2WEEKS イカレタ愛
第一回
野中美里 Illustration/えいひ
プロローグ
絶対に死なない男と、確実に殺す女が戦ったらどうなるだろう。
男は地獄のような苦しみを味わうだろうし、女はうんざりしてくる。
不毛なことが永遠に続く。
だけど、圧倒的に損をするのは男のはずだ。
辛いのは男の方だ。
それだけは言える。
なぜかと言えば、僕は死なない男だからである。
そんな役に立たないことをふわふわと思惟しながら高校の入学式を終えた。クラスに入るとさっそく友達作りを始めている人もいるし、蟬の抜け殻のように黙っている人もいる。僕は絶対的に後者であり、蟬の抜け殻ではなく死骸と言える。こういった落ち着かない空気は苦手だ。早く担任が来てほしい。
しばらくしてホームルームが始まり、決まりきった自己紹介をした。そのあと、班分けや、係りや、委員などをパラパラと決めていき、最後に座席を変えた。
担任がせっかちな性格だったせいか、一日で大まかなクラス整備はなされた。僕は壁際の席となりまずはほっとしていた。壁にくっついていると安定する。
同じ班にはよくしゃべる女の子と、無愛想な女の子と、それから僕を含めた男子三人の計五人がいた。
一旦、班ごとに集まることになり、僕らは班のメンバーで休憩時間を過ごしていた。
学校は無難に過ごせればいいと思うのは自分だけだろうか。
なんとなくだけど、目の前の無愛想な女子もそんな風に思っていそうだ。
よくしゃべる女子と、男子二人は部活をどうするか話しているようで、周りもなんだか賑わってきていた。
周りと合わせようにもまだ付き合いが浅いわけで、僕は話すことも思いつかない。
ふいに、無愛想にしている女子と目が合った。
顔をチラッと見たら、彼女が視線に気がついたのだ。
なんだか、顔面に唾でもかけられそうだ。
早くも気持ちが折れる。
僕は机に突っ伏した。
1 灰色の少女と校庭のシマウマ男
入学してから一ヶ月が経っていた。
五月七日の土曜日。今週の頭から始まった大型連休を結局家で過ごし、気がつけば明日で休みは終わってしまう。時計を見ると、もう夜の十一時を過ぎていた。なんだか憂鬱な気分になる。
昼間から進めていたゲームを中断して、一旦寝ようと思い布団についたのだけど、ふと奇妙な直感が働いた。
学校に向かわないといけない。
なぜかそう感じる。
平日ですら学校に行きたくないのに、なんで休日に行きたいと思うんだ。五月とはいえ夜は寒いし、外に出たくなかった。
電気を消して布団にくるまったのだけど、時計の針が動くたびに焦りと不安が増していく。
諦めるように外に出て、学校に自転車を走らせた。
門の前に自転車をとめて、校舎を見る。深夜の学校は不気味だ。この辺りは農家が多く、夜中になると人気はない。灯りも少なかった。
引き返す気にもなれず、僕は学校に忍び込んだ。宿直の教師はいるかもしれない。こそこそと徘徊した。
校庭に回ると人影を見つけた。中央にぽつんと立っている。怖い人だったら困るので、僕はバレないように近づいた。
それは制服を着た女子生徒で、長い髪を退屈そうにいじっている。
女子生徒には見覚えがあった。同じ班でいつも無愛想にしている、名前はたしか黒戸サツキ。
僕は体育倉庫の陰に身を隠して彼女を見ていた。
校庭は土になっており、サッカーゴールや野球用のフェンスが設置されている。普通の校庭だ。そんな校庭の地面に直径が三メートルくらいの円形の穴が出現した。
黒戸のいる十メートル程先だ。
ふと穴の中からなにか飛び出した。自分の目を疑ったのだけど、それはシマウマの怪人だ。下半身は制服を穿いており、二本脚で立っている。
二メートル近くあるシマウマ男に、僕は暴力的な印象を持った。周囲の空気が重くなったように感じる。
黒戸はシマウマ男と対峙する。
二人の雰囲気から、僕はこれから始まることを予感した。
殺し合いだ。
命の駆け引きだ。
理由は不明。
シマウマ男を見ると腕をブンブン振り回していた。黒戸は腕を突き出した形で構えている。
次の瞬間、二人の間にある十メートルもの距離が、すでに攻撃の間合いだったと気づかされた。
先手を取ったのはシマウマ男だ。僕が瞬きをしている間に、シマウマ男は黒戸の背後に回っていた。黒戸が殴られそうになる。僕は声をあげそうになった。
だがシマウマ男は弾かれたように吹っ飛んだ。ボーリングのピンのように宙に飛んでいく。
振り向きざま、黒戸が回し蹴りを打っていたのだ。
シマウマ男に目を戻すと、状態を回復させていた。空中で静止している。CG映像でも見ているようだ。
二人は睨み合っている。
シマウマ男が動いた。両腕を振って、黒戸に向かって走っていく。シマウマ男の走るところには、見えない道でもあるのかもしれない。
黒戸も跳躍した。
二人は空中で戦いを始めた。ゼロ距離での弾丸のような攻防に、大気は震えて僕の体まで震えていた。
着地と同時に、決着もついた。
黒戸は頭を捻り切っていた。シマウマ男の頭部は、黒戸の右手にぶら下げられてゴムのように伸びきっている。
直立したまま血液を撒き散らしている胴体部分を、黒戸は蹴り飛ばした。
シマウマ男の胴体はストンと穴に落ちた。黒戸は頭部も穴に放り投げる。
穴は徐々に円を狭め、地面は元に戻った。同時にシマウマ男の血液も消えていた。
時間にして、十秒も経っていない。
黒戸は返り血が消えたことを確認すると、僕の方を振り向いた。
見ていることがバレていたのか。
僕は黒戸の方に歩いていく。
あの戦闘を見ても僕は混乱していない。
冷静だ。
「いつもあんなことしてるのか?」
声はちょっと震えた。
黒戸は怪訝そうな表情を僕に向けた。
黙っている黒戸に僕は言う。
「誰にも話さないよ」
黒戸は不愉快そうに言った。
「たしか、同じクラスの人よね?」
僕は自分の名前を言う。
上代。
僕らは同じ班にいるはずだ。掃除とか一緒にしてるのだけど。
蚊程にも思われていなかったのだと思う。
黒戸は訊いておいて、たいした興味もなさそうだった。
黒戸は入学してすぐ頭角を現した化け物だ。
頭脳明晰、運動神経抜群、そしてちょっとした美少女。
そんな黒戸にとって、僕など眼中にないのは分かる。蟬の死骸に興味など湧くわけもない。
入学してすぐに、他のクラスからも男子生徒がぞろぞろと見に来て、騒ぎ出したことがあった。それだけの美少女ということなのだが、現在はぴたりと収まっている。
理由は黒戸の圧倒的な威圧感に男子生徒が怯えたからだ。
睨まれただけで、全身が凍りつくという。
まるで本能が彼女を危険物扱いしているようだと誰かが言った。蛇に睨まれた蛙を通り越して、ゴリラに摑まれたさくらんぼ程の恐怖だという。
それは怖い。
だけど黒戸は綺麗だ。
もしかしたら他人を恐れさせる程の凜とした雰囲気が、彼女の容姿を際立たせているのかもしれない。
切れ長の瞳や、薄い唇や、ストレートの黒髪を持つ黒戸はもともと日本的な美人だ。笑顔でいるよりも、表情を崩さない方が綺麗に見えることもあるだろう。
女子にも怖がられている黒戸は、クラス内ではいつも一人でいる。孤立することを辛いと思っている様子はなく、一人でいるために、自分から棘のある空気を作りだしているようにも思えた。
一人でいる黒戸に好意を持つ人もいるようだけど、僕は彼女があまり好きになれない。見ていると寂しくなる。
今ここで黒戸と話していても、嬉しいとは思えない。
黒戸は嫌がるだろうけど、僕は一種の同属嫌悪を感じていた。
なにを話そうか迷っている僕に、黒戸はぼそりと言った。
「誰にも見つからないようにしていたはずなんだけど」
黒戸は右手で髪を梳いた。長い髪がさらさらと空間にとける。
「場所は選んだ方がいいだろ。学校でなにかしていれば、注意していても見つかるもんだ」
「あいつ、学校に出てくるのよ」
そう言った黒戸の表情は、嫌悪感を増した。
「僕はもう帰った方がいいと思う?」
「なんで私に訊くの?」
「訊いた方がいい気がした」
「なんとなくだけど、上代君はあまり性格のいい方じゃなさそうだね」
サラリと毒を吐いた黒戸に、僕はなにを話せばいいか分からなくなってしまう。
黙っている僕に、黒戸が口を開いた。
「なにか話しなよ」
「話しづらい」
「ねえ、用があるならさっさと終わらせてよ。ないならこのことは忘れとけば? どうせ誰も信じないだろうけど、忘れた方が君のためだと思うよ。記憶を消されたくないでしょ?」
「記憶を消すってなんだ?」
「頭、割られたくないでしょ?」
黒戸は面倒臭そうに言い直した。
「死ぬだろ」
「死にたいの?」
黒戸の表情は冷たさを増していた。
「死ねません」
「ああもう、あんたと話してるとイライラするんだけど。このことは忘れる、クラスでも私に関わらない。それで終わり」
「待ってくれ」
「なに?」
「どう話せばいいか分からなかったんだ。言葉で表しづらかった」
「はあ?」
「僕がここに来たのは偶然じゃない。直感が働いたんだ。この時間、この場所に行けって」
黒戸はうんざりした表情をした。
「もう帰っていい?」
そう言った。
僕は直感にまかせるまま学校に来て、黒戸が戦っている姿を見た。それ以外のことを話せば噓になる。黒戸だって僕に会ったことでなにか感じているはずだ。そうじゃなければ僕と会話なんてしないだろう。
黒戸はくるりと背を向けて、校門の方へ歩きだした。
黒戸が僕に関わりたくないなら、僕も見たことは忘れる。それこそ意味のない出会いであり、出来事で終わる。
それでもいいのかもしれない。
後ろ姿を眺めていると、黒戸は立ち止まった。
「明日の夜、また同じ時間に来なよ」
振り返ることもなくそう言った。
五月八日の日曜日。前日と同じように、夜の十一時に家を出た。学校に忍び込み、校庭に向かうと、黒戸の姿を見つけた。
声をかけようとすると、穴が出現してシマウマ男が飛び出した。僕は離れておくことにし、体育倉庫にくっついた。
二人は十メートルの距離をおいて対峙している。
僕は格闘技を見るのが好きな方だけど、黒戸とシマウマ男の戦いを見るのは好きになれなかった。両者の戦いは、見ていて怖いのだ。
決着はすぐについた。
黒戸の打撃に、シマウマ男は倒れ、動かなくなっていた。
地面に開いた穴に、黒戸はシマウマ男を放り込む。
全ては元に戻った。
僕は穴が閉じるのを見届けてから、黒戸の方に歩いていった。
「お疲れ、楽勝だ」
黒戸はため息をついて言った。
「あの怪物、だんだん強くなってる」
「なんで?」
「知るわけないじゃない」
「やられたらどうなるんだよ?」
「死ぬんじゃない?」
「死ぬって……。負けたりしないよな?」
「今はまだ大丈夫だけど」
僕は予め買っておいた缶コーラを黒戸に投げた。
黒戸は片手で受け取り、プルタブを指で弾くように開けて一口飲んだ。僕もコーラを飲み、言った。
「そもそもあの怪物はなんなんだ?」
黒戸は首を捻った。
「二本脚のシマウマにしか見えないけど」
「そうじゃなくて。……正体が分からないのに戦っているのか」
黒戸は唇についた水滴を人差し指でなでていた。
僕は言った。
「あのシマウマ男、気色悪くないのか? 殺すところなんてホラー映画みたいだったけど」
僕は不意打ちのように睨まれる。
考えてみれば、ホラー映画はあまりいい言い方じゃないか。
「それより、私は上代君の方が意味分からないんだけど」
「僕のことが知りたい?」
「その言い方はムカつく」
「……黒戸と似たようなもんだよ」
と僕は言い直した。
「気分が悪くなるね」
「毎日あんな怪物と戦ってるのか?」
「毎日じゃないよ。あいつが出てくるときだけ」
「出てくるときが分かるの?」
「なんとなくだけど。お腹が減るのと一緒な気がする。あー戦わないとなぁ、って思うと出てくるのよ」
それは欲求じゃないか。
「そんなの普通の女子高校生のすることじゃないだろ?」
「どう見ても普通の女子高校生じゃないじゃん」
自覚してるのか。
「なに納得してんの?」
「いや、納得するだろ」
黒戸はなにか考えていた。
「まあいいか」
と言った。
校庭に冷たい風が吹いた。僕は沈黙してしまう。明日は学校もあるし、もう家に帰った方がいいかもしれない。
「僕のことはそのうち話すよ」
黒戸が思い出したように口を開いた。
「上代君って一人暮らしなんだよね?」
「なんで知ってるんだ?」
「同じ班の人と話していたのが、ちょっと聞こえただけ。それって楽しい?」
同じ班の人って岡田さんのことか。そんな話をしたかもしれない。
「気楽ってのはあるかもな」
黒戸はじっと右斜め前を見ていた。もう一口コーラを飲んで言った。
「今から上代君の部屋にお邪魔してもいい?」
僕は飲んでいたコーラにむせそうになる。
黒戸は僕のこと嫌いなんじゃないのか。そもそも深夜に女の子が男の部屋に来るってどうなんだ。
「本当に来るつもりなのか?」
「外で話しているよりいいよ。物を壊したりするつもりはないから」
本音が出ちゃったんじゃないだろな。
なんだか怖くなってきた。
「夜中に来るのはよくないだろ」
「私は気にしない。上代君の話を聞いときたいから」
「明日は学校があるし、部屋も汚いままだ。その上変なハムスターがいるからやめた方がいいよ」
黒戸の指がとんとんと缶を鳴らしていた。
「勘違いしてるなら大丈夫だよ、べつに上代君が好きで言っているわけじゃないから」
黒戸は露骨に嫌そうな顔を見せた。
「勘違いなんてしてない」
「じゃあさっさと連れていって」
自転車を取り、僕らはアパートに向かった。
僕はロフトつきフローリング張りの六畳間に、ユニットバスのついた、一人暮らし向けのアパートで暮らしている。家賃は四万五千円、これは田舎に住む母方の祖父の仕送りから支払っていた。両親は去年の八月に他界し、祖父が後見人となってくれている。育った町から離れるのも可哀想との気遣いから、僕を一人暮らしさせてくれていた。
成人したらお金を返すつもりでいると言うと、祖父は受け取るつもりはないと答えた。必要なら大学でも、専門学校にでも、行かせる費用はある。周りと同じように普通に学校生活を送りなさい。
そう言ってくれた祖父の優しさに、僕は甘えていた。
一人暮らしを始めたのは去年の八月だ。部屋は一階で、日当たりも悪くなかった。
「おかえりぃぃぃ」
玄関を開けると、靴棚の上に置いてあるハムスターのケージから、歌うようなバリトン声がした。
回し車で遊んでいたハムスターが、動きをとめてこちらを見ている。
「ただいま」
「誰かいるの?」
と黒戸が後ろから言った。
「気にしなくて平気」
僕は靴を脱いで玄関に上がる。
そろそろとドアから顔を出す黒戸に、ハムスターは大声で言った。
「雪介のお友達ですか! これはどうも! はじめまして! おいおいめちゃくちゃ可愛いじゃねえか! なんでお前にこんな彼女ができてんだよ! もう部屋に呼ぶ仲なのかよ!」
黒戸は怪訝そうにハムスターを見ていたけど、僕の方に視線を移して言った。
「なに? 腹話術?」
「違うよ。驚くかもしれないけど、本当にハムスターがしゃべっているんだ」
黒戸はケージの中をまじまじと見つめた。
「可愛いー」
と言った。なんで平然としてるんだ。
「やめろよ、照れるだろ、おいおい困ったよ」
そう言ってハムスターは頭を搔いていた。
「名前なんていうの?」
黒戸がこちらを向いて訊いた。
「妙生。奇妙な生き物だから」
妙生が俺も話したい、交ぜろと騒ぐので、ケージにタオルケットをかけて黙らせた。
黒戸にはクッションを渡して、僕はカーペットの上に胡坐をかく。
黒戸がスエットを貸して欲しいと言うので、僕は上下のスエットを渡した。制服が埃っぽいのを黒戸は気にしているらしかった。
「ちょっと着替えるからむこう向いていて」
僕が壁の方を向くと、黒戸はごそごそと着替えを始めた。
「スエット洗ったの五日くらい前だ」
「最悪」
「一人暮らししてると、スエットなんて毎日洗濯しないんだよ」
「あっそ。もういいよ」
体の向きを黒戸の方に戻す。
脱ぎっぱなしの制服が床に転がっていた。男性用サイズのスエットはやっぱり大きくて、首回りがよれてブラ紐が見えてる。
「泊まっていく気じゃないよな?」
「帰るよ」
下着が見えてるんだけど。
「分かってるけど、いちいち気にしないことにしてるの」
「考えてること分かるのか……?」
「視線でね」
僕は謝るか少し悩んで、黙っていることにした。
「ねえ、上代雪介君」
「なに?」
フルネームで呼ぶなよ。
「どうして私のこと驚かなかったの? あんな怪物と戦っていて、人間離れした強さを持つ私に、普通ならもっとリアクションを取ると思うんだけど」
「驚いたよ」
「驚いてないじゃん」
「驚いたって証明した方がいい?」
「そんなことできるならしてみてよ、面白そうだから」
黒戸の声色は落ち着いているのだけど、視線は真っ直ぐに僕を見ていた。僕は少し考える。
黒戸は間接的に、僕のことを説明するように言っているのかもしれない。
「ちょっと、右手を出してみて」
と僕は言った。
黒戸ははい、と右手を出す。
僕は手首を摑み、右手で黒戸のスエットの袖を捲った。
さっきの戦いでできたのか、細かな傷がいくつかあった。古傷のような痕もある。
「痛くないのか?」
「痛いよ。切られたり、殴られたり、無傷では倒せないこともあるし、酷いときは骨折もした。背中に大きな傷だってあるよ」
「あとで見せてみろ」
「それは気持ち悪いよ、上代君」
黒戸はそう言ってちょっと引く。
僕は気持ちを切り替え、目を瞑って意識を集中した。
少しずつ手の平の温度が上がる。そのまま、腕の表面をゆっくりと滑らせていった。
「傷がふさがってく」
黒戸がそう呟く声がした。
右手の傷を治し終えると、僕は目を開いた。全身がちょっと脱力している。
「久しぶりだったから、上手くいくか不安だったけど」
黒戸は自分の右手を見つめ、ちょっと笑った。
「すごい。ううん、私の気持ちが分からないでしょ。こんなに嬉しい気持ちは初めて」
「背中の傷も治そうか? 嫌だろ傷痕なんて」
黒戸は少し考えて、口を開く。
「今はまだ見せたくない」
「そう」
心の準備とか、必要なのかもしれない。黒戸だって一応女の子なんだから、人に傷痕なんてあまり見せたくないだろう。
黒戸の戦う理由を説明するには、彼女の生い立ちを話さなければならない。
黒戸サツキ、彼女が五歳になった頃、父親の経営していた町工場が経営難のために倒産した。父親は自転車操業的なギリギリの状態で経営していたのだけど、ある日、全てのクライアントが別の工場と契約を結んでしまい、仕事が完全に回ってこなくなってしまったのだ。残ったのは十数人の従業員と、古い工場と、膨れた借金だけだった。
お父さんは自己破産をしようとしたらしいのだけど、その前に事故で亡くなった。その保険金はどうやら、金貸しのところへ回ったらしい。
母は彼女を捨てて蒸発し、五歳の黒戸は身寄りがなく児童養護施設に預けられることになった。
「記憶もおぼろげなんだけど、子供の頃によく怖い男の人が家に押しかけて来ることがあってさ。そいつらが来ると私はタンスの中に隠れるのね。見つからないように。今考えると、父が私を隠れさせていたのは、借金取りに迫られる姿を見せたくなかったのよね」
母が黒戸を残して蒸発した理由には、彼女が実の子供でないことが理由にあった。
「お母さんも苦労してたんじゃないかな。私お母さんの記憶ってあんまりないけど、悪い人ではなかったと思うし」
「五歳の子供を残して消えるんだから、いい人とも言えないよ」
「いいんじゃない、べつに」
中学生になると、お父さんの従兄弟という男性が黒戸を引き取りに来る。
「おじさんは父にお金を貸していて、そのまま死なれたから、最初は怒っていたらしいんだけど。私が児童養護施設に入っていることを知って不憫に感じたみたい」
中学生から今に至るまで、黒戸は叔父と二人で暮らしている。
「おじさんはいい人だよ。たまにお風呂を覗いてきたりするけど」
黒戸の十五年間はおよそ幸せとは言えない。
でも幸せってなんだろう。
幸福な家庭なんて本当にあるのだろうか。他人から見て幸せそうに見えているにすぎないんじゃないか。
幸せは、遺伝子が生存競争に勝ち残るためにインプットしたデータの一つかもしれない。僕らは幸せを目の前にぶらさげられて走っているけど、幸せのデータは不完全で、どんなに頑張っても手に入らないようになっているのかもしれない。
それでも好きなものが手に入る環境は幸せと言えそうな気がする。自分の身体能力や頭のよさも入れていい。他人より恵まれていれば幸せ。
……それって本当に幸せなんだろうか?
「幸せって空気のようなものなんじゃない? なくなれば気がつかざるを得ないものでさ」
「黒戸は自分を不幸だとか感じることがある?」
「私は考えたことない。そもそも幸せって他人と比べて初めて感じることができるものなのかもよ。自分よりも不幸な人を見つけたときに、この人よりは幸せだって思えたりするんじゃない?」
「じゃあ幸せを感じるためには、自分よりも不幸な人と一緒にいればいいのか」
「嫌な解釈だね」
「もしくは他人を不幸にすることで、相対的に自分は幸せだと思えるとか」
「酷くない?」
「でも幸せに限りがあるなら、奪い合えばそうなるよ」
「人生って面白くないね」
「面白くはない」
黒戸が中学一年生の頃、シマウマ男が現れた。彼女はすぐさま敵だと判断して、パンチをボディへ打った。続けてビンタを顔面に張り、股間を蹴り上げた。シマウマ男は死んだ。
シマウマ男が強くなっていくにつれ、黒戸は格闘技をテレビで見るようになったらしい。筋肉や体のバランス、多種多様な技とそのタイミングなど、見るだけで人より多くの情報を彼女は得ることができて、真似することも難しくなかった。
ただ黒戸としては格闘技を見るのはあまり好きではないらしい。人が殴られたり、殴ったりするところを楽しく見る気になれないと言った。
今となっては格闘技番組を見ることはない。黒戸くらい人間離れした強さになると、ジャブでさえオリジナル技になってしまう。戦いの最中、大気の震えを感じるのは、パンチの速度が音速を超えているからなんじゃないかと僕は本気で思っている。
ただ格闘技が好きな僕から見ると、ムエタイかキックボクシングが原型にあるように思えた。黒戸の見ていた格闘技番組を聞いたときに、それはちょっと納得できた。
黒戸はシマウマ男の死骸をどうしようか悩んだけど、穴に落とすことで解決した。
穴はどこに繫がっているのか分からない。分かりたくもないらしい。けれど黒戸は、生まれたときから始まっている、大して面白くない人生の、救いか、ゴール地点のようなものだと思っている。
「ゴール地点ってなんだ?」
「私はずっと強くなりたいと思っていたの。それはもう、映画のヒーローのように強く。そうしないと一人で生きていけないじゃない」
「たしかに強い方が生きやすいだろうけど」
「その穴から生まれるシマウマ男と戦っていることで、私は強くなれたの。今の私ならヘヴィ級のボクサーでも片手で倒せる」
「黒戸にとって強くなることが人生の目的なのか」
「そうじゃないよ」
「じゃあ、なんだ?」
「シマウマ男に殺されてあの穴に放り込まれ、私という存在がなかったことになること」
僕は黒戸の言葉に戸惑ってしまう。
黒戸は幸せを感じる暇などないんだ。生きることで精一杯だから。
でも一人で生きていけるくらいにはもう強いはずだ。自分の存在を消すことになんの意味があるんだ。
黒戸はその問いには答えなかった。
話が途切れ、時計を見るともう二時間が経っていた。
「そろそろ帰ろうかな」
黒戸はそう言って立ち上がる。
そのまま帰ろうとする黒戸に僕は言った。
「スエット着替えていけよ」
黒戸は面倒臭そうに制服に着替え始めた。僕はまた後ろを向く。
黒戸がこんな夜中に僕の部屋に上がり込んだり、平気で着替えを始めたりしてしまうのは、攻撃力の高さに自信があるからだと思っていた。だがたぶん、それだけじゃない。黒戸は麻痺しているんだ。自分の行動を不自然だと思ったり、恥ずかしいと感じたりすることを。おじさんとの暮らしや、施設にいた頃の集団生活の影響で。
黒戸を玄関まで見送ると、妙生がタオルケットの中から声を出した。
「泊まっていかないの!? 寂しいからまた来てね! 絶対に来てよ!」
「また遊びに来るよ、ばいばい」
「いつでも来ていいからねー!」
黒戸は僕に手を振る。僕も返す。ドアが閉まる。
「妙生、うるさいよ」
「だってお前があんまりにも頼りないんだよ!」
「頼りないってなんだよ」
「馬鹿だな雪介は。もういい寝る。また呼ぶんだぞ絶対に呼べよ!」
「知らないよ」
そう言えば、シマウマ男はいつ消えるんだ。黒戸は死ぬまで戦うのだろうか。
明日訊いてみるか。
五月九日の月曜日。連休明けの七日ぶりの学校だった。
休日明けの倦怠感はどうしてくるのだろう。自転車を漕ぐ足が重かった。
クラスに入り、黒戸の姿を探すけど見当たらない。
その日、黒戸は学校を欠席した。
放課後に、担任から黒戸の住所を訊き、学校が終わると貰った地図を見ながら自転車を漕いだ。
日の当たらない一角に、年数のかなり経過している長屋があった。そこが黒戸の家だ。
呼び鈴を押してもなんの反応もない。
少しためらったけど、庭の方に回ることにした。ガラス戸から室内が覗けるかと思ったけど、カーテンがかかっていた。ガラス戸の取っ手には赤い染みがついている。
染みは指の形をしていた。
「黒戸、いるなら返事してくれ!」
僕は戸をガンガン叩いた。
中から声がした。
「上代君?」
「ここ開けろって、なにがあったんだよ?」
しばらく沈黙があり、黒戸の小さな声が聞こえた。
「夜、校庭に来て」
「行くよ。でもその前にここを開けろ」
「開けない。とにかく夜、校庭に」
ガラス戸を破ってしまおうかという考えが、頭をよぎった。黒戸になにかあったのは、声の調子から分かる。
「やめてね。私は大丈夫だから」
「分かった。夜、校庭に行く。本当に大丈夫なんだな!?」
「うん」
夜。十一時に僕は校庭に向かった。それまでの時間がとても長く感じられた。黒戸になにがあったのか、知りたかった。
門の前に自転車を置くと、後ろから黒戸の声がかかった。
「さっきは悪かったね、追い返しちゃって」
振り返ると、制服の所々を赤く染めている黒戸の姿があった。
僕は黒戸の姿に息を吞む。声が震えそうになるのをこらえた。
「構わないけど、黒戸、その染みはなんだよ?」
「返り血」
「シマウマ男の返り血は消えるはずじゃなかったのか?」
「人の返り血」
「おじさんか?」
「校庭に行こう」
「待てよ! おじさんを殺したのかよ?」
「どうしてそう思うの?」
「だってお前、おじさんに」
「性的な嫌がらせを受けてたとか思ってる?」
「……違うのかよ。二人で暮らしていて、風呂覗かれたりすんだろ。それって、そう考えるだろ」
「全然外れ。おじさんには感謝してるんだよ。視線が気持ち悪いこともあるけど、施設にいるよりマシだからね。私が殺したのは父を殺したやつら」
「それってどこかの組なのか?」
「そうだよ。お父さんの工場が潰れたのは、そいつらが仕組んだからだったの。潰れそうな町工場を見つけて、そいつらは金を貸してたのね。クライアントがいなくなったのも、そいつらの仕業」
黒戸の表情にはまるで生気がなかった。瞳が暗い。皮膚についた血液が凝固して、爛れているように見えた。
「そんなやつらは死んで当然だ。黒戸のしたことは、決して罪なことじゃないんだ」
「そんなこと分かってる」
「じゃあどうして死のうとしてんだよ! お前シマウマ男に殺されるつもりだろ!」
「どっちみちいつかは殺されるよ。シマウマ男はどんどん強くなっているから。私が人を殺すたびに。今日、私が殺した人数は過去最多。もうシマウマ男には勝てないと思う」
「じゃあどうしてここに僕を呼んだんだ?」
「死ぬときくらい、誰かにいてほしいと思ったから」
「いてほしいって……」
黒戸は、今日の昼に復讐を終わらせた。
復讐は黒戸の生きる目的だった。背中の傷を治さなかったのも、復讐を終えるまでは残しておきたかったからだ。
だけど、復讐の代償はシマウマ男による殺戮だ。黒戸には、幸せだとか不幸だとか、考える意味などなかった。
生きるのに必死でもなかった。
もう諦めていた。
三年前、シマウマ男に出会ったときから。
幸せを奪った人間への復讐に、心を奪われた瞬間から。
でも黒戸は、僕のことを分かってない。
黒戸が殺されたいのなら、殺されればいい。けれど、お前の思い通りにはさせない。
「もうシマウマ男と戦えよ。そろそろ校庭にいる頃だろ」
「その前にさ、上代君は私の裸を見たいと思う? 抱きたいとか思わない?」
「意味が分からないけど」
「どうせ私死ぬんだから、もったいないじゃん」
「早く行ってこいよ」
「そうする」
校庭にはシマウマ男がいた。
隅で雑草を食んでいる。昨夜見たシマウマ男よりも一回り大きくなっていた。腕は丸太のようだし、身長も二メートル以上ある。
シマウマ男はこちらに気がつくと、空を見上げて草を飲み込んだ。
「離れて見ていて」
黒戸に言われて、僕はその場から離れる。
僕が距離を取ると、黒戸は両腕を上げて構えた。
突然、ボケッとしていたシマウマ男が僕の視界から消えた。
黒戸の正面に跳んでいる。
シマウマ男の一撃を黒戸はかわすが、攻撃は続く。
ボディフック。黒戸は上手くガードをする。だが下がったガードに、テンプルへの左フック。黒戸はスウェーでかわす。シマウマ男のコンビネーションは続いた。右ストレート、左アッパー、ハイキック。大振りの攻撃は黒戸に当たることはなかった。
百六十センチ程の女の子と、二メートルを超える怪人が戦っている光景は、熊と蜂の争いでも見ているようだ。
攻撃の主導権は黒戸に移った。
黒戸の攻撃は、僕には見えなかった。
シマウマ男の顔と体が、どんどん潰れていくのが分かるだけだ。
黒戸はシマウマ男を垂直に蹴り上げた。
シマウマ男は、打ち上げ花火のように宙に飛んだ。
黒戸が圧倒している。シマウマ男は見かけ倒しだったと、僕は少し安堵する。
黒戸も跳躍した。シマウマ男の上を取り、黒戸は空中で踵落としを食らわした。
シマウマ男は縦にすっぱりと切れて、勝負がついた。
そう思ったのだけど、シマウマ男の切れた体が猛獣の口のような形に変化をし、
大きな口は左右から彼女を囲み、
「黒戸……」
いくつもの牙に挟まれた。
黒戸の声が一瞬漏れた。
口は、空中で咀嚼を繰り返す。
やがて地面に降りてくると、黒戸を吐き出した。
黒戸の肢体はバラバラだった。千切れた腕や脚が地面に転がっていた。辛うじて首と胴体は繫がっている。
顔面はピラニアに食われたみたいに、原形がない。
口は元のシマウマ男に戻る。
シマウマ男は、黒戸の髪を摑んで持ち上げた。黒戸の切れた腹部から、臓器がぼとぼと落ちた。
黒戸はまだ生きていた。
――はやくころせ。
呻くように声を出していた。
シマウマ男は黒戸の顔面を地面に叩きつけた。脳漿が散り、目玉が飛んだ。
痙攣している胴体に腕を突っ込み、心臓を抉り出し破裂させた。
シマウマ男は満足したように、腕を組んで残骸を見下ろしていた。
ようやく終わった。
シマウマ男は自分から、地面に開いた穴に飛び込んだ。
穴はすぐに元に戻る。
校庭には黒戸の死骸だけが残った。
黒戸の言っていたような、存在が消滅するようなことにはならなかった。死骸はたしかにここにあり、黒戸の記憶は残っている。
僕は残骸の中を歩いた。
血と肉と内臓が散乱して、闇に溶けているようだった。
鉄の匂いが漂っている。
「黒戸にとって幸せってなんだ? 今まで楽しいこととかあったのかよ」
あの穴は救いでもゴールでもなかったじゃないか。
僕は地面に残った黒戸の胴体の前でしゃがみ、両手で触れた。
「ごめん、黒戸」
肉片に、僕は自然の理を無視した力を行使する。
まるでミミズの大群のように肉片は動き集まり、元の姿へと再生をする。
黒戸が元に戻ろうとしているところに、予め持ってきていたスエットを被せた。破れた制服までは元に戻せない。
そのとき、背中の大きな傷や、他の細かい傷も消してしまった。もう必要がないと思ったからだ。
黒戸は意識が戻ると、スエットで体を隠した。たぶん状況を把握していない。うつむいて、放心したように黙っていた。
僕は言った。
「黒戸はたしかに殺されたよ。校庭には内臓や肉片が、バラバラになって散らばってた。でもシマウマ男は一人で穴に戻っていったんだ。殺されても黒戸の存在が消えることにはならなかった」
「……死ねば結局同じじゃない」
「校庭にぐちゃぐちゃの死骸があったらみんな困るよ」
黒戸は顔を上げて僕を見た。諦めたように口を開いた。
「上代君の能力は残酷だね」
「黒戸に言われたくないけど」
「もうシマウマ男、出ないかな?」
「誰かを殺したいって衝動がなくなったなら、出ないんじゃないか?」
「だったら当分出ないと思う。本当に、痛かったし、苦しかった。地獄ってあんなところかもしれないって思った」
「想像したくもないけど。終わってよかったじゃないか」
黒戸はため息をついた。
「私はお礼を言うべき?」
「まさか? 本気で言ってないだろ」
2 夜の公園
僕と黒戸はその場を離れて、自転車を押し、夜道を歩いた。向かったのは近くの公園で、この時間は誰もいない。僕らは外灯に照らされたベンチに腰かけた。
黒戸がまず心配したことは、替えの制服がないことだった。私服もほとんど持っていないため、外に出るとき着ていくものがなくなったらしい。
「そのスエットなら着てればいいよ」
「スエットじゃ学校に行けないんだけど」
「制服は買うしかないだろ」
「制服なくしたって言ったら、おじさんになんて思われるかな」
大き目のスエットは首元が開いて黒戸の肩まで露出させていた。スエットの下に黒戸は下着を身につけていないし、靴も履いていない。制服も靴も下着も、シマウマ男と戦ったときに木っ端微塵にされて、土埃に混ざり消えてしまっていた。
「ねえ」
と黒戸は口を開いた。
「私は一度死んで、上代君が生き返らせたわけだよね。だったら少しくらい上代君に甘えることが許されるはずだね。そうじゃなければ私を生き返らせた君は罪に問われることになるよ? 法律がないだけ。もし人を生き返らせるような機械が発明されていたら、きっと故人の意思を無視して生き返らせる行為は犯罪になる。死刑になる」
「死刑にならないためには、まず制服を弁償しなくちゃいけない?」
「まだ許さない」
と言って足を揺らして見せた。
「靴を買う」
「他にもあるんじゃない?」
黒戸は僕の顔を見る。
悩む僕に、黒戸は「いいや、それで許そう」と呟いた。
ブラブラとベンチで足を揺らす黒戸は、たいして嬉しそうでも満足げでもなかった。本当にただ甘えてみただけ、黒戸の言葉を借りるとそうなるのかもしれない。
「黒戸に聞いて欲しいことがある」
と僕は言った。
「聞くよ」
「ちょっと長い話だけど」
「いいよ。私もそんな気分だし。そんな気分って言うのはさ、なんか二人でちょっと長い話をしたり、聞いたりしていたいってこと。分かるかな?」
僕が今まで生き返らせたり傷を治した生物を挙げると、人、犬や猫、触れられる範囲の虫、植物などがある。欠けた消しゴムや壊れたテレビを直そうとしても、上手くいかなかった。枯れた花を再び咲かすこともできないし、寿命を延ばすこともできない。病気も治せない。生物の外傷のみしか効果はない。
再生能力を最初に使ったのは、飼っていたハムスターが父の足の裏で踏み潰されてしまい、ぺしゃんこになって死んでしまったときだ。中学一年生の頃だった。
近所の公園に埋めようと両手に包んで運んでいたら、途中でモゾモゾ動き始めた。見ると潰れていた身体が元に戻っていた。
その事実は不思議だと思ったのだけど、すぐに受け入れることができた。混乱しなかったのは、もしかしたら、意識の奥で自分に変化が起きていると気づいていたからなのかもしれない。
周囲には自分の能力のことは黙っていることにした。
父と母に生き返ったハムスターを見せても、実はまだ生きていたのかと納得してくれた。現実が非現実的だと、自分の記憶を疑ってしまう。
それからは、傷ついた動物や虫、植物などに何度もこの能力を試した。傷ついたものを見ると、治さずにはいられなくなったからだ。
片目の傷ついた猫を捕まえて無理矢理手の平をくっつけて治し、羽の折れたムクドリを見つけて治し、茎の折れたオシロイバナを治し、蟻に運ばれている蝶を治し、他にも色々と治した。
自分が怪我をしても傷はすぐに治る。初めはそのことも嬉しかった。死という恐怖がなくなったと思ったからだ。けれど、その瞬間の痛みまで消えるわけではないことに、漠然とした不安も一緒に抱えることになる。
ギリシア神話にプロメテウスという不死の神の話がある。
プロメテウスはゼウスの怒りをかい、拷問を受ける。山頂で磔にされて、大きな鷲に肝臓を食われるというものだ。しかしプロメテウスは夜のうちに食われた肝臓が元に戻ってしまう。朝には再び大きな鷲が自分の肝臓を食いにくる。不死であるがゆえに、拷問は永遠に続いてしまう。
または、不死の男がコンクリートに詰められる話。
誰かが想像して、このような話を作ったのだから、実際にやろうとする人はいるはずだ。
僕は周囲に自分の特異性をばらすことはなかった。治したい衝動も、人がいるところでは抑えるようにした。
そんな風に周囲と距離を取っていたせいで、仲のいい友人はできなかった。
もともと社交性のない僕は、人と違うという理由を得ることでさらに周りをシャットアウトしていたのだと思う。一人でいるのが楽だし、それは、高校に入学してからも変えることはできていなかった。
中学三年生に上がるまでの二年間は、様々な生き物を治して日々を過ごしていた。
中学三年生の春になると、ハムスターが死んだ。
寿命だった。治そうとしても、生き返らなかった。
現在飼っているハムスターの妙生は、一人暮らしを始めた頃に飼いはじめた二匹目だ。
父が死んだのは、同じ年の八月だった。夏休みに祖父の家に遊びに行く途中、父の運転する車は大型トラックと事故を起こした。
車は大破し、運転席にいた父は即死。後部座席には僕と母が乗っていた。
僕の怪我はすぐに治ったのだけど、隣にいた母は首の骨が折れ、身体も不自然な向きに曲がっていた。
僕の腕は伸ばせば母に届く位置にあり、迷わずに触れて身体を治した。
父の方は助けられなかった。救助されたあとで、父の身体に触れることはできたかもしれない。でもすることはなかった。多くの人が父の死体を見ていたから、蘇生してしまえば騒ぎになると思った。
事故の騒ぎが収まってきた頃、母に変化が起きた。
明るかった母が無口になり、声をかけても無視するようになった。家でぼんやりとしていることが多くなり、不可解な行動が増えた。
母が台所で生肉を食べているのを見つけ、急いで取り上げようとしたことがある。でもすごい力で突き飛ばされた。
風呂も入らなくなっていたから、髪はゴワゴワになり、肌も垢で黒ずんでいた。爪にヒビが入り、顔つきは変わり、母の面影が消えていった。
見ているのが苦しかった。もう元の母に戻れないことも分かっていた。こんなことになった原因は、死んだ母を生き返らせてしまったからだということも、気づいていた。
ある日、母が猫の死骸を食っているのを見つけ、僕は終わらせようと思った。母は苦しんでいるのだと、自分に言い聞かせた。
夜、寝ている母に近づき、変わってしまった母の顔にそっと手を当てた。
僕は再生する力を注ぎ込み続けた。
栄養を余分に与えれば、それはもう毒になってしまう。植物に水を与えすぎれば枯らしてしまうし、動物だって食物を取りすぎれば病気になる。
母は静かに呼吸をとめて、全身の力が抜けた。僕は力をとめずにいた。母の身体は次第に石のように硬くなっていき、皮膚にひび割れができ、徐々に砂のような粒になって崩れた。最後には黒くて脆い、粉々になった炭のようなものに変わった。
少量の、母だった黒い粉を瓶に残し、残りは少しずつ流しに捨てることにした。黒い粉は水に溶けて流れていった。
母の食い残した猫の死骸は、近くの雑木林に埋めに行き、それからこの力を使うことはなくなった。
黒戸に遭うまでの九ヶ月くらいの間だけど。
「上代君も人を殺してたんだ」
「自覚は薄かったかもしれない」
「上代君はさ、私たちをこんな風にした犯人は誰だと思う? こんな能力を身につけてしまって、人を殺したり生き返らせたり。神様かな?」
「犯人を知りたいの?」
「知りたい」
「宇宙人だよ」
黒戸はあざ笑った。
「不可解な出来事の原因トップスリーには入るんじゃない? なんでも宇宙人で辻褄が合うと思ってるのならチープだよ。もう少し捻ろうよ?」
「宇宙人本人がそう言ってるんだよ」
「それって誰のこと?」
「信じてないだろ?」
「そんなことをすぐに信じてたら、私はとっくに新興宗教団体に入信してるよ。上代君の言うことなら私は信じることができるけど」
黒戸は僕の方に身を乗り出してきた。さっき見た黒戸の異様な雰囲気は消えていた。どこにでもいる女子高生だ。黒戸はその中でもとても綺麗で、幸せになれない体質を持っている女の子だ。
「ねえ上代君、私たちってもしかしたらもう人間じゃないんじゃない? 知らないうちに知恵の木の実を食べてしまい、楽園を追い出されてしまったとか。だとしたら、この世界には私たちのような種族はいないかもしれない。私とあなたしか、お互いの苦しみを分かり合えない」
「じゃあ、僕らはこの世界でずっと人間に擬態して暮らしていかなくちゃいけないのか」
黒戸が、突然楽しそうに口を開いた。
「一ツ目の種族の話をしてあげる」
黒戸は姿勢を正し、空を見ながら話す。
「昔この世界には、一ツ目の種族と二ツ目の種族が住んでいたわけ。一ツ目の種族は、二ツ目の種族に比べてとても弱かったのね。だから、あっという間に殺されていったの。二ツ目は残酷だったから。
数の少なくなった一ツ目の種族は、自ら猛毒の湖に飛び込んでいった。一人、また一人と。そして世界から消えた」
その話に意味があるのか分からなかった。
と言うより、黒戸は考えながら話しているから、即興の作り話なんだろうけど。
黒戸はまだ考えていたから、僕は黙って待つことにした。
「二ツ目の種族は繁栄し、一ツ目の種族は忘れ去られた。
でもね、一ツ目の種族は実は生きていたの。猛毒の湖の中で静かに時を過ごしていたわけ。
それは限りある物質を奪い合うために、バタバタとお互いを殺し合う二ツ目の種族よりも、幸せな生活だった。湖には残酷なやつらは来ない、食べ物もある。それにとても美しかった」
「なんで一ツ目の種族は猛毒の湖の中で生きていけるんだよ?」
「猛毒を受けつけない抗体があったんじゃない?」
「へえ」
「時間が経ち、二ツ目の種族は繁栄のピークを過ぎた。大地に食料はなく、大気は汚れ、文明は衰退していた。
同じ頃、一ツ目種族の若者二人が、好奇心から湖の外に出てしまう。外は危険だと教えられていたけど、広い世界を見てみたかったのね。
二人は二ツ目の種族を見て驚き、自分たちの一ツ目がバレないように擬態をした。その二人というのが、あなたと私ってわけ」
「僕らは一ツ目の種族だったのか……」
「そう。だからこの世界に仲間はいない」
「できれば一ツ目たちの世界に戻りたいんだけど」
「後悔しても遅いよ。湖から出た以上、私たちはここで生きるしかないんだから」
「黒戸!」
と僕は黒戸の顔を見る。もう表情に暗さは微塵も残っていなかった。
「どうしたの?」
黒戸は少し驚いたようだった。
「今から、うちに来い」
「うん、いいよ」
3 宇宙人と宇宙船
アパートに着くと駐輪場に自転車を置いた。もう深夜だ。なるべく静かに廊下を歩き、ドアの鍵を開ける。
玄関に入ると、ハムスターが大声をあげた。
「雪介遅せえよ、一体こんな時間までなにしてたんだ!」
僕は意表を突かれて驚く。妙生がこの時間に起きているのは珍しかった。
僕は黒戸を入れると急いで玄関を閉めた。
「あ、黒戸ちゃんだ」
妙生は内側からケージをカリカリ引っ搔いた。黒戸は「こんばんは」と返す。
妙生は言った。
「あの子どうにかしてくれ、さっき絶対俺のこと殺そうとしてたよ!」
「みぞれが出てきたの?」
「そんなの雪介が一番分かってるはずじゃないか。俺があの子を苦手なのも知っているだろ!」
僕は頷いておき、靴を脱いだ。
「分かってないだろ雪介! 猿がライオンの檻に入れられるのと変わらないんだ。もっと深刻になれよ!」
そう言って妙生はおが屑の中に潜った。
黒戸がケージを覗き込んで心配そうに言った。
「すごい怯えてるみたいだけど、大丈夫なの?」
「平気だよ」
僕は黒戸にスリッパを出した。
妙生が顔を出して叫んだ。
「全然平気じゃねえよ!」
僕は心配そうにケージを見ている黒戸に言った。
「ほっといていいから」
「本当にいいの?」
「たまにあるんだよ。ハムスターの病気なんだ」
妙生が悲鳴をあげた。
僕はケージの横に置いてある、妙生の安眠用タオルケットをケージにかける。
「もう出ないのかもしれないと思っていたんだ。あの子とは九ヶ月も前に会ったきりだったから」
「悪かったよ。昔のこと思い出させたなら謝るよ。俺がハムスターの体に入って、雪介を驚かせたのも同じ時期だったなそう言えば。正直、あの子を見た瞬間は生きた心地がしなかったもんだぜ」
「みぞれは可愛いじゃないか」
「やめてくれ」
僕は先に部屋に入ったのだけど、黒戸は部屋に上がるのをためらっていて、自分の足元を見て言った。
「先にお風呂貸してくれない? ついでに洗ってある服も」
「こっちだよ」
と僕は廊下に出て、ユニットバスのドアを開ける。
使い方を簡単に説明して、部屋に戻った。
部屋の中は出たときよりも片付いていた。掃除がしてあり、換気をしたのか部屋の空気も綺麗になっている。電気をつけると、ロフトから透き通るような青い髪の女の子がちょこっと顔を出した。
「おかえりなさい」
とその子は小さな声で言う。
「妙生になにかしたの?」
「水を取り替えただけだよ。まずかったかな?」
ちょっとはにかんだようにそう言った。
「全然」
彼女の見た目はだいたい中学一、二年生くらいで、身長は百四十センチ台半ば程。黒戸がかなりきつい目をしているのに比べて、彼女はややたれ目で、笑顔になると八重歯が見えた。華奢で白い肌をしている。髪は短い。名前は上代みぞれ。僕の妹。
「お兄ちゃん、お友達が来てるの?」
「同じクラスの黒戸って人だよ。今風呂に入ってる」
みぞれはすすっとロフトの隅の方へ隠れた。
降りてきて一緒に話そうと僕は言った。
「黒戸さんがお風呂から上がったら降りるね」
とロフトから声がした。
黒戸に、タオルを用意しないといけないと思い、あまり使っていないバスタオルを引っ張り出した。
ユニットバスのドアをノックして黒戸に言った。
「ドアの前にタオル置いておくぞ。着替えは学校のジャージでいいだろ?」
「ちょっと待って」
そう言って、黒戸はドアを開いて腕を伸ばした。
「ドア開けるなよ!」
中を見てしまい、僕は反射的に後ろを向く。
黒戸はカーテンで体を隠していたし、湯気が立ちこめていたのだけど。
「寒いから早く頂戴」
振り向かないように、僕は着替えとタオルを渡した。
黒戸は風呂から上がると、ドライヤーで髪を乾かして、クッションを枕に寝転がった。
「体がすごく重い」
「寝てろよ。昼間から休みなしで戦って、その上シマウマ男に殺されたわけだし。疲れない方がおかしいだろ」
「寝てる間に変なことするつもり?」
疲れた声で黒戸はそう言った。
「僕にできないと分かってて言ってるだろ」
「さっき上代君は私の裸見たんじゃないの?」
「見てない。倒れてるお前にスエットをさっとかけたんだから」
「あっそ」
そんな会話をしていたら、寝転がっている黒戸が驚いたように口を開いた。
「ロフトに誰かいるんだけど……」
僕はロフトに顔を向ける。
そこには、半分だけ顔を覗かせている妹の姿があった。
「僕の妹だよ。降りておいで」
そう言うと、恥ずかしそうにみぞれは降りてくる。
黒戸は姿勢を正した。
「妹ちゃん! ごめんね、こんな時間にお邪魔しちゃって」
みぞれは首をブンブン振る。
「一緒に暮らしているの? この前はいなかったみたいだけど」
「一緒には暮らしてないよ」
「そうなんだ。とっても可愛いけど、上代君に似てないね。名前はみぞれちゃんでいいんだよね?」
みぞれは首を縦に動かしていた。
「私は黒戸サツキだよ。よろしくね。あの、今日はやっぱり帰ろうか? みぞれちゃんがせっかく遊びに来てるのに」
みぞれは困ったように僕を見ていた。
「泊まっていけよ」と言うと、みぞれは首肯した。
みぞれは以前パジャマのつもりで買っておいた、黒猫フードのフリース地の着ぐるみを着ている。ロフトから降りてきても、部屋の隅で体育座りをしてじっとテレビを見ていた。主にニュース番組だ。一心不乱に見ているみぞれは、時折、姿が透けてしまいそうだった。
そんなみぞれの姿に、黒戸は違和感を感じているみたいだった。みぞれを見つめて首を傾げている。
僕は黒戸に言う。
「みぞれのことはそのうち話すよ」
「ごめんなさい、変な目で見ていたかな?」
「謝ることじゃないんだ。先に言わなかった僕がいけないんだし。簡単に言うと、みぞれも一ツ目の種族なんだよ。その中でも、またちょっと変わっているというか」
「なんとなく分かるかな。そう言えば、さっき私たちの能力の原因は宇宙人にあるって言ってたじゃない。それって本当なの?」
「たぶん」
「宇宙人ってどんな人? 目的とかあったりするの?」
「玄関にいるハムスターが宇宙人で、目的はよく分からないけど、宇宙船が壊れて仕方なく地球にいるらしい」
黒戸は首を捻る。
「そうなんだ」
と言った。
「信じない?」
「ううん。上代君の言うことは信じるよ」
と不審そうに黒戸は言う。
「宇宙船も宇宙人も普通僕らには見えないんだよ。肉体を持っていないんだ」
「うん」
「その僕らには見えない存在に、便宜的に妙生が名称をつけたんだけど、ネクタールと呼ぶことにしている」
「ネクタールって、ギリシア神話に出てくる神酒のことだっけ?」
「そうなの?」
「え? 違うの?」
「僕は調べたことない。よく知ってるな」
「ホメロスは読んだから」
そう言えば、黒戸は勉強もできるのか。
僕は話を続けた。
「三年前、他次元にあった宇宙船が暴走して、僕らの次元に溶け込んでしまったんだ。そのまま操作不能になり僕らの住むM市に落下した。船の方は修理する必要があり、自己修復プログラムが働いたらしい。様々なパーツに分裂をして、人間の精神に同化したんだ。僕たちの精神とネクタールが似ていて、同化することで失ったパーツを再生できるから。宇宙人の方は、避難先としてうちのハムスターに同化したわけ」
「じゃあ、私たちの体には宇宙船のパーツが混ざっているんだ」
「大方、黒戸にはエンジンのようなパーツが入り込んだんじゃない? 僕にはガソリンとか、エネルギー機関が入り込んだのかもしれない。そんなものがあればだけど」
「ふうん」
と黒戸は嘆息する。あまり面白くなさそうだった。
「妙生が言うには、僕らが死んでしまえばパーツは勝手に飛び出して元に戻るらしい。そしたら、自分の世界に戻れるんだって」
「上代君は死後の世界を信じる?」
「それなりに。とくに母のことがあってからは二元論をよく意識している。人間は肉体と魂に分かれるんじゃないかって。母を生き返らせたときに、別人のようになってしまったのは、他の魂が入り込んでしまったからだと考えたりする」
そう考える方が楽だ。
「僕らに同化しているネクタールも、魂と同化したと考えた方がしっくりきた」
「じゃあ、私たちが死んだら魂はどうなるの? ネクタールと同化した魂まで、宇宙船になってしまう?」
「考えたことがなかった」
「まあでも、こんな世界に縛られるくらいなら、それでも構わないけど」
話を終えると黒戸は寝てしまった。
黒戸に毛布をかけてから、テレビを見ているみぞれに言った。
「学校があるから僕も寝るよ」
みぞれは頷いた。僕は電気を消して、ロフトに上がった。
布団の中でふいに母の記憶が蘇った。面影をなくし、異常な行動を取り、再び死なせてしまった母。だが黒戸は、母とは違う。
ネクタールが同化しているのだから、母のようにはならないはずだ。
五月十日、火曜日。目覚ましの音で目を覚ました。みぞれが三人分の簡単な朝食を作ってくれていて、味噌汁のいい匂いがしていた。
僕らは三人で食卓を囲む。黒戸は制服がないし、気分がすぐれないので学校は休むらしい。みぞれと遊んでいると言っていた。
「とりあえず制服と靴は買ってくるよ。あと、そこの引き出しにゲームとかDVDが入っているから、適当に時間潰しててくれ。そう言えば黒戸、おじさんに連絡入れなくていいの?」
と僕は着替えをしながら言った。
黒戸はまだ寝ぼけているのか、うんうんと頷くだけだ。
もう一度訊くと、おじさんは用事でしばらく家に帰らないと言った。
六畳間を出ようとすると、みぞれが「いってらっしゃーい」と手を振った。僕は念のために、妙生にはなるべく近づかないようにと言っておく。
玄関で靴を履く前に、ケージにかけてあるタオルケットを取った。妙生を見ると、ハムスターのくせに瘦せこけたような表情をしていた。
「大丈夫かお前?」
妙生は苦しそうに声を出した。
「眠れなかった」
「ハムスターに不眠症なんてあるのかな、動物病院でも行ってみるか?」
「行かねえよ! 俺をなんだと思ってるんだ! あの子にあんまり近づかないように言っておいてね。頼むから」
「安心しろ」
そう言って、僕は玄関を出た。