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テーマ 人生を変えた「教科書」

レギュラーセレクター 曜日

教科書って、そのときそのときで持っているものは変わるんじゃないかって気がしています。なので、小さい頃から順番に、わたしの持っている教科書を紹介します。ただこれは、今のわたしが思い出せる教科書です。本当は忘れてしまった教科書が多分、たくさんあるんですけど…多分そういうのは、今は本の形じゃなく、いろんなところでわたしの一部になっていると思うのです。

おしいれのぼうけん古田足日 (著)/田畑精一 (イラスト)

いうことをきかない子だったわたしは、何度かおしいれに入れられたことがあったのです。そういうとき…思い出します、ねずみばあさん。ねずみばあさんは、おしいれにいるこわい魔女です。みなさんにも、小さい頃、こわいものってありましたよね? わたしはたくさんたくさんあって、大人になってもそのこわいものがこわいままに、その存在が好きになってしまいました。今では、たくさんのひとの中にいるねずみばあさんをみつけたくて、この仕事についたのかもしれません。

選ばなかった冒険岡田淳

小学生のころわたしは作文を書くのが死ぬほど嫌いで、一行書いては消す。一行書いては消す。チャイムが鳴って、はい居残り。泣きながら先生と書く…というのが基本でした。だから読書も嫌い。そんなとき、図書の時間になにか読まねばならぬと図書室で、手に取ったのがこの本でした。はじまりは、よくある、少年少女が異世界へ迷い込むファンタジー。でも、彼らの着地点はいつだって現実。ファンタジーの世界は魅力だけど、作文が書けなくて泣いていたわたしは、現実、ここにいるのでした。わたしは、この冒険のラストが大好き。

綿の国星大島弓子

中学を卒業するころ夢中で読んだのが大島弓子先生。少女漫画が大好きだったわたしにとって、この漫画は超、超バイブルです。キチジョージとかふかふかめりこむクリームパン。みつあみ。中央線で、ペルシャを探す…。毎日はチビ猫の目に映っては流れてゆきます。毎日が新しくて、猫の目みたいにくるくる変わって、怖くて寂しくて、でもお腹がすく、だからおいしいごはん、あったかいおふとん…当り前な事に感動しても笑われてもいいじゃんって、言って貰えた気がして嬉しかったの。

姑獲鳥の夏京極夏彦

その日わたしは風邪をひいて学校を休んだのです。でも熱もたいしてないし…正直暇だ。ひまひま…あ、そういや本、かりてたっけ…。あの、ぶあついの。折角だから、読んでみようか。って…そんな気持ちで読み始めたのに風邪をふきとばし夜通し読んだ。それがこれです。オモシロイ小説をみつけちゃったときの「まだこんなに読めるよ〜」っていう幸福感を存分に味わえたこのぶあつい小説は、わたしの高二の夏休みを乗っ取るばかりか、秋になる頃には姑獲鳥の夏から再読モードにさせる有様でした。あと並べると、本棚が壮観です。

永遠の遠国あがた森魚

高校三年に上がる春休みの課題で描いた絵が、たまにひょっこりと顔を出すとき、いつも思い出すのが「スターカッスル星の夜の爆発」という組曲です。これはどうやら稲垣足穂の「星澄む郷」を引用し、曲をつけたものだそうですが、組曲がpart6まであるため、全部合わせると20分を超えていたと記憶しています。それがすごく、寂しくなり、誰かといても、いつもひとりであることを思い出させる曲なのです。これをエンドレスで聴き、描き上げた課題、今見てもその当時のにおいが、つんとよみがえるようです。寂しさが飽和して、寂しい理由も忘れます。

釣巻 和さん

87年生まれ。漫画家。代表作に『童話迷宮』『くおんの森』『水面座高校文化祭』などがある。2010年11月に坂本真綾の満月朗読館・第三夜『ベッドタイム・ストーリー』(著・乙一)にイラストを寄せ、その繊細な絵筆によって多くの視聴者を魅了した。

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