編集部ブログ作品

2018年1月22日 21:25

逃げ水

 影ほのかなまなざしを、並んだフォトグラフファイルに沈める。

 そこに映っているのは、死んでしまった少女たち。僕が殺した、少女たち。

 君たちはまだ僕のもの?

 赤い祠の薄暗さ。赤いワンピースのしなやかさ。君の赤いくちびるはもうなにも語らない。

 花びらが風に揺られて星のように舞い落ちてくる。それは僕のうなじにふれてそっと薄紅色に染めてゆく。少女たちのくちづけのようだ。

 死んでしまいたいと泣いていた少女たち。もうくるしまなくていい。悲しみは君たちを汚さない。柔らかな雨がやがて空から落ちてくるから。そして眠りのなかまで、君たちのふくらんだ胸の底まで雨の音が浸みこんで、淡く水色に染めてゆくから。

 メロディの軌道にのってここまできたの、と彼女はいった。

 掌にはいるちいさな通話機。それができてから僕たちは世界中の誰とでもつながるようになった。南極、アフリカ、地中海。何処にいても、僕と君は出逢える。

 裸足のままで、素肌のままで、その華奢な部分にリボンを結ってあげるから、ほんのすこしだけ目を閉じていて。こわくないよ。だいじょうぶ。すぐ終わるから。なんでもないんだ、こんなこと。

 並んだフォトグラフ。真夜中に少女たちが僕を呼ぶ。無数のまなざしが過ぎ去った日々を語る。残されたデータを消去して、冷たい地面に埋める。もう誰にもみつからない。君の身体はばらばらだ。

 君よ 知るや 雨の箱庭

 君はいつまでも清く、青い草のはかなさで。

 そうさ、透き通った白い肌のまま、その声はささやくように花を摘む。時間が君を追い越していくよ。君は少女のままでいられる。僕が魔法をかけたから。

 パソコンの海のなかで小鳥はそっと羽根をひろげて僕を遠い水面へとまねく。その翼に乗って永遠の旅にでてみたい、と君はいったね。

 誘われて、大切なものをあなたにあげたい

 なにもかも捨てて、私、天に昇るから。だからお願い、じっとみつめて。一緒にいこうね。

 そんな君たちを僕はずっと忘れない。どうか君よ、滅び去った身体の朽ちるまでまっていて。骨は白くて清潔だ。君は一面にひろがる氷原だ。白く、冷たく、足跡は何処にもない。

 君のフォトグラフに恋をした。

 僕をその柔らかな腕に抱きしめてほしくて、僕は黙ってキーボードをタイプする。地下に百年潜っていたような君を、僕はみつけだす。

 最後に君といった祠の外で、雨が静かに降り続き、死に絶える君の吐息は何処にももれない。雲にかくれた月のように。

 僕の罪とは?

 君の笑顔がみたかったんだ。本当だよ。君のことが好きだった。幸せにしたかった。でも。

 死にたがっていたのは、君だよ。