2012年夏 星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会
2012年8月29日@星海社会議室
爆発を予感させる期待の新鋭あらわる!しかしまたも受賞者なし!!
今回はなんと97作品の応募が!
太田 いくぜ、座談会!
一同 よろしくお願いします!
今井 今回は、97本の作品が集まりました!
山中 おおー。全然減ってないね。前回はそれこそネット上で大いに物議を醸しましたが……。
太田 まあね。ここだけの話、僕は、ちゃんとものを書いている人が僕らの座談会をちゃんと読んでくれたら、別に悪印象なんか持つわけないと思うしね。いつだって騒ぐのは無責任な外野なんです。ともあれ、今回は常連さんに加えて初投稿の方が多かったのがよかったんじゃないかな。ありがたいことです。
好きな人ほど、厳しくなる?
太田 まずは『黒脛巾 枯れ枝咲かす 伊達震い(くろはばき かれえださかす むしゃぶるい)』この担当は、緑萌さんだっけ?
平林 いや、これは今井くんですね。
太田 あ、歴史ものだから緑萌さんの担当に振ったかと思ったんだけど……そうだ、思い出した。今回からちょっと各担当者の選考ジャンルの偏りをなくそうと思って、あえて歴史好きの緑萌さんから歴史にさほど興味のない今井さんに割り振ったんだった。好きなものだと、ついつい必要以上に辛くなっちゃうでしょ? たとえばアイドルグラビアでもお尻派は「こういうお尻じゃないとダメなんだ!」とかってうるさいけど、そういうこだわりはおっぱい派からすると実にどうでもいいことだったり……。
平林 みんながスク水についてどうでもいいのと一緒ですよね。僕は『すくみズ!』担当者として、スク水に命を懸けてますけど。
太田 さりげなく緑萌さんが担当作品の宣伝を入れてきた! でも、まさにそうだよね。スク水好き以外は、スク水の種類なんて本当にどうでもいいことだもんね。っていうか、スク水に種類があるだなんて僕も『すくみズ!』をチェックして初めて知ったよ。
平林 4ページマンガ『すくみズ!』、星海社ウェブサイト『最前線』にて絶賛連載中です!
太田 まあスク水好きには厳然としてあるわけでしょ? 俺は旧スクじゃないと認めないぜ、みたいなこだわりが。
平林 あー、旧スク水原理主義ですね。
山中 原理主義(笑)。
太田 旧スク水原理主義って言うんだ……(若干引き気味)。とにかくまあ、人間って基本はそのジャンルを好きになれば好きになるだけ、見る目が辛くなっちゃうってことは往々にしてあるんだよね。僕の場合で言うと、『戦国BASARA』で伊達政宗が英語喋ってるのがすごく気になったりするからね。そこは政宗ならばスペイン語だろう、と。
今井 小さい噓が許せないわけですね。
太田 そうそう。足の小指だけが襖にぶつかる感じね。勉強をしてない、勉強が足りてない感じがしちゃうんだよね。でも逆に、そういう細かいところを作り手側がきちんと突いてくれると、ズックズクくるんだけど。しかしこういう感性って、あるジャンルにどっぷり浸かった好きな人ならではのもので、ある種普通の人の感覚とはかけ離れたものだから、今回は各人の得意ジャンルに振るってことを敢えてしていません。今回から今井さんも読み手に回って、頭数が増えたことだしね。今井さん、期待してるよ!
今井 ちなみにこの『黒脛巾 枯れ枝咲かす 伊達震い』って作品は、読みやすいんですが、どこかで見たことのあるシーンがとっても多くてですね……。
岡村 ほうほう。
今井 主人公は忍びの里を離れた抜け忍で、追い忍になったかつてのライバルに追いかけられるんですけど、このライバルが追いかけて来たって主人公が気づくシーンがあるんですよ。暗闇の中で。で、その理由が「あいつの眼は車輪の形をしている……」なんですよね……。
山中 あれ(笑)?
平林 おや?
太田 パ……パクリじゃん!!
今井 いやまあ、写す方の眼じゃなくてよかったなとは思ったんですけど……。
平林 忍者ものはほんとに名作が多いから、相当に気合入れて書かないとキツいよね。
太田 司馬遼太郎もデビュー作は忍者ものなんだよね。忍者はフィクションにおけるある種の鉄板なのかも。だからこそ先行作品をしっかり勉強しないといけないんだけど……安直すぎるパクリはよくないよ。
今井 はい。それがよくわかる作品でした。
ラストに向かって尻下がりの作品たちに編集者のやる気もダウン!
太田 じゃあ次、『冷蔵庫の中の首』。
山中 これねー。今回読んだ中では一番面白かったです。
太田 いいねー! 存分に語ってもらおうじゃない。
山中 主人公が朝起きて冷蔵庫を開けると、美少女の生首があって、その子が突然話し出すんですけど、その女の子の話してる内容がけっこうかわいいんですよ。昔韓国のゲームで『Tomak』っていう、生首を育てるゲームがあったのご存じですか?
太田 ああ、あったねえ。懐かしい。
山中 あれを彷彿とさせる感じで。ただかわいいとはいえ生首なんで、怖いじゃないですか?
太田 いやいや、京極夏彦さんの『魍魎の匣』の彼女はかわいいよ?
山中 そうそう! 『魍魎の匣』を思わせるシーンも出てくるんですよ。「ほぅ」とか言っちゃったりして。
太田 これもパクリじゃねえか(怒)!
山中 好意的に見ればオマージュという考え方も……。まあ、その生首が「身体を探して欲しい」って言い出すんです。で、主人公は周りに流されがちで、わりとなんでも受け入れてしまうタイプなので、渋々ながら承諾するんですよ。生首からの申し出なのに。でも、全然見つからない。そうこうしているうちに、ある日、家に白い手紙が置いてあって、開けると血文字で「首を返せ」……と書いてある。
太田 おおー、なんかいいじゃん。面白そう。
山中 その後も、黒猫が手首だけを運んできたりして、ミステリ的な緊張感が高まってくるんですが……! 特に……、意外なオチもなく……、物語が終わってしまってですね……。
今井 Oh……。
山中 前半が面白いだけにもったいないんですよ! (手のひらを机に叩き付けて) 淡々と死体が見つかり、犯人も見つかりという、まったくカタルシスのないラストでした。
太田 京極夏彦もレンガ本を壁にぶつけるラストだよそれじゃ!
岡村 僕の担当作にも、ラストがいまいちなのがありましたね。『まぼろしメゾン』てやつなんですが。
太田 うーん、これはタイトルもよさそうでよくないね。
岡村 主人公が、おじいさんから遺産としてアパートを受け継ぎ、その大家になるところから話が始まります。そして住人が半分人間、半分妖怪みたいな人たち……という、冬目景さんの『ACONY』や香月日輪さんの『妖怪アパートの幽雅な日常』に似た雰囲気な作品です。オムニバス形式の作品で、一つ一つはそれなりに面白いんですけど、最後が盛り上がらないんですよね。これで終わり!? という感じで……。
山中 最後が盛り上がらないやつが今回多かったのかなぁ。僕の読んだ作品も、前半すごく良くて後半尻すぼみなのが多かった印象が。
太田 ラストはやっぱり「これでもか!」っていうくらいに詰め込んでほしいよね。しんみりラストもいいけど、投稿作って、一生で一度のデビュー作になるわけだから。
柿内 そうですね。
太田 そう、デビュー作ってたいていの場合はその作家の全キャリアを通じてもっとも長く読まれるものになるわけですよ。好きになった作家さんで、デビュー作を読んでいない場合って、ほとんどないでしょう? たいていの場合、代表作の次に読まれる作品、つまり売れる作品はその作家のデビュー作なんです。だからこそ、そのデビュー作になるであろう投稿作にはラストまで全力を尽くすべきなのですよ。出し惜しみはもったいないです。
今井 次はこれですね。『ボギュストゥヌスの心臓』。
山中 この作品は、ゲームの『街』みたいな、いわゆるザッピング形式をとっています。3人の登場人物の視点が切り替わりながら進むお話なんですけど、たとえばそのうちの1人の女の子が、耳の中を「肉塊」と呼ばれる生き物に食べられてしまうんですよ。
岡村 あ、気持ち悪いね。
山中 しかもその「肉塊」に寄生されてしまう。で、結果、その「肉塊」と共存せざるを得なくなるんですけど、代わりにその「肉塊」が女の子の願いを叶えてくれたりと、少しずつ「肉塊」と親密になっていくのですね。他にも探偵役や、突然密室で意識を取り戻す男など、何人ものキャラクターが登場して、じわじわと各キャラクターたちの物語が複雑に絡まっていく。しかも外連味のある文体でけっこう面白そうに進むんですよ。でも、オチがまたしてもつまんないっていう……。
岡村 うーん。なんなんでしょうね? 前回「最初の50Pが大事」って太田さんが言い過ぎたんですかねえ。
山中 それはあるかも。でも、最初がしっかり作り込んであれば、ゴールが見えてくると思うんだけどなぁ……。あとこの人、浪人生なんですよね。元浪人生として言わせて頂くと、勉強しろと(笑)。文体は好みの雰囲気だし、序盤も決して悪くはなかったので、大学生になったらまた送ってきてほしいですね。
みんな、もっと星海社FICTIONSを読んでから投稿しろよ!
太田 次! 『Decorate Kiss@偏愛』。岡村さん!
岡村 これは面白かったです。面白かったんですけど、あまりにも星海社じゃない。ラノベ界で激戦区となっている学園ハーレムものです。主人公が唇フェチで、かつメイクの仕事をしている母親から学んで、メイクのスキルを身に付けている。そしてヒロインたちに唇のケアやメイクのアドバイスをしていって仲良くなっていく……という感じ。作品全体の雰囲気は『変態王子と笑わない猫。』に近いかな。主人公が変態だけど明るいところも活き活きと書けてる。
平林 あれはすごく面白いじゃない。あれより面白い?
岡村 いや、さすがにあれよりは劣ります。でも、普通に面白いです。◯◯や××の賞に出せば、最終選考まで残るんじゃないかな。もし送ってないなら、そっちの方に送られたほうがいいかもしれない……。
太田 あ、今だと、××はあんまりおすすめしないかなあ。
山中 なんですかそれ?
太田 それはだね!(と、以下30分の長きにわたって各種レーベルの歴史と現在の状況の解説の独演会が開催される) ……というわけで、××は今はあんまりおすすめしない。しかしこの人、他の書き方をする気はないのかな? もし狙ってこのラインを書いているのであれば、きっと違う話も書けるはずだから、ぜひまた応募してきてほしいね。
岡村 そうですね。この人の作品はぜひまた読みたいです。
太田 ハーレムものが悪いわけじゃなくって、ありきたりなハーレムものでデビューはさせたくないってことだから誤解のなきよう。突き抜けたハーレムものならばぜひ星海社FICTIONSで出してみたいからね。
平林 あ、そうなんですね。
太田 そりゃそうよ! 新人さんには、どこか一点でいいから〝突破〟していてほしいんだよね。心に突き刺さって抜けない部分がほしい。方向はどこでもかまわないと思うよ。
平林 じゃあ、ハーレムものの企画を練りますよ僕は(キッパリ)。
岡村 突き抜けたハーレム……。思春期の子の人生を変えちゃいそうですけど(笑)。
太田 さて次、タイトルはいわゆる「日常の謎」系だね。『迷子のペットの探し方』。
平林 これ、タイトルだけ見るとクソつまんなさそうでしょ? でも、意外と面白かったんですよ。
山中 またまたぁ。上から目線ですねぇ。
平林 (眼鏡の向こうから山中を睨めつけながら)冒頭で迷子になったペットを探す物語なんてみなさん飽きていると思うんですけど、この作品はわりとガチなやつで、ペット探し専門の探偵が主人公なんですよ。
山中 おお、切り口が斬新ですね。
平林 連作短編になってて、第1回がワニガメというマニアックさなんだけど、ワニガメの生態とか、条例との関係とかがものすごく詳しく調べられていて面白かった。水産系の大学出身の方みたいなんですが。
山中 なるほど、本職の方なのですね。
平林 そうなんだよ。それで、ワニガメは条件反射で嚙むはずなんだけど、飼い主の少年だけは嚙まなかったのはなぜ? とか、そういうところを物語にうまく絡ませてくるんだよね。まだ22歳で若いし、一般文芸でデビューを目指されるといいんじゃないかと。文章も全然危なっかしいところがない。
太田 ええーっ、何言ってんの? うちでやってもらえばいいじゃないさ!
平林 いやでも、めちゃくちゃほのぼのハートフルなお話なんですよ。かなりのカテゴリーエラーです。
太田 うーん……。いや、そういうのはあんまり気にしすぎてもしょうがねえよ。でも、「カテゴリーエラー」の範囲内だって編集者に思われた時点でそれはやっぱりダメなのかもね。どうせやるなら、「カテゴリーブレイカー」とか「カテゴリーデストロイヤー」たるべきでしょう。
手紙を書くヒマがあったら、原稿を書け!
太田 今度のもちょっとタイトルがよくないなあ。『世界の果ての黒羊たち』。
平林 これね、本来は一行コメント行きなんですけど、「備考」が付いていてですね、ちょっと読み上げますね。「こういったことを書くと選考にマイナスに作用するのではと懸念もありますが……」
太田 (げんなりして)じゃあ書くなよー。
平林 「……もしこの作品を読んでデビューさせてもいいと思ったのであれば是非チャンスをください。逆にデビューには届かないと思ったなら〝面白かったので次回に期待しています〟なんてヌルいコメントは要りません。次など毛頭考えていませんし」……全く面白くなかったよ!!
太田 やっぱりお手紙系はほぼ例外なくダメだねー。平野啓一郎さんみたいな例外もあるにはあるけどね。
平林 自信がないんでしょうね。
太田 手紙書くヒマあったら次の小説書けよって感じだよね。一見、気合入れてるように見えるんだけど実はナメてるだけなんだよ。だって、僕らが作家さんのとこ行く時に、「この企画が面白くなかったらもう縁を切ってもらってもかまいません!」なんて絶対言わないじゃん? そんなの責任のとり方でもなんでもないんだよ。気合とか責任とかって、もっとずっと地味でまっとうなものなわけじゃん。あとさ、小説のプロを目指している人が小説じゃなくて手紙で一本取ろうとするなんて、あんまりじゃない。その馬鹿馬鹿しさに早く気がついてほしい。
竹村 ですねえ。続いては『僕が一体何をした?』。これはね、悪魔が出てきて……。ある日、目が覚めると見知らぬ場所にいて、人面樹とか半魚人が出てきて……登場人物も600何歳とか、そういう感じで……。ちょっと付いていけなかったですね……。
柿内 (原稿に挟んである紙をとって) なにこれ? 〝読書への挑戦状〟?
竹村 あ、それはたぶん〝読者〟の間違いですね。
一同 (爆笑)
今井 〝読書〟って概念に挑戦してるんじゃないんですか?
柿内 いや、たぶん誤字。中身読むと「皆様にちょっとだけヒントを」とか書いてあるし。
今井 あー、ネクストコナンズヒント! みたいな感じなんですね。
太田 これも、手紙は必要なかったね。(遠い目で)手紙は実に鬼門だね……。
太田流、歴史もの執筆法!
太田 次、『桔梗の約束』。
平林 歴史ものです。ちょっと話していいですか? 主人公は……高橋紹運!!
太田 おお!! いいねえ、グッときた。これは相当に期待できるんじゃない?
太田・平林以外 え、誰?
平林 おいおい、高橋紹運がわからないって、ちょっと君たち歴史リテラシーが低すぎるよ!
太田 (座談会始まって以来のガチ切れで)いったいお前らどういうことだよ! 勉強しろよ!!
今井 (PCで検索して) あ、出てきた。立花宗茂のお父さんなんですね!
平林 それも知らないのかよ!
今井 (涙目で)ごめんなさい……。
平林 時に、天正14年。九州を制覇せんとする島津の大軍が攻め寄せて、大友家は風前の灯。太閤秀吉の援軍が来るまで、我々がここで食い止める! ……というわけで、島津勢の前に、700人ぐらいで籠城して立ちはだかった人なんだよ。偉い人なんだよ!
今井 グスッ……高橋紹運、苦労されたんですね……。
岡村 苦労って……(苦笑)。
平林 戦国時代なんだからみんな苦労してるよ!
柿内 超絶上から目線だな(笑)。これは立派な歴ハラだよ。
平林 (かまわず)勉強しろ勉強! ちょっと話、戻しますよ! 主人公は高橋紹運で、もちろん立花道雪、立花宗茂も出てきます。最後は岩屋城で討ち死にするところまでですね。そして、これは太田さんの読みどおりにけっこう面白かった。独自の工夫も多々あってたとえば、大友宗麟が切羽詰まって秀吉のとこ行くじゃないですか?
太田 行く行く!
平林 その時に秀吉が、ちゃんと尾張弁で話してるんですよ。
太田 いいねえいいねえー。
平林 そこはいいんですよ。著者さんも三重県出身なんで、ちょうどいいんでしょうね。ただ、島津忠長が出てくるんですけど、こっちの鹿児島弁はちょっと荒い。そういうところもひっくるめて総合的に見ると……。38歳ならもう少し書けてほしいってのが本音ですね。たとえば舞台になっている天正期の、全国及び九州の情勢がどうなっているのかが普通の人にはわからないと思うんですよ。僕や太田さんみたいな歴史好きにはわかるんですけど。
太田 なるほどね。だいぶ上級者向けなんだね。
平林 そうなんですよ。キャラクターはいいんですけど、もうちょっと説明がほしかった。国人領主って言葉もポンと出てきますけど、ここも説明が不足してると思いました。
太田 惜しい感じだね。うーん、せっかくだからたぶんどこからかの孫引きなんだけど、僕の持論を話そう! みんなメモの用意はいい?
一同 (また長い話になるんだろうな、とうんざり顔に)
太田 (そのうんざり顔にまったく気がつかず)歴史小説を書くにはね、3パターンあるんだよ。一番当たるとでかいのは、「大きな事件の中における、小さな人物の話を大きく書く」だね。これは超ハイリスク・超ハイリターン。小さな人物が、大きな事件の中でいかに大事な役割を担ったかを大胆に描いて、「この人物がいなかったらこの大きな出来事はありえなかった」と読者に思わせる。つまり、新しい歴史の文脈を作り上げてしまう小説。『竜馬がゆく』がまさにそう。あの本が世に出る前の坂本龍馬のイメージって、たんなる幕末の武器商人だからね。あるいは、あの勝海舟の使いっ走りの小物。
今井 なるほど! そう思うと、『竜馬がゆく』ってほんとうに思い切ったタイトルですね。
太田 そうだね。あの本が出た時点では、日本人はみんな坂本龍馬のことをよくは知らなかったからね。しかし今、日本人が幕末という時代を語る上では、坂本龍馬は絶対に外せない一人になっている。本当は、西郷隆盛や大久保利通のほうがずっと偉いのよ? だけど世間的にはあの維新回天の立役者の筆頭は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』以降は「坂本龍馬」になってしまっているわけ。思えば司馬遼太郎という小説家はこの超ハイリスク・超ハイリターンの賭けに何度も勝っていて、たとえば日露戦争の秋山兄弟の場合もそう。あれもふつうに考えれば東郷元帥と乃木将軍が偉かったに決まってるんですよ。でもそうじゃなくて、『坂の上の雲』の読者には「日露戦争の勝利の裏側には秋山兄弟の智謀と行動があった!」と思わせてしまう。司馬遼太郎ぐらいの筆力があれば、この「大きな事件の中における、小さな人物の話を大きく書く」やり方はかなりスパークする可能性があるね。国民的スターを生み出す可能性が。
今井 しかしどうしてハイリスクなんですか?
太田 誰も知らない人を書くからだよ。失敗すると、見向きもされない小説になるだけだからね。だからこの書き方は大いなる賭けになるんです。2つ目は、「小さな事件の小さな人物を、これでもかというくらいに細かく書く」。これはミドルリスク・ミドルリターンだね。当たれば、まず歴史おたくに盛大にウケる! そして、その玄人筋からの高い評価を後ろ盾にして、一般層にまで広がっていくわけ。
平林 わかります。我が身を振り返ると本当に……。
太田 歴戦の歴史おたくに「俺も知らなかった!」と思わせる方法だね。これをやられると歴史おたくは、「こやつめこやつめ」と思ってしまう(笑)。
今井 『のぼうの城』とかがそうなんですかね?
太田 そうそう! 石田三成っていう人はまあ、大きな人なんだけど、割と過小評価されてる人じゃない? その人と、成田長親っていう、正直誰も知らないような人との戦い、しかも時代の大勢にはほとんど影響のない戦を、『のぼうの城』はものすごく面白く書いてるわけだよね。
岡村 なるほど。
太田 ただしこの小説の書き方では時代=新しい歴史の文脈をつくることはとても難しい。小さな事件も、小さな人物も、一作でほとんど書き尽くしてしまうわけだから、フォロワーの生まれようもないしね。
今井 うーん、リスクとリターンは比例するんですねえ……。
太田 そして最後は、「大きな事件の中で、大きな人物の話を書く」タイプの歴史小説。これは、ローリスク・ローリターンだね。いわゆる通俗小説。最近このパターンで一番成功したのは、何と言っても『織田信奈の野望』だね。戦国武将が全員、美少女。馬鹿馬鹿しすぎる。だが、それがいい。僕はもちろん、認めていますよ。だって今、信長をやろうと思ったらああするしかないんですよ。先行作品にやり尽くされてるわけだから。
平林 『信長協奏曲』もそうですね。
太田 そうだね。あれぐらいやらないと、もう信長ではものを書けないんだよ。そういう意味でまた司馬遼太郎がすごいのは、『国盗り物語』なんだよね。信長という存在には斎藤道三という雛形、先行事例があった! って歴史をでっち上げてるわけだから。
平林 特にそういう事実はないですからね。
太田 あ、バッサリ真実を言っちゃった(笑)でも、まさにそうなんです。
平林 織田家の領国支配っていうのも、相当に遅れてたんじゃないかっていうのが、最近の学説ですからね。北条家が最先端だったっていう話になってますから。
太田 そうなんだ。僕は今川家かと思っていたよ。まあ、そんな感じで、歴史小説を書くとしたら、この3つのパターンを意識して書くべきなんです。で、このパターンに照らし合わせたときに今回の作品がどうかって言うと、これは、「小さな事件の小さな人物を、これでもかと細かく書く」をやらないといけない作品だよね。でも残念ながら、歴史おたくをうれし泣きさせるレベルには達してないんでしょう?
平林 そうですね。キャラもいいんですけど、「こいつ強烈にいい!」ってキャラもいませんし。うーん、三重県の方だから、北畠とかで書いてみたらいいんじゃないのかな。
岡村 どういうことですか?
平林 『神皇正統記』の北畠親房の子孫が伊勢国司になるんだけど、そのまま戦国大名化して、信長に滅ぼされるまで三重から奈良の宇陀にかけてを支配してたんだよ。
岡村 全然わかりません(笑)。
柿内 平林くん、さっきも打ち合わせ帰りに電車の中でずっと『信長の野望』やってたからね。
山中 (あきれた声で)また!? (笑)
太田 何の『信長の野望』をやってるの?
平林 DSの1ですね。
太田 (即座に)烈風伝か。
平林 そうです。
今井 烈風伝、ってすぐ出てくる太田さんが怖いです……。(笑)
太田 俺らはこういう人種なんだよ! 『信長の野望』じゃなくて、『信長の野望』の〝何〟をやってるかが大事なの!
今井 それで、今その人が何を求めているかとかもわかるんですか?
太田 当然だよ!!
一同 (爆笑)
平林 えー、色々言いましたけど、書く力がある人だと思うので、またぜひ応募してきてほしいです! よろしくお願いします。
オナニーではなく、セックスを!
太田 次はこれ『イトル『ノイズ毒電波~noisahtboptoxicknaowjoipskquhniosow~』』。
山中 これ、あれですよ、太田さんの……。
太田 あああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!
岡村 え? どうしたんですか?
太田 いや、この夏、僕は佐藤友哉さんとたくさん思い出を作っていてですね……。
平林 ああ! あの人ですね。「佐藤友哉×星海社1000ドル小説の旅」で佐藤さんと太田さんが出会った九州の男児高校生!
山中 なんと今回最大の1500枚です!!
平林 で、面白いの?
山中 全然!(きっぱりと)
太田 ああ……18歳の男の子が、2年間かけて書いた力作なのに……。
山中 これね、なんで長いのか読むとすぐわかるんですよ……。どういうことかというと、たとえば路傍にある石をひとつひとつ説明していくようなレベルで、あらゆる事象を詳細に書いてるんですよ。(と、内容の説明を始める)
太田 (しばらくして)ちょっとちょっと待って、カッキー大丈夫?
柿内 え? ああー大丈夫です。
山中 ちょっと解説しただけで柿内さんが夢の世界へ!(笑)休憩します?
柿内 いや大丈夫。休憩しないほうがいい。気合で乗り切るよ!
山中 じゃあ、続けますね。しかしすごい威力だな、この作品は……。
平林 僕もちょっと見たけど、文章が日本語として成立してないよね?
山中 そうなんですよ。
太田 いやー。実際に佐藤さんと一緒に彼に会ったときも、僕、1時間半ぐらい彼に説教したんだよね。そもそもさ、彼と会ったときに一緒に電車に乗ったんだけど、彼、自動改札機の動きにすごいけったいな反応をするんだよね。慣れてない感じ。で、聞いたら、電車、全然乗ったことないらしいんだよ。500円払えば博多までいけるのにだよ? ちょっと社会常識がないというか……。
柿内 博多には全力でオススメできるいい店がいっぱいあるのに……。
山中 柿内さんが「いい店」っていうとどうもモヤモヤしますね……。どっちの方面のいい店ですか?(笑)
太田 もちろん本屋さんでしょ?
今井 映画館とか、CDショップとかですよね?
柿内 そうだよ。川沿いにずらっとあるね。
一同 (爆笑)
太田 や、屋台ね! 博多ラーメン美味しいです! まあ、それはそれでいいんだけどさ、きっと彼、原稿しか友達がいないんだよね。オナニーなんだよ。
平林 うーん、この原稿はストーカーから来た手紙みたいですよね。もらったことないけど。
太田 僕、何度かあるよ。多重人格で白魔術師の家系でストーカーの女の子から。この話、話すと1時間くらいかかるけど。
一同 (絶句)
今井 (場の空気を破って)ええっと、この小説はキャラ名もすごいですよね。「雷神宮傘」とか。これ、読み仮名「らいじんぐさん」ですよね? たぶん。
岡村 ライジングサン……。いっそ清々しいよ。
太田 きっと彼の場合、この小説を書くことが、唯一のストレス発散だったんだよ。会った時も原稿をUSBメモリで持ってくるもんだから、「なんで紙でも持ってこないんだ?」って言ったら、「刷れなかった」とか言い訳してさ。ほんとオナニーなんだよね。だいたい、1500枚の新人の小説を受け付けてくれる出版社がどこにあるんだって話をしたんですよ。
平林 僕らは受け付けてますけどね。
太田 そうだよ! 僕らみたいな未来の出版社・星海社だけだよ!
岡村 ふつうは難しいでしょうね。実際読むの、むちゃくちゃ大変ですし……。
太田 だから僕は説教しちゃったんですよ。オナニーでも喜んでみんなに見てもらえるのは、見てる人さえ気持ちよくさせてしまう、一部の芸術的オナニストだけなんだって。そうじゃない人は、きちんとセックスをしなきゃいけないんだって。
今井 なるほど。荘厳なオナニーなら大丈夫なんですね。
太田 そう、荘厳なオナニーならいいんです(まじめに断言)! でも、彼のは明らかにそうじゃない。そうじゃないからこそ、USBメモリで持ってきちゃいけないし、そもそも1500枚も書いちゃいけない。
山中 でも、応募しちゃったんですね。
太田 そう。そこは根性あるよね。そこは認める。認めるよ。ただ、やっぱり相手=読者のことを考えようよってこと。そこがないのはさみしいよ。
カテゴリーをぶっ壊せ!
太田 さて、気分を変えて、ここからは各担当が一段上に上げた作品をピックアップしていきましょう。一つ目は今井さんの『テーブルの上を守る騎士』。これさあ、どこが面白かったの?
山中 同じく。
平林 僕も訊きたいです。
太田 (突然キレて)あのさあ、お前小説読んでんのかよ!? ……ハッ! 僕としたことが部下に「お前」とか言っちゃった。すいません。
今井 いや、あのですね……。
太田 ちょっと待った!! 先にみんなの意見を聞こう。岡村さんはどうでした?
岡村 僕はみなさんほどはヒドイと思いませんでした。ただこれは、うちじゃない。講談社青い鳥文庫とか、ターゲットとなる読者がかなり下だと思います。キャラクターも世界観もかわいいから、低年齢層かつ、女性向けですね。
平林 そうかぁ。
岡村 文体とかも、僕はストレスなく読めましたし。
平林 なるほどね。でも、1200円は払えないよね。
太田 なるほど。年齢層が違うっていう考え方はなかったわ。竹村さんは?
竹村 ちょっとわかんなかったですね……。
太田 ふーむ。じゃあ、今井さんの意見を聴こうか。どこがよかったの?
今井 えーっとですね……。
太田 いいんだよ思ったこと言えば! 小説なんか、100人のうち1人でもわかる人がいればOKなんだから。
岡村 何を言っても間違いじゃないからね。
今井 はい。ありがとうございます。岡村さんとそういうお話もしてたんですけど、確かに、今FICTIONSを読んでくださっている読者さんたち向けのお話ではないと思います。ただ、小学校高学年の女の子向けに、文庫で出して、かわいい絵をつけて売りだせば、好きになる人はいるんじゃないかと思ったんですね。まず、設定がわかりやすいうえにオリジナリティがあっていいなと思いました。誰もが知ってるお伽話に出てくる魔女が全部同一人物で、その魔女がそれぞれの魔法をかけ違えたばかりに、お伽話がうまく進んでない世界が舞台。魔女のミスを補塡するために、その孫にあたる女の子が、料理人と騎士と一緒に冒険するというお話が。そして二つ目に、キャラに必然性があっていいと思いました。それぞれ役割がはっきりしてて、キャラも立ってます。日曜日の朝7時ぐらいからやってたら、けっこうみんな見るんじゃないかと……。はい。でも、うちのレーベルに合うかどうかってことを一切考えてなかったので、そこはすいませんでした。
太田 いやいや、僕らが言うカテゴリーエラーみたいなことはさ、結局は方便でさ。たんに力がないだけなんですよ。カテゴリーなんて壊してしまえばいいんですよ。星海社FICTIONSはまだ始まったばかりの新しいレーベルなんだし。たとえばさ、『プリキュア』とかまさにそうじゃん。女の子向けに作ってたのに、大きいお兄さんが一番熱狂してる。あとはみんな気づいてないけど、『Fate/Zero』のアニメもそうだからね。だって、いつのまにか男性よりも女性の方が熱狂してるんだから。虚淵玄原作なのに。そうやって突き抜けていけば全然問題ないんだよ。でも、この作品からはそれを感じなかった。
岡村 確かに、読んで2日後には忘れてるかもね。
平林 うん。
太田 というわけで、ダメ! よし、次行こう! 『Do Kids』、岡村さん!
岡村 これは、いわゆるメタミステリーですね。
太田 そうだね。これね、設定はむちゃくちゃ面白いんですよ。
平林 わかります。でも、書き方は下手じゃないですか? 情報を開示する順番とか。
太田 そうなんだよー。設定はとびきり面白いのに、文章が面白くないんだよね……。でも、ラストは壮絶に面白かった! 僕は喜んじゃったなあ。
岡村 最後は考えて書かれてましたよね。
太田 これは相当に考えてるよねー。でも、文章がね……。
平林 僕だったらこれは上げてないレベルです。
太田 いや、これはいいものだ! じゃあちょっとあらすじを説明しようか。舞台となる世界には探偵がたくさんいて、その探偵たちはみんなアカシックレコードの分冊を持ってるんだよね。それで、事件が起きたときに探偵がその事件の犯人と動機を言い当てると、アカシックレコードの力を使って事件を「なかったこと」にできるんだよ。そういう探偵さんが組織的に世界中にいることで、かろうじて人類の平和が守られているっていう世界が舞台の小説。探偵は助手たちと一緒に、殺人事件を消していってるから、みんな平穏無事に暮らせてるっていうね。ね、面白そうでしょ?
今井 面白そう!
山中 冒頭がすごいよかったですよね。主人公がアカシックレコード上では、実は既に3回死んでいるというのが冒頭で語られていて、この入り方は面白かった。
太田 よかったよね。これきっと、座談会を読んだみんなが言うよ。「あらすじ超面白そう! 読みたい!!」って。僕もそう。だから、岡村さんに読めって言われたときも、なんであんな微妙そうな顔だったのか途中までわからなかったんだよね。設定はいいのに、道行きが全然ダメ。でもぜんぶ読んだら……。
岡村 途中で登場人物たちが協力して、FPSゲームとかやり始めますからね。何故か。
太田 あれ必要ないよね! 俺、5ページずつ飛ばして読んだもん。
一同 (爆笑)
太田 いやでも、ほんとに設定がすばらしい。この設定さえあれば、すごいのを書ける作家さん、いっぱいいるよ。
岡村 そうなんですよね。この設定は座談会の記録として出すのが憚られるレベルですよね。
太田 確かにね。またラストがいいんだよね。なぜか毎回殺されちゃう女の子がいるんだけど、その娘がなぜ毎回殺されてしまうのかっていうのが、最後の大きな謎だったんだよね。結局、犯人はその娘なんですよ。なぜならば、その娘は「愛してくれる人に殺されたい」と願っているんですね。彼女は人を愛したいとは全然思っていなくて、愛してくれた人に殺されるということに快感を覚える人なんです。だから、愛してくれた人から順に加害者になっていくんですよ。彼女がそう仕向けているわけ。でも前に言った通り、探偵が事件を解決するとその彼女の殺人感情も含めてぜんぶなかったことになるから、彼女は合計32回も、何度も何度も殺されてしまうんです。
岡村 なぜ主人公がそこまで、このとても魅力的な女の子に惚れないのかっていうのも、きちんと回収されます。ちょっとした叙述トリックなんですけど、この主人公、●●●●●●なんですよね。そしてようやく主人公が加害者になる番が回ってくるんですけど、そこでの台詞が……。
太田 最後、泣かせるんだよ。「32回も失恋させてごめんね」って。
山中 いいですね! 面白い!
太田 オチはほんとにハリウッドのすごい脚本なみだよ。
岡村 まあ上げといてなんですが、まさか太田さんがここまで絶賛するとは思いませんでした。
太田 いやーよかったよ。この人はアイデアについてはすごい才能がある。構成は本当に上手くないし、最初の事件を解決するときの探偵の手際も悪いし、固有名詞のセンスもダサいけど……アイデアはほんとにすごい。ぜひまた、うちに新しい作品を応募してきてほしいね。
山中 この方は冒頭から結末までの導き方を学んだ方がいいようなので、たとえば『ハリウッド脚本術』みたいな技術書を読むといいんじゃないでしょうか?
太田 確かにね。それを読んだ後、乙一さんの作品も読んでほしいね。『GOTH』なんて、完璧に構成が計算されてるから。
山中 乙一さんの物語の骨格については『ミステリーの書き方』でかなり詳細に解説されていますね。
太田 それから構成に加えて、キャラ作りも学んでほしいね。魅力的なキャラがいないし、登場人物も多すぎる。その2つを勉強したら、後は数かな。どんどん応募してきてほしい! 僕はこの人、大好きです。
注目の新人候補あらわる!
今井 盛り上ってきたところでいよいよ最後の作品、『ギルトギルド―安楽椅子に座る愚者―』、いきましょう!
山中 問題作ですね!
太田 これはねえ……とりあえず最初に読んだ岡村さん、説明してくれたまえ!
岡村 はい。豪奢なお屋敷に集められた、男女が8人。彼らの共通点は、皆服役中である犯罪者。でも、なぜか刑務所から出され集められた。そして何が起こるかというと、みなさんお待ちかねの密室殺人! 首もばっちり切られます。主人公は世の中を斜めに見ている青年。ヒロインはとてもかわいい少女。あとは、主人公をいきなり殴る女の子がいたり……。
太田 エキセントリックなんだよね。
岡村 エキセントリックですねー。平たく言うと、みんな才能はあるけど異常者なんです。
太田 そういう紹介の仕方でいいのかな……。
山中 「とある作品」が頭をよぎりますよね……。僕もそういう風に聞いてから読んだので、最初からややうがった目で見てしまったんです。でも、この人のオリジナリティもちゃんとある作品なんですよね。ただやっぱり……、リスペクトしすぎじゃないでしょうか。
岡村 そこはそうですね。
太田 うん。前回の作品を読んだときも思ったけど、やっぱり才能は確実にあるんだよこの人。デビューも必ずいつかすると思う。緑萌さんはどう思った?
平林 いやー、10年前の僕はこういうの読んで興奮してたなって、なんか懐かしい気持ちになりました。ただ、先行作品に細かいところのクセが似すぎてるんですよね。登場人物のことをさん付けで呼んだりだとか。狙って寄せて来てるとしたら、大物だなと思いました。
岡村 狙ってるんだと思いますけどね。太田さんへのメッセージですよ、これ。
太田 うーん……。ラブレターなのかなあ……なんだよね……。
山中 ただ、愛のあるリスペクトと好意的に解釈しても、キャラが弱いですね。特に男性は読んでても区別がつかない。
岡村 あとこれは、ちゃんとシリーズものにできる終わり方をしてるんですよ。
太田 うん、続きがすごく読みたくなる。この人はひょっとしてかなりの大器になるかもしれない。ならないかもしれない。前回応募してくれてたやつもけっこう良かったんだよね。センスは確実にあるんだよこの人は。だからやっぱり、悩んだけど……自力で突き抜けてほしい。うーん、だから今回も受賞作は「なし」で!
一同 残念!
太田 ただ、100作近く来て、有望な人が2作品っていう打率は、実に悪くない。さらなる希望が見えてきたって言っていいと思う。それでは今回の座談会はこのへんで。みなさん、おつかれさまでした!!
一同 おつかれさまでした!
一行コメント
『無垢なる夏の歩み』
「日本には既に季節がない」という設定は面白そうかなと思ったのですが、肝心の中身に面白みを感じることができませんでした。(今井)
『バイト奇譚』
和装本を手に取ったことはありますか? そのくらいの勉強はして下さい。(平林)
『Occupied Memories』
ちょっとテンションについていけませんでした。セリフもどこか郷愁が……。(今井)
『The GAINERS/ゲイナーズ』
意味があるとは思えない品のない描写や差別表現が多数あり。出版できません。(岡村)
『ポストモダン・ヒロインズ』
変身ヒロインが生身の体と変身後の体の二つに分かれてしまい、それ故にお互いに葛藤が生まれるという構造はよかった。ただテキスト全体に幼さを感じる。(山中)
『桜酔い』
雰囲気を優先しているせいで分かりにくくなっている。やりたいことは何となく分かるが、技術が追いついていないように思います。(平林)
『祟り噺【業】』
設定に入り込むことができませんでした。タイトル、業を〝カルマ〟と読む時点でだいぶ厳しいかなと……。(今井)
『鬼神覚醒ウツブキ』
「こういう伝奇小説が書きたい!」という気持ちは伝わってきますが、古すぎます。(岡村)
『呪われた臙脂の剣(つるぎ)』
魯迅が『眉間尺』で素材とした干将・莫耶の説話が下敷きとお見受けします。西洋風の世界観に移植するのはアリかと思いますが、それにしても面白くない。それこそ『眉間尺』や、『捜神記』でも読んでたほうが短時間で満足度が高いですよ。(平林)
『C×C』
表現が古いです。また、長過ぎます。(今井)
『鞘火~失われた土曜日~』
他社の賞を取った作品にこういうのは恐縮ですが、最後の敵との対決があっけなさすぎです。(岡村)
『感情継続支援社~綿橋つづりの言い訳と組川兄妹の助言~』
いや、このつかみは全然インパクトないと思いますよ。(平林)
『ウォッシング・マシン・ガールズのステラホール』
一言で言えば『魔女の宅急便 2012』。魔女の女の子達がキャッキャしてるのはかわいいし、その裏側で大人達の物語がミステリ的に展開しているのも構造としてすごくよかったのだけど、オチが散漫。なにを書きたかったのかが最後にほどけてしまったイメージがあるので、ゴールを明確にしてもう一度新たな作品でトライして欲しいです。(山中)
『朝焼けの謳(うた)』
ディティールと世界観の説明が明らかに描写不足。色々と雑です。(岡村)
『上名木のコトワリ(かみなぎのことわり)』
主人公のキャラクターがとてもよかったです。ただ、冒頭でもう少し動きが欲しかった……。(今井)
『世界の果ての黒羊たち』
凡庸。こういう作品は本当に沢山送られてくるので、120点以上のものでないと厳しいと思います。(平林)
『落伍(らくご)』
部分部分面白いところはあるのですが、全体的には破綻しています。(平林)
『終息への輪廻』
力作ですが、読ませるものがありませんでした。(今井)
『エムズスクエア~Doing it Right~』
ごめんなさい。付いていけませんでした。(今井)
『おやすみなさい』
さようなら。(柿内)
『スケルターズ・ワルツ』
力作ですが、入り込めませんでした。(竹村)
『少年は電気ヒツジの夢を見る』
手堅く読ませるが、とにかく長い。(平林)
『=ひとでなし』
努力賞。(柿内)
『オティーリエ・シュトローム!』
もう、冒頭で猫探しするのは禁止にしたい……。(平林)
『僕が一体何をした?』
力作ですが、入り込めませんでした。(竹村)
『超ヒトネコ伝説オマエ・モナー 妖神編』
オマエモナーに郷愁を覚えました。特筆すべきところはありません。(山中)
『愛よりして我が救い主は死にたまう』
物語としての出口が見えてこないため、主人公の行動や言動がなにに根ざしてのものなのかが見えてこない。時間軸を前後させた書き方も混乱を招くだけになってしまっています。(山中)
『CUE部』
文章は読みやすいですが、最後まで読むまでの魅力は感じられませんでした。(竹村)
『くぎけん』
本筋こそ違うものの、ちょっと設定が『STEINS;GATE』過ぎるかなと……。ただ、お話自体はおもしろかったので、是非また読ませて頂きたいです。(今井)
『LOVESONGに眠る子どもたち(改題前:distorted)』
冒頭10ページで語られる設定に、誰にでも容易に指摘しうる瑕疵がある。文章が読み辛い。(平林)
『野次馬Congratulations!』
主人公の輝木松明等、固有名詞にセンスがなさすぎます。(今井)
『UNION UNIVERSE(ユニオンバース)』
読んでいてさっぱりこの作中世界が理解できない。そこを読者の想像力に頼らなければならないものを作品とは呼べません。(岡村)
『悪の表微』
冒頭はスピード感があり、楽しめました。しかし、その後の展開に意外性がなく、尻すぼみに終わったのが残念です。(今井)
『灯ヶ丘の恋の魔法(あかりがおかのこいのまほう)』
登場人物が読んでいて面白くもない設定をだらだら喋るのはエレガントでないと思います。(平林)
『ワンダーワーク』
世界全体の輪郭がぼんやりしすぎてる印象。魔法使いモノとしての具体的な説得力が感じられません。(山中)
『妄想男と仮面の女』
物語は破綻していないけど、面白いと思えるところがありませんでした。(岡村)
『ミリオンダラー・ボーイ』
大金持ちのリアリティが感じられない。(山中)
『ワイアード』
「長野の北のほう」出身だからって、革命的な新世代の携帯端末の存在すら知らないのはおかしくないですか? 作品の根幹部分なので、そこはもっとしっかり考えてあげましょうよ……。(平林)
『アルファベットと鋲の話』
これは頭に入ってこないです。(平林)
『ムスカリとレンゲソウ』
こんな小学生はいないでしょう。〝この物語の中〟でのリアリティから大きく逸脱している印象を受けます。(山中)
『SCHEMER(スキーマー)』
お話自体は大きな破綻もなく読むことができました。しかし、ちょっと長すぎるかなと思います。読み手の集中力のことも考えて書いて頂けると幸いです。(今井)
『ロッキン・ローリン・サンシャイン・グラウンド』
古い。ご都合。つまらないです。(岡村)
『羅刹少女(ラセツショウジョ)』
程よく省略の効いた細か過ぎない描写で、読みやすい文章でした。しかし、(今井)
『ご近所RPG』
発想も文章も面白かったです。が、商品にするまでのレベルには達していませんでした。(竹村)
『歩く喜劇の法則』
オリジナリティも乏しく、心をつかむものがありませんでした。(竹村)
『トマトジュース』
主人公の不幸とネガティブな心理描写が延々と描かれた作品。読んでいて気分が悪くなりました。(岡村)
『地球の夏休みを、廃墟で』
主人公に共感することができず、物語に入っていくことができませんでした。(今井)
『シュヴァインの王』
文体、使われている単語、台詞、どれも古い。(岡村)
『SGS―しののめガードサービス―』
キャラクターがなかなか良かったです。お話はちょっと手堅すぎるかな。あと、男性読者にアピールするのが難しいのではないかという気がします。(平林)
『スパニッシュ九州の魔法』
小学生の頃に長崎にいたらこんな雰囲気なのだろうか、という独特の空気感。全体としては物語の動きがゆっくりすぎて間延びしてしまっています。時系列をバラバラに書いているのも、技巧が足りないのか書き切れていない印象があるので、まず筋道を立てて物語を冒頭からゴールまで誘導して欲しいです。(山中)
『ラグナロクの後』
終末戦争、西暦5963年、キャラクター名を北欧神から引用……。きついです。(岡村)
『探偵は助手にパンツを被せる』
被せないほうがよかったかと……。それと、出力の時は普通のフォントでプリントアウトしてくださって大丈夫です。(今井)
『クロス・スパイラル~隣り合わせのパラサイト~』
摸倣。悪い意味で。(柿内)
『ぐるり廻る世界で―Absence sharpens love,presence atrengthrns it.―』
おもしろく読ませて頂きました。ただ、各キャラクターに感情移入することができず、物語に没頭することができませんでした。(今井)
『Toy box』
序盤で物語に動きがなさすぎる。座談会では再三になるけれど、最初の5%〜10%ぐらいで先を読みたくなるなにかを提示して下さい。(山中)
『Pilgrimage』
これは小説ではなく詩なのでは……。書籍の本文用紙にきっちり組版された原稿は読みやすかったです。(山中)
『春風のハーモニー』
テンションが痛々しい。マンモス校が全然マンモスじゃない。長い。(平林)
『百の仮説と悪人形』
今回の作品も悪くはない。またしても担当したなかでは一番良かった。だが、どこか既視感がある。うーん、ホントがんばって。何を?というのは、血尿出しながら「自分で」考えてみましょう。(柿内)
『夢みる心臓』
物語の構造がばらばらになっていて、ストーリーがまるで見えてこない。もう一度なにを書きたかったのか振り返って欲しいです。(山中)
『ライツ・カメラ・フィクション』
自分の世界に「酔いすぎ」です。(柿内)
『3とらいとと、UFO』
設定の伝え方が荒っぽいと感じました。この人はこういう設定なので!と押し付けられているようなイメージです。(今井)
『天使形態論にとってのウニウエルシタス』
依然として迷走中ですね……。ちょっと書くのをやめてみたらどうでしょう?(平林)
『結魂』
作中に漂う雰囲気が、どうにもバブルっぽい。反魂法についてもう少し具体的描写がないといけないのでは?(平林)
『月影の祭』
あまりにも淡々としすぎていて、特筆すべき点がみあたりません。(山中)
『さらば、アポカリプス』
うーん、薄い。(平林)
『あめふらしの夜に』
キャラクター同士の台詞回しは小気味好いんですが、100ページ読んでも作品の世界観がしっくりきません。(岡村)
『シリアルキラーは振り向かない』
今回読んだ中では一番文体があるな、と思ったのはこの作品です。ただ、物語のメインになる事件がそもそも分かりづらく、いまいち血なまぐさい事件が起きる要因がどこにあるのかが見えてこないですね。キャラクターはカッコイイし、外連味のある文章も好みだったので、また是非頑張って応募してみて下さい。(山中)
『神籠の鳥』
設定および展開の整理が不充分で、資料ももう少し集めたほうがいい。しかし、妙なパワーがあって面白かったです。また自信作が書けたら送ってください。(平林)
『十和のススメ』
荒唐無稽なお話を書くのであれば、その大噓を信じこませるだけの論理か、筆力が必要になると思います。残念ながらどちらも感じられませんでした。(今井)
『キカイの頰に雨が落ちても』
一番の問題は物語の動線が整理されていないこと。ラストの驚きもこれはやっぱり短〜中編レベルの驚きで大きくない。この仕掛けが毎回のシークエンスにあるくらいじゃないと、300枚クラスの作品を成り立たせるのは難しいです。(太田)
『不意にレゼイロ、奇しくも』
作風が暗くて重い。そして何の為に暗くて重く書いたのか、全部読んでも伝わってきませんでした。(岡村)
『クイズサークル・クロニクル』
やべえ、これは尖り過ぎ!(平林)
『ふたご座のクロエ・ストゥアルダ』
情報の開示の仕方が、読者に対して不親切です。具体的に言うと、冒頭数十ページが読みにくいです。(平林)
『中二病の恋』
序盤はセンスを感じて「これは!」と思ったが、後半は普通だった。惜しい。(岡村)
『観月のコト。』
伝えたいことは何なのか、何が書きたいのかが、わかりませんでした。(今井)
『吸血鬼の娘』
丁寧に書かれていますが、やはり少々地味か。家妖精のキャラクターは非常に良かったです。(平林)
『耳鳴りの向こう側の言葉』
12色の龍が存在する世界のお話……。150点をとらないと難しい設定だと思います。(今井)
『魔女の反証』
結局、ヒロインはどうして主人公をここまで好きになったのでしょうか……。最後までそこが描かれてなくて、びっくりです。(岡村)
『SACRIFICE』
ちらちらと視界に入る『ヱヴァンゲリオン』の影……。ループ構造は手段と目的が入れ替わってしまっているのでは。(山中)
『柚希すみれ、来日事件』
キャラクターの設定が突飛なのはいいです。でも作品のディティールにつっこみどころが多すぎて、読んでいるうちに白けました。(岡村)
『GAME “B”OOK GAME~ゲームブックゲーム~』
一言で長い。前提となるゲームの設定も特にワクワクするようなものではないという点で冒頭から期待感がぐっと下がってしまったので、こういう構造にするのなら出来るだけ気を配って欲しいです。(山中)
『へなちょこガーディアン』
冒頭20%ぐらいで作品としてのオリジナリティをどこからも見いだせず断念。(山中)
『巡礼路ダルダシオーン』
ちょっと長すぎました……。もう少しコンパクトにまとめて頂けないでしょうか?(今井)
『みねねのねんね』
小学生に異能力が宿り学習塾でカンニングをする、という内容。……読者層が想定できません。狭い。(岡村)
『幕末八咫鴉』
史実とフィクションが面白く組み合っていない。あと史実の部分が説明的で冗長なので作品全体がだれてしまっています。(岡村)
『吟遊詩人への祈り』
登場人物が印象に残らない。物語に起伏もない。読んでいて眠くなります。(岡村)