2016年春 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2016年5月16日@星海社会議室
前回の勢いは継続できず! 期待を超える一撃よ来たれ!!
ボ、始めました。
大里石川
ずーーーん……(沈んだ顔)。
太田 おいおい! 今日は楽しい楽しい座談会の日だっていうのに、まったく気合が入ってないじゃないですか!! どがあしたんじゃ!!
石川 実は……僕の担当分が史上最低調だったんです……。
大里 同じく……。
太田 ええか、おんどりゃあ、勘違いしたらおえりぁあせんど。編集者の器に応じて作品はやって来るんじゃ! 反省するのはおんどりゃあらからなんじゃあーー!! と、怒りの倉敷弁はここまでにして、ところで、前回の受賞作『ノーウェアマン』の進捗はどんな感じでしょうか?
平林 えー、こちらは僕と石川くんが担当について、ばっちり改稿を進めてもらってます。秋ごろには本の形でお目見えできるのではないかと。
太田 楽しみですね! みなさん、ご期待ください!!
今井 今日は新メンバーの紹介もしないといけませんね。
平林 当然おもしろい話をしてくれるんだよね? ちなみにいま体重は何キロあるの?
岡部 いまは75キロですね。自己ベストタイなんですが、できれば80キロ……いや、100の大台にも乗ってみたい……申し遅れました、新メンバーの岡部朗です。
林 ちょっと待ってください。前提を話さないと、ただの〝趣味で太ってる人〟になっちゃってますよ!
太田 たしかに。岡部さんはいま、悪の編集長である僕の指令により、〝だらしない身体〟をつくっているところなんです。なぜなら! 彼はこれから〝東大式筋トレメソッド〟を実践し、そのだらしない身体を華麗な肉体につくり変えるからッ!!
岡部 『東大式筋トレメソッド(仮)』は星海社新書からこの秋出版予定です。この副担当が星海社での大きな初仕事です。
林 ついに、星海社から〝ボ〟の人が出てくるんですね。
一同 ボ?
林 えっ、知らないんですか? ボディビルディングのことを、〝ボ〟って略すんです。「ボ歴1年」とか。
岡村 いやいや、知らないし略しすぎだろ!
岡部 えー、というわけで、いまは太っている僕ですが、次の座談会のときにはボな肉体を披露できるはずです!
石川 ここまで完全に体重の話しかしてませんが、大丈夫ですか? もっと他の、たとえば前職のこととか……。
岡部 それもそうですね! 前職はIIJ――株式会社インターネットイニシアティブというところにおりました。
林 何をしてる会社なんですか?
平林 ボは知ってるのにそれは知らないのかよ!
太田 ハァ……いま我々日本人がこうしてインターネットを使えているのも、元を辿ればIIJのおかげなんですよ。
今井 現会長・鈴木幸一さんの『日本インターネット書紀』は、星海社新書や255さんの4コママンガ『お話になりません』でもお世話になっているデザイナー・吉岡秀典さんがブックデザインを担当されてますね。
岡部 そうなんです! 日本のインターネットをつくった会社から、あなたが手に取る〝次の本〟をつくるべく星海社にやってきました。よろしくお願いします!
一同 よろしくお願いします!
〝テンプレ〟談義
石川 では始めていきましょう。まずは大里さん、『クリスティーヌ物語 〜大英雄に愛された女神〜』。
大里 どれも一行レベルなんですけど、これと『竜のうまれる国』『アイージャと月の塔』『そして伝説がはじまる』の四作品についてはまとめて話をさせてください。舞台設定はどれも王道のハイファンタジーといえるもので、新味が何もないので、過去の名作を大幅にスケールダウンさせたようにしか感じられないんですよ。最初にテーマを選ぶ時点から、それで本当に勝ち目があるのかはもっと考えてほしいですね。
太田 一本くらいいいのなかったの? 『ゲーム・オブ・スローンズ』的なものとか。過去の蓄積が膨大にあるファンタジーは及第点までは届きやすいジャンルなんだけど。
大里 うーん、なかったですね。とくに『クリスティーヌ物語 〜大英雄に愛された女神〜』。1000ページ以上あるんですけど頑張って全部読んだんです。内容は、一人の姫を二人の男が取り合ったあげく魔王を倒しに行くよりも前に寝取られて、出産してから魔王と戦ったり……とにかく話についていけませんでした。
岡村 いやいや、子供をつくってから最終決戦なら『ドラクエ5』があるでしょ。
大里 そこは……そうですね。
岡村 だから、その点に関しては「ついていけない」って一概に否定もできないよね。まあ、すでにあるネタを使ってるってことでもあるんだけど。
平林 ファンタジーは〝テンプレ〟をうまく使えば、書けない人でもある程度は書けちゃうんだよね。
太田 テンプレは補助輪なんです。うまく使ってとにかく完成させる、遠くまで行くぶんにはいいんだけど、やっぱり、自転車本体がしっかりしていないとその道行きをおもしろくはできない。
大里 古典的な設定を使うんだったら、アピールできる新しさがないと商品にはならないかなと思います。
太田 ズラすってことは大事だよね。たとえば僕がいま観ている連続ドラマ『ARROW / アロー』は、言ってしまえば『バットマン』の焼き直しなんですよ。
林 そうそう、グリーンアローはバットマンほど金持ちじゃないし、強靱でもない地味なヒーローなんですよね。
太田 です。「父親の遺言を守って街を悪から救う」っていうのがストーリーラインの基本で、それは『バットマン』とほとんど同じなんだけど、でもちゃんと〝違う〟んですよ。あと、画的なアクションはゲームの『アサシンクリード』から引っ張ってきているね。いちいち物に摑まってからキックするとか……。
今井 そういう意味だと、『ゲーム・オブ・スローンズ』は、『ロード・オブ・ザ・リング』とどうズラしてるんですか?
太田 基本的に『ロード・オブ・ザ・リング』は善なる主人公サイドが悪に立ち向かっていく構図なのに対して、『ゲーム・オブ・スローンズ』は七つの国による王権の争奪戦なんですよ。だからもっと多角的で、善悪も入り乱れていて生々しい。政治的な要素が強いんだよね。……というか、『ゲーム・オブ・スローンズ』も知らないようじゃ編集者として失格ですよ! 観てる人!
一同 (誰も手を挙げない)
太田 はあ……(盛大なため息)。おいおい、これはまともに勉強してるのが僕しかいないってことだよ! みんな人生損してるよ! 今日から観ろよ!! ちなみに、『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン1の全10話はぜんぶプロローグだぞ!!
石川 それは……そのまま小説に活かすには厳しいところもありそうですね。
平林 圧縮すればいいんだよ。恩田陸さんの短篇にものすごい大長編を圧縮した「オデュッセイア」という作品があって、すごくおもしろいんだよね。
太田 とにかく、『ゲーム・オブ・スローンズ』はファンタジーものの最高峰と言っていい出来なので、みなさんも観てみてください。話を戻すと、『ARROW / アロー』や『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいに換骨奪胎があればいいんだけど、テンプレ的な王道の話を王道のままに描こうとすると総力戦にならざるをえないんだよね。だから、小説の場合は書き手に異様に才能があるか、映像だったら桁違いの予算を投入できるかしないと傑作をものにするのは厳しいと思う。投稿者の人には、テンプレで勝負するならそういうことを考えてほしいし、逆に、我々は「テンプレだな」と初見で思っても新味がないか探しながら我慢して読まないといけないんです。
石川 次は『文理選択』、林さん。
林 これはちょっとおもしろくてですね! 作中の人類は生まれたときに、人は文系か理系かに分かれるんです。で、理系は『X-MEN』的な特殊能力、文系は人の気持ちを操るとか精神系の特殊能力をそれぞれ持ってる。そんな世界で、ある日突然、理系の文系ホロコーストがはじまる。
一同 (笑)
太田 おもしろそうじゃん。
林 最後は、文系と理系のヒーローとヒロインが結ばれます。
今井 テンプレですね。でも、テンプレにひと工夫ってのはこのことですよね。
太田 そのとおりだね。
今井 文系理系っていう言葉自体は永遠の論争だし、キャッチーですね。
林 でも、これはキャッチーさの瞬間風速が大きいだけなんですよ。文系、理系っぽさがキャラクターや物語に大きく絡んでこない。
平林 そもそも、文系と理系って日本特有の問題だし、きっちり分かれないよね。文系の学部で、理系的な研究している人はいくらでもいるわけで。
林 そうですね。単に言葉の上のおもしろさだけじゃなくて、その周りまできちんと練り込んで再挑戦してほしい!
若さってなんだ
石川 『嗚呼、夜の帳が降りる』、僕が読みました。前回も送ってきてくれて少し取り上げたんですが、前に400人の妹が襲ってくる話を書いた人って言ったほうがわかりやすいですかね。
岡村 あの人か。いいペースだね。
石川 過去の回も前回も、論理が破綻しているとか、理屈が独りよがりだってことが言われてるんですが、今回も同じコメントをせざるをえないんです。ロジックに自己満足してしまっているので、その自己満足をそのまま読まされても、このレベルでは読者は盛り上がれないと思います。ペダンティックに書こうとしているけど、浅さが透けて見えてしまう。ひょっとしたら前回の座談会を読まずに書いたのかもしれないけど、大事なことを言っているので、次はぜひ読んだうえで根本のところから考え直してほしいですね。
平林 ハイペースもいいことなんだけど、まだ若いんだから、次々書かずに1年くらい大学の図書館に通って、ひたすら本を読むといいんじゃないかな。
林 次の『起こることみんな気にくわない!』、これは熱をもって紹介したいです! 1年ほど前に外山恒一氏インスパイアの小説を書いてきて私が推した人で、直接会ってお話ししたこともあります。今回は長い怪文書つきです。
大里 怪文書?
林 「林さんへ」というお手紙ですね。
一同 おおー。
今井 それで、どんな話なんですか?
林 今回は彼の幻想私小説です。リアルでの大学生活への「クソが!」っていう鬱憤が品良く書かれていて、前に感動した熱っぽさはまったく衰えていなくて、めっちゃいい! ……と思ったんですけど、残念ながら商品からは二、三歩遠のいてる。でも書き出しはすごくいい。獄中記という設定で、大学に放火するところから始まるんです。
平林 本当にやってたらヤバいね。これは本人を知ってるとおもしろいってやつなのかな。
林 この人は闇を抱えた森見登美彦さんになれるんじゃないかという思いは、今回で確信しました。大学生活のすべてを恨んでいる森見さんになれるんじゃないかと。ただ、前回はまだエンターテインメント性があったんですが、今回はなかった。
岡村 うーん、これだけわけのわからないあらすじは久しぶりに読んだよ。林さんの言うとおり、「変な才能を感じる」というのは少しわかる。
林 切れ味は高まってるけど、ゴールからは遠のいてしまった感じですね。
太田 こういう人は何を読めば参考になるのかな。
林 前は、架神恭介さんの『よいこの君主論』を薦めましたね。「おもしろかったです!」って手紙には書いてあるんですけど、なんにも反映されてねえ!
一同 (笑)
問題作ふたたび?
石川 次は今井さんで『夢中毒』。あっ、これ、僕が星海社に合流する前ですけど、「ひよこ」でセンセーションを巻き起こした人ですよね。
林 あれか! タクシーの中で「ひよこさん?」とか延々会話するやつ!
一同 ああ!!!!!
岡村 「緑森々」さん! 思い出した。
太田 今度のはどんなやつだったの!?
今井 この小説は地の文しかないんですよ。現実と夢がどんどん混濁していって、自分がどちらにいるのかわからなくなるっていう話です。自動販売機にお金を入れようとしたら投入口がないとか、そういう些細な変化が次々に起きていきます。でも……読むのが……しんどい……。
平林 (原稿をめくりながら)これはなんなんだろうね……。諸星大二郎さんだったら16ページで描いてそうというか……。
今井 不気味さはやっぱりあるんですけど、「ひよこ」があれだけ衝撃的だったのに比べるとインパクトはそこまでだし、語るべきところも少なくなってしまってるなあというのが正直なところです。いや、決して「ひよこ」がよかったというわけではないのですが……。
平林、怒る
平林 この『墨の門』は、墨子が主人公の小説です。(メガネをクイっとしながら)僕は墨家の研究をしてたんですよ。なので、これをウチに送ってくるというのは、この僕に対する挑戦だなと。
一同 いやいや、知らないでしょ!
平林 まあ、詳しく語りだすと2時間くらいかかると思うから、手短にいきます。まず、墨子を描いた小説には酒見賢一さんの『墨攻』という名作があるんですが、これは渡辺卓という研究者の説を忠実にノベライズしたものなんです。渡辺卓さんが唱えていたのは「城邑を守る傭兵的墨家集団論」なんですが、実は墨家が城を守って戦った事例は、史料的には一例しか検出できず、しかもそれが説話なので、現在は渡辺氏の唱えた「傭兵的墨家集団論」はちょっと難しいのではないかと考えられているわけです……。
一同 (ぜんぜん手短じゃねえ……)
平林 ……ただ、酒見さんの時代に、渡辺さんの遺稿集に目をつけてそれを小説にしたというのはおもしろかった。「傭兵的墨家集団論」は一般に知られてなかったですし。ひるがえって、この『墨の門』はその劣化コピーなんですよ。それを今やられても、何もおもしろくないし、何よりオリジナリティがない。しかも、墨子が女だったみたいな設定になっていて……歴史上の人物を女にするのはもうやめよう!
石川 平林さんが激怒している……。
平林 ここ20年くらいの新しい研究をまったく参照していないので、すごくつまらなかった。前回も言いましたが、歴史ものをやるときは、最新の研究動向をきちんと勉強しましょう。
新人岡部も怒る?
石川 『荒野の半漁人(サカナ)』、岡部さん。
岡部 これは復讐の物語なんですよ。主人公は、殺されてしまった恩師であり想い人でもある大賢者カテジナの復讐のために、仇敵を探す旅をしています。
太田 「カテジナ」はヤバいね……。
岡村 ヤバいですね。多分だんだん性格変わっていくよ。
今井 年齢的にもダイレクトにそこでしょうね。
岡部 冒頭部分の芝居がかったセリフ回しはとてもワクワクしました。ただ、主人公がどこまですごい存在なのかがよくわからなかったんです。この世界には一般的な魔法と、主人公と仇敵の二人だけが使える「魔想」というものがあるんです。魔想というのは、あらゆるものを連想できる別のものに変換する技なんですが、それが普通の魔法と比較されないので、すごさがピンとこないんですよ。
林 ルール説明をしてくれてないってことですね。
今井 まさに前回もその話をしましたよね、『ハリー・ポッター』の例で。
岡部 あと、主人公自身も仇敵に呪いをかけられてしまい、魚の姿に変えられてしまっているんですが、なぜ魚なのかもイマイチわからなかったんですよね。魚になっても容姿が醜くなるだけで、作中に出てくる街ではとくに迫害も受けずに受け入れられちゃうんです。それと、この作品はとある新人賞を三次選考で落ちた作品なんですよ。僕は、この人はおもしろいものが書ける人だと思うんです。だからこそ、新しい作品を書いて送ってきてほしかった! そこに対する怒りがあるんです!
太田 僕は、個人的には、別の賞に送るのはいいと思ってるんですよ。取りこぼしはたくさんあるはずなので、「この賞でなら勝負できる!」と思ったら送ってきてもらっても他所に送っても構わない。作品の未来が第一です。だから僕たちも、取りこぼしには本当に気をつけなきゃいけない。
岡村 少なくとも星海社FICTIONS新人賞については、規約上は問題ないですからね。
石川 『ノーウェアマン』も、メフィスト賞選外から受賞に至ったわけですし。
太田 岡部さんがそこまで言うんなら、一度連絡とってみたら? 岡部さんはその場で怒りをきちんと伝えて、新しくいいものを書いてもらうのがいいんじゃないですかね。
岡部 はい! さっそく連絡してみます!
手紙はもういらないよ……
大里 『MACHINE HEART 警視庁捜査一課ロボット犯罪捜査班』ですが、これも手紙がついてるんですよ。
平林 手紙多いな! もうさ、無駄に手紙をつけてくるのは読まないようにしたいよね。
大里 なんて書いてあるかというと、「石黒浩以降のロボットSF、あるいはアトムの呪縛からの解放」!
石川 石黒浩さん以降の「ロボット」と言い切ってるところがすごいですね。石黒さんを持ち出すなら、ロボットとアンドロイドの違いとか、こだわらないといけない気がするんですが。
大里 そのとおりで、この作品はロボットやアンドロイド、サイボーグ、人間の扱いがすごくふわっとしていてよくないんですよ。どういう話かっていうと、『攻殻機動隊』と『PSYCHO-PASS』の設定を合わせたような感じです。
林 それだけ聞くとおもしろそうな感じはするのにね。
大里 警視庁のロボット犯罪捜査班のメンバーがみんなサイボーグで、主人公の女性だけが人間なんです。
平林 『特捜エクシードラフト』みたいな感じなんだね。赤だけ人間みたいな。
大里 すみません、わかりません!
平林 そっか、これが世代差か……(しみじみと)。
大里 起こるはずのないアンドロイド犯罪が起こって、銃を突きつけて人間かアンドロイドかを判断しながら、犯人を探すんです。
今井 そこは、まんま『PSYCHO-PASS』だね。
大里 この人が描くキャラには魅力があるんですよ。でも、技術の扱いがあまりにも雑すぎる。
林 SF描写が緩いってこと?
大里 そうなんですよ。未来の話なのに、2016年現在可能なことしか出てこない。「ドローン」とか「AR」とか、名称もそのまま使ってしまっている。SFと銘打つなら、現実を超える想像力が感じられるものを読ませてほしかった。それに、ラスボスである犯人の動機として「機械に心はあるか」ってことが出てくるんですが、石黒さんの研究の「人間の心とは何か」というテーマが、ものすごく矮小化されて使われてしまっているように感じるんですよ。
平林 そもそもアトムってそういう話じゃなかったっけ?
林 全然呪縛から逃れられていないですね。
大里 どんなテーマでもそうですが、とくにこういった最先端の研究と物語が直結するようなものは、きちんとした勉強なしには絶対に書けないと思います。
力はたしかに感じるが……
石川 次は『ア・サマー・アサインメント』で、今井さんですね。
今井 以前のものを林さんが絶賛していた人なんですが、これは僕はダメでした。前のほうがよかったと思います。
林 前に「友達屋」っていう設定で送ってきてくれた人で、そのときは私が上げたんですよ。
一同 あー!
今井 それは設定も目を引くものがあったんですけど、今回はタイトルのとおりひと夏のちょっとした出来事が淡々と語られるだけで、突出したものを感じられなかったんですよね。以前はその後どうなったんでしたっけ。
林 次の原稿を見よう、ということになったんですけど。今井さんの反応を見るとちょっと難しそうですね……。
石川 『メタボリック・バンパイア』、これは林さん。
林 タイトルのとおり、デブなバンパイアのお話です。バンパイア=イケメンというパブリックイメージを逆手にとった作品です。
石川 この人は前に『夕焼け背負ったハゲヒーロー』という作品を送ってきてくれて、そのときは僕が読みました。上げるほどではなかったんですが、悪くなかったんですよ。ハゲでうだつの上がらないおっさんがいい味を出してました。
林 この人は、冒頭でおっと思わせる設定を作るのが上手いですね。地味なものをキャッチーに仕立てる才能があると思います。今回は医者のバンパイアが主人公で、魑魅魍魎が来る病院で働いてるんですけど、そこにエクソシストが来ちゃってさあ大変というのが大枠です。エピソードとしては、非常食として飼っていた人間に愛着が湧いちゃって、俺はこいつと生きていく! みたいな話が出てきたり。
太田 おもしろそうじゃん。
林 ただ、そこからドライブしないんですよ。期待の上をいってくれないというか、予想を超える展開がないんです。
石川 キャラは書ける人なんですけどね。
平林 話を転がすのが下手なタイプなんだろうね。テーマがないんだよ。キャラクターは書けても、そのキャラクターがどうなるという話が決まってない。主人公にひとつ大きな課題を与えないと、何百枚も読ませるのは難しいよね。
林 思いついたことをそのまま書いちゃってる感じがします。持ち味とキャラ設定の力を活かしつつ、座談会の内容をふまえて書いてもらえれば、もう2、3レベルが上がるんじゃないかなと思います。次もお待ちしております!
腰を据えて渾身の一作を!
石川 次は今井さんで、『魔王が勇者に願うこと』。
今井 この人はこれが8回目の投稿で、毎回「一行!」って感じだったんですが、今回は改善が見えます。とくに入りがとてもよくて、はじめの20〜30ページはすごく引きこまれました。冒頭は主人公がいきなり自殺しているシーンなんですが、実は、めちゃくちゃ上手い自殺の演技なんです。それが主人公の趣味で、だから周りはみんな慣れちゃってるんですね。先生もそれを知ってて「気をつけろよー」程度の注意で済ませちゃう。で、彼はオカルト部に所属していて、ある実を食べて自殺すると別の世界に行けるという噂の調査中、というところから物語が始まります。
太田 おもしろそうじゃん! 僕、さっきからこればっかり言ってるな……。
今井 でも、途中からは捻りがなくなっちゃってるんです。今回の冒頭部分が褒められたということも活かして、もう1、2回書いてみると、もしかしたら、今後化けるかもしれない。
太田 もう何回も送ってきてる人が気をつけなければいけないのは、書くことが惰性になってしまうこと。それはもはや書くこと自体が目的になっているかもしれない。
今井 ここまできたら、一度腰を据えて、渾身の一作を書いてみるのがいいんじゃないでしょうか。
石川 8回目の投稿ということでは、僕が読んだ『灰被りのゲンティアナ』もかなり惜しかったんです。
平林 僕が前に時間があれば読んでおいてくださいって上げた人か。
大里 前回は僕が読んだんですが、ちょっと地味で一行にしたんですよね。これはどんな話なんですか?
石川 主人公は探偵で、暗殺者の少女の話し相手になってほしいという依頼を受けます。少女は、自分が犯した殺人を他人に事細かに話すことで超人的な能力を得るという制約を持っていて、だから殺人の話を主人公にするんです。その、淡々としながら絶妙に嚙み合ってるような交流の描き方はとてもよかったし、ヒロインもかわいかった。ボリュームもちょうどよく収まってました。
大里 ここまで聞くと、かなりよさそうな感じがしますね。
石川 この人に対して初投稿の時点から一貫して言われているのは、あまり大盛り上がりしないということなんです。今回はその点もだいぶ向上していたと思います。ヒロインのような未成年の暗殺者は他に何人かいて、彼女たちの間には仲間意識と緊張関係があるんですが、その子たちが一人ずつ殺されていく。最後に、その犯人であるもう一人の暗殺者とヒロインが対峙する。盛り上がりそうですよね。でも、犯人はこういう形で出てくるんだろうな、ということが予想できて、結局そのとおりになっちゃうんです。
今井 やっぱり予想は超えてきてほしいよね。
石川 そこが、今回物語的にあと一歩足りなかったところなんです。それさえクリアされてたら上げてました。リーチはかかっていると思うので、これで最後だという意識で、こちらも腰を据えて書いてほしいなと。次もぜひ読みたいですね。
自分なりのフィルターが必要
石川 ここからは、みなさんが上げた作品ですね。まずは『ゆかりさんとわたし』。
岡部 時間があったら読んでおいてほしいとして上げた作品ですね。
林 あらすじをお願いします!
岡部 生まれながらに重病を患っているゆかりさんは、家と病院でしか生活できず、声も満足に出せない状態です。そのゆかりさんのために、主人公のみぃちゃんは、学校で様々な謎を見つけては、ゆかりさんのもとに持っていきます。みぃちゃんの持ってきた謎をゆかりさんが解くなかで、二人の幸せな時間が流れていくというお話です。全編みぃちゃんのですます調の語りで進んでいくんですが、その読み心地がとても気持ちよくて、みぃちゃんとゆかりさんのかわいさがすごく伝わってきました。
林 端的に言ってしまうと、上遠野浩平さんの「しずるさん」ですね。この人のいいなと思ったところは、自分だけが知っている友達のところに行って、秘密を共有するところ。
平林 それ、「しずるさん」じゃないですか。
林 そうなんですよ。褒めれば褒めるほど「しずるさん」になってしまうんです。
岡村 これはしずるさんを意図的にオマージュしてるの?
今井 知ってて書いてると思います。「ちゃん」呼びもそのままですし。
岡部 僕が「しずるさん」を読んでいなかったばっかりに……勉強不足で申し訳ありません……。
林 でも、「しずるさん」を知らなければ上げるのも頷けるんです。ミステリ部分は弱いですが、文章はお上手だと思います。
平林 先行作品に影響を受けるのはいいことなんだけど、やっぱり自分なりのフィルターを通してきちんと解釈して、そのうえで出力しないとダメだよね。
太田 それができていれば何も問題ないんだよね。ミステリは紳士の伝言ゲーム。過去作品への敬意ある引用と挑発で出来上がっているジャンルであり、その手際を味わうジャンルだと僕は考えています。
岡部 もっと、この人ならではの違う作品も読んでみたいです。そういう一本をお待ちしております!
いいものではあるけど地味
石川 次は平林さんで『図書館猫は銀河の彼方の星に住む』。
平林 まずあらすじを説明すると、主人公はサッカークラブのセレクションを受けるためにアムステルダムに渡るものの、現地で車に轢かれ、サッカーができなくなってしまう。轢いた相手は私設図書館を持っていて、そこに滞在することになる。図書館に住んでいる謎の少女と、少女の父親であり図書館の創設者でもある人物(ただし失踪している)、その弟子で図書館の現所有者、もう一人の弟子、日本にいる主人公のいとこの絡みで物語は進んでいく。テーマとしては、書誌学や図書館情報学、知的財産権の問題なんかがメインに扱われていて、正直な話かなり地味です。ものとしては上品で作りこまれてるし、キャラクターも悪くないんだけどね。売れてないし目立たないけど自分は嫌いじゃないよ、みたいな作品。
岡村石川 わかる。
太田 僕は今回、これが一番いいと思ったんですよ。商売にはならないんだけど、いいものだから、売れないことを承知で出してもいいかなという気にならないこともない。ただ、あまりにキャッチーさがないよね。新人のデビュー作って意味だと、もっとファンファーレ感が欲しいんです。
大里 これをエンタメとして読める人は少ないですよね。
岡村 たとえば、デジタル化した情報を無料で提供すべきか否か、みたいな話は個人的にはすごくよくわかるんだけど、はたして大勢の読者が共感できるかというと微妙だよね。
平林 そうそう。いや、わかるんだよ。僕も論文を探してて機関リポジトリで読めたりするとすごい楽だもの。でも、そんな話を誰が欲しているのかという。
石川 逆に言うと、このテーマでここまで読ませるというのは、確かな筆力がないとできないですよね。
平林 僕が読んだなかでは、この作品は間違いなく一番頭がいいし、偏差値が高いです。頭のいい人がきちんと調べて書いているのが伝わってきて、あるべき姿のひとつだとは思う。ただ、行儀がよすぎるんだよね。バカが描けてない。主人公は脳筋のサッカーバカかと思いきやそうでもなくて、都合よく賢くなるし、精神年齢も急に高くなる。
岡村 セリフがめちゃめちゃ頭いいんだよ。地の文で書けばいいのにっていうところまで言わせちゃってる。
平林 その大人びてる感じが、青春ものとしての弱さに繫がってると思う。感情の機微や葛藤が薄い。あと、主人公が立場上傍観者だから、読者としても共感するポイントを作りにくい。
岡村 主人公が図書館の人たちと絡むもうちょっと強い理由が欲しかった。自分がこの境遇に置かれたら即帰ってると思う。
林 なんでしれっと加害者の家におるんや! って感じですよね。
太田 傍観者だったのが、たとえば女の子をすごく好きになっちゃって一生懸命頑張る、みたいな王道展開もないんだよね。青春ものとしてはたしかに弱い。ミステリとして読むにはネタも弱いんですよ。これは長編じゃなくて短・中編ネタ。200枚くらいで書けてたら佳品だと思うし、60ページくらいのマンガになったら鮮やかだと思う。
石川 作中で議論される二項対立が、ちょっと当たり前すぎるかなというところが僕は気になりました。自由か公共か、みたいな。あと、日本でのいとこのパートはいらないかなと。
今井 主人公が完全に空気になっちゃうんですよね。
平林 一番恋愛フラグが立ちそうだったのがあのいとこなわけでしょ? せめてそこをもっと書けばよかったのにね。
岡村 ワールドライブラリとか電子図書館とか、出てくるガジェットにはわくわくするものがあったんだよね。
石川 サッカーネタもちょっと笑いました。アヤックスが好きなやつはだいたいバルセロナも好きとか、イニエスタのワインとか。ヒロインが、情報の重さで潰えてブラックホールになるんだ、っていうところも、詩的で好きでした。
太田 じゃあ、石川さん一回連絡とってもらっていい? この人にはまた送ってきてほしいよね。
石川 わかりました!
キャラは魅力的なだけに……もったいない!
石川 『Psychedelic Punktic Pagan's Pain…!! (サイケデリック・パンクチック・ペイガンズ・ペイン)』。声に出して読みたいタイトルですね。
岡村 ややこしいんだけど、すごくシンプルに言うと、この世界には「狂人」っていう、狂っていて特殊な能力をもった人たちがいる。その「狂人」に認定されると、「ピンク・パーク」という街に閉じ込められる。そこで起こる群像劇、っていうのがこの話ですね。僕がこれを上げたのは、今回読んだなかでは圧倒的にキャラが立ってたから。他の人にこういうキャラを書けって言っても書けないと思うんですよ。それくらいキャラがいい。
林 この人のキャラは、読んでいてパッとビジュアルが浮かぶんですよね。
岡村 そうそう。例えば小松崎類さんにイラストを描いていただけたらすごいのができるんじゃないかと思った。もっと言うと、主人公のジークさんと爆弾魔のヒロイン・エリカ、この二人が僕はすごく好きだった。エリカが打ち上げ花火を作ったら、母親が吹っ飛んで生け垣に仰角45度で突き刺さったとか、めちゃめちゃ笑いました。だからこのバディだけで最後まで突っ走ってほしいくらいだったんだけど、途中から次々に別のキャラに焦点が移って、物語もあっちこっちいっちゃうんだよね。それが最後に集約されてるかというと、そうでもない。
太田 はっきり言いましょう! それはプロットをきちんと考えていないからです。「プロットを作らずに書いた」って自慢気に書いてあるけど、だからダメなんです!
岡村 それに尽きますね。
平林 自分の持っている素材のなかから、繫がりそうなものをその都度つぎはぎして書いてる気がする。だから、読めるんだけど必要のないパートが多いんだよね。
岡村 無駄な品のなさもいらないですね。
石川 この人が以前送ってきてくれた『紅紅櫻と狂騒言語』は僕が上げてるんですよね。そのときは、入れ子構造すぎて読めないので、もっとシンプルに、せめて二軸か三軸くらいでやってほしいってアドバイスしたんですけど……反映されてる感じはないですね。分量が大幅に減ってるのはいいんですが。
平林 というか、もっと偏差値を下げずにわかりやすく書いてほしいよね。前回から大幅に偏差値が下がってると思うんだよ。シンプルにっていうのはそういうことじゃない。あと、本来なら独自の固有名詞を考えるべきところに、一般的な言葉を当て込んでいるのも気になる。「狂人」とか「バベル」とかね。力を入れないといけないところを借り物で済ませちゃうのはつまらない。
大里 太田さんは以前、『Mr.&Mrs. スミス』を観るように言ってますね。
岡村 そのことは書いてあって、「『Mr.&Mrs. スミス』を目指したら、まったく違うものになりました」って。
林 こんな話じゃあないよ! 『Mr.&Mrs. スミス』は!
太田 うーん、うまく伝わらなかったのかな。成田良悟さんの『バッカーノ!』を読んで、なんでこれは人気があるのか考えてみるのもいいかもしれない。道具立ては似てるわけだし。いまのままでは味が濃すぎるんですよ。ひと口飲めば十分って感じになっちゃってる。
林 逆にさっきの人は、〝すごくいい白湯〟って感じですね。優しい味。
岡村 この人の作品は、1年後に作品を振り返ってみてもちゃんと覚えてるくらい良いキャラクターが出てくるんですよ。それだけにもったいない!
太田 ちょっと力が入りすぎてる気もするんだよね、この人。もうちょっと言うと、ある種の素直さは新人さんには絶対に必要です! 「素直になれ」って人はよく言うけど、これにはふたつ理由があって、ひとつはやっぱりなんだかんだ言って素直にしていたほうが人間は伸びやすいってこと。もうひとつは、素直にやって伸びたほうが、周りからその伸びを認めてもらいやすいってことなんです。素直じゃない人は、圧倒的な成果を出さないと認めてもらいにくい。可愛くないからね。もちろん、僕らに認められたらそれでいいかっていうとそんなことは決してないんだけど、やっぱりまずはデビューしてナンボなわけじゃないの? 僕らはきちんと原稿を読んだうえで〝対話〟しているわけで、ここには一定の信頼関係があると思うのよ。書き手は、僕らの言っていることを聞くべきところはきちんと聞いて吸収して、そうして送ってきてくれたものに我々はきちんと応える。そこはお互い大事にしていきたいよね。
◯◯っぽいおもしろさ、ではダメ
石川 ラストです! 『山羊の降る夜に会いましょう』。
平林 簡単に言うと、森見登美彦さんと村上春樹さんを足して、水で薄めた作品です。
林 薄めちゃった! でもわかる!
平林 デビュー当時の森見さんって、いままで見たことのない品のよさがあったし、嗅いだことのない香りがしたんだよ。でも、この作品はぜんぶ知ってる。三本くらい柱を欠いた森見さんだし、地の文の雰囲気だけ抜いてきた春樹さんなんだよ。唯一、稲沢のパートだけいいんだけど……。
石川 でも、これってやっぱり『四畳半神話大系』の小津ですよね……。
平林 そうなんだよ!
林 さっきの「しずるさん」と一緒で、おもしろいなって思うところは、あの作品っぽくておもしろいなあ、なんですよね。
平林 たとえば、森見作品では京都っていう舞台背景がすごく効いてる。だからこの人は、東京を舞台にして、土地の色をしっかりと出して書けばいいんじゃないかな。それと森見さんの場合、不可思議なことが起こったとしても、その因果関係がきちんと示されてるんだけど、この人はそこを放棄しちゃってるよね。いわゆる「夢の理論」で押し切っていて、ストーリーを紡ぐ技術を使えてない。
太田 僕も、この作品がダメなのはそこだと思う。端的に言って、他人の夢ほどどうでもいい話はないんですよ。それが延々と続くからおもしろくない。読みながら「あー、『インセプション』のブルーレイ観たいなー」とか思ってたもん。『インセプション』は、他人の夢をあれだけカッコよく描けるんだという稀有な例ですからね。
石川 これ、基本的には同じ定型の繰り返しで話が進むじゃないですか。『四畳半』も繰り返しというかループものですけど、「もちぐま」を受け継いでるだとか、きちんと話を接続するギミックがある。そのことに途中で気がついても気持ちいいし、最後にカチッとはまっても気持ちいいし、そもそも一本一本がおもしろい。これは同じようなものが同じようなリズムで繰り返されるだけなので、退屈なんですよ。それでもまだ読めるのは、この人に描写とかのセンスがあるからだとは思うんですが。あと、若さがあまりいい方向に作用してないというか……妙に鼻につくというか……。
平林 なんかイライラするんだよね。この路線で行くなら、全「文系」から愛されるようなものを目指さないといけないと思うんだけど。この人自身を感じる部分がすごくつらい。お前自分が趣味いいと思ってんだろ、みたいなところがある。
林 やめて! やめてあげて!
平林 出てくるバンド名とかも、僕からすると気恥ずかしくなるようなものばっかりなんだよね。世代が一回り以上違うから仕方ないのかなとも思うんだけど。
今井 キャラ名のネタ元もすぐにわかっちゃいますしね。アヒト・イナザワとか向井秀徳とか。仕込まれたネタに赤面するのは30歳以上じゃないかと思うんですけど、そういうときってどうしたらいいんですかね?
平林 そもそも、世代感が出すぎるような固有名詞はよくないんだよ。春樹さんはほとんど世代感がないじゃない、ビートルズはもはや共通のものなわけだから。そこを、ナンバーガールとかくるりとかゆらゆら帝国でいいのかってことだよね。まんま向井秀徳なキャラも出てくるじゃん。
大里 そうなんですよね。セリフまでそのままで、ちょっとやりすぎかなと。
石川 一番年齢が近いのは僕ですけど、それでもちょっと差を感じますね。「YUMEGIWA LAST BOY」をあんなに……(顔を覆う)。
大里 恥ずかしげもなく……(顔を覆う)。
太田 でもまあさ、そういうもんだよ、青春って(しみじみと)。
大里 あと思ったのが、話が都合のいい方向にしか進まなくて、衝突や葛藤を生むような存在がいないんですよね。
平林 そうそう。たとえばこれ、ヒロインのしゃべり方がキモいじゃん。
太田 ……えー、まあ、それが味になって……る?
林 太田さんがいつになく優しい……!?
太田 俺はいつだって優しいよ。
平林 いや、あの語尾はやっぱりない! それで、どうしてそういうことになるかっていうと、全部主人公のフィルターを通してヒロインを見ちゃってて、ヒロインを相対化したり、弱点や欠点を設定したりするような視点が存在しないからなんだよね。
岡村 緑萌さんが上げたのに、誰よりも緑萌さんが辛口ですね。
太田 この人はどうすべきなんだろう?
平林 まず、森見さんと春樹さんが好きなのはわかったので、そのうえで、自分の作品を書いてほしいですね。
座談会を終えて
岡村 今回はやや低調でしたね。
林 前回が激戦だっただけに、どうしても落差は感じますね。
大里 岡部さんは初参戦でしたが、どうでした?
岡部 どの作品も、楽しく読ませていただきました! 編集者としての僕とご投稿いただいたみなさまとのぶつかり合いだなと実感しております。これからも、ご投稿いただいた作品に全力でぶつかっていく所存です!
太田 投稿サイトが隆盛しているいま、数字では見えない、機械的にすくい上げられない何かをすくう場としての意義が、この座談会には出てきているし、出していかなければと思います。ある種の集合知に対する、〝個の好み〟というアンチとして。全メンバーが1作品以上下読みできるくらいの投稿作が集まる限り、この座談会はずっと続けていきたいですね。我々ももう一度ガシッとふんどしを締めて、いいものを世に出していきましょう! お疲れ様でした!
一同 お疲れ様でした!
一行コメント
『ウェルベリン・トップショウ』
描写が拙く、その場面で何が起こっているのかわかりません。読点の使い方もおかしいです。(石川)
『ブリガドン』
最初のセリフが「ぷぎーっ!」ではじまるなど、冒頭からキャラクターのテンションが高いのですが、設定・言葉遣いが古く、ついていくことができませんでした。(今井)
『炎のもえるところに』
勢いだけは感じられましたが、何をどう楽しめばいいのかまったくもってわかりません。そもそも娯楽作品として他人に読ませる気がないのではないかと思うほどです。(大里)
『フラワーエデンの王子』
すべての文章が説明的すぎます。その不自然さが終始気になりました。(大里)
『十円銅貨ノスタルジア 全年齢版』
あらゆる部分が陳腐で、読むのが苦痛でした。(平林)
『トランスランナー』
なかなか話が見えてこないのでストレスを感じる。長い。(平林)
『火恋の山 -ヒレンノヤマ-』
キャラクターに入れ込みづらい表面的な展開が続き、キャラクターに入れ込めないまま唐突な幕引きを見せるので、まったく心を動かされることがありませんでした。(石川)
『春秋(ハルアキ)』
色々事件は起こるのですが、ちらかっていて散漫な印象を受けました。読ませどころはどこなのか、プロットの段階から整理してみましょう。(林)
『不正の城サンドリヨン』
全体の半分近くになってから事件が起こるのでは遅すぎます。気を利かせているつもりの表現がたどたどしいのも読み味を落としています。(石川)
『サンフラワー・クレイドルガーデン』
作中冒頭のキャラクターによる演説もそうなのですが、作品自体も正しいことを高尚に言うよりも、短くハッキリわかりやすく意志を伝えるほうが、聞き手・読み手の心に残ります。冗長すぎます。(岡村)
『レプリカ日記』
設定には可能性があると思ったのですが、その設定をきちんと考えぬき、消化する前に書いてしまっている印象を受けました。(石川)
『マリオネットの涙』
作品冒頭で淡々と状況説明をされてしまうと、物語に興味を持てなくなってしまいます。また、不要な場面で誤解を招くような記述をするのは(例えば、苗字が同じ2人の人間を、一方は苗字で、もう一方は名前で記述するなど)、混乱するのでやめましょう。(岡部)
『人形怪奇〜夜ノ月琥珀のその虫は〜』
怪異ものや異能ものは先行作品がごまんとありますので、後発するには目新しい切り口が必須です。それがなかったです。(岡村)
『Blip』
台詞回しが古いと感じました。また、合間に挟まれる軍備や戦況の説明が、淡々と地の文でなされてしまうため、物語にのめり込み続けることができませんでした。読者に楽しんでもらえるような書き方を考えてみてください。(岡部)
『『日本武尊(ヤマトタケルノミコト)』その波乱に富んだ生涯』
調べたことが咀嚼されていないため、小説として読むのは辛かった。長い。(平林)
『神様はそこにいる』
設定にオリジナリティがなく、キャラクターにも共感できませんでした。また、長すぎるとも思いました。(今井)
『アポロ』
主人公とヒロインの恋愛(主従関係)を主軸として謎を展開させた方が、読み進める動機を生みやすいんじゃないかと感じました。(岡部)
『アクアリア』
出だしはとてもよかったです。ただ、全体的にいかんせん盛り上がらないので、構成も含めてどうしたら読者を引き込めるか、強く意識してください。(石川)
『クハンダ』
怪獣と超兵器の正体がわかった瞬間に、某有名な映画作品が思い浮かびました。この設定にはおもしろさを感じたのですが、現文明の作り込みの浅さやキャラクターの薄さが目立ちました。(岡部)
『朱雀門千枝子の暗殺成功』
誰をどう楽しませたいのかまったく分からない。エセ平安時代を舞台にすることに何か意味があったんでしょうか?(平林)
『亡テキ戦記 〝らのくに〟の恋』
ルールとゴールが明確に提示されないせいで、なんでもありな物語になっています。キャラも設定も多すぎてごちゃごちゃしているので整理しましょう。(大里)
『EXEの代償』
難しそうな語句や言い回しを多用していますが、本当に意味をわかって書いているのかなと思いました。固有名詞のセンスもこのままではキツいものがあります。(石川)
『エスメイヤージュ』
三人の追いかけっこは、映画の逃亡劇を思わせて、おもしろかったです。ただ、その前段階がシリアスな展開だっただけに、コミカルな映像がとてもミスマッチでした。また全体としても、前半と後半でちぐはぐな印象を受けました。やりたいことを絞り、どう見せたいかを考えて演出するとよいと思います。(岡部)
『月下の十三湊』
とにかく地味で、読んでいて退屈でした。こういった地味な舞台を選ぶ場合、なにか仕掛けが必要だと思います。(平林)
『ラビリンス・オブ・シャドウ・アンド・パープル』
文章はまずまず整っているのですが、とにかく長い。この4分の1の枚数で同じだけの内容をもった話を書けるようにしてみてください。(石川)
『銀翼のアルチザン』
描写以前の事実説明がリズム感なく延々と続くので、エンターテインメントとして読むことが困難でした。(石川)
『彼女がなぞった三角形の真ん中』
ツッコミどころの多い動機、人間関係で物語が繰り広げられるため、最後まで集中できませんでした。(林)
『チャルニス=チャッカス夫人と一人の伴侶』
文章も物語も端正です。ですが、整いすぎているせいで読者を狭めてしまっているので、わかりやすい訴求力が盛り込まれたらなおよくなると思います。(石川)
『こんな弟クンは欲しくありませんか?』
キャラクターの台詞や地の文の描写がかなり古い印象を受けました。あとこの内容に対してこの総ページ数は明らかに多すぎです。(岡村)
『夜光の舞台』
いただいたお手紙のご希望に添えず、申し訳ございません。(岡部)
『辺獄のエインヘリヤル』
ある程度のレベルには達しています。ただ既存の作品のコラージュのような設定なので、もっとオリジナリティを出して欲しいです。(林)