エレGY
CHAPTER 4-2『四年ぶりの返信』
泉 和良 Illustration/huke
「最前線」のフィクションズ。破天荒に加速する“運命の恋”を天性のリズム感で瑞々しく描ききった泉和良の記念碑的デビュー作が、hukeの絵筆による唯一無二の色彩とともに「最前線」に堂々登場! 「最前線」のフィクションズページにて“期間無制限”で“完全公開中”!
2『四年ぶりの返信』
────────────────────────────────────────
件名『時空メール』
From『ジスカルド』
日付『2007/12/21』
エリスさんへ
メールありがとう。ジスカルドです。
僕のゲームを気に入ってくれて、とても光栄です。
返事が遅くなってごめんなさい。
こんなに返事を出すのが遅れたのは、どうやら時空に隔たりがあったせいで、君のメールが僕の元へ届くのに随分と時間差ができてしまったからなんだ。
だからきっと、このメールを読む頃には、君はもう十八歳くらいになっているかもしれない。
数年後の君が、僕の事を忘れてなければいいのだが……
さて、僕はエリスさんに謝らなくてはならない。
実はこの数年の間に、僕はすごく大切な物を捨ててしまった。
そのせいで、エリスさんが望むような崇高なゲームを作れなくなってしまったんだ。
僕は、その理由を、生活のためだからとか、お金のためだからと言い訳をして、自分が本当に作りたい物を作る事に脅えていた。
更に、ジスカルドを盾にして、自分をさらけ出す事からも逃げていた。
僕は失った大切な物が何なのかさえ分からず、とうとうアンディー・メンテを閉鎖させてしまったんだ。
きっとこの事を君が知ったら悲しむだろう。
ところがある日、一人の女性が僕の前に現れた。
不思議な事に、彼女も君と同じように、僕の事を光だと言うんだ。
僕はそんな大した人間じゃない。
大切な物を捨ててしまうような、弱い人間なのに……
だけど彼女もまた、僕が何のためでもなく、ただ作りたくて作った作品達に、「救われた」と言う。
彼女は眩しかった。
彼女から感じるそのエネルギーは何だろう、と思った。
それはまるで光だ。
そう……、彼女は、僕が生み出した作品達から、僕がとうに無くしてしまった『光』を受け継いでいるんだと分かった。
彼女のおかげで、気がつく事ができた。
彼女から発する『光』の正体……
僕が捨ててしまった大切な物が、いったい何なのか……
それは、作品を作る上でとっても重要な物……、勇気だ。
エリスさん、どうか忘れないで。
きっと、君にもそのエネルギーがあるはずだから。
それを大事に胸に抱いて生きてください。
そしてもし、再び僕がそれを忘れてしまい迷うような事があったら……、僕の前に現れてその光を見せてください。
その時こそ、魔物にさらわれた僕を、君が助けてくれる時だよ。
そしたらキスしよう。
結婚は……、まだ早いからもう少し待って。
未来のジスカルドより
────────────────────────────────────────
件名『Re: 時空メール』
From『エレGY』
日付『2007/12/21』
ばーか。
ありがとう。
エリス
────────────────────────────────────────