ひぐらしのなかせ方

第五回

竜騎士07が過去に受けてきた名インタビューに、当時の状況を知るKEIYAが解題を書き下ろし! 第一弾は、かつてとらのあなウェブサイト上で公開された「ひぐらしのなかせ方」。

本インタビューは最低限の表記統一などをのぞき、掲載当時のものをそのまま使用しております。新たにKEIYA氏による解題と注釈を加えていますが、※印の注釈は掲載当時のものです。とらのあな様のご厚意に深く感謝いたします。

文中表記(肩書きはすべて当時のものです)

[竜] 竜騎士07氏(サークル代表・シナリオ・原画)

[八] 八咫桜氏(スクリプト担当)

[BT] BT氏(07th Expansion HP管理人)

[dai] dai 氏[音楽担当]

[pre] pre-holder氏[音楽担当]

毎回恒例の質問から始めたいのですが、07th expansionの皆さんの今夏のコミケはいかがでした?

[八] 今回は最終回ということで、シャッターが上がった瞬間から凄く沢山のお客さんが見えて、前回のコミケを欠席していた事もありまして、感激もひとしおでした。

[竜] 彼は冬はどうしても忙しくて夏コミが唯一参加できるコミケなんです。一年ぶりのコミケ参加だったんですね。

[八] 有明よ、私は帰ってきた!って感じで。

(一同笑)

ついに最終話を迎えましたが、その点で特別なものはありましたか?

[八] 最後だっていう感慨もあったし、『ひぐらし』の完結編をこれだけの人が待っているというのは、嬉しかったですね。

[BT] 私もやっぱり『ひぐらし』の本編完結ということで、感慨深いものがありました。あと今回は、黄昏さん(※サークル「黄昏フロンティア」)と合体スペースでしたので列整理が二倍(笑)。いつもより人の流れがすごくて、圧倒されました。

黄昏さん(※サークル黄昏フロンティア)と合体スペースでしたので

黄昏フロンティアは有名なゲーム系同人サークル。「たそフロ」と略称されることも。代表作に、上海アリス幻樂団と共同制作した対戦格闘ゲーム『東方萃夢想 ~ Immaterial and Missing Power.』(とうほうすいむそう)などがある。文中で語られているコミックマーケット70では、07th Expansionと共同制作したフル3D対戦アクションゲーム『ひぐらしデイブレイク』を頒布。後にアペンドディスク『ひぐらしデイブレイク改』も制作された。

その後、株式会社アルケミストよりPSP版『ひぐらしデイブレイク Portable』シリーズが発売されている。【KEIYA】

参考リンク:黄昏フロンティア『ひぐらしデイブレイク』

参考リンク:株式会社アルケミスト『ひぐらしデイブレイク Portable MEGA EDITION』

本編のスタッフルームではBTさんが07th expansionの総務部長ということになってましたが(笑)。

[BT] あ~あんまり言わないでください。仕事が増えるので(笑)。

竜騎士さんはいかがでした?

[竜] いつもとは違った意味で大変でした。でもコミケという場所はユーザーの方と触れ合える数少ない場所で、熱気だとかお言葉を頂けるので、参加出来るのは嬉しいですね。

今回のエンドロールを拝見していたら、07th expansionスタッフの中にdaiさんのお名前が入っていましたが?

[竜] 今までは音楽での参加がメインだったのですが、今回は末期の修羅場に10日も参加いただいて、もう音楽の領分じゃないなということで。daiさんには音楽家さんへの連絡調整とか、色々やっていただいていて、曲を作るという事以上にお世話になりました。

では07th expansionの次作以降もご参加の予定ですか?

[dai] お、お手伝いさせていただきます。

(一同爆笑)

[竜] 良くも悪くも私と八咫桜は非常に近しい関係なので、二人で仕事をしていると幾らでもダレていくんです。馬鹿話を始めてしまって奇声を発しだしたり、服装も男所帯で段々とおかしくなっていくのですが、そこにdaiさんという黙々と作業をする方がいると非常に引き締まる。daiさんという存在がいることでそれに歯止めがかかっているというのはありますね。何より応援に来てくれたdaiさんがすごくまじめに作業をされているので、私たちが遊んでいるわけにもいかないよな、というのが大きいです(笑)。

私と八咫桜は非常に近しい関係

インタビュー第1回の注釈でも触れたように、八咫桜氏は竜騎士07氏の弟である。【KEIYA】

[BT] そうですよね。私はだいぶ染まっちゃってますし。

(一同爆笑)

[竜] 彼が何かあったら手伝いますよと言ってくれて、今回も修羅場でちょっと危ない感じだったので「どうだい、ちょっときてみなーい?」とお誘い申し上げたら、「ぜひ」という返答をいただいたので、参加してもらったわけです。

今回のシナリオは非常に分量が多かったんですが、従来に比べて制作状況はいかがでしたか?

[竜] 確かに長い話ではありましたが、ネタ自体は4年間考えてきたもので、ゼロから書いたわけじゃないんです。実際にシナリオを書き始めたのは各リリースの2ヶ月前かもしれませんが、こういう話、こういうオチにしようというのは、ずっと前から考えていた事なんです。だからそんなに辛い作業ではなかったですね。強いて言えば、今回中盤でちょっと珍しい事をやっているので、その部分のシステムの問題とデバッグに混乱があるかな?という辺りが気になったくらいでしょうか。

今回中盤でちょっと珍しい事をやっている

「カケラ紡ぎ」のこと。プレイヤーは50個ある「カケラ」と呼ばれる世界の断片を順番に覗き見て、過去に何があったのかを知っていく。『ひぐらし』の謎が次々に明かされていく重要なパートである。特定の条件を満たさないと見られないカケラが多く、パズルのように順番を探っていく必要がある。小説版ではカケラが順序よく並べられているため、ページをそのまま読み進めるだけでいい。【KEIYA】

[八] 制作はとにかく時間との戦いでした。ただ、こういうのが欲しいという提案があった中盤は、たまたま自分で試しに作っていたものだったので、実質的にはあのパートのシステム制作には3日もかからなかったと思います。

[竜] 中盤に関しては最初どういうふうにやるかイメージがまとまらなくて、シナリオを打ちながら考えていたんです。だからシステム自体も2転3転して、もっと丁寧にヒントをだそうよという考えもありました。条件を満たすと色が変わるとか。でもそこまで親切・簡易だとゲーム性が無いということで、もうちょっと意地悪なものも有りだろうとマイナーチェンジを重ねて、あえて不親切にしています。「カケラ紡ぎ」は順番のあるTIPSみたいな感じですね。

システムの一つとしても、今までと違う作品的な広がりを感じましたね。

[竜] 今回は本編の最後だし、悩んだところでもありました。読む順番を最初から決めてしまったほうがいいのかとも思いましたが、そうすると今ひとつ世界に没入できない。“神の目線”で全てが同時多発的に起こっている視点が必要だったんです。シナリオに順列を設けると、最初に書いた人より後に書いた人のほうが重要に見えてしまうんですが、それを避けたかった。だから順番をユーザーに委ねたというのはあります。鷹野が重要な決断をしている時に、入江も重大な決意をしているそういうのをほぼ同時に描きたかった。なので、読む順番を委ねるのがよいのかなぁと思いました。最終的にああいう形に落ち着いて、上手くいったのか面倒になったのかは正直わからない所もありますが、最終話はああいう形でありだったのかなと勝手に自画自賛しています。

作品全体の制作という意味ではdaiさんは初参加ということですが、感想は?

[dai] 昔からああいう制作現場に参加することが夢だったので

[竜] それは奇特な夢ですね(笑)。

(一同爆笑)

[dai] 夢見心地で、デバックも楽しいなぁって感じました。

[竜] でも平日も含めて10日近く手伝ってくれていたので、本当にありがたかったなぁ。

[dai] 楽しかったですよー。

今回は音楽担当の方が二人もいらっしゃっているので、そちらのお話もお聞きしたいのですが、お二人と『ひぐらし』の最初の接点はどんな感じだったのでしょう?

[dai] 私はちょうど目明し編の出る前の9月頃だったと思うんですけれど、暇潰し編までを一気にプレイしまして、竜騎士さんに「これ音割れしてませんか?」とメールを送ったんです。

[竜] あれは武勇伝です(笑)。

[dai] 暴挙でした(笑)。

[竜] あのメールは「暇潰し編までやりました、面白かったです。」という前置きが一行で終わっていて、2行目から音楽と音質に関して延々と綴ってあるんです(笑)。なんだ凄いメールが来たなと思って。で、曲を聞かせて頂けませんか?と返信したら早かった! 3日ぐらいで「私が過去に作った曲をHPにアップしたので聴いてみてください」という返事が返ってきたんです。聞いてみたら「あれ? これってもしかして凄くいい曲じゃない?」と思ってですね、ただ私は音楽に関しては素人で、自分の印象にいまいち自信がなかったので、お付き合いがあったGMLの大将さんにそのアドレスを送って「いい曲だと思うんですけれど、どう思います?」と聞いてみたら「ぜひこの人をmixiの音楽サークルに入れよう」というお返事で、そこで「やっぱりこの曲はすごい曲だったんだ」と思いましたね。

その最初にアップされた曲というのは、ひぐらし本編では使われているんですか?

[dai] 「Soul_scour」と「iru」を使って頂きました。

「Soul_scour」

インタビュー第2回の注釈で触れた『Thanks / you』のページで試聴可能。音楽室で再生すると、どこか寂しげな紫がかった山並みが表示される。詩音の心情をイメージした演出だろう。下記の文章が表示されることもある。【KEIYA】

悟史くんは、消えた。

でも、消えたのは彼だけじゃない。彼が消される理由さえも、消えた。

ここは人間の世なのだ。人間が消したに、決まっている。

『鬼隠し』で消えてしまったなんて、認めない。

ノート43ページ

参考リンク:M.Graveyard『Thanks / you』

「iru」

ピアノメインの穏やかな曲。音楽室で再生すると、頬を赤らめて悟史に笑いかける詩音が表示される。二人の穏やかなやりとりをイメージした演出だろう。下記の文章が表示されることもある。【KEIYA】

満足に日の下を歩くこともかなわない自分が、

束の間の日向で出会ったひとりの男の子。

私のような斜な人間が、彼の純朴さに惹かれるなんて

どうして予想できたでしょうか。

ノート5ページ

pre-holderさんのひぐらしとの接点はいつ、どんなときですか?

pre-holderさん

読みは「ぷりほるだー」。サークルかきくけこ代表。『ひぐらし』には皆殺し編から参加し、「door」「rain」といった曲を提供。音楽室では「pre-holder@137」とクレジットされている。かきくけこ公式サイトのプロフィールに〈2005年から同人活動スタート〉とあるが、これは皆殺し編が頒布された年(2005年12月)である。【KEIYA】

参考リンク:かきくけこ

[pre] 昔からdaiさんとは知り合いで、自分はあまり同人作品に詳しくなかったんですが、友達から彼が凄く有名な作品に楽曲を提供して、すごい仕事をしているっていうのを聞きまして。僕も試しに鬼隠し編の体験版をダウンロードしてやってみたら、非常に面白かった。それで幾つか楽曲を作って、daiさん経由で竜騎士さんに聞いていただいたりしたんですが、残念ながら縁が無かった。それでしょうがない諦めようと思っていたら、皆殺し編の中で、アンビエント系の不思議な感じの曲が足りないんですとdaiさんから聞いて、それを作ってみたんです。

[dai] ちょうど竜騎士さんから欲しい楽曲の雰囲気を聞いて、これはpre-holderさん向けだなぁと思ったんですよ。

[pre] 仕事との兼ね合いで色々迷いや悩みもありましたが、サンプルを聞き込んで自分なりに作っていくうちに、一つ形づくられてきたものがあったので、それをお渡ししました。それが皆殺し編の最初にかかってびっくりしましたが(笑)。

[BT] カケラの空間を描かれたシーンに必ずかかる曲「鼓動」ですね。

「鼓動」

正式なタイトルは「Near-sightedness_to_parallel 鼓動」。独特の浮遊感を持った神秘的な曲。宇宙空間に似たカケラの海とよくマッチしている。【KEIYA】

『ひぐらし』の音楽に関しては"祭システム"のお話が以前ありましたが、作品の途中からでも新しい才能がどんどん入ってくるというのは凄いことですね。

[竜] そうですね。素晴らしい音楽を提供してもらえる環境があるということで、皆さんに感謝しています。ありがとうございます。

[dai & pre] いえいえ、こちらこそ。

[竜] 音楽とノベルを組み合わせるとサウンドノベルになるわけですが、組み合わせることによってより素晴らしい魅力が宿るのではないかと思っています。だから、ノベル側はより素晴らしい音楽をお借りしたいと思うし、音楽側もより素晴らしいノベルに使用されたいと思うわけです。だから、いくら素晴らしい音楽でも、ノベルの方の出来が悪ければ、一方的に足を引っ張ってしまう。それでは音楽家の方に失礼です。無論、逆も然りで、より良い音楽をお借りしたいとも同時に思う。つまり、互いに相手に負けないと思う真剣さが相乗効果を生み出しているのではないかと思っています。

クリエイター同士の真剣勝負といった感じですね。

[竜] 音楽家の皆さんも曲に魂を注いでいるわけで、特に音楽は一度何かの形で発表してしまったら、全く同じ曲を何かに使いまわすことは難しいと思うんです。そう考えるとやはり自分のかわいい娘ならば、一回限りの嫁ぎ先は気になると思います。今色々な楽曲を預けていただけるのは、妥協せずに作ってきたひぐらしという作品が、娘を預けるに値すると認めて頂いているということだと。daiさんやpre-holderさんが今後も作品を作っていかれて、より凄い所から声が掛かって、もう07th expansionなんかに曲出してる暇はねぇんだよとか(笑)、そういうことになったなら、それはこちらの努力が足りなかったということになりますね。

以前、竜騎士さんが八咫桜さんに、「素人だけど必要な演出に妥協はしない。それに合わせて作っていこう」とおっしゃったと言う事を伺いましたが、それに通じるものがありますね。

[竜] そうですね。正直に言うと、良い曲でもボツにさせていただいたものは、実は結構あります。それは、音楽が劣っているから使わなかったのではなく、『ひぐらし』のシーンに合わなかったから、ということなんです。だからこそ、作品中に散りばめた曲はいずれも、そこに一番ぴったり合うと、私自身が最高に納得した上で使っているんです。だからこそ、そこには一切の妥協がないつもりでいます。真剣勝負ですので。

「thanks/you」のブックレットの中で「ボツが重なってどうしようかと思いました」というdaiさんの文章があったかと思うんですが。

[dai] 曲のパワーが前より落ちているんじゃないかと大将さんに指摘されまして。

厳しいお言葉ですね。

[竜] 私は素人なので良し悪しでしか見えないものを、大将さんはどうやらその裏にあるクリエイターの心の波長まで読み取れるようで(笑)、「今絶好調だねぇ!」とか、「どうしたの最近?」とか非常に微妙なものを見分けられるみたいです。

[dai] そうですね。色々指導していただいています。

[pre] 大将さんが誉めてくれたことがあって、その時はめちゃめちゃ嬉しかったですね。

そうして作品を発表されているお二人ですが、『ひぐらし』本編の中で使用された曲から、気に入ってらっしゃる、もしくは、満足している楽曲を一つ挙げていただけますか?

[pre] 「Liberating」が流れた時はめっちゃくちゃ嬉しかったですねー。

Liberating

カケラの海など複数のシーンで使われている。文中にある通り、スタッフロールの直前に流れるのはこの曲である。音楽室で選択するとFrederica Bernkastelの詩が表示される。【KEIYA】

[竜] 祭囃し編の制作の最後の方に上がってきた曲だったのですが、一発で気に入って使わせてもらいました。最初に聞いたときには"お子様ランチの旗"だけに限定して使いたいと思ったのですが、使い心地の良さについあちこちで使ってしまった。事実上締めの曲とさせていただきました。本当にいい曲でした(笑)。

お子様ランチの旗

祭囃し編の隠しエンディング。出現条件は、一度クリアした後にカケラ紡ぎをノーミスで完了させること。その内容は、田無美代子がお子様ランチの旗を二十本集めきり、両親と共に幸せな生を送るというもの。鷹野三四という存在が生まれず、雛見沢にも惨劇が訪れない世界である。【KEIYA】

[pre] ありがとうございます(笑)。竜騎士さんの日記で、空の下で手を広げるレナの姿のジャケット絵が上がっているのを見て、そのイメージで作りました。

竜騎士さんの日記

竜騎士07氏はイラストについて日記で次のようにコメントされている。【KEIYA】

最終的なジャケットということで、「祭囃し編」だけを意識したものでない、解のトータル的なイメージになっています。

出題編と対になる雰囲気になるよう意識しました。あと、やはり答えが出てすっきり?するのをイメージして、そんな感じの青空にしてみました。

制作日記・2006年7月5日「ジャケ絵できました」より引用)

daiさんはいかがでしょうか?

[dai] 私の場合は、どれっていうのは選びづらいのですが、強いて言うならば罪滅し編の「birth&death」だと思います。作曲もこれで終わりかなぁと思うくらい覚悟を決めて作ったのですが、凄く印象的なシーンで使っていただけて、ゲームをしながら泣き出してしまいました。

「birth&death」

正式なタイトルは「Birth_and_death」。レナが殺人を告白するシーンなどに使われている。音楽室で選択するとゴミ山を背景にしたレナの立ち絵、あるいは夕暮れの山並みが表示される。【KEIYA】

[竜] 罪滅し編は「birth&death」が極めつけの泣き曲で、これが流れると泣かなくてはいけないような(笑)感じがするぐらい、罪滅し編のキーになる曲ですね。

確かに印象的なシーンに必ず掛かる曲でしたね。目明し編の同じくキーになりました「you」も同じぐらい印象的な楽曲だと思いますが、あの曲の制作はどういった契機だったのですか?

[dai] エンディングをイメージして祟殺し編のエンディングをずーっと流しながら作りました。

音楽を作る時というのは、どういった感じで進むものなんでしょう?

[pre] 「つくるぞ!」っていう形で作るのではなく、軽い感じで力が抜けた時のほうがいい曲が作れる気がしますね。

[dai] 私は結構最初から形にする事を考えています。文章を頭の中にコンバートしていくとメロディになったりします。

(一同感心の声)おお~!

[dai] 竜騎士さんの文章を見せていただいて、このシーンならば自分は何を思うのか、というのを煮詰めて考えていくと、メロディが浮かんだりすることはあります。

[BT] 変な文章をインプットしてみたいですね。

(一同爆笑)

[竜] うぉおお、チーン、確保しましたーとか(笑)。

うぉおお、チーン、確保しましたー

祭囃し編でホテルから脱出した富竹が山狗に確保されるシーンを指す。原作版では勇ましい雄叫び、機関車にたとえられた力強い疾走に誰もが富竹の大活躍を期待したのだが、「チーン」という鐘のような効果音と共にあっさり捕まってしまう。

最後までネタキャラなのかと思わせておいて、終盤の富竹は鷹野と共に素晴らしい見せ場を作る。そのシーンは皆さんがよくご存じの通り。アニメ版ではなぜか富竹の名台詞がカットされていた。【KEIYA】

[八] どんな曲ができるんだろう(笑)。

daiさんはやはりピアノが一番お好きなんですか?

[dai] はい。ピアノは一番感情を込めやすい楽器ですので。

「you」とならんで、祭囃し編では「being」が非常に好評だと伺っていますが。

[dai] 恐縮です。

[竜] そのファイル名はなんだっけ? 曲名って最後の最後に決まるんで、製作中はファイル名で呼んじゃってるもので。

(一同爆笑)

[dai] “追加の1”です(笑)。

[竜] あー! 鷹野の宣戦布告の曲ですね。あの曲は追加なので「ミニゲームにでも使ってください」といってもらった曲なんですが、いざ聞いてみたらどう見ても最終決戦の曲なんですよ(笑)。

鷹野の宣戦布告

古手神社を訪れた鷹野が、姿を現した羽入に向かって宣戦布告をするシーン。二人は強固な意志で相手に勝利すると宣言し合う。祭囃し編プロローグのクライマックスであり、このシーンの直後「第8話 祭囃し編」「ひぐらしのなく頃に解」というタイトルが順番に表示される。【KEIYA】

[dai] 一応戦闘シーンを想定して書いた曲ではあるんですが、ピアノしか使っていないので、使いどころがないんじゃないかなーと思っていました。

ピアノしか使っていない

「being」はリズミカルなピアノが印象に残るスリリングな曲。バックでパーカッションなどの音も鳴っている。音楽室で再生すると赤く染まった古手神社、あるいは魅音の立ち絵が表示される。【KEIYA】

[竜] 私の方で出したオーダーは「フェードインで始めてください」っていうのと、「盛り上がる所だけボリュームを上げてください」っていうその2箇所だけお願いして使わせていただきました。かなりカッコいいシーンで使わせてもらったので、何気においしい曲だなぁと。非常に気に入っている曲のひとつです。

「you」のアレンジ曲が本編でもいくつか掛かっていましたが、竜騎士さんのこの曲に対する思い入れはいかがですか?

「you」のアレンジ曲

作中には「you」の別バージョン、あるいは「you」のフレーズを用いた曲が複数用意されている。穏やかな「Thanks」、TIPS画面で流れる「you(M.Box風アレンジ)」、哀切な「Confession」など。【KEIYA】

[竜] 実は、私自身から、「you」のアレンジという形式をオーダーしているわけではないんですよ。

えっ? そうなんですか? では、daiさんのほうで作っておられるんですか?

[dai] あれは基本的に自分で作っています。丁度アニメが始まる頃に、自分ならどう曲を作るかなぁと考えて煮詰まっていたらああいう感じになっていました(笑)。

音楽担当のお二人に最後に伺います。お二人にとって『ひぐらしのなく頃に』はどんな作品でした?

[pre] 曲がボツになった時は「悔しい」っていうのもありましたし、皆殺し編の時はなんとなく恥ずかしくて「やめてー」って感じだったんですが、祭囃し編に参加させていたただいて、実際本編をプレイしてみると、まるで自分の曲じゃないものが流れているような、なんと言うか、参加できて夢みたいでした。本当にその気持ち以外の何物でもないですね。

[dai] まず感謝の気持ちがあります。自分の曲をゲームで使っていただくのが小さい頃からの夢だったので。

[竜] 私の方こそ、良くぞメールを送ってくださいました(笑)。あのメールがなかったら今日という日がなかったと思いますし、daiさんが自身で切り開いた運命の一通だったと思いますよ。

[BT] 電話ボックスの中にあった1枚の10円玉ですね。

電話ボックスの中にあった1枚の10円玉

祭囃し編で幼い頃の鷹野(美代子)が電話ボックスの中で発見する10円玉のこと。彼女は自分の力で運命を切り開こうとする。【KEIYA】

ぜひ今後とも良い曲を聞かせてください。

[dai & pre] がんばります。

では改めまして、07th Expansionの御三方にお話を伺いたいのですが、本編が完結した今のお気持ちはいかがでしょう?

[BT] 感慨深い、ですね。一番最初に『ひぐらし』の構想を竜騎士さんから聞いたときに、割と早いスケジュールで考えておられたんです。でも編が進むごとに文章量が大きくなって、規模もどんどん大きくなっていって、最初は本当にコミケの島中で50枚・100枚と手焼きして配っていたのが、祭囃し編でここまで大きくなったんだなぁというのが信じられない気持ちです。4年半かかってしっかり完結したというのがジーンと来ています。もう本当に感激したというか終わった!と思いました。それが何よりうれしかったです。作品も途中で紆余曲折ありましたし、途中で一回コミケ落として(笑)。

途中で一回コミケ落として

2003年12月の冬コミのこと。暇潰し編を頒布する予定だったが間に合わず、2004年の夏コミにずれ込んだ。【KEIYA】

[竜] あれは苦い思い出だなぁ(笑)。

[BT] そのころ、竜騎士さんの仕事が本当にお忙しくて。

[竜] 『ひぐらし』を三年ぐらい休筆しようかと思った時があったんです。祟殺し編を落とした辺りはリアルの仕事が本当に忙しくて。

祟殺し編を落とした辺り

言い間違え、ないし誤表記だと思われる。落としたのは暇潰し編である。

当初は暇潰し編が存在せず、目明し編を第四作目として発表する予定だったらしい。また、落とした暇潰し編をそのままお蔵入りにして目明し編を出す構想もあったようだが、最終的には内容を勘案した上で暇潰し編を完成させている。詳しくは当時の制作日記を参照。【KEIYA】

[BT] 疲労で仕事先の階段から立ちくらみで転げ落ちたり、あまりにも体に無理がかかっておられた。そういう中での執筆、制作作業だったので、途中で潰れてしまうんではないかという気持ちが凄く強くて。今回こういう形で終われたのは本当に良かった、その一言に尽きます。

[竜] 挫折しそうな時はありました。でも苦労が報われるだけの大勢の方からの声があったからこそ、本当に挫けないで続けられたというのがあります。もしも、これだけ苦労して反響ゼロなら「やめちまえー」になったかもしれませんね。よくネタにするんですが、あのころ私達はすごく東方にハマっていたので「鬼隠し編がダメなら、次は東方のカードゲームだ!」とか言ってました。

(一同笑)

東方

上海アリス幻樂団の作品『東方Project』のこと。時期的に考えて、鬼隠し編と同じ2002年8月の夏コミで頒布された弾幕シューティングゲーム『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』(とうほうこうまきょう)を指した発言だと思われる。

上海アリス幻樂団はZUN氏の個人サークル。今はシャッター前に配置されるのが当たり前の大人気サークルだが、『東方紅魔郷』の次作『東方妖々夢 体験版Plus』までは島中に配置されていた。『東方紅魔郷』の面白さによってすでに熱狂的なファンがついていたため、『東方妖々夢 体験版Plus』頒布時は長い列ができた。広い通路に待機列を形成して数人ずつ案内するという対応を取ったが追いつかず、途中でスペースが場外に移動されるという一幕も。その後、オンリーイベント「博麗神社例大祭」の開催や並外れた規模拡大、ニコニコ動画で起きたムーブメントはあまりにも有名である。【KEIYA】

[竜] それで綿流し編を作った後も「これがダメなら次は東方のカードゲームだ!」(笑)。もうね、弾幕対戦カードゲームとして、ルールも考えていたんですよ。

それはどの程度本気の話で?

[竜] 本気も本気ですよ。ルールとか戦闘システムとか、作る気満々でデッキ構成とかも考えていました。でも綿流し編を出したころからチラホラと感想をいただくようになって、楽しみにして来られる方が増えていたので、これはしっかり完結させようと思い始めました。

我々が最初にインタビューさせて頂いた頃から急加速が始まりましたね。

[竜] そうですね。体験版を公開してから急に知名度が上がり始めて。

[BT] 暇潰し編の頃に体験版として、鬼隠し編を配布しはじめて、本当にもうここで一気に広がっていかないと、ちょっと竜騎士さんの心情的にも厳しいんじゃないかと感じてましたので。

[竜] (ため息)嬉しいですね。

[BT] 何とか広げたいと思っていたんです。だから、半ば自分の独断で強引に配布しましょうとお話しました。

[竜] 実はBTさんに話をもらうまで、無料体験版の公開という概念を知らなかったんです。そもそもvectorさんのようなDLサイトがあるという概念も無くって。私はコミックマーケットの参加と、そこでの頒布以外の方法をそもそも知らなくって、普通のソフトハウスならば、会社のサイトで公開しているのかもしれませんが、個人が出来るとは思わなかったんですね。

vectorさん

正式なサイト名は「Vector」。多数のフリーウェア、シェアウェアを掲載しているサイト。製品ソフトウェアも取り扱う。こういった有名サイトにソフトウェアを登録することで、利用者への浸透を図ることができる。【KEIYA】

先ほどのdaiさんのメールのお話ではないですが、もしかするとそれが無かったら今の『ひぐらし』は無い可能性も。

[竜] ええ。BTさんが「無料体験版やりましょうよ」「いいんじゃない? 鬼隠し編なら一話全部いっちゃっていいよ」という会話がなかったらというのはあります。

鬼隠し編なら一話全部いっちゃっていいよ

通常、ゲームの体験版は「シナリオのプロローグだけ」「前半部分だけ」といった制限がかかっていることが多い。しかし『ひぐらし』は鬼隠し編をノーカットでエンディングまで遊びきることができる。あの衝撃的な展開はやはりフルでプレイしてこそ。口コミを聞いて体験版をプレイし、見事にハマってしまったというプレイヤーは数多い。【KEIYA】

八咫桜さんは?

[八] NScriptを勉強したから何かやろうよ、と言ったのがはじまりかな?

[竜] 何か新しいことをやりたいから勉強してみる。と彼が言い出したんですね。

[八] ちょうど竜騎士さんも、カードゲーム以外の何かもやってみたいと言っていたんです。だから「こんなのでアドベンチャーゲームみたいなものが作れるかも」と話してみて、じゃあやってみよう!というのが本当の始まりかもしれません。竜騎士さんがお父さんなら、私はお母さんみたいなもので(笑)。

[竜] 彼はTYPE-MOONさんの『月姫』をうちの関係者では最初にプレイしていて、『月姫』が動いているのはNScriptという事、NScriptを覚えれば、あくまで技術的には『月姫』の制作が可能になるという事で、実際に『月姫』を作るには並外れた才能が要ると思いますが、一つの可能性としてNScriptを学んだんですね。

[八] 途中私も挫折しそうになったんですが、その頃には既に作品があった訳で、子供(作品)をここで放りだしていいのか?と思ってました。竜騎士さんと私だけという二人の制作環境だったので、私がダレたらそれで作品が終わってしまう。それは無責任だ。やろうって言い出した私が抜けるのは、あまりにも不義理ですし。この子を最後まで育てたかった。そしたらいつのまにか皆さんに見ていただける作品になっていました。あれよあれよという間に色んな方に手伝っていただいて、本当にありがとうございました(笑)。

[BT] 本当にお疲れさまでした。NScriptも全くゼロからでしたからね。

[竜] プログラムの知識も経験もない、ごく一介の普通のゲーマーが、ある時一念発起して作る側になりたいと目覚めた。予備知識があったわけじゃないんです。本当にゼロからのスタートだったので、今彼が居るべくしてここに居るのは、彼が自ら学んだ結果なんですね。その彼の奮起と努力は本当にすごいと思います。

前回、前々回と演出の可能性についても考えておられましたね。

[八] 自分に今出来ることの限界をどんどん破っていきたいと思いました。読むもの、見えるものに組み合わせて一つ何かのアクションを加えたい。そういう意味でひぐらしは、色々試すことが出来た素晴らしい素材でした。

先ほどのお話だと、カケラ紡ぎのシステム面をご自身で考えておられたとか。

[八] 何か面白いやり方はないかなぁと、ゲームとは別に自分で色々作っていまして、そんな中でちょうど竜騎士さんがやってみたいと言ったシステムに合ったものが手元にあったので出来たシステムです。

竜騎士さんいかがでしょうか?

[竜] まだ終わってはいない。と先ほど申し上げたんですが、本当に終わるというのは、もう『ひぐらし』を書かないという事なので、まだ『ひぐらし』は様々な面で続いていくから、終わってない。と申し上げたんですね。

一区切りつきましたけれど、そこまで辿り着かれたお気持ちはいかがですか?

[竜] 私自身が大風呂敷派なので、この話はこうなってここで終わるというのが予めはっきりありまして、その通りにやっていけば、必ずいつか終わる。完結へのビジョンがあったんです。4年半もかかるというのは最初の頃は予見してなかったですが、いつか辿り着く今日だったと思っていましたし、やっとそこにたどり着けたなぁという感じです。自分で辿り着けないかなと思ったのは、先ほどもありましたが、祟殺し編の頃に本職が忙しくってスケジュールが取れないなと思ったときだけで、時間的な限界以外の自分の中の限界という形では、挫折すると思ったことは、一度も無かったですね。こんなことを言うと凄く偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、必ず完結できる、と確信していました。むしろ私が不安だったのは、完結は出来るけれども、完結に相応しい締め括り方が出来るのかなというのが不安だったりしました(苦笑)。

以前のインタビューでもうかがいましたが、一番最初の打ち合わせでどういう話かは決めていたとの事でしたね。

[竜] 骨組みに対してどういうふうに肉をつけていくのかという作業でした。骨格にリアリズムを付けるという作業にはやはり時間がかかりましたが、骨自体は決まっていましたね。作っているうちに枝葉を増やしたり、削ったりというのはありましたけれど、シナリオ自体は全6話ぐらいで考えていましたが、暇潰し編をつくったおかげで7話になった。7話じゃおかしいなという事で8話つくったというのがあります。だから暇潰し編を出す頃には、各話のタイトルだけは決まっていました。

反響が次第に大きくなっていきましたが、プレッシャーは?

[竜] プレッシャーはどちらかといえば、お店に委託する事に対してありました。まだマスターアップしていないのに、発売日一ヶ月前に予約が始まってしまって「虎の穴で予約始まってるよ、俺たちも予約しようぜー。マスターアップしてないけどなー」とか。

(一同爆笑)

[竜] うちのマスターアップはコミケの約半月前なので、ユーザーさんから「お店で予約できません!!」とメールが来る頃は、本当に修羅場の真っ最中なんです。だからいつも「これが間に合わなかったら、洒落じゃすまないよね」と思ってゾッとしました(笑)。今でもお店で予約開始したと聞くと、導火線に火がついたというか、このまま走れば間に合うよ、転ばない限り(笑)とか感じます。

さて今回の祭囃し編の内容に関していくつかお伺いしたいのですが、まずオープニングの鷹野三四の過去について、彼女の幼少期の出来事はどんな意味があったのですか?

[竜] 三点ありました。まず一つは、『ひぐらしのなく頃に解』という作品は、最初に目明し編からはじまりますが、目明し編は詩音の脱走劇からはじまりましたよね。だから締めくくりも誰かの脱走劇として描こうと思ったという点があります。オープニングは鍵穴に鍵を合わせるという目明し編の冒頭シーンを意図的に重複させました。詩音はまんまと逃げおおせましたが、鷹野は逃げられなかったという対比のお話ですね。あとは、彼女という普通じゃない女性が形づくられる過程には、普通じゃない過去があったという一つの演出です。最後に一点、鷹野三四という人は悪人なんですよね。悪人の作り方っていうのかな、作品には書いていない事なんですが、幼少期の不幸というのは、その人が成長した後に必ず何かの影響を及ぼすんですね。現実社会で問題となっている事例として、幼少期に虐待を受けた子は、将来、自身が虐待者になる可能性が高いという。ババ抜きのババを、世代を超えて誰かに渡さなくてはいけないというように。だから52番目のカケラには、「子どもは幸せでなくてはいけない」という隠しメッセージを持たせているんです。子ども時代の虐待は言語道断、素敵で豊かな子ども時代を与えなくては、未来に幸せを贈ることができないという意味で。まあ、説教くさいことをしているのかもしれませんが。

52番目のカケラ

先ほど注釈を入れた「お子様ランチの旗」のこと。

「お子様ランチの旗」はカケラ紡ぎにおける52個目のカケラであり、この数字はジョーカーを抜いたトランプの枚数に一致している。誰も排斥されることなく全員が輪に加わった世界(ジョーカーが存在しない調和の世界)というのは、鷹野だけでなく羽入にも当てはまる要素だ。梨花の言う〈1人を敗者にしなくてはならない、人の世の罪からの解放〉に重ねられており、『ひぐらし』のテーマと密接に関わるエンディングである。【KEIYA】

強く語りたいというお気持ちを作品から感じた部分ですね。

[竜] 沙都子の時は、今、物理的に起こっている虐待という形でしたが、本当に悲しいのは、虐待されて育った子どもが大人になって苦しい思いをする事にあるのかもしれません。鷹野三四が幸せに大人になったのならば、全然違う女性に育っていたはずなんです。でもそうなると、ひぐらしの物語の事件は殆ど起こらなかった。その代わり村がダムに沈んでいたかもしれませんが(笑)。

その代わり村がダムに沈んでいたかもしれませんが

田無美代子が雛見沢症候群の研究とは無縁の人生を送るため、「東京」の力でダム計画を頓挫させる者がいなくなる。犬飼寿樹誘拐事件も発生せず、雛見沢はダムの完成と共に水中に没してしまうだろう。【KEIYA】

そのお話の後で伺うのは、少し失礼かとも思いますが、今回の祭囃し編で、本当に震え上がった内容、孤児院にあるという三つの罰なんですけれども、あれはどういったものだったのですか?

[竜] んーエグイので、あんまり書かないほうがいいと思います。想像で留めておいていただいたほうが。痛々しいですよ。

三四が捕まった時に、お友達が鳥小屋で。というのが本当に怖かったんですが。

[竜] あれは、ある洋画SF映画だったかな? 日本に輸入された時には、残酷なシーンが全てカットされていたんですね。衛星放送でのみノーカット版をやったっていう曰くつきの作品で、その中に(中略)なんですが、

〔一同〕うわーっ。

[竜] まあ、ご想像にお任せするのがいいかと思います。

雛見沢症候群という存在は、結局どのようなものなのでしょうか? 竜騎士さんは現実に存在する何物かのメタファとして書いていらっしゃるのではないかと私は感じたんですが。

[竜] 雛見沢症候群の表現上の良い所って、ウイルス性疾患という逃げ道があるんですね。精神性疾患って許せないと思いませんか? 殺人犯が捕まって精神が病んでいたので病院行きですと言われても納得できないけれど、電車が事故にあって、運転手が無呼吸症候群でしたと言われると、かわいそうにと納得する。だから私は世の中は、器質性の疾患は理解できるが、精神性の疾患に関しては理解できないと思うんです。例えば圭一がレナや魅音を殴り殺してしまったというのは、その事件だけを取って公的に報道されるときには、精神性の疾患がある男子生徒がクラスメート二人を撲殺したという話になる。けれどユーザーには雛見沢症候群が発症したという前提があるから、「ああ、圭一も被害者なんだね」という観点がなりたつ。雛見沢症候群、つまり羽入が圭一の罪をかぶることによって、罪を許しているわけなんですね。雛見沢症候群がウイルス性だということで、圭一が許される。それが実は、羽入の言う人の罪を請け負うことによって犯人の罪を許しているということに繋がっているわけです。ちょっとこの辺りが難しくて中々纏められないんですが。

野村というキャラクターが出てきましたが、あのキャラクターは?

[竜] どこまでを公開していいのか難しいですが、あれは明らかにシャドウガバメントの別の陣営の人ですね。雛見沢症候群によって事件が起きれば、要職の人事が変わって、自分達の派閥が有利になると判断した人間達が使うエージェントといったところです。すべて仕事、jobと割り切って物事を進める人物、野村個人にはイデオロギーは無く、自分のクライアントが誰かと言うのは本当に興味が無い。設定上では野村という名前もあくまで複数の内の一つの名で、ダブルスパイ・トリプルスパイとしてそれぞれの陣営と繋がっているという事もありますね。だから名前がたくさんある。

[八] スタッフロールにちょっと書いてありますね。

[竜] だから鷹野が黒幕を気取っていても、その上にはトラウマを抱える鷹野を使う影の黒幕がいたというお話です。生意気な言い方をするならば、鷹野を美化するために作った都合のよい悪役だったんですけれど。

鷹野の話が出ましたが、彼女は前回いわゆる「ラスボス」として登場して、今回のシナリオは彼女の幼少期から始まった。いわゆる“絶対的な悪”というのは、竜騎士さんはあまり描かれないのですか?

[竜] 『ひぐらし』の世界では否定しましたね。

悪というものは無く、個人個人の主張があるというお考えなのですか?

[竜] うーん、そもそも善悪の概念自体が、ある特定個人に対して協力的か非協力的かで判断されるもので、絶対悪というのは存在しないというのが、『ひぐらし』の世界であったわけですけれども、実際に現実では絶対悪っているんですよ。世の中、人が何を言ったとしても、何の意見を出しても脇で否定する人。それは純粋に悪だと思います。本当に悪ではない人というならば、その人が自分と同調する意見ならば肯定するし、違う意見を言えば否定する。これが普通だと思います。ですが他人の言を否定することで自分のアイデンティティーを表現する人というのはいるもので、これは純粋に悪だと思うんです。『ひぐらし』の中ではそういった絶対悪というのは描いていませんね。実を言うと皆殺し編の最後に出てきた鷹野というのも出題だったのかもしれません。こんな神がかり的な悪役と言う存在。その人物の形成の背後には一体何があったのか、というお話ですね。

コミュニケーションが断絶する事の恐ろしさのような物が一貫して底流に流れていると思うんですが?

[竜] 『ひぐらしのなく頃に』は、コミュニケーションとディスコミュニケーションの対決という明白な構図があるんです。人と相談すると出来ないはずの事が出来るようになる。逆に相談しないと物事はどんどん悪くなってゆくというのがあるんです。それに追い討ちをかけるのが雛見沢症候群という仕掛けなんです。

でも最後に一言、「それはファンタジー」という文章がありました。

[竜] (笑)。やっぱり世の中には、一人でやったほうが早いようなことはあるんですよ。人を巻き込めば巻き込むほど連絡調整が面倒になったり。キミと君二人で幹事やってくれっていわれるならば、多少手間でもいっそ一人でやらせてくれ。と思うことはあるじゃないですか、でもコミュニケーションをしましょうという事を讃える作品で、コミュニケーションは面倒くさいと描くと、全否定になってしまうんですけれど(笑)。

ゲーム盤の話とか、重ねて透かせて見ると見えてくる物語というお話が以前ありましたが。考えていて楽しい部分というのは、そういったゲーム的な構造の部分と、テーマを据えたストーリー性の部分とどちらでしょう?

[竜] 一番楽しいのは裏ジャケを作っているときかな(笑)?

(一同笑)

裏ジャケ

原作版『ひぐらし』の裏ジャケット(バックインレイ)には、毎回キャッチフレーズが印刷されていた。該当箇所を抜粋する。

・出題編 「惨劇に挑め。正解率1%」

・目明し編「惨劇を暴け。(主人公)園崎詩音」(「主人公」のみフォントが小さい)

・罪滅し編「惨劇を踊れ。それは喜劇」

・皆殺し編「惨劇を嗤え。真相への誘い」

・祭囃し編「惨劇なんてない。あったのは、悲劇と喜劇。」

裏ジャケットには他にも本編の画像、キャッチフレーズに合わせた文章、警告文、動作環境などが印刷されている。【KEIYA】

[竜] キャッチフレーズを考えるのが好きなんですよ。裏ジャケットのキャッチフレーズを極太明朝体で5文字ぐらいで考えているのが好きなんです。シナリオを作っているときに何が楽しいというのは特に。どの作業も均等に楽しいですね。

では次のアペンドの裏ジャケは「給料いくらだ」で(笑)。

(一同爆笑)

「給料いくらだ」

祭囃し編で梨花を助けに来た赤坂が、山狗の小此木に向かって発した台詞。巨大なフォントで画面一杯に表示されたため強烈なインパクトがあった。当然のごとく、ファンが赤坂をいじる際によく使うネタとして定着。同様のフレーズに、赤坂のパンチ力を表現した字幕〈その威力はまさに、徹甲弾ッ!!!〉に由来する「徹甲弾」がある。【KEIYA】

[竜] アホな台詞にしちゃったなぁと。

今回のシナリオは今までと比べても“熱い”お話だったと思いますが、

[竜] 今まで色々と考えて書いてきて、ホラーだったり、サスペンスだったり、ミステリーだったりというのがあったんですが、最後は活劇の大団円として痛快に終わりたかったんです。その分演出に分量をかけたので、6月19日の内容だけで、鬼隠し編の半分ぐらいはあったと思います。

[八] 楽しく戦闘シーンを作らせて頂きました(笑)。

今回Webで見つけた文章の中で、皆殺し編というのはギャルゲの文法でいうところのTrue End、祭囃し編がHappy Endにあたるんじゃないか、というご意見を見たんですが。

ギャルゲの文法

ギャルゲというのは「ギャルゲー(ギャルゲーム)」、すなわち美少女キャラを軸に据えたゲームのこと。インタビューではその中でもノベルゲームやアドベンチャーゲームなど、ストーリー重視の作品を話題にしているようだ。

一般にトゥルーエンドはストーリー上の正当なエンディング、ハッピーエンドは登場人物が幸せな結末を迎える「if」的なアナザーエンディングを指す。トゥルーエンドが悲劇性を含む場合、別途ハッピーエンドを用意している作品が多い(ハッピーエンドは「プレイヤーの願望を叶える」という役割を担っているため、用意されていないと不満の声が上がることも)。文中ではこれらを指して「ギャルゲの文法」と呼んでいるようだ。【KEIYA】

[竜] その例え方は正しいと思います。『ひぐらしのなく頃に』は、トータルで見ると皆殺し編で完なんです。真相はわかった、子どもは大人に勝てませんでした。終わり。という形ですね。皆殺し編は千鶴さんに殺されるみたいなものかな(笑)。だから「祭囃し編」は第八話じゃなくてエピローグとして位置づけると丁度よいのかもしれません。

千鶴さんに殺される

Leafの人気ビジュアルノベル『痕』(きずあと)に登場するシチュエーション。あるルートを進むと、主人公の耕一がヒロインの一人・千鶴に殺されてしまう。現在は『痕-きずあと-』というタイトルでリメイクされている。いずれもアダルト作品であり、18歳未満は購入できない。【KEIYA】

私はカーテンコールのようなものかなと思いました。

[竜] そうですね。これまでプレイしていただいた方への感謝としての意味も強いと思います。だからスタートで「最後くらいは幸せな夢を」というフレーズをつけています。

最後くらいは幸せな夢を

原作版のシナリオセレクト時、各タイトルに添えられているフレーズ。以下に八編のフレーズを抜粋する。【KEIYA】

・鬼隠し編「オープニング」

・綿流し編「最多の可能性」

・祟殺し編「最短のシナリオ」

・暇潰し編「最後の謎をあなたに」

・目明し編「最愛の殺人鬼」

・罪滅し編「最初の過ちをどうか」

・皆殺し編「最期の真実」

・祭囃し編「最後くらい幸せな夢を」

ファンの方達の感想の中にも以前インタビューで伺った、いつか幸せな結末を。という夢がかなえられて単純に嬉しかったという記載も多く拝見しました。

[竜] ミステリアスというか「謎」というかその手の作品で最後がよく分からないまま終わってしまうものが近年非常に多い、というお話を前回させていただいたかと思うんですが、だからこそ最後がはっきりわかる話にしたかった、とにかく白黒はっきりつける、敵が敵として描かれて、悪人が派手にぐるぐる回りながらぶっ飛んでいく、そういう感じで分かりやすく書きたかったんです。

祭囃し編は「祭と呼ぶにふさわしい内容にします」とも以前言っておられましたね。

[竜] だから、祭りで終わるんです。『ひぐらしのなく頃に』で惨劇を回避するためにはどうすればよいんですか?という問いの答えは、惨劇が起こる前に回避する、というのが答えだったんです。毎回惨劇は何時起こるんですかといったら、綿流しの日に起こっている。ならば綿流しの日までに災悪の芽を摘んでおけばいいんですよ。つまり富竹を殺してはいけない。そうすればみんなで仲良くお祭りを迎えてエンドになる。

でも彼は電話を逆探知されてあっさり捕まる(笑)。あの瞬間の腹立ちをどう表現していいかわからないですよね。「テメー、お前がつかまったらどうにもならんのにコノヤロー」みたいな。

[竜] だから富竹は実はヒロインだったんです(笑)。

(一同爆笑)

[竜] あれが美少女キャラだったら、同じ行動の結果でもまったく評価が違うかもしれませんね。

[BT] 愛されてますね、彼(笑)。

[竜] 愛されてますね(笑)。

お話が終わった後の富竹さんは幸せになれたんでしょうか?

[竜] う~ん、幸せの定義は難しいのでなんともいえないのですが、一応鷹野は救済されたし、へんな連中とのしがらみからも逃れられたので、取りあえずひと段落でしょう。ただ、鷹野はその後も難しい立場です。鷹野が知りすぎていると思う人はいるでしょうし、反対側の陣営にとっては鷹野は何かの切り札になりうる。だから生涯誰かに暗殺される危険性がある。しかも仮に病気が治ってしまうと、この事件の責を負って非常に重い刑罰を受ける可能性がある。だから診療所の地下でしか生きられないということになる。そこから抜け出すには、彼女を一度死んだことにして、全てを捨ててどこかに逃げてやり直すしかない。ただそれはもう、想像してもらうお話なので、私が語るべきことではないですが。

鷹野に関しては「お子様ランチの旗」でかなり余韻の残る終わりになっていますが。

[竜] 難しいですね。鷹野が幸せになると雛見沢はダムに沈んでしまうわけで、誰もが幸せになれるわけではない。人によっては富竹と会ってから幸せになるべきではという人も居ますが、そうすると、彼女は両親の死、孤児院に送られるという運命をやはり背負わなくてはいけない。人の幸せの終着点、人間にとっての幸福って何処でしょう、というお話になりますね。

正直ビックリしたのは羽入を今回顕現させたという事かと思います。あれは最初から第八話でと考えておられたのですか?

[竜] そうですね。今まで仲間はずれで舞台に上がらなかった女の子が帰ってくる。52枚のカードでジジ抜きをしたら、誰も負けが出ないんです。雛見沢でどんな惨劇が起こっても、オヤシロさまのせいだからしかたがない。彼女は常にババを引き受けるという役だった。自身が人柱になればいいと思った女の子が帰ってくる。あとは、今まで部活メンバーとは決してゲームが出来なかったユーザーの代理でもあるわけです。このあたりは第七話のラストで書いています。「貴方はハッピーエンドを最後まで信じていてくれましたか?」という下りは、羽入への問いかけでもあり、ユーザーへの問いかけでもあるんです。顕現しないはずの存在が一緒に戦ってくれたっていうのは、ハッピーエンドを信じてくれた貴方ならば、羽入を通して部活メンバーに加わって戦えたんですよという事。そして、ユーザーしか知らないこと、鷹野が犯人だということを部活メンバーに教えられるんですよ、という事なんです。

第七話のラストで書いています

運命は打ち破れるということを信じていなかった羽入に、部活メンバーたちが語りかけるシークエンスである。やがて羽入はレナの手を取り、奇跡を起こすために行動することを決意。これが祭囃し編のストーリーに繋がっていく。皆殺し編の終盤より引用する。【KEIYA】

「もちろんレナも信じたよ。でも、信じなかった人がいると思うの。」

「だ、誰がです。」

え? 誰が

ねぇ、あなた。」

レナがみんなの輪の外にいる羽入に振り返って言った。

「あなた、信じてた? 運命に打ち勝てるって信じててくれた?」

あ、あぅあぅあぅ。」

「触れることができなくても、喋ることができなくても。信じることはできるんだよ。あなたも信じてくれたなら、きっと奇跡が起きた。」

(後略)

今回梨花が序盤に皆殺し編の記憶を失っていたのは、ユーザーとして失望だったのですが。

ユーザーとして失望だった

皆殺し編の終盤で、梨花の決意を目の当たりにした羽入は己の意識を変化させている。

僕も忘れません。きっと覚えてて、もし梨花が忘れていたらきっと僕が教えますから!!」

羽入。あなたはやっぱり、冷たい傍観者のふりをしていたのは、悲しさに怯えていたからなんだよね。」

僕も、みんなと楽しく過ごす未来に行きたかったですううぅぅうぅぅッ!!」

祭囃し編における梨花と羽入の関係はこの会話からも予想できるのだが、記憶喪失に苦言を呈すプレイヤーは意外に多かったようだ。ちなみに過去の羽入が事件の捜査をしていなかった理由も、この前後で語られている。祭囃し編で描かれるのはそのリフレインである。【KEIYA】

[竜] だって梨花が知っていたらユーザーの力は必要ないじゃないですか。

なるほど。

[竜] プレイヤーと言うメタ的神の存在がないと救われないということ、「貴方は信じてくれた?」という言葉の通りです。見る事は出来ても語ることの出来ないユーザーの代理として存在している。祭囃し編でやたらと仕切り屋になっているのは、プレイヤーが言いたかった事、やりたかった事を全て彼女がやっているということになるわけです。一部のプレイヤーさんは、皆殺し編の時点で「48時間」にトリックがあることに気づいておられた、48時間で滅んでいない話も実際存在しますから。その方々はまさに羽入を通じてそれを伝えられたわけですね。そういう意味では、深いことを考えずに第八話までこられた方は、急に仕切り屋のキャラクターになって、「なんだ!?」と思われたかもしれませんが、シナリオに対する考察をしっかり固められていた方々にとっては、彼女はプレイヤーのまさに代弁者だった訳です。だから最後のオチとして、そんな神の存在は幕が下りたら退場すべきかもしれない。けれど退場しなくていい。ここに残っていいんだよ、と。つまり、貴方はもうこの世界の一員なんですよという形で終わらせたかった。「あなたの魂と共にあれ」ということです。

[pre] 羽入転校のシーンは笑いました。

のけぞりました。現実に介入すると言って、学校に出てくるとはまったく思わなかったので。

[竜] 実は皆殺し編のエピローグで転校させたかったんですが、させそこなったんです。目明し編のラストの幸せの欠片で、詩音が沙都子にかぼちゃ弁当を食べさせるシーンのように、「転校生を紹介します。羽入さんです。」といったところで、ドーン(効果音&タイトルロゴ)と終わらせようかとも考えましたが、皆殺し編は後味の悪さだけで勝負しようと思ったのでやめました。

さて、長いインタビューの最期として、締めの質問として伺いたいんですが、皆様にとって『ひぐらしのなく頃に』という作品はどんな存在でしょうか?

[BT] 難しい質問ですねぇ。

[竜] ホームページがえらいことになって大変!とか。

[BT] 思いのたけを言うならば、梨花ちゃん萌え~(笑)。

(一同爆笑)

[竜] 梨花ちゃん好きだったら是非とも『ZERO-0-』の3をやるべきです。おかっぱの巫女さんばっかりわらわら出てくる(笑)。でもまずいなぁ、次梨花ちゃんいませんよ。

[BT] ナニー!! 梨花ちゃんを出せー!(笑)

(爆笑)

[BT] それは置いておいて、ここまで大きくなったのは本当に凄いことだと思います。未だに何だか信じられないですね

八咫桜さんは?

[八] 本当に子どものようなものですね。苦労して苦労して本当に大きくなった!というところですね。あとニャリ(笑)。

竜騎士さんいかがですか?

[竜] 今まで作ってきた中で一番大きな作品ですので、仮に私が交通事故にあったりして、完成できなかったら非常に心残りだったと思うんです。酷いたとえですが、仮に今、交通事故で死んでしまっても成仏はできるな、という段階まできた感じ。第7話前、第8話前で死んでしまったら成仏できないのでこの4年半は短くなかったですね。

『ひぐらし』を書いていた4年半はどんな時間でしたか?

[竜] 私もこの年まで生きてきて色んな時間がありましたが、今まで生きてきた中でも本当に濃密な4年半でしたね。本当に一生忘れられない時間だったとおもいます。逆にこれだけ楽しい4年半だったからからこそ、次の作品ももっとがんばりたいと思いますが。

[BT] 『ひぐらし』という作品は、なんと言うか一つの奇跡、でした。もちろん竜騎士さんのがんばりが非常に大きいのですが、我々3人のうち1人欠けてもこういう形にはならなかったんじゃないかと思いますし、もちろん、音楽家の皆様や他の大勢の方、ファンの方の支えがなければ、『ひぐらし』という作品はなかったんじゃないかと、沢山の人たちの気持ちが結実して出来た奇跡だったんじゃないかと。

[竜] そうですね。実際daiさんがいなければ「you」はなかったわけだし、pre-holderさんがいなかったらフレデリカの空間はすべてなかったかもしれない。BTさんがいなかったらHPも体験版もなかったし、八咫桜さんがいなかったらスクリプトがないし、私がいなかったら『ひぐらし』そのものが無いですし。

[BT] そしてもちろんファンの方々の応援がなかったら

[竜] うちはカードゲームサークルだった(笑)。

(一同爆笑)

[竜] 感想のメールが来たから、ああ、見てくれる人が居るんだと思って続きをつくってこられた、という事はありました。もしも反響がなかったら、やさぐれて止めていたかもしれません。

さて、今後のご予定ですが、次回冬はファンディスクとうかがっていますが。

[竜] ファンディスクというか、おまけディスクです。本当に余力で作る簡単な作品ですし、『ひぐらし』の世界が気に入っている方に、こんなのもどうですかという形で提案するちょっとしたものになると思います。買わなかったら『ひぐらし』世界の秘められた謎がとけないというようなものではなく、気楽な作品。あくまで次の夏までの休暇というか、息抜きのような感じでやろうと思っています。

あえて言うなら圭一×魅音と赤坂×梨花でおねがいします。

(一同笑)

おまけディスク

2006年12月の冬コミにおいて、『ひぐらしのなく頃に礼』というタイトルで頒布された。「おまけ」という発言とは裏腹に、梨花にまつわる重いドラマが書き下ろされている。【KEIYA】

その次、次回作の構想は考えておられますか?

[竜] それは水面下で進めていて、舞台設定、『ひぐらし』でいうところのルールX,Y,Zにあたるものを構築し終わって、今「ゲーム盤」を描きはじめているところです。その上で動くコマについても合わせて作り始めているんですが、コマ自体はまだあまり出来ていないまだキーマンをひとりぐらい。ルール自体はほぼ作り終わったので、そのルールにそってどのように作っていくか考えているところです。

お話頂ける範囲で教えていただきたいのですが、どんな感じの作品になるのでしょう?

[竜] 多分また“多層世界”もの、同じ舞台を何回も巻きもどして繰り返していく、それらを重ねて見る事で一本のシナリオでは見えないものが見えてくる、そういった形になると思います。『ひぐらし』をやっている方なら違和感なく理解していただけるような世界になるんじゃないかなと思いつつ、世界観やキャラクターは全然違うものになる、そういう感じでしょうか。その辺を決めるためにこの10月に取材に行こうと思ってます。

世界観を決めてから取材に行く訳ではなく、決めるために取材をするのですか?

[竜] やはり実際に行って、その場の空気を吸ってみないと分からない事が多いですから。白川郷は行ってみて、自分の想像以上に素晴らしい所だったので「このままいける」と思ったんですが、今度も行ってみないことには分からないですね。

白川郷

岐阜県北西部、庄川流域の山村。荻町の合掌造り集落が名高い。ユネスコの世界文化遺産に登録されている。『ひぐらし』の雛見沢は岐阜の隣県にあるという設定だが、白川郷をイメージして執筆されている。【KEIYA】

一応予定では、発表は来年の夏ということになりますでしょうか?

[竜] そうですね。来年の夏に新シリーズをスタートしたいですね。頑張ります。

新シリーズ

その後、予定通り2007年8月の夏コミで『うみねこのなく頃に Episode1』が頒布された。『うみねこ』は2010年12月に頒布されたEpisode8をもって完結している。【KEIYA】

楽しみに待たせていただきます。さて「ひぐらしのなかせ方」というタイトルで2年半、皆様にインタビューさせて頂いたのですが、今回最終回ということで、最期に本誌読者の皆さんに一言いただけますでしょうか。

[竜] 今年の冬におまけディスクは出ますが、一応今回で『ひぐらしのなく頃に』という物語は完結となりました。一番長い方で4年半、おつき合い頂きまして本当にありがとうございました。しかし、まだまだ07th Expansionと竜騎士07は書きたいものがあり、書くことの楽しさから卒業するつもりはありませんので、よろしければ次回作もおつき合いいただければ嬉しいです。

ありがとうございました。