト』出るのいつなんですか?
太田 次のコーナーに行きましょう!
一同 (笑)。
渡辺 で、『ファウスト』は?
太田 うーん、どうなんでしょう。
佐藤 急に口が重くなりますね…。
太田 実はね、やってます!(断言)
佐藤 なんだってーー!?
山中 やってるんですよ。
太田 でしょ! もっと言って言って!
佐藤 どうせまた、編集してるしてる詐欺でしょ?
山中 「2009.summer」のノンブルを「2011.summer」に変えてます。
一同 (笑)。
太田 実は昨日、アルファ台割ができた。だいたいこういう順番で本にする、という。
渡辺 だいたい何ページくらいになりそうなんですか?
太田 1100ページ!
渡辺 製本の限界ですね。殴って人を殺せる…。
山中 凶器っぽいですね。
太田 やっていると、いろいろ思うところがあります。2年ぐらい前からやっている企画がそのまま、というのもあり、本当皆さんには悪いと思ってます。とくに筒井康隆さん。本当に申し訳ございません。綾辻(行人)さんにも法月さんにも本当に申し訳ない。もちろん渡辺さん、佐藤さんにも…。
渡辺 僕、2年半前に原稿書き終わりましたからね。
佐藤 僕もです。
太田 ……。僕、帰ろうかな……。
渡辺 でも僕らは普遍的な、時代を超えるような原稿を書いているから大丈夫です。
佐藤 そうですよ、全然直さなくても大丈夫ですよ。耐久度はある原稿なんで。
太田 ありがとうございます! って、それ君(山中)が言わなきゃ! 俺をアシストしてくれよ!
山中 いや、ほんとうに……。
一同 (笑)。
太田 いまバリバリやってるんですよ。それで、僕、綾辻さんと約束したんです。朝の6時に。
佐藤 朝の6時!?
太田 とにかく7月末までに出す、と。
佐藤 それは2011年?
太田 そうだよ! 利根川じゃないんだから!
佐藤 言質取りましたよ。2011年7月ですって。
太田 綾辻さん、佐藤さんも出るんだよね。
佐藤 僕は今回、アホみたいに書いてますからね。対談したわ人生相談書いたわあれやこれや。
太田 対談のお相手は?
佐藤 法月綸太郎さんです。
渡辺 すごい。
太田 すごいんですよ。まだ『デンデラ』が出た直後くらいだったんですよ。
佐藤 だからある意味タイムリーになりましたよね。
太田 『ファウスト』を初めて買う人でも大丈夫かな?
佐藤 なんの問題もないと思いますよ。
太田 (コメで)「『ハルヒ』のほうが先に出るとは…」俺も思わなかったよ……。
佐藤 心にくる言葉ですね。まあ、『ドラクエ』より先に出てよかったですよ!
太田 ただ、原発事故の関係で工場が電力関係で調整に入るので、「7月の末に出すのはやめてくれ」って言われてるの。これは工場の都合だから…。
佐藤 どうしようもない。
渡辺 でも夏休みには…。
山中 全員大車輪でやってます!
太田 というわけで、『ファウストVol.8』、皆様、ぜひよろしくお願いします! あ、紺野さん登場するまでの2分間、言い訳してもいい?
渡辺 はい。
太田 雑誌というのは、とどのつまり、その場のノリというか、「初期衝動」でつくらないとダメだ! ということがやっとわかった。「おもしろいものがある、じゃあやろうぜ! やろう!」でやらないと、やっぱりおもしろいものにはならないんですよ。『ファウスト』はずーっとそれでつくってきたんですが、今回はいろいろあったの。BOXやりながらつくらなければならなかったし、星海社もうまくまわさなければならないし、人生を賭けて会社に合流してくれる人もいるんだし。
佐藤 もちろんもちろん。
太田 でも僕の根っこにはいつも『ファウスト』という雑誌があるし、いちばん僕が愛している……。なんかしんみりしてきたな……。やめよう。やっぱり2年前の企画をするときには、何とかして気持ちを奮い立たせないと難しい、ということがわかりました。これは自分が招いたことで仕方がないことなんだけど、やはりそれを取り戻さなければならないと。あと、これは今やらないといけないんですよ。たぶん今出さないと、出せないんですよ。気持ち的に。ガンダムで喩えると「ジオング状態で出す!」という。
佐藤 「80%でも構わん」と。
太田 とりあえず、「アムロと戦えるんだったら出る!」という。
佐藤 出れば戦えますからね。頭が「ボーン!」って飛ぶけど。
太田 ジオング状態だろうがとにかく出すのが大事だと思って頑張ってます。
渡辺 是非、Vol.9、Vol.10は星海社で出してください。
太田 がんばります。(コメで)「ジオングは80%がいちばんカッコイイ」。俺もそう思っているんですよ!
佐藤 つまり今度の『ファウスト』がいちばんカッコイイと。
太田 ある意味ね。
渡辺 2年前の原稿を読んでいるとおもしろいんですよね。
佐藤 2年前の原稿の忘れっぷりはひどいですよね。
太田 俺、笹井一個さんに2回目の原稿を頼んじゃった。
佐藤 何をですか?
太田 イラスト。
佐藤 そんな忘れ方はないでしょう!
太田 笹井さんも描いたの忘れてて。
佐藤 全員じゃないですか!
一同 (笑)。
太田 データを見たらちゃんとあったんですね。
佐藤 どうするんですか?
太田 いや、もう一回描いてもらおうかなーって。
一同 (笑)。
山中 いいんですか? それ。
太田 いいのかわるいのかわからないけれど、とにかくがんばります! 楽しみにしててください!
山中 まあ、きっと良い本にはなりますよね。
太田 なる。さっき「初期衝動」でつくらないとダメだ! って言ったけど、もう一方で「冷静な目線」というのも、やっぱり編集者には必要で。今回はそっちの良い面があるかな、と。
渡辺 あるかもしれないですね。一回クールダウンして、見直して、手を入れる、という。
佐藤 立場が変わった、という意味では太田さんがいちばん変わってますからね。
渡辺 本当のところは僕らも、原稿を書き直したりしてるんですよね。
佐藤 そうですね。2年前の対談ですけど、当時の僕が何を言っているかもうわからないんですよ。
渡辺 まだ童貞だったころですね。
太田 「メラ」くらいは使えたころだね。
佐藤 2年前の僕は今の僕じゃないので、彼が何に怒って、何にがんばっているかがわからないんです。なので、今の僕がわかるように翻訳作業をしないと責任が持てないんですよ。
太田 よくわかりました。ほんとうにごめんなさいね。
渡辺 でもそれで、さっき言った星新一さんのような普遍性が出てくれば、雑誌でありながらアーカイブとして残っていくものになりますよ。
太田 それは本当に感じてます。『最前線』をやっていますが、紙の雑誌って良いものだと思いました。
佐藤 紙の雑誌をつくるのが久しぶりだというのもありますね。
太田 古い空冷のバイクをいじっている感じ。
山中 『ファウスト』は星海社の本棚に並んでるんですけど、古くならないんですよね。
太田 ありがとうございます。
渡辺 『ファウスト』はブックオフに置いてあったら買ったほうが良いですよ。転売すれば儲かります。こんなこと言っちゃいけないけど(笑)。
太田 あのさあ、これ言っちゃまずいかもしれないけど、めちゃくちゃ勝ったんだよね。『ファウスト』って。
佐藤 勝ったか負けたかで言えば、大勝利じゃないですか。
太田 だってあのとき、めちゃくちゃ言われてたわけじゃん。僕ら。「こんな雑誌は売れない」とか「3号で潰れる」とか「来年はこいつら皆、消えてる」なんて佐藤さんも僕も言われたけど。
佐藤 (画面に向かって)おまえらみたいなやつが!
山中 なんでですか!?
太田 皆、応援してくれてるんだよ!
佐藤 急にインターネットへの嫌な記憶が……。
太田 わはは。そういう時期もあったあった(笑)。でもほんの10年前ですよ。佐藤さんもデビューしたばかりで、僕と渡辺さんとも出会ったばかりで、僕が紺野さんからDTPを教えてもらっていたころですよ。僕がInDesignでオペレートをしこしこやっていたころです。
渡辺 すごいな。あの時期にInDesignで雑誌つくってたんですよね。
太田 Vol.1は世界初のフルDTP入稿でつくった雑誌ですよ。DTP史にも残る雑誌なんです。あとは10年前の僕に、舞城王太郎が三島賞をとって、佐藤友哉が最年少三島賞作家になって、東浩紀さんも小説書いていて、あっという間に三島賞とっていて……。
佐藤 三島率高いですよね(笑)。
太田 奈須きのこさんは『空の境界』が大ヒットして、アニメが全七章で劇場化して、DVDが全章10万枚超えるような…。西尾維新さんは押しも押されぬ大人気作家になって、『化物語』のBlu-ray、DVDもゼロ年代最高の大ヒットを記録して…。僕は天才スーパーバイザーですから(キリッ)!
佐藤 ここはピシッ、と(笑)。
山中 ドヤッ、と(笑)。
太田 単館上映のアニメのナンバーワン記録は『空の境界』だし、ゼロ年代でもっともDVDが売れたテレビアニメって『化物語』なんだよ。
佐藤 すごーい。
太田 で、虚淵玄さんの『魔法少女まどか☆マギカ』もこのままいけば10年代最強のアニメになるかもしれないわけじゃん。
佐藤 このままいくとなりますね。
太田 10年前の俺に、そうなってるよ、って言ったら、信じないよ! 「どの世界の太田やねん!」って言って。鳳凰院凶真も信じないよ。「そんな世界線はない!」って。
一同 (笑)。
太田 僕は好きな人としか仕事しないから、そこは噓をついてないんですよね。「この人売れそうだからやろう」というのは良くも悪くもしていない。本当は経営者なので、もう少し噓をついてないといけないかもしれないんですけど。
佐藤 もう編集者という立場だけじゃないですからね。
太田 でも、本当にこの人にありったけの時間と情熱を注ぎ込んでも良いな、という人としか仕事してないんですよ。部下もそうよ。
山中 ……はい。
太田 いや、本当に。嫌な人は採りたくないから。24時間一緒に居ても嫌じゃないっていう人しか。
山中 ……はい。
佐藤 「カレー食いにいくぞ!」と言ったら「はい!」と言う人しか採らない、と。
太田 そう。こないだ山中さんは来なかったけどね。
山中 すいません。同じ時間にカレー食べてて。でも一緒に行くときは常に★5つの激辛を食べてますよ。
一同 (笑)。
太田 カレハラ(カレー・ハラスメント)って呼ばれてるんですよ。まあ、そんなわけで、本当に好きな人とだけ仕事をする、そこだけは絶対に崩してないので、今、僕が夢中になっている人は確実に10年代の文化をつくっていくんじゃないかと勝手に思っているんですよ。妙な予感があって、わりとゼロ年代の僕は「助走」だったんだなって思って。「ああ、これから僕の時代がきちゃうんだ」って、とくにあの原発事故以降、思っています。
佐藤 太田さん、今何歳ですか?
太田 こないだ39歳になったよ。
佐藤 じゃあ僕と初めて会ったのが29歳か。今の僕より年下だったんですね。
太田 そうだよ。あのとき言われたこと、今でも覚えてるよ。
佐藤 毎回その話しますよね! かなり根に持ってるでしょ! 聞いてあげてください。
太田 オヤジ扱いされたんですよ。すっごく。「そんなに年をとる前に、俺はがんばらないといけないから」みたいなこと言われて。初対面のとき。
佐藤 そこまで言ってないですよ! 今のは噓だ!
山中 佐藤さんはそのころはまだ北海道ですよね。
佐藤 とんがってたころです。
太田 まあ、確かに僕も干されてて、本当に会社に行かず、半年くらいアジアをブラブラしてた時期があって。
山中 中二病のまま25歳になったと。
佐藤 会社も会社ですよね。よく許してくれましたね。
太田 許してはなかったよ(笑)。
佐藤 許してなかったの!? さすがに天下の講談社も。
太田 でもそこが講談社の良さなんだよ! 懐が深いんだよ! とにかくいろいろあったけど、30歳超えてからは言えるよ。「悪いけど、君の年齢のとき僕は『ファウスト』企画してたよ」とか。
佐藤 「三十何歳のときはこうしてたよ」とか。
太田 そうそう。「34歳のときには天才スーパーバイザーになってたで!」とか(笑)。ドヤって言えるじゃない。
佐藤 わかりますわかります。
太田 佐藤さん、僕を軽ーく超えてってね。
佐藤 任せてくださいよ。ただ職業全然違うけど…。
太田 いやいや、佐藤さんも渡辺さんもこれからですよ!
佐藤 太田さんは自分のことを編集者だと定義していると思うんですけど、もうそれだけじゃなくなったと思いますし。
太田 でも根っこは編集者だべ。
佐藤 でも太田さんと初めて会った10年前に、こういうふうになるとは思わなかったですから。僕がデビューした10年前に計画したことは何一つ達成できなかったんですが、目標にしてなかったことが、勝手にどんどん達成されていったので、思ったところと全く違った場所で一所懸命戦ってきました。これからの30歳〜40歳の10年間は、こうして太田さんが星海社という「器」を作ってくださったので、20歳〜30歳のときに成し得なかった最初の計画を、また太田さんと一緒にやって、叶えていければいいなあ。それを叶える力を今はつけていると思うので、2人でやっていきたい、と強く思ってます。
太田 良い話だね。
佐藤 なんかすいません。
太田 でも渡辺さんとも本当にそうで。憧れですよ。ファミコンの全盛期の頃からずっとファンで。
佐藤 テレビで観てましたからね。肋骨折れるところとか。
一同 (笑)。
渡辺 まあ、やっとデジタルがふつうになったというか。まだ始まったばかりですもんね。
太田 飯野賢治さんがこないだ行ったイベントですごく良いことを言っていて「俺、最近IT革命が始まったと思うんだよね」って。
渡辺 ああ〜。わかるわかる。
太田 一部の人ではなく、皆のところに降りてきた、と。それは僕もすごく感じることなの。
山中 みんなが当たり前のようにツイッターを使っていますもんね。
太田 そうそう。女子高生もおばちゃんも使ってるよね。なので僕らの時代が本当に来るんじゃないかとかなり真剣に思っていますよ。やっぱり世の中が不安になってるでしょう。そういうときにフィクションの力、小説の力が……。
渡辺 ……必要なんですよね。
太田 だから山中さんの仕事も僕の仕事も超・でかいんですよ。
山中 ネットで伝播されることが大事になってきてる、という感じですね。地震以降、とくに。
太田 震災以降、『最前線』はアクセスが減るかな、と思ったんですけど。ずーっと増えてるんですよね。
山中 「地震で本は届かないけど、『最前線』は見ている」という人もいらっしゃって、良い話だな、と。
太田 『レビュアー騎士団』の投稿者の方でも、登録住所が被災地真っ只中の人がいましたからね。えーっ、とか思って。彼の家、電気通ったんだと。そうすると気合い入れてやらないと、と思いますね。
渡辺 アイデンティティをしっかり伝えて共有することが大事なんですよね。人はパンだけで生きていくわけではないじゃないですか。みんなを元気付ける価値をネットでリアルタイムに相互にやりとる、ということはすごく大事で。それがちゃんとできていたら、僕は日本は土地がボロボロになっても何とかやっていけるんじゃないかと思うんですよね。
太田 畑が耕せないなら、心を耕せばいいんだよ。本当にそう思う。それができるのは作家さんだし、道具がつくれる編集者なんですよ。「新しいトラクターできました!」とか。
佐藤 「じゃあ、俺、それに乗るわ!」と。耕すのは作家ですからね。
太田 古いやつらのことを批判してもどうにもならないんだけど…。もういいんだよ! 「この鍬がいいんですよ」とかは!
佐藤 「この鍬じゃないと耕せない」とかは(笑)。
太田 あとその鍬を砥ぐほうに時間をつかったりとか……そういうのがね……。トラクターでやればいいんだよ! 僕らは、これからの時代は飛行機で農薬をまこうぜ! みたいな、そういう計画を実行してるんですね。もちろん今は小さいですけれど、こういうところから大きな流れができてくるんだな、と感じています。最近、僕、キューバ革命の本を読んでるんですよ。
佐藤 いつも読んでそうですよね(笑)。
渡辺 カストロとか今のユヤタンくらいの年齢じゃない?
太田 そう。ゲバラも。で、僕は今、キューバ革命を改めて勉強しているわけですが、むちゃくちゃなんですよ。あいつらのやってること。その端的なエピソードがあるんです。最初、カストロってメキシコに亡命してるんですよ。で、そこでゲバラに会って「俺たちは革命で今のキューバの支配体制を打倒するんだ!」って言って、80人くらいで徒党を組んで、船に乗ってキューバに帰るんですね。で、こっから先がバカバカしいんですけど、「俺たちは帰って政権を打倒するぜ!」ってメディアでガンガン言っているから、帰ってきた彼らを軍隊が海岸線で待ち構えているんだよね!
一同 (笑)。
佐藤 「打倒する」と聞いて!
太田 そう! で、波打ち際からガンガン撃たれて、逃げまくって山に入ったときには12人になってるわけ。もう、8割人が減ってるわけ。そこでカストロが何て言ったと思う? 「我々の革命は必ず成功する。上陸作戦は成功した!」
佐藤 (笑)。何も言わなかったら、無事に80人上陸してたのに!
太田 「まだ12人も残ってる!」って。
佐藤 そこはポジティブに(笑)。
太田 みんな「なんだこのクレイジーは!」って思ったらしいんだよね。でも「あれだけの銃撃の中で12人も生き残った我々が山岳キャンプを張ることができたのは、神がキューバに革命を起こそうとしているに違いないからだ」と。
佐藤 生き残ったらそう言うしかないですよね。
太田 そしたらみんな、信じちゃうんですよ。で、そういうところからなぜか革命が成功しちゃうわけで。だから今この僕らがいる場所を見ている1200人くらいの人から革命が始まっちゃうかもしれないのよ。
佐藤 よくわかります。
太田 それをやりたいね。おもしろそうじゃない。
渡辺 ではここで、ユヤタンに代わって、別ジャンルのプロフェッショナルに登場してもらいましょう。紺野さんです。
一同 パチパチパチパチパチ!(拍手)
出版とデジタルメディア
(佐藤さん退場、紺野さん登場)
渡辺 星海社がネットと出版、デジタルメディアとペーパーメディアをつないでいく新しいプロデュースをしている中で、DTP、電子出版が非常に重要な仕事になってきています。先程、少し話が出たのですが紺野さんは『ファウスト』の初期から太田さんと組んで……。
太田 僕の師匠です!
紺野 そうですね。気がつけばもう10年…。
太田 紺野さんは凸版印刷にもお勤めなんですよ。で、星海社の名刺も持っています。
渡辺 最初は印刷会社のスタッフという立場で会われたわけですか?
紺野 そうですね。最初に会ったときにはまさかお互いこうなるとは予想してませんでした。で、お互いを引き合わせた人が京極夏彦さんなんですよ。
渡辺 ああ、そうなんだ~。InDesign上で小説を書いている作家さんとして、当時、すごく有名でしたよね。文字組みまでこだわる、という。
太田 バックアップは全て紺野さんがされていて。で、なんで僕が紺野さんと出会ったかというと、僕が京極さんの担当をしているときに、電話がきて「太田君、僕はこれからInDesignによるDTPに対応する編集部を優先して原稿を渡すことにしたから。よろしく」と言われて…。「えっ それはDTPに対応しないと『陰摩羅鬼の瑕』とかは出ないということなんですか?」と聞いたら「優先してDTPに対応するところに渡します」と宣言されたんですよね…。で、「わかりました」と。
山中 答えるしかないですよね。
太田 慌てて、当時の凸版印刷の営業の人に聞いてみたら「弊社にエキスパートが居るので」と伺って、それで初めて紺野さんとお会いしたんですよね。
渡辺 太田さんが京極さんを担当してたというのは皆さん、知っていたと思うんですけど、そこからDTPの流れが始まった、というのはあまり知られていない重要な話ですよ。
紺野 あのきっかけがなければ、たぶん『ファウスト』にも至らなかったと思いますよ。
太田 紺野さんと出会わなければ『ファウスト』の三本目の柱である「本物のDTP」はなかったし、これだけクオリティの高いものとして星海社の本も出せてないんですよね。隠れたキーマン。バンドでいうとベーシストです。
紺野 いやいや。こういう褒め殺しがほんといやで……。
一同 (笑)。
紺野 太田克史、恐るべしと。
渡辺 でも決断ですよね。1冊まるごと、InDesign・DTPで雑誌をつくっていくというのを2人で決めたのでしょう。
太田 2002年ですね。
紺野 最初は広い部屋に2人だけでやってましたね。
太田 懐かしい…。
紺野 『ファウスト』をつくるための準備室、「太田部屋」があったんですよ。それが全ての源流で、そこからつながってつながって今の星海社という海につながってくるとは思わなかったですね。
渡辺 単に版面をデジタル化していくわけではなくて、コンテンツを瞬間的に伝えるメディア、すなわちネットが一般化して、iPadやKindleや、あるいは各種スマートフォンのような端末が普及してインフラになっていく。このような流れを当時すでに予想してたんですか?
紺野 そこまでは考えていなかったですね。現状、凸版印刷で僕は電子書籍をメインでやっていく部署で働いているわけですが、毎日苦労してますね。昨年電子書籍元年と言われて、振り返ってみれば元年でもなんでもなかったと思うんですけど…。よく星海社は電子書籍と親和性が高い、と言われるんですが、実はある種、逆行するくらいのやり方をしてますね。
太田 「紙大好き!」って感じでもありますもんね。
渡辺 まずウェブで発表して紙におとしていく、というスタイル。
太田 「デジタル・ファースト、ペーパー・レイター」と僕らは言っているんですけど、デジタルは基点で使用していくんですけど、最終的にはやはり紙で、本棚の一番いいところに置いてもらえるような良い本をつくっていこう、という考え方です。
紺野 ただ、電子書籍化を見越した準備はすでに着々と進んでいて、データの構造化を前提としたアーカイブをどんどんしています。
渡辺 『最前線』を組みにする途中で、アーカイブもしている、と。それもどこかにブレイクポイントがあるんでしょうね。
太田 何週間かあれば、電子書籍ストアは出せるんですよ、星海社は。
紺野 巷で言われている電子書籍の形、つまりアプリケーションや電子書籍用フォーマットという意味ではないけれど、今の『最前線』の小説ビューアーはある種の電子書籍ですよね。
渡辺 あー、あれはよくできていますよね。
紺野 今はまだ裏メニュー的な扱いになってますが、『最前線』の編集者ブログでも発表したようにウェブフォントでも見られるんです。
山中 あれは本当に綺麗に見えて、未来を感じますよね。
太田 ウェブというのは基本的に、情報の送り手がフォントを指定できないんですよね。だから大概、よくあるMSゴシックになってしまうんだけど、ウェブフォントという技術を使うと、情報の送り手が「この書体で読んでね」という書体で受け手が読むことが可能になる技術なんですよ。日本語ではまだまだ途上の技術ですね。
紺野 技術的なハードルに加えて権利関係もありますね。フォントベンダーにしてみれば両刃の剣なんですよね。
太田 フォント業界の人たちの中にも「今のままだとこれからのフォント業界はどうなってしまうんだ」という危機感のある人はいて、その人たちと組んでやってみよう、という感じなんです。電子書籍ストアに関してはやろうとすればいつでもできる、という状態にしています。
山中 電子献本という下敷きがありますからね。
渡辺 書籍の贈呈がスマートなんですよね、星海社は。フルデジタルでアーカイブされていて、読みたい人は取りに来て下さい、という形で。しかもそれがきちっと読めるかたちでつくられている。
太田 紙で読みたいという作家さんには、紙の本を送っています。そこは臨機応変にしてますね。乙一さんが電子献本を喜んでました。紙で送られてくるのが嫌だったみたいですね。「すぐ家が本でいっぱいになってしまって、本当に欲しいものが探せなくなる」と。
紺野 PDFでおくっていますが、iPadに入れれば電子書籍のように読めるようにしています。これをきちんと地均ししていって、準備はもう出来ているので、「ここぞ」というタイミングで星海社ならではの電子出版のあり方を提案できたらと。
太田 深津(貴之)さんたちとも力を合わせてやりたいな、と思っています。
渡辺 正しいことをやっていれば時代が追い付いてくるというか、「あっ、これって気がつかなかったけどこの為にやってたんだ俺たち」という時が来ると思います。今、ウェブで公開しているコンテンツを電子出版というかたちにしていくか紙にしていくか、その関係性はまだ曖昧なところがあるんですけど、だんだん正解が見えてきて、そのときに『最前線』でしっかりやっていたことが使える、というのは間違いないと思います。
紺野 そうですね。
山中 たぶん、他の人からしたら星海社が何やっているのかわからないことがたくさんあると思うんですよね。今までの出版界にない、新しいことをしているので。でもそれだけ何かがあったときにすぐにパッと対応できるんですよね。スピード感をつくっているという。
紺野 そのスピード感だけは損なわないように。
山中 『最前線』ですからね!
太田 3年も出さない本をつくらない、とかね。
一同 (笑)。
マンガ新連載、ご期待ください!
太田 いや、待て、自虐ネタはやめよう(笑)。ただ最近、いろいろな物事が異様なペースで進んでいて、『ファウスト』やBOXを始めたときは、『ファウスト』を始める前の僕に1週間に1回あったようなことが毎日起こっていて、とても濃密だなと思っていたのね。ところが星海社を始めてみたら、さらにその密度が上がって、昔の僕だったら1年に1回しかなかったようなことが、確実に1週間に1回は起こるようになってきているんですよね。たとえばマンガなんですけど、秋口から他誌でバリバリの4番を打っていた人が来てくれるんですよ。それが決まったのがつい先週ですね。
山中 先週立て続けにそういうことが2回くらいあって、えっー!って感じですよね。
太田 たぶんこのままいくと○○や△△の編集部の「抹殺リスト」に載ると思いますよ。「モンキー・D・ルフィ」みたいに「ファウスト・J・オオタ」という感じで。懸賞金を掛けられると思う。「死ねっ!」って感じで。
一同 (笑)。
太田 でもやっぱり、正しいかどうかはわからないけど、楽しくやってるじゃん? クタクタに疲れますけど。で、楽しくやってたらみんな、やっぱり傍にやってくるんですよ。それが大事なんだと。そこに噓をつかなければ、今、ニコ生を見てくださっている皆さんの応援があれば、必ず成功はついてくると思っているので。時間はかかると思いますけど。
山中 疲れるけど楽しい、というのは本当にそうで。この会社に入ってこんなに毎日イベントがあるとは思わなかったですもん。
太田 イベントいつもあるよねー。
山中 太田さん、編集部来るとき、いつも楽しそうですからね。
渡辺 そういうところで働きたいと思う人や書きたいと思う作家さんもいるんでしょうね。
太田 作家さんに、書きたい、と思わせるような土俵、リングをつくっておかないといかんな、といつも思うんですよね。そこはやはり楽しそうでないと。作家さんもバカじゃないんですよ。本当に。だってフリーランスなんですから。次の作品を成功させたい、おもしろいものを書きたい、1人でも多くの新しい読者に届けたいという気持ちを、渡辺さんも佐藤さんも作家さんもみんな持っていて、だけど今の出版界の体制がいつまで続くの?ってみんな本当に思ってますよ。そのギリギリ感に僕も含めて、出版界の編集者、経営者がついてきてないんじゃないか、という忸怩たる思いが、正直、ずーっとあるんですよ。僕はそういう不信感をとにかく払拭したいんです。信じてほしいんです。僕らもあぐらをかいているばかりじゃないんだ、という。
山中 最初に掲げていた、強い編集者を募集、というのとフリーランスで募集というのは正にそういうことですよね。
太田 そうですね。今の出版界の人員、給与体系というのはこれから先、どうがんばっても維持するのは無理なんですよ。やっぱり強い編集者とそうでない編集者というのは待遇を分けなければならないし、就社ではなく就職だという思いで編集者になってほしいんですよね。社長の杉原ともよく話をするんだけど、今はまだ来年の4月まで星海社がやれるかどうかわからないじゃん? だから今年は新卒応募ができないんだけど、いつか会社の存続に目処がついたら、星海社でも新卒採用を応募しようと思ってます。でも、応募する人には、フリーになれ、と言います。席は星海社で用意するからフリー編集者として来い、と。今の山中さんと同じ立場ね。正社員? それはちゃんと作家さんと読者を喜ばせて、自分の給料を払えるようになってからね、と。それでも良いなら来い、と。そのくらいじゃないと作家と読者のために役立つ編集者にならないよ。
山中 僕がフリーで良いな、と思うのが、作家さんと同じ立場ということですね。裸一貫でフリーで立って、作家さんと一緒にがんばります、というのが良いと思っていて。
太田 そこは僕より山中さんのほうがカッコいいところですよ。僕、まだリーマンだから。
紺野 そうだよ。太田さんずるいね~(笑)。
太田 (笑)。でもさっき言ったことは良いと思いますよ。成果を上げて、作家や読者に愛された編集者に権限をどんどん与えられる会社に星海社がなれば良いと思うし。それこそカッキー(柿内芳文)とかは光文社新書で4番をはっていた人ですよ。その人が来てくれたみたいに、小説やマンガの編集者がおもしろいことやってるな、と言って来てくれるかもしれない。そんな感じにしたいですね。
星海社新書、絶賛準備中!
紺野 新書も楽しみですね。
山中 星海社新書、ただいま絶賛準備中で、柿内編集長が大車輪です。まあ、星海社はみんなが大車輪ですが(笑)。
太田 柿内という編集者が去年、なんと光文社をやめて星海社へ来てくれて。…まあ、彼はクレイジーですよね(笑)。
山中 おそらく星海社で今、最もクレイジーですね(笑)。
太田 彼が為した仕事は『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』とか『99.9%は仮説』とか『就活のバカヤロー』とか誰もが聞いたことがある新書ばかりです。その人が編集長となって今、星海社新書を準備しています。若い人に喜んでもらえるものになるんじゃないかな。
山中 正に今年、本屋大賞で「中2賞」をとった……。
太田 僕がすごく嫉妬している賞だ! 山田玲司さんの『非属の才能』。
山中 今、オビを掛け替えて書店に並んでいるので、見てみると「これ異常じゃない?」と思っていただけると思うので、皆さん、ぜひ。
太田 あれ、変だよね(笑)。正直、どうかと思うよ。
山中 変です(笑)。突き抜けすぎてた。
紺野 柿内さんはそこがいいんですよ。
太田 中二力は大事だよね。中二病とは、今ある世界を信じないってことだからね。今ある世界を肯定したら何も変わらないんだよ。だからいいんだよ、中二病で。他人に迷惑かけないことは大事だけどさ。今ある出版社やレーベルが心底良い、と思うのならば作家さんはずっとそこと付き合うわけじゃないですか。なにか不満があるから、移ったりするわけですよ。
渡辺 時代と、とくにメディアが激しく変わっていくことを作家はわかってますからね。
太田 でも渡辺さん、それは渡辺さんだからわかってるんですよ。そうじゃない作家さんも編集者もたくさんいます。僕はだんだん、そういう人たちと接点を持つのが時間の無駄だと思えてきたの。それは20代ではわからないんですよ。焦りだとも思う。
山中 僕らがわからないのは当然で、星海社はまさにゼロベースでつくっているんでそれが当たり前って刷りこまれてるんですよ。
一同 (笑)。
山中 で、それが良いんですよ。何の疑問もなく、真っ直ぐ前を向いてやるしかないと。
太田 ですから、今、星海社に来てくれる作家さんというのはクレイジー作家さんばかりですよ(笑)。未来永劫、ずっと『ジャンプ』や『マガジン』が続くと思っている作家さんもいる、逆に危機感を持っている人もいる……という今はすごくおもしろい時代。赤松健さんなんかは『マガジン』で4番を張っているのに、今のままじゃ危ない、って言って新しいことをしている。そういう新しい時代だと思っています。
山中 本当に今後どういうふうに変わっていくか、読めないですね。だからおもしろいんですけど。
太田 でもね、星海社始める前に、杉原と一緒に3ヶ月位、毎日会って、これからの出版界についてシミュレートしたんですね。それはだいたい当たりました。電子化の件とか各社の業績とかも含めて。外れたのは出版社が思ったほど潰れなかったくらいで。
渡辺 僕もそれは思いましたね。
太田 だからそういう意味だと出版界ってしぶといんですよ。出版人のDNAって強いんだ、と思って。それは良い誤算ですよね。そういう出版界の強いDNAというのを新しい場所で生かしたい。PDF・DTPで全部本作ります、というのは10年前なら凸版内部で、なにそれ?って笑われたと思うんですよね。でも今はそんな本ばかりじゃないですか。やっぱ変わるわけですよ。古い世界から「あんなのは○○ではない」って言われるようなことをやっていかないと、すぐに古い世界に閉じていってしまうから、新しいことをやりたいな、と。
山中 編集の手法も変わってきていて、星海社に入ったとき、校閲のやり方を講談社の校閲の鉄人と呼ばれる川崎(与志)さんに教えてもらったんですね。その時に「太田くんのやり方はちょっとアナーキーだから……一応、標準的なやり方を教えるね」と言われて。
一同 (笑)。
山中 結局、太田さんのやり方で動くことになったんですけど、こないだ理由を聞いたら「今はDTPでやるんだからこのほうが効率がいいんだ」と言われて「なるほど」と思いました。
太田 そうなんですよ。本のつくり方の中に、ここの工程は必ずしも今まで通りにやらなくていいだろう、ってものが明らかにあるんですよね。それまでのやり方だったら必要なんだけれど、フルデジタルで作家さんも書いてきているんだったら、ここの部分は必要ない、っていう部分がわかって、そこは飛ばしてつくってるんですよ。
山中 そしたらスピード感が出るんですよね。
渡辺 お時間もよろしいようなんですが、できれば今後も星海社さんとこういった企画を定期的にやっていきたいですね。そういう声もたくさんいただいているので。作家さん呼んだりしながら、毎月ぐらいできるんじゃないですか?
山中 毎月!?
渡辺 おもしろいでしょう?
太田 おもしろいです。これは佐藤さん、そばのひとつも打ちたくなるわ(笑)。
佐藤 (画面の外から)今年の大晦日はみんなでそばを打ちましょう。
山中 「星海社そば」を!
『iKILL2.0』、「横組み」で準備中!
渡辺 あと紺野さんにお願いしなければいけないことがあるんですけど、『iKILL』の続編の『iKILL2.0』。これはもともと携帯小説としてつくったものをベースにしているもので、メールつまりデジタル画面上に出てくる文字のイメージ、特にその「速度感」を紙に現出させたいんです。それができる人は日本に1人か2人くらいしかいないと思っていて。かつて流行った携帯小説に僕はすごく興味があったんですけど、紙の本にする段階でなんかやっつけ仕事をしているものばかりで……。
太田 編集者がいなかったんですよ。
渡辺 もったいなかったな、と思って。もっと紙の本をうまく作れば、オリジナルのデジタル版も加速していったのでは、と。そういう意味で『iKILL2.0』は紙の本として、新しいものにしていただきたいな、と。
紺野 ちゃんと承っております! 今の話を聞いたのでもうちょっと煮詰めてから見せたいな、と思いました。まず横組み。
渡辺 そうなんですよ。横組みでつくっていただきたいんですよ。
紺野 これねー、単純に縦か横かという話ではなくて…。横は一度だけ太田さんとやったんだけど、その時もすごくしんどくて……。横組みは本気でつくろうとすると難しいですね。
(ちらっと見本をみせる)
太田 あっ、なるほど! さすが紺野慎一!
渡辺 なるほどなるほど。
紺野 まだぜんぜんユルいですよ。
渡辺 皆さん! 『iKILL2.0』、着々と進んでいます!
山中 イラストも引き続き新進気鋭のざいんさんにおねがいしています!
渡辺 このイラストレーターさんの絵は素晴らしいですよね。
紺野 ざいんさんはすごいよ〜。
山中 太田さんから『iKILL』に合うイラストレーターさんを探してきてくれと言われまして。たまたまpixivで見つけたんですよね。これはスゴイ! と。
渡辺 pixivで見つけた人に依頼して、書いてもらうという速動感は星海社さんらしいですよね。
太田 おもしろかったですね。見つけるまでは時間がかかって…。
山中 20人くらい太田さんにダメ出しされて、心が折れそうになってたんですよね……。夜中の編集部で……。
太田 山中さんに任せたんだもん。僕が見つけるよりもいい人じゃないと「うん」とは言えないよ。でなければたんに僕が探せばいいだけの話なんだから。
山中 あれやこれやといろいろな人のアイディアを出して、最終的にすがる気持ちでpixivを何となく眺めてたら、異常な絵を見つけたんですよ。
渡辺 それから本を持っている人は気付いているかもしれませんが、イラストは全て中野ブロードウェイの中をイメージしてるんですよね。オタク文化の最先端で日本の中にある近未来、という。
太田 そのあたりとなると中野ブロードウェイなんですよね。
渡辺 『iKILL2.0』、ぜひ買って下さい!
山中 本当におもしろいです!
渡辺 ある種、お札のようなものですから。これを持つと幸せになる、という。
太田 明日から生きていこうという気持ちに!
渡辺 ごめんなさい。手前みそな話で。佐藤さんの『デンデラ』も買って下さいね。
星海社ブックカフェ、来年オープン!?
渡辺 最後にこれからの星海社で「来年すること」を太田さんから話して締めてもらっていいですか。
太田 やりたいことはいろいろあるんですけど、その中のひとつで「星海社ブックカフェ」というのをやろうと思ってて。
渡辺 経験値としてはこのK-CAFEがありますよね。
太田 そうなんですよ。今ニコ生をやっているこのスタジオは、僕が講談社BOX時代につくったKOBO-CAFEがもとになってるんですよね。あのとき渡辺さんと一緒にカフェをつくってほんと楽しかったし、「場所も編集する」っていいじゃないですか。皆さんの意見も聞きながら考えていこうと思います。
山中 読者とつながるホームみたいなところが欲しかった感じですよね。
太田 ホームというか、宿かな。泊りに来て、泊って、また新しい世界に旅立とう、そんなホテルみたいなブックカフェができたらいいな、と思っています。佐藤さんが理生さんと一緒に来てくれて、夫婦でランチ、とかさ(笑)。あとは……そうだ、これは言っていいのかな……。これはかなり斜め上の発言になるんですけど、こないだ急遽決まったんですね。僕、来年劇団をプロデュースしようと思ってるんですよ。
一同 劇団!?
佐藤 (画面の外で爆笑)。
星海社、劇団プロデュース!?
太田 みんな、コメントのタイムラインが衝撃で止まったよ!?
渡辺 演劇ですか、それはどっかの作家さんたちがやっているような文士劇ではないんですよね?
太田 ないです。ガチで劇団です! 夢の遊眠社さんや第三舞台さんのような。(コメを見て)僕は出ないですよ、役者としては。声はかかってるんですけど!
一同 ………。
太田 噓です。かかってません。でも演劇の製作をやりたいんですよ。裏方の。で、いつかできるなら、常設の稽古場がある、というところまでやりたい。
渡辺 新しいコンテンツや才能が見つかったんですか?
太田 そうなんですよ。すごい才能と出会って。何歳だと思います?
渡辺 佐藤さんは「戦慄の19歳」だったから…「戦慄の5歳」?
太田 はるかぜちゃんの半分!? それじゃあ子供劇団だ(笑)! ではなくて18歳の女の子、女子高生なんですよ。昨日も山中さんとその子たちと一緒に演劇を見に行って。
山中 『エレGY』の演劇を。
渡辺 『エレGY』、舞台になったんですね。
山中 明治大学の人が演じてくれて、とても楽しかったです。
太田 実はその18歳の女の子の舞台がこのGWにあったんで見に行ったんです。ここにいる太田、紺野、山中と釣巻(和)さん、竹さん、ライターのおーちようこさんの6人で。佐藤さんも誘ったんですけど「新婚生活のほうがいいから」と断られたんですよ。彼は伝説を見損ねたんですよ。「あーあ、こうやって時代から離れていくんだな」、と思った。
一同 (笑)。
太田 少し詳しく話すと、都立六本木高校というところに通学している女の子なんですよ。その高校って、いわゆるチャレンジスクールで、単位制の学校なんですね。だから1/3くらいは4年生になってしまうという。
山中 ゆるーい高校なんですね。
太田 で、今度、その女の子の戯曲集を出すんですよ。紺野さんにもフォントディレクションをお願いしてるところです。新しい時代の戯曲の版組みをつくってほしいと。で、劇を観てほしくって一緒に行ったんですが、すごかった。天才でしたね。僕は、作家さんの才能を処女作のタイトルとペンネームで判断するんですよ。たとえば、京極夏彦/『姑獲鳥の夏』って天才以外ありえない組み合わせじゃないですか。舞城王太郎/『煙か土か食い物』、西尾維新/『クビキリサイクル』とか。まあ、佐藤友哉って名前はともかくとして(笑)、『フリッカー式』は飛びぬけてセンスがあるタイトルじゃない?
佐藤 (画面の外から)僕の本名に何か問題があるんですか!?
太田 ないないない(笑)。で、その女の子の作品のタイトルが『六本木少女地獄』っていうんですよ。70年代の香りが残っている感じで……グッと来たわけです。
渡辺 なんか寺山修司とか唐十郎とかそんな匂いがしますね。
太田 で、彼女の誕生日が寺山修司が生まれた日なんですね。だから、「私は五月に死ぬと思います」って言ってた。痺れるねえー。
渡辺 寺山修司は僕くらいの世代にとってすごく大きな存在です。僕は寺山修司に憧れて東京に出てきて早稲田の演劇科に入ったくらいなんですね。
太田 ペンネームが「原くくる」さんって言うんですよ。原くくる/『六本木少女地獄』って、とっても良いペンネームとタイトルだと思って。で、実際に会ってみたら、おとなしい感じの普通のかわいい女の子で、拍子抜けしちゃったくらいです。ところが、脚本を読ませてもらったら本当にすさまじくって、学生のころの野田秀樹の脚本を編集者が読んだらきっとこんな気持ちになったんじゃないか、という感じで戦慄しました。キリスト教的な世界観の中で女性性についてのたうち回りながら深く深く考察している、それでいてハイスピードなテンポがあるという、「これ本当に18歳が書いたの?」という脚本。で、脚本ができる、演出ができる、ただしかし、会ったときの印象がおとなしそうだったので、「女優としてはどうなんだろう?」と思うところが少しあったんですよね。それを確かめに公演を見にいったんですけど、女優としてもすごかった。
山中 ここでちょっと笑い話があって、最初の舞台で原さんがウィッグをかぶって出演していて、終わったあと僕は太田さんに聞いてしまったんですね。「原さんってどこに出てました?」って。
一同 (笑)。
太田 山中先生は最前列のド真ん中で観てたのに! なのにわかんなかったんですよ、彼は!
紺野 それくらい豹変しちゃうんですよね。
太田 その公演は新宿二丁目に「タイニイアリス」という、小劇団は一度は通るという感じの歴史のある小さな舞台があるんですけど。そこで1日だけ公演したんですよね。この『六本木少女地獄』は都大会で優勝して、関東大会に出て、そこで落ちてしまってるんです。で、部活を卒業する前に最後に1日だけ公演しようということになっていて、僕たちはその公演を観にいったんですね。「タイニイアリス」って客席150人くらいのスタジオなんですけど、そこに300人くらい集まってしまって。
山中 行ったら大行列なんですよ。
太田 まわりのゲイの人たちから「あんたら邪魔よ! 列をつくりなさい!」って注意されたから「すいません」って謝りました(笑)。
山中 二丁目ですからね(笑)。
太田 で、結局、100人くらい入れなかったんですよ。そのくらい熱気があった。野田秀樹には、大学時代に500人集まって客席に人が入れなくなったという伝説があるそうなんですけど、原くくるは高校生で300人集めているんで、わりと負けていないな、と思った。僕は今まであまり演劇には触ってこなかったんだけど、文学をライブするならば演劇はまさにそうだよね、と以前から思っていて、去年の『満月朗読館』もそういう考えの延長で編集してみたんです。とまあ、もっと真正面から演劇と向き合ってみたいなって思ったので、来年は「原くくる」という才能をプロデュースしたいなと思います。皆さん、必ず旗揚げ公演には来たほうが良いと思います。伝説を目撃できると思うので。
渡辺 原さんの戯曲集はいつごろ出そうなんですか?
太田 8月を予定しています。イラストは竹さん、フォントディレクション紺野さんの最強タッグで準備中です。小泉陽一朗の『ブレイク君コア』の出版を7月に予定しているので2ヶ月連続の新人登場になります。小泉さんが出て、原さんが出て、「星海社ってこんなユニークな、おもしろいものを出す会社なんだ」と若い人やこれから作品を応募しようしている人に思ってもらえたら、という感じです。
渡辺 このニコ生は作家志望の人もたくさん観ていると思います。
山中 ぜひ、新人賞応募して下さい! 待ってます!
渡辺 という感じで時間も迫ってきましたので、今日はここまでにしましょう。太田さん、またやりましょうね!
太田 了解です! ありがとうございました!
一同 ありがとうございました!
(了)