第3回星海社FICTIONS新人賞 編集者座談会

2011年9月14日@星海社会議室

野中美里『2WEEKS イカレタ愛』2011年最後の選考座談会、応募総数は最多の116作品! 白熱の議論の末、史上2人目の受賞者が誕生だ!

今年最後の座談会、開幕!

太田 では、第3回星海社FICTIONS新人賞の選考座談会を始めます。早いもので、もう3回目ですね。

山中 あれ? ということは今年最後ってことですか?

太田 年3回だからそうなるね。今回の応募は、なんと全部で116本! 

一同 おおー!

太田 第1回受賞作、小泉陽一朗こいずみよういちろうさんの『ブレイクきみコア』がタイミング良くハイスピードで出版されたことや、これまでの座談会を通じて編集部や選考の雰囲気が伝わったことに影響があるんじゃないかな。

山中 それで、今まで様子見してた人たちが送ってくれるようになったのかもですね。

太田 でも、ここは“あえて”今まで以上に厳しくいきましょう。なぜなら、このままの勢いで投稿数が増えていくと、我々の選考システムは崩壊するからです!(キッパリ)

平林 この人数で読める本数には限りがありますからね

太田 そう、太田的には編集部の練度れんどにもまだまだ満足していない。とくにアシスタントエディターの平林・山中・岡村の三人には奮起ふんきを望みます。今が一人前の編集者になれるかどうかの境目です。

山中 太田さんを越えると宣言したリミットの日まで、あと一年を切ってしまった

太田 わはは。まじめな話、この一年で、逆に差は広がってしまったんじゃない(笑)? それはさておき、我が星海社FICTIONS新人賞のような選考システムを採った新人賞の場合、才能のない人の投稿が増えすぎると非常に困る。もちろん、投稿して頂けることは大変ありがたいことだし、投稿者の皆さんのことを大切には思っているけれど、甘やかしはしない、そういうことです。我々は投稿者の才能を評価するプロなのであって、投稿者の努力を評価するプロではないからね。才能ある人だけが集ってくる賞にするためにも、しっかりと面白い作品を選んでいきましょう!

竹村俊介、登場!

太田 さて、ではさっそく選考に

山中 あ、ちょっと待って下さい、竹村さんの紹介をお願いします。

太田 あれ? 竹村さんって前回はまだいなかったんだっけ?

岡村 前回は僕の初登場回でしたねー。

太田 ああ、そうか! では星海社のニューカマー、竹村さん、自己紹介を!

竹村 中経ちゅうけい出版という会社で、ビジネス書や実用書を作っていました。片づけの本や哲学の本、英語の本などです。ノンフィクション畑の出身なので、フィクションは勝手が分からないところもあるんですが、フィクション・ノンフィクションを問わず、人を感動させたり、心を動かすという部分は同じだと思うので、今回は僕なりの視点で評価できればと思います。

柿内 竹村君は真面目だなぁ(笑)。

平林 いやぁ、真面目な竹村さんがどう崩れていくのか楽しみです(笑)。

山中 え? 崩すの?

平林 座談会を通じて崩していくということで(笑)。

太田 崩す崩さないはともかく、編集者の個性は“読み筋”で分かるから、竹村さんの評価に注目しています! それに、編集者はそれぞれの「得意フィールド」はあるにせよ、フィクション・ノンフィクションの別で極端に性能が変わったりはしないよ。編集者の仕事は竹村さんの言葉どおり、「心を動かす」ことだからね。竹村さん、安心して選考してください。

竹村 はい!

志が低い!

太田 では、早速選考に入っていきましょう。まず、『ギャルゲと×××の違いが君にはちょっとわからない』、これは?

平林 僕ですけど、これは一行で。

太田 はい、一行ちょっと待って。これのタイトルについては話しておこう。こういう系統のタイトルは最近、本当に増えたよね?

平林 長文タイトル、確実に増えてますね。

太田 こういうのって明らかに『俺妹』の影響で、つまるところ電撃文庫の編集者である三木一馬さんが偉いってことなんだけど、ひとつのヒット作の柳の下にドジョウが2匹も3匹もいるであろうことは世の常にしても、投稿の段階からこれじゃあ、ちょっと志が低いんじゃないかと思う。

山中 みんな「右にならえ」じゃあ芸がなさ過ぎですよね。

平林 内容に見るべきところがあればまた話は違うんですが

柿内 内容も、どこかで見たような感じのツギハギでしたね。都合の良い設定に、おきまりの女の子が登場して。タイトルも含めて、オリジナリティは感じられませんでした。

竹村 フィクションでもノンフィクションでも、うまく真似るならまだしも、小手先でつくったものは魅力に欠けるかなと思います。

山中 もうホントこういうの勘弁してほしいですよね

太田 流行の波に乗ってかっちり「当てにいく」っていうプロならではの仕事もあって、それはそれで僕はかっこいいと思うんだけど、投稿段階から「当てにいく」っていうのは志が低すぎる。投稿者の方の年齢も、まだ若いでしょ。この年齢でこんなこと考えてちゃダメだよ。流行の波に乗るんじゃなくって、流行の波を創りにいこうよ。我々はこういう志の低さを感じてしまうものはさくっと一行で切って捨てるので、投稿者もそのつもりで送ってください。

暴走族がアツい?

太田 次は『憐憫れんびんのザナドゥ』。

平林 これも一行かなぁ■■■■さん(ペンネーム)。

一同 ■■■?

太田 ■■■■(笑)。この人の年齢はああ、なるほど。

平林 この人は本当に古くて作中に登場する不良がリーゼントでバイクに乗ってたりするんですよ

一同 (爆笑)

太田 昔の『チャンピオン』系なんだ(笑)。

平林 女の子のしゃべり方も「~ですわ」みたいな、もう80年代を通り越して70年代を感じました。この人はヤバかったです。

太田 ペンネームより本名の方がいいね。名詞のセンスのない人にありがちなことだけど(笑)。

平林 内容もちょっと品がなくて、本筋が見えない状態で下品なシーンに枚数を割かれてもっていう。「これはひどいぞ」と思いながらも、ひどすぎて逆にしっかり読んでしまいました

太田 ああー、あるよね、そういうこと。わりと楽しく読めてしまったり(笑)。

山中 えーと、古いと言えば僕の担当に暴走族ものがありまして。

太田 どれ?

山中 タイトルからすごくて、『爆音と静寂、リターンズ』です。

一同 (爆笑)

竹村 僕はちょっと好きですけどね(笑)。爆音と静寂。

太田 いや、タイトルはいい感じだよ、これ。僕は好きだな。(『特攻ぶっこみたく』の)佐木飛朗斗さきひろと先生みたいな感じなの?

山中 全然違いました。最初「『爆音スカイヘブン』元ヘッド」とか「『静寂グラウンドヘル』のヘッド」とかなかなかいい感じのキャラクター紹介が載ってて、「お、いいぞいいぞ」と思ってたんですが、なぜかやくざ者とのオタク語りが始まって。冒頭に『金の瞳と鉄の剣』の引用があるんですが、それもなぜ引用したのかも意味不明で。

岡村 この人は前回僕が担当しましたけど、何が書いてあるのかさっぱり意味が分かりませんでした。

山中 そう、そうなんだよ!

太田 いや、彼はなんかちょっといいんじゃない? 興味が出てきたんだけど。

平林 いや、やめた方がいいですよ。なんたって肩書きが「アマチュアクリエーター」ですから

柿内 「アマチュアクリエーター」(笑)

太田 (原稿を見ながら)うーん、この人はデンジャラスだ! ところで佐木先生と言えば(と、佐木飛朗斗先生にまつわる太田のとっておき話で20分脱線)。

コストをかけた作品を!

太田 ね、佐木先生ってマジでグレイトでしょ? じゃ、次に行こうか。『吸血鬼少女の推理』、これを読んだのは?

平林 僕ですね。この人、皆勤賞なんですよ。

竹村 皆勤賞とは! すばらしい。

太田 あっ、ホントだ、投稿、3回目だね。どうだった?

平林 うーん、残念ながら良くなかったです。吸血鬼モノかつミステリだったんですが、せいぜい短編一本にしかならないような小粒なネタで無理矢理長編を書いたような感じでした。主人公の一人称の文体も、あんまり成功していなかったです。担当した中にもう一人皆勤賞の方がいて、それは良かったのでみんなに回したんですが。

山中 僕が担当したなかだと『僕をわすれないで』の方も皆勤賞です。第1回の『見えない光と綺麗な世界』の方ですね。

太田 ああ、あの人か。今回はどうだったの?

山中 今回は伝奇ものだったんですけど、前回と同じように冒頭部分で構成面での欠点があって、残念ながらみんなに回したいレベルの作品にはなっていなかったです。一番はじめに送ってくれたようなファンタジーの方向で、やりたいことをもう一度考えた方がいいかもしれないと思いました。

太田 そうかぁ。しかし、毎回送ってくれる人たち、他の賞に落ちたものじゃなくて、この賞のために書いているとしたら大したもんだよね。昔の西尾にしお維新いしん)さんや舞城まいじょう王太郎おうたろう)さんも「メフィスト賞」の常連投稿者で、ある意味困った投稿者だったんだけれど、それぞれ急に別人にでもなったかのような傑作を投稿してくれたんだよね。だから、この人たちにもそういう変化を期待したいね。

山中 期待したいですね。

太田 たくさん小説を書ける人は投稿作品とは言えど、何本も小説を書いて場数は踏んでいるわけだから、座談会で俎上そじょうに載せるレベルの作品は書けるかもしれない。でも、どこかで腰を据えて、「その先」を狙ってしっかり小説を書いて欲しいね。

平林 ちゃんとコストをかけて欲しいですね。核になるネタは短編一本分でも、そこから頭だけで書くのと、取材や資料集めをしっかりやって膨らませていくのではまるで違う小説になるはずなんですよ。ちゃんと完結した長編作品を書けるなら、そこから上を目指して欲しいです。

柿内 やっぱり川に落ちないとダメなんじゃない?

一同 (爆笑)

平林 でも、川に落ちた人(第1回、第2回座談会参照)、戻ってこないんですよね

山中 次あたり、帰ってくるんじゃないですかね?

太田 帰ってくるかなぁ。

岡村 実は、僕のところにも皆勤賞の方の作品があったんですけど、きつかったですね。

山中 皆勤賞、多いなぁ。

太田 愛されてるね、僕たちは。しかしまあ、精神的にきつく感じる愛もあるってことか。

岡村 『DRAGON×ANGEL』っていうのなんですけど、古い児童向けファンタジーって感じでした。とにかく古くてしんどかったです。

平林 1回目は僕が読んだ人だね。確かにそのときも古かった。

柿内 ええと、2回目は僕か。めちゃくちゃ厳しく講評した覚えがあるんだけど、ダメだったか~。

太田 なんでそうなっちゃうのか分からないけど、「コストをかけろ」っていう緑萌さんの意見はきっと正しいんじゃないかな。投稿者だからこそ、〆切りにとらわれずに書けるわけでしょ? プロ作家が〆切りに追われるみたいに新人賞の〆切りに追われて小説を書くのなんて馬鹿げてるよ。プロ作家になったって、あちこちの出版社の〆切りに追われる人なんてそんなに沢山いないじゃない。

山中 プロ作家としての予行演習ですかね。

太田 誰に頼まれたわけでもないのに書いてるんだから、納得のいく時間のかけ方、コストのかけ方をして、渾身の一作を書いて欲しい。とくに常連の人にはそれを考えて欲しいね。「〆切りにあわせて書こう」っていう前提を、一度考え直して欲しい。気合いか、時間か、最低、そのどちらかは全力でかけてみようぜ。

迷惑な投稿者

太田 あと、この機会を借りて言っておきたいことがあるんだよね。迷惑な投稿者について。最近、新人賞じゃなくて、僕に直接原稿を送ってくる人がいるのよ。基本的に即ゴミ箱に捨てることにしてるんだけど、本当に勘弁してほしい。出社早々、本当にイヤな気分になる。新人賞があるのに、なんで僕に直接送ってくるの?

岡村 太田さんに直接読んでもらいたい、ってことかもしれないですけど、新人賞をすっ飛ばして編集長に直接投稿というのは常識が足りてない。

太田 平野啓一郎ひらのけいいちろうさんくらい才能があるなら、非常識でももちろんオッケーなんだけどさ。僕という編集者はこの星海社FICTIONS新人賞に全力をかけているんだから、この新人賞に応募して、正々堂々と僕と真剣勝負して欲しい。

柿内 どうせなら、原稿を真剣に捨てる動画をアップしましょう!

太田 Ustreamで燃やすところを実況したりねって、それはやりすぎ!

平林 そういえば、「新人賞に投稿したのですが、一カ所修正したいところがある」っていうメールも来たんですよね

山中 そういう細かいところで当落が決まると考えてる時点でアウトですよね。

平林 しかもその人、原稿が〆切りより遅れて届いたんで次回の選考対象に回した人なんですよ。

岡村 ちょっといろいろな面でルーズですね

山中 今回は「辞退」した人もいますからね。せっかく夜中に星海社のポストまで投函とうかんしにきたのに、後日辞退したいって言ってきたという。

柿内 錯乱してるねー。

太田 いい加減にしてよ、って感じだよね。僕たちのみならず、真剣に投稿している人に対しても迷惑なので、そういう人はもうこれからは送ってこなくて結構です。

岡村、ドM疑惑!

太田 さ、気を取り直して選考に戻ろう。次は、岡村さんが担当した『Black Black Chocolate Sundae』。

岡村 ヒロインの女の子のキャラがすごく立っているのがいいと思いました。主人公があまり活躍しないというのは欠点ですね。高校が舞台なんですが、高校生の感情が生々しく書かれているのがいいと思いました。

太田 ええ~。僕も読んだけど、そうは思わなかったなぁ。

山中 どんな話なの?

岡村 現代の高校が舞台なんですけど、「眠り病」という、眠るように死んでしまう奇病が流行っているという設定です。で、実は「眠り病」の正体は、死神に魂を食べられていたという。

山中 ありがちだなぁ!

柿内 また死神か! 今回、2回くらい見たぞ!

竹村 「ザ・ベタ」というやつですね。死神。

岡村 今回僕が担当した38作品の中で、「死神の女の子」っていう設定、実は3回出てきました(笑)。

一同 なんだと!

岡村 まあ、そんな3作品のうちの一つなんですが、僕はこれはいいと思いました。2人出てくる死神の女の子のうちの1人がドSキャラで、そのドSっぷりが良かったです。

柿内 それは、岡村君がドMってこと?

一同 (爆笑)

岡村 あながち否定できませんね

平林 否定しないんだ!

太田 僕、これ全然だめだった。ってことは僕はドSなのか!? って冗談はさておいて、年齢のわりに文体が親父くさかったんだよな。ちょっとここ読んでみてよ。

平林 (原稿を見ながら)うーん、確かにこれは厳しい。

太田 2ちゃんねるだったら「おっさん帰れ!」って言われるレベルだよ。僕は設定が死神だろうが吸血鬼だろうが別にいいと思うし、ドSっぷりもいいと思うんだけど、とにかく文章の感覚が親父っぽすぎると思う。このままではちょっと受けつけないなあ。

若き投稿者たち

太田 次、『エニシのハナシ縁の下の太鼓持ち』。

柿内 これは15歳の子ですね。最年少ではないですけど、二番目に若かったですね。

山中 おお、若い!

柿内 これまでの座談会では70代とか高齢の方が多かったのに、今回は10代が多くて、いきなり半世紀以上若返りました(笑)。

太田 今回、統計をとってみたけれど、わりと理想的な投稿者年齢になってきたよね。20代半ば過ぎ。

岡村 この作品、内容的にはどうでした?

柿内 拙いんだけど、リアルな15歳の心の動きがよく描写されていたかな。しかし、リアルであるがゆえに物語が平凡でつまらない。高校生にありがちな悩みが書かれている「だけ」だったんですよね。

太田 ちょっと純文学っぽかったのかな?

柿内 そうですね。でも、僕が下読みしたなかではいちばんよかったですよ。

平林 最年少は何歳だったんですか?

柿内 『夏の終わりに』というのが13歳で最年少。リアル中2です。

一同 おお~!

太田 リアル中2、いいね! グッとくるね!

柿内 文章もしっかりしているし、リズム・文体も悪くない。ただ、まだまだ設定が甘いですね。リアル中2だけど、僕の大学2年のときのほうがはるかに中2っぽかった(笑)。これから小説を書いていけば、もっと良くなると思います。ぜひまた投稿してきてほしいですね。

太田 10代の若者はこれから伸びる余地がまだまだ残されていると思うから、酷評にもめげずに頑張ってほしいね!

欠点は潰せても、長所は作れない

岡村 次は僕が担当した『稀覯禁書イストリア』ですね。

太田 これはまあまあだったんじゃないの?

岡村 そうですね、内容はガチのファンタジーです。主人公の少年が、世界の命運を左右する能力を持つヒロインの少女を助け、ヒロインを狙う勢力と主人公が仲間と共に戦っていく、という感じです。今回担当したファンタジー作品の中では、設定や物語の起承転結は一番しっかりしていました。ただ、それだけで、飛び抜けていいところがなかったんですよね。

柿内 俺も読んだけど、全部が「平均点よりちょっと上」って感じなんだよね。欠点を探すのが難しい作品なんだけど、いいところを探すのも難しい。

平林 僕はちょっと古いかなぁと思った。ラブコメ的な会話の最後に♥がついてたりするじゃない? その使い方とかが、ちょっとね

岡村 うーん、確かに。

平林 そういう意味では、もっと昔気質なファンタジーの読者がいるレーベルのほうが向いてるかも知れない。プロフィールを見ると、受賞歴もある方だし、「本を出したい!」っていう気迫は感じますしね。

柿内 欠点を探すのは本当に難しいんだよね

平林 でも、欠点は受賞後の改稿で潰せますけど、長所を新たに作ることは難しいですよね。

太田 いいこと言った! それは確かにその通り、「この人じゃないと!」っていう特色はそう簡単に作れないんだよ。舞城さんなんて、過剰なほどそれがあったからね。西尾さんも投稿を始めた頃から西尾さんならではの特色があったし。そういう人って、座談会でいつも話題になるし、思い返せば僕がいた時代のメフィスト賞ではそういう投稿者は最終的にはデビューしてるからね。だから、投稿段階では欠点を消すよりも、自分ならではの特色をアピールして欲しい。範馬勇次郎はんまゆうじろう的に言うならば、「持ち味をイカせッッ」。そう考えると、多数の新人賞に応募するのも考えものだよね。「次の作品は○○文庫っぽく書いてみよう」とかって考え、果たしてそれでいいのかね?

山中 自分の作家性を考えながら書いて欲しい、ということですね。星海社は確かに、器用さよりも、不器用だけど強烈な作家性を求めていますよね。

太田 プロ並みに器用な投稿者だったら、とっくにデビューしてるはずだしね(笑)。

平林 そういう意味だと、この人の「スタンダードなファンタジーでそれなりのものが書ける」という性質は、残念ながらうちにはあまり向いていないんじゃないか、と。

太田 それこそ、こういうウェルメイドなものを求めているレーベルはあるだろうしね。破綻があっても、なにか一点、読んでいて心に激しくひっかかるものが欲しかったなあ。

これ、オリジナル?

太田 次は岡村さんが担当した『MV Meteddo Vevaea』。これは高校生?

岡村 そうですね、高校生でこの枚数書けるのは素直にすごいです。

山中 何枚くらい?

岡村 400枚以上ありました。

太田 おお、それは確かに頑張ったね。

岡村 ただ、肝心の内容がまんま『IS〈インフィニット・ストラトス〉』なんですよね

山中 タイトルもそれっぽい!

太田 岡村さんもさらっときついことを言うようになってきたねえ(笑)。

岡村 いやいや、でも本当にそうなんですよ。架空の兵器があって、それを使える男性は主人公だけという設定で、何から何まで『IS』を連想させてしまう内容でした。これをそのまま出版したら、ちょっとタダではすまないだろう、と(笑)。

山中 大変なことになりそう(笑)。

平林 似た例は僕のところにもあって、『コトホギ』ってのがそうなんですけど。

竹村 コトホギ

柿内 タイトルが既に不穏だなあ。

平林 これ、舞台は大正二十年、帝都。女の子が悪魔に襲われているところに、書生姿の男が助けに入りと、ほとんど『葛葉くずのはライドウ』です(笑)。

一同 まんまじゃん!

平林 電波塔がうんたらとか、もうほとんど二次創作でした(笑)。これでライドウを連想しない人はいないだろうと。

山中 もう一つありますよ、『虚無の旋律』!

太田 まだあんのかよ! いい加減にしてくれよ(笑)。

山中 主人公が着物姿で武器は刀式の性別を男にしただけ、まんま『空の境界』!

岡村 冒頭1ページ読んだだけでそれと分かる感じでしたね

太田 わはは、タイトルもそれっぽい(笑)。

山中 よく星海社にこれを送ってきたな、という。度胸はあるのかもしれませんけど、酷い!

太田 みんな、頼むからちゃんと自分の作品を書いてくれよ(泣)!

アメリカからの刺客!

太田 次は『LOZE』、なんとアメリカからの投稿で、事前のキャラ立ちはナンバーワン!

柿内 USAアツいな。

平林 『ストⅡ』だとガイルか。

岡村 ガイル? この人女性ですよ(笑)。

山中 僕が読みました。いやぁ、ガチSFでした。LOZE遺伝子というものの発現によって人類が滅亡の危機に瀕した世界で、その遺伝子を根絶やしにするために生み出された100体のクローンが地上に撒かれ、遺伝子保有者たちを人類のために殺していく、という冒頭から始まるのですが、突然ラブストーリーがはさまってきたり、世界設定に対して展開がちぐはぐなところが幾つかあったのが残念でした。

太田 うーん、そうか。でも、この人の経歴って本当にすごいんだよね。

山中 アメリカの大学の天文学科と物理学科という二つの学科を卒業して、そのあと脳科学科の大学院に入っているという、すごい学歴です。研究者として銀河の研究に従事したのち、現在主婦。半端ないですよ。

太田 超名門大学で学問を修めた元研究者だけあって、設定とかはさすがだよね。ただ、わかりやすいエンターテイメント性が不足しているのかな?

山中 そうですね。設定と物語を上手く嚙み合わせられれば、また違ってくると思うんですが。

平林 出だしはいい感じだったんだけど、ちょっと構成に難があったかな。でも、地力がある人だとは思いました。雰囲気も良かったです。

太田 また送ってくれるかなぁ、この人。お待ちしていますね!

竹村、丁寧にダメ出し

太田 『ぼくたちの声、夏の空に』。読んだのは竹村さん?

竹村 はい。文章も上手く、キャラ設定もストーリーも背景も自然で読みやすかったんですが、冗長でストーリーにメリハリがなかったです。それから、事件が起きるタイミングが遅くて、読者が離れてしまうのではないか、と。

岡村 なるほど。

竹村 ただ、学生時代の甘酸っぱい感じやそわそわした感じ、女の子に手が届きそうで手が届かない空気感が終始漂っていて、好きな人には好きな文章だと思います。多くの人に届けるにはもう少しインパクトが欲しいかな、という感じです。

平林 長所不足型ですかね?

竹村 そうですね、あと長いんです。760ページありました。

太田 長いよ! それで、事件はどのくらいで起こるの?

竹村 半分くらいです(笑)。

一同 厳しい!

平林 もう、事件が起きる前は全部カットでいいんじゃないですか?

竹村 もしくは、時系列をシャッフルして、先に事件を持ってきたほうが良かった。

山中 ストーリー的にはどうでした?

竹村 主人公は高校一年生の男の子で、家に下宿している同い年の従姉に片思いしていてというような話がずっと中盤まで続くんですよね。もう一回送ってくれというレベルかどうかは、正直微妙かも

柿内 家に下宿している同い年の従姉うわぁいいな。

竹村 丁寧に書いていただいているのはいいと思うんですけどね。

平林 竹村さんのダメ出しもすごく丁寧だった

柿内 いや、バカ丁寧に書くのは良くないよ。この人も一度、川に落ちた方がいい! そうしたら、自分が無意識に大事にしている無意味な殻を破れるかも。

太田 カッキーの十八番の突っ込みが今回も炸裂(笑)。でも、この人はたしかにまだ大きな壁をいくつかこえないといけない感じだね。

中二病小説の意欲作!

太田 次は、『阿修羅塵紙師 アシュラティッシャー』。うーん、一行っぽい感じだなぁ

岡村 タイトルすごいな

平林 あ、これちょっと喋らせてください。

山中 お、ここでまさかの緑萌もえぎ賞?

平林 いや、違うんだけど、これはちょっと面白かった。今回も中二病っぽい要素を前面に押し出した投稿作が幾つかあったんですが、そのなかではこれが一番良かったんです。

太田 ほうほう、「続けたまえ」(笑)。

平林 前回の『或る魔王軍の遍歴』みたいに、既存のイメージを逆手に取って、わざとやっているタイプなんです。主人公は高校生の男の子で、「スルー師」を名乗っています。「スルー師」が何をするかというと、駅前のティッシュ配りを華麗にスルーしたり、つまらない授業を寝てやり過ごしたりするわけです。

一同 (爆笑)

平林 そして、いちいちその行為に中二病っぽい名前がつけられているんです。「浮雲うきぐも」とか(笑)。

太田 面白いじゃん! 僕、嫌いじゃないね(笑)。

平林 で、そんな主人公はクラスで「お前まだ中学時代みたいにスルー師とか言ってんの?」とちょっとバカにされている。この客観視している感じも良かったんです。

岡村 いやぁ、いいじゃないですか。読みたくなってきた。

太田 で、「アシュラティッシャー」っていうのは何なの?

平林 最初は都市伝説っぽく書かれるんですが、「スルー師」たちを小馬鹿にしている人たちが噂を流すんですよ。「誰も逃れることができず、絶対にティッシュを受け取ってしまう、伝説のティッシュ配り」が存在するらしいと。

一同 (大爆笑!)

太田 いいじゃない、すっげぇ面白いじゃん! 俺はそういうの大好きだよ!

平林 ネタはすごくいいんですけど、でも、ちょっと構成が詰め切れていなかったのと、主人公を冷めた感じにしちゃったのでリーダビリティーが損なわれた感じがあったんです。スルー師たちが熱くバトルを繰り広げるような展開が、割と冒頭のほうにあったりするとまた違ったと思うんですけど。

山中 もう一歩、って感じですかね。

平林 そう、惜しいんですよ。発想はすごくいいので、是非次も送って欲しいと思います!

太田 発想力を生かしつつ、完成度を上げた再チャレンジを待つ!

悪くはない

太田 次は『サイト・オブ・ユー』。

岡村 これは上げるかどうか迷いました。45歳の方が書いたすごく硬派な作品で、テロものです。メインの登場人物が防衛省の職員で、コンピュータシステムにハッキングして、全世界にミサイルを誤発射させる。一度崩壊した世界の近未来を描く、というものなんですが文体が古い。淡々と語りすぎというか、新鮮さを感じないんですよね。労作だとは思うのですが。

平林 岡村君の説明を聞く限りでは、ちょっとカテゴリーエラーっぽいね。

岡村 そうですね。もしかして違うところに持ち込めば、という感じです。

太田 なんでうちに送ったんだろう、っていうものが依然として散見されるね。どうしてだろう?

山中 僕のところにもそういうのがありました。『汽水域きすいいき』という純文学っぽい作品。奥さんと離婚して、会社も辞めてしまった男が地元に戻って日がな一日、ずっと釣りだけをしている、という始まりです。

太田 つげ義春よしはるみたいな感じね。

平林 あ、僕好み

山中 そうです。で、地元の先輩と川で釣りをしていて「あそこの三角州さんかくすに売春宿があるから一緒に行こうぜ」となってで、男が性に溺れすぎて水門の向こう側に捕らえられる、ということを風俗嬢が延々と語っていく、純文学というよりは幻想小説かな。で、水門が子宮になぞらえられている、という話なんですけど、何故これをうちに送ってきたのかがわからない! また冒頭がすごく読ませるんですよ

平林 僕が幻想小説好きって知ってたのかな

山中 それはない!(笑)

平林 (原稿をめくりつつ)これ、個人的趣味としては好きです。

太田 でも、うちだとやっぱりカテゴリーエラーだよね。わかりやすい純文学の賞に送ればいいのにねえ。

竹村俊介の緻密な採点

太田 次は『Running under the Moon!!』、竹村さん担当だね。

竹村 あ、これは一行でいいかな

柿内 (手元を覗き込みながら)色々書いてあるじゃん、喋りなよ。

竹村 いや、まあ

平林 折角なんで、是非!

柿内 こんなにメモってるんだし!

竹村 じゃあ。えっと、「月下のランナー」という月の出ている夜にだけ家の屋根を走る人がいて、都市伝説になっています。主人公の友人の死をきっかけに、「月下のランナー」が犯人ではないかということになります。で、主人公が「月下のランナー」になりきって謎に迫っていくという内容です。

山中 あらすじだけ聞いていると悪くないような。

竹村 いや、でもあくまでも秀作って感じです。もうちょっと共感を得られるような設定とかストーリーが欲しかったかな、と。あとは心情描写も少なかった。

柿内 (またも手元を覗き込んで)インパクト2、ストーリー3、ディテール2、キャラクター設定3、妄想度2、ぶっとび度2って書いてある。

山中 おおお、すごい。

平林 5段階ですか?

竹村 そうです。この作品は総じて平均的で、突出したところがなかったですね。

太田 いいじゃない、これから竹村さんに当たったら、必ずこうやって数値化して読まれるわけだよ。なんかこうフリーザ様っぽくていいじゃない。理論派の編集者として投稿者に恐れられるかもね!

時代小説に緑萌賞!

太田 『古書迷走』、これは?

平林 僕です。「ついに来た!」というわけで、待望の面白い歴史もの、厳密には時代小説ですね。

太田 おおっ!

山中 ついに緑萌さんを満足させる歴史ものが!

平林 今回の緑萌賞です。

山中 出た、緑萌賞(笑)。

平林 まあ、緑萌賞だからどうってことないんでそこは無視してもらっていいんだけど、今の笑い方がなんかむかつく!(笑)

岡村 まあまあ。この方はどういった経歴の方ですか? しっかりした歴史ものって、そう簡単に書けないですよね?

平林 この方は京大卒、小説CLUB新人賞佳作、ジャンプ小説大賞佳作という経歴の持ち主ですね。当然と言うべきか、それなりのお年です。

太田 ジャンプ小説大賞佳作! あの賞は実はいろいろな作家さんを輩出した賞だからね~。乙一さんや小川一水さんとか。 内容は?

平林 これは入れ子構造になっている作品です。主人公は時代小説を書いている作家で、「なまはげ」と呼ばれている女の子の編集者とその後輩に原稿をせっつかれてるんですね。

一同 (笑)

平林 で、主人公が『うたかたの』という日記風の随筆を資料として、忠臣蔵ちゅうしんぐらの討ち入りの数年後から始まる小説を書いていきます。資料自体は架空の書物なんですが、すごくそれっぽく書かれている。資料を読むに従って、赤穂あこう浪士ろうし事件の背景には将軍位の継承を巡る問題があり、徳川綱吉とくがわつなよしの次の将軍の座を巡って甲州宰相こうしゅうさいしょう家と御三家ごさんけ紀州きしゅう、あと柳沢吉保やなぎさわよしやすがバトルを繰り広げていたという事情が明らかになってくる展開もすごく上手い。で、いきなりこの話に入ってしまうと読者にはわかりづらいので、ワンクッション置いて幕間まくあいで現代に戻ってきて、主人公や編集者が推理していく、という構成もいい。資料もかなりしっかり読み込んでいます。これはうちだとちょっと厳しいんですけど、ちょっと改稿すれば普通に時代小説として出版できるんじゃないかな、と思うんです。

太田 おもしろそうじゃない! どうしようかな。緑萌さん、会ってみる?

平林 そうですね。この方は○○に住んでらっしゃるんですけど、今週末の出張コースにかぶるので、その時にお会いしてこようかと思います。

太田 熱いね!

平林 本格的な時代小説なので『最前線』の若いユーザーさんにはちょっと合わない気がするんですよね。他社で歴史時代小説を多く手がけておられる編集者に紹介するのが良いのかな、と思っています。

太田 大きくなって帰ってきてね、という感じだね。ところで僕、歴史小説に関してはデビューのときにはもっとメジャーな人物を題材にしたほうが良いと思う。信長のぶながとかを書いちゃうとあまりにもベタで俗っぽく見えるのが嫌で、みんな研究したがらないんだけど、それでも恐れずに思い切ってやったほうがいい。『信長のひつぎ』みたいな例もあるからね。

平林 そうですね。もっと有名な人物は出てきたほうが良いと思います。そこらへんも今週末に会って話してきます!

編集部へ召喚決定!

太田 『シェリー・革命前日譚』。これはタイトルに「革命」と記されていたので真っ先に僕が読んでみたんだけど、全体的につたない。文章も「小説的に読ませる」という感じもとくにない。でも、おもしろいかおもしろくないかと問われると、これが実におもしろかった。久保帯人くぼたいと先生が小説を書いたらこうなるのでは、という感じが少ししたね。久保先生的な台詞回しや巧さはこの作品には全くないんだけど、話の展開をどう組み立てるか、というところが凡百ぼんぴゃくの投稿作品の中では群を抜いて良くできている。

岡村 設定はいろいろな作品で見たことがあるようなものが多いんですけど、それに気付いても白けさせずに読ませる作品でしたね。

太田 ストーリーテラーとして天然ものだと思うんだよね、この人は。明らかに矛盾している箇所やツッコミどころがたくさんあるんだけど、とにかくおもしろい。

山中 呼吸障害で人が死ぬ箇所がありますけど、死後に解剖すれば絶対にわかるはずですからね。でも作中では原因不明となっている。

太田 そうだね、そこもおかしい。そして、おかしいところはそこだけじゃない。しかし、小説全体としては二転三転させる展開的なおもしろさに満ちている。しかもナチュラルに書けているんだな。キャラクターは立っているようで立ってなくて、名詞のセンスもあまりないんだけど。だって「シェリー」はないだろう。ただ、こういうテイストが好きな人に対しては安定して作品がつくれる人だと思う。ホームランは少ないけど好機に2塁打をたくさん打てるタイプ。

平林 あと思ったのがこの人、太田さんが過去につくってきた作品を参照しすぎている気がしますね。

岡村 僕も思いました。病院の設定は『DDD』を思わせましたし。あと太田さんの担当作品ではないですけど『禁書目録きんしょもくろく』っぽくも感じました。作品を読んでみるとおそらく一般文芸よりもライトノベルの方が好きなんでしょうね。僕もライトノベル好きですけど。

平林 主人公とシェリーの関係は「いーちゃん」と「哀川潤あいかわじゅん」を連想しました。この人はいままでインプットしてきたものがすごく限定されていると思う。何を読んできたのかが見えてしまう。本人はキャラクターとか属性には興味があると思うんだけど、その背後を支えている理論にはあまり興味がないように感じますね。

山中 そうですね。『戯言ざれごとシリーズ』と『禁書目録』は僕も浮かびました。

平林 そういう意味では正しい今の時代の書き手なんだけど。この内容なのに、哲学も科学哲学も参照した形跡がなかった

太田 なかったね。まだ21歳だけど、確かにインプットが少なく感じるね。しかしそういう意味でもこの人は2、3ヶ月揉めばドーンと化けるんじゃないかな、と僕に思わせるものはあるんだよね。なのでこの人は一度編集部に呼んで会ってみようぜ!

その壁を越えてこい!

太田 『メタルモマ・ストーリー』、これは山中さん。

山中 主人公はアパートで1人ぐらしの高校生。となりに女の子が引っ越してくるんですが、その子が奇行の持ち主で、人の口に指を突っ込んだり、言葉を全て逆に話したり、同級生をボンドでくっつけたりします。で、ある日同じアパートに住んでいる8浪生、まあ、「勉三べんぞうさん」キャラがバラバラの死体で発見されます。それを主人公が女の子と一緒に解決していく、という話です。

太田 これはきつかった

平林 僕もきつかったですね。日本語も大分不自由ですし。

太田 同じ内容で100枚くらいのものだったらまだ読めるけど、冗長すぎる。「言葉を逆に話す」という設定もこんだけ出てくると完全に逆効果。どうでもよくなっちゃうよね。

山中 物語自体に説得力がないですよね。少女が奇行に走る理由もあってないに等しい、って感じでしたし。

岡村 細かい設定は違いますけどこれを読んだ時、入間人間いるまひとまさんの『電波女と青春男』のエリオが浮かんで、それに引きずられましたね。ただ読んでいて何で? と疑問に思う部分がかなり多くて、作中を読み進めて行っても全然それが説明されてない。

平林 これは確実に西尾維新さん以降の流行をとらえて、うまくまとめきれてない作品だよね。新しいところもちょっとはあると思うけど。

太田 ちょっとはあるね。 ただ、同じように荒削りだったさっきの『シェリー』に比べてもまだまだ甘い。欠点が多すぎるんだよね。この人にもまだいくつか壁を越えてもらわないといけないね。

勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい!

太田 ここから各担当が上げた作品だね。期待するぜ! まずは『パーフェクト・エデュケーション』。

岡村 これは僕が担当したなかでは一番設定がおもしろかったです。僕らが生きている現実では勉強することが大事で、ゲームは遊び、という価値観が一般的ですが、この作中ではそれが逆転している。

平林 「勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい!」と親に怒られる世界だね。

岡村 そうです。その世界ではみんな勉強に夢中で物理の本とかを読みふけるわけです。

太田 「つい勉強しちゃう!」って感じだよね。「あと10分だけ微分方程式を解かせて!」という世界(笑)。

岡村 当然、学校の授業もゲームで、教科の一つに「パズルゲーム」とかがあるんですよ。作中に山中先生が生徒として登場していて、先生に言われたことをうまくできずに怒られてます(笑)。

一同 (笑)

山中 僕は『ぷよぷよ』だったらかなり連鎖できますよ!

岡村 いやそれが、「君の8連鎖は見事だけど、私が指示したのは5連鎖です。きちんと指示どおりやってもらわないと困ります」みたいな感じで。

山中 作中の僕、調子に乗ってる!

岡村 という感じなんですけど、皆さんどうでした?

太田 まず、この発想自体は『ファミ通』の漫画レベルなので実はありふれてるんだよね。ただ、この人は21歳と若くて、文体は読みやすい。

平林 僕はよくできているとは思ったんですけど、全体的な小粒感は否めなかったですね。キャラクターとかの書き分けはしっかり出来ていて、ヒロインのキャラは今回の応募作品の中では僕はかなり好感度が高かったんですけど。

太田 僕も女の子キャラは良く書けていると思った。そこらへんは若さだよね。漫画の原作とかをやらせたら、この子はうまいんじゃないかと。

岡村 あとこの人、これが初めて書いた小説らしいんですよ。

太田 そうそう、それは僕もいい、と思った。ただ、発想がまだまだアイディアレベルなんだよね。だから展開も読めてしまう。ワンアイディアだけでなく、次はそこから発展させた話を書いてほしいね。

平林 現実世界がどうなっているのか、というのが説明不足な感じがする。

岡村 それは僕も思いましたね。

太田 そうだね。ただ、初めて小説を書いてこのレベル、というのは大したものだと思うので、また送ってきてほしいね!

岡村 購入した土地の近くに偶然、新駅の建設が決まって地価高騰! くらいの感じで期待してます。

平林 また不動産ネタかっ!

三度目の正直、なるか!?

太田 次は『モーニング・グローリー テケテケさんと、陰気な僕。』。

平林 主人公は非常に家庭環境に恵まれておらず、しかも昔とある事件で殺されかけて右目が義眼になってしまったという男の子です。この子が「テケテケさん」とあだ名をつけられた女の子と一緒に学校裏サイトみたいなものをつくって人助けを始めます。で、新聞部にすごく心根が黒い部長がいて、その人と裏取引などをしながら事件を解決していく、というストーリーです。この作品は中盤以降『GOTH』的なだいぶ黒い展開になっていきます。キャラクターが生きているな、と思いました。

太田 うーん、この作品はちょっと長いんだよね。

平林 そうですね。ただ、その全体をどうペース配分していくか、というのはできていると思います。この人は投稿してくるのが3回目で僕は今回初めて読みました。

山中 前回は柿内さん、前々回は僕が読んでます。

柿内 前回は下読みのなかでは一番よかった。ただ、設定は全然駄目だったんだよね。

山中 前々回は一行コメントでエールを送った、って感じですね。

平林 今回はどうだった?

山中 物語の組み立ては丁寧でしたね。起承転結はしっかりしてて。最初が米澤穂信よねざわほのぶさんっぽいなと思ったんですが、そう思いながら読んでたらそれなりにいい意味で裏切られて良かったです。

平林 確かに『ボトルネック』っぽいところはあったね。

柿内 2章まではおもしろかった。3章からはもう飽きた。展開が想像できてしまって。

太田 そう、後半がモタモタしてるんだよね。

平林 確かに、主人公の右目をくりぬいたキャラクターが出てきた時点で展開はある程度読めてしまうんですよね。

山中 あと、新聞部の部長が便利キャラになりすぎてて、あのへんは削ればいいという気がしますね。

平林 ヤクザのシーンは要らなかったかな。そういう書き方もできるぞ、と見せたかったのかもしれないけど。

太田 全体的に悪くはないんだけど、カッキーが言っていたように第3コーナーから脚色が悪くなったよね。ネットの掲示板の箇所とかは不自然なく若い感じが出ていてセンスはあるな、とは思ったけど。

柿内 センスはあるんですよ。前は設定が死神で

太田 またかよ! もう死神は禁止にするか!

一同 (笑)

太田 講談社BOXは財閥という設定ばかり出てきたので財閥は禁止にしたんだけど。

平林 死神と財閥は禁止にしましょう!

太田 ははは、それはまあ冗談にしても、死神と財閥は過去の傑作が壮絶に多いからハードルはやっぱり高くなるよ。あと、この作品に関して言えば、やっぱり長い。1エピソードを60枚ぐらいにまとめられれば良い作品になると思う。60枚×4エピソード、240枚ぐらいがちょうどよい感じだね。

平林 殺人鬼の幼なじみがどうやって早く少年院を出たか、というところはおもしろかったですよ。

太田 そうね。あと主人公がテケテケさんを持ち上げてあげよう、という理由がもう少し書かれていても良かったね。僕、主人公が彼女に夢中になる理由がいまいちよくわからなかったんだよね。最後に彼女が主人公のもとに駆けつけるシーンもその前に伏線があればよかったと思うし。うーん、この人はすぐにデビューってわけじゃないけど、才能はあると思う。一度編集部に来てもらって、話をしてみようか。召喚だ!

平林 了解です! 座談会が終わったら連絡します!

閉鎖された学園で

太田 次は『君と出会った、マージナル・エデン』。これは誰が最初に読んだの?

平林 僕が担当しました。高校生の男の子が記憶喪失状態で、屋上で倒れているところから始まります。ヒロインの女の子に発見されて、自分たちが現実世界からパラレルワールドに飛ばされてきたことを知ります。パラレルワールドに飛ばされてきた人数分だけ校庭にポプラの木が出現する、学校の敷地外には出られない、電気・ガス・食料などは勝手に補充される、自殺しようとしても死ねない、という設定です。前半は学園ミステリ的なタッチで進んでいって

太田 前半は長かったね。つらかった。

平林 えっ、そうですか? 僕、前半は完璧だと思ったんです(笑)。「このままの完成度で最後まで走り切ったら、全力で推そう」って思ってたくらいです。

太田 ええっ、そうなの? 小説っておもしろいねえ。

平林 ただ、主人公以外の一人称が入ってきたとき「自分の作ったルールを破ったな」と思ったんですよね。後半は物語が大きく動いて、パラレルワールドの謎が明かされ、一応のハッピーエンドで終わります。でも、後半のほうが点数的には辛く付けましたね。前半だけなら、今回読んだ応募作のなかでは一番好きです。『十五少年漂流記』や『無限のリヴァイアス』のような設定で、同じような一種の緊張感があると思いました。

太田 最近の作品では『今際の国のアリス』とかもそうだよね。

岡村 僕はこの作品を読み終えたときにやや暗めの『Angel Beats!』だな、って思いました。

平林 そうだね。確かに最後まで読んで種明かしを知ったら似ていると思うかもしれない。

太田 先行作品でこういう設定はたくさんあるよね。メジャーな作品でいうと冨樫義博とがしよしひろさんの『レベルE』で野球部が甲子園に閉じ込められるやつとか、辻村深月つじむらみづきさんの『冷たい校舎の時は止まる』とか。それらと比べると甘くみても2枚ぐらい落ちる感がどうしてもある。良い作品は謎が解けたときに「ああっ! そうだったんだ!」というのがあるんだけど、この作品はそこの部分がとってつけたような感じがする。伏線もない。

平林 辻褄つじつまは合ってるけど伏線がない、ということですか?

太田 そう!

平林 後半部分は確かにそうなんですよね。ただ、この設定だとオチの付け方って限られちゃうんですよね。みんな死んでしまっているとか、昏睡状態になっているとか要するに現実世界でなにか大きなことが起きている、というオチしかつけられない。それは宿命だと思うので、そのオチまでどううまく畳んでいくか、ということになるんでしょうね

岡村 1組目のペアが消えた時点で、そのあとの展開はある程度読めちゃうんですよね。

太田 ポプラの木の見せ方とか、自殺しようとしてもできない、というルールはおもしろいと思うんだけどね。あとこのペンネームは変えたほうがいい。せっかく本名がいい名前なのにこれはない。

平林 そうそう、古代豪族○○氏の血を引く気高い名字ですよこれは。

太田 古代豪族(笑)。

平林 まあ、それは兎も角、僕は次回もこの方の作品を待ってます! どうか、また送ってください!!

太田 平林さんとのタッグが僕たちを突破できるか、お手並み拝見だね。

前回有望者、リベンジなるか!

太田 次、『トキノコエ』。 これは前回、『メンヘラ』を書いてきた人だね。

山中 僕が読みました。主人公がまさに「主人公体質」、周囲が勝手になんとかしてくれる都合のいい境遇をうまく生かして日々生活しているんですが、舞台である農大に新たに赴任してきた人物が、実はこの世界は鏡の世界で、「君たち(主人公たち)の友達の誰かがこの世界をつくった犯人なんだ」、といって犯人を探す物語が進んでいきます。描写としては主人公のまわりのキャラの日常が次々とザッピングしていって最終的に誰が犯人か、というのがわかるんですがこれは読んでいてキャラの描写が長過ぎるんですよね。全然整理されていなくて書きたいことを全部書いちゃってる。

平林 どういう構造の話を書くのかが、ちゃんと整理できていない『九十九つくも十九じゅうく』みたいな感じだった。どこを読んでもそこそこ面白いんだけど、「でもこれ、本筋と関係ないよね?」ってなっちゃうんだよね。

山中 ゴールに向かって物語をどう導いていかなければならないのか、というのがメチャクチャになっちゃってるんですよね。何を楽しんで良いのかわからない。

平林 あともう「○○」は出さないでくれ。前回も出てきて「このネーミングセンスは古いだろう!」と思ってたら今回も出てきた

山中 おもしろかったんですけどね。星海社で求めている新人って「荒削りな力強さ」がある新人だと思うんですけど、この人は荒いだけで削れてない。だからがないといけないと思います。

平林 うーん、前回と比べてすごく良くなってるってわけじゃないんだけど、悪くなってるわけでもないんだよね。まだ足踏みしてる感じがした。

山中 今回はキャラクターを書きすぎだったかな。

平林 確かに多いね。あとミステリやりたいんだったら冒頭で事件が起きないと駄目だと思うんだけど。

太田 そうだね。実用書とかでもこれを読んで何がわかるのかが、わからないとちょっと嫌じゃない? できればタイトルを見ればそれがわかるのがいいんだけどさ(笑)。『斜め屋敷の犯罪』とか一発でわかるじゃん! 『占星術殺人事件』とかすごくわかりやすいでしょ! やっぱりゴッドはグレイトですよ!!

山中 そういう意味では今回はタイトルも良くなかったですね。ただ、僕はこの人を担当してみたいですね。前回推しきれなかった僕の反省も含めて。

太田 本当に? だったら山中さんと組んで次回リベンジを図る! ということにしようか。

山中 次回うまくいかなかったら僕が恥をかく、ということでいいと思います。

太田 熱いね! くれぐれも「山中さんと組む前のほうがよかったね」ということにならないように。

一同 (爆笑)

山中 嫌だーーー! 頑張ります!!

今回の問題作!

太田 『われらけだもの、世界の荒野に愛を刻む』。これは評価が割れそうだね。

平林 僕が上げました。この作品では異世界と現代が繫がっていて、現代で猟奇事件を起こした人の心が異世界の深いところにとらわれています。そういう心を主人公の女の子2人組が異世界に侵入して排出していく、という話です。世界の危機とバトルと必殺技、という要素があり、すごくざっくりいうと「舞城王太郎風の文体で『スクライド』を書いている」という感じ。構成もちょうどアニメ1クール分くらい。応募されてきた作品のなかでは一番、「熱さ」がありましたね。達観した感じがないというか。その書き味がいいなと思いました。

太田 僕は、文体が親父くさすぎると思った。女の子の描写も古い。この段階ではちょっと推せないな。才能はあると思うんだけど。

岡村 僕は台詞回しや文体は、読んでいて結構気持ちよかったですけど。

平林 僕もこの文体は自分より若い世代のものだと感じました。

太田 そうなの!? うーん

山中 序盤に、何かがあるな! と思わせる力はすごいと思いますね。ただ途中から、置いて行かれたな、と感じました。

太田 僕もどちらかというと山中さんの感想に近いかな。後半しんどいなあ。あと、この人はエンタテインメントとはなんぞやというハードルが極端に狭くて高いんだと思う。このままでは広範な読者の獲得は見込めない。『漫画ゴラク』とかエロ漫画とか、大脳旧皮質に訴えかけるものをもっと読んだほうがいいと思う。

平林 太田さんはこういう作品は好きだと思ってたので意外でしたね。 うーん、戦略を誤ってしまった

太田 好きなものに対する評価って厳しくなるものなのさ。

平林 後半のエスカレートにエスカレートを重ねていくような展開はすごく良かったと思うんです。ただ、そこにうまく誘導していけなかったというのが弱点かな、とも感じてます。僕は才能を感じるので、次に太田さんを突破できるように担当させてください!

太田 じゃあ一度、平林さんがこの人と会ってみてください。その上で、次回作に期待しよう。中途半端なものじゃ通さないぜ!

今回の本命!

太田 さあ、いよいよ本命の『2WEEK イカレタ恋と赤』だ!

平林 はい、僕が上げました。今回僕のところにいい作品が沢山ありましたが、これが本命です! 主人公の男の子がある日の夜、校庭でシマウマの怪人と戦っている女の子を見つけて

山中 シマウマ男! 序盤でちょっとだけ出てきて忘れてたけどいたなぁ

平林 で、その女の子は「力がすごく強くなる」という異能を、主人公は「生き物を蘇生そせいさせる」異能を持っています。で、シマウマ男にぐちゃぐちゃに殺されてしまった女の子を主人公が生き返らせます。そこから話が動いていって、最終的には宇宙人ネタと異能ものがうまくからんでいくという展開。青春×異能×オカルトという素晴らしい組み合わせです。喋るハムスターのキャラも良かった!

太田 キュゥべえっぽかったよね。あのハムスター。

山中 ハムスターの宇宙人、あれはいいキャラでしたね。

竹村 たしかに。あのキャラがいるのといないのとでは、魅力が全然変わってくると思いました。いいアクセントになってる。

平林 大きな話、というわけではなく世界がちっちゃいんですけど、気持ちのいいまとまりかた、心地のいい大きさかな、と。何か決定的に新しいものがあるわけでもないし、妹キャラも処理しきれてないし

太田 そうそう、あの妹はなんだったの!?

山中 マジでわからない。

平林 だから直さなきゃいけないところは結構あって、宇宙人ネタももっと“オカルトの教養”を積んでほしいと思います。ちょうど今、柿内さんと一緒に新書で『オカルトの教養』という本を作っているので、色々伝授したいです(笑)。

柿内 やっぱり“オカルトの教養”は必要だよね!

太田 男子たるもの、学研の『ムー』は毎号欠かさず読むべきだよ。

平林 そういう欠点もあるんですが、独特な乾いた文体とキャラはいいな、と。減点するところはあまりないし、特異なところはあると思いました。推したいです。

太田 この子は伸びしろがあると思うし、後半は直せばもっとよくなる。前半はちょっと食傷気味だったんだけどね。冒頭は滝本竜彦たきもとたつひこさんの『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』と同じ展開だから

平林 あ、確かに。

太田 ただ、この作品が『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』と違うところは少年のほうにも特異な能力があるところ。それで腰を据えて読む気になったんだよね。

岡村 なるほど。たしかにヒロインは異能の持ち主で、主人公はどこにでもいる平凡な学生、だったらテンプレなラノベですからね。

太田 そう。そういう意味では少し『化物語ばけものがたり』にも近いかな。

平林 従来のバトルもののフォーマットを恐らく意図的に、少しだけ崩していますよね。わかりやすい例だと『BLEACH』では基本的に主人公の一護いちごが戦って、ヒロインの織姫おりひめが癒すという役割ですけど、この作品は逆になっている。

太田 そうそう。あと、癒しすぎると相手を破壊する、というジレンマの設定もよかったね。僕はこの子デビューさせてあげたいんだよね。そのかわりペンネームは変えてもらうけど。

平林 確かにこのペンネームはない! 本名のほうが全然いいですよ!

太田 暫定だけど、彼を一度編集部に呼んで話してみて、おもしろそうだったらデビューさせようと思う。平林さんふうに言えば、この作品はそこまでコストをかけてないんだよね。よく調べてない。手先で書いてる。ただ、それでここまで書けるのは大したもんだと思う。タイプとしては乙一おついちさんに近いかな。もちろん乙一さんはとてもよく調べて作品を書いてるけどね。まあそこは僕たちの励ましと本人の自覚でなんとでもなると思う。キャラクターもまだまだ浅いけど、なぜかおもしろい。大概の駄目な作品は浅くてつまらないんだけど、なぜか彼のはそうじゃない。だから深く掘り下げればもっと良くなると思う。

山中 おお、出るか受賞者!?

受賞者決定!

数日後。

太田 さて、ここで受賞者の発表です。受賞者は野中美里のなかみさとさん、作品名は『2WEEK イカレタ愛』!

平林 野中さん、すごく真面目そうな方です。

太田 気合いが入ってるよね。タイトル案、50個くらい考えてくれたもんね。これから改稿作業に入ってもらうわけだけど、このまま順調に行けば、かなり完成度が上がるんじゃないかと今から楽しみです!

岡村 『ブレイク君コア』に続いて2回目の受賞作ですね、読者としても楽しみです!

太田 それにしても、今回は20代の若い人の有望な作品が多くて、選考も充実したものになったね。議論を尽くす必要がある作品が沢山あって、それに関しては喜ばしいことだと思います。

岡村 ただ正直116作品は多すぎます。読むのに時間がかかりすぎる

平林 「1行でもいいからコメントが欲しい」という記念応募的な人もいるみたいなんですよね。ツイッターとか見てると。

太田 たくさんの人が応募してくれる、それ自体は嬉しいことなんだけど、記念応募的な作品、本気ではない作品に対してはこちらもそれ相応の態度で評価します。お互いに時間と資源の無駄なので。そういう人は書くことじたいが楽しいと感じてやっていると思うんだけど、それはアマチュアの領域でやってください。厳しいようですけど、星海社FICTIONS新人賞ではプロでお金を稼いで食っていく、という気合いと覚悟を持っている人“だけ”の応募を待っています!

山中 次回の応募は既に始まっています! ただの習作には興味ありません、力作・快作・傑作があったら星海社FICTIONS新人賞に応募してね!

太田 と、いうことで第3回の座談会はここまで。みんな、次回もヨロシクだ!!

第3回星海社FICTIONS新人賞 1行コメント

『月読の国 The dark tide

世界設計は良かったが兎に角長い! 物語のプロットもここまで長くする必要を感じるものではないので、うまく500枚ぐらいにまとめてテンポを上げた方がいいでしょう。(山中)

『月の天使』

全部のパラメータが45くらい。どこか突出した点が欲しい。(平林)

『魂魄相談師』

キャラクター造形など良いところもあったが、総じて描写・設定が分かりにくい。もっと整理して!(平林)

『太陽系は拒否権を行使』

読んでいて不自然だと感じる箇所が多すぎる。(岡村)

『お菓子い』

物語が平易でありきたり感がただよう。店員さんのキャラはいいですね。(山中)

『VS(バーサス)』

よくまとまっていて、きちんと小説になっている。もう一歩前に踏み出す力が欲しい。(平林)

『流星異聞』

3つの短編を通じて、結局、読み手に何を伝えたいのかがよくわからない。(岡村)

『野良寝子稼業』

猫の人間に対する「おせっかい」や、猫目線の設定は面白い。ただ、事件の数が多くとっちらかりがちなので一本の筋を通した上でストーリーを展開するとより良い。(竹村)

『三の物語』

こういう作品は世に溢れているので、違った切り口で魅せないと、「どこかで見たような作品」で終わってしまう。(岡村)

『おうかっ!』

志が低いタイトル。中味もオリジナリティが微塵もない。(柿内)

『BABEL(バベル)』

説明がくどく、物語がなかなか始まらないのは大いに問題がある。もっとスマートに。(平林)

『エロエルボロの第二法則』

うーん、ちょっと古いライトノベルですね。(平林)

『花モ鳴カズバ撃タレマイ』

独自の世界観があり設定もストーリーもオリジナリティに溢れているが、一方で共感を得る部分が少なく、物語に入って行きづらい人も多いのではないか。(竹村)

『迷子の夜明けの手を引いて』

脈絡のなさ過ぎる展開に啞然。(山中)

『トラベルギフト~『道』の上の喜活劇』

少し台詞がクドいきらいがある。キャラは立っているが全体的に古い。(岡村)

『不死鳥伝』

何を物語りたいのか、まずは冒頭ではっきり示して欲しいです。(山中)

『数学モデルの奏でる世界』

「ご都合主義」で「いかにも」という印象が拭えません。(岡村)

『二人のホムンクルス』

全体的にプロットっぽい。小説らしさとは何なのかもう一度考えてほしい。(平林)

『1×0 いんれい

プロになりたいなら、「読者」を意識してください。(柿内)

『いかれた世界』

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に類似しすぎているような。オリジナリティの置き所をもっと考えて下さい。(山中)

『霧の綴れ山』

独りよがりに感じます。物語としてもまとめきれていない。(岡村)

『奇跡の星』

淡々と進行していて起伏がない。後に残らない。(岡村)

『月光に捧ぐ』

読者を楽しませるには序盤をはしょりすぎでしょう。(山中)

『夜明けの少女』

悪い意味で平凡。枚数も5分の1くらいで書ける話では?(平林)

『スクリブル!~オーラソーマ・トラベラーズ~』

冒頭の“つかみ”は単に読者をおどろかすだけではだめなのでは?(山中)

『ラブ&ビースト』

悪くはないが、頭でっかち。17歳にしか書けないことがあるのでは?(柿内)

『ひとつ屋根の下のカラス』

設定があまりにつまらない。本気で考えた設定ですか?(柿内)

『西郷くんと魔法の現象学』

色々と無理がありすぎ(笑)。(平林)

『ソノラ』

花を通じて人の悩みを解決する、フローリスト版『コンシェルジュ』。よく調べて書かれているが、ご都合主義だな、と感じる。(岡村)

『誰かの一歩と共に動き出した外の世界』

色々詰め込みすぎ。展開が強引すぎて白けてしまう。15歳でこの枚数を書いたのは見事。(岡村)

『KとRの不可視議奇譚』

アイディアは悪くないのですが、後半から急に作品全体が「テンプレートなラノベ」という印象を受けた。(岡村)

『CUUUUUUUUUUUUT』

登場キャラクターの苦労を台無しにするようなこのオチは流石にないでしょう。(山中)

『戦う悪魔の壊れた世界』

高校の「文芸集に掲載」レベル。30ページ読んでもまったく世界に入っていけない。(柿内)

『夕凪スワンソング』

M男とツンデレ天才美少女の組み合わせだけで物語ろうとするのはもういい加減にしましょう。必然性のない偶然を便利に使っていることも冷めます。(山中)

『曹公以火群舟師伐呉侯 予州率大火破之於烏林 (魏武は司馬家の艦隊をもって孫権を伐たんとするも 劉備がアンタレスを率いてこれを烏林に破る)』

『三国志演義』をこういう風に扱うこと自体は否定しませんが、この文体は何なのか。(平林)

『妖精は雲の中』

「不老不死もの」で勝負するなら、既存のものとは違うインパクトが欲しい。(岡村)

『魔道箴鍵キルディ』

中二病的な要素が悪いわけではないですが、それだけだと慣れてしまって退屈に感じる。(岡村)

『冷めない方程式』

物語として成立していません。(岡村)

『路上線上のマリア』

平板な展開が長々と続くのがしんどい。所々日本語が怪しい。長い。(平林)

『Cage~安息の場所~』

キャラクターの心理描写が丁寧に書かれている。が、丁寧すぎて文量が多すぎる。展開も遅い。惜しい。(岡村)

『わたしたちのとんがり帽子』

こんなに長々と書くほどの話ではないと思います。ファンタジーなのに妙に現代的なのも違和感。(平林)

『帝国のクロイツェル』

ドイツについてよく書かれているが、ヒトラーやチャーチルが女性で、途中からあざとく感じた。(岡村)

『ほったいもいじんな』

物語の構成はよくできてます。キャラも台詞で明確に区別が付くのでテンポ良く読めるのもいいですね。ただ、最後が消化不良ぎみなこと、下品な表現が目立つことが気にかかります。次からはもう少し腰の据わった作品を期待しています。(山中)

『海水欲』

乱暴な言い方をすると、性欲をそのまま文章にしただけのような物語。ハーレムものをやるならそれ相応の覚悟と必然性を。(山中)

『スピリトゥス』

設定や展開も面白く、特に前半はかなり読ませる作品。しかし、どういった読者層を想定したらいいのか見えづらいのが難点。あと、ペンネームすごいですね(平林)

『ニホン系』

序盤の1/4を読んでなんの物語かサッパリわからないのは問題でしょう。(山中)

『灰燼の先導者達』

描かれるファンタジー世界に入っていけない。固有名詞が多すぎる。(平林)

『宝飾のアクセソワール~13人のデビュタント~』

労作だと思うが、この「属性バトルもの」はうちのカラーではない。(岡村)

『零の世界』

キャッチコピーが「“最前線”のセカイ系」となっているが、このセカイ系はむしろありふれていて、古い。(岡村)

『流星少女』

ヒロインのメンヘラっぷりが実にいいです。しかし物語は色々なつじつまあわせを後付けでなんとかしてるような切り貼り感が目立ちます。なぜキャラクターがそう動くのか、の必然性をもう少し追求して欲しいです。次も期待しています。(山中)

『ショートショートタイム』

一本調子でひねりがないものばかり。申し訳ありませんが、厳しいです。長いものを書いて技術を磨くのもひとつの手段かもしれません。(平林)

『鉄腕ガール、一撃』

1995年より以前に書かれたとしか思えないんですが(平林)

『美少女もんすたぁず』

妹、幼なじみ、偶然同居することになった女の子、お嬢様キャラとドタバタ美少女系ライトノベルのテンプレートのような組み合わせ。でもそれだけですね。(山中)

『零と壱のアストラル』

キャラも設定も小手先な感が拭えない。今回担当した高校生の作品の中では、一番しっかりした作品。(岡村)

『Cross life, cross like.』

序盤から読者を一瞬で置いてけぼりにすることをテンポの良さだと考えてはいけません。(山中)

『Dandy Dad,Frightening Kidʼs』

無茶苦茶な設定のキャラクターが淡々とストーリーに沿って動いてるだけ。作風も中途半端。(岡村)

『同姓同名の同棲同盟』

設定上しかたないとはいえ、リーダビリティが低い。あと“意外な展開”に到達するまでに枚数を使いすぎている気がします。(山中)

『その名は東のヴァルキュリア』

原稿に手書きのルビが書いてあってびっくりしました。逆に読みにくくなるので手書きのルビをつけるぐらいならなくてかまいません。そして本文はあまりに日本語が雑でしょう。(山中)

『硝子の斜塔の幽霊たち』

キャラクターが薄くて印象に残らない。設定はおもしろそうだがそれが展開で生かされていない。(岡村)

『ルストヴァンデルン ~その花々、手折るべからず~』

設定が滅茶苦茶でどういう世界なのか分からない。固有名詞が少なすぎる。(平林)

『はじめてのからだと』

序盤から出てくる「V」というキーワードに語源が設定されてないあたり、全体の設計の適当さを感じてしまいます。物語もあまりに動かなすぎでは。(山中)

『ゲバルト・ゲバ子』

俺のなかで革命は起こらなかった。(太田)

『デスサイズ・ラバーソウル』

キャラは立っていて良いです。ただ、物語のテンポがやや悪い。文量ももっと省けるはず。次回作に期待。死神以外で。(岡村)

『妹と、怪物と』

枚数が規定未満です。そのうえでコメントしますが、小説上の世界説明をさぼって物語だけを書こうとしていて、これでは読者が小説においていかれます。(山中)

『結末の現場』

各要素が60点、という感じ。特段駄目なところもないが、逆にここが凄い、というのもない。(岡村)

『コレクト・マイ・ヒーロー』

物語の動きだしが遅い。(平林)

『ゴースト・ライフ』

キャラを書くことだけに注力しすぎて、物語や世界観が空虚になってしまっています。キャラも物語もその世界観も、すべてがそれぞれのために必要なのではないでしょうか。(山中)

『冥走回廊』

なかなかよく勉強しているし、文章の質感や物語の細部で見るべきところは多くあった。惜しむらくはまとめきれていないこと。構成力を磨いて再度挑戦を!(平林)

『iの模造体』

物語が間延びしている。この内容なら文量をもっと減らして、最初の50ページでキャッチーさがないと読むほうがきつい。(岡村)

『p&P』

地の文、台詞回しともに、読んでいてクドく感じた。(岡村)

『コギトコギトエルゴコギト』

設定が薄っぺらい。リーダビリティが高く、キャラも立っているので次はシンプルなテーマをきっちり勉強して書ききってほしい。(岡村)

『ブラッディ・ガーデン』

設定は悪くないが、それが生かされていない。もっと文量を削ってブラッシュアップできるはず。(岡村)

『村の中』

序盤が急展開ならいいというわけではないでしょう。なにが描かれていたのかうまく読み取れませんでした。(山中)

『ビブリオ・イェーガー』

リーダビリティが低すぎて、ハードボイルドな台詞だけがうわすべっている印象をうけます。(山中)

『アフターダークティー』

警察の描写はリアリティを感じるが、死神の非現実的な設定とうまく化学反応しておらず、『DEATH NOTE』にはなりきれていない。(岡村)

『If』

設定の必要性がよくわからない。そして文章が辛い。(平林)

『ハーピュリア』

情景描写の力の入り方はいいと思います。序盤にこれから何かが起こる雰囲気をもっと分かりやすく出せればなお良かったのでは。次回に期待します。(山中)

『SENSELESS-STORY』

主人公のキャラが寒い。(平林)

『鷲のインヴェンター』

設定は悪くない。いや、むしろ良い。ただ、文章がダメ。(柿内)

『ぼくのメンヘルなまいにち』

大学で5月病の新入生をつかまえてインタビューしたかのような話。ようするにどこにでもあるということです。(山中)

『日々記す』

設定も悪くないし、文体も軽くて読みやすい、が、その設定ゆえにキャラが薄い。テーマを変えて次回作に期待。(岡村)

『最果てのコーダ ~菓子鳥の蒼い瞳~』

リズム良く読めるが、全体的に浅い。読み終えた後、残らない。(岡村)

『Marchen:メルヒェン』

王道ファンタジーをやるには圧倒的に力不足と感じました。意外性を出すか、よりワクワクするような展開を模索するか、考えてみて下さい。(山中)

『カミツキカミカ』

強度が全くない。歴史をアレンジするには、かなりの勉強とセンスが必要です。(平林)

『夏の終わりに』

文章もうまくキャラ設定もストーリーや背景も自然で読みやすいが、事件が起きるタイミングが遅く、読者が飽きてしまう。多くの人に届けるにはもう少し「インパクト」が欲しい。(柿内)

『Myth』

北欧神話の神々をフランクにした、だけ。何を読み手に伝えたいのかが、いまいちわからない。(岡村)

『神もがい』

作品の世界観におもしろく入り込めない。(岡村)

『命取物語』

古い&無理がある、という感じ。文章はちゃんとしているので、ジャンルを変えてみては?(平林)

『少年幻夜』

平板で、引っかかりがないまま進んでいくのはどうかと思います。まずは冒頭30枚を面白くしてください。(平林)