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読者レビュー

銅

おやすみ、ムートン

うぇるかむーとん!

レビュアー:ラム、ユキムラ

 ムートンは作られた羊だ。羊のかたちをした小さなロボット。
 可愛いよ?
 生まれたときからお父さんが大好きで、お父さんによろこんでもらいたくって いっしょうけんめい。
 お父さんに誉められたら、心の中で星座がきらきらひかるんだ。
 お父さんがそばから離れちゃって、悲しくて泣いちゃうこともあったね。

 そうやって、ムートンは赤ちゃんみたいに愛して愛されて。やがて、無条件には愛してくれない世界に旅立ってゆく。

 といっても、そこは宇宙船で。秘密を抱えた宇宙船は限られた空間だけれども、ムートンにとっては大冒険! 存在しているだけでも嫌われたり、愛してもらえたりもする。

 だけど、そこに最愛はいないんだ。
 ムートンの心をキラキラで埋められるのはお父さんだけだから。

 ムートンは一途に愛している。無条件に、お父さんを。
 そんなムートンが愛しくて、泣いてしまいそうだった。

 でも、どんなに願っても「お父さん」じゃない私にはその愛は捧げてはもらえない。
 だって私はその愛を知っている。ううん、恋じゃない。思慕。
 生まれたときから大好きで、そばにいないと泣いてしまう。そんなのは「お母さん」っていうんだ。赤ちゃんはお母さんをずっと探している。
 ムートンのお父さんは、つまりは自分を生んだ人……お父さんだけど、お母さんなのだ。

     私、私も私のムートンに出会いたいと思っちゃった。

2013.06.11

ゆうき
話しかけるような文章で、何だか優しい気持ちになりました。ムートンにとっての“お父さん” みたいな人がいることって、実はとっても幸せなことなのではないでしょうか。なかなか気付けないけれど。
さやわか
こういう型の文章のうまさは、もはや堂に入ってますね。しかも一行目からして、読者に説明すべきことを全く見失っていないのは大変素晴らしいことだと思います。つまり単に無邪気に書いているわけではなくて、ちゃんと「ムートンについての説明」を心がけているんですね。「お父さん」を「お母さん」に読み替えてしまうロジックはけっこうアクロバティックすぎると思うのですが、この文章で引っ張る力によってわりと自然に読めるようにはなっていると思います。ただ「お父さんはお母さんだ」という主張はかなり強いものではあるので、もう少し前の方で匂わせるとか、工夫して読みやすくしてもよかったかなと思います。ということで「銅」といたしました!!

本文はここまでです。