敵は海賊・海賊版神林長平

初めて読んだ時には、無機質な文体になかなかついていけず苦労しましたが、何度か読み返すうちに歯車がカチッとはまるみたいに文体が肌に合うようになり、一時はただこの文体を目で追うだけで楽しくなってしまって、鞄に文庫本を詰める時に、今読んでいる本の他に神林長平も常に一冊持っていたりしました。まるで、一語書いて、その一語に触発されて次の言葉が浮かぶ、というような書き方に感じるのですが、どうなんでしょう。

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世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド村上春樹

過去の解答と重複しますが、外すわけにもいかないので。確か7歳くらいの時、風邪で高熱を出して寝ている時、蕎麦殻の枕に耳を押し付けていると、自分の脈が『ざっ、ざっ』と、まるで足音のように聞こえ、熱に浮かされた夢の中でそれは砂漠を歩く人のイメージになり、いつの間にか街に辿り着きました。『頭の中に街がある』という空想はそれからずっと僕の頭の中にあり、それ故に17歳の時この小説に出会った時の衝撃は大きかったです。

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そして誰もいなくなったアガサ・クリスティ

ページを繰る手が止まらない、という体験をしたのは、多分この小説が最初。中学生の時です。ラストに向けて心拍が上がりすぎて眩暈がするほどでした。今まで現実に体験したどんな事よりも、この物語の方が面白い、と思いました。余談ですが、オチのページを開く瞬間、ものすごい音で部屋の襖が開いて母親が「いつまで起きてんの!!」と怒鳴り込んできて本当に心臓が止まりかけ、物語も恐いが現実も相当なものだ、と思い知らされたのですが、まあそれを差し引いて、謎解きの構造を持った物語の中毒になるきっかけはこの本です。

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すすめ!!パイレーツ江口寿史

小学校の頃、テレビと漫画を禁止されていて、漫画もアニメも、あまり触れる事ができなかったのですが、そんな中読んだ数少ない漫画のひとつ。友達の家で読み、あまりに読み返して本をぼろぼろにしてしまった気が……。とにかくひとコマひとコマ、全てこちらの想像を超えた展開とギャグの連続で、面白かったです。同時に、子供ながらに紙面の端々から週刊連載のギャグ漫画特有の、恐怖というか狂気の気配のようなものも感じていた気がします。僕は当時、単行本でしか漫画を読んでいなかったので、漫画家が〆切に追われている、というのはよく分からなかったのですが、『ギャグは面白い、でもちょっと恐い気もする……』と思いました。

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意識とはなにか茂木健一郎

僕は19歳の時絵を描き始めました。デッサンを始めて数ヵ月、ガラス瓶を描いていた時、突然『このつるつるしている』という質感は、ガラスの表面にあるのではなく、ガラスはただ固有の明暗のパターンを発しているに過ぎず、それを受けた脳の中で『つるつるした』質感がつくられている! と気づき、慄然としました。だから紙の上にその固有のパターンを再現すれば、そこに『つるつるしたガラス瓶』が発生するのです。以来20年、僕はそれを『絵の言葉』と名付けて、それが何か知りたくてずっと自分の意識を覗き込もうとしてきました。2007年にこの本に出会い、僕がガラス瓶を眺めていた時、茂木先生も地下鉄で『ガタンゴトン』という音が波形なのに質感を持った音として聞こえる事に驚いてクオリアの研究を始めたと知り、勝手にシンパシーを感じています。あと僕も去年税金納め忘れて5万円も追徴されましたよ。ギャフン。

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