ライ麦畑でつかまえてサリンジャー

現存する書物の中で最高峰の青春小説。全世界で六千万部以上売れ、今なお年間二十五万人以上の新規読者を獲得する本書は、チャップマン、ヒンクリー、最近では市橋被告といった逸脱者が愛読していることからも明らかなように、狂っています。我々の狭い読書観からすれば、とても六千万部売れるとは思えない本です。しかし売れた。読まれた。語られた。この現実がある限り、青春人間にとっての応援の書、反逆の書として君臨し続けるでしょう。

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ナイン・ストーリーズサリンジャー

本書の一編目である『バナナフィッシュにうってつけの日』が、物語制作者に与えた影響を今更ここで語るのも野暮なものです。『バナナフィッシュにうってつけの日』の影響下にある作品の何と多いことか。「若いうちに読んで下さい」という触れこみの物語は多くありますが、本作以上にその言葉が当てはまるものを佐藤は知りません。坂口安吾『夜長姫と耳男』や、安達哲『さくらの唄』のように、本当に美しい季節のうちに読むことを望みます。姫や桜にうってつけの日など、すぐに終わるのですから。

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フラニーとゾーイーサリンジャー

ここで語られるのは兄による妹の救済である。などと書くのは簡単ですが、勿論それだけでは終わりません。佐藤のデビュー作となった小説を書く際、念頭にあったのが本書でした。「人を救うのも人を殺すのも紙一重である」と、勝手に読み取った文脈を用いて、誰に宛てるでもない手紙のように書き進め、ようやく完成した原稿をポストに投函した日を忘れられません。もう一度記しましょう。「人を救うのも人を殺すのも紙一重である」。

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大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章-サリンジャー

ここには二編が収められていまして、一編は結婚について、もう一編は物語についてだと、佐藤は勝手に認識しています。前者の恍惚と憂鬱、後者の憂鬱と恍惚を行ったり来たりするのは、現時点の佐藤友哉そのものでもあり、そういう意味では個人的な「予言の書」なのでしょう。おそらく佐藤は本書から一歩も出ないまま終わるはずですが、まったく喜ばしいことです。一本の映画、一枚の絵画、一冊の小説に閉じこめられる至福を味わえる者は、そうそういませんよ。

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東京星に、いこう白倉由美

サリンジャーだけになりそうなので、選択の幅を広げました。これは小説ではなく小説の朗読CDでして、そういう意味では正しく小説です。少し脱線しますが(嘘)、作家になることを運命づけられた人間は、遅かれ早かれ外部から「雷」を浴びまして、それを浴びずに作家になった者は皆無だと信じています。佐藤はこの作品の前夜とも云える『夢から、さめない』を、雑音混じりのラジオ放送で偶然聴き、激烈な「雷」を浴びた結果として今ここにいます。星海社による『満月朗読館』も、どうか誰かの「雷」になりますように。

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