一途な片思い、実らせたい小さな幸せ。

プロローグ 5分前なの!

鳥居羊 原作/うたたP Illustration/wogura

大好きだから ぶちころがす、キミの為に。ニコニコ動画で大人気のうたたPの楽曲を、作詞を担当する鳥居羊自ら執筆、イラストレーター・woguraの動画オリジナルチームで贈る、とっておきの書籍化。

プロローグ 5分前なの!

【一花真柚】そもそもの始まりの場所

片思いがみのる、5分前だったと思う。ここで、つまり今。

密室でふたりきり。すごくステキな時間だけど、時計の針が進む音で、ちょっぴりずつ過ぎていくのがわかる。カチ、コチ、カチ、コチ。でも、もう少しだけ待って! あとほんの少しなの!

ベッドの上には二条にじょうくんがいる。サラサラの前髪が、少しだけ乱れている。立つと背が高いけど、今は寝ている。伏せられた睫毛まつげの下のひとみが、んでいて優しそう。実際、とっても優しい。そんなことより笑顔がとっても可愛かわいくてステキなんだけれども、今はぼんやりとしてしまって、目に光がない。でもしかたない。

真っ白いシーツの上。手錠てじょうをかけられて、頭の上のパイプに固定されている。かわいそう。だけど、もう少しだけ待って。私がすぐに助けてあげるから。介抱かいほうしてあげられるのは、今この瞬間、私だけだから。

《コカイン、マリファナ、ヘロイン、マリファナ。それにチオペンタール。過去に試されたものは、だいたい全部、効果なんてないんです。自白剤とか言ってうそばっかりです。でも大丈夫。安心してください♪》

うさぎのミミが嬉しそうに、ハミングするように、足元で言う。解説する。

《特製レシピは、LSDにバルビタールを少々、それからちょっぴり言えない化学成分を適量です。あなたの二条くんは、これでとっても気分良くなってるはずです。だから今、この瞬間、運命の時を共有できるんです。あとは、だから約束させるだけ。さあ、やってしまいましょう?》

「うんっ、私たちの大切な関係性のためだもの。約束、させればいいんだよねっ?」

私の手には、おのがある。金属製の手斧まさかりなの。

通販でミミが買ったんだけれども、ちょっぴり高かった。ずっしり重たくて、手頃で、いろいろ便利。鋭い大きな刃が、目の前で光っているのだけれど、ぼんやりとした二条くんには見えているだろうか?

「ねえ、二条くん。約束して。私たちの、本当に大切な、ふたりだけの

「あ、ああ。どういう、よくわからないけど、うん」

うなずいてくれる、二条くん。すごく嬉しい。心臓がばくばく跳び上がりそう。

《効いてる、効いてる♪》

うさぎのミミが、またハミングした。この子も嬉しそう。

大事な約束が為された瞬間に、私は金属斧を振り下ろす。おもいっきり。

ふたりの特別な関係性を創り出して、代わりに、くさりを断ち切らなくちゃ。といっても鋼鉄こうてつの鎖は切れないから、別のもので代用。

とてもキレイな手首、だけど仕方ない。一瞬で切断すれば、そんなには痛くないと思う。

ガツン。ゴツリ、ミチッ、いろんな音がして、真っ赤な飛沫しぶきが跳ね散った。

さあ、思い出して。二条くんに言い聞かせながら、私も思い出す。

ふたりの運命は、どこから始まったんだっけ? もちろん、ハッピーエンドで終わるはず。

終わりは、今、この瞬間。ええっと、そう。始まりは、たしか

【その片思い対象】同一の場所

5分前だ、と言われた。この場所で。意味はよくわからなかった。

見上げると女の子がいて、すごく可愛らしい子だ、と思うけれど、どうしてか違和感がある。名前は知っている。一花真柚いちはなまゆ。マユちゃんだ。よく知っている。いや、でも待て、なにかおかしいんだけど! と頭の中で叫ぶ声がする。

誰だ、この声は。俺だとは思うのだけれど、自分の声ではない、ような気さえしている。

ガンガン疼痛とうつうのような騒音が脳裏に響いていて、なにがおかしいのかわからない。考えることができない。ああだけど、この子の、マユちゃんの言う通りだ。耳もとでささやく声まで可愛い。カワイイ。アイシテル。うん、絶対にそう。

注射針がひじの内側にチクッと刺さって、それから囁かれて、全部まかせておけば安心なんだ、俺のシアワセはここにある、この子と一緒にあるんだ、というのがよくわかった。カチ、コチ、カチ、コチと時間が経過するたびに、どんどんわかるようになってきた。

視線を横に動かす。時計がある。時計にはコードが何本もつながっていて、それからドラム缶のようなでかい金属の円筒えんとう。ネジ止めされているところもあるし、溶接されている繫ぎ目もある。

カチ、コチ、カチ、コチ。表示されている数字が減っていく。カウント・ダウンなんだろうか。変な物体だな、なんに使うんだろう。それから気になるのは、俺の両手首を固定している冷たいぶっとい鎖で、これじゃあまるで、鎖に繫がれた犬みたいだ。起きあがることだって、できやしない。

可愛らしい女の子。マユちゃんは、ニッコリ笑顔で言った。

「ねえ、二条くん。約束して。私たちの、本当に大切な、ふたりだけの

「あ、ああ。どういう、よくわからないけど、うん」

俺はうなずく。なぜって、愛してる、アイシテル、アイシテル、囁かれて、本当のことなんてそれだけだから。大切なものは、そのたったひとつだけ。すごくよくわかってきた。5分前になって、ようやく。

巨大な斧が振り下ろされる。どこに? 俺の上? なぜ? 意味がわからな

ガツン。ゴツリ、ミチッ、一瞬でいろんな音がして、切断された。斬れた。

踏みつぶされたかと思うような、衝撃的な痛み。というより、熱さ。側頭部に、先のとがった鉄柱を突き刺された気さえする。メチャクチャな、これは錯覚なのか、両手首が灼熱しゃくねつしたみたいだ。

視線を横に動かす。時計がある。腕も転がっていた。真っ赤な鮮血せんけつだった。

そしてマユちゃんは、とても可愛い笑顔。にっこり。だから俺は、そう、愛シテル。

続きは書籍にてお楽しみください。