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テーマ 夏の終わりに聴きたい音楽

レギュラーセレクター 曜日

その歌を聴く前は、その胸の痛みにはまだ名前がなかったのです。心は眼に見えず、姿もなく、自分の心に起こっていることを自分でつかまえることは、実は困難なことです。私たちはラブソングを聴いて自分の胸に恋が生まれていたことを知り、悲しみの歌に自分の魂がどれほど深く血を流していたかに気づき、そして、自分の心がちゃんと生きていることを、ぬくもりのある手触りをもって感じることができます。

KAMAKURAサザンオールスターズ

ポップソングのリスナーたちは生まれてはじめて迎える恋の季節の只中にあります。ポップソングの重要な役割は、もうすぐ訪れる恋への憧れを掻き立て、はじめて覚える胸の痛みに言葉とメロディを与えて、ちゃんと自分のものとして手に取れるようにしてあげることです。歌に気づかされて、ようやく自分の気持ちに密かに「恋」と名づける決心をつけたりもします。サザンは数多くの楽曲で日本中の少年少女の「胸のせつなさ」を恋にしてくれました。

ピルグリムエリック・クラプトン

深い深い静かな水の底へと心が一瞬で連れて行かれます。魂の雫のように滴る音楽。内省と鎮魂とぬくもり。人生の苦しみがこんなにも美しい作品を人に生ませる芸術の不思議さと残酷さを感じます。私たちは皆、それぞれに取り返しのつかない傷の苦しみを胸に抱いたまま、それでも今日を生き延びている者です。だから私たちには創作物が必要であり、歌が許されます。貞本義行氏によるジャケットアートも印象的なクラプトンの名盤。

ライヴ・オーガストローザ・ルクセンブルグ

身体も声も楽器も、もう汗でびしょびしょ。湿度と熱気で息をするのも苦しい。ライブハウスの中でバンドもオーディエンスもこのまま熱で蕩けてバターになってしまいそう。伝説のバンド、ローザ・ルクセンブルグのラスト・ライブ。「きっと大切だった何か」が命を終えて砕け散ってしまう、その瞬間が記録されています。ほとばしるような最後の熱と輝き。ああ、終わってしまう! 終わってしまう!

田中ユタカさん

66年生まれ。マンガ家。主な作品に『愛人[AI-REN]』、『ミミア姫』、『愛しのかな』、『もと子先生の恋人』。『初夜』などの純愛系作品、多数。“恋愛漫画の哲人”、“永遠の初体験作家”、“愛の作家”と呼ばれる。携帯コミックでも新作を意欲的に発表。

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