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読者レビュー

銅

ざいんさんのイラストレーションについて

毒の名前は【ざいん】

レビュアー:zonby Adept

なぜだか不穏な感じがするのです。
なぜだか長い間見ていてはいけないような気がするのです。
ええもちろん、一度目にしたら最後、目を奪われてしまうことを知っています。
だからこそ、見続けてはいけないんです。
でも見過ごすことも許されていないのです。

私が話しているのは――――
そう。
「iKILL」「iKILL2.0」に使われているざいんさんのイラストレーションについて。
滑らかに描かれた少女の肌の質感。青味がかったフィルターを通したような画面。
この世界の一部を切り取り、再構築された世界は緻密なようでいて、どこかざらついた質感を伴っています。
日常の景色を借りた、非日常の構図。
繰り返される蛍光色。その光の攻撃性。
焦点を結ばない少女達。
美しいから、目をそらすのです。
綺麗だから、怖いのです。
正確過ぎて、ずれているのです。
見続けてはいけないなんて言うのは、怖いなんて言うのは言い過ぎでしょうか?
でも私にとってそれは紛うことなき真実なのです。

―――不安定だから、愛しいのです。

あまりにきらやかで、なごやかで、幸福をそのまま絵にしたような絵には惹かれません。
正当に美しいものは、正当なだけで何のひっかかりもないまま頭の中で溶けてゆく。
溶けた後には痕跡すら残らないから。
私は、怖いものが好きです。
私は、綺麗で汚いものが好きです。
見るだけで心ごと奪い去られ、脳髄に生々しい爪痕をつけ、かすかな断片でも焼き付くような絵が好きなのです。

エゴン・シーレの描く、崖の上で抱き合う恋人達の姿。
その絵から立ち昇る切迫感。
ハンマースホイが描いた、外に出ることも中に入ることもできない部屋。
安定しているはずの空間が歪む瞬間。
エドワード・ゴーリーが描き出す、ただひたすら死にゆく子供達。
実現してはいけないことが、紙の上で演じられるという現実。

それらは、美しいだけでは済まされない何かを提示してきます。
綺麗な花には棘がある。
気になる絵には毒がある。
花に触れば血が流れ。
絵を見続ければ、その毒にやられることもあるでしょう。
けれどその痛みが更に絵を印象的な物にさせ、毒はやがて麻薬となって脳内を駆け巡るのです。
もっと。
もっともっと。
と。
私はざいんさんのイラストレーションを求め、その毒にやられてしまわぬよう直視はしないように、それでも時たまイラストレーション見たさだけで「iKILL」「iKILL2.0」を開くのです。

でも、気を付けなければ。
有名な人が言っています。

「誰であれ、怪物と戦う者は、その過程において自らが怪物にならぬよう注意すべきである。
長い間奈落をのぞきこんでいると、奈落もまたこちらをのぞき込むものだ」

と。

気を付けて。
あまり長い時間絵を見続けていると、絵の中の少女と目が合ってしまうかもしれないから。

2012.01.30

のぞみ
不思議な魅力をはなつ作品ってありますわよね~。
さやわか
うむ! このレビューはなかなかよいですな。zonbyさんという人が、何を求めて『iKILL』を読むのかがよくわかります。文体もそれにきちんとマッチしている。作品から漂う、耐え難い魅力というのが伝わってきます。「銅」にさせていただきましょう!
のぞみ
zonbyさんにとって、そんな作品なのですね!(・ω・`*) たしかに、そういうことありますよね。怖いのにホラー映画の続きが気になったり、押しちゃダメって表記してあるのに、押したくなったり。
さやわか
……後者はあんまり関係ないのでは……。

本文はここまでです。