2014年秋 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2015年1月14日@星海社会議室

待ち人来たらず!沈んだ空気で座談会はスタートするが……?

お正月なのにしんみりモード

太田 いやーーーー!! 新人賞座談会が仕事始めっていうのがもう星海社の毎年の恒例ですね! お年玉みたいな原稿はありましたか!?

今井 お年玉っていうより、極端に当たりの少ないおみくじ引かされてる感じですよね

基本、凶か末吉しか入っていないけど、たまに気まぐれみたいに大吉が入ってる鬼畜みくじ。

岡村 年末、クリスマスあたりから除夜の鐘聴きながら年明けまでずーっと読んでるから「俺、なんでこんなことしてるんだろう」って思うとき、ある。

平林 年末年始、移動中もずっとクソみたいな原稿を読むの、本当に辛かったよ!

太田 うーーん、この雰囲気ふんいきだと「待ち人来たらず」って感じですね。僕も読んだ限りだと今回はパワーを感じなかったな。まぁ、腐らずやっていこうぜ!

平林 まぁ、僕はたとえ原稿がダメダメでも座談会を面白くする準備はしてますけどね。

太田 さすがアシエディからエディターに昇進した男は違いますね!! 期待しています!
さて、座談会を始める前にお知らせしておくことがあります。星海社設立からのクルーであった山中さんが年末で星海社を離脱することになりました。すごく寂しいですね

今井 まぁ僕たちはフリーランスでやっているので、コルクに行った柿内さんみたいに企画を持って来てくださる可能性は十分ありますよ。

太田 そうだね。また一緒に仕事できるかもしれないよね。

岡村 しかし編集部の人事の歴史が全部わかる新人賞座談会ってすごいな。

太田 えっ? 何言ってんの!! これは講談社ノベルスからの美しき伝統なんだよ!! だからこそ我々は責任を持ってこの場に立つべきなんです! よし、俺も『クラッシュ・オブ・クラン』片手でやるのはやめて全力で座談会するぜ第13回新人賞座談会始めるぜッ!

一同 (一番まじめじゃねぇ!)

繰り返しになるけれど

太田 じゃあ始めますよー! 『Virtual Future(仮想未来)』岡村さん!

岡村 一行。

太田 次! 平林さん『天照す神の鳥』!

平林 あかん! 一行。

太田 今井さん、『エンジェル・オーバードーズ』!

今井 もちろん一行です。データはちゃんと添付して送るように!!!

太田 『性春時代』、林さん。

一行です!

太田 ちょっとちょっと皆さん、やる気あるんですか? 一行の作品でも面白く語るのが僕らの仕事ですよ!? 仕方がないですね、たまには僕から気合いいれますよ! 俺のターン! 『カース・オア・ギフト』!! この作品のあらすじはですねぇ、ある日を境に世界中からテレキネシス能力を持った子ども達が発見される。能力は15歳頃から発症し、18歳頃で消滅する。社会は彼らを「ヤノフスキ症候群」と呼ぶようになった一行ッ!!!

岡村 はぁ〜〜(深いため息)。

各担当に必ずひとつはこんな設定の作品ありますよね。

太田 まず定型から全く抜け出せてない! ここから面白く書くことは可能なはずなんですけどね。エルフとかドワーフが出てくるファンタジーと同じで、親しみやすい設定である分、ある程度のレベルまでは書けちゃうんですよね。でもデビューするならばそれ+αのアイデアが絶対に必要で、この作品にはその「突き抜けたもの」がなかったかな。どうしよう、僕も全く定型的なことしか言ってないよ! 平林さんみたいに面白いこと言ってない!!

岡村 いや、別に大喜利じゃないんですから。仰っていることは正しいですよ。

太田 平林さんは面白いネタを用意してるって言ってたからさ

平林 (不敵な笑み)

今井 これも座談会でずっと言い続けていますけど、もっと自分の立場を生かしてほしいですよね。僕の担当で『地獄の図書館へおいでませ!』があって、これは大学図書館職員の方が図書館の話を書いているんですよ。この作品は残念ながら一行ですが、少なくとも読み始める前には「僕の知らない何かが書かれているんじゃないか」ってテンション上がるわけですよ。

太田 主婦なら主婦、プログラマーならプログラマーの話。基本は、自分の得意分野を生かすべきだよ。漫画だけど、清野せいのとおるさんの『東京都北区赤羽とうきょうときたくあかばね』だって参考になると思う。

今井 今の流れすごいデジャブなんだけど、この話、前の座談会でもしましたよね?

流石に13回もやったらもうネタ切れ

岡村 違うよ! 毎回違うこと言ってたら逆に説得力ないだろ!!

太田 そう、僕らは一貫して同じことを言ってるんだよ。そして基本、それでいいんです。代わり映えしないことをひたすらに言い続けるしかない。

太田、怒濤の三連続斬り

太田 『獅子如願』。このタイトル見てどんな話だと思う?

今井 歴史ものですか?

太田 これねぇ、話がまんま『デスノート』なんですよ。

今井 このタイトルで!?

太田 夜神やがみライトみたいな天才じゃなくて、馬鹿な女がデスノートを手に入れたらどうなるかって話なの。恋人とか会社の同僚とか、自分の半径5m範囲の世界だけでデスノートが使われるんだけどさ、こっちからしたらそんな奴ら全員死んだとしても興味ない。

実生活で何か嫌なことでもあったんでしょうねえ。

太田 極端な話、『デスノート』でもいいんですよ! でも『デスノート』を超えるアイデアや新味が一点はないとこのアプローチはだめですね。それにしてもデスノートは月みたいな崇高な理想を持っている人間に拾われて本当に良かったと再認識できたね! はい、次!

『リヴィング・ウィンク・ウィング』。次も太田さんです。

太田 これなー。キャッチコピーに「バッドエンドから半年、次の恋愛の話をしよう」って書いてあるから、ギロッポンでお洒落しゃれな恋でも始まると思うじゃない。

岡村 「ギロッポン」って言うセンスがもうお洒落じゃない

太田 (かまわず)それがさあ、「聖戦の決着から半年、主人公のディルはかつての仲間達に裏切り者として追われていた」って何でこうなるんだよーーー!!

ハハーン、心を癒やしてくれる美少女と出会っちゃったりするんですね!

太田 そう、その通り! こういう話にさ、429枚も書いちゃうんですよ。著者だって、絶対に書いてる途中でまずいって気づいているはずなのに、何でこんなに書いちゃうのかな?

岡村 本当に面白いって思って応募したのか、とりあえず書けたから送ってみたのかはこの人に聞いてみないとわからないですね。

太田 それにファンタジーは難しいよ。たとえば星海社FICTIONSの『レッドドラゴン』は本編で語られていない設定が一冊の本になるくらいあるんですよ!? まぁ、目分量でファンタジーを書けてしまう人もいるけど、そうじゃない人が大半だと思いますよ。ファンタジーは基本、取材ができないからイージーに書き始められるけれど、緻密な世界構築を考えられない人はファンタジーを書かないほうが無難な気がする。

岡村 100ある設定のうちの10%くらいを原稿に落とし込まないといけないのに、新人賞の大半の作品は設定の90%くらいを原稿で語ってしまっている。だから薄さが際立つんですよ。

太田 そこがプロとアマの違いだと思います。上遠野かどの浩平こうへいさんとかさ、今までのキャリアで100作品近く執筆されているはずなのに、全ての設定がちゃんと繫がっているからね。同じ時間軸で別の物語はこうなっているとか、このキャラクターの三世代前にはこういうことがあったとか、上遠野さんの頭の中には全部あるんだよ。

岡村 『ブギーポップ』の最新刊は1巻に登場したキャラクターが再登場して話の中心になるんだけど、このキャラの初出、16年前だからね。

太田 すごいよね。しかしたぶんこの人は自分の作品に登場する帝国の1000年前の歴史や1000年後の歴史については全然、言えないと思う。自分が壮大な世界設定を考えられる人間かどうか見極めることも必要だし、それでも書きたいっていうのなら作家としてちゃんと汗をかかないといけないのではないでしょうかって言いたいですね。
最後のこれはちょっと面白かった。『モノクロームの蒼穹』。かつて、火星人が火星で人工運河を建設しているっていう説を唱えた天文学者がいたんですよ。その後、現実の世界では望遠鏡が進化して、よりクリアに火星が見えるようになってその説は否定されたんですけど。しかしこの作品世界ではまさに火星人が人工運河を建設していて、太陽系のそれぞれの星には豊かな生態系が確立しているという世界観。観測した物によって世界が作られますって話なわけ。

岡村 なるほど。

太田 太陽系の中には「自分たちだけが孤独に生きている」という想像力のない生物がいるかも。僕たちはそうじゃなくて良かったですねって話なんだけどそれ以上の話はない。以上ッッ!!

一同 えーーーー!

岡村 ありますよね。面白い設定だけど、それ以上のものがないパターン。

太田 これも350ページもあって長すぎるんだよ。筋のいいSF作家ならこの話をきっと短編で書くし、最低限のSFの知見のある人ならこのオチは予想できる。このアイデアを生かすなら、「この短い文章の中でよく納めたな!」って形にするか、全く別のジャンルからの驚きを引っ張ってくるか、それとも出て行くかしないと難しいと思う。当たり前のものを当たり前に書くだけじゃ、新人としてデビューさせてもねえ。もはや古典ですが、『涼宮すずみやハルヒ』みたいにハードSFを現代学園ものにしちゃうんだ! みたいなテクニックや飛躍が必要だと思います。僕からは以上です。

今井 その、「無駄に長い」問題ですけど、書いていて一瞬でも「この章いらなくね?」と思ったら絶対に消したほうがいいと思いますね。

太田 僕も文三時代からずーっと新人賞をやってるけど、新人賞で「ここの描写をもっと長く書いてくれたらいいのにな〜」ってなったことはほぼ一度も経験がありません。長くて評価がよくなることは万に一つもないので、皆さん迷ったらガンガン削ってください!

常連さん、散る。

太田 これは常連さんの作品ですね。『Narrative Conflict』、林さん。

舞台がアメリカのロサンゼルスで、登場人物が全員アメリカ人なんです。主人公が過去に自分をいじめていた同級生たちと偶然遭遇して、その場の思いつきで仕返しをするんです。主人公の気持ちはそれですっきりするんだけど、後日いじめっ子たちは何者かに惨殺されてしまう。主人公は容疑者にされてしまい、無実を晴らすために謎を追うというお話なんですけど面白いのが、台詞せりふがぜんぶルー大柴おおしばさんみたいになってるんです!

平林 トゥギャザーしちゃってるの?

こことかちょっと見てください。

俺の感情は七つの大罪の一つによって完全に支配されている。つまりは、Anger(怒り)だ。俺はリズリーの腕を摑むと同時に捻り上げた。ヤツが痛がる暇も無く、High school(高校)時代に覚えたJUDO(柔道)の技である背負い投げを華麗に決める


かつて俺をいじめ抜いてくれたリズリーのクソッタレファッキンボディが、スパイラルを描きながら宙をぐるりと回転したのだ

太田 Oh

全編こんな感じ(笑)。日本人が想像するアメリカの典型的な風景や人物が並べられているので、全てが作り物っぽくてスベってる。

平林 この人、海外文学とか読んだことないんじゃないかな

岡村 ギャグで狙ってるにしてもこれはないな。

オチもよくある多重人格オチでした。あと根本的な問題ですけど、この物語、舞台がアメリカである必要がまったくない!

太田 この人、6回も応募してきてくれてるんだよね。本当にありがたいんだけど、一度他流試合してみたらって気がするね。出版社によってカラーってあるし。

岡村 うちに応募して受賞しなかったけど、他社で受賞された方もいますしね。その人に合った出版社を探すのも戦略だと思います。

太田 だって『ONE PIECE』だって「マガジン」で連載していたら大ヒットしなかったかもしれないし、『進撃の巨人』だって「ジャンプ」で連載してたらこれほど推されることもなかったと思うよ。自分の作品を一番評価してくれる場所を見つけるのも才能です!

昭和初期とバブル時代から来た原稿

あ、これ面白そうですね。『クノイチ48よんじゅうはち帝都の闇に散る』。

平林 48の読みは「フォーティーエイト」だろうが!

ス、スイマセン

平林 はいっ、というわけでこのタイトルでみなさん「どうでもいい」と思いましたね? これ、81歳の方の作品です。

今井 すごい! 新人賞史上最高齢の投稿者じゃないですか?

平林 この人、まず経歴が面白い。「文芸首都ぶんげいしゅと」の元同人なんですよ。といって、「文芸首都」知ってる人いる?

岡村今井シーン

平林 保高徳蔵やすたかとくぞうが主催していた名門同人誌で、北杜夫きたもりお佐藤愛子さとうあいこ中上健次なかがみけんじなどを輩出しています。ここ、テストに出ます。で、「文芸首都」が解散した後に残った勢力が作った、「散文芸術さんぶんげいじゅつ」にもこの人は参加していたみたい。現在はご自分の作品を『ブックウォーカー』でちょろちょろ売っていたりするハイテクおじいちゃんなのですがまぁ古い!!

太田 聞きましょう!!(満面の笑み)

平林 これどうしたもんかなぁ。とりあえずこことか読んでほしいんですけど。

スサマジイ。

筋肉だ。

アブナイ。


拉致された総理はここに監禁されているのかしら。

ブジかしら。それにもまして、コノトキメキ。

敵の気配を全身にかんじる。コノトキメキ。

竹原の体にふれているわけではない。

それでもからだがカッと熱くなる。

わたしはクノイチ。

平林 若いものを書こうとしてことごとくすべってる感じが非常に辛くて、ほんとつらみしかない

今井 これはどうして48なんですか?

平林 女子高生クノイチがいっぱい出てくるの。

今井 ガハハハハハ。

岡村 「ゲッ。すげえネエチャンだ」これすごいね。

「東京にはパーヘクトな闇はない」。

今井 ああ、いいなぁ。

平林 名台詞のオンパレードなんだよ!

岡村 いや、この面白さは違うでしょ!

平林 でも、ちょっと考え方を変えたらどうかと思うのよ。なぜなら、この人は81歳なんだよ! 年齢を踏まえて実人生に照らし合わせた小説を書いたほうが、絶対小説としてものになるとは思う。でも、きっとこの人はこういう作品を書いていたほうが楽しいんだよ。

一同 なるほど。

平林 とはいえ、10ページも読めばこっちは十分なんですけどね。(原稿を投げ捨てる)

今井 ちょっ!

岡村 しかし、本当にこの方はこういう作品書きたかったんですかね。うちが若者向けの作品だからそれに合わせて書いたんじゃないですか?

平林 そんなことないよ、『ブックウォーカー』で売ってるものを見る限り、書きたくて書いてるっぽい。

今井 それにしてもハイテクなおじいちゃんですよね。データもちゃんと付けてくれているし、『ブックウォーカー』に作品発表するとかなかなかできないですよ。

太田 そこは素晴らしいよね。生涯現役、美しいです。

平林 「文芸首都」に属していた方の原稿を読めるとは思ってもいなかったですね。しかも送られてきたのがこの作品っていうのがうん、非常に味わい深いなと。当時の「文芸首都」の話なら、僕は個人的に読んでみたいですが、レベルとしてはなだいなださんの『しおれし花飾はなかざりのごとく』くらいを要求します。以上!

私もこのタイミングで発表したい作品があります。『当方、雨女につき。』これ2000枚あった作品です。

太田 あれかー!! 原稿が膝の高さくらいまであったやつだ。

平林 このタイトルでよく2000枚も書けたな。

先ほどの『クノイチ48』と同じ問題で古い! いいですか、次の台詞は平成生まれの女子高生の会話です。

でも、メールのやりとりはしてるんでしょ。そういう相手がいるだけでもいいじゃん。そうだ。いっそさ、キープしつつポストも探してみたら?
職場だって100%オンナの園だしね。仕事関係でさ、アマ〜イ出逢いそのものがないんだよ。

太田 バ、バブル〜〜!!

こんな台詞、平成のナオンは言わねぇよ!!

平林 と、トレンディやな

岡村 これ90年代の話を書いてるんじゃないの?

冒頭の1行目に「わたしは、1990年9月10日に生まれた。」って書いてあります。主人公の女の子の設定も、好きな歌が森高千里もりたかちさとの『雨』って渋すぎ。平成生まれは森高千里、知らないでしょ。

太田 と、当時の森高千里はすごかったんですよ〜。

書いた方が45歳だから、自分が学生だった頃の記憶で書いたんでしょう。あとね、ひとつ許せないことがこの原稿にはあってですね。

太田 林さん怒り心頭ですね。

この原稿のラスト、「チャン、チャン♪」って締めくくられているんです

一同 (失笑)

平林 2000枚の後に?

そう、2000枚の後に。こういうふざけた締め方はやめたほうがいいです。馬鹿にされてると受け取る人もいると思います。

太田 お疲れ様でした!

パワー系鉄道小説

太田 お! 16歳からの投稿ですね。『中四制度鉄道科目 指宿日向の物語〜約束〜』。

今井 たぶん彼自身がハードな鉄ちゃんで、どうしても鉄道の話を書きたかったんでしょうね。2010年代の後半に都市直下型の大地震が起きて、15万人も亡くなってしまったと。ここまで被害が広がった原因は、放置自動車だったんです。みんなが車を放置して避難しちゃったから救急車や救助車両が通れなくて、人的被害が広がってしまった。

太田 それ聞いたことあるわ。リアルな設定だね。

今井 そこで政府は何をしたかというと、車を廃止します。

一同 えええっ!!

今井 その代わりに町に路面電車をひきまくります。その結果、町に電車が溢れているという世界観です。

鉄ちゃんにとってのユートピアだ!

今井 めちゃくちゃだけど、僕はこのパワー系なところ嫌いじゃないです(笑)。

岡村 前半すごい納得したのにその後の飛躍がすごい。

今井 さらにですよ、電車を増やしまくった結果、運転手が足りなくなります。

太田 まぁ、そうなるわな。

今井 最初は専門学校を作るんですけど、それでも足りなくなって、中学の必須科目に「電車」が入るようになります。

一同 えええええ??(困惑)

今井 だから中学の学習期間が1年増えて、中4まで勉強しないといけなくなったというところから物語が始まるんですよ。

平林 電車好きすぎる!

今井 電車に関しては異様なほど細かい。例えば学生の会話なんですけど、

「謝るなって。寝ていた俺のほうが悪いんだから。それに、お前が答えを言ってくれなかったら俺は、総駅数三四、路線距離三七.九km、軌間きかん一三七二mm、直流一五〇〇Vって、答えてたところだぞ」

一同 長い!!

太田 「だぞ」じゃないよな。明らかに。しかしこの突き抜けた感じは嫌いじゃない。

今井 愛が溢れすぎておかしなことにはなっているんですけど、自分が好きなことを書こうとする姿勢はとてもいいなと思って。一応ロジックを通そうという努力も見て取れますし。また是非応募してほしいです。

読んだ先に何があるのか

平林 これは僕が挙げた作品ですね。『エンドの青い鳥』。

今井 僕の地元の出身者で、平林さんの大学の後輩。何か因縁めいたものを感じますね。

平林 そうかなー。あらすじを説明すると、主人公の彼女が妊娠すると。だけどお腹の中にいた赤ん坊が忽然こつぜんと消えてしまう。この事件をきっかけに2人の関係は険悪になります。

今井 そらなるでしょ。

平林 そんな中、隣町がバラ色の光に包まれて、ほとんどの人が消えてしまうという怪現象が起きます。主人公の恋人もこれで消えてしまう。主人公はアパートの隣の部屋に住んでいる元ミュージシャン・有生アリオと共に、この謎を追うというのが頭の方の流れ。旅をしながら子どもが消えた謎とか、有生の人生に何があったのかが明らかになるというお話です。文章も悪くないし、読み味もいいし、この人センスあると思う。ただ問題なのは、主人公が空気すぎる。むしろ相方の有生の方が人生にドラマがあって、キャラが立っている。脇のキャラクターもいいんですよ。事故でドラムを叩けなくなってDJに転向した元バンドメンバーとか。有生にロックを教えたバンド兄ちゃんがお坊さんになって数十年ぶりに登場して、物語を動かすキーマンになっていたり。面白いけど、物語を進めるのが有生と関係のある人間ばっかりで、これ主人公いらなくね? ってなる。

主人公がただの傍観者になっているということですね。

平林 もういっそのこと有生を主人公にすればいいのに。他に誰かアドバイスあります?

今井 新人賞だと音楽ネタって大体スベってることが多いけど、この作品はうまく扱えていたのが印象的でした。

平林 ああ、へたな音楽ネタはイラッとするよね。この人は自分の趣味を押しつけるでもなくて上手だったね。今井君、同じ滋賀県民としてもっとないの!?

今井 うーん。主人公の影が薄い理由のひとつだと思うんですけど、この物語を通して何が言いたかったのかが見えてこなかったですね。

平林 主人公のしたいことが明確にないから、有生がいるんだよね。傍観者だとしてももう少し工夫できるはず。ただ、明確な瑕疵かしがいくつもあるにもかかわらず、僕は楽しく読めましたね。

太田 じゃあまた送ってくださいってことだね。

平林 ですね。

今井 ちなみに、僕が推薦した作品『月は何も語らない』も、同じ課題でぶつかっている感じでした。ざっくりあらすじを言うと、霊が見える主人公とボランティアで除霊している探偵の物語。面白いのが、法力とかで除霊するんじゃなくて、この世に未練を持っている地縛霊を詭弁きべんで論破すると除霊できるんです。これをこの世界だと、霊の持っている「矛盾理由パラドックス」を『解体』するって言うんです(笑)。

岡村 いいねぇ、格好いい厨二センスだよ。

今井 冒頭のトリックも考えられていて、文章も上手い。キャラクターも魅力的。さくさく読ませるんだけど、長い。読み切った先に何があるかっていうと何もない。

太田 そうなんだよな〜〜〜。この人何が言いたかったんだろね。妖怪ウォッチ厨二! とか目指してたのかな。

平林 テーマがないんだよね。そういう作品は多いよ。

太田 厳しめの評価になりましたが、この人は文章を書く力はある。今回、この人は単にただ格好いいキャラがただ格好いいことをするお話が書きたかったのかもね。『デュラララ!!』みたいな。成田なりたさんの場合、キャラが対峙しているだけで爽快感があって面白いもんね。

岡村 この作品は新人賞の中では巧い方だけど、成田さんは異次元すぎますよ。

今井 今回設定やキャラクターにそって書いた印象があるので、次ははじめにテーマを考えて応募してみてください!

今井、キレる

太田 『魔法少女は魔球を投げる。そして少年は野球を語らない』、これタイトルやばいね。

今井 これ書いた人、僕と林さんの後輩なんですよね。しかも林さんは、この人と同学年。

太田 おっと! コレハキタイデキマスネー!

今井 そんな彼が送ってきたのは野球ものです。主人公は中学時代に野球で全国優勝するくらいの才能がある選手で、彼の所属していたチームは「神の9人」って呼ばれてたんです。ここ完全に『黒子くろこのバスケ』(笑)。でも天才主人公は高校に進学したら野球部には入らず、野球同好会に入ってしまう。ある日、野球部と同好会が部室の所有権をめぐって試合することになって、たまたま転校してきた魔法少女に助っ人をお願いするという話です。

ネタが大渋滞してますね。

今井 文体もきっつい。1ページの中に同じ接続詞が4回も出てきたり、ここらへんは学歴の差が出るのかなぁと思った次第です。

太田 まぁ林さんもこういうミスしょっっっちゅうしてるもんな!!

スミマセン! スミマセン!!

今井 ただ全体のテンポはいいから最後まで読めちゃうんですよ。

主人公はこの後、甲子園を目指したりするんですか?

今井 ない。主人公が成長するとか一切ない。

岡村 そもそもこれギャグを狙ってるの? これまでFICTIONSでギャグの作品出したことないけど。それをあえてやるなら相当のセンスがないと難しいと思うよ。極論、ページをめくる度に笑いが起こるようじゃなきゃね。

今井 そもそもですけど、部室って部活動のためのものなので、野球部が部室を要求するのは正当な主張ですよね? もう根本的におかしいんですよ! 野球部は遊びで野球やってねーーーから!

いちご大福を狙え!

太田 次の作品は林さんの大好物きましたね!

『広瀬ざくろはゾンビになりました。』。キターーーーーゾンビものキターーーーー!!! えっとー! 家出女子高生が何者かに襲われてしまい、ゾンビとして復活します。自分を殺した犯人を探偵と一緒に捜します。一言で言うと、「私をゾンビにしたのは誰?」ってお話です。

太田 面白そうじゃん!

テンポもいいし、ヒロインのキャラクターも楽しい。けど、女子高生×ゾンビっていうのが出オチにしかなっていない気がするんですよ。探偵と一緒に生前のざくろちゃんの軌跡を辿っていくんですけど、親からは見捨てられてるし、援交してるオッサンにも愛されてないし、可哀想な過去が明らかになっていって。ページを捲る度にざくろちゃんは魅力的になっていくけど、主人公の探偵はどんどん薄くなっていって。この子、ゾンビじゃなくて幽霊でもいいじゃないかって考えちゃうんです。

太田 厳しいね。

この作品を読んで、ゾンビものについて真剣考えたんですけど。やっぱゾンビ以上に生きている人間を描かなきゃだめだと思いました。超王道の話ですけど。じゃないとゾンビってただの一発ネタにしかならないんですよ。その点をふまえると、生きてる人間である探偵の影が薄いっていうのは致命的だと思った次第です。

太田 ゾンビって簡単に見えて難しいよな。嚙まれたら感染するとか、ゾンビのお約束を守らないとゾンビに見えないし、お約束しかなかったらゾンビファンは納得しなかったりするじゃん。

仰る通りで、もうゾンビ単体だけでは押し切れないと思います。何かとゾンビを掛け合わせることで新しいものを作るしかない。

平林 ナチスとゾンビとかね。

映画の『ナチス・ゾンビ』は、「逃げるもの」だったゾンビを主体的に「殺すべきもの」に変えたところが新しかった。ナチでしかもゾンビとか「1匹残らず殺さなきゃ!!」って気持ちになるからゾンビ以上に人間が猟奇的なところが新鮮(笑)。日本だったらテレビ東京系列の『玉川区役所 OF THE DEAD』とか。ゾンビが憎くて憎くて仕方がない人もいれば、人間として扱いたい人もいて、非ゾンビの人間が衝突することでドラマが生まれてるんです。

岡村 確かに確かに。

結論を言うと、ゾンビ単体じゃもう無理。

太田 いま良いこと言いましたね! 何と何を掛け合わせるのか、そこに新味があるはずなんですよ。江戸時代とゾンビってたぶんもうあるわけじゃないですか。だから、たとえばもっと狭く狙って「大奥」限定にするとか、そこは奇をてらわないとだめだよね。

大奥オブザデッド! 海外でウケそう!

太田 いや、もうあるかもしれないけどさ、考え方としては正しいと思うんだ。

岡村 ですね。市民権を得た設定って何かを掛け合わせるしかないですよ。

太田 要は「いちご大福」を作らなきゃだめんだよ!! 突飛な組み合わせだけど、意外とおいしいこれは正解! みたいな。

いちご大福理論で言うと、もうひとつのゾンビ作品、『リボルバー・オブ・ザ・デッド』はかなり惜しかった。これゾンビ×西部劇なんです。しかもキャッチコピーが「グラインドハウスより愛を込めて」!!!

太田 超面白そうじゃん!!!

舞台はですね、もう人間よりもゾンビの方が多くなったパンデミック後の世界。ゾンビには屍肉しにくを喰らうスカベンジャーと生きてる人間を捕食するプレデターが存在していて、スカベンジャーのゾンビ少女ロザリィは腐りながら灰色の日常を送っていたわけです。そこにムチムチナイスバディのセクシーゾンビ・アリサが松風まつかぜみたいなゾンビ馬に乗ってやって来るんです! 彼女は生き残った人間を狩ってゾンビに売りさばく、人間ハンター! ロザリィはアリサと出会うことで、干からびていた人間性を少しずつ取り戻し、アリサは相棒をゲットして生き残った人類を狩りまくるってお話です。私はとっっっても楽しく読ませていただきました。この作品、タランティーノ監督が映像化したらカルト的な人気になるんじゃないかな。

今井 え? じゃあ何で挙げなかったの?

そこが問題で。映画の『キル・ビル』や『デス・プルーフ』ははちゃめちゃで面白いけど、ノベライズしたらその面白さって伝わらないと思うんです。

太田 それは林さんがゾンビものに対して好きであるがゆえに評価が厳しくなってるだけなんじゃないかなぁ。

それはあるかもしれません。でも仮に商品として売り出しても、映画オタクにしか響かないと思うんです。しかも映画オタクは「俺の好きな○○に似てて面白い」という評価しかしない。

岡村 お、この投稿者山梨県民じゃん。

平林 山梨だしさ、武田二十四将オブザデッドとかいいんじゃない?(適当)

岡村 僕、それだけで高評価しちゃいますね!

太田 やっぱさ、まだまだゾンビものの組み合わせってあるんじゃないの!?

この人にアドバイスするとしたら、人間側の目線も描くべきだと思います。今のテイストだとギャグや映画オマージュが95%、いい話要素5%くらいしかないので。『キノの旅』みたいに旅先でトラブルが起こるとか、切ない思い出を作るというのはどうでしょう。今回初投稿ということですので、是非またご応募ください!

受賞に値する煌めきとは?

太田 『パントマイム・ヒーロー』これは岡村さんが推したやつですね。

岡村 ミステリーなんですけど、『刑事コロンボ』みたいに先に事件の結果が提示されて、その過程を穴埋めしていく展開です。

太田 いわゆる倒叙とうじょものですね。僕は『刑事コロンボ』シリーズ、かなり観ているんですよ。

岡村 物語は、冒頭で少年が焼身自殺をします。彼は二次元の美少女キャラクターのために殉教したことになっていて、彼の心の闇を遺族や友人たちへのインタビューから探るという物語です。作者の考える二次元における創造物の影響力とか哲学がリアルなインタビュー描写から伝わってきて、気づいたら全部読み終わってたって感じです。

平林 僕はあんまり楽しめなかった。第三者であるライターが語り手として取材していくわけだけど、情報の公開の順番や手法が全てストレートすぎるよ。例えば浅田次郎あさだじろうさんの『壬生義士伝みぶぎしでん』だと、新選組隊士の吉村貫一郎よしむらかんいちろうについて取材するんだけど、吉村貫一郎の人物像が二転三転するのよ。だけどそれが最後ひとつの線に繫がって、新しい吉村貫一郎像が明らかになって気持ちいいんだけど、この作品にはそこまで盛り上がりはなかった。単に時系列順に並べてるだけだし、他の作家さんだったらもっとこの話を面白く書けるだろうなぁと思いながら読んでた。

岡村 僕はミステリー的な快感よりも、自殺した主人公がどういう心境だったのかに興味があったので、平林さんが指摘したようなつたなさは気にならなかったですね。

平林 でも語られてる主人公の心情はライターが推測してることだから、事実かどうか分からないよね。僕はそこがもどかしいんだよな。投げっぱなしにされてるみたいで。

太田 そもそも、こんなどうでもいい奴が1人死んだところでどうでもいいじゃんって思わない?

今井 ひどい!(笑)。

太田 例えば世界的ベストセラーを書いた小説家の自殺とかだったら何で自殺したんだって気になるけど、「ただのいじめられっ子の中学生が自殺しました。その裏には謎があったのです」って言われても、知りたいかそれ? って思うのよ。ミステリーに必要な「魅力的な謎の設定」に失敗してると思う。

平林 僕は、謎は魅力的には書けているけど、語り手も3人しかいないし、そもそもの設計に無理があるんじゃないかなって思いますね。時系列をシャッフルさせるとか、まだ工夫する余地があるはず。

岡村 僕たち散々言ってきましたけど、この方プロの方なんですよ。

太田 そうなんですよねー。

岡村 他社の新人賞を受賞して商業出版されてるんですよ。僕はその事実を知らないまま原稿を読みはじめたんですけどね。

太田 この人どうしようか。岡村さんも絶対に受賞させたいってほどのモチベーションじゃなさそうだけど。

岡村 うーん、そうですね。

太田 受賞させないにしても、きちんとその理由を言語化しないと。ここでちゃんと説明できないのは編集部の負けですよ。どういう原稿が欲しいのかイメージできてないってことだから。林さんはどう思います!?

過去に受賞された方の作品から考えると、この人にしか書けないっていうセンスや文体がひとつの売りになったと思うんです。この方の作品は巧いけど、突き抜けた個性がなかったように思います。

平林 明確な欠点もないけど明確な売りもないよね。

太田 僕は、僕たち星海社にはたとえ作品がどんなに破綻していてもどこか一点に120点あればデビューさせようみたいな気概があるべきだと思うのよ。そういう観点に立てば、目立った欠点はないけれど、目立った美点のないものをデビュー作として打ち出すのは星海社らしくはないと思う。でも、再デビュー先としてうちの新人賞に送ってきたってことは、業界の勢力図を見て、きっと彼なりに将来を考えたんだと思うんですよ。そこで、僕たちを選んでくれたのは光栄ですよ。次回作も待っています。次回は、本気で再デビュー目指すなら、何を書くべきかもう少し検討してチャレンジしてほしいと思います!

山梨の天才、カムバック!

太田 皆さん、来ましたよ。あの天才が帰って来ましたよ

一同 誰?

太田 詩のボクシングの山梨の天才君ですよ!

今井 ああ! あの柿内さんも褒めてた17歳ですね!

太田 星海社の二大巨頭が激賞とかなかなかないぜ!? ちなみに彼、今何してると思う? 彼、今、現役東大生なんだよ。

一同 すげえ。

太田 今でも覚えてるんだけど、前回の投稿作品は比喩のすべてがトルーマン・カポーティみたいにすごかったわけ。でもエンターテインメントとして成立していなかったし、もうちょっと叩いて伸びてほしいって思ったからこそ「また応募してください」って言ったの。それが2年越しにこうして彼が原稿送ってくれたのは純粋に嬉しい。

いい話ですね。

太田 美しいだろ? でも原稿は、前のほうがよかった

平林 あちゃー。10代だからこそのきらめきだったか。

太田 いや、煌めきは健在なんですよ!
夏目原さんは、そのまま-財布の小銭入れに指を突っ込んだまま-僕の方を見て、まるで、出来の悪いジョークが散りばめられた英語のリスニングを聞いた、みたいな顔をした。そしてゆっくり満面の笑みになって、小銭を数枚落としながら笑った。とびきりチャーミングな笑い方だった。

太田 こんな文章が毎ページあるんだぜ? でも、これでもたぶん今回は抑えて書いたんだと思う。

今井 どういうお話なんですか?

太田 学園もの。毎月ひとりずつ人が町から消えていって、その裏には「テンマツ」という化物が人を襲っていることが判明する。次第に姉やクラスメイトの謎が明らかになっていくってお話。

今井 エンタメ寄りになってる感じですね。

太田 僕が前回伊坂幸太郎いさかこうたろうさんとか石田衣良いしだいらさんを参考にしてくれって言ったから、汲んでくれたんだと思う。しかしねぇ、上手くいってないんですよ。プロットや比喩表現に関してはきちんとやれているんだけど、小説の形になっていない。次の展開がどうなる? とか、読んでいて応援したくなるようなキャラクター作りってところが嚙み合っていない。

岡村 うーん、それは残念ですね。

太田 まだエンタテインメントってものに向き合いきれていないんだと思う。

岡村 そもそも彼はエンタメが好きなんですかね?

太田 そこは本人じゃないのでわからない。でも純文学でいくなら純文学を書くしかないよ。僕としては、お手本は伊坂さんあたりがちょうどいいと思うんだけどなあ。

今井 それは直木賞作品を読めってことじゃないですか?

岡村 ベタに東野圭吾ひがしのけいごさんとかね。

ちなみに前回も太田さんは「朝井あさいリョウさんと石田衣良さんの作品を読もう」ってアドバイスしてますね。

太田 さすが俺、ブレてない!!!

平林 でも、2回同じこと指摘されるってことは成長してないってことだよ。

太田 今回、外側はちゃんとエンタメにしようとしてるわけ。でもそれが根っこのほうまで来てない。

平林 だったもう純文書けばいいじゃんって気がしますけどね。

太田 いや、でもこの才能を進化させないのは惜しいよー。

ベタさが足りないならハリウッド映画をいっぱい観るのはどうですか?

太田 たしかに。クリストファー・ノーラン監督の作品とかいいかもしれないね。『インセプション』とか。

今井 ノーランだったら彼の自尊心も傷つけずにすむかもしれない。

太田 そうそう。だってノーランはアメコミの『バットマン』をあれだけ哲学的に撮っちゃうわけじゃん。しかもしかも世界的に大ヒットさせちゃうわけじゃん! こういうことができるからこそ、僕はエンタテインメントが低級だなんて思ってもないですよ。純文学は世界が変わる感じがしないんですよね。変わるとしても閉じた世界の中の話にすぎないというか。でも、致命的に合わないってことはあるからなあ。

文学界のノーランを目指せ! ってことですかね。

今井 それか『ファイト・クラブ』デヴィッド・フィンチャーとか?

太田 そうそう! そうなんだよ。今彼は『ファイト・クラブ』の原作の小説を書こうとしてるんだよ! もちろんチャック・パラニュークの原作は素晴らしい。でもフィンチャーが映画化しなかったらただのさほど売れない小説だからね! だから彼にはパラニュークじゃなくてフィンチャーを参考にしてほしい。いやー、この子はこのまま東大卒業してNASAとかGoogleとかに就職した方がお国のためになると思う。けどもう一回小説を書いてほしい!! 都内在住だし、興味があったら一回編集部に電話かけてきてよ。僕、まじめに相談に乗るからさ。 

今井 こっちからかけるのはしゃくだと。

太田 いやいや。彼は上京して、大学に入学して、今、真剣に将来のこととか考えてると思うのよ。その時にこっちから踏み込んで介入するもの何か違うって気がするんだね。だから、彼に少しでも物を書く人間になりたいって意思があるなら、いつでも応援しますって感じかな。

座談会を終えて

平林 今回も残念ながら受賞者はいなかったわけですが、初投稿者も増えてるし、全体の傾向としては悪い感じではなかったんじゃないでしょうか? そこそこ盛り上がったし。

太田 常連の人もいてさ。天才君も戻ってきてくれたしさ。

しばらく受賞者なしが続いているので、賞金もかなり貯まってきましたね。

岡村 次の座談会では、新しい編集メンバーが参加してるんじゃないですか?

今井 そうか! それはまた楽しみですね。

太田 こうしてまた座談会に星海社の歴史を刻んでゆくわけですな。こんな感じで、引き続きご応募お待ちしております! 次回の座談会もお楽しみに!!

一同 お疲れ様でした。 

一行コメント

『亜由夢と霊とロボ猫と』

たった5ページで友人が死に、葬式が行われ、取り憑かれる。小説としての情報量が足りなさすぎて感情移入できません。(林)

『天照す神の鳥』

名詞のルールがはっきりしないため、どのくらいの時代が想定されているのかわからず、読むのが苦痛でした。また、この文体はあまり万人受けしないのでは。(平林)

『カリギュライズム』

凝りすぎて、自分のためだけの作品として結実しています。(平林)

『正答なき問いの答え方』

地の文で設定を語りすぎです。説明書を読んでいるようでした。(林)

『自称殺し屋』

厨二的な異能ものが悪いんじゃない。目新しさが何もないのが問題です。(林)

『おれの学校がテロリストに占拠され』

リアリティがなさすぎる。労働基準法改正のくだりも、あり得ない。(今井)

『落伍者シュガー』

書き慣れていない人が、手持ちの材料ででっち上げた感じ。(平林)

『迷える正義と治外法権』

ロジックもトリックも稚拙なので、全ての登場人物が馬鹿に見えます。(林)

『マスターキーには抗えない』

超能力とミステリ要素がうまく嚙み合っておらず、キャラクターの台詞センスにも難あり。(林)

『復讐鬼』

たどたどしく、本格の美しさがまったくない。整形外科医は美容整形しません。(平林)

『森護智也の幽霊へようこそ!』

設定は面白いですが、最終的に何を伝えたいのかさっぱり分かりませんでした。(林)

『Corporate Crime 〜繁栄の残渣〜』

作風、キャラクター、設定。全てが古いです。(林)

『地獄の図書館へおいでませ!』

職業を活かした題材であることは○。ただ、主人公のキャラが鬱陶しく、読んでいられなかった。(今井)

『ハルとマコ』

題材に新鮮みがない。誤字が多すぎる。(今井)

『エレス』

「こういうことを描きたい」というのは伝わってきました。ただそれ以外の文章表現、構成、設定など全体的にかなり拙かったです。(岡村)

『中途半端な性』

結局このお話は何がしたかったのでしょうか?(平林)

『性春時代』

あらすじは面白いのに、キャラクターが物語の魅力を引き出せていないのが残念です。(林)

『Virtual Future(仮想未来)』

話が必要以上に長すぎます。〝仮想未来を実体験することができる装置〟も、この装置が具体的にどうゆう理論と仕組みで構成されているものなのか、全くわかりません。(岡村)

『夏の終わり』

個人的に嫌いではないですが、全体的にどうにも地味です。また、もう少しキャラクターを立てたほうがいいのではないかとも感じました。(平林)

『エンジェル・オーバードーズ』

なぜ主人公が修行しないといけなかったのかなど、全体的に動機付けがうまくいっていない。共感できない。(今井)

『疾風怒濤』

キャラクター、ストーリー、ミステリとしての構成、全てが荒いです。(岡村)

『キカイジカケノカミサマ 春秋千里の旋回舞曲』

「てにをは」がむちゃくちゃで、大変読みづらい。(今井)

『夜警マイスタージンガー』

物語の最終的な目的と、それに至る道筋が一直線で繫がっていないので冗長な印象を受けました。プロがアマチュアの大会に出る等、設定の荒さも気になります。次回作をお待ちしております。(林)

『Leaping others〈跳躍する他者〉』

日本語の文章作法を守ってください。また、応募要項もしっかり読んでください。内容について特にコメントはありません。(平林)

『とおりすぎた色彩、放ち』

あなたが好きなものをみんなが好きなわけではないし、あなたが懐かしいと思うものをみんなが懐かしいと思うわけではないんです。文体も含めてもう少し、世界に対して開いた方がいいのでは? 好きなもので固めただけでは、趣味の部屋になってしまいます。(平林)

『NAMAZU』

「ナマズに蹂躙された世界での、三つの青春群像」という内容ですが、この内容にした理由も面白さもさっぱりわかりませんでした。(岡村)

『Wクラッチ〜虚ろな悪意となりゆき探偵〜』

コンパクトにまとまっているのはよかった。しかし、それだけだった。(今井)

『ナタラージャ』

あなた(投稿者)の考える「ラクシュミー・バーイー」というのが伝わってこなかったです。(岡村)

『エイトビートと精霊人』

ライトノベルの様々なテンプレートを〝作者〟というフィルターを通さず、表面上だけ繫ぎ合わせた感じです。内容に個性が皆無です。(岡村)

『アニマル・プリンセス』

文章は地味ながら読める。ただし、内容が薄く、何を読ませたいのか不分明でした。(平林)

『ラノベと呼ばれた子供たち』

設定は素晴らしいぶん、後半の失速が惜しい。物語の種明かしの部分はもっとタイトに、テンポよく。(林)

『英雄と呼ばれた男』

きちんとしているんですが、ちょっと普通すぎて退屈でした。(平林)

『露悪主義』

キャラクターのために物語をむりやり作った印象しか残りませんでした。(林)

『物の怪』

世界観に無理があって入っていけなかった。誤字脱字があまりに多い。(平林)

『スペルの無台劇』

「ついてこれる奴だけついてこい」という作品なのかもしれませんが、全くついていけませんでした。(岡村)

『OUTLET CHILDREN』

設定に既視感が。もう一歩、工夫を。(今井)

『罰せられた青蛇:レイジング』

読んでいて予想外なことが一つも無かったです。(岡村)

『千の剣の覇を競え!』

完結してないですよねこれ。内容は特に面白くありませんでした。(平林)

『コトノハナ』

キャラクターの造形が美しい。けれど社会背景や設定が杜撰です。噓にリアリティを持たせるために、一度徹底的にシュミレーションしてみてください。(林)

『最後のお願い』

物語の中に、リアリティがなさすぎる。フィクションでも、設定内におけるリアリティは必要。(今井)

『売られる戦場買う人でなし』

リーダビリティが低く、話が小さくまとまりすぎています。(林)

『夜迷夜行夜会』

突飛な設定にするなら、それなりのロジックが必要です。キャラクターや世界観が雑すぎて突っ込みが追いつきません。(林)

『セカイ少女BASARA』

何のお話なのか読んでもよくわかりませんでした。(岡村)

『人体浮遊の殺人』

異能とミステリの組み合わせは難しいのですが、説明すべき点が技術的に解消されていませんでした。(平林)

『僕らのバグは美しい』

何故ミッションが与えられるのか、何故この組織は存在するのか。〝何故〟の部分をきちんと説明してくれないと納得できません。あと天才が天才に見えません。(林)

『スクラップ』

キャラクター小説としてもミステリ小説としても、小さくまとまっていて目新しい魅力がなかったです。(岡村)

『塵塚怪王』

出だしは良いが、ややくどさがある。また、設定的に納得がいかないところがある。きちんと資料にあたって、必然性のあるものを。(平林)

『タブレット』

もっと語彙を増やしてから小説を書いたほうが良いと感じました。読み進めるのがきつかったです。(岡村)

『白夜の吸血鬼』

主人公をタイトル通りの設定にして、他の物語とは違うどういう魅力を描きたかったのか、それがよくわかりません。(岡村)

『アメノアオ』

ベタですが、キャラクターは立っていて良かったです。ただストーリーは中盤以降は尻すぼみですし、主人公の設定もすぐ予想できてしまったので、物足りなかったです。(岡村)

『性別男』

これ、本当にタイトルでしょうか? 各短編によってリアリティラインが全く違うので、読んでいて混乱します。(林)

『偽りの女神が支配する』

ブッ飛んでいて面白かったです。ただあまりにマニアックでメタでアイロニカルでしたので、「商品」として需要はあまり無いと思いました。(岡村)

『ラフラフタースローター
《laugh,laughter,Slaughter》』

特徴的な「笑い」の表現が、読んでいて不快だった。(今井)

『近未来史譚 星降る故に』

壮大なのはいいと思うんですが、世界情勢や技術があんまり半世紀後の未来っぽくなかったです(平林)

『ラプラスの姫君』

地味です。キャラクターや展開が大人しく、予定調和でした。(岡村)

『ぼくのすきなひとへ』

この設定だと人類滅んでしまいませんか?(林)

『緑の海のリネット』

全体によくまとまっていた。ボリュームもほどよい。ただ、想定内のことが多く、ワクワクしなかった。(今井)

『人格詐称の適正練度』

二つの別個の話が強引につながれているような感じを受けました。どちらのパートもそれなりに楽しくは読めたのですが。レベルアップしたら再チャレンジを。(平林)

『少年レジスタンス』

てにをはがかなりおかしい。主人公が幼すぎて、読んでいて独特の不快感がある。(平林)

『夢現』

話が冗長。読むのが苦痛でした。(岡村)

『夢のような世界』

冒頭から、あまりに単調。(今井)

『乱舞りんぐロンド』

会話のテンポはよく、能力の設定も悪くない。ただ、長すぎる。無駄が多い。(今井)

『エドムラディテクティブ』

前回の方がよかったです。ヤンキーエンタメ方向に突き抜けてほしかったのに、ヤンキーに探偵役を担わせたことで魅力が半減しています! 書き直しではなく、新しい設定のヤンキーものに挑戦してみては?(林)