キタイのアタイ

支倉凍砂 Illustration/国道12号

「最前線」の期間限定公開、カレンダー小説。本当の期待値は、計るのがとても難しいーー。2012年の9月2日。あの『狼と香辛料』の支倉凍砂が、満を持して最前線に参戦!

「宝くじ買うなんて馬鹿げてるわ」

「ふん?」

競馬けいばならまだ理解できる。オッズは結局、情報の不確かさだもの。8頭の馬の能力が全員にとって未知数なら、当たる確率は8分の1。だからオッズは8倍になる。でも、もしも1頭の馬について重要な情報、たとえば体調不良の情報を自分だけが持っていれば、自分にとって事実上そのけは7分の1になる。全員でこの賭けを続ければ、やがてこの情報の差は大きな差になって現れてくる。要するに、ほかの賭けの参加者に対して有利な情報を得ていれば、統計的に旨味があるものになる。考える頭を持っているのであれば、そういうものにこそ手を出すべきだと思うの」

まくしたてられていた秋山あきやまは、まくしたてていた東堂とうどうを見つめ返し、それから、手元の宝くじを見た。

「そんな難しいこと考えて買ってないけど」

「なんで考えないの?」

東堂の瞳は黒くてとても綺麗だと評判だ。

秋山は、宝くじのたばで自分のほほをぺちぺち叩きながら、考える。

「そんなこと、考えたこともないな。というか、なんで考えなかったのかということを、考えたこともなかったなと考えているのは、本当に考えていないことになるのか? なんて

秋山が、そう言って東堂に笑いかける間もなかった。

「自己言及のパラドクスは見せかけよ。永遠に上り続ける階段の絵が描けるのは、あれは三次元に起こすと上り続ける階段じゃなくなるというだけのこと。論理的な言及は多くがくさりのように一次元だから、そういうことが起こりやすいの」

冗談じりにけむに巻こうとしたら、その煙ごとバッサリ切られた格好かっこうの秋山は、向ける当てのなくなったふざけたみを口元に残したまま、宝くじを見た。

「でも、当たったらうれしくないか?」

「そのことと、期待値が値段より明らかに低いのに平気で手を出すこととは全く別問題」

なんかごめん」

「謝ることではないわ。あなたのお金だもの。ただ、馬鹿げていると思っただけ」

「うーん

秋山はまだ若干納得がいかなかったが、口で東堂に勝てるとは思っていない。

なにせ、相手は現役の理学系大学院研究生で、専門は情報数理とかいわれたら、その漢字の画数の多さだけで秋山は眩暈めまいがしてしまう。一浪、一留でちゃらんぽらんしている文学部では到底太刀打たちうちできないし、そう思うからか、文学部の文の字は、世間の荒波の前で足がすくんでいるなんともひ弱な棒人間のように思えてくる。

「では、これは反論ではなく質問」

「どうぞ」

「どうして、皆、宝くじを買うんだろう?」

「考える頭がないからでしょ」

東堂の切り捨て方に、秋山は清々すがすがしささえ感じてしまう。そのあたりは、料理などにも現れている。秋山は、初めて東堂に手料理を振る舞ってもらった時の、大根を切った際のまな板の音を思い出す。

「宝くじは、逆累進るいしん課税。高所得の人間は、宝くじなど買わないもの。統計的に損をするとわかっているのに買うのは、所得の低い人たちだけ。万が一の可能性に目がくらんで、明らかに負けるとわかる賭けに手を出すなんて、いかにもじゃないかしら」

「血も涙もないね」

「そう? 冷血れいけつならあるわ」

「自分で言うの?」

「言われ慣れてるもの」

東堂はそう言って、前を向く。

秋山はそんな東堂の横顔をちらちらと盗み見て、言った。

「自分の発言を後悔するタイプだよね」

東堂は目を閉じて、しばらくしてから、開いた。

「思ったことは言わないと気が済まないの」

「知ってる」

怒ったのなら、そう言って」

「こんなことで怒りなんてしないよ」

秋山が軽く笑うと、東堂はまだ疑うような顔をしていたが、ため息をつくと、少し悲しげな顔になっていた。

眉間みけんにしわが残ってる」

「っ」

東堂は慌てて指で眉間を伸ばしている。

それが異様に子供っぽく見えて、秋山はくすくす笑ってしまう。

「また論文書いてるんだっけ。きちんと寝てるの?」

昨晩は」

「何時間?」

秋山が聞くと、東堂は嫌な顔をする。

「眉間にしわ」

秋山の言葉にまた慌てて眉間のしわを取る。

四時間」

「俺、十四時間」

東堂は、驚きあきれている。

「二人足し合わせて平均すれば、九時間だから健全だな」

そういう前向きなところは、健全だと思うけれど」

「いや、さすがに俺も後悔した。十時間で起きて、録りためたドラマ見ればよかった」

東堂は少し考えるようにして、また眉間にしわを寄せて、ちょっと苦しそうに言った。

「あなたは宝くじだけじゃなくて、競馬もするべきではないと思う」

「よく電話で、将来のことをきちんと考えろって親に言われる」

二人は、大学近くのカフェにたどり着く。

「そのとおりね」

ビネガーのいたサラダをつつきながら、秋山はたずねた。

「でも、将来のことを考えろって、難しくない?」

プリント類はきちんとすみそろえて折ったり、部屋はモデルルームみたいに片付いていたり、背筋はぴっと伸びていたりする東堂だが、キュウリだけは食べられないらしい。

サラダの小鉢こばちの中で子供みたいにキュウリだけよけているのを見て、秋山はフォークでそれを突き刺して食べてしまう。

「人生なにが起こるかわからないし」

秋山の言葉に、東堂は嫌そうな顔をしている。

ただ、その表情はキュウリを食べられたことに対するものだろう、と秋山は推測する。

東堂は手助けをされたり、同情をされたりするのに抵抗があるとのことだった。

その発言、いや、宣言を聞いた時、秋山は一応文学部らしく類語辞典的な考え方をして、こう切り返した。

協力と理解なら?

東堂が、不機嫌そうな顔のままうなずいたのを、秋山は今でも含み笑いと共に思い出してしまう。

「あなたのご両親が言うのは、そういうことじゃないはず」

「へえ?」

「明日何が起こるかなんて、誰にもわからない。私にもわからないし、数学的な計算でも滅多めったにわからない。もちろん、ある種の例外はある。たとえば、複雑系に分類される気象現象であっても、明日の天気はわからなくても、春が来たら夏が来て、夏が来たら秋が来て、という季節のめぐりならわかることもある。でも、そういうことではなくて、将来のある時点における目的を決めて、そこに対してなにかしらの努力をしろ、ということでしょうね」

秋山は、はりがむき出しになっている開放感のあるカフェの天井を眺めながら、考える。

しかし、何も思い浮かばず、ため息をつく。

東堂が眉間にしわを寄せているのは、呆れているのではなくて、また責めるような口調になってしまったことを後悔しているのだろうな、と秋山は思った。

「けれど、結局どれも不確実、という意味で確率の問題にしかならない、というのは事実」

「というと?」

たとえば、健康のために運動をするとか、安定した生活を手に入れるために大企業に就職するとか、なにについても不確実。あなたが言うように、なにが起こるかわからないし、本当の期待値は計るのがとても難しい。たとえば、大企業に就職するのと、ベンチャー企業を設立するのとでは、どちらのほうが生涯しょうがい年収の期待値が高いかなんてわからない。起業でほとんどの人が失敗するのだとしても、マイクロソフトやグーグルみたいなものが数社あるだけで、期待値は不当なほど引き上げられてしまう。世の中には非線形ひせんけいなことがとても多いから、リスクとリターンを宝くじみたいに正確にはかるのはまず不可能ね。だとしたら、将来のことを考えろというのは、せいぜいが、なりたいものを考えろ、程度だと思う。いえ、もっと言うと、なにかをやっているという確信が欲しいだけなのかもしれない」

サラダを食べ終わり、秋山はクラムチャウダーをすする。さいの目に切ったニンジンやジャガイモが、玉ねぎなんかと一緒にたっぷり入っていて、それを飲むだけで体に良いことをしているような気になってくる、ということそのものに、秋山はなにか不思議な気がする。

ただ、こういうことの共感を東堂に求めても無駄だとわかっているので、秋山は口にしない。

それで寂しいかというとそうでもない。

なぜなら、東堂に話すと、東堂が理解するまで質問攻めにされるからだ。

つまり、基本的に東堂は悪い奴じゃない。

「一つ聞いていい?」

「どうぞ」

「もしかして、俺のことを励ましてる?」

でたさやえんどうを食べようとしていた東堂の手が止まる。

みるみる嫌そうな顔になった後、さやえんどうを食べて、言った。

「単に、将来を考えることと、明日何が起こるかわからないということを同時に受け入れるのは、矛盾むじゅんしないと言いたかっただけ」

「ふうん? だったらさ」

「なに?」

「宝くじ買うのも許してよ。当たるかもしれないじゃん」

東堂は思い切り嫌そうな顔をする。

「あなた、私が嫌がるのわかってて言っているでしょ」

「まあね。愛想笑いは存在するけど、『愛想嫌な顔』ってないだろ? の感情を見せてくれてるんだなって安心する」

東堂は、嫌そうな顔を少しゆがめて、クラムチャウダーをスプーンでかき回す。

悔しいのだ、と秋山はもちろん気が付いている。

「なんでそういうところだけ、変に頭を働かせるの」

「感覚だよ。文系ですから」

秋山は言うが、実際は理由がある。

前に付き合っていたよく笑って相手に合わせるタイプの彼女に、二股ふたまたかけられたのだ。

「あと、俺も一応考えて宝くじ買ってるんだけどね?」

東堂はものすごくさげすむような目を向けてくる。

そして、視線をそらすと、どうぞしゃべってみてください、とばかりに手を向けてくる。

「君の言うとおり、まあ、宝くじなんてまず当たらない。けど、どうせ滅多に当たらないのなら、当たった時の結果がでかいほうがいいから、一等が一億円とかの宝くじしか買わないようにしている。どう?」

秋山は、割りとこの理論を気に入っている。

どうせ一生に一回の幸運なら、なるべくリターンがでかいほうがいい。

しかし、東堂が大きくため息をついたので、ちょうどパスタを運びに来た店員がぎょっとしていた。

「確率の意味を取り違えたジョークに、こういうのがある」

「ふん?」

「ある数学者は飛行機にいつも小型の爆発物を持ち込んで乗るの。それを知った同僚が、なにを考えているの? と問い詰める。その数学者は、肩をすくめてこう答える。同じ飛行機に、爆発物を持った人間が二人も乗りあわせる確率というのは、テロリストが一人乗っている確率より低いだろう? だから、これは確率論的なお守りなんだよ、と」

パエリアにはなぜ食べられない物がごろごろ入っているのか理解できないと怒る東堂はペペロンチーノを食べながら説明し、秋山はボンゴレを食べながら聞く。

秋山の頭の中では、なるほど、と電球に明かりが灯っていた。

「納得しているんじゃないでしょうね」

なんか、おかしいの?」

東堂は呆れと落胆らくたんを隠さない。

秋山は、それがついつい面白くて、笑ってしまう。

「主観的確率というのは確かに存在する。よく例に出されるのが、ある夫婦の双子の子供の性別の問題」

「ほほう?」

「ある夫婦に双子の子供がいて、片方が女の子だとわかっている場合、残りの一人が女の子である可能性は?」

え?」

秋山は考える。男女のどちらかが生まれるのは2分の1だから、答えは一つしかなさそうだ。

「2分の1じゃないの?」

「3分の1」

東堂は、してやったりという顔すらしない。

「これは、起こりうる事象じしょうがすべて把握はあくできているから、そういう認識の齟齬そごが生じる。双子の組み合わせを考えれば、男・男、男・女、女・男、女・女の4通りでしょう? そのうち片方が女なら、もう一人が女である可能性は、女・女の組み合わせしかない。だから、3分の1」

ボンゴレのあさりをフォークでいじりながら、秋山はぎりぎりのところで理解ができた、と自分に言い聞かせる。

「で、ここからもう一捻ひとひねり」

秋山が悲しげな顔を向けると、東堂は初めてニコリと笑う。

秋山は、いい笑顔だなあ、と見とれてしまう。

「もし、その女の子の名前がものすごく珍しい名前だとしたらどうなるか」

「へ?」

「たとえば、北海道ちゃん」

なんだよ、北海道旅行やっぱり行きたかったの? 金なら貸すって言ったのに」

「ち、ちがうけど、いい? 北海道ちゃん」

東堂ににらみつけられる。

秋山は諦めて、言う。

「わかった、わかったよ。それで?」

「その北海道ちゃんは、1000万人に1人の名前とする」

「だろうね」

「すると、夫婦の双子の片方のうち、名前が北海道ちゃんの女の子であるとわかっていると、もう片方の子が男の子であるか女の子であるかの確率が変わってくる」

秋山は、無抵抗状態と呼ぶ表情を作り出した。前の彼女の理不尽な言い分に理解ができない時はそういう顔をして、前の彼女はその顔を見ると余計に怒り狂ったことを思い出す。

しかし、東堂は秋山のそういう顔を見ると、にわかに嬉しそうにする。

学校の外で、自分の話を黙って聞いてくれる相手は珍しいのだそうだ。

東堂はかばんからボールペンをだして、紙ナプキンを一枚広げた。パスタのことなど完全に忘れていそうだ。

「1000万人に1人という珍しい名前であるという情報は、非常に貴重な価値を持つ。つまり、夫婦の双子の片方の名前が北海道ちゃんであると知らないことについてはなんの価値もないけれど、知っていることについてはとてもすごい価値がある。なぜなら、さっき言った双子の組み合わせ、男・男、男・女、女・男、女・女の組み合わせが、男・男、男・女、男・北海道ちゃん、女・男、北海道ちゃん・男、女・女、北海道ちゃん・女、女・北海道ちゃん、北海道ちゃん・北海道ちゃんになるからね。ただ、北海道ちゃんが同時に2人になるのは現実的にも、理論としても無視していい低い可能性だから除外する」

背中を丸めて、紙ナプキンに几帳面な字をびっしり書く様は、栗鼠りすかなにかが必死にヒマワリの種を口に詰め込んでいる様を秋山に想像させる。

言っていることはわからないけれど、それが可愛いということだけは、秋山にはっきりとわかっている。

「さて、片方が北海道ちゃんとわかっているなら、もう片方の子が女である確率は、ありうる事象を数えてみればいい。それは、この表から、2つ。でも、片方が北海道ちゃんである組み合わせは、4つだから、4つ中の2つということで、2分の1。北海道ちゃんという名前がわかっているかどうかで、もう片方が女の子であるかどうかの可能性が高まるというわけ」

秋山は当然話についていくことすらできていなかったが、一瞬一瞬の説明の断面では、引っかかるところはなかった。東堂の書いていることが正しいのであれば、結論も正しいのだろう、という思いしかない。

「不思議な話だ」

「でしょう?」

人間関係の込み入った文学性の高い映画を観ても「一人一人がもっと合理的に動けばあんなことにならないんじゃないの?」と真顔で言った東堂は、秋山に子供みたいなキラキラした目を向けていた。

「ただ、ということは、さっきの爆弾持って飛行機に乗る人の話は、正しいのかな?」

「正しくない」

「うーん?」

「だって、その人が爆弾を持っていくかどうかは、テロリストがその飛行機に乗るかどうかとはまったく関係のないことだもの」

「でも

「さっきの北海道ちゃんの話に戻すと」

秋山は東堂に言葉をさえぎられても、まったく腹が立たなかった。

前の彼女にそれをやられると、ひどく腹立たしかったことを思い出す。

「北海道ちゃんという名前はとても珍しいから、もしも付けるのだとしたら女の子が2人いる家のほうが可能性が高い、ということを示しているの。もっと言うと、女の子1000万人に名前を付けなきゃならないとなったら、北海道ちゃんって名前も出てくるよねって話の逆視点なのよ」

「むう?」

「でも、爆弾の話は、飛行機の中にほかに爆弾を持っている人が百人いようが千人いようが、テロリストはそのことを知らないんだから爆弾を持って乗るでしょ」

「ふーむ

「条件付き確率はとても難しいから、プロでも間違えるし、統計学者たちをからかうためだけに作られた問題もたくさんある」

「そうなの?」

「もちろん。人間としての認識能力を突くタイプの問題には、学者もまったくお手上げのことが多い。それも、ひどく現実的になればなるほど難しい」

「たとえば?」

「たとえば、北海道ちゃんがとても聡明そうめいで、ずばずば物を言うタイプの女の子で、社会を変革しようと考えて学生時代を過ごして、反核はんかくデモにも参加したくらいの行動力があったとする。では、次の中で一番ありそうな話を選んで。1、北海道ちゃんはフェミニズム運動に参加している。2、北海道ちゃんはフェミニズム運動に参加していて、NGO団体に就職している。3、北海道ちゃんはNGO団体に就職している」

秋山は、東堂みたいに眉間にしわを寄せて答えた。

「2?」

「なんで? フェミニズム運動に参加して、かつ、NGO団体に就職する可能性は、それぞれ片方だけに該当するよりも確率は低いはず」

「いかにもありえそうな説明をつけられると、蓋然性がいぜんせいが高くなると勘違いする一例。テレビのニュースで不安をあおるときにも、同じレトリックが使われるの。たとえば、北朝鮮から流出した核兵器をアラブのテロリストが手に入れて、西側諸国を攻撃する危険性があります、というもの。では、次のニュースはどう? 誰かがどこかの国から核兵器を手に入れてどこかを攻撃する危険性があります。こんなの、皆、はあ? って言うでしょうね。起こりうる可能性としては、後者のほうが高いはずなのに」

秋山は呆気に取られて、東堂を見つめている。秋山がふと気が付けば、いつのまにかパスタの量は東堂に逆転されている。

「そういう問題についても確率的に正しい道を選ぶのはとても難しい。だからこそ、答えのわかっていることについて正しくない道を選ぶのは、馬鹿げていると思うの」

秋山は、東堂の視線にもちろん気が付いている。テーブルの上に置きっぱなしだった宝くじをちらりと見て、嘆息する。

「うーん理屈は、理解した。多分。でも

「繰り返し言うけど、馬鹿だとは思うけれど、買うのをやめろとは言ってない」

同じことじゃない?」

秋山の言葉に、東堂は思い切りため息をつく。

ひじをテーブルについて、頭をがっくりと下げて、古めかしい映画に出て来ても違和感がなさそうなほどに露骨ろこつなため息だった。

顔を上げた東堂は、秋山の頰が引きつってしまうほど、嫌そうな顔をしていた。

「違う。なにせ、私がそうだもの」

と、言いますと?」

東堂は、窓の外を見る。

そして、顔を窓のほうに向けたまま、視線だけ秋山に向けてきた。

「だって、あなたみたいなのを好きになるなんて、期待値的にどうかしているとしか思えない」

しかめっ面なのに顔がちょっと赤い東堂を見て秋山は笑う。

宝くじを買うのは馬鹿げているが、それが売れるという事実はそう悪いことでもないらしい。

秋山は、そう思いながら、東堂いわく馬鹿の象徴しょうちょうの宝くじを丁寧ていねいに財布にしまったのだった。