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レビュアー「オペラに吠えろ。」のレビュー

銅

「アニメを仕事に!」

14年に2、3時間で触れる

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 本書は、アニメの表舞台には出てこない仕事--「制作進行」にスポットを当てた一冊である。「制作進行」とは、その名が示す通りに「『制作』を『進行』させる役回り」である。といっても、実際に制作進行がアニメの具体的な作業(例えば、絵を描いたり)をするわけではない。そういった作業のための環境を整える。それが制作進行の仕事だ。

 著者は「リトルウィッチアカデミア」「キルラキル」といったTVアニメを手がけた制作会社トリガーで実際に制作進行~プロデューサーとして活躍している桝本和也氏である。具体的な例として上記2作品の資料が出されるため、読者は“本物の資料”を前に制作進行の仕事を目の当たりすることができる。

 制作進行の最大の特徴は、アニメの制作過程全てに関わることができることだ。その視点を通して、読者は“集団作業としてのアニメ”の成り立ちに触れることができる。制作進行は(言ってしまえば)裏方であり、だからこそ、そこには業界ならではの裏話があふれている。そういう意味で、これは、今までありそうでなかったアプローチだと思う。

 また、著者の桝本氏は「制作進行」の仕事を「実務」と「暗黙の実務」に分けてみせる。これは簡単に言うと、前者が「教科書の通りのこと」、後者が「著者が経験から学んだこと」だ。桝本氏は14年にわたってアニメ業界に身を置いているということだから、読者はこの本を読むだけで14年分の経験を知ることができるというわけだ。

 本書のページ数はせいぜいが200ちょっと。2~3時間で十分に読みきれる分量だろう。それだけの時間で、14年分の経験を全て……というのは言い過ぎにしても、それだけの一端に触れることができるのは、アニメ業界を目指す人にとってはプラス以外の何ものでもないだろう。

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2014.06.18

銅

「大日本サムライガール5」

一見さんお断り、だよ?だよだよ?

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 断言してしまおう。
「大日本サムライガール5」は一見さんお断りの一冊だ。

 * * *

 これは小説に限ったことではなく、シリーズ物の宿命として、長くなればなるほど新規に読者を開拓しにくくなる傾向がある。本書のように1巻からストーリーが連続している作品は尚更だろう。だが、本シリーズが巧みだったのは、4巻までは毎巻、新キャラクターのアイドルが登場していたことだ。

 前巻を読んでいる人も読んでいない人も、新キャラクターについては「何も知らない」。そして新キャラクターを中心に話が進んでいたので、シリーズに対する知識がなくても楽しむことができた。しかし、5巻からは明らかにストーリーの方向性が変わる。未読の人のために詳細は省くが、メイン格の新キャラクターは登場せず、すでにわたしたちが知っている某キャラクターに大きな変化が訪れるのだ。

 これまでが「広く浅いストーリー」だとしたら、ここからは「狭く深いストーリー」になるといってもいい。言ってしまえば、前巻までで役者がそろい、この巻からは新章が始まった。一見さんお断りといったものの、それは裏を返せば、一見さんではない人=シリーズのファンならばこれまで以上に楽しめるということ。これまでの4巻にわたって張られていた伏線の一部が回収されるあたりは、その真骨頂。これまでは脇役でしかなかった某キャラクターの一面が掘り下げられ、そのことで彼女が一層魅力的に写るのは、実に見事といえるだろう。

 現時点で7冊が出ているシリーズを今、一から読むというのは大変だと思う人も多いだろう。そのことは否定しない。それでも、4巻までは一見さんにも優しい作りになっていることは既述の通り。だから未読の方には、試しに1冊読んでみることを薦めたい。

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2014.06.18

銅

「大日本サムライガール4」

やっぱり女の子は関西弁!希ちゃんがナンバーワンや!

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 エンターテインメント系の小説、とりわけ俗に「ライトノベル」と呼ばれる作品群には、特徴的な口調で話すキャラクターが多い。出典先は失念したものの、作家側もそれには自覚的で、一目見ただけで「あ、これは誰のセリフだな」とわからせるためにやっているそうだ。それがつまりは「キャラが立つ(キャラクターの個性が出ている)」ということにもつながっているのだという。

 至道流星による「大日本サムライガール」シリーズも例外ではなく、メインヒロインの神楽日毬には「うむ」「してくれ」などとアイドルには似つかわしくない古風な言葉遣いが採用されている。それだけではなく、ほかのキャラクター(主に女性)もそれぞれに「自分の口調」を持っており、そのことによってキャラクターの魅力を深めることに成功している。

 ただ、これまでにシリーズ3冊を読んできて、個人的にどこか物足りなさを覚えていたのも事実だった。そして、4巻となる本書で新キャラクターの美少女会計士・槙野栞が登場したとき、全ての違和感の正体がわかった。

 足りなかったのは、そう、関西弁やったんや!

 「名探偵コナン」の服部平次しかり、最近はやりの「ラブライブ!」の
東條希しかり、関西弁というのはキャラを立たせるためのツールとして一般にも周知されている。関西弁をしゃべるキャラクターがどうして魅力的なのかは古来よりさまざまな研究がなされているが、まだ結論が出ているとは言いがたい。が、個人的な意見を言わせてもらうならば……やはり、東京に都を移すまでは京都が日本の中心だったことが関係していることは明らかだろう(適当)。特に女の子がしゃべっている関西弁は大事だ。大事すぎるので二回言うけれど、超大事。だって考えてみてくださいよ(なぜ敬語)。希ちゃんが関西弁をしゃべらなかったら、ただの不思議キャラやないですか!

 だ!か!ら!

 たとえそれがエセ関西弁であろうと! 君がッ! 関西弁をしゃべるまで殴るのをやめないッ!(注:Not DV)

 そんなわけで、「大日本サムライガール」の第4巻で栞ちゃんが出てきたときーーいや正確には「ハッキリ言うておく。うちはオドレが死ぬほど嫌いや」という第一声が241頁に記されているのを目にしたとき、彼女への好感度はそれだけで急上昇した。そして、やはり関西弁をしゃべる女の子は性格がキツくないとあかん。そうやろ?(誰に聞いているのか)その点でも栞ちゃんはハードルを易々とクリアしてますやん! もうウチのハートは栞ちゃんにめろめろやで~。

 ……おほん、失礼。少し興奮しすぎたようだ。
 話の流れを、そして口調を元に戻そう。

 確かに、女の子を魅力的に描く作者の手腕はこれまでのシリーズでもしっかり生かされていた。メインヒロイン・日毬に10代の女の子にはふさわしくない口調を採用して、そのギャップを魅力に転じたことなどいい例だろう。ほかにも「守銭奴アイドル」など、ギャップ萌えの使い方が巧みだった。

 その一方で、栞ちゃんは言ってみれば「関西弁をしゃべる女の子」のステレオタイプだ。もちろん「社会共産党員」というギャップの要素はあるが、キャラクターとしては極めて真っ当なタイプである。そして、作者はそのように奇をてらわない真っ向勝負でも、魅力的な女の子のキャラクターを生み出すことができることを証明してみせたのだ。

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2014.06.18

銅

「大日本サムライガール6」

政治 meets アイドル 出会いこそ人生の宝探しだね

レビュアー:オペラに吠えろ。 Lord

 右翼を標榜する女子高生・神楽日毬が政治の頂点に上り詰めるためにアイドルになるさまを描いた「大日本サムライガール」シリーズ最大の魅力は「政治」と「アイドル」という一見、相反する要素が共存しているところだ。

 第6巻はそのミスマッチが最大限に生かされた構成になっている。前半は政策について話し合う「政治」パート、後半は主人公たちの日常生活にスポットを当てた「アイドル」パートになっているのだ。

 このように「政治」と「アイドル」がシームレスにつながっているのを目の当たりにすると、この二つの要素が対極の存在ではないことに気付かされる。「政治」には「アイドル」のノウハウが生かせるし、その逆もまた然りなのだ。

 「政治」と「アイドル」の組み合わせというだけで抵抗のある方もいるだろう。だが世の中には、メロンと生ハムのように、似つかわしくないものを食べ合わせると、お互いを高め合うという例もある。

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2014.06.18


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