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テーマ 中二ゴコロを熱くさせる作品

ゲストセレクター 2011年08月

燃えるココロに年月など無関係でしょうが、つい五年前まで中学二年生でした。永遠に小学生だと思っていたのに、気づけばコロコロコミックを買わなくなり、水風船も投げなくなった。それがなぜかといえば、整列した机の冷たさ、造り込まれた人間関係、何も動かない廊下の圧迫感のせいだったのかも知れない。なんだ、変だ、おかしいぞ。全部ぶっ壊す何かが欲しいぞ。悪徳、驚愕、なんでも構わない。お願いだから何かくれ!―「自分で世界を回転させる意志」、これぞ中二ゴコロではないでしょうか。そんな私の将来の夢は女子大生です。

AKIRA大友克洋

まさに中二の夏、人生が変わるほどの衝撃を受けた作品。定番ですみません。でも、好きなんです。何もかもが。ネオ東京、超能力、近未来・・・あらゆる要素に興奮を覚えると共に、白黒の紙面に宇宙を作り出す演出力、ことばのセンス、登場人物それぞれの歯ごたえのあるエピソードと、底知れない世界観に熱くなる。若者の無謀な生き様が絡むことで、SFはここまで切なくなれるのか。壊して、生まれるものがある。全てがありすぎて、逆に何かを失った気がした読後感。ちょっと昭和の香りが漂っているのですが、そこがまた猥雑でいいのです。

ミッドナイトムービースチュアート・サミュエルズ

私たちが日常で最も多く「世界が回転する瞬間」に出会う時はいつか。答えは、真夜中ですね。日付変更線が頬に触れたなら、見たことの無い地球が待っている。そんなミッドナイト、さらに不可思議なアートの世界が描かれる本作。カルトムービーが盛り上がった70年代、その熱気を追ったドキュメンタリー。昼の太陽よりもドギツい幻想。強烈な映画の裏側には必ず、監督たちの魂が蠢く。残虐でも下劣でも虚無的でも、全て平等に包み込む夜。明るすぎる世界が目に痛い時は、やけにその優しさが沁みるんです。

パレード旅団鴻上尚史

戯曲をご紹介します。80年代、小劇場の第一線で、若者に愛された劇団『第三舞台』が上演された舞台。著者である鴻上尚史さんが主宰をされていました。なんとなく、この年代の熱い空気を感じます。それを胸いっぱいに吸い込むと、会えないまま人生を終えていく人に無性に会いたくなって、「待って」と言いたくなって、でも彼らの輝きには絶対追いつけないんです。どうしても。カーテンコールも無いまま、舞台は暗転してしまう。だから、現代の私は拍手を送ります。届きますように。いつまでも、演劇の輝きを信じていられますように。

カッター

正式名称:カッターナイフ。日本の伝統工芸品。鋭い刃先と、包容力を感じさせるボディ、二つのバランスが洗練された印象を与え、多くのファンを魅了する芸術作品。色々なものを素早く切ることが出来て便利。主な用途:紙類を切断する・新聞や雑誌を切り抜く・荷造り紐の切断・スクリーントーンを切り抜く・名前を彫る(好きな人のイニシャル可・相合傘推奨)・闇を切り裂く・悪に切りこむ・明日を切り開く・俺の体にまとわりついた常識のイバラを切り払う等。何かを傷つけるために使うと、必ず自分が傷つけられる羽目になるのでご注意下さい。

原くくる処女戯曲集 六本木少女地獄原くくる

ええと・・・お察しください(笑)。十代特有の病かと思いますが、この本の作者はずっと「無になりたい」と感じていました。世界があまりに大きく恐ろしく、回転させようと躍起になって、いっそそこに溶けてしまおうと考えたのです。けれど、生の恥ずかしさだけが残った。なら、全部認めてありのままを世界に「剥き出そう」という、そんな決意が今は固まっております。本書には足掻いた跡がばっちり残っていて恐縮ですが、この匂い立つ青さは貴重品かな、とも思うんです。中二のみんな、大きくなれよ。私も中二のままでいるからね。

原くくるさん

92年生まれ。東京都出身。現在、都立六本木高校演劇部在籍中。脚本、演出、出演を務めた戯曲『六本木少女地獄』は2010年度の東京都高等学校演劇コンクールにて教育委員会賞ほか多数の賞を受賞。関東高等学校演劇研究大会では優秀賞を受賞。演劇シーンの未来をノックする旗手として演劇界にデビューを飾った期待の新人。2011年8月、星海社FICTIONSより、『原くくる処女戯曲集 六本木少女地獄』を刊行予定。


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