ひぐらしのなかせ方
第四回
竜騎士07が過去に受けてきた名インタビューに、当時の状況を知るKEIYAが解題を書き下ろし! 第一弾は、かつてとらのあなウェブサイト上で公開された「ひぐらしのなかせ方」。
本インタビューは最低限の表記統一などをのぞき、掲載当時のものをそのまま使用しております。新たにKEIYA氏による解題と注釈を加えていますが、※印の注釈は掲載当時のものです。とらのあな様のご厚意に深く感謝いたします。
文中表記(肩書きはすべて当時のものです)
[竜] 竜騎士07氏(サークル代表・シナリオ・原画)
[八] 八咫桜氏(スクリプト担当)
[B] BT氏(07th Expansion HP管理人)
―― 定番の質問になってしまいますが、コミックマーケット69はいかがでしたか?
[竜] 前回も同じ始まりでしたね(笑)。
―― 直前にNHKでのTV番組放映もあって。
NHKでのTV番組放映
『にっぽんの現場』の特集企画『秋葉原・年の瀬の物語~エッジな個がうごめく街~』のこと。2005年12月27日にNHK総合で放送された。当時の秋葉原は近代的なビルの建設や大型家電量販店の進出、つくばエクスプレスの開通といった大きな変化のただ中にあった。そこに集う「個」を持った人々と、秋葉原独特の「個の文化」を追いかけるという趣旨。年末が近い秋葉原を舞台に、PC、アニメ、同人、メイド喫茶といった、秋葉原をよく知る人には馴染み深い文化が取り上げられた。
竜騎士07氏は同人ゲーム『ひぐらし』の作者として登場。家族の協力を得て開発しているといったエピソードが披露された。一方、取材に同席していた家族外のスタッフ・BT氏の出演部分がカットされていたことに対し、竜騎士07氏は放送後の制作日記で苦言を呈している。【KEIYA】
一点残念なことがあるとしたら、放送がBTさんの活躍にほとんど触れられていない点でした。
あの取材のあった八咫桜邸では、竜騎士07と八咫桜さん、そしてBTさんの3人で作業をしておりました。
なのですが、「家族」というテーマがどうも筋書きだったらしく、家族にばかり尺が割かれ、BTさんの姿がほとんど、カットされていたのには悲しい思いでいっぱいでした。
あれではまるで、家族“だけ”で作品を作っているように錯覚してしまいます。BTさんの役割は、『ひぐらし』の制作のみならず、当サークルの中でとても大きいものです。その活躍ぶりが、仮にもあれだけカメラを向けたにも関わらず、ほとんどカットされているというのは、残念の極みです…。
(制作日記・2005年12月29日「家族だけじゃないんです。」より引用)
[竜] TVは突然のお話だったんですが、制作最後の土壇場の折だったので、お断りするような気力もなくて(笑)。
(一同笑)
[竜] 前から予定されていたわけではなく、直前で「どうですか?」と薦められたお話だったので、思わず「はい」と答えたのですが、貴重な経験でした。作者は作品で語るべきものであって、あまり人前に出るものではないかとも思ったのですが、やましい事をしているのではないかと思われるのも悔しかったので、「やましい事なんか無いですよ。顔出してくれてよいですよ」と逆切れして出てみました(笑)。恥を曝して申し訳ないと。
―― 実際同人作家さんが、ああいった形でメディアの前に出られるのは、なかなか無い事ですね。
[竜] 皆マスターアップ前の疲れきった魚のような目で、ナチュラルハイな笑顔が痛々しいですね(笑)。
―― 会場でもTVのことは話題になりましたか?
[竜] いらっしゃる方達皆様が、「見ましたよ」とおっしゃられるたびに「見ないでー(笑)」と。余りに恥ずかしくて私の中では、忘れて欲しい記憶の一つです。
―― 公式HPを拝見しましたが、コミックマーケットのブースもお忙しかったようで。
[竜] 今回も非常に沢山の方に来ていただいて、お昼を待つか待たないかで無くなってしまったんです。本当に来て下さる皆様がいらっしゃればこそなんですけれども、いつもどのくらいブースに持ってくるかが難しくて…。とらのあなさんの様なショップさんが事前予約をしてくださっているので、うちの列は余り伸びないよな。と勝手に思っていたんですが、本当にたくさんの方に来ていただいていて。最初から並んでくださっているお客様には必ずお渡しできるように持ってきたいと思っているんですけれど、本当に数量が難しくて申し訳ないです。それに本当はお客様に一つ一つ手渡しで、笑い話とかご意見とか雑談をしながらと思うのですが、なかなか人員の都合上出来ないのが残念です。
―― 掲示板の中にある、「どこで『ひぐらし』と出会いましたか?」というスレッドを見るにつけ、お客様も変化して居られるのではないかと感じましたが。
[一同] ああーっ。
[B] あれは古いですね。
[竜] あの当時は本当にうちが無名時代で、あのころのHPのアベレージは、1日80カウントぐらいだったっけ?
[B] もっと少なかったですね。
[竜] 確かオープンした一日は急に120ぐらいいって、「ヒャッホイ!」と思った記憶が…。その後も少なからず来てくださっていたので、逆にそういうお客さんは何処から来てくれたのだろうと疑問に思って作ったんですね。
[B] そのスレッドも古株の方と新しい方がいらっしゃって、本当に昔からのお客様は、会場で売り口上に惹かれましたという方々だったのが、最近はたまたまコミックスを読んで来ました。というお客様が多いですね。
[竜] コミケで作品を知りました。という方はずいぶん少数派になってきましたね。コミケに行く友達に薦められましたというのは相変わらず多いのですが、昔と違うのは現地で売り文句に負けて買いましたとか、拝み倒されて買いましたというお客様が(笑)。
[八] あったねー。
[竜] 当時はお客様に話しかけるときに、車のセールスのように色々とご説明をして、「よし、なら買ってやろう」、「はい、お買い上げありがとうございまーす」という感じだったんです。今は特定の声優さんが好きでドラマCDを買いました。ドラマCDを買ったら興味が出てきたのでゲームも買ってみましたという方や、雑誌を読んで、コミックを読んで、その後でゲームを買いましたというふうに、他のメディアを入り口にしてこられる方が少なからず増えてこられましたね。時には次回作を少しでも早く手に入れたいんで、コミックマーケットに行きたいんですが、どうすれば買えますか?といったご質問を頂いたりとか(笑)。うーん、それは永遠のテーマだね。
(一同笑)
―― 深い、深く難解な問題ですねぇ(笑)。知れば知るほど即答できないのかもしれないですねぇ。
[竜] 今まで『ひぐらし』と言うものは、広い同人という世界の一作品だったのですが、最近は色々なメディアに出していただいている事で、コミケと全く縁のない、いわゆる同人界とは少し違った方が増えている気がするんですよ。そのあたり、逆にとらのあなさんとしてはどうですか?
―― そうですね。仕事柄ネットに限って見ると、今までは各種ニュースサイト様や、一部の特定ブログサイト様が、先行予約を取り上げてくださったり、店舗での展開を広げてくださったりしていたのですが、最近は本当に一般の方が作品の感想や、考察をしてらっしゃるのを多く見受けられますね。
[竜] 最初はコミックマーケット、有明という名の鉢植えであったのですが、最近は鉢植えを出て、コミケという場所の外の方たちに興味を持っていただけるようになった。ブログを見ているとそういったものがありますね。また、ネットとは縁のない、情報発信をされない方々もやはり多くいらっしゃる。そういった意味で年齢層も性別も非常に広いようで、お客様の総体であるとか、傾向がつかめないというのはあります。だからいただく感想も千差万別で、色んな立場、ご年齢の方がいらっしゃいますね。「父親として思うことがある」という事で、沙都子の扱いに関して強くご意見をいただいたりもしました。
―― 4月ご予定のアニメが始まると、また新しいユーザーさんが増えられると思いますが、いかがですか?
4月ご予定のアニメ
テレビアニメ版『ひぐらし』のこと。製作はひぐらしのなく頃に製作委員会、アニメーション制作はスタジオディーン。2006年4月4日放送開始。コミック版と同じく、同人やコミケに馴染みのない若年層のファンを急増させるきっかけになった。声優陣の多くはドラマCD版『ひぐらし』から続投している。【KEIYA】
参考リンク:公式サイト「オヤシロさまドットコム」
[竜] やはりTVというメディアは、玄関のようにより垣根が低くて入りやすいと思いますので、作品名は聞いたことがあるけれど触れたことが無かったというお客様が、たまたま放映しているから見てやろうという気持ちで気軽に見てくださる一端になると嬉しいですね。監修と言う形で参加させて頂いているんですが、はじめて見る方を置いてきぼりにしない作品にして欲しい。という事だけは極力お願いしているんです。ですがやはりアニメをつくるというのは簡単では無いことだと思いますので、横から「こうしてこうして~」と口を出しているだけなんですけれどね。
―― 先だって公式HPのほうで、キャストも発表されて。
[竜] ずーっと水面下で動いていたものが、漸く皆様にお見せできる形で発表されました。それまでは脚本とか、外に見せにくい資料が先行していましたので、でも4月まで時間も残されていませんので(苦笑)。現在急ピッチで制作していただいている形になりますね。
―― 前後してしまうのですが、『ファウスト6号SIDE-A、SIDE-B』で書き下ろされた小説『階段と踊ろう、そしてあなたは階段で踊る』を読ませていただいたのですが。
[竜] あああーっ、恥ずかしいです(笑)。
ファウスト
講談社の文芸雑誌。「Vol.6 SIDE-A」は2005年11月、「SIDE-B」は2005年12月発売。リンク先で『階段と踊ろう、そしてあなたは階段で踊る』を含む作品の一部や目次を参照できる。【KEIYA】
―― 非常に竜騎士さんらしい内容だったのではないかと感じましたが。
[竜] うーん、竜騎士07に書けといわれると、竜騎士07らしくあのまま書くしかなくて(苦笑)。親切に講談社の方が、鍵カッコの中の句読点「。」は抜きますか?と聞いてくださったですが、『ひぐらし』の中ではそれで通しているんで、そのままでお願いしますということがありました。あれは『ひぐらし』の外伝ではないんですが、『ひぐらし』世界を知っている方に読んでいただけると補足的な要素として楽しいという内容になっていると思います。『ひぐらし』を知らない方が読んで全く分からないものでは意味が無いので、あれ一本の話として成立していて、『ひぐらし』を知っている方に読んでいただけると、この人のこういう話なのかなと疑う余地もあるという話にしたつもりですね。私のポリシーとして、コンプエースさんに連載していただいている「鬼曝し編」もそうなんですが、原作を知っている人は知ってる。知らなくても面白い。というのを大切にしたいと思っているんです。
コンプエース
角川書店の月刊コミック雑誌。鬼曝し編はvol.1にプロローグが、vol.2からvol.8にかけて本編が掲載された。【KEIYA】
鬼曝し編
原作にはないオリジナルストーリー。幸せな毎日を送っていた公由夏美とその家族に、雛見沢大災害をきっかけにした惨事が襲いかかる。大石と赤坂も捜査員として事件に絡む。原案は竜騎士07氏、作画は鬼頭えん氏。【KEIYA】
―― テーマ的にも同じ雰囲気を感じたのですが。
[竜] 前から学校をテーマにした理不尽な都市伝説ものを書きたいと思っていたので、厳しい時期の執筆だったのですが、書かせていただきました。他の作家さんが実力のある方ばかりだったので、私ごとき名を連ねてよいのか分からなかったのですが、貴重な経験だということで、本当に講談社様ありがとうございました。講談社様ありがとうございました。
(一同笑)
[八] 二回言った(笑)。
―― 今後もそういった活動は考えておられるのですか?
[竜] 私自身これしかやらない。という考えではないので、チャンスがあれば様々なことにチャレンジしていきたいなと思っています。自分に何が向いていて何が向かないのかを試していきたいんですよ。やってみて性に合う合わないはあるのかもしれませんが、思わぬ面白さが見つかるかもしれない。だからこそ与えられたチャンスの場はどんどん挑戦していきたいと思っていますね。
―― 今後の『ひぐらし』の他メディアでの広がりはどのような事を予定しておられますか?
[竜] まだまだ確実なお話ではないのですが、コンシューマについて少しずつ語れることになると思います。まだまだパンの生地をこねているような、地道な作業がメインなので、今はまだそんなに爆弾発言が出来る状態じゃないんですけれどね。(苦笑)。
―― 他メディアでの作品の広がりというと、公式HP「07th Storming Party」での連載コミックのコメントがいつも秀逸だなあと思いつつ拝見させていただいているんですが。
[B] ありがとうございます。コミックはどれも素晴らしい作品ばかりで、ついつい書きたくなってしまうというのがあるんです。原作を知っていて、話の内容も知っているのに、漫画での見せ方というのはまた違うんだなぁといつも感銘を受けています。
―― スクウェアエニックスさんのコミックスの発売日は凄かったですね。3冊をおもむろに掴んでレジに向かわれるお客様がほとんどで。
コミックスの発売日
コミック版は各編が並行連載されていただけでなく、鬼隠し編、綿流し編、祟殺し編の1巻が同日に発売されるという、あまり例のない形態を取っていた。【KEIYA】
[竜] ありがとうございます。じつは今、全巻購入特典おまけ本の執筆を始めていまして、プロットを纏めてミニシナリオを作成しているんですね。それを漫画家の先生方に挿絵で補強していただく形で制作していただく予定なんですよ。ただあくまでミニシナリオなんで、ファウストに掲載されたような長いものではないんですが(苦笑)。簡単なひぐらし外伝のようなものを今詰めています。
―― うーんそれは楽しみですね。
[竜] 本編は解に入ってから謎がテーマではなく、どうすれば惨劇を防げるか、そのための戦いがテーマになっているんですね。それは疑心暗鬼を打ち払う。仲間は連帯する。信じれば報われる・信じなければおかしくなるという世界観なんですけれど、ちょうど一巻を買っていただいた方は、まだ疑心暗鬼の中に居ると思うんですね、どちらかというとその疑心暗鬼の世界観を楽しんでいただける。『ひぐらし』本編と『ひぐらし解』で言うところの、前作のサブシナリオ的なテイストの作品にしたいと思って書いているんですが…。もし全然違う話になったらゴメンナサイ(笑)。
(一同笑)
[竜] 最近予告しないほうがよいのかと思うようになってきました。どんどん違うものになってしまうことが多いので(笑)。
―― 今おっしゃられたように、書いている最中に方向が変わっていくことはある事なのですか?
[竜] あります。キャラクターが暴走を始めて、勝手に話を面白くすることはよくあるんです。コントロールできている時は楽しいんですが、たまに暴走しすぎて帰ってこれなくなることがあります。やりたいシナリオそっちじゃないんだけどなぁというように(笑)。綿流し編は魅音の暴走がひどくってなかなか帰ってこなかったですね。あと赤坂もやや暴走してしまうキャラクターでした。キャラクターが産まれて間もないころって、路線が決まっていないんで迷走しがちなんですよ。補助輪のない自転車とでも言いますかフラフラしちゃうんですよ。メインキャラクターは皆個性がはっきりしているんで、ガッチリと見えているんですが、赤坂は暇潰し編で初登場のキャラだったから、まだヨチヨチ歩きの赤ちゃんのころで、迷走しまくって大量のボツ原稿が出ました。暇潰し編本編のラスト近くで、電話線を切られてしまって妻の死を知るのは翌日なんですが、制作当初は電話線が繋がっていて、赤坂がビールの空き缶で一杯の電話ボックスの中で酔いつぶれているところに梨花が現れて、「だから帰れって言ったのに」と見下ろしながら言うシーンがあったんですが、そこまで書いた所で何か違う。どこでおかしくなったんだろうか…。そうか電話線を切らなきゃ。と思って話をずいぶん巻き戻しました。
[八] シナリオ持ってきて、「あれ? なんか違うよね」と言ってましたね。
[竜] それが一番大きな改装でしたね。綿流し編でも魅音は詩音のふりをして圭一に近づいていく、ラブコメ的な展開の所だったんですが、何だか楽しいラブコメになってしまって、こりゃ、『ら○ま1/2』だなぁと(苦笑)。
―― 今後も様々な形で広がってゆくのですね。
[竜] そうですね。私としては、コミック化だけでも、またインタビューと言う形で取り上げていただけるだけでもありがたいことですし、アニメ化というお話も本当に望外のことだと思っています。
―― 近年選択肢を機軸としたゲームとしてのAVGだけでなく、ノベルとしてのAVG作品が何作品か発表されているんですね。過去にももちろんそういった作品はいくつも在った事と思いますが、その方式が確立してきたのはやはり『ひぐらしのなく頃に』という作品の残した足跡は大きな意味を持っていると思うのですけれども、いかがでしょうか?
[竜] えっ? 選択肢消えたんですか?
[八] そういえばダウンロード系でも見かけるようになりましたね。
その方式
選択肢が存在しないアドベンチャーゲーム、あるいはノベルゲームのこと。当時は多くの人が「選択肢と物語の分岐は入っていて当然」と考えていたため、それらが一切ない『ひぐらし』はよく異端視されていた。【KEIYA】
ダウンロード系
インターネットで頒布されているゲームを指す。有料のダウンロード販売やシェアウェアだけでなく、無料で遊べるフリーウェアも多数存在する。【KEIYA】
[竜] うーん。それは知らなかったけれど、本当ならば素晴らしい事ですね。選択肢というのは初期の頃の悩みの種でしたから。でも私は単純に選択肢IFの世界を作るならば次の話を作りたかったんですよ(苦笑)。本当ならば鬼隠し編が終わったら選択肢を追加して、その年の冬コミでは鬼隠し編の選択肢あり版を作るつもりだったんですよ。でもそんな時間があるならば、次のシナリオを書きたいと言って綿流し編を作っちゃったんですよ。そこまで来たらなんか開き直っちゃって、「完成したらつければいいや」って思ってました。祟殺し編を出した頃にファンレターをいただくようになって、その頃から「完成したら選択肢は付くんですよね」という質問に、もう完全に開き直って「いえ、選択肢が無いのがうちのスタイルです」(笑)。と言えるようになりましたね。
(一同笑)
[竜] 逆にそうなるまでは、いつか選択肢を付けなくちゃなぁという呪縛は解けませんでしたね。
呪縛
選択肢と分岐に対する当時の観念が窺える言葉。何にでも言えることだが、その時点で常識になっているシステムは「絶対に必要なもの」「欠いてはならないもの」と見なされやすい。作り手、受け手の双方にとって『ひぐらし』の大ヒットは一つの転機となり得た。出題編の裏ジャケットには〈選択肢ではなく、あなた自身が真相を探るサウンドノベル〉というフレーズが印刷されていたことも書き添えておく。
なお、インタビューで言及されているように、選択肢を排したシステムは『ひぐらし』の専売特許というわけではない。たとえば当時有名だった商業作品として、虚淵玄氏がシナリオを担当したストーリーノベル『The Cyber Slayer 鬼哭街』(ニトロプラス)が挙げられる。【KEIYA】
[八] 選択肢パッチというのも考えていたぐらいでしたからね。
―― 今となってはもう無くて当たり前のように感じていますが。選択肢があった状態も考えておられたんですね。
[竜] 鬼隠し編のころから、頂くご質問の3通に1通は完成したら選択肢がつくんですよねと言われ続けてきました。今でこそ「選択肢が無いほうが『ひぐらし』らしい」とか言っていただけるようになってきたんですが、当初は逆でした。途中から環境が変わってきたのかと思う所はありますね。ノベルってものすごい幅の広い表現方法が可能だと思うし、だからこそもっと柔軟な表現がいっぱいあっていいと思うんです。例えば選択肢のオン・オフとか、組み合わせは難しいかもしれないけれど、ノベル+アクションとか、某有名作品のように対戦格闘+ノベルとかね。あの作品をノベル+演出要素、ドラマの補強としての対戦格闘と見るとまた違った広がりがあると思うんです。商業の作品でも、特別な演出をしようと既に何歩も先に行っていますよね。そういったものを見るに付け、映画とサウンドノベルとの間ってそんな垣根は無いんではないかと感じるんですよ。映像エンターテイメントとして映画を頂点とするなら、ノベルゲームはずーっとスロープの状態で地続きになっていて、どこまでも登っていけばいつか映画に行き着くんですよね。だけど同人作品と言う労力の幅ではその途中までしかたどり着けないというのがある、だから自分の出来る範囲での作品になると思うんですね。きっと『ひぐらし』に限らず、ノベルゲームをやっている方は、音楽とテキストと背景やキャラクター達を組み合わせて頭の中では映画的なシーンが再現されていると思うんです。小説と映画の間には、垣根が存在するかもしれませんが、小説と映画の間にあるノベルゲームと言うのは両方の橋渡しになれるのではないかと思いますね。だからこそ極めて単純にして究極のジャンルであると私は信じているんです。
某有名作品
TYPE-MOONと渡辺製作所が共同制作した、対戦格闘+ビジュアルノベルゲーム『MELTY BLOOD』(メルティブラッド)のことだと思われる。ストーリーモードでは奈須きのこ氏書き下ろしのノベルパートを読み進める形式を取り、途中で発生する戦い(対戦格闘パート)も物語の一部になっていた。
知らぬ者はない有名サークル同士が『月姫』の対戦格闘ゲームでタッグを組むということで、同人ゲームファンからの注目度は極めて高かった。2002年12月30日、コミックマーケット63にて頒布。現在では株式会社エコールソフトウェアによってアーケードやPS2にも移植されている。【KEIYA】
―― 個人での制作が可能であるというのも魅力かもしれませんね。
[竜] そうですね。八咫桜さんだってスクリプトに関しては、生まれつきのプログラマーっていうわけじゃないもんな。
[八] そうだね。1から始めたからね。
[竜] BTさんは、少しVisualBasicの素地があったんだよね。だから応用も早いよね。
[B] 今はNScripter、吉里吉里等、素晴らしいツールがあるので、本当に取り組みやすくなっていますよね。
NScripter
「エヌスクリプター」と読む。作者は高橋直樹氏。「吉里吉里」と同じく、同人ノベルゲームの制作にもよく利用されている人気ソフトウェア。【KEIYA】
吉里吉里
「きりきり」と読む。作者はW.Dee氏。現在の最新バージョンは吉里吉里2で、吉里吉里3が開発中となっている(2011年9月現在)。【KEIYA】
―― 『ひぐらし解』に入ったころからでしょうか、スクリプトでの演出が色々変わってきた印象を受けましたが、あの演出はどういった形で考案されているのですか?
[八] 私自身、前に使った演出とは別の演出、別の切り口をやってみたいというのが常にあるんですね。ノベルは元来は激しい動きが無い物なので、何とかして空気を表現する。ノベルだからこうであるという形を破りたいと思って制作しています。
―― なるほど~。演出内容の指定自体は、どういった形でされるのですか?
[竜] 指定というか、こんな感じの演出をお願いしますと言う形で物凄く具体的に書く事もあるし、あえて何も書かないでおいた物もある。八咫桜さんが作成したものもあるし、私のほうで相当細かい所まで指定したものもある。様々ですね。演出らしいものが始めて出てきたのは、多分崇殺し編からだと思うんですよ。圭一が沙都子の叔父を殺す所や、暇潰し編で赤坂が梨花に連れられて雛見沢を案内される所とか、その辺りで初めて演出らしい指示を入れたと思うんです。村中を回っているイメージで作ってというふうに。その頃から台詞で時間演出するのではなく、画面遷移で時間を演出する形をとるようにしました。以後は「ちょっと時間経過お願い」という形で何度か使うようになりました。後は罪滅し編で、レナの精神状態に応じて赤がどんどん強くなっていくとか、屋根の上で戦うときの演出とかは、彼が頑張って色々な演出をつけてくれています。
赤がどんどん強くなっていく
表示されるテキストが徐々に赤みを帯びていき、最後には真っ赤になってしまう。レナが抱いている疑心暗鬼の強さを表す演出。画面を埋め尽くす赤い文字はかなり不気味。【KEIYA】
[八] こんな感じという指示を貰って、「OK! 俺はこんな感じでやるぜ!」と作っていって。
[竜] それをクリンナップの時に、バッチリならばっちり、余計ならば削ろうという形で変えていっていますね。まれにエフェクトが全部合わなくて、ここからここまで全部消してと言うこともあります。後は音がシーンに合わないから無しでいこうとか。最近はほとんど無いですけれど、昔は二人とも感性が違うので結構直していました。今はだいぶ合ってきて、ここで画面が変わって欲しいなとか、次でブラックアウトしてほしいなというのが、既に入っていたりするようになりました。だから演出に関しては今はほとんど彼がやってくれているので、ずいぶん楽させてもらっています。
[八] 最近修正はほとんど無くなったよね。
[竜] 日常関連で偶にあるけれど、鉄火場のところはほとんど無くなったね。
―― ツーカーですね。
[竜] なんだかんだ言って、4年半の間やってきましたからね。お互い意思の疎通が出来るようになってきましたね。
[八] そうだね。
[竜] BTさんも大丈夫だよね。
[B] だいじょうぶかなぁ(笑)。
(一同爆笑)
―― BTさんはクリンナップの時はどのような形で?
[竜] BTさんは音楽室のシステムを丸ごと作ってくれていて、音楽室の演出は何気に凝っているんですよ。あと誤字脱字のチェックをしてくださっているんです。今回は普段より確実に少ないと思ったんだけれど、BTさんが探してくれると結構見つかったりするんですね。それだけやってもリリース後にまだ見つかったりしてしまうんですよね。
[B] うーんまだまだです。
[竜] 商業の方が校正のため、デバッグのためだけに大きなチームを作っている理由がわかりますね。作った本人達にはなかなかバグが見えなかったり、危険な操作をしなかったりして無意識に避けてしまいますから。ある意味で制作の根幹を私と八咫桜さんがやっているから、BTさんが冷静に見てくださっているんですよね。でもBTさんは、それ以上に普段のHPの管理をそれこそ毎日してくださっているので、サークルとしては一年に2回修羅場はありますけれど、BTさんの修羅場は毎日続いているというのがあるのかもしれませんね。ある意味で仕事は急場を凌ぐよりも、日々を維持するほうが、よっぽど仕事なので。BTさんは本当に素晴らしい仕事をしてくださっていると思います。
―― では演出とは違った方向になりますが、今回第7作目にして、選択肢を出されたその意味とはなんでしょうか?
[竜] いわゆる梨花の世界ですね。昔始めての選択肢を出した時、青い箱・赤い箱の時だったかな?
昔始めての選択肢を出した時
実は出題編のラストを飾る暇潰し編で、一度だけ選択肢が登場している。TIPS「箱選びゲーム」のこと。謎の人物が赤い箱と青い箱のどちらを選ぶかを問いかけてくる。ストーリー展開には影響を与えない。
原作では箱を選ぶ選択肢が表示されたが、小説版では読者が両方の選択肢を順番に選んだものとして再構成されている(星海社文庫版『暇潰し編』178-182ページ)。【KEIYA】
―― うっ、それは失礼いたしました。
[竜] いえいえ。その時も語ったと思うんですが、選択肢というのは両方の結果を知っているから初めて選ぶ余地が出るんですよ。両方の結果を知らなかったらどちらかを選ぶ余地は無く、ある決められた法則に従って片方を選ぶしかないんですよね。大きなつづらと小さなつづらがあって、昔話では小さなつづらのほうが良いんだよなと思ったら、中身が何か分からない条件下では必ず小さなつづらを取るんですよね。だからあそこで圭一に人形を渡す事についての助言をする、しないというのは、結果を知らない人にとっては必然なんです。でも両方のケースが想定できて、且つ結果を知っている梨花だけが、選択肢という運命を与えられる。これが梨花の世界なんですよ。だから、梨花にとっては日々あらゆることにとって選択肢があるんです。その中でこれをやったら鬼隠し編、これを止めなきゃ綿流し編、これが起こると暇潰し編という選択肢だらけの中を生き抜いているんですよ。まるで日々が全部ゲームブックのようなものですね。
圭一に人形を渡す事についての助言をする、しない
皆殺し編の序盤、おもちゃ屋でのゲーム大会を終えた後に表示される選択肢。ストーリー展開には影響を与えない。【KEIYA】
―― しかも、選択した結果のほとんどを知っている。
[竜] そうなんです。だから前回の失敗を踏まないように、文字通りセーブ&ロードを繰り返しているんです。梨花の事をループとおっしゃる方もいらっしゃるんですが、私個人的にはセーブ&ロードと呼んでいます(笑)。そうやって100年以上生きてきたんですが、その中にはもちろん梨花の意思で決められる選択肢と、梨花以外の神の意思で決まる“偶然”。それは圭一が引っ越して来る来ない、○○が来る来ないという運・不運という要素がある。今回梨花がふて腐れたのは、最善の努力をしても、梨花以外の努力で決まってしまう運に恵まれない限り、何もよいことは訪れない。という現状に疲れてしまっていたからなんですよ。しかし今回は自分の力以外である、他力本願の運というのが良いほうへ重なっていたので努力すれば普段以上にいけるのではないかと期待しているんですね。
―― 申し訳ありません。もっと軽い理由で考えておりました。
[竜] 今回の選択肢はどちらでも実はOKなんですよ。でも初期に考えていたのでは、人形を渡せと助言すれば進むんだけれど、逆を選ぶとゲームオーバーになる。綿流し編が始まってしまうという形にしようと思っていたんですね。だけどそれだと、運命に抗う圭一のヒーロー性がでてこないなと思って、あえてどちらを選んでも同じ結果にしました。あと、皆そこでセーブしてやり直すんだろうなと内心思ったりもしたんですけどね(笑)。
(一同笑)
―― ばれちゃいましたか。確かにセーブして両方試しましたね(苦笑)。
[竜] サウンドノベルで選択肢オートセーブ機能が無いのかすごく不思議ですね(笑)。サウンドノベルで唯一強制的に扱う操作じゃないですか。何でサウンドノベルに一杯セーブゾーンがあるのかといったら、選択肢の所で皆セーブするからに決まっているじゃないですか(笑)。
―― 前作からプレイしている方は、皆あの選択の結果がどういう意味を持つのか知ってしまっている。それはまさしく竜騎士さんが語られた選択肢の法則の通りに、助言するという選択しか選べないようになってしまっていますね。
[竜] そうですね。普通の人はセーブした後に助言するほうを選んで、その後ロードして助言しないほうを選んだと思うんです。
その後ロードして助言しないほうを選んだと思う
行き止まりであるバッドエンドを先に潰していくプレイヤーも多い。その場合、助言しない方を見た後でロードし、助言する方を読み進めていくことになる。ただし、この選択肢はどちらを選んでも共通のシーンに合流する。【KEIYA】
―― ではいよいよ。皆殺し編について伺おうと思います。
[竜] はい。
―― 冒頭のシーンが終わって突然現れた新キャラクター■■なんですが、まず■■の存在について伺えますか?
[竜] ■■については三つぐらい意味があって、1つは梨花の一人称の物語なんで、話し相手が必要だったということ。2つ目として、他の人の目に見えない誰かが常に存在する。梨花にとって当たり前の世界は他の人からすればある種異常な世界だということの表現としての存在。3つ目として一番大きいのは、プレイヤーとしての目線の役割なんですよ。■■って言う存在はモニターの前のプレイヤーの代理もやや兼ねているんですね。今回皆殺し編で敵の存在が暴かれましたけれど、『ひぐらし』の世界の敵は非常に強大でまず勝てないんですよ。今まで7本のシナリオを出してきて、一度も尻尾がつかめなかった存在じゃないですか、例えば捜査ファイルなんかで、壁に銃痕があるとか微妙なほつれはあるけれど、△△規模で隠蔽しているんだから掴めるわけではないんです。それが可能なのはモニターの前のプレイヤーという特殊な存在しか知覚できないんです。でもプレイヤーというのはキャラクターたちと意思の疎通が出来る存在ではない。そのためモニターの前のプレイヤー達と同じ知識を持った存在が必要なんです。
捜査ファイルなんかで、壁に銃痕があるとか
捜査ファイルというのは、書籍『ひぐらしのなく頃に―特別編― 雛見沢村連続怪死事件私的捜査ファイル(仮)』(スタジオDNA、現在は一迅社)のこと。壁の銃痕は巻末近くのページに掲載された、各所が塗り潰されている報告書の内容を指す。
そこには、〈雛見沢営林署 敷地側壁■■■■部分〉〈銃痕より38口径弾1発を摘出〉〈推定:ミネベアM60ニューナンブの可能性大〉〈県警本部に照会の結果、発砲の事実なし〉〈雛見沢大災害(S58)において駐在警察官■■■■が、拳銃ごと行方不明〉などという謎めいた記載がある。
この書籍は雛見沢連続怪死事件の謎に挑んだ赤坂と大石が、昭和60年から私的に行ってきた捜査の成果を出版したものという体裁になっている。各事件に対する二人の推理だけでなく、彼らが入手した資料も掲載されている。もちろん、「この本がなければ『ひぐらし』は推理不可能」といった性格のものではない。自説や世界観を深めるのに役立つ一冊である。【KEIYA】
(※引用部分の「■■■■」は、原書ではマジックで塗り潰したような状態の伏せ字になっている)
―― オヤシロ様としての■■という記述を見たときに思わず「ええっ!?」と目をむいたのですが。
[竜] 実は今だからこそ言えることなんだけれど、鬼隠し編のお疲れ様会で話していた、「人か祟りか偶然か」。これは最初の頃のキャッチコピーだったんですけれど、あの答えは“全部”なんですよね。人も犯人だし、祟りも存在するし、偶然で起こりうることもある。どれか一つが起こったというのではなく、その3つが同時に起こったというのが隠しテーマになっているんです。ただ問題になるのは、人は祟りの存在を知覚しない。祟り側も人のことなんか知ったこっちゃ無い。さらにそこに混じる偶然が話をややこしくして、人と祟りという別の事態を一つのことのように見せてしまっているという事なんです。人か祟りか偶然か。というキーワードはいみじくもルールX,Y,Zを現しているという事もありますね。何でもありといわれると、何でもありなのかもしれません。
鬼隠し編のお疲れ様会で話していた、「人か祟りか偶然か」
レナの「結局…圭一くんを襲った者の正体って何なのかしら。」という疑問に対して、登場人物たちが各々の考えを述べる。祟りに見せかけた人間、本当に祟りという二つの意見に分かれるが、圭一だけは「どっちなんてもんじゃねーよ!! 村の怪しげなヤツらに狙われて、さらにオヤシロさまとかいう怪しいのに祟られて!!! 人間も祟りも全部!!! これはイジメだーー!!!!」と叫んでいた。「人か祟りか偶然か」というキャッチフレーズは、公式サイトの紹介ページや裏ジャケットにも「陰謀か。偶然か。それとも祟りか。」という形で織り込まれている。
余談だが、出題編のお疲れ様会では圭一が姿を見せず、いつも電話による声だけの出演にとどまっている。理由は圭一の立ち絵がまだ実装されていなかったから。【KEIYA】
―― ■■のデザインもかなり独特のこだわりが感じられましたが。
[竜] ■■は、最初から二つだけ決まっていたことがありました。髪は長髪、鬼と呼ばれる存在だから角が生えているべきだということなのですが、その中でも髪の色だけ、たまたま掲示板でオヤシロさま擬人化(オヤシロタン)が流行っていたので、そこから取らせていただきました。髪の毛の色が同じというのは、掲示板で応援してくださっている方との交流として使いたいと思っていたんですよ。
掲示板
公式サイトに設置されたお絵かき掲示板のこと。【KEIYA】
―― 前回のインタビューの折、次回作のキーワードは「ピンチ梨花ちゃん8位転落!?」というお話が出ましたが、それは今回の■■の登場があったからですか?(笑)
(一同笑)
[竜] ■■が抉れてくると、どうなるかなと思ってるんです。実は梨花の人気が低迷しているところがありまして。ただ今回梨花の人気が上がるか下がるか微妙な所なので、どうかなぁ、BTさん?
[B] 上がるんじゃないかなぁと思うんですけれど。
[竜] うーん、もしかすると沙都子、詩音、知恵、■■あたりがきびしいのかなぁ。
[八] あと悟史も。
[竜] そうだね、その辺りが混迷ラインですね。
[B] ちょうど前回のインタビューが第三回人気投票の前だった事もあって、その前の人気投票(第二回人気投票時)で梨花が6位だったんですね。
[竜] 当時7位の知恵先生は鉄板だったんで、6位の下が直ぐ8位だったんですよ。第三回人気投票で持ち直したんですが、■■が人気が出てくるとわからないなぁとおもってましたね。それよりも今回は1位がわからないなぁ。圭一がついに1位をとりそうな気もするし。
―― 前作罪滅し編もそうでしたが、今回皆殺し編でも圭一がどんどん格好良くなってきていますよね。
[竜] 本来ゲームの主人公はプレイヤーの分身を指すんですけれど。映画の主人公がプレイヤーの分身では無いように、主人公という存在がプレイヤーの分身から、ヒーローになってきているんですね。だからかつての圭一の役割はプレイヤーと一緒にびびったり、驚いたり、怒ったりするのが役目だったんです。それがだんだんプレイヤーが期待する行動や、プレイヤーも期待しない行動をするようになって何かを達成している。前はプレイヤーを追従するキャラクターであったのが、プレイヤーをリードするキャラクターに変わってきているんですね。
―― ▲▲を説得するシーンは本当にヒーローという資質を感じましたが。
[竜] あそこは今回の見せ場でした。結局『ひぐらしのなく頃に』というゲームは、コミュニケーションと非コミュニケーションの話なんですよ。この世界は基本的にコミュニケーションで全ての決着が付く世界なんです。だから、中盤の言葉での戦いのシーンというのは、ある意味で罪滅し編での屋根の上での戦いよりも『ひぐらし』的な戦いだったんです。罪滅し編でも書いたのですが、あの屋根の上の戦いというのは互いが互角であるという上での遊びであったのに対して、今回の言葉での戦いというのは、相手を論破して前に進むという意味での戦いだったんですね。かつて崇殺し編では、闇討ち以外に救う方法が無いと思われていた沙都子を、誰にも後ろ指を指されない方法で解決した。ちなみに、沙都子をどうやったら救い出せるのかという事に対する応募は0通なんですね。祟殺し編で、僕でも同じ方法を取るとか、もっと上手く死体を隠すという圭一の行為に対する評価は一杯あったんだけれど、根源的な案、叔父が帰ってきて沙都子を連れて行かれて不幸になりました。それを無事に解決する方法と言う提案はほぼ0通でした。もしかすると他のところで読み当てられた方はいらっしゃったかもしれないですが、私のところに頂いた感想の中には無かったんですね。だから皆殺し編は、前半こそ崇殺し編の真の解だったんです。一人で思いつめて闇討ちなんてしないで、みんなと協力して戦えば沙都子を救えたんだよと言う答えとして出したつもりなんです。だから皆さんはちょっと誤解されているのですが、皆殺し編は、前半が解で、後半こそエンターテイメントですよ。
―― やはりその前後の区切りは綿流しの祭りの夜ですね。
[竜] そうです。□□達が出てきた所ですね。どうしてもそこに目がいってしまうのかも知れませんが、崇殺し編を内包した解というのは、祭りの前までの沙都子の救い方なんですね。前半の過程で雛見沢らしい本当の戦い方を覚えた圭一達が、いよいよ自分達の敵を知る。そういった意味で後半はエンターテイメントとして作成しているパートになります。ですので後半のシーンは真相を明かすという意味合いではなく、ラスボス登場という意味合いでしかなかったんですね。
―― そういった中で、今回メインに据えられた梨花というキャラクターが果たす意味合いとはなんだったんでしょうか?
[竜] 梨花というのは、100年生きた少女なんですよ。同じ生活を何度も繰り返して、完全に見飽きてしまって斜になって生きることに退屈になってしまっている。プレイヤーの視点から見ると、物語の個々の世界は毎回新鮮な世界で、梨花は新たなものを見たり聞いたりして「にぱー」とか「みぃ~」とか言っている。本来はそうでなくてはいけない。でも実際梨花の内面ではそれは以前見た事柄を再度繰り返しているに過ぎないんです。だから内心の梨花はどんどんスレてゆくわけですね。それはだいぶ序盤の頃、沙都子が優勝賞金5万円でしたよといった時に、梨花がふぅ~んという感じであまり驚かなかった。本来なら驚くべき事柄の内容も既に知っている事なので、段々日々に彩りがなくなってきてしまった。必然的に梨花は、明るく可愛いあるべき正しい梨花と、100年を生きて知り尽くした斜な梨花、黒梨花と呼ばれる梨花とに乖離してきてしまっているんです。
だいぶ序盤の頃
綿流し編序盤における、おもちゃ屋での部活のこと。【KEIYA】
―― 確かにどんなに面白い本でも、何度も繰り返し読んでいたならそこに楽しみを見出すことは難しいですね。では逆にそれでも希望を見出そうとしている梨花と、始めから否定的である■■との違いというのはなんなのでしょう?
[竜] そうですね、対照的ですよね。梨花は希望を捨てないんです。仮に死んで繰り返すことになってもメゲないんですよね。だけどもう勘の良い方は気づいていると思うんですが、梨花がループ、セーブ&ロードというものを拒否すること、それが■■にとっては最も恐ろしい事なんですよね。途中でポロリと梨花が言っていると思うんですが、時間を戻るには、■■だけじゃなくて梨花の了承。二人の合意がないと戻れないんですよ。■■は、梨花以外の誰ともコミュニケーションが取れない。だから梨花が居ない生活に■■は堪えられないんですよ。梨花にとって繰り返す生活が苦痛でも、■■は梨花すら居ない日々の苦痛を知っているんで、梨花さえいれば繰り返す生活でも全然かまわないんですよ。そこが■■と梨花の間の絶対的な価値観の違いなんですね。そうやって考えていくと、■■のような自由な存在ならば、自在に闊歩して犯人を捜せたはずなのですが、なのに何で■■が何も知らなくて、梨花にあきらめろ、また次があると言い続けるのか…。次回に入ってきちゃいますね(苦笑)。
―― ではここで! ストップさせてください!!
次回に入ってきちゃいますね
当時、「犯人捜しをしないのはストーリー上の都合」と考えて立ち止まってしまうプレイヤーも多かった。皆殺し編の終盤に確定的な手がかりがあるため、祭囃し編を読む前に考察しておきたいポイントである。【KEIYA】
―― ではちょっと視点を変えまして、今回再び現れた懐かしい顔○○を出されたのはどういった意味ですか?
[竜] 作中でも語っているのですが、○○の登場の意味ははっきりしていて、ある一人のヒーローの存在がこの物語を解決できるわけではないという比喩ですね。○○が来たから大丈夫という気持ちがある意味甘えなんですよ。あの人が来たから解決してくれるという、他力本願の極みなんです。
―― 実際私自身プレイ中、ほっとして頼れるのかと思いましたね。
[竜] でもその考えは、コミュニケーション・団結でしか打ち勝てないというこの物語の価値観とは矛盾するものなんですね。だからあの世界では一人の英雄が助けてくれるという○○の存在は否定されるんです。プレイヤーにとって○○が来てくれたから沙都子は助かるという心理を否定する要素として、すぐ温泉にいっちゃうんですね(笑)。
すぐ温泉にいっちゃう
「ついに救世主が来た」というプレイヤーの期待を裏切り、あっさり退場してしまう。その役立たずぶりから、当時のファンは彼のことを「温泉」というあだ名で呼んでネタにしていた。【KEIYA】
(一同笑)
[竜] 温泉と言うネタが面白かったのか、その後ずいぶんイジラレキャラになったみたいですけれど。あと、次に出てくるんでね。顔見世として登場させたというのもありますね。次回いきなり登場して、こいつ誰?じゃ話にならないので、出しておいたというのがあります。
―― いよいよ後半エンターテイメントの部分への質問になります。いよいよ今作をもって解答の7,8,9割という事で、解も終わりに向かってきた訳ですが、語られるにあたって躊躇ですとか迷いですとかは無かったですか?
[竜] もう今回書いてしまった時点で楽しむ余地がほとんどなくなってしまうんで、一番公開したくない話だったのは今も当時も変わりません。私は本当は、「本家はこうであっても俺はこう思う」というのを楽しんで欲しいと思うんですが、やはり本家が「こうです」とした時点で皆様が色々考察していただいた事柄の枝葉を切ってしまい、殺されてしまうんですね。だから凄く出したくなかった。ただ、話を終わらせるためには描かなくてはならなかったんで、痛みを伴う告白でしたね。これは他のインタビューでも答えているんですが、私は個人的に昨今のガジェットを垂れ流すだけで、答えを最初から用意していないホラーって嫌いなんですよ。明かさない事を前提にしたら何だって書けるじゃないですか、だから、それがどういう反響であったとしても明かすことを前提として、とんでもないガジェットを広げておきながら、とんでもない内容という部分を描きました。あと今作はなによりエンターテイメントとして、目に見える敵の存在が必要だった。
―― ここでおっしゃる敵とは?
[竜] 『ひぐらしのなく頃に』というのはご存知の通り、最大の敵は個人ではなく◆◆なんです。だから殴ったところで解決できないんです。例えば、今回解決の元になる北条家の問題。「俺は嫌いじゃないんだけれど、本家が嫌っている」という村全体の思い込みが差別を産み出しているというように、敵は◆◆なんですよ。だからあの場では村を代表する老人達を論破するという事で◆◆を破ったんですよ。人は◆◆を破るとき◆◆を代表とする人間に打ち勝たない限り勝つことはできないんですよ。そういう意味では□□というのは、分かりやすく具現化され相対すべき敵という存在ではあるけれども、戦いの本質は□□との争いではない。という事だけお話だけさせていただきます。
[八] ダム闘争の監督みたいなものかな?
[竜] そうだね。ダム工事って物じゃないですよね。概念・行為ですよね。でもデモ隊は工事事務所に押しかけていて、現場監督を攻撃していましたよね。その現場監督という存在が、□□といえるでしょうね。現場監督が一人でダム工事をしているわけではなく、あのダム工事という行為を監督する存在に過ぎない。ただし、その行為の象徴として、その矛先にいたはずなんですよね。□□というのは疑心暗鬼を含むこの惨劇を産み出すシステムのシンボルとして描かれているだけなんです。□□は悪い奴、こいつなんかがこの村にいなければこんな事件は起こらなかったのに、と言うわけではない。
―― □□はあの衣装が注目されましたが。
あの衣装
黒幕らしく全身黒一色の衣装で登場。緊迫した状況、明かされた真相と相まって非常に印象的だった。肩口には十字架を模したような緑色のリボンを付けている。【KEIYA】
[竜] あれは□□をラスボスとして分かりやすい視覚を与えたかったという事と、□□にとっては記念日、人生で一番大切な日なんですよ。だから、一番良い衣装を着たかったという個人的なポリシーなんじゃないですかね。実は□□があの服を買いにいくシーンなんかも次回書きたいなぁと思っているんですが。まだプロットなんで書かないかもです(苦笑)。
―― では今回キーワードとして出てきた組織XXとは、どういった存在なのでしょうか?
[竜] XXというのは、いわゆる皆様が思い描かれている悪の秘密結社的なものではないんです。派閥社会の延長として描きたかったのですが、あまりにも伝わりづらかったのかもしれません。皆さん秘密結社というと、すぐに秘密の儀式を行っていて、総統の意にそぐわないと凄い落とし穴に落とされて消されてしまうというような、物凄い悪の集団というイメージがあるようなのですが、本当に一例を挙げるならば、大学を出られた方ならばご存知かと思いますが、大学には学閥というのがありますよね。また、難しい国家資格試験を通ってこられるような非常に出来る方というのは、物凄い横への結束力のある集団を作っておられる。それは町であれ村であれ会社であれ学校であれ、本当に身近な組織の中に純然と存在する一つの団体なんですね。その中でも今の日本に現実に実在するもので、非常に有力な人物、いわゆる稼ぎすぎた人たちが社会貢献のために若手の研究者や、様々な分野の人を金銭的に支援する形で運営されているような上流者の倶楽部、そういった長老社会というものは本当に沢山あるんです。本来のイメージ的にはそういう倶楽部が幾つか集まった形をXXと呼んでいる。と位置づけています。
―― そのあたりはぜひ次回作のTipsの中で触れていただきたいですね。
[竜] そうですね。考えたいと思っています。
―― 秘密結社という言葉自体が、あまりにもダークなイメージを持ってしまっているのかもしれませんね。
[竜] うーん確かに日本ではあまりにも映画の中にある悪役的なイメージが、言葉に染み付いてしまっているみたいです。でも本当に身近に秘密結社と呼ばれる存在は沢山あるんですけれど…。例えば…。
(訥々と語られるアキハバラをめぐる閥と組織の話)
―― 書けませんよ!!(笑)
[竜] でもね、何度も言いますが本当に身近なものなんです。先ほどはたまたま一部を例に出しましたが、それがどんな分野であれ、ある程度以上の知名度や立場を持った人間が集まり、その集団の内容が外に漏れないならば、それは秘密会合であり、もしそういった人達が組織を作ったら、それは秘密結社と呼べるものではないのでしょうか?
―― ではXXという名前自体もシンボルなんですか?
[竜] はい。大金持ち達が集まる秘密の集団というと分かりにくいじゃないですか、だからXXという仮称を与えたわけですね。
―― ここからは、キーワードに対する質問になってしまうのですが、●●●●●●について伺いたいのですが。
―― 前作では、寄生虫説というのが否定されていましたが、実はかなり真相に近かったような。
[竜] そうです。限りなく真相に近い。
―― 他にトンデモなお話が余りに多かったので、隠されてしまっていたようですが。
[竜] ミスリードでしたね。あの時点ではあまりまだ信じて欲しくなかった。ただ皆殺し編で解説を始めると長くなってしまうので、前作罪滅し編で情報だけは流させてもらいました。
―― 皆殺し編を最後まで終えてみて、●●●●●●というのは、本当に存在する物なのかという疑問がわいたのですが。
(竜騎士氏・八咫桜氏・BT氏、三人顔を合わせてニヤリ)
―― あああああっ。なんでもないです。
[竜] なかなか面白い話ですね(笑)。実は●●●●●●というのは存在しなくて、皆がそうだと思い込んでいるから妄想症になっているんではないかと言う説もある。ただ一つ言えるのは、●●●●●●というのはこの村のルールXYZの一つに、もっともらしい名前を誰かが医学ふうに付けただけなんですよ。ただ本当に●●●●●●があるかどうかは、個々の読み方に委ねておきます。何しろ本当に●●●●●●が存在するならば、それは非常にメンタルな物ですよね。メンタルな物というのは区分けが難しいですから、何ともいえません。ただ、目明し編でとっくに詩音が暴いたように、この村には綿流しの祭りの夜にはオヤシロさまの祟りの名の下に、一人が死んで一人が消えても許されるというと言う思い込みが存在する。その思い込みが犯人と惨劇を産み出し続けているという仕掛けが、詩音によって看破されている。それを詩音は祟りシステムと呼んでいましたが、あるいはこれを医学的に●●●●●●と呼んでもいいんじゃないかと思うんですね。例えばこの中に皆さんでも知っている…さん症候群という言葉があると思うのですが、…さんは必ず日曜の夜に放映される。だからそれを見ると明日は月曜日、出勤かぁと思わずため息をついてしまう。でも…さんに有毒性がある訳ではないですよね。普通のしかも人気の長寿アニメである。この事例のように●●●●●●は、無意識下に作用する社会精神的病なんですね。作中では●●●●●●を精神的な病原菌によるものだと踏み込んでいるものであって、本当かどうかは怪しい。だから、□□というのがルールの一つを写した影であるように、●●●●●●も別のルールを写した影に過ぎないんですね。
―― 私自身、混乱してしまっているんですが、では□□は、●●●●●●の存在を信じているのですか?
[竜] □□は多分信じていると思いますね。だからこそ自分のスクラップ帳の中でその存在を書き、48時間で雛見沢を・さなくてはと思っているんですね。□□は●●●●●●の存在を否定するどころか補強する立場に居る。それに対して圭一は、●●●●●●と言うものはただの思い込みで、信頼とコミュニケーションで打破できるんだと今回提案していますね。個として惨劇を産み出そうとしている□□と、結束して立向う圭一達。絶対に尻尾がつかめない巨大な規模の組織に対して、無力な村人達が何らかの奇跡の下でそれこそひっくり返せたなら…。凄いですよね。今どうやってひっくり返すかを考えているんですが(苦笑)。
―― さて、今回の物語は"とても悔しい物語"と受け止めさせていただきました。ですがいよいよ終わりの道が示された期待の作品でもありました。そこで改めて次回作「祭囃し編」について伺えますか?
[竜] 前回どんなキーワードでしたっけ?
―― 「ピンチ梨花ちゃん8位転落」(笑)で、それはなしにして、「皆様の望む解答編」という言葉をいただきました。
[竜] そうでした。作品の解答ではなく、皆様が望む、解答編だったんですね。次回かぁ。何かいいのある?
[八] いよいよ完結としかいいようがないなぁ…。本当は凄く使いたい言葉があるんだけど、ネタバレになっちゃうんですよね。
―― 恐々次回の外郭を伺いたいんですが、今までの解が何らかの形で前3編の解答であったのかと思うのですけれど、次回の第8編目というのは単純に考えると…。
[竜] そうですね。対になる話ではないんです。だから始めて見る新しい話になると思います。これまでやってきた解は、前編にFIXした前編の裏側。目明しは単純に「そのころ詩音は」という裏の話。罪滅し編は圭一とレナという傍観者と当事者の配役交代。今回の皆殺し編では、あの時のやり方がこうならばという手段の違い。そして次は対になる話が対になりえないんですよ。だからその通り、次回は対になる話がないんですよ。
―― そうすると全く違った何かなのかなと期待してしまうんですが。
[竜] 無理やり書くとすれば、これは暇潰し編の解になるんですよ。かつて梨花は赤坂の前で、「ボクは昭和58年で必ず殺されます。ボクは死にたくない、幸せに生きたいだけなのに……」と語った。ではその解とは!? 幸せになるため、昭和58年を通り抜けるための方向性、目標となる角度は今回なんとなく見えたはずなんです。これは今回の皆殺し編のラストでも語っていると思いますが、「どういうふうにやったらより良い世界になったかを想像しているところよ」という言葉、正にそれですね。どうやったら彼らは幸せになれるのか?いよいよ暇潰し編で梨花が赤坂に言った言葉の解が示される…。かもしれない(笑)という方向でエンターテイメント性を示しながら、説教くさい内容が隠し味として、プレイする方には純粋に楽しんでもらえればと思います。
―― ありがとうございます。うーん。次のお話を余り伺いすぎても、我々もお客様も残念に思われるかもしれませんが、次の作品の人称的な視点というのは?
[竜] いっぱいあります。誰の視点とは約束できません。というのは、今まで色んなやり方をやってきたじゃないですか、ずっと主人公の目線、ザッピングして人称が変わる形式、第三者視点が混ざる形式となったのですが、今度はオムニバス的というのかな、色んな人の視点にぐるぐる変化して色んな人達の思いを集めていって、いよいよ昭和58年の6月に集約する。と今は余り上手くいえません。ここをどういうふうな話の構成にするかは今まだ悩んでいます。強い意志は強固な運命を導くという事はテーマの一つですが、毎回あの惨劇が起こっているということは、起こそうとする人物はそれだけ強い決意をもっているわけですね。梨花が昭和58年を生き抜こうという決意以上の思いを持っているわけなんです。色んな人の思いがある。悪い人側にも思いがある。全ての思いが集まって一番誰の思いが強いか勝負!!とやって、一番決意が強くって一番コミュニケーションが出来る奴が勝つんです。これはゲーム盤の上の物語ですから、もうコマの役割と各キャラのゲーム版の構造は示された。そして、最後のゲームが始まる。今度勝つのはどこか。本家の掲示板スレッドにあった「どうやったらより良くなるのか」そのゲームが始まるんです。ただ、『ひぐらし』の世界の戦いという言葉は、再三言ってきたように腕力で結果が出る世界ではない。知識も知恵もカリスマも必要になってくる。その中で圭一がどんどんヒーローになっていく、カリスマを集めつつあるのは、あの世界で打ち勝つ最強の能力を身に付けつつある。それはつまり人を論破する能力であったり、人の考えを統一する能力であったり、人を盛り上げるアジテーション能力であったり。あの世界の戦いは極めて文化的に話し合うことで決着をつける世界なんです。だから勘のいい人達は□□を物理的に殺してもどうにもならないと気づいているんですね。もっと面白い人になると□□も被害者にすぎないと言っていたりするんです。だからこそ、次回作は本当に全てのことの解であるとも言えるし、梨花を昭和58年に閉じ込めている敵との対決でもあるといえます。今こそ昭和58年という迷宮の壁を打ち破る。そして夏が訪れるという形になるんです。もうゴールしてもいいよね。
勘のいい人達
作中の人物ではなく、当時推理をしていた『ひぐらし』プレイヤーのこと。【KEIYA】
(一同笑)
[竜] 梨花という名のスゴロクがいよいよゴールへとたどり着く。でも難しいなぁ…スゴロクっていうのはぴったりじゃないとゴールできずに跳ね返っちゃうじゃないですか、しかもゴールの一歩先はスタートだったりするんですね。一ついえることは、次回完結!! それしかいえないと思います。喜怒哀楽色々な物事を詰め込んだ『ひぐらしのなく頃に』、いよいよ閉幕いたします。ご期待ください。
―― 最後に蛇足ですが、次回を終えて以降の展望を教えていただけますか?
[竜] 次に何を作ろうかな? まぁ、ちょっとわかんないですね。まぁとりあえず今年の夏で『ひぐらし』を終えて、冬にはアペンドディスクを作成したいですね。そうだな、『ひぐらしのなく頃に?』となんか漢字一文字を入れて、「梨花ちゃん大虐殺編」とか怪しいキーワードで作りたいなとも思いますし、無駄に急がないでそこで一服してもいいなと思っています。とはいいつつも、常にあの地に巡礼に行くのは我々の生きがいなんでね。新作なくば、踏み入るべからずみたいに(笑)。
―― 楽しみに待たせていただきます。本当に今回もありがとうございました。
(取材日2006年1月)