レッドドラゴン

第六夜 第一幕〜第四幕

「最前線」のスペシャル企画「最前線スペシャル」。三田誠がFiction Masterとしてシナリオを紡ぎ出すRPF、『レッドドラゴン』。参加者は虚淵玄、奈須きのこ、紅玉いづき、しまどりる、成田良悟の夢の5名。音楽を担当するのは崎元仁。最高の布陣で最高のフィクションを創造します。

(劇場は初めてのときのように暗く)

(舞台に立つ男も、初めてのときのように緊張した声音でしゃべり出す)

皆様」

(声とともに、スポットライトが男を照らす)

ついに、物語はここに到達してしまいました」

「古今にも類例の少ない物語であったと、胸を張ることができます。始まりからここに至るまで、誰がこのような展開を想像したことでしょう」

(一拍、男が間をおく)

「ドナティアへ舞い戻ったスァロゥ・クラツヴァーリ」

「自らの国〈天凌てんりょう〉をうそぶき死者の軍隊を支配する婁震戒ロー・チェンシー

「革命軍の旗頭はたがしらとしてちぎとなるのを決意したブキ、途轍とてつもない経済力を背景に彼らを見守るグラバ・雷鳳ライホウ・グラムシュタール」

(四人の名前を告げて、男は最後のひとり名をあげる)

「そして、たったひとり、とある真実と順番を託された、つながれもののエィハ」

「誰ひとりとして、ことここに至っては躊躇ためらいも未練も残しておりません。ただ自分の生きた道程にじゅんずる覚悟だけを胸に、ここまでやってまいりました」

「彼らが秘めた物語は、もはや激突するよりほかにありません」

(大きく、男は息をつく)

(一礼する)

「これにて最後の夜しかし、その行方ゆくえは誰にも知れません。夜明け前こそが一番暗いのですから」

「どうぞ皆様、物語の結末まで、目をお離しになられぬよう」

『第一幕』

FM ではついに、レッドドラゴン第六夜を始めたいと思います。

紅玉こうぎょくいづきエィハ (手をあげて)ちょ、ちょっと待ってください。始めるのはいいんですけど、なんだかスタッフさんの数がいつにも増して多いような(きょろきょろと周囲を見回す)

FM ええ。今回は戦争の処理はもちろん、直接戦闘に参加しそうなNPCノンプレイヤーキャラクターの数も一気に膨らんでますので、そのへんを考えて急遽きゅうきょ増員することになりました。

しまどりる忌ブキ 最終夜という感じになってきましたねえ。

成田良悟なりたりょうご禍グラバ というか、ここの人間だけで、野球できますよね!(笑)

奈須なすきのこスアロー プレイヤーひとりにつきスタッフが三人弱!

FM ま、AIが増えたと思ってもらえれば。で、スタッフとは別に奥に控えていただいている方々が、以前専用サイコロを作ってくださったグッドスマイルカンパニーの方々です。

忌ブキ わ、ありがとうございます! あれ、ということは見学ですか?

スアロー 何か政治的なものを感じる(笑)

FM 実は、グッスマさんによってあることが実現いたしまして。どうぞ!

グッスマスタッフ はい!

(グッドスマイルカンパニーのスタッフの手で、次々とフィギュアが運ばれてくる)

プレイヤー一同 おわーっ!?

FM はい。というわけで、スアロー、エィハ&ヴァル、忌ブキ、婁、禍グラバ、全員分のフィギュアをグッドスマイルカンパニーさんに製作していただきました。

虚淵うろぶちげん (何度もまばたきして)これは

スアロー す、すごい! というか意味が分からない

禍グラバ (顔をおおって)禍グラバのドリルの細かいとこまで再現されてる

エィハ うわぁうわあ。ヴァルまである。うわあ

FM 実は以前からグッスマさんに、キャラクターたちを3Dモデリングでつくっていただいてまして、このたびついにフルカラー3Dプリンタで出力してもらったわけです。

禍グラバ す、3Dプリンタ! まさか、こんな形で自分に関係するなんて夢にも思ってなかったですよ。圧倒的な未来感!

エィハ (何度もエィハとヴァルのフィギュアを指さして)うちの子可愛い! うちの子可愛い!

FM あ、触らないでくださいね。グッスマのスタッフさんに来てもらったのは、単に挨拶あいさつだけじゃなくてフィギュアの強度的な問題でして。もちろん普通に触れるぐらいは何の問題もないんですが、ゲームの最中は何かと興奮するので、細かい作業は専門家にお任せしようと。なので、このあと別室で待機してもらう予定です。

禍グラバ そのために待機!? ひどい拘束ですよ!

スアロー あんたは、第一夜で同じことをしてたろうが(笑)

(もちろん第一夜で、禍グラバ登場までひたすら成田良悟が待機していた件である)

FM まあ、今はグッスマさんに拍手を!

一同 (目を輝かせて拍手)ありがとうございました!

禍グラバ いやしかし、つい自分のに注目がいっちゃいましたが、どのフィギュアもすごいですね。特にヴァルとか。

スアロー (机に顔をくっつけるようにして)胸の盛り上がりとかすごいよ。

(しばらくフィギュアを見つめて)ううむ。この仮面

忌ブキ 婁さんは〈天凌府君てんりょうふくん〉バージョンですね(笑)

FM 長くTRPGをやってきましたが、自分たちのキャラクターが、しかもプレイ中にフィギュアになるというのは予想もしませんでしたね(笑)

スアロー そりゃしねえよ!

エィハ 星海社、何してるの。

FM では、そろそろ始めましょうか。皆様、着席を。テーブルに戦争の準備はできております。


それは、もはや神話の光景と呼ぶしかなかった。

夕映えを断ち切り、突然険しい山中に現れた城塞〈契りの城〉。水晶のごとき建材でありながら、まるで芸術家が無造作に土をこねくりまわしたかのような、ひどくでたらめな外見であった。

対して。

四方より取り囲んだ軍勢もまた、荒唐無稽こうとうむけいなおとぎ話のごとき布陣だ。

南西は、〈天凌〉軍。

この一ヶ月というもの、ニル・カムイを恐怖の底に叩き込んだ、疲れも恐れも知らぬ死者の群れ。たわむれに持ち出した〈天凌〉という名は、もはや冗談でも何でもなく、この島を席巻しようとしている。

南東は、革命軍。

もはやニル・カムイに知らぬ者はおらぬ、皇統種こうとうしゅたる忌ブキと革命家のギトが成し遂げた奇蹟きせきの軍勢である。つながれものと流賊を主体にしたその軍隊は、局地戦に限れば大国の正規軍にもひけをとらぬだろう。

北西は黄爛こうらん軍。

黄爛霊母こうらんれいぼの分体を旗頭として、万人長・白叡ハクエイと高位官僚たる甘慈カンジが指揮する勢力であった。シュカでの〈赤の竜〉との戦いと、〈天凌府君〉の奇策によって戦力をがれたとはいえ、兵士の数と練度の双方を兼ね備えているのはこの陣営のみである。

北に魔術のとりでを構えたのは、ドナティア軍。

皇統種・ブキを擁立ようりつし、黒竜騎士ミネアと従軍教父エヌマエルの率いる軍勢であった。いち早く布陣した彼らは魔術の砦を組み立て、前面には鍛え上げられた黒竜騎士団、後方には創造魔術師団を控えさせている。古典的な正面からの戦闘なら、この勢力の右に出るものはあるまい。

そして。

もうひとつは〈契りの城〉からだ。

これらの軍勢を迎え撃つべく、いくつかの城門から怪物の群れがあふれ出ていたのである。

FM (BGMを切り替える)

スアロー お、いきなりBGMが戦闘に?

FM だって状況がねぇ

(テーブルをのぞき込んで)というか、フィギュアが出てくる前から気になっていたんですが、テーブルにも戦闘用のマップがありますね。大量のチットが用意されてる

禍グラバ げえ、一枚一枚に黒竜騎士団とか、黄爛歩兵とか書かれてる! めちゃくちゃ戦場じゃないですか!

スアロー うへ、待ったなしって感じだな! 完全にシミュレーションゲーム突入か!

FM 四方からの軍勢に、中央の〈契りの城〉ですからね。

エィハ (ぽそりと)ついに、戦争。

忌ブキ ここまで、来ちゃいましたね。

(手をあげて)あ、FM。目の前のマップって、軍勢が配置された時点での状態ですよね?

FM はい、そうなります。

じゃあ、こうなる前にひとつ策を講じておきたいんですが。

FM ほほう。

仮面の予備と衣装を部下のかえびとに譲って、軍団の先頭に据えておきます。

FM おおっ!?

エィハ あははは!

で、にせの自分を前に置いた上で進軍を行わせ、俺自身は単独で森側から回り込んで城に向かいます。本当は予備といわず仮面とマントをあげちゃうつもりでしたが、せっかく立体化していただいたので(笑)

禍グラバ それで、ずっとフィギュアを見つめてたんですか!

FM 了解しました。では皆様はニル・カムイ島の南東部、〈赤竜の山〉へ無事集合とあいなります。

禍グラバ 無事

スアロー むなしい言葉だなあ(笑)

FM (iPadで画像を表示しつつ)そこに現れたるは、この〈契りの城〉。いびつ禍々まがまがしい、魔性の城塞です。ご存じの通り、その四方をドナティア、黄爛、革命軍、死者の軍勢が取り囲み、婁はひとり隠れて回り込もうとしているという感じですね。

忌ブキ はい。

FM では続けて、それぞれのPCプレイヤーキャラクターの配置を行います。なお戦争中の軍団の行動については、担当のゲームスタッフが行う予定です。

(担当するスタッフがそれぞれ一礼する)

禍グラバ おお、なるほど。

忌ブキ FMひとりでやるんじゃないんですね。

FM 僕ひとりでやるには、ちょっと数が多すぎますから(笑)。それに、戦争は互いの戦術の読み合いでもありますので、担当するスタッフがバラバラの方がいいんです。

スアロー (ため息をつく)そこまで徹底するかあ。

エィハ つまり、この戦争の行方はFMにも分からないってことですね。

FM ええ、これまでの皆さんの立ち回りで、各勢力の戦力差も狭まってますからね。あ、ただ、婁軍団については文字通り婁さんの手足なので、虚淵さんに直接動かしてもらう予定です。

分かりました。(しばらく考えて)では、俺はこのあたりに配置で(自分の位置をあらわすサイコロを置く)

FM 分かりました。では忌ブキとエィハ、スアローも、自勢力の範囲内で、好きなところにサイコロを配置してください。

スアロー うん。オッケー。

禍グラバ あ、私はどうしましょう? 自勢力の範囲内ということですと、革命軍?

FM んー、禍グラバは一人飛んでいって城で出迎えたいとか言ってたので、革命軍と城の中間地点の空でしょうね(指で場所を示す)

忌ブキ ぼくとエィハは、一緒にこのあたりかな?(サイコロを置く)

エィハ ええ、そうね。

スアロー こちらはドナティアだから(チットの配置を見ながら)これ、軍勢の後ろの方にミネアさんとエヌマエルさんがいるんだよね?

FM そうなりますね。

スアロー 作戦の話になるんだけど、ある程度突出して、周りの状況を確認したいんだ。で、他陣営に動きがあったら単独行動をさせてもらうよってミネアさんとエヌマエルさんに言っておきたい。できたら、みんなの進軍はややゆっくりめで。

FM うん、それはミネアたちも不満は言わないね。

ドナティア担当スタッフ (FMの後ろでうなずいて)うけたまわりました。念頭において軍隊を動かすようにします。

禍グラバ く、リアルに戦争気分ですよこれは。

(各自、真剣な表情で、自分の居場所を決めていく)

FM では配置は終了ですね。

禍グラバ ええ。

FM では、それぞれの軍団が展開し、見合い始めたところでスアロー、忌ブキ、そしてエィハの精神へ、大きな、赤い何かが接触する。真紅にすべてを塗りつぶす狂気。かすれるような叫び声。

スアロー 第四夜のときのあれか!

FM そう、かつてシュカに〈赤の竜〉がやってきたときの、奇怪な同調現象に酷似こくじしている。しかし、あのときと違ってひどくか細い声だ。

忌ブキ か細い声?

「来い

声は、そう響いた。

「来い!」

遠く、遠く。

どこかはかないまでの声。

「我が夢に来たれ来て、おくれ

戦場の特定の人々にだけ届くそれは、ひどく切ない叫び声であった。

禍グラバ おう

スアロー なんということだ、めすだったのか! いや、そんなことは誰も言ってないんだが(笑)

忌ブキ ぼくも聞き覚えはありませんか?

FM 忌ブキも聞き覚えはあるかな? 懐かしいような感じがある。

スアロー (少し考えて)この声は強制するたぐいのものじゃなくて、ただ懇願こんがんしてるだけ?

FM 少なくとも、以前のような暴走は起きないね。そして、婁に七殺天凌チーシャーティェンリーが微かな声で言う。「またこれか! 今度はみ込まれてたまるかわらわが、わらわがおぬしをってくれるわ!」ぎり、と歯ぎしりのような思念が婁に伝わってくる。

うやうやしく)お任せください。

FM(七殺天凌) 「楽しみにしておるぞ、婁」

忌ブキ ああ、剣も呼ばれてるんだ

そして、もうひとり。

茫然ぼうぜんと空を見上げた忌ブキの隣で、とある人物がこめかみを押さえた。

「何だこの声は?」

革命軍代表阿ギト・イスルギが、うめいたのである。

忌ブキ えっ、阿ギトにも聞こえるの!?

エィハ (ぽそりと)〈竜殺し〉に聞こえてるのね。

スアロー なんとなく予想はつくが、紅玉さんの目が怖い!

禍グラバ らい姫〉の様子からして、プレイヤーからはおおよそ事情が読めるんですがも、もどかしい。

FM そして、そこまで声が聞こえたところで、〈契りの城〉の閉められていた方角の城門も開かれ、大型の怪物が追加で姿を現します。

禍グラバ ぶほっ!

スアロー おのれ婁震戒!(一同爆笑)

俺のせいかよ!

エィハ 困ったときの婁震戒ですね(笑)。これ、どれぐらいの戦力なんです?

FM そうですねえ。革命軍でも分かるところだと、黄爛で有名な雷獣らいじゅうやドナティアでいうところのワイバーンなどですがおおよそ一体あたり歩兵二部隊分ぐらいですかね。

スアロー それが、何体いるの?

FM (無言で駒を配置していく)

忌ブキ 十体どころか二十体でもききませんよこれ

スアロー 来いと言っておいてこれかよ!

禍グラバ こいつらを喰ってレベルアップしてから来いということでは?(笑)

忌ブキ れ、レベルアップどころじゃ

「はっすげえな、まるでおとぎ話だ

恐れる忌ブキの隣で、そんな声があがった。

「阿ギト?」

振り向くと、革命家はまっすぐ〈契りの城〉を見つめていた。

彼は恐れてはいなかった。

いや、その表情には恐怖も混じっていたが、上回る何かも宿っていた。それこそ、おとぎ話にいう英雄にも似た眼差しが。

「こんな貧乏軍隊が、伝説にでもなった気分だ。いいや、確かにここは伝説なんだろうよ。ドナティアに黄爛のあげく、還り人の軍団に〈契りの城〉なんだからよ」

はは」

だから、忌ブキもあわく笑った。

息を、つく。

忌ブキ 阿ギトが恐れないなら、ぼくだって。阿ギト、これが契り子になるための試練なのかな?

FM(阿ギト) 「そうかもしれねえ。どうだい、そんな伝説に立ち会ってる気分は? 我が王よ」

忌ブキ 正直、怖くないと言えばうそになるよ。でも、ぼくはもう迷わないって決めたから行く。

FM(阿ギト) 「ああ、どうやら、あの城に途轍もない何かがあることは確からしい。ならば、ドナティアや黄爛、ましてや死者の軍勢に渡すわけにも行くまいよ。聞け、同士諸君! ここを革命のかがり火としよう。化け物どもからあの城を奪うぞ!」

スアロー (顔をでて)まあ、当然そうなるよなあ

エィハ

『第二幕』

阿ギトの鼓舞こぶに、革命軍は雄々おおしく声を張り上げる。

物語とは人の心をき立てるものだ。時に鼓舞し、時に慰撫いぶし、集団であればあるほどに、本来ありえなかった行動へと駆り立てる。

そして、そういう物語を利用するのに、阿ギトほど卓抜した人間もそうはいなかった。こういう人間こそが歴史に書かれるのだろう。ある意味で、どんな魔剣や魔術よりも激しく、世界を塗り替えてしまうのだろう。

きっと、それが、この人の理由

エィハは、そっと目を押さえる。

この男こそが〈竜殺し〉なのだと、そう訴える自らのひとみを。

FM そして、ジュナもエィハに声を掛ける。「エィハ、準備はいいの?」

エィハ (FMへ向かって)禍グラバさんは今どこにいるか分かります?

FM 楽しそうに飛んでるんじゃないかな(笑)。ちなみに敵の怪物にも飛んでるのはいるからね?

禍グラバ まあ、ワイバーンがいるって言われましたしね。私の装甲ですと、よほどの怪物でない限りいきなり撃墜げきついってことはないでしょうが、警戒しながら飛んでいますよ。

エィハ (しばらく考えて)じゃあ、ジュナに言います。ジュナ、しばらくの間でいいわ、忌ブキを見ていて。わたし、上から確かめたいことがあるの。

FM(ジュナ) 分かった、じゃあその間はあたシがひっついておくねぇ」

エィハ で、ヴァルに乗って飛んで、他人の声が聞こえなくなったところで、禍グラバさんからもらった念話の護符ごふで通信を入れます。

夕映えは、まるで血の色だった。

鮮烈な赤に、黒々と怪物たちの影が混じっている。

あまりに濃密な怪物の群れに、空が汚染されたかのようでもあった。

やあ、なかなか壮観な眺めだね」

すぐに、エィハの耳元に、聞き慣れた商人の声が返ってきた。

エィハ (少し考えて)禍グラバさん、今ここであなたを見てもあなたはまだ、やっぱり違うのね。

禍グラバ そ、そうか、禍グラバは違うんだ。

スアロー こええ! じっくり研究者に観察されるモルモットの気分だ!

忌ブキ (ごくりとつばを飲み込む)

禍グラバ せき払いして)ふむ。どうも〈喰らい姫〉と会った時から何か様子がおかしいようだが、何かあったのかね?

エィハ ええ。わたし、とても大切なことをひとつ聞いたわ。

禍グラバ それを、こっそり君ひとりで話しかけてくるということは

エィハ 禍グラバさんあなたを、〈赤の竜〉の友達と見込んで頼みがあるの。

ほう。

エィハ わたし、〈赤の竜〉を正気に戻す方法を〈喰らい姫〉から聞いたわ。

スアロー うほ!

禍グラバ 〈赤の竜〉を、正気に戻す? 本当かね?

エィハ 本当よ。ねえ禍グラバさん、わたし、忌ブキが一番大切だと思ってる。でも、多分、わたしは忌ブキが王になった後まで守れない。だから、一人でも多く、忌ブキの友達をこの世に残してから死んでいきたい。

忌ブキ

エィハ そのためにわたし、一番いい方法は〈竜〉を正気に戻すことだと思ってる。この考え方、間違っているかしら?

エィハの言葉を、同じ空で、禍グラバは確かに聞いた。

聞いたからこそ、一瞬硬直した。

不死商人と呼ばれた彼でさえも、その言葉は聞き逃せないものであった。

禍グラバ それが叶うなら、赤き先人の友である私も望むところである。あるのだがそれを、ほかの人間がいる場で話さなかったということは何か、それなりに代償が必要なんだろうね。

スアロー だよなあ。

エィハ とても、とても難しいことだとわたしは感じてる。この方法が成らなかったとしても、わたしは忌ブキに王になってもらいたいし、忌ブキに生きていてほしい。

禍グラバ ああ、知っているとも。

エィハ でも、わたしまだ分からないことが多くありすぎる。誰かにいておきたいことがあるけど、阿ギトには訊けないの。

禍グラバ 今のところ、私はどこの陣営にもついてないが、逆に言うとこれからどこの陣営につくかも分からないよ? ともすれば、革命軍に全面協力する可能性だってあるわけだが、そのことは分かっているのかな?

エィハ (きょとんと首をかしげて)だってあなた、〈竜〉と友達なんでしょう?

スアロー こ、怖い

忌ブキ と、友達が重い

エィハ それは重いよ! 何も持ってない子だもん!

禍グラバ そうだな友達は家族の次に大切だ。

スアロー こっちはこっちで取捨選択しゅしゃせんたくがはっきりしてるな!

エィハ (手をあげて)ううん、ちょっと考えをまとめたいんで、時間をとってもいいですか?

FM いいですよ。戦争が始まってしまうと、まともに会話する機会は二度と無いかしれませんし。

エィハ ありがとうございます。情報がちゃんと、わたしに都合のいいように伝わるようにしないと(一同爆笑)

俺でもここまでは言わねえ!

FM プレイヤーが今必要なことを完璧に把握しているがゆえに、発言がかえってひどくなるという例ですね(笑)

スアロー もはや、ひどいとかひどくないとかじゃない!

エィハ ええと、それじゃ

禍グラバ いや、ここはこちらから尋ねましょう。それで、君は誰を殺したいんだい?(一同爆笑)

エィハ っ!

この段階で、禍グラバはエィハの内心を察知していたわけではない。

とはいえ、単なるかまかけというわけでもなかった。

長く商人をしていると、相手の内側が透けてくる。表情を見なくとも、声音ひとつで八割方の性質や嗜好しこうは把握できるものだ。ましてや長期間ともに旅をしてきた相手となれば、それ以上のものが働くのも必然ではあった。

エィハにとって最も重要なことが何かと、それだけを考えればよかった。

この少女が思い詰めるようなものが何かと、考えればよかった。

答えはただの必然だ。

禍グラバ 少し違うかな。殺したい、じゃない。誰を殺さないといけないんだね?

エィハ 禍グラバさん

スアロー 実に剣吞けんのんだな! でも、そのあたりもっと詳しく!(耳に手をあてる)

その発言に、エィハはため息をついた。

この相手には、隠せない。

そう思ったのだ。

それでもすべてを話すわけにはいかない。

これほどの洞察力を持つ相手さえ、自分はだまさなければならない。いいや、騙すことなど考えずしかし、自分にいいように誘導しなければならない。

エィハ (うつむいて)人間だけじゃ、なかったの

禍グラバ 人間だけじゃなかった?

エィハ 禍グラバさん剣を殺すって、一体どうやってやればいいと思う?

禍グラバ (大きくため息をついて)なるほど。それでもう察しますね。相手は七殺天凌、ね

FM 第二夜で、禍グラバのかんも、盛大に警報を鳴らしてましたからね。婁の持っていた剣がそのまま七殺天凌かどうかは分かりませんが。

禍グラバ とはいえ国の名前が〈天凌〉で、七殺天凌については〈喰らい姫〉から話を聞いてますしね。さて、話を総合すると、とんでもない魔剣ということになる。はたして折ったり砕いたりしたところで、その存在を消せるかどうか。ただ、私たちが知ってる中で、ひとつだけ確実に殺す方法がある。

エィハ それは

禍グラバ (大きくため息をついて)スアローくんが持って振るうことだよ。

スアロー やっぱりな。そ、その話を僕に振らないでくれ! いや、何でもない(笑)

FM 虚空に向かって何を言っているのか(笑)

エィハ スアローさんなら、あの剣を殺せるというのね?

禍グラバ そうだなただ、スアローくんが壊すということは、その剣を何かに振るうということだ。一体何に振るうかその相手はほぼ確実に死ぬことになるだろうな。

エィハ 確実に、死ぬ

禍グラバ そうですね。完全にプレイヤーとしての意見になるんですけど、仮に七殺天凌をスアローが持つことに成功したとして、それを〈赤の竜〉に振ってしまったらというのが、想定しうるパターン。

エィハ ええ。

スアロー そもそも、あの剣をどうやってあの魔人の手から奪って、僕が持つことができるんだ? 何か、今キルリストの順番ができてる(笑)

まず俺が死ぬのか(笑)

エィハ 順番があるの。スアローさんが、〈赤の竜〉を殺してしまうのはよくないの。

禍グラバ ふむ。スアローくんの膂力りょりょくと剣の威力を考えるとね。しかも、〈黒の竜〉という不確定要素まである。

エィハ 一撃で殺してしまう可能性はあるってことね。

スアロー スアロー三倍剣だからね。七殺天凌のひめ様が話通りの人だったら、霊母と同格と言わずとも準霊母級の相手でしょ。それの三倍って言ったら世界取れるぜ?(無意味にファイティングポーズを取りながら)

忌ブキ す、スアローさん

禍グラバ ふむ。あの剣については、分からないことが多すぎる。それでも、知っていそうな人間には心当たりがあるな。

スアロー あ、やっぱりそこに来たか。

エィハ 誰?

禍グラバ 黄爛軍の先頭に立つあの少女は、霊母の分体いや、霊母本人が来ているという可能性も、私はまだ捨てていないがね。話を聞くに、おそらく七殺天凌を生み出す時に彼女が絡んでいる。ならば、彼女は殺し方やその力の防ぎ方を知っているかもしれない。

FM 今はこの格好で輿こしに乗って参戦しておりますね(iPadで画像を表示する)

禍グラバ 隣に白叡がいるんですよね。

スアロー もう何の役にも立たないけど(一同爆笑)

禍グラバ 誰のせいで!(笑)

忌ブキ 切り札が

FM あんたが麒麟船きりんせん壊さなけりゃ、婁軍団はここまで膨れあがらなかったんだよ! あの軍団の大半を空中からの艦砲かんぽう射撃で蒸発させられたのに!(笑)

スアロー いや、まさに運命というものは。はい、舞台にいない者は引っ込みます(ひらひらと手を振る)

しばらく、エィハは禍グラバの言葉を吟味する。

ひとつひとつ、入念に確かめていく。

自分にできること。できないこと。曖昧あいまいな可能性を潰して、くっきりと浮かび上がらせていく。

やがて、少女は小さくうなずいた。

エィハ 分かった。何にしても、とても難しいことなのね。禍グラバさん、もう少しだけいいかしら?

禍グラバ ああ、いいとも。

エィハ その、さっき、誰を殺さなければいけないかと訊いたわね? 剣だけではないの。順番が大切だと、わたしは〈喰らい姫〉から聞いたわ。

禍グラバ あらかじめ言っておくが、もし私に死ねというんだったら、家族に手紙を残す時間ぐらいは欲しい(一同爆笑)

エィハ (かぶりを振って)だとしたら、わたしはあなたには言っていないわ。あなたはこの順番には入っていない。だから相談したの。

禍グラバ そうか

重く、禍グラバもうなずいた。

話の流れで、おおよそ理解していたことではあった。

それでも、直接聞かされれば、心の底によどみができる。たとえ、百年の時を超えて生きてきた彼であろうとも。

エィハ わたし、今から人殺しの話をするのよ? それでも聞いてくれる?

禍グラバ 何、人殺しの取り引きを受けるのは、これが初めてじゃない。実はね、一ヶ月ほど前にも、ある男と済ませているんだ。

忌ブキ

FM 結果、うるわしい女騎士の首が飛びましたね。

スアロー やばい。ここに来て、エィハと禍グラバのコンビがすごく面白い(笑)

禍グラバ そして、君の口ぶりからすると、殺さなくてはいけない人間というのは、私のよく知る相手のようだね。でなければ、君のことだからすでに名前を言っていることだろう。

エィハ ええ

禍グラバ そして、私ではない。

エィハ そうよ。そして、ひとりでもない。

忌ブキ ひとりじゃ、ない

エィハ 黄爛軍以外のすべての陣営にひとりずつ〈赤の竜〉より先に殺さなければ、竜の正気は戻らないの。

スアロー (手を叩いて)おもしれーっ! ここだけで最終夜はお金取れるわ!

FM きのこ先生、つやつやしてますね!(笑)

順番と数字。

「三人」

と、エィハはその数を示した。

「わたしが今、竜より先に殺したい相手は三人よ」

禍グラバ 三人

エィハ わたしたちの旅の仲間だったスアローさん、婁震戒の持つ魔剣、そしてわたしたちの背後にいる阿ギト

忌ブキ 来た

スアロー やっぱりかあ

エィハ この三人ともを殺さなければ、〈竜〉の正気は戻らないの。

禍グラバ ひとつ訂正をしておこう、婁震戒はもう死んでいるよ。あそこにいるのはもう婁震戒じゃない。まあ、実際に違うんですけどね(一同爆笑)

FM 影武者ですからね!(笑)

禍グラバ 次に、スアローくんが使う以外で、あの魔剣が普通に壊せるかどうかなんだがFM、《天性の勘》で分かります?

FM ああ、なるほど。いいでしょう、判定してください。

禍グラバ (サイコロを振って)一応成功してますね。

FM なら、あなたは思い出しますね。以前、婁が岩巨人の攻撃を剣で受けず、えて腕で受けたところを。

む。

スアロー そういやそうだったよ! 伏線になってる!

禍グラバ (うなずいて)そうか。壊せる可能性はあるな。岩巨人のとき、婁くんが片腕を犠牲にしたのは、あれほどの攻撃ならば剣が傷つくと考えたのかもしれん。

エィハ (顔を輝かせて)なら

禍グラバ いや待ちたまえ。ただ、婁くんはあの剣を振るうところを執拗しつように見せようとしなかったろう。そして、実際に振るったとき、私は異常なまでの恐怖を感じていた。これでも勘は鋭い方でね。視覚認識が条件になった呪いでもあるのかもしれん。

忌ブキ 勘が鋭い方ってレベルじゃない(笑)

FM まあ、見たらやばいという魔法の物品は多いですしね。

禍グラバ つまり、物理的に砕くことが可能だとしても、やはり容易ではないということだ。そもそも、あの岩巨人ほどの打撃力を別に用意しなければならん。

エィハ ええ、分かってるわ。そしてわたし、三人の順番が終わったら、最後は〈竜〉を殺さなくてはいけない。それが〈竜〉を正気に戻す方法だって言われたからだから、何もせずに死んでもらっても困るの。

スアロー おおう

「わたし、こんなことを言うのは嫌だけど、まだやっぱり、怖いわ」

自分のせた肩を、そっと少女は抱いた。

鎖骨の浮いた、みじめなぐらいの身体からだ。それでもやらなきゃならないことがあるのだと、少女は思い知っていた。

「だって、竜に殺された身体だもの。多分、わたしたち革命軍だけでは〈赤の竜〉は殺せない。そのことは本当によく分かってる」

禍グラバ なら、どうするつもりだい?

エィハ それでも、順番と方法を教えられてしまった。教えられたからには、一番高い可能性を探らなきゃいけないわ。わたし、すごく考えてる。こんなに考えたことなんて、ないんだけど。

忌ブキ 忌ブキは果報者です

スアロー いや、これは

禍グラバ (少し考えて)ひとつ言おう。私は、君がその可能性を捨てていない時点で、ある種の決意をしてるのだと思っている。なぜなら、君は阿ギトを殺すことも選択肢に入れているのだろう? 阿ギトを殺してしまえば、忌ブキくんがどう思うかも考えた上で、君はその可能性を口にしている。そうだね?

エィハ ええ。でも革命軍にはジュナがいてくれる。阿ギトの順番は最後よ。ねえ、禍グラバさん? (どこか笑みが混じった声で)この島では、還り人は狂うものと決まっているの。

(卓の全員が息を呑み込む)

FM す、すごい。すごい

忌ブキ (ゆるくかぶりを振って)何も言えません

決意を、少女は語る。

さも嬉しそうに、さも酔ったようにそして、酔うことしかできないように。さもなければ、『順番』などまともに受け容れることはできないだろう。

人間性の喪失そうしつ、どころではない。

それは、本来、生命が持つ方向性と真逆なのだ。

禍グラバ (ため息をつき)それでも、私は君を狂っているとは言わない。なぜなら、私は狂っている人間とは取り引きをしないからだ。

スアロー (無言で虚淵さんを指さす)(一同爆笑)

素知そしらぬ顔で)よい取り引きができましたよ?(笑)

エィハ じゃあ、わたしとも取り引きをしてくれるということなのね?

禍グラバ ああ。ただしそうだな、君に協力できるのは、半分といったところだろう。なにしろ、私は大事な家族をスアローくんに預けている身だ。

エィハ ええ。

禍グラバ だから、スアローくんを直接殺すなりなんなりといったことには、私は前向きな協力はできない。

スアロー あ、あっぶねえ! 前向きにあのドリルに首ちょんぱされるところだったぞ!

エィハ (深くうなずいて)ええ。

禍グラバ だが、七殺天凌と阿ギトくんに関しては前向きに考えよう。ただし、代償もあるが。もちろん、取り引きに対価が必要だということは分かっているね?

エィハ わたし、払えるものはそう多くないわ。何か、できることがあるかしら?

禍グラバ (人差し指をあげて)忌ブキくんの妹がいるだろう?

エィハ (きょとんとした声で)ええいたわね?

FM さも忘れてたみたいに!?

忌ブキ ちょ! 第四夜では殺意マックスだったのに(笑)

やはりな)

反応の変化を、禍グラバは言外に感じ取る。

シュカでの事件の際、確かにエィハは祝ブキをうとんじていた。途中の流賊の船でのやりとりでも、それは明らかだ。

なのに、今その殺意は失せている。

つまるところ、この少女の価値観は常に忌ブキを中心に巡っているのだ。

だから、〈竜〉を正気に戻す選択肢が生まれた時点で、祝ブキを殺す必要性は下がったと考えているのだろう。

禍グラバ 君が友を大事にしているように、私も友と約束したのだ。たとえ赤き先人が正気に返ろうと返るまいと、彼は最後にこう言った。〝いぶき〟にできる限りのことをしてやってくれと。どちらの〝いぶき〟を指していたのかは分からないが、だからこそ私は全力をもってふたりとも守る。気づいていたかどうかは分からないが、君の祝ブキくんに対する殺気は並々ならぬものがあったよ?

FM う、うん(笑)

忌ブキ まさしく、並々ならぬものでしたね(笑)

禍グラバ 君に許せとか守れとか言う気は無い。ただ、忌ブキくんの友達として、彼の家族を受け入れてやってほしい。彼女が存在することを認めてやってくれないか?

エィハ そうね、それはきっと未来の話ね。

禍グラバ そうだ。私は君から未来を買おうとしている。

残酷なことを言ってると、自覚ぐらいはあった。

つながれものにとって、最も足りないものこそが未来だ。

それを代償にしようとしているのだから、なるほど不死商人とは最低の悪党だと、禍グラバは自虐的に思う。

エィハ わたしの未来に、少しでも価値があるならそれはとても嬉しいことよ。ありがとう禍グラバさん、わたしに未来があると言ってくれて。

禍グラバ ああ。しかし、最後に阿ギトを殺したとしよう。その後に〈竜〉もすべて上手く事が運んだとしよう。だが、君はその後、おそらくはジュナくんに殺されるのでは?

エィハ ええジュナはわたしの友達だから。

禍グラバ きっちりと君を殺してくれるというわけかい?

エィハ わたしたち、本当に好きあってたのよ。

禍グラバ そうかいい友達を持ったな。

エィハ でもね、〈竜〉はわたしの友達じゃない。ここまで言うかどうかは、迷ったんだけど未来があるというなら、禍グラバさん、言わせて。〈竜〉を見捨てる方法も、わたし、考えてる。

忌ブキ え。

禍グラバ ふむ。〈竜〉を見捨てる方法?

エィハ もしもね。もしも、さっきの順番を守れなかったらイズンのときはできなかったけれど、今度こそ、忌ブキに〈竜〉を殺させてほしいの。

スアロー ああ

禍グラバ それが次善の方法だと?

エィハ そうよ。一番いいのは〈竜〉が正気に戻ることだけど、それが叶わないのならわたし、この方法に賭けるわ

エィハは、思い返している。

順番の意味。

〈喰らい姫〉の言葉が確かなら、〈赤の竜〉を正気に戻すには、〈竜殺し〉をすべて殺した後、〈竜〉自身を殺す必要があるということだ。

しかし、単に皇統種が〈竜〉を殺した場合でも、〈竜〉の力を引き継いだ契り子となれる。

だから。

これこそが次善の策だと、エィハは信じていた。

禍グラバ そうか

エィハ それを、あなたにお願いしてもいい?

禍グラバ 私は〈竜〉と友人だが、実のところ彼が正気に戻ろうが戻るまいが、どちらでもいいのだ。彼自身も気にすまい。〈竜〉が世界の紡いだ魔法であるというなら、ただ世界のあるがままに身をゆだねることを喜ぶだろう。

忌ブキ

禍グラバ 世界を動かすのは人の望みに他ならない。どう動くかは、君と忌ブキくんの望み次第だ。

エィハ ええ。ありがとう。こんな話を、聞いてくれて。

FM では一旦そこで会話を終了しましょう。次はドナティア陣営であります。

スアロー はーい!

『第三幕』

溢れ出る怪物たちを前に、ドナティア陣営は落ち着いていた。

いっそ怪物の方が、手慣れた相手だったからかもしれない。

死者の軍勢などという、いくらニル・カムイといえども信じられない情景よりは、まだしもくみしやすかったのだ。無論、あの怪物も厳密に言えば還り人の一種なのかもしれぬがそれでも、人の姿をした死者よりは、はるかに戦いやすかった。

もっとも。

上官の内でも、約一名は大きく動転していたのだが。

FM(エヌマエル) 「な、なななな、何だあれはーっ! また怪物が増えたですと!」と、ひたすらエヌマエルさんが混乱しております。

忌ブキ エヌマエルさん、なんて安らぐ(笑)

禍グラバ エィハとの話がヘビィだったし、なおさら響きますな

FM で、同じくその様子を見た祝ブキさんは「聞いたことがあります」とつぶやく。

スアロー 知っているのか祝ブキ!?

FM 絶対言うと思ったよ!(笑)。祝ブキの言葉はこうだ。「初代契り子であるグヤ様は〈赤の竜〉と語らうためにひとつの城を作り、そこで契り子になったと」

スアロー 初代の契り子?

「ははっ、つまりこれは初代契り子からの試練ってことかい?」

それを聞いて、ミネアがくつくつと笑った。

同時に、いつ軍隊が激突してもいいように、正騎士たちと細かなやりとりも繰り返している。自然でくつろいだ態度は、まるでこの女が戦場で生まれたとでもいうようだった。

禍グラバ 楽しそうだなあ。いいなあドナティア。

スアロー いつでも戻っておいで! ところで、うちの戦力だけじゃああの怪物はどうにもならないよね

FM まあ、ドナティアの兵力は減るだけ減りましたからねえ。

忌ブキ 減るだけ減ったっていうのも凄いですね。

スアロー 大丈夫、僕たちにはエヌマエルさんのスーパー僧侶そうりょパワーがまだあるさ!

FM というか、あんたがシメオンを排除して、指揮能力の低いミネアさんを連れてきたからだよ!

エィハ あ、そっか。シメオンはいなかったのよね。

スアロー いやぁ、こんなモンスター大軍団が出るとは

禍グラバ すべてが裏目に出てますねえ(笑)

スアロー 実は、第五夜で〈黒の竜〉が話しかけてくるまでは、いつ裏切ろうかと思っていたんだよ。だったらシメオンさんよりはミネアさんの方が相手にしやすいなと考えてたのに、意外と〈黒の竜〉が話の分かる相手で

忌ブキ 本当に裏目だ!

スアロー 返す言葉もありません。ところで、黄爛を後ろからつつこうとか思ってたんだけど、あのモンスターどもからすると、そんなひまはなさそうかな。

FM(ミネア) 「まあ、そうさね。争ってる間に、ほかの陣営に〈契りの城〉へ入られちまう方が問題だ」

スアロー だろうなあ。幸い、一番怖い勢力は僕たちと城を挟んで反対の位置にいる。

スアローが、かすかに目を細める。

もちろん、意識した相手は、〈天凌府君〉の指揮する死者の軍勢であった。

FM(ミネア) 「あれはちょっとやりたくないね」とミネアさんも苦笑する。

スアロー 革命軍は所詮しょせん烏合うごうしゅうだしね。少なくとも単体では、あの魔物の群れを突破できるとは思えない。

FM(ミネア) 「ふむ。同意見だね」

スアロー となると、問題は黄爛だな。

FM(ミネア) 「あっちはドナティアと大きく事情が変わらんだろう。あたしだったら、一気に〈契りの城〉へ寄せて、精鋭だけを中に突っ込ませるね」

ミネアの論旨ろんしは簡潔だった。

おそらく、この女は常にそういう行動をしていたのだろう。

黒竜騎士団第三団の隠された契約者。おそらく、表に出せない活動が、この女の本領であったに違いない。

諜報ちょうほう、暗殺、いくらでも思いつくことに、スアローは軽くかぶりを振った。

やれやれ」

と、ひとつため息をつく。

禍グラバ まあ、ダンジョン内で軍隊は役に立たないって理屈ですねえ。

スアロー 狭いからねえ。魔術とか範囲攻撃くらったら一網打尽だし。〈赤の竜〉相手に軍隊じゃ戦えないのは、シュカで証明済みだ。

FM(ミネア) 「そういうこと。何か案はあるかい、黒竜騎士さんよ?」

スアロー ミネアさんも黒竜騎士なんだけど(笑)

FM(ミネア) 「きひひっ、あたしとしては一番新しい黒竜騎士さんの意見を聞きたいねえ」

スアロー (腕を組んで)ちょっと待ってね。この状況だったら黄爛と競り合わないようにして、まずお互いの邪魔なものたちを排除するべきじゃないかなあ。

スアローは、状況を整理する。

今の場合、〈契りの城〉から出てきた怪物たちは、共通の敵である。

〈天凌府君〉率いる死者の軍勢だけは分からぬものの、直接交戦を逃れるように動けば、結果論的な共闘は可能でないかと考えていた。

つまり、まずはあの怪物たちを倒すということで、合意がとれるのではないかと。

FM(ミネア) 「なるほどね。まあ黄爛を指揮してるのは白叡みたいだし、そういう常識的な動きは期待できるかもしれないね。あれが楽紹ガクショウ祭燕サイエンだったら怪しいところだったけれど」

スアロー 怖いなぁ。ここもギリギリだったか。

FM(ミネア) 「ただし、革命軍はサッパリだね。〈赤の竜〉に乗じてシュカに奇襲してくるような連中だ。そういうまっとうな期待はできないよ」

エィハ そういえばそんなこともあったわね(笑)

スアロー あちゃあ! うーんこれはプレイヤーとしての意見なんだけど、突っ込む前に革命軍の行動原理は知っておきたいなあ。というか、もう夕暮れだけど、みんな夜戦の覚悟をしてるわけ?

FM 陣営にもよりますが、ドナティアはむしろ夜戦が得意ですね。つながれものやまじりものは言うに及ばず、黄爛もそれなりの装備はしてきてるんじゃないでしょうか。夜を見通すための魔術物品はそれなりにあるからね。

スアロー やるな、ファンタジー軍隊!

禍グラバ (首を突き出して)ところで、連絡ならとれますよ?

スアロー そうだった! 俺ブリキングと連絡とれるんだった!

フライングオブジェクトも見えてますからね(笑)

スアロー ミネアさん、ちょっと黙っててね。(頭に指を当てて)みょんみょんみょんみょん

FM あんたはそんなシステム持ってねえよ!(笑)

スアロー あ、そうだった。メリル、僕の携帯を。

忌ブキ 携帯!?(笑)

スアロー (念話の護符を手にとる仕草しぐさをして)とりあえずミネアさんからちょっと離れて話しますよ。禍グラバ、禍グラバ、この声が聞こえますか? スアローです。今あなたの心に直接話しかけてます(一同爆笑)

禍グラバ 今日そのネタやろうと思ってたのに先にやられた! さっきのエィハとのシリアスシーンではそんなノリは絶対にできないからこの次だなって思ってたら先にやられた!(笑)

スアロー やった! この長い話の中で初めて出し抜いた!(笑)

何を競ってるんだあなたたちは(笑)

FM (タイムウォッチを持ち出して)ところで、あまり長く話すようだと、戦争始めてしまいますよ?

スアロー禍グラバ ごめんなさい!

ミネアたちから離れた天幕で、スアローはメリルに頼み、念話の護符を起動してもらった。

「どうしたかね?」

滑らかに、禍グラバの声が鼓膜こまくへ滑り込む。

この不死商人とのつきあいも、ずいぶん長くなったように、黒竜騎士は感じていた。あるいは、これが最後になるかもしれないとも。

スアロー 僕だ。時間が無いので単刀直入に言おう。今、禍グラバさんは革命軍と行動を共にしているんだよね?

禍グラバ いやあ、軟禁状態みたいなものでね。ようやっと自由になったとは到底言えないかな?

スアロー そうか、相変わらずアスレチックな人生を送っているんだな。じゃあ、プレイヤーは知ってるけどキャラクターは知らないので、今のあなたの状況を三行で教えてくれ。

禍グラバ 〈喰らい姫〉と会った。

スアロー ほう。

禍グラバ 彼女は育たない系だった。

忌ブキ いや、あの(笑)

スアロー (頭を抱えて)早くも選択肢をミスっていたか(一同爆笑)。いや、だがそれは本筋ではない、次だ!

禍グラバ そして、革命軍はやる気満々だ。

FM 三行でまとめましたね(笑)

禍グラバの発言に、しばしスアローは沈黙する。

いくさを前に、考えさせられてばかりである。周囲からは聖霊駆動カタパルトの起動音や、伝令の馬が走り回るひづめの音が、けたたましく鼓膜こまくを叩いている。

戦の音。

結局のところ、スァロゥ・クラツヴァーリが離れられない音。

スアロー それは、革命軍イコール忌ブキさんと考えていいのかな?

禍グラバ 阿ギトくんが忌ブキくんにかしずき、はっきりと言っていたよ。我が王よ、とね。

スアロー なるほど。

FM (重々しく)五夜にわたる物語の積み重ねでございます。

(淡々と)ここまで来ましたからねえ。

エィハ ええ、来たわね。

スアロー 実は、禍グラバさんにもらったお金だけど、大半はここに来る前、とある街での物資集めに突っ込ませてもらったんだ。

禍グラバ ほう。

スアロー まあほら、忌ブキさんが革命軍からたもとを分かったり、さらに黄爛とドナティアにも保護してもらえないとかの状況になったら、せめて準備期間は必要だと思ったんだよね。だから、忌ブキさんの名前で辺境の街に物資を集めたら、ほんの数ヶ月でも拠点になるんじゃないかなーと思って。

忌ブキ ああ、そんなことまで

スアローが、ひそかにメリルに命じていたことである。

ドナティアからも黄爛からも関係の薄い街を選び、秘密裏に忌ブキの名前を使って、物資を持ち込ませていた。さすがに皇統種の名前は抜群で、かの街は一気に盛り上がり、メリルの紹介した傭兵たちも受け容れてくれた。

無論、所詮は金で雇ったきずなだ。

金の切れ目が縁の切れ目であることも、青年は分かっている。それでも、しばしあの少年に考える時間を与えられるならその可能性を確保してやれるなら、かまわないだろうと思ったのだ。

スアロー まあ、僕のポケットマネーにも少しもらったけどね!

FM そして、そちらはメリルが接収していきました。

なお、その際のスアローとメリルによる短い会話。

「まあ、あれだ。忌ブキさんにほとんど渡すんだから、仲介料ぐらいもらっていいよね」

「ナイスクズ。では、汚れた金ですが受け取っておきます」

「なんでメリルが持っていくんだ!?」

「お忘れのようですが、現在、スアロー様の膨大な借金はシャーベット商会から借り受けているものだからですよ」

「そうだった!」

エィハ お、落ちまでついてる!

スアロー あっはっは、指摘されるまで完全に忘れていたよ!

禍グラバ (大きくうなずいて)うん。君に使ってくれと言って渡したお金だ。好きにしてくれていい。

スアロー そう言われると助かるな。

禍グラバ だが、これも分かる。忌ブキくんは確かに目的だけを見据えている。彼はおそらく、我々が何かを言ってももはや止まることはないだろう。だが、その目的の中には、現在妹の祝ブキとの対立は入ってないよ。

スアロー そうか

禍グラバ こちらからも聞きたいが、そちらの祝ブキ嬢はどういう心づもりなのかね?

スアロー 彼女はいい意味でも悪い意味でもドナティアの思想に染まっている。ドナティアによるニル・カムイの統治こそが最も正しく、血が流れないものであるとね。現状では、兄である忌ブキさんと手を取ることは難しいだろう。

それぞれの情報を交換して、スアローと禍グラバはしばし沈思する。

ふたりにはふたりの立場があり、それはひどく複雑だった。

単にドナティアや革命軍に利すればいいというものではなく、かといってそこから完全に踏み出せるものでもない。

「ひとつ、はっきりさせておこう」

だから、禍グラバはその根底にあるものを、自ら口にする。

禍グラバ 私の最大の目的は、古き友との約束を果たすことだ。つまり、〝いぶき〟にできる限りのことをしてやってくれということだよ。

スアロー それは、両方のかい?

禍グラバ ああ。両方が殺し合いの道を選ぶというのであれば、それはそれで私は最後まで見届けなければならない。しかし、そうせずに済む道があるのなら、私はふたりが共に歩む未来を見てみたいとも思っている。君は違うのかな?

問われて、スアローが微苦笑びくしょうする。

〈赤の竜〉混成調査隊。

もはや遠くなってしまった名前の中で、最も人並み外れていた外見の相手が、最も人間味溢れているというのは、皮肉なことだ。

同時に、救いでもあるような気が、少しだけしたのだ。

正直、僕には家族間のことは分からないよ」

禍グラバ ふむ。

スアロー ただ、個人的理由でドナティアに与してはいけない理由ができてしまった。

忌ブキ それって、〈黒の竜〉が言ってた

エィハ スアローの呪い

スアロー もちろん立場上ドナティアの騎士なので、この仕事が終わるまではドナティアの責務を全力でまっとうするつもりだ。

禍グラバ なるほど。

スアロー だけど、責務が切れた瞬間にどうなるかと言えば、正直忌ブキさんに肩入れしたい。単純に、面白くなったからね。うん、どうして今更いまさらこんな話をするのかなんだけど〈黒の竜〉、いや〈竜〉というものにこの島の未来を預けるのは心情的に気持ち悪いんだ。

禍グラバ ほう?

スアロー 僕は人間なので、人間に分かる未来が欲しい。〈竜〉に預けてしまうと、それはもう僕には分からない。なのでできれば、人間の指導者にこの島の未来を築いてほしい。ドナティアと黄爛では駄目だ。

(自分を指さして)還り人は駄目?(一同爆笑)

忌ブキ 一番駄目ーっ!

スアロー そ、そして婁震戒は論外だ。あれ? 今婁さんの声が混線したような(笑)

FM まあ、〈天凌〉は究極の社会主義国家ですよね。

(にっこり笑って)効率いいよー。

スアロー (咳払いして)おふんおふん! だから、〈黒の竜〉が契約を切るまでは、ドナティアを使って全力で黄爛の邪魔をするつもりだ。

禍グラバ 黄爛の邪魔か。ふむ何か吹っ切れたようだが、君は自分の呪いと折り合いをつけたのかね?

スアロー 折り合いがつかないということに、折り合いがついたよ。と、この先は城に入ってからの話にした方がいいな。とりあえず、僕と祝ブキさんは〈契りの城〉を目指す。もしも中で落ち合えるようなら落ち合おう。

折り合いがつかないということに、折り合いがついた。

それは、スアローの極めて正直な気持ちでもあった。

自分自身の言葉に内心うなずきつつ、もう一言、この不死商人にだけは言っておくべきことをつけくわえる。

スアロー その段階だと、僕はかなりの確率で〈黒の竜〉から見切りをつけられていると思うんだが、その時は旅の仲間として、もう一度混成調査隊チームの一員として、同じ目的に走るのもいいだろう。

禍グラバ (何度か瞬きして)これは驚いた。君はまだ混成調査隊チームのつもりでいてくれるのかな?

スアロー それだけは、僕の目的だからな。

(すごいさわやかな声で)一度結んだきずなじゃないか!

エィハ (無言で噴き出す)

スアロー あ、あそこで騒いでいる人は置いておいて(笑)

FM きょ、今日の虚淵さんはひたすらピンポイントで刺してくる(笑)

禍グラバ (少し考えて)そうだな私もラマ殿に頼まれているからな。混成調査隊チームに協力してやってくれ、と。

スアロー うん、あのセリフずるいよねー(笑)

禍グラバ ならば、もうドナティアも黄爛も関係ないんじゃないかね?

スアロー いや、これは僕の信条なんだ。責務についている以上は、その責務を果たさないと何もかもが噓になる。僕には自分の欲望がないので、信念で動く。それはあなたも同じだろう?

禍グラバ ああ、その通りだ。

FM では、そのあたりで、ミネアさんが号令をかけたのが聞こえるね。

「黒竜騎士団前進! 聖霊駆動カタパルトに火入れ! この城だけは絶対他の国に奪わせるな!」

夕映えに届くほど高く、黒竜騎士の声が響いた。

シメオンにはかなわぬものの、けしてこの女の指揮能力とて低いわけではない。

ゆっくりと動き出した聖霊駆動カタパルトと、それに合わせて行進を始めた騎士団が、怪物たちの待つ〈契りの城〉へとその武器を向ける。

スアロー (目を細めて)かっこいいなあ。じゃあ、そこで通信を切ろう。

禍グラバ 了解です。

FM では禍グラバとの通話を終え、黒竜騎士団が最終準備を始めると同時に、メリルが話しかけてくる。「スアロー様、いかがなさいますか?」

スアロー とりあえず、軍の指揮はミネアさんに任せる。僕らは〈黒の竜〉に与えられた指示をまっとうするため、誰よりも早く〈契りの城〉を目指そう。

FM(メリル) 「分かりました。こちらも、さきほど念話の護符で情報収集の確認を終えました」

忌ブキ 情報収集?

スアロー 例の件か、聞かせてくれたまえ。

FM 判定自体は修正込みでかなりの達成度が出ていたので。「婁震戒についての調べ物でしたね?」

エィハ ああ、そんなことを!

FM(メリル) 「もっとも、多くの情報は以前と同じものです。暗殺者であること、元々は八爪会はっそうかいの子飼いであったこと、いくつか敵の本拠の爆破指令を請け負い、それを成し遂げてきたことなどですね。が、その中に無視しがたいうわさがありました」

スアロー 噂?

FM(メリル) 「婁震戒の持っている剣についてです」

スアロー 聞こう。

主を前に、メリルはしばし思考を整理した。

「かつてその剣は、黄爛のとある将軍が持っていたものだったとか」

断片的に語られた情報を、食い違いのないようまとめていく。

あまりに荒唐無稽な話を、けして先入観をいれぬように、しかし細大さいだいらさぬように話す。

「そして、もうひとつ。その将軍が剣を得た夜、突如として狂乱したと。部下も護衛も切り伏せて、血みどろになった将軍がただひとりほうけていたということです」

スアロー 仲が悪かったのかな(一同爆笑)

FM おい(笑)

忌ブキ ああ、なるほど

(知らないふりで顔をそむけている)

FM(メリル) 「あくまで伝聞ですが、倒れた部下や護衛たちと、まるでその剣を奪い合ったかのようだったとのことです」

スアロー うーん、これまでの旅でアレを見たら駄目だって分かってるのはというか、予感してるのは、禍グラバさんだけなんだよね。

FM スアローに分かることがあるとすると、彼はずっと剣を見せようとしなかったな、というぐらいですね。

スアロー 何らかの強制力というか見せてはいけないもの、もしくは見てはいけないものという憶測は立てられるがなるほど、全員で殺し合ったか。まあ、魔剣に魅了チャームは付きものだからな。

FM ドナティアの伝説にもいくつかはあるだろうね。

スアロー ううむ、そのへんの類似例は何かで判定して分からないかな?

FM 〈※専門知識:軍事〉ですかね。スアローだと45%ありますね。

スアロー 楽勝じゃないか! なぜみんなそこで笑う(笑)。ふんっ! (サイコロを振って)60、失敗しました! 僕には全然分からないよ。メリル頼む!

忌ブキ 安定のパターンですね(笑)

禍グラバ これ、スアローはなまじ判定しない方がよかったんじゃ(笑)

FM (サイコロを振って)メリルは成功です。達成度は12なので、「婁様が執拗に見せなかったわけですから使用に何らかの制限があると考えるのが普通でしょうね」

スアロー ふむふむ、使用回数とか?

FM(メリル) 「さっきの噂ですと、まわりに無差別に被害を加えてしまうとか、あるいは本人が狂気に至る可能性がある、などですね」

スアロー ああ、しまった! ウルリーカさんとの戦いを見てた騎士に話を聞いておけばよかった!

FM もう少し前に気づいてればよかったのに(笑)

スアロー そう! ウルリーカさんの「その剣をよこせ」って言うのさえ聞いてれば!

忌ブキ あ、そうか!

スアロー ちくしょーっ。やっぱ、あのときはショックだったのかな。今になって思い至った(笑)

禍グラバ というか、さっきの禍グラバの会話で婁さんの剣について何か知らないって一言でも訊いていれば答えられたのに(笑)

スアロー いやまあ、目星がついただけでもいい。しかし、仮にそういう魔剣であって、僕が正気を失ったとして、外部からの干渉で正気を取り戻したりできるのかな?

FM スアローの持つ知識の範疇はんちゅうだと、魔術による干渉なら魔術で消去できるだろうとは、思いますね。たとえば、祝ブキさんやミネアさんの魔術になります。

スアロー み、ミネアを〈契りの城〉に連れていくのか

FM そうですね。本人は入る気満々ですが、祝ブキ、ミネア、エヌマエルの誰かは軍隊の指揮に残す必要があります。これは、シメオンのときと同様、スアローが決めてくれていいですよ。

スアロー くそ! また、こんな重大な選択かよ! いじめだ!

忌ブキ 生きることは決断するということなんですよ。

禍グラバ 今の忌ブキが言うと、重みが(笑)

FM まあ、〈契りの城〉に辿たどり着いた時点で決めてくださってかまいません。では、激突直前のシーンもこれで最後、婁に移ります。

『第四幕』

ほかの陣営に比べると、黄爛はひどく落ち着いていた。

自らの国体的象徴が戦場に降臨しているという事実は、怪物たちの恐怖以上に、兵士たちを鼓舞せしめたのだ。至宝たる麒麟船が失われても、彼らの内側にこそ依るべき支柱は屹立きつりつしていた。

歩兵も、銃兵も、砲兵も、ただ気高く〈契りの城〉を見据えていた。

そして、もうひとつ。

徐々に暮れていく夕映えの中で、死者の軍勢が前進を始めていた。

さて戦の匂いがしてまいりましたなあ。

禍グラバ できればこのターンは回ってきてほしくなかった!(笑)

FM といっても、戦争前に全員一回ずつは来るので(笑)

こちらが一番遅れてきたんで、状況はろくに分かっちゃいないんだけどね。ただ、〈喰らい姫〉なる者の手紙を真に受けるなら、今ここには島を動かすに足る勢力や個人が集まっているはず。

FM そうですね。黄爛、ドナティア、革命軍の三陣営が集まっているのは見てとれます。

婁は、くつくつと笑う。

正直、ここに至るまで、あの手紙は半信半疑だった。

しかし、あの奇怪な〈契りの城〉が現れ、これだけの軍勢が集まっているのならもはや疑いようはあるまい。

笑いが、止まらなかった。

このような身体となってから、一番に愉快なことかもしれなかった。

いかがですか、媛よ。赤竜チーロンをメインとして、その前に一皿二皿の前菜というのは?

FM(七殺天凌) 「おおすばらしいのう! 是非喰らわせておくれ。今からたまらぬ、堪らぬぞ婁」

では、そのように。

エィハ ごちそうばっかりだ(笑)

今の状況、つまりマップ上の軍勢はだいたい見えてます?

FM 見えてますね。

(少し考えて)ふむ。城は相当デタラメな形状をしているみたいだけど、ぶっちゃけ進入経路って城門以外にありえそうですか?

FM そうですね。壁を昇ったりすれば侵入は可能そうに思えます。

スアロー またスニーキングミッションが始まってしまうのか(笑)

まあ、戦略としては死人軍団を何も考えずに前進させつつ単独行動なんですが、俺自身はどのぐらい動けます?

FM 戦場のマップもヘクスでくぎられてますが、婁は毎ターン二マス騎士団なみの速度で移動できて、かつすべての地形効果を無視します。死人たちは一ターン一マスです。

スアロー げえ、なんだそのイカサマ武俠ぶきょう

禍グラバ 改めて、圧巻ですな。

ふむ、どうするかな。集団戦に巻き込まれるのは避けたい。

FM 攻撃をくらってしまうと、婁の耐久力自体はたいしたものではないですからね。では、いよいよ大規模戦闘マスコンバットを開始しましょう。スタッフの皆様、どうぞ!

Fiction Master からの一言

本当に、お待たせしてしまいました。

途中、『ワールドガイド』などを挟んだため、製作の都合上お約束していたスケジュールよりさらに一ヶ月遅れてしまいました。楽しみにしてくださっていた皆様には、本当に申し訳ありません。

さて。

ついに、第六夜のスタートです。

物語の至るべき最終夜ただし、この夜だけはあまりにも密度が高いため、二日にかけて収録させていただきました。本としてもこの話だけが、上下巻となります。第七夜ではなく第六夜の(上)(下)とした理由は、読み進めればきっとおわかりになっていただけると思います。

ドナティア軍、黄爛軍、革命軍、そして〈天凌府君〉の率いる死者の軍隊、そのすべてが〈契りの城〉へと集いました。かつて混成調査隊チームであった者たちは最後になるだろう言葉を交わし、あるいは自らの剣を握りしめました。とりわけエィハの言葉には何度となくどきりとさせられたのを覚えています。

今、戦の銅鑼は鳴らされました。

物語でおいて、最初で最後の「戦争」が始まります。

この戦争のために、スタッフも大幅に増員されました。これより始まる夜は、ゲームという切り口においてもなお豪華絢爛なものになると、お約束いたします。

どうぞ、その最後まで見届けてくださいませ。