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レビュアー「林 武」のレビュー

銅

Fate/Zero

エゴイストたち

レビュアー:林 武 Novice

 この物語は、聖杯という万能の願望器がもたらす、欲望の物語である。 
 人は皆、欲望を持っている。
 世界中すべての人を救済したいと言う切嗣の願い。ただ一人根源の渦へ至りたいという時臣の願い。それらは一見相反するようでいて、どちらも紛うことなき欲望の発露だ。
 もちろん他のマスター、そしてサーバントとて例外ではない。
 しかし、願いを叶えられるのはただ一人……。
 そんな条件下で生まれる戦いが綺麗なものであるはずがない。便宜上あてがわれたルールは当然のように破られ、魔術など知ったことかと狙撃で暗殺。監督役まで参戦してしまう始末だ。
 しかし、だからこそ欲望の物語と言えるのだろう。人は何かを望むとき、むき出しの心をさらけ出す。すべてを失ってでも叶えたい願いがあるのであればなおさらだ。そして、その思いが強ければ強いほど、人の心は苛烈に輝きを放つ。
 一見寡黙で多くを語らない切嗣に引き込まれてしまうのも、きっと彼の放つ心の光に中てられてのものだろう。
 切嗣だけではない。この物語には多くの欲望がひしめき合っている。それらは形は違えども、たしかに眩いほどの輝きを放つ心だ。
 人間関係が複雑化し、恋人にも自らの心を明かすことのない昨今。我々の持ちえぬ、そんな感情を有するがゆえに、彼らの生き様は鮮烈に胸を焦がす。そんな欲望の物語に吸い寄せられてしまう我々は、さながら光を求めて彷徨う一匹の羽虫のようではないだろうか。

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2014.01.29


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