姑獲鳥の夏京極夏彦

京極夏彦のデビュー作であるこの一冊に出会っていなければ、僕の社会人初仕事が「京極夏彦インタビュー」になることもなく、したがって講談社入社早々に伝説の編集者・宇山日出臣に出会う幸運(インタビューに同席してくれたのだ)もありえなかったはずだ。これぞ、まさに人生を変えた本。大学の帰り道、高田馬場の未来堂でこの本と出会ったときの輝かしい景色を、今でも僕は鮮明に覚えている。帯にあった綾辻行人さんの美しい推薦文、「『姑獲鳥の夏』を読んだこの夏の目眩くひとときを、僕は生涯忘れないだろう」は、僕にとっても100%の真実だった。

セレクター
公開日

三国志吉川英治

活字の巻数本を「むさぼり読む」経験って、この吉川版『三国志』が初めて与えてくれた。僕は編集者としてはレーベルの「シリーズもの」の編集においてもっとも力を発揮するタイプの人間だと自己判断しているんだけれど、その力の源流はきっとこの『三国志』の存在にあるんだろうと思う。魚釣りはフナに始まりフナに終わる……じゃないけど、たとえどんなに『三国志』の世界に詳しくなったとしても、結局はこのシリーズに帰ってきてしまう、そんな傑作。

セレクター
公開日

カラオケ・バカ一代ジョージ朝倉

講談社の新入社員になって、編集者としてのキャリアをスタートしたばかりの僕が「ジョージ朝倉」という才能に真っ先に出会わなければ、太田克史という編集者はきっともっと傲慢な編集者になっていただろう。生身の“才能”に興じるスリルを、僕に教えてくれたのは彼女なのだ。収録作『星空で目がくらむ』のエピソード――ビルの屋上から街に向かってアナログレコードを投げる遊び――は、僕の子どもの頃の実話をジョージが取り入れて描いてくれている。サンクス!

セレクター
公開日

はてしない物語ミヒャエル・エンデ

傑作しか書いていないミヒャエル・エンデの、最高傑作。この本は僕が「もの」としての「本」の魅力を味わった最初の本だと思う。箱入り、布張りの表紙、多色刷りの本文用紙……。そんな装丁とリンクする、記憶、時間、空間が入り乱れるメタフィクションなストーリー(それは、子どもにも――というよりは、子どもだからこそ“わかる”ストーリーになっているのが本当にすばらしい……)も最高だった。こんな素敵な本を編集者として担当できたらどんなに嬉しいことだろう! 未読の人は今すぐに読んでみてほしい。

セレクター
公開日

アトム今昔物語手塚治虫

時間や記憶が交錯する話が無性に好き。小学生の頃に読んだこの『アトム今昔物語』が、僕のその好みに気付かせてくれた。ざっくりと紹介すると、アトムの誕生をめぐるタイムパラドックスの話なんだけど、ストーリーラインがあまりにも良すぎるくらい良すぎるので、ここではくわしく紹介する気にはなれない……。ちょっとばかりせつなすぎるのです。

セレクター
公開日