マージナル・オペレーション

第一章

芝村裕吏 Illustration/しずまよしのり

『ガンパレード・マーチ』の芝村裕吏が贈る、新たな戦いの叙事詩が今はじまるーー!

砲撃。ひゅるひゅるという間延まのびした音。村はずれ、随分ずいぶん離れた場所で爆発している。

会社にいた頃は一度も見た事がないが、これが迫撃砲はくげきほうというものらしい。

簡易な砲という事で、発明からこちら、今でも多用されているらしい。そういえば日本でも昔、どこかの過激派が皇居に向かってったとか撃たなかったとかいう話を聞いた。

その迫撃砲が、どんどんはなたれている。盛大に、と表現してもいい。この盛大なひゅるひゅるは紙鉄砲に並ぶ戦場の音楽みたいなもので、僕はこれだけ撃てばそのうち村にも命中しはじめるなと考えた。

あるいは古代も、こういう間抜けな戦争音楽を聞きながら殺し合いでもしていたんだろうか。まあ、今となってはどうでもいい。考え事は後。もしくは前だ。

僕は耳あてをつけて、自分なりに威厳いげんを込めて言った。

「戦争を終わらせる方法については何度も考えた。今のところはうまくいっている。最後までうまくいくように、落ち着いていこう」

周囲の少年少女がそれぞれの表情でうなずく。この瞳だけは、裏切りたくはない。

似合いもしない威厳を込めようとしたのは、まったくもってそのためだけだった。僕は、フォーメーションを指示しながら、ちょっと前を思う。

まだTOKYOで、何も持ち合わせていなかった、あの頃を。

第1章 日本にいた頃

日本の新聞やメディアが紹介する傭兵ようへいという言葉は、少なくとも自称では無い。近ごろ自称では国際条約逃れのために民間軍事会社といい、コントラクターという。その民間軍事会社に僕が勤めようと思ったのは、単に失業したせいで、再び、ニートなんていわれたくないせいだった。

そう、僕はかつてニートだった。思い出したくないがるぎない事実として、ニートだった。

ニート。職業にも学業にも、職業訓練にも就いていない若者のこと。具体的には僕は、若い失業者だった。ついでにいえば、学費もなかった。所謂いわゆる負け組という奴だ。

もちろん最初からそういう存在になる気はなかった。若者は最初からニートを目指してなるものじゃない。ニートになってしまうものだ。

僕の場合、高卒で社会に出る程の覚悟もなく、大学にいける程実家に余裕がなかった。だから専門学校に行った。情報系の専門学校だった。

ラノベとゲームとマンガが趣味で、ラノベライトノベルという小説を書く程文才はなく、マンガが描ける程画力も無く、消去法の結果ゲーム作りが出来ればいいなと、専門学校へ行ったのだった。

今思えば、それがもうダメだったのかも知れない。消極的な選択の結果がベストな訳が無いのだが、当時はそんな事は思い至らず、仕方なくと頭につけた人生の選択を繰り返していた。

とはいえ、我ながら専門学校時代はがんばった。勉強を頑張ったというか、親からPCを買って貰って、それをいじり倒していた。学校の勉強とPCをいじる事は僕の中では同じ事で、実際成績も中の上くらいにはなっていた。

それで、あっという間に一年が過ぎ、僕は就職活動を行った。やりたいからというよりも、皆がやっていたから僕もやるというものだった。

そして失敗した。ゲーム業界が斜陽しゃようである事を、就職活動を始めてから気づいた。僕の成績で入れる様な所はなかった。他の業種に行けば良かったのだろうが、せっかく身につけた知識と技術だしと、ゲーム業界にこだわったのがいけなかった。

結局それで、二十歳で専門学校を卒業した時には、進路未定になっていた。かくて僕はニートになっていた。

思えばこの時、危機感を持って動けば良かったのかも知れない。

だが春休みが、あれがいけなかった。春休みと同じ気持ちのまま、僕はニート一日目を過ごし、ついでに二日目も過ごし、気づけば一年二年と長すぎる春休みをとってしまっていた。ニート生活と春休みは似ている。

振り返れば、あの頃はあれで過ごしやすかったとも思わなくもないけれど、ニートというのも大変なのだった。

まずもって、肩身かたみが狭い。

ついでに、置いてけぼり感がすごい。

置いてけぼり感は同級生だった連中と飲みに行った時痛感つうかんした。

僕はラノベとマンガとゲームの話しかしないし出来なかったが、同級生達は違った。社会や政治の話、嫌な先輩の話、残業の話、恋人の話、誰かが結婚したうわさ、そんな話題を飽きもせずに話していた。お前らそういうの好きだったっけと僕が言うと、同級生達は一様に、いや、好きじゃないんだけどねと言って笑った。

それがまあ、僕の感じた置いてけぼり感という奴だった。僕は皆変わったなと思いつつ、一方で相変わらずラノベとマンガとゲームの話しかない自分は勝ち組だと思い込むだけの度胸もなかった。

それでも学校出て数年は、自分は負け組ですよと、丁度ちょうど犬がお腹を見せるようにして、生きていた。場合によっては、お腹をなでられるように、親や同級生の優しさで生きることが出来た。

そのうち、真剣に仕事を探しはじめている自分に気づいた。

お金がないのはつらいのはつらかったが、そっちはまだ、どうにかできた。

問題なのは、そんなんじゃなかった。ニートはニートでつらいので、だったら働いても同じだろうと、なんとはなしに気づいたからだった。幸い僕は、人にあうのが怖いタイプのニートではなかった。

どうせつらいなら、両親が落胆しないほうを選ぼう。そんな訳での仕事探しだった。大した理由は、何もない。

それで、就職した。印刷所にくっついた、小さなデザイン会社だった。希望は別にあったが僕がニートをやっている間にゲーム業界はさらに縮小していて、僕ごときが入り込める余地はなかった。そんな事はニート一日目から予測出来た事だったのに、僕は何もしていなかった。

いつか良くなるかも知れないという気持ちを、怠慢たいまんと呼ぶのに気づいたのはこの頃だ。まったく僕は怠慢な人間だった。

怠慢の結果として、僕は随分遅れた社会人デビューを果たした。デビューの先は小さなデザイン会社。主な仕事はチラシのデザインだった。

仕事についたその日から残業二時間というブラック気味な企業だったが、僕は肉体労働よりはましと、自分を慰めながら仕事を続けた。

給料は安かったが、ニートの収入よりはずっといいし、元から希望金額だってなかったし、家から二駅なのはとてもよかった。頑張って仕事を切り上げて帰れば、深夜アニメをリアルタイムに見る事が出来た。

不満がなかった訳じゃない。

上司やクライアントのリテイクには、散々泣かされた。

違いますよね、元々はこう言ってましたよねと僕が反論しても、君の記憶力は凄いんだけど、腕はねえと冷笑して返されるのが常だった。

それでも僕は仕事を辞めなかった。腹は立つが、彼らの言い分は結構当たっている。チラシのデザイナーとしては、僕にはセンスがない。

記憶力については、彼らのいう物とはまた違うが、僕は過去のチラシを一度見せて貰って、その配置パターンはほとんど覚えていた。

忙しい故に、そのパターンの組み合わせで日々の仕事をこなしていたので、センスがないというのも分からないわけじゃ無かった。どこかで見た事があるデザインしか出してこない奴という訳だ。

あるいはもっと時間を掛けて、作業すれば独創性というものも出せたかも知れない。だが僕は、そうしなかった。まったく僕は怠慢な人間だった。いつか良くなるかも知れないという気持ちを、単なる怠慢と知った上で持ち続けていた。いつか、この嫌な上司は居なくなるかも知れない。そういう気持ちで日々仕事をしていた。

ところが上司が居なくなる前に、僕が入社して三年で会社がつぶれてしまった。新政府は、景気がいいと説明をしきりにしていたが、そんな実感はまるでなかったから、自分としては不景気で倒産したという感じが、一番しっくりきていた。

ニートになる運命だったんだよと思う反面、またニートに戻るのもわずらわしい。あれはあれで、気合がいる。僕はもう、三十だった。ラノベを読む数だって、だいぶ減っていた。AVも童顔より人妻とかのほうに目が行き始めていた。これが歳かと、そんなことも、思い始めていた。

それで、仕事を探し始めた。

この頃の僕は、もう怠慢ではなかった。いつか良くなるかも知れないという気持ちを持ち続けるには、これ迄いい事無かったし、僕はもう歳を取り過ぎていた。三十で無職というものには、漏れなく相応の焦りがついてくる。

仕事探しは、難航した。

だがそこまでは、予想はしていた。

年齢の事もある、景気の事もある。個人情勢も社会情勢も、いいとはとてもいえない。雇用条件はどうやっても下がるだろう。問題は下がるかではない、どこまで下がるかだ。

そんな時だった。外資系民間軍事会社の案内が目に留まったのは。検索のスポンサー枠にひっかかっていたのだ。最初は純粋な興味でうっかりクリックしていたのだが、読む途中で、ブックマークした。

目から、うろこが落ちる気分だった。給料が、三倍以上になる。年収で六百万円になるという。それでいて、肉体労働ではなかった。経験も必要なかった。PCの知識が必要で三十五歳までという、条件だった。

給料があがる秘密はリスクだった。命を失う危険。このリスクをとれば、給料が上がるというのは、盲点もうてんだった。当たり前だが確かにこれなら報酬ほうしゅうはあがる。軍人で外資となればこの国では後ろめたい事だから、それも給料を引き上げているのかもしれなかった。

僕はネットで調べ始めた。仕事の実態、勤務地、会社の評判。

賭けるのは自分の命だ。結構本気で、頑張った。

結論としては、結構うまい所を突いた絶妙の給料設定という感じだった。

死ぬ危険は、現代戦では少なかった。どちらかというと、過度のストレスからくる神経症が、問題になっていた。こっちも技術革新で随分、よくなっているそうだが。

うますぎる話、というのでもなかった。今の常識からいえば、給料は命や精神の危険の割に安かった。生涯年収という面では、定年が早い分、どっこいどっこいだ。

それで僕は、納得してこの企業の求人案内に、応募した。自殺志願者というほどではなかったが、生にこだわりがあるわけでもなかった。

テストも何もなく、少しの契約金をもらって最初にしたことは部屋の更新だった。ラノベとPCとマンガと少しのフィギア、それを帰ってくるまでの間、維持する契約。

死んだら家賃の支払いが止まり、自動で契約は切れる。生きていれば、少しの貯金をもって帰ってくる。数年働けば、国内の警備会社でも雇ってくれる“ハク”というのがつくという話だった。似合わない話だが、利用出来るなら、なんでも利用したい。

適正テスト

もう家にはしばらくは帰れないと思っていたが、世の中思う通りにいかないのはいつもの事だった。その時もそうで、案内に従って移動した先が国内どころか都内だったのでいささか拍子抜ひょうしぬけした。品川のオフィスビルだった。

拍子と一緒に気も抜けた気がする。元々同じ意味だっけ。

いずれにせよ拍子抜けしたまま、節電のせいか照明が暗くて、それで落ち着いた感じの会議室に僕と、僕と同じ様な人たち十数名が集められた。僕以外は緊張している様に見える。

僕は逆説的に、昨日までの自分がバカのように緊張していた事に気づいた。

今から面接が始まるのかも知れない。緊張を取り戻そうと、もう一度周囲を見る。十二、十三、いや十四か。誰も彼もが僕と同じ様な境遇の様だった。

食うに困って、そして生活保護を受けるには熱意や覚悟が足りていなくて、出来る仕事を選んだ結果がこうだったという訳だ。

同情したい気分だったが、同じ様な境遇の奴に同情されても嬉しくは無いかなと思って、だから黙っていた。

その内、人が来た。欧米出身の外人のようだった。アメリカなのかイギリスなのか、それともフランス人なのか、見ただけでは分からない。多分アメリカだろうと、僕は企業の国籍から考えた。

外人は、体格は立派だが体がゆるんでいて、それでいて威厳でも出したいのかサングラスを掛けていた。Yシャツにネクタイ。軍事企業とは思えない普通の感じだった。

「今日はようこそ、我が社にいらっしゃいました。アンドリューです」

明瞭めいりょうな日本語で挨拶あいさつを返すべきか迷うような挨拶をされて、戸惑う内にアンドリューは口を開いた。

「皆さんが契約を結んだのは、知っています。が、七日以内なら契約を解除する事も出来ます」

アンドリューは、会議室の十数名を見渡した後、言葉を続ける。

「心には大変な仕事です。そのせいで、七日以内といわず、あるいは契約途中で、遠い外国で契約を解除したくなる時もあるかも知れません。でも、そうなればお互い困りますよね。我が社も、貴方あなたも」

アンドリューは言う。

「そういう事が無い様に、我が社では簡単なテストを提供しています。テストは強制ですが結果を受け入れるかは任意です。契約解除を申し出てもいいですし、テストが悪くてもそのまま契約を結んだまま、我が社の契約社員になって頂いても構いません」

そこまで言って、アンドリューは口だけを笑わせた。

「ただ、心から忠告させてください。テストで悪い成績が出たら、契約を解除すべきです。皆さんがこれから行う事は崇高すうこうな使命による国防でも、民主主義と自由を輸出する事でもありません。宗教や政治的信条を我が社は問いませんし、あなた方もそうしてください。皆さんが行う事はビジネスです。ビジネスでしか無いのです」

アンドリューは気の毒そうにそう言った。実際、ここに居る人々の中で、彼だけが残念な立場にはいなかった。彼だけは同情できた、我々をこの上もなく、一方的に。

アンドリューは言う。

「日本の方は時に仕事を頑張り過ぎます。良心が痛むのに、それでも仕事を頑張る位なら、同じくらいの頑張りで、別の仕事を探してください。そっちのほうが、きっと、そしてずっと、幸せです」

アンドリューは、口許くちもと微笑ほほえませた。

「それは忘れないでください。では、テストを始めましょう」

全員は大きな青いボタンの前に立たされる。

会議室に置かれた、即席のボタンの列。ボタンから伸びたケーブルが、隣の部屋に伸びている事を僕は漠然ばくぜんと見ていた。

「この部屋の隣には、コンピューターがあります。その先にさらにインターネットがあり、さらにその先、とある国の死刑執行所の、小銃につながっています。そのボタンを押せば、ズドン。距離的に確実に殺せます」

アンドリューは静かに言う。サングラスのせいで、表情が読めない。

「テストというのはですね。このボタンを押して欲しいのです」

即座に待てよ、待てよと声をあげた人が複数いて、彼らはアンドリューから、はい、あなた方のテストは終わりです。と、席に戻された。

僕はいつ押せば良いのだろうと待っていたが、一分待ってもラチがあかないので、もう、押してもいいですか。と尋ねた後、許可を貰って青いボタンを手のひらで押した。

それだけで席に戻る事が出来た。

見ればまだ多くの人が躊躇ちゅうちょしたり、絶句したり、アンドリューにこれは本当じゃ無いですよねと、確認をしていた。

席に座った後で、僕はまあ本当の訳は無いよなと考えた。法律の事は良く分からないが日本でそういう事をやったら怒られるだろう。

その上で契約前にこういう事をやらせなかったのは、秘密保持のためだろうなと考える。中々良くできている。

「あんた、早かったな。度胸が座ってるんだな。それともバカか」

ひどく早口で熱っぽい男が、後ろから話し掛けて来る。

僕の後にボタンを押した何人かの一人だった。

最初に待てよと連呼して席に戻された人の半分は、すでに帰り始めている。彼らと会う事はもう無いだろう。

僕は人と会うのは嫌いじゃ無いが、どんな人でも大丈夫という訳じゃ無い。後ろから熱っぽく話してくる、こういう人はダメだった。僕が閉口していると、後ろの男は更に言葉を重ねてきた。

「しかしこれは効果的な予行練習だな。今回は確かにニセモノかも知れない。でも次はどうかという想像をさせられる。いずれは本当にボタンを押す時が来る。その時の事を考えろって事だ」

そんな事はわかりきっている。僕は反駁はんばくしようと思ったが、後ろの男が余りに興奮しているので、かえって冷静になれた。

この人はこの人で、異常な精神状態にあるのかも知れない。そう思えば、少しは気持ちも分かる気がする。

僕は結局、黙る事にした。面倒臭かったのかも知れない。ただ眠かった。

それもそれで、異常なのかも知れない。なんにせよテストは、企業の狙う通りの効果を表しているんだろう。

本番が来たらどうしようとは、僕は思いつかなかった。あの時からこの問題については、思考停止していたように思える。

どっちみち、テストは終わった。僕は家に帰ってカップ焼きそばを食べた。

これから一週間は暇だという。企業と、僕の両方のビジネスのために、考えろという事だろう。もっとも、僕にはそんな時間は特に必要無かった。

覚悟とかそういうのとは関係なく、仕事をしたかった。青いボタンを押す事に、深い意味は考えなかった。

仕事をする事だって楽じゃ無いが、ニートをやる程じゃない。

年齢もある。アンドリューはああ言っていたが、僕の場合、仕事は選べないと思った。

ひょっとしたらこの七日の間に、別の仕事を、青いボタンを押す以外の何かを必死に探せばどうかなるかも知れない。でも僕は、何もしなかった。もう仕事探しに疲れていた。

結局は、僕はそういう人間だったのだろう。その日に眠れなくなるとか無かったのは自分でも、ちょっとショックだったが、元から殺人事件や虐待ぎゃくたい事件がニュースで毎日TVやネットに流れていても、特に関心も無いのを思い出して安心した。

関心がないから、きっとこんな事が出来るのだろう。

それは僕の知らない僕じゃない。僕らしい僕だ。だから安心したし、またマスターベーションも出来る様になった。

七日後。僕は契約を正式に結んでTOKYOを離れる事になった。

僕に話しかけていた後ろのうるさい奴の姿は無かった。

サングラス

TOKYOを離れるといっても普通に民間航空で、ついでに言えばエコノミーだった。航空券を貰って乗り継いで、中央アジアへ。具体的な国名はまだ聞かされていなかった。

荷物をまとめ、テストを受けた品川のオフィスに行き、航空券を受け取る。相変わらずの薄暗うすぐらいというか、落ち着いたオフィスだった。

ここが民間軍事会社だと思う人も、中々居ないだろう。

このオフィスを訪れた時、アンドリューにまた会った。今度はサングラスをしていなかった。思ったより、ずっと思慮深しりょぶかそうな目だった。

思えば薄暗いのに、なんでサングラスをしていたのだろう。

「貴方は来ると思っていました。適性がある」

アンドリューは航空券を渡しながらそう言った。

どう答えたら良いのだろうとは、僕は思わなかった。喜んで良いのか、不当だと答えるべきか、そういうのには関心がなかった。僕はサングラスの事ばかりを気にしていた。

「なんで今日は、サングラスをつけていないんですか」

僕は僕の気になる事をいた。唐突だったか、アンドリューは目を開いた後、目を細めて笑いながら言った。

「目は情報の宝庫です。私の目で判断して貰っては困るんです」

なるほど、ありがとうございます。

僕はお礼を言って航空券を受け取った。

空港へ向かうバスに乗るために歩く僕に、アンドリューが声をかける。

「良いビジネスを」

僕には、一度だって良いビジネスなんてありませんでした。今後も多分そうでしょう。僕はそう心の中で言い返した。

それから早足で歩いて、首尾良くバスの最後尾座席に座ってから、僕は窓ガラスに額を押し付けながら、この業界は何かに関心がない方が向いているのではないかと少し考えた。