ひぐらしのなかせ方
第一回
竜騎士07が過去に受けてきた名インタビューに、当時の状況を知るKEIYAが解題を書き下ろし! 第一弾は、かつてとらのあなウェブサイト上で公開された「ひぐらしのなかせ方」。
解題
鬼隠し編のコラムでも述べたように、原作版の『ひぐらし』はサークル07th Expansionによる自主制作ノベルゲームだ。その性格上『ひぐらし』は一般の小売店には流通していなかった。プレイヤーはみな、入手するために同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」に足を運んでいたのである。
同人誌即売会には、同好の士が集い、趣味や作品を介した交流をするという大きな楽しみがある。その一方でネックになるのは、「会場への搬入数に限界があり、入手できない人が出てくる」「会場に足を運ばないと作品が入手できない」といった問題だ。中には個人通販を行うサークルもあるが、需要が大きいと手間の問題で対応しきれないのが現実である。
そこで登場するのがサークルから委託を受けて同人作品を取り扱う店、いわゆる同人ショップだ。秋葉原を中心に数を増やしたこれらのショップは、同人作品の弱点だった入手性の悪さをカバーする存在となった。ショップが抱える店舗や通販サイトによって、全国のファンが目当ての作品を手にできるようになったのだ。
『ひぐらし』はインターネットで大きな話題を呼んだ出題編(鬼隠し編〜暇潰し編を収録したディスク)から委託を開始。噂を聞きつけた日本中のプレイヤーが謎多き物語の虜になった。
ここにお届けする竜騎士07氏インタビューは、同人ショップ大手の「とらのあな」が目明し編発表前に行い、情報誌『虎通』に掲載したものだ。すべての『ひぐらし』プレイヤーが解答編の発表を心待ちにしていたタイミングであり、インタビューの内容にも大きな注目が集まった。アニメ、コミック、そして星海社文庫版といったメディアで初めて『ひぐらし』に触れた方にも当時の熱気を感じていただきたい。
なお、このインタビューは同人やコミックマーケットに詳しい読者に向けて書かれたものであるため、私が別途注釈を加えた箇所がある。元記事に入っている注釈とは色を分けるなどして区別した。【KEIYA】
本インタビューは最低限の表記統一などをのぞき、掲載当時のものをそのまま使用しております。新たにKEIYA氏による解題と注釈を加えていますが、※印の注釈は掲載当時のものです。とらのあな様のご厚意に深く感謝いたします。
文中表記(肩書きはすべて当時のものです)
[竜] 竜騎士07氏(サークル代表・シナリオ担当)
[八] 八咫桜氏(スクリプト担当)
[B] BT氏(HP管理人)
[矢] サークルNECO青龍代表:矢野芳典氏(広報・営業担当)
[編] とらのあな編集者
2004年 晩夏、東京秋葉原 某所にて。
―― 今夏、『ひぐらしのなく頃に』は安直な言い方をすれば“ブレイク”というような感じですが、代表の竜騎士さんその辺はいかがですか?
[竜] いや、自分でも本当に驚いてます。あの〜本当にもっと素敵なソフトはたくさんあるはずなのにと、正直驚いております。
―― まわりの環境っていうのは変わったりしましたか?
[竜] そうですね。いままではウチの作品の名前を言っても、誰も覚えてないような感じで、お話しても「ひぐらしの竜騎士07」とはならなかったんです。おかげさまで最近作品の知名度がだいぶ上がったせいか、ようやく「ひぐらしの竜騎士07」という感じで、うん、いろんな方に名前を覚えて頂けたようで、…恐縮しております。
―― 『ひぐらし』という作品ですが、結構長いスパンで作ってらっしゃいますよね。こちらで調べられたのは2002年の夏コミが最初という事なんですが、これ以前というのも、もっとあるんですか?
[竜] それ以前はひぐらしは作ってないです。その前はトレーディングカードゲームのリーフファイト(※1)のオリジナルカードの作家として2年ほどやってました。だからゲームをつくったのはこれが最初です。2002年の夏に最初の「鬼隠し」を出して、2002年冬に「綿流し」、2003夏に「祟殺し」、2003冬を落として(スタッフ一同笑)、2004の今回という形ですね。
―― 今回初めてショップでの委託販売という事ですが、これまではやっぱりコミケの方で?
[竜] イベント配布のみでしたね。イベント配布どころか、ウチはずっとオリカ(※2)サークル、カードサークル、非電源系サークル(※3)でしたから、3日目には配布してなくて初日に配布してたんです。
3日目には配布してなくて初日に配布してたんです。
夏のコミケは3日間連続開催(冬は2日間または3日間)。参加サークルの配置日はジャンルに基づいて決定される。【KEIYA】
[八] 他には依託で…少しですね。
[竜] ほんの10か20ぐらい。
―― で、イベントで配布なさってきて、その次がダウンロード配布ですか?
ダウンロード配布
07th Expansionの公式サイトから無料ダウンロードできる体験版のこと。最初のシナリオである鬼隠し編をエンディングまで完全収録している。「興味はあるが面白いかどうか分からないので……」と足踏みしていたプレイヤーを多数『ひぐらし』の世界に引きずり込むきっかけになった。なお、星海社文庫版も公式サイト「最前線」に鬼隠し編が全文アップロードされている。【KEIYA】
[B] 体験版に関しては、今年の5月にアップして初めて配布です。それまではイベントのみの配布ですね。
―― ではこれまでの流れ的には、イベントでずっとやってきて、その次ダウンロードでやって、今回ショップという感じで…。
[竜] そうですね。正直こういった18禁要素が無い作品なんで、取り扱ってもらえる自信はまったくありませんで、絵柄に関してもまったく平凡以下でございますんで…。これまでも100、200の頒布で毎回いっぱいいっぱいでしたので、まさかショップにお願いするという事は当分ないだろうと思っていたんです。そしたら今回、さっきBTさんがおっしゃっていたように無料ダウンロードにしたら、どういう訳か…たくさん(笑)。
[B] 体験版を上げて、フリーゲームの紹介サイトに登録させて頂いて、紹介したら反響が返ってきて、それから大きくなっていったという感じです。
[竜] 実際は時間差があって、飛び火が本格的に始まったのはどっちかというと夏コミの後かもしれないですね。夏コミの前にもある程度は盛り上がったんですけども、本格的には夏コミ直後じゃないかな?だから、あの〜…大勢の方が「こないだのコミケで続きが出ていた“らしい”」という話になってて、で「コミケ以外では手に入らないのか?」と。そういう方々の多くがコミケには行った事ないとか、秋葉原にも行った事がない、ということだったので。「コミケにいらっしゃる方」以外からの要望が多かったというのがショップにお願いしようと思い立った動機ですね。で…ショップに依託する時の仕様書ってあるじゃないですか?
―― ありますねぇ。
[竜] あれで「CGは何枚ですか?」「18禁要素はありますか?」って書いてあって…なんかウチは(笑)「CGは0枚…」「18禁は無し…」。たしか自分で書いていて「これ、俺が仕入れ担当者だったら絶対取らねーよなー」って(笑)…思ってたところで。それで、以前からお世話をお願いしていた矢野さんに「この作品なんだけどどうでしょう?」という事で、色々ご紹介をお願いしたんですけど。
―― あの〜我々はちょっと聞くのが怖い話なんですが(笑)、矢野さんが最初に各ショップを回られたという事ですが…いかがでしたか?
[矢] そうですね、んー、ぶっちゃけて言ってしまうと御社の反応が一番冷たかったんですが(笑)
(一同笑)
―― ぐあー…なるほど(苦笑)。結構情報量の差があったという事ですが?
[矢] そうですね。だから元々知ってて既にプレイヤーだった人がいきなり出てきた。っていうのが結構ありまして、それかそうでないかの差がちょっと出てしまったなと。
「元々ひぐらしを知っていて、既にプレイもしていたという担当者が出てきたショップが多かった」という意味か。【最前線編集部】
―― 若干失礼な質問ですけど、矢野さんが各ショップさんをまわられる時「これは絶対行けるだろう」というような自信は?
[矢] ええ、確信犯だったので。2年前に竜騎士さんの方から「こういうゲームが1年後くらいに出ますので、その時は(広報活動とか)お願いしますね」というお話しを頂いていましたので、それから1年後に「どうなりましたー?」って確認をして、…その後半年ごとに「そろそろどんな状況か」と確認で聞いてました。
[竜] ねえ(笑)。…最初は生意気にも1年で完成させるつもりだったんです。完全完成を。今日記を見返すと怖いですね。
(一同笑)。
[竜] まあ(笑)あの頃は「今年の冬には完成しますよー、矢野さんその際はお世話になりますねー」とか言ってたら、段々話がおかしくなって来て「竜騎士さん、完成するのいつです?」「…あと2、3年かかるかな…」って話になって。
[矢] 「えー!そんな長い話なのー!」と。
―― 07th Expantionというサークルですが、皆さんどういった形でお知り合いになって、どういった形で活動なさってたんですか?
[竜] (スクリプトの八咫桜氏を差して)彼とは非常に親しい間柄で…(笑)
スクリプトの八咫桜氏
読みは「やたざくら」。文中では明言されていないが、竜騎士07氏の実弟である。ここで言うスクリプトとは、『ひぐらし』をノベルゲームとしてプレイできるように様々な命令を記述する行為を指す。画面の切り替え、登場人物の立ち絵表示、音楽の指定、メッセージ速度の指定などなど。ちなみに、『ひぐらし』が用いているスクリプトエンジンは高橋直樹氏が開発した『NScripter』。【KEIYA】
[八] (ひぐらし制作中には)彼の部屋をけりやぶって「何やってるんだゴルァ〜」というような。
(一同笑)
―― では、HP管理人のBTさんは?
[八] 私は竜騎士さんがオリカ描いてた時のファンだったんです。リーフファイト関係などで協力してるうちにお手伝いするようになりまして。
八咫桜氏の発言になっているが、BT氏の発言と思われる。【最前線編集部】
―― 他にもスタッフの方はいらっしゃるんですか?
[竜] 今日ここにいるのがメインスタッフで、もちろん他にも応援してくれるスタッフは大勢います。他のスタッフはどっちかというと…急場の応援要員? みんなで一斉にラベルシールを貼る!とか、みんなでコピー行くぞー!とか。
―― あのー、搬入前にCDを手焼きで焼いてらっしゃいますよね…
(スタッフ一同笑)
搬入前にCDを手焼きで焼いてらっしゃいますよね
コミケ会場に搬入する『ひぐらし』のゲームディスクのこと。出題編まではすべて手作業でCD-Rに焼き、ジャケットやレーベル面もプリンタで印刷した手作りのディスクを頒布していた。プレスCDになったのは出題編の同人ショップ委託分が最初。【KEIYA】
―― あれはどんな感じなんだろうと思うんですけど?
[竜] う〜っと、いつも100か200程度なんで、ほとんど家でやってます。100から200のデュプリなら最近は結構速いので、あれは3日…3日かかんないよね?
[八] 1日で終わりますね。
[竜] そう。カンカンカンカン焼いて焼いて。
―― それは何台かで?
[竜] ほんの2・3台かな?
[八] 場合によって最大4台まで稼働してます。
[竜] 今回はさすがに1,500枚あったんで(スタッフ一同笑)BTさんはハードにも大変詳しい方で、7段スロットの凄いデュプリケーター(※4)を組み上げて下さって(笑)、それで機関銃のような速度で焼いてます。
[B] 最初は1,000枚も焼くのなんて想像つかなかったです。
[竜] そうそう、最初の頃私は「700枚でいいんじゃない?」(笑)。そしたらBTさんが「2,000枚はいくよ!」。それで壮絶な応酬をやって、「じゃあ間とって1,500で手打とうぜ」と。
(スタッフ一同笑)
[B] 急にささっとそうなちゃったんで。前回は200?
[竜] 200。これが今回イベントで1,500持ってったんで、本当に頒布部数としては信じられない数だったですね。
―― でもそれも午前中で終わってしまったと聞いてますが?
午前中で終わってしまった
コミケ会場に搬入した分をすべて頒布しきったという意味。「完売」と呼ぶ。サークルとしては基本的に嬉しいことなのだが、その作品目当てで遠路はるばるコミケ会場に来た一般参加者にとっては恐怖。午前中というのはコミケが開始されてからわずか2時間足らずの時間帯であり、ここで完売するのは(搬入数が極端に少なかった場合を除き)需要の高い人気サークルが多い。【KEIYA】
[竜] 午前中じゃなくて2時ぐらいだったかな?
[八・B] 2時ぐらい。
―― なにか変わってきつつあるというか、手応えみたいなものってありましたか?
[竜] いやー、もうダントツでありましたねー。
[八・B] あるある(うなずく)
[竜] コミケでいう所の“オープニングダッシュ(※5)”っていうんですか? ウチを決め撃ちで来られる方とか、カタログで事前にチェックして来られる方が増えました。最初の頃は移動中の人が興味示してる所に「100円ですよ」(※6)と言うと「100円なら買う」という程度で、つまみ食いというかついで買いだったんですけど。ここ最近はスペースに急いで買いに来る方が増えて、ウチ目指して来て下さる方がいらっしゃるんだなと。今までは本当に「面白そうだけど…ふーん」って感じの人ばっかりで、(八咫桜・BT両氏に向かって)みんな行っちゃうんだよな?(笑)そういう人達に「100円ですよ」って言うと「100円なら買うよ」あるいは「100円?体験版?いらない」っていう人も結構いたりして。
100円?体験版?いらない
同人ゲームの相場からして、100円で完成版を頒布するサークルはかなり珍しい。サークルによって差があるため一概には言えないが、完成版の長編ノベルゲームなら1000円〜2000円前後の値付けが多いようである。体験版と誤解する人が続出したのも無理はない。【KEIYA】
―― 「ひぐらし」はネット上での口コミも凄いんですが、それは夏コミで決め打ちの方が出てきた後にネットでワーっと…。
[B] 体験版(※7)をまいて、その後ですよね。フリーソフトで登録したら、プレイして下さった方が結構いらっしゃって、その方たちが周りにだんだんだんだん…。
―― ご覧になってて、そういう経過っていうのはいかがでしたか?
[竜] いやもう、誰かが私たちをだましているんじゃないか?と
(一同爆笑)
[八] 衝撃でしたね。
―― BTさんはカウンタの回り具合が大変な事に…。
[B] ウチのHP、5月ぐらいまでは40とか60とかその位だったんですが。
[竜] 一日40〜50。100越えたのはHP開設した最初のオープニングと2日目と、あとキリ番が出た時かなんかぐらいで(笑)
[B] そんな時ぐらいしか越えなかったんですが、だんだん大きくなってきて(笑)
―― カウンター壊れてんじゃないか状態。
[竜・B] 何度か壊れたんですよ。
(しばしカウンタ破損の話)
[竜] 〜が対応してなくて、1日に1万人来るなんて(笑)想定してなかったですもんね。
「〜」部分、本インタビュー初出時ママ。「cgi」か。【最前線編集部】
―― それはいつ頃の話ですか?
[B] 1万越えたのは夏コミ後じゃないですか?
[竜] 夏コミ後ですね。
―― ショップでの販売が決まった頃には…。
[B] だいたい3万?
[竜] マックス3万。
[矢] あれは凄い。
[B] あの頃の広がりっていうのはびっくりするしかない感じで。こちらは呆然と見てるっていうのが正直な所で…。
―― もう!思った通り!!とかそういう事は…(笑)
[B] (笑)。いや、全然まったく。夢なんじゃないかなって感じで。
[竜] 矢野さんからも、一番最初だから(各ショップからの発注)数値は引き締まったものが来るかもしれないよ、と。ウチも実績ゼロですから。それが何百だって数が出てきて、実際それが1日2日で売れましたよって…私なんども、売れ残って万世橋(※8)から捨ててるんじゃないかと…。
(一同爆笑)
[竜] 私、初売りの時に秋葉原これなくて、売れたとこ見てないんです(笑)。
―― さて、作品のお話を伺いたいんですが、『ひぐらしのなく頃に』の原案というかイメージというか、原型っていつ頃からお考えだったんですか?
[竜] まず、この作品を作ろうと思ったのが2年前、リーフファイトのオリカで2年ぐらい活動してきて、そろそろ他のジャンルに移行したいね、という段階で、八咫桜さんが「じゃあノベルがあるよ」と。「俺はスクリプト(※9)勉強してこんなの作ったよ、ちょっとやってごらん」と。「おお、凄いね」「『月姫』(※10)もこれで動いてんだよ」「お、凄いね」という感じで、「じゃあ次はノベルで行くべ!」というのがあったんです。それよりはずいぶん遡りますけど、私、昔から舞台脚本とかシナリオとか、そういうのが好きで、舞台の研究生の方?劇団なんとかとか、そういう方々とご縁があって、舞台脚本を趣味で書いた事があるんです。もちろん投稿して、なしのつぶてだったんですが(笑)。その中の1本に『雛見沢停留所』という作品があって、それが『ひぐらしのなく頃に』の原型作品なんです。これは…この作品を今読まれると痛い。致命的なネタバレがわずか数ページの間に書いてあるので(笑)、これを今発掘されるとすごく痛い。…のですが、多分持っている人は実在しないと思う。
―― ほぉ〜。
[竜] その劇団関係でボツった人か、当時の演劇の友人で「ふーん、後で読んどく(ポソ)」って置いた人か…。
[編] 持ってる人は鬼隠し(※11)にあってしまう…。
[竜] (爆笑)
[八] ありえますねぇ…(ニヤリ)。
[竜] これは一幕一場の60分ぐらいを想定した、劇団研究生の卒業公演を意識した台本でして、雨の停留所の中で…魅音と梨花しかいないんです。魅音が年下、梨花が年上のおねえさんという設定で繰り広げられる話で、『ひぐらし』のある重要な部分一つを軸に60分でまとめるプチホラーなんですけど。
―― は〜。
[竜] この作品を、私としてはすごく苦労して打ったのに、結局なしのつぶてなので、心の中で「ああ、残念」って思ってたんです。それでノベルの打ち合わせの時に「あの時の話もう土台が出来てるから、あそこから話をふくらませていかないか? ヒロイン追加したり、舞台設定詰めたり」って話になって、それで『ひぐらしのなく頃に』になったという訳です。
―― シナリオは『ひぐらし』以前にもだいぶ書いてらっしゃったんですか?
[竜] んー、頭の中の妄想としてなら結構いくらでも。実際は竜騎士07と名乗る前に、某同人ソフトサークルでシナリオ書いた事もあったんですが、絵描きのスピンアウトでポシャっちゃいまして(笑)。2年かけて作ったシナリオが全部パア(笑)、だから…(八咫桜氏に向かって)あれシナリオだけなら全部完成してるゲームなんだよな?
―― それは『ひぐらし』とはまた全然違う…。
[竜] 全然違う作品です。
―― じゃあ、それはまだストックとしてある訳ですね。
[竜] ありますね。その事が痛かったので、もう絵は自分で描く!と(笑)私本当は絵描きじゃないんです。
もう絵は自分で描く!
原作版では竜騎士07氏がキャラクターの立ち絵も担当している。星海社文庫版の挿絵はご存じともひ氏。【KEIYA】
―― ではノベルは『ひぐらし』が第1作?
[竜] 前のサークルで作っていたものがそうではあるんだろうけど、倒れちゃって発表はしてないですから、これが初の作品ですね。
―― これは個人的な感想になっちゃうんですけど、ゲームをやらせて頂いて、「凄いな、上手いな、書き慣れてるなー。何なんだろう、これ?」と思ってたんですが、量的に、もうずっーと書いてるとかそういう事ではないんですね?
[竜] あ、そういう事は全然ないです。本業もただの事務方で、あった事実だけを淡々と箇条書きで出すような、そういう仕事ですので、全然こんな文筆のまねごとは…。
―― 作品の構成というか…「タイルをきっちり並べて、ヤスリをかけて形を整えていく」とご自身で書いてらっしゃいますが、あの複雑なシナリオを組み立てていく『ひぐらし』の構成力の源ってご自分では何だと思いますか?
[竜] う〜ん、前にも少しお話したんですが、私あまり本も読まないので…。
私あまり本も読まないので…。
後に拙著『最終考察 ひぐらしのなく頃に』(アスキー・メディアワークス)の対談で竜騎士07氏が語っているように、「本当の読書家には遠く及ばない」という意味合いの謙遜である。ところが、世間ではこの発言が一人歩きして「竜騎士07氏は全く読書をしていない」という誤解が広まったというエピソードがある。【KEIYA】
―― それもまた意外なんですが。
[竜] もしそういう物があるとしたら親の影響かも…?
[八] だねー。
[竜] うちの親がですね、いつも映画とかそういうものにすごい文句つけるんですよ。
―― はあ。
[竜] テレビで映画とか見てると「バカだな、なんでああしないんだ」とか「ダサい、先が読める」とか。親父は映画の最初で登場人物を見て「ああこれが最後の悪いヤツだよ」と看破してみたりとか。子供の頃からそんな感じなので、アニメとか見るの嫌だったんです。けなされるのが嫌だったので。だから私としては「ああ、親にケチつけられたくないな」と思いながら(笑)。…なので、あんまり深く考えて構成とかをやっている訳ではない、ただ私達の考えに根元みたいなものがあるとすれば「親が作品に文句ばっかりつけてるのを見て育った事」で、「文句つけられるのは悪い部分」。
―― 何かで培ったというよりナチュラルにそうなっちゃったという感じですね。
[竜] そうですね、親の影響です。親は本当に閑話休題のシーンとかが嫌い。戦争映画にたいていある、中だるみのシーンとか大嫌いで「まったくダラダラしやがって」みたいな。
(一同笑)
[竜] だから私の中では、イベントからイベントに躊躇なく、どんどんつないで行かなければならないんだな、という感じがありまして。イベントとイベントの間に漆喰の部分は無ければ無いだけいいんだと。エンターティメントというのは、見てる方に楽しんでもらわなきゃならない訳だから、楽しんでもらえるピースを次から次へと並べて行くべきだと。そういうものだと思って作っているだけで、あまり深く考えて作ってはないんです。
―― 先ほど本はあまり読まれないとうかがいましたが?
[竜] 自分で文章書いてて失礼な言い方ですが、三行以上文字が書いてあると、もうめまいがしてよく読んでいられないんです。自分の文章読み返すもの苦痛です(笑)。
―― ではミステリーが好きとか、ホラーノベルを読むとかは…。
[竜] サウンドノベル(※12)は読めるんです。なので当然『弟切草』(※13)『かまいたちの夜』(※14)は大変感動しまして、私、サウンドノベルに関してはこの2作品ありきで始まったので。ノベル全盛期は恋愛ゲームの代名詞ですけど、「サウンドノベルはすべからくホラーでないといけない!」と思いこみがあって、自分でも『弟切草』『かまいたち』をやるべきだと。一時期スーパーファミコンでホラーのサウンドノベルがずいぶん出たんですけど、ああいうのが大好きで、今でもホラー系のゲームは大好きですね。
―― 「一番リスペクトしてるゲームはなんですか?」というのを今日聞こうと思ってたんですが? 好きだとか、影響を受けたとか。
[竜] 影響を受けたといえば、まず作品名というよりはKEYさん(※15)のものかな? 『ひぐらし』を作る事になった当時は、Leafさん(※16)がサウンドノベル…あ、あそこはビジュアルノベルですか…を盛り上げてきて、その後でKEYが出てきた時で、私たちもKEYの作品は見習うべき点が多いだろうと。特に『Kanon』『AIR』(※17)は凄く意識してて、その時に研究したんですよ。「なんでKEYの作品は面白いんだろう?」と。で、KEYの作品というのは、楽しい日常から突然ひっくり返って“泣き”になる、この状況のこの段差がきっと泣かせるんだと判断したんです。じゃあウチは楽しい気分から怖い部分へ行こうぜ、と(笑)。その段差で驚かせようぜ、と。
―― プレイヤーにとって、あれは感情移入するほどつらいですよね。私は最初のシナリオではただ驚きましたけど、2本目以降はもう分かってるので、前半プレイ中から「やめてくれ〜、やめてくれ〜」。
(一同笑)
[竜] だから、本当はジャケットをただのギャルゲーのジャケットにしたいんです。
(スタッフ一同笑)
[竜] もらったメールで一番嬉しかったのは「友達にギャルゲーだと騙してやらせました」。
(一同爆笑)
[竜] 多分ギャルゲーだと思ってプレイした人達が一番びっくりした。ゲームの感想でも「ギャルゲーだと思ってプレイした…_| ̄|○」っていうのが一番好きですね。…コミケで売ってる時に「買って下さい!」「これは何のゲームですか?」「……えーと、ギャルゲー?」って言うと皆さん買ってくれないんで、売り文句として「推理ですよ、ホラーですよ」っていう風になったんですが、ただの恋愛ノベルだと思ってやらしてみたら…(笑)。そういうのが一番理想形なんですが。
―― 『ひぐらし』は絵が最初のトラップ、とお書きになってたと思うんですが。
[竜] はい。
―― そういう発言って、作中のお話の作り方と重なる部分があると思うんですが、やっぱりその手の“仕掛け”みたいなものがお好きなんですか?
[竜] やっていただくからには驚いてもらわないと(笑)。それが基本なので…仕掛けは楽しいですよね(笑)。
―― 作品の中だけじゃなくて、外でも仕掛けるかー、という感じなんですが。
[竜] ずっとLeafのオリカ描いてまして、応援して下さる方もああゆう系の絵柄に惹かれる方々だったので、「そういう絵柄でこんなゲーム作ったらこれは意表つくよなー」と(笑)。
―― 『ひぐらし』はホラーだってわかってやってる人も、怖い怖いって言ってるんですが、ギャルゲーだと思ってあれをやったら壮絶なトラウマとかに…。
(スタッフ一同笑)
[竜] だから騙されてやったという、そのお友達の方には同情を…(笑)。私に時間があったらジャケットをリバーシブルにしたいんです。片側がただのギャルゲー風になってて「※友達に貸す時はこっちを表にして下さい」(爆笑)…騙したい、というのがある。
―― 騙したい。それが作品の原動力だったりしますか?
[竜] う〜ん、原動力は…(八咫桜氏に向かって)なんだろね?
[八] なんか作りたい、これを世間に叩きつけてやりたい!ぐらいの。
[竜] あとは…仕事のフラストレーション(笑)。あとは自分たちのできる事を全部突っ込んでみようぜ、という…『月姫』とかもプレイして「すげえなぁ」。
[八] すげぇ。
[竜] 『月姫』の最初の一人は何分で死ぬ?15分で死ぬ?じゃあこっちは最初の15秒で殺そう!(一同笑)これは日記にも書きましたけど。
―― 15秒というのはあのオープニング…
[竜] そう、オープニングシーンです。
[編] あれは――――なのかな?と思ったんですが。
[竜] 実をいうとアレは――――です。
―― あー!あー!ネタバレしちゃうと後の楽しみが無くなりますので。えー、話を戻しますが、影響があるとしたらKEYさん、それに昔のサウンドノベルという事ですか?
[竜] 『弟切草』『かまいたち』…初期のチュンソフト、あとKEYの作品。ゲームだとそうですね。あとは映画なんですけど。
―― はい。
[竜] 『ブレアウィッチプロジェクト』(※18)の影響はものすごい強いですね。
―― は〜。
[竜] 『ブレアウィッチプロジェクト』は凄くよくできた“プロジェクト”で映画じゃないんですよ。日本では映画だけが上陸しちゃったんで失敗したんですが、あれはすごく上手いんです。
[編] 映画の外が上手いんですよね。
[竜] そうそう、外が上手いんです。ある魔女の森に取材に行った三人の大学生が行方不明になった。その遺留品が築100年のキャビンの土台の下から発見…あるはずのない場所から発見された。中には彼らが持っていた取材のテープが残っていた。その取材のテープは○月○日、映画館で封切り…っていう設定で、映画を公開する前に3人のナップザックから見つかった、手記や日記が出てきて、森の伝説の証言とか…ウチのゲームでいうところのTIPSがたくさん並んでるんです。で、あれは映画すらもTIPSだった…。あれを受けて「あー作品の世界をストーリーとして出すだけじゃなく、そこに部外者の証言とか資料とか、そういう…TIPSですね、そういう物が入ると世界が面白くなっていいね」っていう。『ブレアウィッチプロジェクト』は公文書が非常に多いんですよ。保安官の供述調書とか、あるいは荷物が見つかった時の報告書とか、科学鑑定結果とか、そういうのがいっぱいある。そういう要素が入ると凄くリアルに見えてきて、実在した事件と錯覚するぐらいよく出来てるんですよ。
[編] ローカルTV局の枠を分単位で買って、「遺品が見つかりました」というニュースを直前に流したのが話題になりましたね。
[竜] そうですそうです。たぶんあのオーソン・ウェルズの『火星人襲来』(※19)の再来ぐらいは狙ったんじゃないでしょうか。ただ残念な事に日本では映画しか来なかった、その盛り上げる過程が来なかったので、日本では駄作扱い、知名度もゼロに近いんですが、私たちはたまたま、その映画と設定資料集を見て「やられた…」と。だから『ひぐらし』のTIPSシステム(※20)は『ブレアウィッチプロジェクト』。この3つですね。
―― KEYと初期のチュンソフトと『ブレアウィッチプロジェクト』。
[竜] この3つに作品を作る上で、インスパイアされたというか、そう思います。
―― その要素を元からあったシナリオ(『雛見沢停留所』)と組み合わせて、
[竜] そうですね。
―― シナリオ制作過程についてお聞きしたいんですが、まず結末は一番最初に決まっているんですか?
[竜] もう決まっている事です。後は見せ方の違い。肉付け…演出の違いでこれから「どういう風に演出したらいいかね?」っていうのはありますけど、事件や環境や要因は既にあるんです。キャラクターを配置したら、キャラクター達がそれぞれのルールに従って動くだけなので、結末は既にある。それを紹介していくだけなので、企画開始と同時にエンドは用意されていました。
―― 私は『ひぐらし』に関して既に推理は投げ出した人間なので、バカな質問かもしれませんが、ゲーム中の整合性を取っていくのってかなり大変なのではないですか?
[竜] んー、今申し上げた通り“まず環境ありき”で、その環境にコマを配置して最初に動いているのが「鬼隠し編」。コマの初期配置を変えたら今度は「綿流し編」。『Black Box』(※21)っていうゲームがあるじゃないですか。光線を入れる角度によって反射角が違う、それで中身を当てろという物ですが。雛見沢は「ブラックボックス」なんです。これは公開情報なんですが、3本の話は全然違う展開をしてますけど、根本の部分は何も変わっていないんです。登場人物達の中身も裏設定もなにもかも、3(4)作全部共通してる。ところがほんのちょっとした――ん〜アクセントが違うだけで、全然違う話になってしまう。パラレルワールドではないんです。
[編] パラレルではない。時間軸も一緒?
[竜] 基本的な時間軸も同じです。ただ多少曖昧なところはあります。「綿流しの日に雨が降る/降らない」とか、そういった微妙な範囲では誤差がありますが、世界の基本設定…たとえば鬼隠し編のレナは2重人格なのに、綿流し編ではいい子になってます、という事はない。全編通じて同じキャラクターです。シナリオごとに、あの世界に用意された違う選択肢を選んでるような感じですね。「北条鉄平が帰ってくる/こない」で、帰ってきてしまったので「祟殺し編」になった、というような。根本世界はまったく同じで、ちょっとしたひっくり返りで死亡や虐殺が起こる可能性もあれば…へへへ(意味深に笑う)圭一くんが殺人鬼になる可能性も秘めている。
―― 失礼ですが、竜騎士さんて「バッドエンドな話が大好き」なんじゃないかと…(スタッフ一同笑)私はシナリオが終わる度に段々切なくなってきてしまって。ああ〜また…(泣)みたいな…。
綿流しの日に雨が降る/降らない
このぶれは決して無意味なものではない。創作論になるが、天候は物語の内容――特に登場人物の心理状態によって変化することが多いからだ。【KEIYA】
[竜] (笑)。謎の提示部は全てバッドエンド式になってますね。今後「目明し編」以降は多少謎を残しながら、もうちょっとは…(笑)救いのある、癒される終わり方を目指そうかと思っております。で一番最後には大団円エンドを考えてます。
―― ユーザーさんからのそういう声って来てませんか?もうちょっと…こう…。
(スタッフ一同笑)
[竜] 来てます来てます。「幸せにしてあげて下さい」という要望はたくさんありますね。
[編] プレイした人達がお互いに推理を話し合う状況もネット上でだいぶありまして、「是非そういう事を話して楽しんで欲しい」というような事もお書きになってますが?
[竜] そういう遊び方は別にウチのゲームに限った事ではなくて、私も『エヴァ』(※22)のオンエア時には、友達とああじゃないこうじゃないと話してましたし。ミッシングリンクとか、うやむやの情報を多く散りばめて、そういう楽しみ方、勘ぐりながら読んでもらえたら楽しいんじゃないかと。ただ読み流すだけじゃやっぱり面白くないので、そういう遊び方をこちらから提案させて頂きました。
[編] 確かに『ブレアウィッチプロジェクト』もそういうたくらみがありますね。
[竜] そうなんですよね。
―― 制作過程に関してもう少しお聞きしたいんですが。
[竜] そうですね…(八咫桜氏に対して)結局一番最初の会議でだいたい決めちゃったんだよね?
[八] 決めちゃいましたね。
[竜] 全体は何話ぐらいだな、という感じ…あの時は6話ぐらいだったっけ?
[八] そう。
[竜] 各キャラクターごとにシナリオがあればいいから、6話ぐらいだよねー、と話して、それから話数変更して「こっちはこうだね。ここはこう」みないな感じ、だから一番最初の時点でほとんど全部終わってて、その後はソートするだけ…本筋を脱線しないように演出を多少つけていくだけだったという…最初に環境を全部作って、エンドまで作ってしまったので、あとはそれにそって。
―― フローチャートを作ったりなさいますか?
[竜] いえ、結構いい加減です。だいたい1本のシナリオが14日間ぐらいという設定があるので、最初の7日間は遊ぶ週で、7日目からひっくり返そうと。シナリオ切ってて「最初の3日は楽しく、でこのきっかけからひっくり返る」みたいな、なんていうんだろう…シナプシスっていうのかな…を作っていって、話のラストはもう決まっているので、あとは何日目までにこのぐらい話が進行しないといけないな、というのはありますね。
―― ちなみに他のスタッフの皆さんは『ひぐらし』の全体像ってご存じなんですか?
[竜] 八咫桜さんは知ってて、BTさんにも結構話しちゃって、本人は知りたくないって言ってるんだけど(笑)。
(BT氏「聞きたくない」ポーズ、スタッフ一同笑)
[竜] 私が、聞いて聞いてって勝手にメッセンジャーで「〜な展開なんだけど、どう思う?」とかやっているので。
[B] もうほとんど知ってます…。
―― BTさんは聞きたくなかったんですか?
[B] いやあ、やっぱり楽しみたいです(笑)。
―― ですよね。今日の取材の人間も、極力ネタバレは聞かないようにしようと…。
[竜] 矢野さんには「話しましょうか?」と言うと「いや、いい」(笑)。
(矢野氏同じく「聞きたくない」ポーズ)
―― 全体の話数は決まってるんですか?
[竜] 最終的には8本になると思いますので、今がちょうど折り返し地点です。
[編] 今から「解」(※23)のほうで。
[竜] 「解」でもやっぱり4本設定になるかなーと。今のところ「目明し編」「罪滅し編」それから「皆殺し編」…。
―― ああっ!タイトル聞いちゃいましたけど。
[竜] いえ、タイトルだけ聞いても内容は想像つかないですから(笑)。
―― 竜騎士さんがシナリオを上げた後で、八咫桜さんがスクリプトを組んで行くわけですか?
[竜] まず私が、なんにも考えず思いつくままにバラバラバラっとwordで打ちまして、それを八咫桜さんが取り上げてって、それをスクリプト化する。スクリプト化の過程で「こんな背景ねーよ!」となると彼が撮影に行ったり、「こんな音ねーよ!」となるとフリー素材探したり。これは公言してるんですが「俺は創る側だからワガママに行くよ」「背景が無いからそのシーンを描けないとか、そんなのはしないよ」で、私は遠慮なくワガママに、もう有り得ないようなシーンをガンガンと(笑)、もう八咫桜さんが「なにそれ!?」というやつを。
[八] 私は「ふざけるな!」とか言いながら。
[竜] でも、もう2年やってるんで、彼は良い背景をどんどん貼ってくれますね。
―― そしてその後は?
[竜] スクリプト化が終わると、私の所に返ってきます。音楽はまだ入ってなくて、せいぜいSE、セミの声とか…。
[八] 打撃音とか投げる音とかそういうの。
[竜] 効果音と背景が実装されたものが返ってきて、ここからクリンナップと呼んでいる作業です。「これ表情違うから表情こっちにして」「これは立ち絵換え」「画面が暗転」「ここでセミを始めて、こっちはフェードアウト」「出しっぱなしにして雨の音を重ねて」…そういうのを徹底的に何度も何度もガンガンやって、「さっきの反映してないじゃん!」とかなんとか言いながら作っていく。「さっきのやっぱりやめない?こっちにしよう」(笑)なんて感じで、だいたいこれがコミケ2週間ぐらい前(笑)。
(スタッフ一同乾いた笑い)
[竜] この辺はもう戦争ですね。
―― やっぱりサウンドノベルって音のタイミングとか凄く重要だと思うんですが、この過程はかなり手を入れられるんですか?
[竜・八] (声を合わせて)ものすごく!
[竜] かなり細かい所まで指定しまくりで、やっぱり「サウンドノベル」というからにはサウンドですから、音は凄く意識してます。「ここで雷…遠雷」とか「いや、銃の音もっと大きくできない?」とか、下らないレベルかもしれませんが、こだわりがいっぱいありますね。
―― 雛見沢村…架空の村なんですけど、地理的にはどの辺に存在するんでしょう?
[竜] ――の方にある某有名な場所がモデルです。みんなで車をくり出していって、写真を撮りまくって。やっぱり雛見沢村はこんなの、というイメージがあって、彼(八咫桜氏)の部屋に「日本のふるさと」だっけ?
[八] はい。
[竜] そういう小冊子があって、そういうのをぺらぺらめくって「これだ!俺の雛見沢はコレなんだ!」(笑)「じゃあ、いこうぜ。撮影に」(スタッフ一同笑)それで休みにガーッと行って、「いいか?二度と来れないから撮りまくれよ!なんでもいいから撮りまくれ!!」と。何百枚だっけ?
[八] データで残ってるのは250枚だけど、間引いたのを入れると本来500枚越える。
[竜] でも、行ってきて肌で雛見沢村を感じられました。最初のイメージは、私は関東人ですけど、所詮関東人が持ってる「寒村はこんなもんだろう」という、思いこみだけだったんですが、現実に行ってきて肌で環境を感じてきた効果は計り知れないですね。
―― ずっと関東なんですか?
[竜] 基本的に関東圏です。
―― 劇中に方言が出てきますが、あれはどこの方言なんでしょう?
[竜] あれは……メチャメチャ。
(一同爆笑)
[竜] やっぱり方言って…。
[矢] 「すったら」とか?
[竜] そうそう(笑)。「すったらんと!」とか「すっちゃらこっちゃら!」とか(笑)。
―― 絶対どこかの地方の方言がベースにあると思ってたんですが…。
[竜] …全部“竜騎士語”でして(笑)
[編] キャラクターがみんな個性的(※24)なので、造形の過程が気になるんですが?
[竜] キャラクターは…みんな変態(笑)。
[編] みんな変態ですか…(笑)。イメージとかモチーフとかは?
[竜] 特に原型は無いんですが、先ほどのKEYの話と一緒で、「なんでKEYのキャラクターはみんな立ってるんだ?」という研究をしてみたら、「KEYのキャラクターはみんな変態だからだ!」と(一同笑)「みんな異常だ!」という結論でして。それで、たとえば竜宮レナという娘は凄く世話焼きなんだけど、カワイイものに目がなさ過ぎて、なんでも持ち帰る事にしようと。カワイイと思ったら、持って帰る!拉致する!庭は変なものがいっぱいだ!という、そういう変質性で、どんどん変態みたいにしていこうと。全キャラ変態であるという設定はずいぶん考えましたね。
[編] レナの家はゲーム中で是非見てみたいですよね。
[竜] 庭は大きいのぎっしりで、部屋は細かいのぎっしりで、地下室があって、壁には爪の跡と血の跡と…誰かが抜け出そうとした形跡が…(笑)。
[編] それ冗談でいいんですよね?
[竜] 冗談ですよ(笑)。
[編] ちょっと怖くなってきたんですが…。
[竜] 劇中でレナの家を描く機会はたぶん無いと思います。ただ、遊びの部分で想像をかき立てて頂ければ嬉しいです。
―― まったく脱線なんですが、勘違いでなければスタッフロールに「目」というのが。
(一同) あーあーあー!(笑)
―― あれは、“あの目”(※25)の方ですか?
[竜] あれはなるせ椿さん、私の本当の、リアルの友人なんですけど、彼の―――が―――――で写真を撮りまして、補正を色々ウチのPhotoshopでやってくれという事で、それがHDの中に残ってたんです。それがまたいい感じで、男が正面向いて写っていまして。「おお、いいねー」って目だけひょひょいと(笑)本人不許可で。
(一同笑)
―― ではやっぱりスタッフロールの「目」は“あの目”なんですねぇ。
[竜] はい、そうです。
―― アレは座ったまま30cmぐらい飛び上がったんですが、巷でもあそこは強烈だったという感想が…。
[竜] だいぶいじっているので、本人を前にしてもとても想像はつかないですよ。
―― でもご本人は、知らない間に数千オーダーで自分の目が出回ってる(一同笑)…凄い事になってますが。
[竜] 本人もまったく様子を知らないと思います。…まあ、私に写真を預けたのが失敗だったと。
(一同笑)
―― これは若干危険な質問かもしれませんが、舞台設定が昭和であるという理由は?
[竜] これは2つあって、まずノスタルジックな雰囲気が欲しかった。
―― はい。
[竜] やっぱり昭和生まれなので、「平成」っていう元号は近未来的なイメージがあって、聞いただけで面白くない。なのでノスタルジックなイメージの「昭和」にしようと。もう一つは、やっぱり携帯電話と“祟り”が似つかわしくない。携帯電話で破られるトリックが山ほどあるんです。
[編] これは携帯の無い世界だから成立する話だと。
[竜] ただ、その後「山の寒村ならケータイ来てないよ」というツッコミがあって(一同笑)。ああやられた、と(笑)。現代でもよかったじゃん!と(笑)。
―― もう一つ、各シナリオの一番はじめに詩のようなもの(※26)がでますよね?
[竜] ああ、はい。
―― あれは何かの引用なんですか?それとも…。
[竜] あれはオリジナルです。いちおう作品の、ヒント…というよりは…なんだろうね?
[八] そのシナリオを象徴する文でしょうね。
[竜] あまりリアルな説明はできないんですが、おおまかにはヒントぐらいに思って頂ければ。全編通して終わった時に、「ああ、そういう意味だったのね」と。今の時点であれを読んでも、暗示は感じるでしょうが、意味はわかんないという事なんです。全部読み終わった後に(パン、と手をたたく)と思って頂く仕掛けでございます。
―― ネタバレ掲示版でも話題にした方がいらっしゃいますが、あの詩の作者名とかも意味があったりとか…。
ネタバレ掲示版
07th Expansionの公式サイトに設置されている掲示板。『ひぐらし』読了組を対象としており、ネタバレ全開の意見や推理を書き込むことができる。【KEIYA】
[竜] ……………………んー(ニヤリ)。
―― …や、やめときましょうか(笑)。
[竜] いやぁ、オフレコならいいんですけど(笑)。
―― いやいやいや、オフレコでも聞きたくないので(笑)。
(他の参加者の聞きたくない!聞きたくない!という声が乱れ飛ぶ)
―― 皆さん聞きたくないそうなので(笑)。…はい。やはり危険でしたね、これは。そんな感じで色々とある!という事にしておきましょうか。
[竜] いろいろ勘ぐって下さい(笑)。
―― 本編以外にもミニゲームがいくつか入ってますが、こちらはBTさんが?
[B] はい。
―― これも余談ですが、私「れなぱん(※27)」やって、だいたい5回ぐらいで終わるんですが…。
(スタッフ一同笑)
[竜] BTさん、よく聞いておいて下さいよー(笑)。難易度調整の参考に。
―― それはさておき、いくつかミニゲームがありますが、あれはどういった経緯で?
[B] あの「れなぱん」は一発ネタで、身内に送りつけて驚いてもらおうというだけで、1日で作ったんですけど。
―― あ、そうなんですか。
[B] そしたら竜騎士さんが、これは面白いんでよかったら『ひぐらし』のおまけとしてどうでしょう?ということで。それから改めて作り直しました。
[竜] そしたら、いつのまにか必殺技とかいっぱい入ってた。(スタッフ一同笑)ずいぶんゲームとしてクリンナップされてきて。
―― あれは掲示板の方でも白熱してますね。とても人間じゃないような数値が出てますが。みなさん、あれやられてますか?
[竜] もちろん。
―― 一番上手いのはどなたですか?
[竜] どうだろ? 私いいとこ200いくつかな。
[B] 私300ぐらいしかいかない…。
[竜] えー!(笑)。裏切り行為だなー
―― 矢野さんいかかですか?
[矢] 300ぐらい。
(一同) おおっ!
(しばし「れなぱん」プレイ時のベストなマウスの持ち方について討論)
[竜] 〜で、それ以来新作が出るたびにBTさんのミニゲームは毎回凄いんです。たしかNSCRIPT(※28)を作られたのは、高橋直樹さんだっけ?
[八] うん。
[竜] まさかNSCRIPTをあんな風に使うとは想定してないでしょう。ノベル用のツールでアクションゲーム(笑)。ウチは思いっきり「落とさせる」作品、感情をドスンと落としてるので、お疲れさま会(※29)やミニゲームで、プレイヤーさんの心をまた元の高さにもどしたいんです。そういう意味でミニゲームは非常にいい物ではないかと思ってます。
―― さて、今後の活動のご予定なんですが、やはりなにはさておき『ひぐらし』という事になりますでしょうか?
[竜] そうですね。
―― それ以外で考えられてる事ってありますか?
[竜] 前に話した時は、お蔵入りしたあのゲームを蘇らせようと(笑)、シナリオ終わってるんだから楽だよね(笑)という話も出たんですけど。でも07th Expantionはホラー・ミステリーのサークルだというのが定着しちゃえば、どうなんのかなー?と。こればっかりはもう少し時間が経ってから考えたいですね。あと2年で『ひぐらし』が終わるかな…、でも2年でシリーズが終わるっていう保証もないんですけど。その時の流れ次第で、反響があれば、
[八] 外伝でもなんでも。
[竜] 外伝でも、プラスディスク(※30)でも(笑)。
―― ああ、そうですね。本編が切ない、というか非常に苦しいので、最初から最後までハッピーなプラスディスクかなにかはないんですか?と伺おうと思ったんですが。
[竜] だいぶ初期から、「全編部活でみんなで楽しんで帰りましたシナリオ」が欲しいです、というメールがありまして。でも私が楽しいシナリオって言っても誰も信じないんだろうな(笑)。みんな「今にひっくり返る、今にひっくり返る」って(笑)。
―― とりあえず次は冬の予定で?
[竜] 「目明し編」は冬コミあわせで制作を行っております。
―― いかがでしょうか?
[竜] とりあえず今のところ進行五分の二、ぐらいかな?
[八] 早くシナリオ下さい(笑)。
[竜] (笑)そうですね。本編の世界で言うと、ようやく「今日が綿流し」という日まで打ち終わった所です。ただ、いつもは綿流し(※31)が中間点なんですが、今回は綿流しが中間ではないので、五分の二ぐらいですか。
[編] その「綿流し」は――――――――の綿流しなんですか?
[竜] そうです。――の出来事なので。――――してきて少しで、だから――――がいる、そういう世界の出来事です。その年に――――訳だから。で――――される事件、がこれから起ころうっていう所で[※編注「暇潰し編」まで終了の方は、ほぼご存じの内容です]、今――――っていうシーンを書いてます。
[進行・その他] あーっ! うーっ!!
(一同笑)
―― 先ほど完結するまでに2年とおっしゃってましたが?
[竜] そうですね、出したい話があと4本あるんです。コミケの度に発表していけばちょうど2年かかるだろうというスタンスです。
―― 前回コミケからだいぶ違うというお話でしたが、『ひぐらし』がかなりの評判になって、今後さらに変わっていくような事ってあると思いますか?
[竜] 『ひぐらしのなく頃に』という作品だけに関して言えば、たくさんの方に期待して頂いているのを裏切らないように、これからもいい物を出して行きたいという事だけですね。
―― プレッシャーのようなものが増した、という事はないですか?
[竜] う〜ん、…ない、…ないって言えば嘘になりますか。ただ、矢野さんのお知り合いの同人の方々から、たまたま色々とご助言を頂いたんですが、「変に構えないで、作りたいものを作っていけ」と。「大勢の人の顔色を伺って物を作るよりは、迎合しないで好きな物を作った方が、結局はいいんだよ」と。だから構えないで、今までと同じ調子で作っていけたらと思います。
―― なるほど。
[竜] たしかに、あちこちで『ひぐらし』の推理話が盛り上がってて、そういうものを読むと「ああ、みんなの考えている事の方が凄いなあ…」(笑)とかたまに思って、今からでもネタ差し替えようか?なんて言い出したり。
(一同笑)
[竜] …そういう事もありますが、お話した通り全部出来てる話なので、淡々と発表して、発表した後の評価は、みなさんにお任せしようと思います。
[編] 1ファンとしては、あのレナの服(※32)を着たレイヤーさんを見たかった…というのが心残りです。
(スタッフ一同) ああー(笑)。
[竜] あれは何年前だっけ?
[矢] 2年ぐらい前? …1年半前かな。
[竜] まだオリカサークルだった頃の、冗談を越えた冗談。あれはパレ イデアル(※33)さんという、コスプレのワンオフ服の業界では一番有名な業者さんです。そこにオーダーメイドでお願いして作ってもらって、実際には2回…? 2回ぐらい矢野さんにコスプレ売り子の可能な方を紹介して頂いて、あの衣装でスペースに立ってもらった事がありました。その頃は『ひぐらし』発表前で、残念! 今だったらもう少し意味あったんですが。
[矢] ねえ。
[竜] 今あの衣装は、どっかいっちゃったのか、経年劣化で着れなくなったか。
―― 『ひぐらし』は早くも2次創作シーンが盛り上がりそうな気配ですが?
[矢] 皆さん早いですね。
[編] ネット上では、もう盛り上がってきてますね。
[竜] WEBマンガとかたくさんあって、私はあれを読むと本当に心癒されます(笑)。
―― 今後フィギュアとか、他の物も色々出てくるかもしれませんね。
[矢] 竜騎士さんの手が空いたら、全キャラ三面図書いてもらいましょう(笑)。そしたらフィギュア作ってくれる人が増えて嬉しいかも。
[竜] 先ほどのレナのファミレス衣装、あれは発注する時に発注図面を書きましたので、詳細な図面が残ってるんですよ。
―― 劇中のレナの私服(※34)は?
[竜] あれは三面図とかは特にないです。たいして凝った服ではないので、多くの方が想像されてる通りです。
[矢] でも今噂のなってるのは前か横か…。
[竜] あれは、前。フロントです。
―― あ、あれは前ですか。では「前!」という事で書かせて頂きましょう。
(一同笑)
[矢] 重要な情報ですよね(笑)。
―― いやぁ、絵を描かれる方は「あれは前なんでしょうか?横なんでしょうか?」と。
[竜] じゃあ公式ジャッジは前で。
(一同笑)
―― オフィシャルで「前!」という事で。
[竜] オフィシャルで「前」という事で。スリットなのか? ジッパーなのか? ではスリットで。
(一同爆笑)
―― では、イラスト描かれる方もガレキ作る方も「前でスリット!」という事で。…なんか重大な疑問がこれで一つ解決してしまうような気がするんですが(笑)。
[矢] 服で悩んだらエッチな方が正しいです、と。
[竜] (笑)。矢野さんのその考え方はとても正しいです。オフィシャルよりもやらしければ、むしろそっちがオフィシャル(笑)。
―― (笑)。ありがとうございました。
(※1)リーフファイト ^
その名の通りLeafのキャラクターに題材を取ったTCG。ゲームをプレイするだけでなくカードのコレクション、はたまた文中にあるように、オリジナルのカードを作ってしまうなど楽しみ方は様々であり、オフィシャルの製品を含め商業/同人で多種多様な関連物が現在でも登場し続けている。発売元はティーアイ東京。
(※2)オリカ ^
前述のオリジナルカードの略。絵の優劣も重要だが、それ以上に、カードの特性を含めて、いかに1枚のイラストで“キャラ掴み”できるか否かが重要。というのは、とある現役カード作家の弁。
(※3)非電源系サークル ^
カードゲーム・ボードゲームをメインとするサークル。“ゲーム”としてメジャーなTVゲーム・PCゲームは含みません、というニュアンスを強調したネーミング。劇中の「部活」にもこのあたりの臭いが濃厚に感じられる(鬼ごっこは例外だが…)。また「ひぐらし」というゲーム自体に“非電源系のにおいがする”との発言もちらほら。
(※4)7段スロットの凄い ^
デュプリケーター
想像だが多分フルタワーのマシンで上から下まで全部ドライブ…。自宅に置く物としてはかなりスパルタン。BT氏は他にも個人としてはかなり凄い数のプリンタをお持ちとのこと。用途は当然「ひぐらし」制作用。BT氏の自室はどうも、ひぐらし製造工場…らしい。
(※5)オープニングダッシュ ^
コミケ名物(?)開場直後からお昼ぐらいまでの序盤戦で、銘々お目当てのサークルスペースへと急ぐ様。実際目にするともの凄い光景である。高い所から見てたりするとさらにド迫力。なお本当に走るのは大変危険かつスタッフの方に怒られたりするので止めましょう。
(※6)100円ですよ。 ^
周知の事実かもしれないが、「ひぐらし」のコミケ領布価格は1シナリオ収録の物が100円だった。ある意味商業ゲームを凌駕するクオリティの作品が100円でこっそり売られているあたりに、同人界の底知れなさを改めて思い知ったりする。ちなみにコミケで本作を買った人の話に「100円ですよーと勧める、元気な売り子の人」が登場するが、これが竜騎士07氏本人かどうかは不明。
1シナリオ収録の物が100円
暇潰し編のディスクには鬼隠し編〜暇潰し編までの4シナリオが収録されていたが、コミケ会場で頒布されたCD-Rバージョンはそれでも100円だった。参考までに。【KEIYA】
(※7)体験版 ^
BT氏が管理人の本家HP 07th Storming Partyにて配布中(10月現在)。通称“製品版”に収録されている最初のシナリオ「鬼隠し編」がプレイできる。製品版がショップで販売開始される前後、竜騎士07氏は「体験版をやって、面白いと思ったらそれから製品版を買って下さい」的な趣旨の発言をHPでなさっていた。前述の「100円」といい、とことん良心的である。
07th Storming Party
当時のサイト名。現在はサークル名と同じ07th Expansionに変更されている。【KEIYA】
(※8)万世橋 ^
秋葉原電気街のほど近くに存在する神田川にかかっている橋。ステーキタワーで高名な「肉の万世」、電気街の守護神「万世橋警察署」など、その名を関するワードは多い。アキバ系トピックではわりと頻出の地名。もちろん不法投棄は禁止。
(※9)スクリプト ^
「NScript」。ゲーム用スクリプトエンジン。文中の通り様々なゲームがこれで動いている有名エンジンでありオフィシャルガイドなども発売されている。作者はプログラマにしてシナリオライターの高橋直樹氏。
(※10)月姫 ^
本誌では説明の必要が無いと思われる、ご存じTYPE-MOONの大出世作。その人気っぷりとムーブメントの盛り上がりっぷりは、多分同人史上空前。絶後でない事を祈る人は大勢いると思われる。ちなみに、本作に対する竜騎士07氏・八咫桜両氏の感想は後述の通り「すげぇ」。
TYPE-MOON
武内崇氏、奈須きのこ氏、清兵衛氏、Kate氏の四名(当時)からなる同人サークル。商業作品顔負けのボリュームとクオリティで制作・発表された伝奇ビジュアルノベル『月姫』は、同人の世界に大きな衝撃を与え巨大なムーブメントを巻き起こした。頒布日は2000年12月29日、頒布価格は2500円だった。その後TYPE-MOONは同人サークルから商業ゲームメーカーへ転身し、『Fate/stay night』などの作品で熱い支持を受け続けている。星海社文庫から出ている虚淵玄氏の『Fate/Zero』は、『Fate/stay night』の前日譚である。【KEIYA】
(※11)鬼隠し<オニカクシ> ^
とっても怖い現象。
詳しくはゲーム本編で。
(※12)サウンドノベル ^
下記2作品を代表とする、文字通りテキストと音に力点を置いたゲーム形式。選んだ選択肢によってストーリーが変化する、という双方向性が登場時の大きな話題で、いきおい従来型の小説との比較が議論される。「ゲームは小説を越えた。もう小説は終わった」と力説するファンも当時現れたらしい。
(※13)弟切草 ^
1992年チュンソフトより発売のジャンル草分け的タイトル。古い洋館に迷い込んだカップルを襲う怪現象とその脱出劇を描くホラーストーリー。最近では携帯コンテンツ化されてリプロダクトされるなど、登場後10年を経た現在でも高評価は健在。歴史的名作である。
(※14)かまいたちの夜 ^
人里離れたペンションで起こる殺人事件を描く。こちらも歴史的名作。シルエットのみの人物描写が有名?しおりの色を熱く語り合った想い出を持つオールドファンは多いはず。
CGの豪華さ、エロいか否か、のみが作品の優劣を決めていた当時の成年向PCゲームシーンに「雫」「痕」(共に1996年)を送り込み、テキスト/物語の復権を問うたのがLeaf。その流れをさらに先鋭化させ、遂には“泣き”という新境地を切り開いたのがKEY…。
というのは編集の個人的感想。
最新作「CLANNAD」(2004年)が成年向ですらなくなったのは、この流れの一つの臨界点かもしれない。余談だが「ひぐらし」をプレイした人が「上手い絵ではないが、このゲームはこの絵じゃなきゃダメ」と、気味が悪いほど口を揃えている事実がある事も付記しておく。
(※17)「AIR」「Kanon」 ^
「Kanon」は1999年6月、「AIR」は2000年9月発売。“泣き”の絶頂を極めた連作である。「補完」のために同人活動に邁進した方多数。「AIR」は2004年にアニメ公開予定。先日公開された映画版パイロットフィルムの「青空」でまた涙腺が壊れてしまった人が大勢いる模様。
(※18)ブレア・ウィッチ・プロジェクト ^
1999年(米)。
「消息不明になった人間たちが残した映像を観客が見る」という設定で展開されるホラー映画。わざと荒いハンディカメラの画像を使うなど、偽ドキュメンタリーを徹底的に目指した作品。日本では「とにかく怖い」という評判ばかり先行し、映画館に足を運んだ人たちが「よくわからん。肩すかし」との感想を多く漏らした。(ネット検索で見つかる数々のレビューの酷評を見よ)が、それが本作の真意で無いことは、文中竜騎士07氏が語っている通り。超低コスト映画でもありインディーズ映像作家に絶大な影響があるらしい。DVDが発売されている。さらに余談だが、つい先日この映画の撮影監督が飛行機事故で死亡(湖に落下して溺死)している…魔女の呪いは実在する?
(※19)火星人襲来 ^
1938年10月30日、日曜日に起こった事件で有名。ラジオドラマの「火星人襲来」を真実と信じた民衆が騒ぎだし、全米で本物の大パニックとなった。「仕掛けた」のはオーソン・ウェルズ。手法はラジオの音楽番組中に臨時ニュースの形で断続的に流すという、かなり突飛かつ巧妙なものだった。彼はこの騒ぎで一躍有名になり、その後ハリウッド進出を果たす。
(※20)TIPSシステム ^
本編とは独立したミニシナリオ。キャラクターの会話やなんらかの文書など様々な形式をとり、本編シナリオの進行にあわせて新しいものが開示されていく。ヒントやほのめかし、隠喩的な予告などに満ちており、本シナリオとの情報の複雑なからまり具合が絶妙。読まなくともゲームは進められるが、新しいTIPSはその都度丹念に読みながらシナリオを進めるのがお勧め。
新しいTIPS
TIPSは小説版でも原作と同じタイミングで挿入されている。星海社文庫版『鬼隠し編(上)』を例に挙げよう。48ページの「うちって学年混在?」、52ページの「うちって制服自由?」、84ページの「前原屋敷」、87ページの「ダム現場のバラバラ殺人」などが原作におけるTIPSである。本編とはフォントやレイアウトが異なり、明確に区別されていることが分かるはずだ。【KEIYA】
(※21)Black Box ^
グリッドで区切った盤面にボールを置き、回答者が推理でその位置を当てるパズルゲーム。オリジナルは非電源系だが現在はPCゲーム化もされており、バリエーションも多数存在するらしい。非常にシンプルだがロジカルなゲームであり、プログラマの愛好家が多数いる模様。
(※22)エヴァ ^
新世紀エヴァンゲリオン
1995年〜1996年(TV版)
終末論的な暗い空気と謎が謎を呼ぶ独特の展開で大ヒットとなった超有名作。ネットが発達し始めた時期と重なっているため、「ネット上の論議」が話題の中心を担った初の作品でもあり、これで「語る楽しみ」に目覚めてしまった人も多いと思われる。いろんな意味で画期的だった作品。
(※23)「解」 ^
「ひぐらしのなく頃に」は前半4シナリオで“提示編”が終わり、5本目からは“解決編”に突入。合わせてタイトルも「ひぐらしのなく頃に・解」となる模様。ロゴの変更なども考慮中でHPにある竜騎士07氏の日記で見る事ができる。
(※24)みんな個性的 ^
キャラクターの一人、レナは(多分)史上初「可愛い幼女を見ると鼻血を吹くヒロイン」。他にも「一人称が“おじさん”のヒロイン」(史上初?)などなど。謎解きが強調されがちな本作だがキャラ造形もかなり過激かつ斬新(?)である。
(※25)“あの目” ^
プレイ済みの方には説明不要。
まだの方は…本編でどうぞ…。
(※26)詩のようなもの ^
『ひぐらし』本編の冒頭には、かならず「フレデリカの詩」と呼ばれるテキストが表示される。
文庫版でも冒頭に収録されている。【最前線編集部】
(※27)れなぱん ^
“レナのぱんち”でれなぱん。別の意味に誤解なきよう。本編シナリオでは正体すら見えないレナの打撃を陽気な男たちの友情と汗と涙で、主人公が克服していくグローイングアップストーリー…ではなくレナのパンチをひたすらかわすミニゲームである。遅い〜人外のモード設定の他、フェイントが入ったり必殺技が炸裂したりするらしいが、本文にあるとおり編集は5回かわすのがせいぜいなので実体は未確認。ところでクラウドとトミーっていったい何!?
(※28)NScript ^
(※9)スクリプト参照。
ノベル用として高名なスクリプトエンジンでアクションゲームを作ってしまっている。かなり邪道。
(※29)お疲れさま会 ^
1シナリオ終了後、死んだ者も含め、キャラ総出演でストーリーを振り返ってくれるミニシナリオ。明るくにぎやかな雰囲気は、本編シナリオの強烈な圧力に数時間さらされてきたプレイヤーにとって、やっと息が抜ける憩いの時間である。また謎や問題点などをキャラクターが語り合い情報の整理をしてくれるとっても親切なコーナーでもある。が、巷では「一件無害そうな“お疲れさま会”でも、作者はわざと思わせぶりなセリフをキャラに言わせ、情報の攪乱とミスリードを狙っているのでは?」との意見も提出されており、信用は禁物。結局これすらも疑心暗鬼なのだった…。
(※30)プラスディスク ^
外伝的追加シナリオや壁紙など、遊びの要素をメインにした、オフィシャルによる補完作品を一般的にこう呼ぶ(?)。同様に「ファンディスク」なる名称も多用されている。
(※31)綿流し<ワタナガシ> ^
「ひぐらし」の舞台である雛見沢村に伝わる伝統行事で、毎年6月に行われる。日頃は寂しい寒村が人で賑わう、村の大イベントでもある。名称は有名な「灯籠流し」などに近いが、行事としてのニュアンスはむしろ「針供養」に近い?もちろん「ひぐらし」の他の要素と同様、最初に提示された説明が全てではないのは当然。詳細は本編で。
(※32)あのレナの服 ^
起動画面やHPのイラストで着ている服。劇中ではファミレス“エンジェルモート”の制服として登場。ゲーム中では詩音(魅音?)のみ着用で現在の所、残念ながらレナが着ているシーンは無い。現実のコスチュームは竜騎士07氏の日記で写真が見れるが、本体は行方不明との事。「ひぐらし」大評判に合わせてコスプレ売り子さんの復活も是非期待したい所である。
(※33)パレ イデアル ^
(※34)レナの私服 ^
ジャケットやチラシでもおなじみの白い服。スカートの切れ込みに関して前か横か?スリットか?ジッパーか?はたまた“裂けた”のか?論議を呼んでいた。本誌が出る頃には既に解決済みかもしれないが、ふとももとぱんつに関連する、絵的に極めて重要な問題なのであえて掲載。