伊豆の踊子川端康成

「頭が澄んだ水になってしまっていて、ぽろぽろこぼれ、その後には何も残らないような甘い快さだった。」読み終えて、心に残った一文です。こういう涙をわたしは知っているなあと思ったのでした。それを言い表わす言葉をいくら探しても、どこにも見つけられなかったのに、たまたま開いた本の中にそれを見る。よくある話で…でも、とても運が良い。そういう出会いをした本はいつまでもわたしの本棚の一等地にいることになります。きっとこれを読んでるあなたの本棚にも、あったりするのでしょう?

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裏庭梨木香歩

中学生の頃読んだこの本を、大学に入り読みなおした際に文庫版を見つけました。大きな家には庭があります。残念ながら我が家に裏庭はありません。でも、本当はどの家にも…いや、どの家族にも、裏庭があるのだと思います。その裏庭にふみこむときに、主人公が耳にする言葉は「フーアーユー?」彼女の名前は照美です。彼女は言います。「テルミィ」そうして聞こえる、「アイル テル ユウ」自分は一体何者なのかと、切なくなったことのある方ならきっと裏庭で、声が聞こえてくるのです。

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真夏の死三島由紀夫

この文庫に入っている、「翼」という短編が、今なお深く突き刺さって抜けない刺のようです。とても短いお話なのですが、きっと忘れられないと思います。こんなものを昼下がりの通学電車で読んでしまったわたしは、学校に着くまでの間、本を閉じて、この世界にいることを噛みしめるほかありませんでした。

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東京夜話いしいしんじ

いしいしんじを読んだ事がある? と、過去に数度聞いた事のある言葉と一緒に、数冊の文庫をもらったのをきっかけに、自分で買った一冊。わたしは地方出身者の両親から生まれ東京で育ち、ここが故郷です。たまにはと風呂で読んだのですが、風呂から出そびれ、案の定、体がふやけました。この小説はタイトル通り、東京の各土地が舞台の短編集です。だからこれから手にとる方で、変わった事が好きな方…是非その話通りのその場所で、電車に揺られつつ読んでみるのはどうでしょう。なんだか、ふしぎとふやけた気持ちになってしまうはずです。

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小川未明童話集小川未明

人に、本をあげるなら、きっとこれをあげるのです。何度読んでも何時読んでも、その都度大切なものをもらえる気がします。とっても綺麗な宝石をてのひらにひとつ握らせてもらって、また日常に帰ってくるのです。わたしは目の前を綺麗な文字だけでうめつくしたいときにいつも開きます。だから、大好きな人にあげたくなるのは、いつもこの本です。

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