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テーマ 不覚にも?「笑ってしまった」作品

レギュラーセレクター 曜日

笑える作品と、笑ってしまう作品はまさに似て非なるもので、後者の出現のためには、作品の作り手自身すら意図せざる、「神」の見えざる手が必要とされる。だからこそ、意図せぬ「笑い」はいつも凄絶きわまるのだ。

2046ウォン・カーウァイ

この作品で僕は木村拓哉のファンになった。『2046』はウォン・カーウァイ監督の現時点における総決算的な作品で、香港、タイ、韓国、中国から大スターが結集してすばらしい演技を披露している。日本から登場するのは我らがSMAPの木村拓哉。彼は主人公を演じるトニー・レオンと対照的な立ち位置の重要人物を演じている……はずなのだけれど、そこにあるのは本当に(本当に!)どこまでいっても「木村拓哉」そのものなのだ。これは凄い。たいていの人間は目の前にあのウォン・カーウァイが演出するカメラがあれば否応なしに「演技」めいた所作をしてしまうはずなのだが、木村拓哉にはそれがない。徹頭徹尾、「木村拓哉」。僕は思わず笑ってしまった、が、同時に、この人のファンになった。本物のスターには演技など必要ないのだ。

範馬刃牙板垣恵介

漫画史上に残る圧倒的に長い前振りを経て、ついに(ついに!)始まった範馬刃牙と範馬勇次郎の「史上最大の親子喧嘩」。不覚にも、というか意図通りというか……。笑いまくりです。人間って、想像のはるか斜め上を行かれたら、ただ笑うしかないんです。この親子喧嘩が始まってから、僕はほとんど毎週、『週刊少年チャンピオン』を買ってます。勇次郎、愛してるぜっ!

空の境界

映像化は不可能と謳われた奈須きのこの伝説的小説作品『空の境界』を「全七章・全七部作」という狂気に塗れたコンセプトで劇場映画化した作品。僕はこのプロジェクトにスーパーバイザーとして関わった。気鋭のアニメ製作会社・ufotableさんのこだわり抜いた映像製作は熾烈を極め、最終章となる七章の初日に映像を収めたフィルムが劇場に届いたのは上演の?分前(ヤバすぎてここでは書けない)だった…。なにしろ、急ぎに急いで駆けたタクシーがあと二回くらい靖国通りの信号で止まっていたらアウトだったレベル。超絶にまずい状況なんだけれど、舞台袖で僕は思わず笑ってしまった。っていうか、笑うしかないっしょ!

太田克史さん

72年生まれ。編集者。95年講談社入社。03年に闘うイラストーリー・ノベルスマガジン『ファウスト』を創刊。舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新らをデビュー当時から担当する。10年、未来の出版社を目指し星海社を設立。代表取締役副社長に就任する。

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